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9 自動車燃料消費量調査を用いたガソ リン車の燃費決定要因に関する分析

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9 自動車燃料消費量調査を用いたガソ リン車の燃費決定要因に関する分析
最近の調査研究から
9
自動車燃料消費量調査を用いたガソ
リン車の燃費決定要因に関する分析
東京海洋大学海洋工学部教授
兵藤 哲朗
第一復建株式会社
呉 明暢
近年、自動車の燃費目標基準の強化や、環境意識の高まり、メーカーの継続的な技術革新により、新車販売車燃費は年々向上してい
る。その一方で、利用者が実際に運転するときの燃費(実燃費)が、販売燃費値と大きく乖離しているという指摘も多い。従来の、
日本国内で行われている自動車燃費消費に関する研究の多くは、『e燃費』や走行実験データに依存しており、公的な大規模データ
を用いた自動車燃料消費に関する研究は少ない。以上の背景をふまえ、本研究では、2006年より継続実施されている、国土交通
省の『自動車燃料消費量調査』のデータを用いて、運転環境や自動車属性、走行距離と実燃費の関係を分析した。
燃料・車種区分
自主研究「自動車の保有と利用に関わる多角的な統計解析の検討」主査:兵藤哲朗
「自動車の保有・利用構造および燃費決定要因に関する研究」(日交研シリーズA-609)
1.はじめに
わが国のガソリン車は、販売車燃費が増え続ける一方
で、利用者が実際運転するときの燃費(実燃費)が、販
売車燃費値と大きく乖離しているという指摘が多い。そ
れは実燃費が運転環境と自動車の属性などに大きく依存
するためだと考えられる。それ故、運転環境と自動車の
属性及び走行距離が実燃費に与える影響を把握する必要
性が高い。
本研究では、国土交通省が 2006 年より継続実施して
いる『自動車燃料消費量調査』のデータを用い、各種要
因が実燃費に与える影響を分析した。
A
自家用貨物普通車
燃料・車種区分
自家用貨物小型車
目的
B
A
自家用貨物普通車
C
自家用貨物軽自動車
今回は、2007
~ 2011自家用貨物小型車
年度のガソリン車を分析対象と
B
D
営業用貨物普通・小型・特種車
定
目的
走行
log(走
定
した。外れ値を除去した結果、対象サンプル数は
55,682
C
自家用貨物軽自動車
E
営業用貨物軽自動車
と十分な大きさとなった。図
1 は 11 種類に分類された
D
営業用貨物普通・小型・特種車
F
自家用旅客バス・特種車
燃料・車種区分別の燃費であるが、販売台数が増加しつ
E
営業用貨物軽自動車
G
自家用旅客普通車
つあるハイブリッド車(区分Ⅰ)の燃費の高さを確認で
F
自家用旅客バス・特種車
H
自家用旅客小型車
きる。
G
自家用旅客普通車
I
自家用旅客乗用車(ハイブリッド)
図 2 は車令と燃費の関係を示している。必ずしも線形
H
自家用旅客小型車
J
自家用旅客軽自動車
関係とはいえないが、車令と共に燃費が単調減少するこ
I
自家用旅客乗用車(ハイブリッド)
K
営業用旅客バス・乗用車
とが認められる。
J
自家用旅客軽自動車
K
営業用旅客バス・乗用車
排
走行
log(
log(走
排車
log
log(
車
車
log
log
経過
車
log(経
log
平均
経過
平均
log(経
平均
平均
Aダ
平均
Bダ
平均
Cダ
Aダ
2.燃料消費量調査とその結果概略
燃料消費量調査では、登録自動車及び軽自動車のう
ち、国土交通大臣が選定する自動車について調査を実施
している。標本抽出は、登録自動車及び軽自動車を地域
別、業態別、車種別及び使用燃料別に層分けし、無作為
抽出している。営業用自動車については 7 日間、自家用
自動車については 21 日間(一部 7 日間)の燃料消費量
を、それぞれ毎月調査している。
Dダ
Bダ
Eダ
Cダ
Fダ
Dダ
Gダ
Eダ
Hダ
Fダ
Iダ
Gダ
Jダ
Hダ
調整済
Iダ
図1 燃料・車種区分と燃費の箱ひげ図(縦軸:km/L)
(黒丸は中央値、それを囲む長方形は、第Ⅰ・第Ⅲ四分位)
Jダ
サン
調整済
サン
表1 燃料消費量調査の燃料・車種区分
燃料・車種区分
A
28
自家用貨物普通車
B
自家用貨物小型車
C
自家用貨物軽自動車
D
営業用貨物普通・小型・特種車
E
営業用貨物軽自動車
F
自家用旅客バス・特種車
G
自家用旅客普通車
H
自家用旅客小型車
I
自家用旅客乗用車(ハイブリッド)
J
自家用旅客軽自動車
K
営業用旅客バス・乗用車
目的変数
Model-1
Model-2
燃費
log(燃費)
t値
Model-3
燃費
係数
1.777 117.7
t値
係数
7.147 56.
0.1379 69.1
-0.9669 -25.2
排気量
log(排気量)
-0.2451 -21.6
図2 車令
(横軸:年)と燃費(縦軸:km/L)
1.066 61.
-0.6751 -17.
