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トンネル照明灯具清掃車の運転操作支援システム開発
JARI Research Journal 20150203 【研究活動紹介】 トンネル照明灯具清掃車の運転操作支援システム開発 Development of a Driving Support System for a Tunnel Light Cleaning Truck 鈴木 儀匡*1 Yoshitada SUZUKI 河島 宏紀*1 青木 啓二*2 Hiroki KAWASHIMA Keiji AOKI 2km/h 程度となり車線規制が不可欠であった. 1. はじめに (一財)日本自動車研究所は,(独)新エネルギー・ 現在は,キャビテーション現象を活用した清掃 産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受 を行っている.キャビテーションとは,高圧で噴 け, 2008 年度から 2012 年度までの 5 年計画で 「エ 射される洗浄水の中のごく微小な気泡が物体に接 ネルギーITS 推進事業」による「自動運転・隊列 触して,気体から液体に戻る時に大きな衝撃波を 走行技術の研究開発」を実施した 1).その一環にて 発生する現象である 3).図 1 にキャビテーション 開発した車線保持制御技術を応用し,トンネル照 清掃車両を示す. 明灯具清掃車へ導入する開発を,中日本高速道路 株式会社(以下,NEXCO 中日本)と共同で行い, 試験自動車に関する国土交通大臣認定を受けた. 本稿では,2011~2013 年度に実施した NEXCO 中日本との共同研究について紹介する. 図 1 トンネル照明灯具清掃車清掃風景 2. トンネル照明灯具清掃車 2. 1 トンネル照明灯具の必要性 照明灯具を均一に清掃するためには,ドライバは 高速道路のトンネル照明灯具(トンネル内のラ 照明灯具とキャビテーションノズルとの距離を一 イト)は,入り口から徐々に暗くなっている.ド 定に維持し走行することが求められる 4).また, ライバ(人間)は明るい場所から暗い場所へ移動 作業速度は 20~50km/h と以前に比べれば大幅に する場合には,目の感度が高まる.しかし,その 向上したものの,片側 2 車線(走行・追越車線が 明るさに慣れるためには一定の時間が必要(暗順 ある区間)を清掃する際には,一般車両との速度 応)である.そのため,トンネル内部の照明は, 差が生じるため,衝突事故の防止など安全確保の ドライバが安全に走行できるよう,徐々に暗くな 面から車線規制が必要となる.また,車線規制に るように設定されている 2). よる渋滞発生など道路の利用効率も低下すること から,一層の高速化が求められている.こうした 2. 2 照明灯具清掃方法と課題 背景を受け,NEXCO 中日本では,将来的には, 実際のトンネルでは,自動車の排ガスやタイヤ が巻上げる塵・埃などが照明に付着し,照明の明 ト ン ネ ル 照明 灯 具 清掃車 を 交 通 規制 が 不 要な 80km/h で運用することを目標に掲げている 5). るさが徐々に低下する.そのため,定期的な清掃 2. 3 NEXCO 中日本と JARI の共同研究 により設定した明るさを維持する必要がある. 過去のトンネル照明灯具清掃は,高所作業車を 現在用いられているトンネル照明灯具清掃装置 用いた人力での作業や,回転ブラシを装備した特 は,もともと 80km/h での運用が可能なよう設計 殊車両により行われており,作業速度が約 1~ 開発されているが,その清掃能力を 100%発揮す *1 一般財団法人日本自動車研究所 ITS研究部 *2 先進モビリティ株式会社 代表取締役 るには,照明灯具とキャビテーションノズルの間 JARI Research Journal - 1 - (2015.2) 隔を常に一定距離に保ちながら高速走行する必要 験路にて走行試験を行い,車線維持支援装置のソ がある.しかし,作業速度が上がるほど,ドライ フトウエア等の改良を図る. バには正確な運転技術が要求され,手動でハンド なお,技術指針に適合しない 1000R 以下での車 ルを操作するのは難しくなる.