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第4回膝OAと運動・装具療法セミナー記録集

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第4回膝OAと運動・装具療法セミナー記録集
第4回
膝OAと運動・装具療法セミナー
2013年7月5日
(金)
神戸国際会議場
変形性膝関節症
(膝OA)
に対する装具療法は保存療法の1つとして広く行われている。代表的な装具
として膝外反装具や足底板などがあり,その有効性を示す研究結果も報告されているが,装具自体が
どのような作用機序により膝関節に影響を及ぼすかについて検討した研究はいまだ少ないのが現状で
ある。近年では3次元動作解析を通じて装具の有効性について明らかにしようという動きが広まりつ
つあり,今後エビデンスが蓄積されることで,装具療法はさらに普及する可能性もある。2013年7月
に開催された第4回膝 OA と運動・装具療法セミナーでは,膝 OA の疫学や装具療法のエビデンスにつ
いて4人の医師が講演を行った。
「変形性膝関節症の病態と
装具療法の実際」
座長:池田 浩氏
吉村 典子氏
1
順天堂大学医学部 整形外科学 先任准教授
池田 浩 氏
東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター
関節疾患総合研究講座 特任准教授
大規模縦断研究による変形性膝関節症の疫学:The ROAD Study
村木 重之氏
東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 臨床運動器医学講座 特任助教
2
吉村 典子 氏
村木 重之 氏
変形性膝関節症に対する装具療法のエビデンス
出家 正隆氏
広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 保健学分野運動器機能医科学 教授
3
変形性膝関節症の歩行時荷重ベクトルと足底板の効果
名倉 武雄氏
出家 正隆 氏
慶應義塾大学医学部 整形外科 講師
(現・慶應義塾大学医学部運動器生体工学寄附講座 特任准教授)
4
Screw-home movement(SHM)を考慮した靴型装具の臨床効果
日高 滋紀氏
医療法人日高整形外科病院 病院長
5
総合討論
名倉 武雄 氏
日高 滋紀 氏
Alcare_4thOA_2013.indd 1
14.5.30 4:08:37 PM
変形性膝関節症の病態と装具療法の実際
大規模縦断研究による変形性膝関節症の疫学:The ROAD Study
東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 臨床運動器医学講座 特任助教
村木 重之氏
びOPAの増大と有意に相関することが確認されました。
変形性関節症,転倒 ・ 骨折などの運動器疾患は
要支援の原因として大きな割合を占める
さらに,年齢,BMI,mJSW,OPAを説明変数として多変量解
析を行ったところ,女性においてはmJSWとOPAの両方が疼痛・
平成22年度の厚生労働省国民生活基礎調査によれば,要支援
ADL障害との有意な相関関係を示しましたが,男性においては
の原因として,変形性関節症
(20.2%)
,転倒・骨折
(12.5%)
など
mJSWとADL障害,OPAと疼痛には相関関係が認められません
の運動器疾患が大きな割合を占め,高齢化の進行とともにます
でした。 すなわち,男性の疼痛の愁訴にはmJSW が,ADL障害
ます増加傾向にあります。われわれは2005年から国内の運動器
についてはOPAが関連していることが示唆されました
(表1)
。
疾患の実態を把握すべく,大規模地域住民調査「The Research
on Osteoarthritis / osteoporosis Against Disability
(ROAD)
」
を開始
追跡調査のデータを用いた縦断研究
し,対象である都市型コホート
(東京都板橋区)
,山村型コホー
ト
(和歌山県日高川町)
,漁村型コホート
(和歌山県太地町)
の計
1)
次に,追跡調査のデータを用いた縦断研究により,KL分類に
3,040人 に対して,400項目以上の問診票調査,医師による診
よる膝 OAの重症度が疼痛および ADL障害の進行に及ぼす影響
察,単純X線撮影,血液尿検査を実施しました。現在,2005∼
について検証しました。 その結果,全体的にベースライン時と
07年までのベースライン調査および2008∼10年の追跡調査が完
比較して追跡調査時には疼痛,ADL障害ともに悪化傾向が見ら
了し,2回目の追跡調査が進行中です。
れました。さらに,その悪化率をベースライン時の膝 OAの重
症度ごとに検証した結果,KL 分類3/4がKL 分類0/1,
2と比
膝OAの重症度が高くなると
疼痛・ADL障害が悪化
較して,男性ではADL障害,女性では疼痛,ADL障害ともに有
意な差が認められました。
このROAD Studyのデータを基に膝OAの重症度とQOLの低下