定数項
走行距離
log(走行距離)
車重
係数
9.947 85.9
t値
0.03521 54.0
-1.577 -40.1
今回、車籍地が判明するので、気象庁データから、車
log(車重)
-0.4916 -43.2
-4.719
籍地別・月別平均気温を燃料消費量調査結果にマッチン
-0.07611 -20.1
-0.07357
車齢
log(車齢)
-0.02936 -14.2
グさせ、地域や季節と燃費との関係を調べた。図
3 は都
0.009824 11.4
0.01078
経過月数
道府県別の年間平均燃費であるが、冬期低温の北海道
log(経過月数)
0.02199 11.4
や、夏期高温の沖縄の燃費が悪く、かつ大都市圏でも燃
0.1126 12.2
0.01080 10.2
0.1086
平均気温
費が低いことが分かる。
平均気温^2
-0.001974
-2.5 -1.713E-04
-1.9
-0.00161
平均気温^3
-5.084E-05
-2.6 -6.006E-06
-2.7 -5.90E-05
-52.
-19.
12.
11.
-2.
-3.
Aダミー
2.509 20.3
0.3025 21.5
2.630
21.
Bダミー
2.767 37.5
0.3181 36.8
2.787 38.
自動車交通研究 2014
の度合いが強いことが分かり、3 次関数の効果を確認す
ることができよう。
表2 重回帰分析のパラメータ推定結果
燃料・車種区分
Model-1
Model-2
Model-3
A
自家用貨物普通車
燃費
log(燃費)
燃費
B
自家用貨物小型車
C
自家用貨物軽自動車
D
営業用貨物普通・小型・特種車
E
営業用貨物軽自動車
F
自家用旅客バス・特種車
目的変数
係数
走行距離
log(走行距離)
排気量
log(排気量)
0.009824 11.4
自家用旅客小型車
I
自家用旅客乗用車(ハイブリッド)
車齢
log(車齢)
J
自家用旅客軽自動車
経過月数
係数
0.1379 69.1
1.066 61.7
-0.6751 -17.8
-0.4916 -43.2
-4.719 -52.1
-0.07357 -19.7
-0.02936 -14.2
log(経過月数)
0.01078 12.7
0.02199 11.4
0.01080
10.2
平均気温^2
-0.001974
-2.5 -1.713E-04
-1.9
平均気温^3
-5.084E-05
-2.6 -6.006E-06
-2.7 -5.90E-05
平均気温
t値
7.147 56.8
-0.2451 -21.6
-0.07611 -20.1
H
t値
1.777 117.7
-0.9669 -25.2
-1.577 -40.1
自家用旅客普通車
係数
0.03521 54.0
車重
log(車重)
G
K
営業用旅客バス・乗用車
図3 都道府県別の燃費平均値(凡例は 9 階層の燃費値)
t値
9.947 85.9
定数項
0.1126 12.2
0.1086 11.9
-0.00161
-2.1
-3.1
Aダミー
2.509 20.3
0.3025 21.5
2.630
3.回帰分析による燃費決定要因の考察
Bダミー
2.767 37.5
0.3181 36.8
2.787 38.7
Cダミー
3.464 35.2
0.1545 10.6
2.846 30.1
ここでは燃費を目的変数とする重回帰分析を推定す
る。燃費はそのまま用いるケースと、自然対数をとる
ケースの 2 通り検討している。様々な変数の組み合わせ
を試行錯誤し、その中の代表的な結果を表 2 にとりまと
めた。平均気温については、冬期と夏期の燃費が悪くな
る傾向にあり、かつその効果が非対称であることも想定
して、3 次関数とした。また、車種分類については、
「燃
料・車種区分」
(表 1 の A ~ K)をダミー変数として利
用した。最後の区分(K)のパラメータは 0 に固定して
いる。
Model-3 の結果から見ると、走行距離のパラメータは
正であり、これより、一日の走行距離が長いほど、燃費
が高くなる傾向があることが分かる。おそらく、信号が
なく渋滞が比較的少ない高速道路や、地方部の走行速度
が高い道路を利用する割合が高く、平均速度が上がるた
め、燃費が良くなると思われる。
当然、車重と排気量のパラメータは負であり、車重や
排気量が増えれば燃費は悪化する。さらに、車齢のパラ
メータ値も負であり、車齢の増加につれて、自動車の燃
費が下降することが分かる。
「経過月数」変数は、用いたデータの最初の月(2007
年 4 月)から調査月までの経過月数を表す。推定パラ
メータの符号は正であるため、時と共に燃費が向上して
きたトレンドが説明されたと考える。
平均気温の 3 次関数の推定結果を考察するため、平均
気温以外の変数値に本データの平均値を仮定し、平均気
温と燃費の関係を図示した(図 4)。図から見て取れる
ように、燃費は 17℃で最も高く、それより気温が低く
なる時の燃費悪化率よりも、気温が高くなるときの悪化
Dダミー
1.339 10.6
0.1681 11.6
1.460
11.8
Eダミー
1.099 11.5
0.7080
7.6
Fダミー
1.260
16.7
0.1213 14.3
1.204 16.6
2.029 25.1
-0.05718
-3.9
21.9
Gダミー
2.296 27.4
0.3052 32.4
Hダミー
3.703 48.2
0.3568 40.9
3.145 42.6
Iダミー
9.574 112.6
0.8115 83.9
9.263 112.7
Jダミー
3.824 37.9
0.4455
0.1372 9.6
0.4105
2.701 27.5
0.4640
調整済決定係数
AIC
296,734
55,541
294,837
サンプル数
55,682
55,682
55,682
図4 平均気温(横軸:℃)と燃費(縦軸:km/L)の関係
4.おわりに
『自動車燃料消費量調査』は、国土交通省が行う一般
統計調査であることから、本分析で示した標準的な多変
量解析で、燃費の時空間特性が把握可能であることが示
された意義は小さくない。今後もデータ数を拡充し、要
因把握を進める必要が高いと認識している。
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