そのため,トンネ 線維持支援走行は,計画当初は,試験自動車とし ル照明灯具清掃車の高速作業の実現に向け,照明 て国土交通大臣認定を取得する必要があったが, 灯具とキャビテーションノズルの間隔を常に一定 2014 年 6 月 10 日,自動車の安全確保に関する国 に保持し走行が可能な高精度の運転支援システム 際的な整合性を図るため加入している国連の「車 を求める NEXCO 中日本と,自動運転・隊列走行 両等の型式認定相互承認協定」の対象となり,一 プロジェクトにて「車道外側線(白線) 」と車両を 定の要件を満たせば国土交通大臣認定を新たに取 一定の距離に保つ高精度な車線維持制御装置を開 得することが不要となった 6). 発した JARI が共同研究を行うこととなった. 4. 車線維持支援システム 4. 1 システム概要 3. 開発計画 国土交通省の「車線維持支援装置の技術指針」 図 2 に,照明灯具,白線,カメラ,キャビテー では,車線維持支援に適合する走行線形は 1000R ションノズルヘッドとの位置関係を示す.ここで 以上となっており,第 1 フェーズではこれに適合 L は照明灯具とキャビテーションノズルヘッドと する仕様で開発する. の距離,Xf は前方白線端部と車両側面の距離,Xr 次に第 2 フェーズでは,制御精度の向上,道路 線形への対応 (きついカ-ブへの対応) を加味し, は後方白線端部と車両側面の距離を示す.Xf と Xr を用いて,白線と車両の角度を算出する. 1000R 以下での走行を可能とする 2 段階で行うこ 車線維持支援システムでは「Xf の距離(横偏差) ととした.それぞれのフェーズの目標仕様を表 1 が一定」であること,また「白線と車両の角度(廻 に示す. 頭角)が曲率に応じた規定の角度」になるよう前 また,技術指針に適合しない 1000R 以下での車 輪タイヤ角を制御し,白線との間隔を一定に保つ 線維持支援走行は,試験自動車として国土交通大 ことで,トンネル照明灯具と清掃車に取り付けら 臣認定を取得する必要がある. れたキャビテーション噴射ノズルのヘッドとの距 離を一定に保持することが可能となる. 表 1 目標仕様 フェーズ 目標仕様 最高速度 最低速度 制御精度 走行線形 第1フェーズ 80km/h 50km/h ±0.2m R=1000m以上 第2フェーズ 80km/h 10km/h ±0.15m R=300m以上 開発にあたっては,車線維持支援装置の設計・ 製作を行った後,清掃車に搭載し,テストコース 制御設定値 直線路での車線維持制御性能目標を達成する.次 に,HMI(Human Machine Interface)等の改良 と併せ, 新東名高速道路およびテストコースにて, 1000R 以上での走行実験を実施し,大臣認定に向 けて必要なデータを取得,試験自動車として国土 項目 目標照明灯具と キャビテーションノズルヘッドとの距離(L) 前方白線端部と車両側面の距離(Xf) (目標車線制御値) 設定値 0.35~0.4m 0.6m 図 2 トンネル照明灯具との制御位置関係 交通大臣認定を取得する. 次に,1000R 以下での走行実現に向けて,公道 での走行試験を重ねるとともに,300R 以上の実 JARI Research Journal - 2 - (2015.2) 4. 2 システム構成 を行うためそれぞれデュアルポートラム トンネル照明灯具清掃車は,トンネルの左右に (DPRAM)を介してフェールセーフ比較器にセ 設置された照明灯具を洗浄するため,カメラを車 ットされる.演算結果を比較照合した結果,一致の 両の左右に搭載している. 場合は CPU は次の処理へ移る.反対に,不一致 車両制御装置では車両と白線の距離が一定にな の場合は CPU 停止となり,運転支援を中止する. るよう横偏差と廻頭角を用いて前輪タイヤ角をフ 具体的には,フェールセーフ比較器と CPU 暴 ィードバック(FB)制御する.なお,前輪タイヤ 走検知器(WDT)は,フェールセーフリレードラ 角はステアリングコラムに取り付けた自動操舵モ イバに対してそれぞれ交番信号(パルス)を出力 ータにて駆動させる.