しかし,実際にはベースライン時にKL 分類3/4であっても,
につながる疼 痛 および ADL障 害 の関 係 について,疼 痛 は
追跡調査時には疼痛やADL障害が改善した患者もいます。そこ
WOMAC Pain,ADL障害はWOMAC Physical Functionを用いて
で,KL 分類による膝 OAの重症度と疼痛・ADL障害の発生・消
検証しました。
失に関連する因子ついて検討しました
(発生:ベースライン調査
まず,疼痛およびADL障害とKL分類による膝OAの重症度と
時にWOMACスコアが0である人が追跡調査時に1以上となっ
の関連性について検証した結果,KL分類3/4は,KL分類0/1
ていた場合,消失:ベースライン調査時にWOMACスコアが1
と比較して,WOMAC Pain・WOMAC Physical Functionともに
以上である人が追跡調査時に0となっていた場合)
。
2)
有意に高値を示しました 。つまり,KL 分類が高いほど,疼痛
①疼痛・ADL障害の発生・消失に関連する因子
やADL障害が悪化する可能性が示唆されました。
膝 OAの重症度と疼痛の関連性を検討した結果,男性におい
しかし,KL 分類は主として骨棘および関節裂隙幅を同時に評
ては膝 OAの重症度と疼痛の発生率には有意な関連が見られな
価して重症度を分類していますが,両者は
必ずしも相関関係にない印象がありました。
図1 最小関節裂隙幅とQOLの関係
実際,われわれが開発した骨棘面積
(OPA)
,
男性(N=741)
最小関節裂隙幅
(mJSW)
などを自動計測す
る診断支援ソフトウエアKOACAD3)を用い
て,OPAとmJSW の関連性を検証したとこ
ろ,やはり両者の相関係数は低い結果とな
りました2)。
WOMAC
Pain
3
2
2
1
1
0
そこでOPA・mJSWが疼痛および ADL障
害とどのように関連するのかを検証しまし
た。その結果,男女ともにmJSW の狭小化
および OPAの増大が,それぞれ独立して疼
痛・ADL障害を悪化させる可能性があるこ
とが示唆されました
(図1)
。この結果を単
変量解析を用いて検討すると男女ともに疼
痛・ADL障害の悪化と,mJSWの狭小化およ
女性(N=1,298)
3
第4四分位 第3四分位 第2四分位 第1四分位
(最大)
(最小)
0
10
10
WOMAC
Physical 5
Function
5
0
第4四分位 第3四分位 第2四分位 第1四分位
(最大)
(最小)
0
第4四分位 第3四分位 第2四分位 第1四分位
(最大)
(最小)
第4四分位 第3四分位 第2四分位 第1四分位
(最大)
(最小)
(Muraki S, et al.
2011; 63: 3859-3864)
2
Alcare_4thOA_2013.indd 2
14.5.30 4:08:42 PM
い一方で,消失率に関しては膝 OAの重症度と有意な相関関係
疼痛とADL障害ともに増悪する傾向が見られました。
が認められました。女性においては,膝 OAの重症度と疼痛の
また,KL分類3/4ではKL分類0/1と比較して,男性におい
発生率,消失率には相関関係が有意に認められました。次に,
てはADL障害が,女性においては疼痛およびADL障害が有意に
膝 OAの重症度とADL障害の関連性を検討した結果,男性にお
増悪していました。さらに疼痛の増悪率と年齢,BMI,握力の
いては,膝 OAの重症度とADL障害の発生率間に相関関係が見
関連性を検討すると,男性においては各指標との関連性が見ら
られましたが,ADL障害の消失率については,関連性は認めら
れない一方で,女性においてはBMIと握力が関連することが示
れませんでした。女性においては,膝 OAの重症度とADL障害
唆されました。
の発生率,消失率には相関関係が有意に認められました。
さらに,年齢,BMI,握力,KL 分類を説明変数として多変量
続いて,膝OAによる疼痛およびADL障害の発生率と,年齢,
解析を行いました。その結果,疼痛の増悪率に関しては,男性
BMI
(肥満度の指標)
,握力
(全身筋力の指標)
との関連性を検討
において各指標ともに関連性は認められませんでしたが,女性
しました。その結果,男性においては,疼痛の発生率と各指標
においては握力と有意に相関しており,またBMIに関しても相
との関連性は認められませんでしたが,ADL障害の発生率には
関傾向が確認されました。またADL障害の増悪率に関しては,
年齢と握力が関連することが認められました。女性においては,
男女共にKL分類3/4が関連していました。
疼痛の発生率には年齢とBMIの関連が見られ,握力に関しても
相関傾向にありました。また,ADL障害の発生率には,年齢,
握力の関連が見られ,BMIに関しても相関傾向にあることが示
QOLに相関する因子として重要性が高いのは
男性は膝OAの重症度,女性では肥満や筋力
唆されました。
多変量解析の結果をまとめると表2のようになります。疼痛
さらに疼痛・ADL障害の発生に関して,年齢,BMI,握力,
に関しては,男性においては膝 OAの重症度そのものは疼痛の
KL 分類を説明変数として多変量解析を行いました。その結果,