また,曲線部では,FB 制 する.CPU 比較照合の不一致,または暴走検知時 御の遅れ等による車線維持制御性能の低下を防止 には,交番信号が停止する.フェールセーフリレ するため,道路曲率および横断勾配,速度,車両 ードライバは,この交番信号により正常リレーを 重量等を基にステアリング角度(あて舵量)を算 動作させているため,異常発生時は正常リレーを 出するフィードフォワード(FF)制御を行う.図 オフにすることで出力ポートがカットされ,誤出 3 にシステム構成,図 4 に開発車両概観を示す. 力を防止できる.異常が検知された場合には, HMI の指示に従い,ドライバは手動操舵を再開す る. ま た , 操 舵 制 御 ア ル ゴ リ ズ ム は , Path Following 制御 8)の概念に従っている.また,車 両のコーナリング係数は,テストコースで同定試 験を行い求めている. 車線維持支援システムのアプリケーションは MATLAB/Simulink によりモデルベースで実装 図 3 システム構成 を行った. 図 4 開発車両概観 図 5 フェールセーフ回路 5. 第 1 フェーズ評価検証 4. 3 車線維持支援システムアプリケーション 車線維持支援システムのアプリケーションは, 5. 1 未供用道路での性能評価 ECU)に搭 車線維持制御性能を評価するため,独立行政法 載された OS(基本ソフト)上で動作を行う.FS 人産業技術総合研究所(以下,産総研)北サイトの ECU は CPU(中央演算処理装置)を 2 重(A 系 テストコース直線部,供用前の新東名高速道路の /B 系)に実装しており,この 2 つの CPU 演算 清水連絡道と静岡トンネル区間を使用し,1000R 結果が一致している時のみ制御可能となる. および 4000R の評価試験を実施した.新東名高速 フェールセーフコンピュータ 7)(FS 図 5 にフェールセーフ回路を示す.A 系,B 系 道路の実験区間と実験風景を図 6 に示す. の 2 つの CPU で演算されたデータは,比較照合 JARI Research Journal - 3 - 1000R での走行実験は,清水連絡道下り線約 (2015.2) 400m,4000R は新間トンネル~内牧トンネル間 5. 2 走行データ収集・蓄積 の下り線約 800m,直線走行は産総研北サイトテ 新東名高速での実験は日程に制限があるため, ストコース直線部 400m を使用した.なお,車両 産総研北サイトのテストコースに 1000R,2000R, は空車(タンクに水が入っていない状態)で実施 3000R の白線を仮設し,実験では,コースを順 した. 走・逆走し,右カーブ/左カーブ両方での走行デ ータの収集・蓄積を行った.図 7 に仮設コースで の実験風景を示す. 走行データ収集後,2013 年 7 月に国土交通大 臣認定の申請を行い,9 月に大臣認定の申請が受 理され,試験自動車としてのナンバーを取得した (図 8) . a) 清水連絡道下り線(供用前) b) 静岡トンネル(供用前) 図 7 仮設コースでの実験風景 図 6 新東名高速道路実験風景 表 2 に車線維持制御性能評価結果を示す.表中 の左最大値・右最大値とは,横偏差と制御目標値 (0.6m)の差分を意味する.ここでは,車両が制 御目標値よりも左へ移動した場合(白線へ寄る場 合)を正とし,右へ移動した場合(白線から遠ざ かる場合) を負としている. 車線維持制御誤差は, 直線,1000R,4000R の走行において,速度 50, 60,70,80km/h のいずれも±0.2m 以内の目標仕 図 8 ナンバー取得したトンネル照明灯具清掃車 様(制御精度)を満たす結果となった. 6. ITS 世界会議でのデモンストレーション 中日本高速道路では,このトンネル照明灯具清 表 2 車線維持制御性能評価結果 区間 計測距離 [m] 速度 50 直線部 1000R 4000R 400 400 800 実験回数 [km/h] ()内は参考 2(+2) 左最大値 右最大値 平均 標準偏差 [m] [m] [m] [m] 0.050 -0.040 0.008 0.017 60 2(+2) 0.060 -0.120 -0.009 0.034 70 2(+2) 0.050 -0.100 -0.007 0.029 80 2(+2) 0.050 -0.120 -0.025 0.034 50 2(+1) 0.040 -0.130 -0.060 0.035 60 2(+2) 0.090 -0.170 -0.021 0.046 70 2 0.070 -0.180 -0.068 0.048 掃車開発の成果公表として,2013 年 10 月に開催 された ITS 世界会議の場を活用した「運転操作支 援システムの走行デモンストレーション(図 9)」 を行った.その後,11 月 9 日には高速道路 IC ヤ ード内にての記者発表を実施した. トンネル照明灯具清掃車は高速道路での使用を 前提としているため,50km/h 以上で作動する仕 80 2 0.070 -0.160 -0.046 0.041 50 2(+2) -0.010 -0.130 -0.088 0.020 60 2(+2) 0.010 -0.110 -0.056 0.023 70 2(+2) 0.070 -0.100 -0.025 0.030 解除し,IC ヤード内で走行が可能な 15km/h で走 80 2(+2) 0.060 -0.110 -0.040 0.029 行できるよう変更した. JARI Research Journal 様である.そこで,デモ期間中に限り速度制限を - 4 - (2015.2) トンネル照明灯具清掃車の開発,自動車技術vol.68, p94 6) 自動車基準の国際調和,認証の相互承認等に関する「道 路運送車両の保安基準」 , 「装置型式指定規則」及び「道 路運送車両の保安基準の細目を定める告示」等の一部 改正について, http://www.mlit.go.jp/common/001042413.pdf 7) 河島宏紀ほか:フェールセーフECUの開発(第2報), 自動車研究,Vol33,No10,p.31-34(2011) 8) 杉町ほか:Path Followingにおける操舵制御ゲインの 図 9 デモンストレーション風景 セルフチューニング,自動車技術会学術講演会前刷集, 9) 19-12,p1-4 9) 世界会議デモ 7. おわりに 運転操作支援システム付きトンネル照 明清掃車両, 2011~2013 年度に実施した大臣認定に向けた http://www.youtube.com/watch?v=TU-WIRGOTwc 車両開発と,第 1 フェーズ評価検証のためのデー タ取得結果を報告した.評価の結果,公道での走 行に問題がないことを確認し,試験自動車として 国土交通大臣認定を取得した.今後は,公道での 車両試験を予定しており,公道試験に向けての準 備と第 2 フェーズに向けた開発を進めている. 本プロジェクトで開発した技術は,自動運転実 現に向けて必要な技術の一つとなる横方向制御技 術の実用化の一歩であるだけでなく,今後,さら に普及が進む運転支援システム技術の高度化に向 けても期待される研究開発に位置づけられる活動 である. 最後に本開発にあたり多大なご協力をいただい た関係各所に謹んで感謝の意を示す. 参考文献 1) 「エネルギーITS推進事業(成果報告会) 」発表資料, http://www.nedo.go.jp/events/report/ZZDA_100006.h tml 2) ト ン ネ ル 照 明 に お け る 視 認 性 , Kensetsu Denki Gijyutsu,Vol.145 2004.3,P22-23 http://www.kendenkyo.or.jp/pdf/technology/145_basi c.pdf 3) 時枝寛之,建設の施工企画‘08.10キャビテーション噴 流技術を用いた高速清掃装置の開発と応用, http://jcma.heteml.jp/bunken-search/wp-content/upl oads/2008/10/044.pdf 4) youtube,キャビテーション清掃車清掃状況06, https://www.youtube.com/watch?v=2X_7Z-W8DL0 5) 笹川陽平,日本初! 運転操作支援システムを搭載した JARI Research Journal - 5 - (2015.2)