発生および増悪に関連しませんが,疼痛の消失には関連するこ
男性においては,疼痛の発生に各指標との関連は見られない一
とが示唆されました。女性においては,膝 OAの重症度よりも
方で,ADL障害の発生には,年齢およびKL 分類3/4が有意に
BMIや握力が疼痛の発生,増悪,消失に関連していることが示
関連していました。女性においては,疼痛の発生に年齢および
唆されました。
BMIが関連していましたが,KL分類による膝OAの重症度との関
そして,ADL障害に関しては,男性においては膝OAの重症度
連性は認められませんでした。ADL障害の発生については,年
はその発生や増悪に関連しますが,消失には影響がないことが
齢,BMI,握力が関連することが示されましたが,疼痛の発生
示唆されました。また,女性においてはADL障害の発生には膝
と同様に膝OAの重症度との関連は認められませんでした。
OAの重症度よりもむしろBMIや握力の方が強く関連し,消失に
また,疼痛とADL障害の消失率に関しても多変量解析を用い
は膝 OAの重症度と握力が関連していることが示唆されました。
て検討したところ,男性においては,疼痛の消失率にはKL分類
この結果から,女性の場合,膝 OAの重症度が高くても,肥満
3/4が,ADL障害の消失率には年齢が関連することが示唆さ
改善や筋力増大によってQOLが向上する可能性があるのではな
れました。そして女性においては,疼痛の消失率にBMIと握力
いかと期待しています。
が,ADL障害の消失率には握力およびKL分類2が関連すること
今後の追跡調査においても,高い追跡率を維持し,有用性の
が示唆されました。
高い新たな知見を発表していきたいと考えています。
②疼痛・ADL障害の増悪・軽快に関連する因子
次に,膝 OAの重症度と疼痛・ADL障害の増悪率との関連を
検証しました。全体的に,膝 OAの重症度が増悪するにつれて
表1 関節裂隙幅および骨棘形成とQOLの関係(多変量解析)
WOMAC Pain
調整済み
回帰係数
(95% CI)
1)Yoshimura N, et al.
2)Muraki S, et al.
3)Oka H, et al.
2010; 39: 988-995
2010; 18: 1227-1234
2008; 16: 1300-1306
表2 疼痛・ADL障害の発生・消失・増悪と
年齢・握力・BMI・KL分類との相関(多変量解析)
WOMAC Physical Function
男性
調整済み
回帰係数
(95% CI)
P値
年齢
P値
BMI
女性
握力 KL分類 年齢
○
発生
BMI
握力 KL分類
○
男性
mJSW
OPA
−0.29
(−0.47∼−0.11)
0.03
(−0.005∼0.07)
0.002
0.09
−0.48
(−1.04∼0.08)
0.20
(0.09∼0.32)
0.10
0.0005
女性
mJSW
OPA
−0.41
<0.0001
(−0.57∼−0.25)
0.03
0.0001
(0.01∼0.04)
−1.22
<0.0001
(−1.72∼−0.72)
0.12
<0.0001
(0.08∼0.17)
年齢,BMI,mJSW,OPAを説明変数とした重回帰分析を用いた
○
3/4
疼痛 消失
○
(○)
増悪
相関傾向
発生
○
ADL
消失
障害
○
増悪
○
3/4
○
○
○
○
○
○
○
3/4
○
2
○
3/4
○:有意な相関関係が認められた
(Muraki S, et al.
2011; 63: 3859-3864)
3
Alcare_4thOA_2013.indd 3
14.5.30 4:08:43 PM
変形性膝関節症の病態と装具療法の実際
変形性膝関節症に対する装具療法のエビデンス
広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 保健学分野運動器機能医科学 教授
出家 正隆氏
後移動量−といった膝関節の運動に焦点を絞った解析方法で
膝OAの装具療法に対する有効性を
バイオメカニクス的観点から解析
す。本検証においては,健常膝に対し膝外反装具を装着し
「Point cluster法」
を用いた計測を,次に膝OA患者に対し膝外反
内側型膝OA
(膝OA)
に対する装具療法は,軽度から重度の病
装具および膝軟性装具を装着し「Plug in gait法」
を用いた計測を
態まで幅広く処方されています。今回は,その装具療法の有効
行いました。
性に関するエビデンスを述べます。
膝 OAの疼痛の生体力学的因子としては,膝関節を内反させ
ようとする力である膝関節内反モーメントと立脚初期に膝が急
膝外反装具による外反角度の増大には
外反矯正力に加えて内旋角度の増大が寄与
激に外側方向に動揺する現象であるlateral thrustが挙げられま
まず,膝外反装具を装着した健常膝10例
(男性5例,女性5
す。治療に当たっては,これらの因子による膝関節への力学的
例)
を対象に「Point cluster法」
を用いて一歩行周期の動作解析を
負荷を低減させることが重要視されています1)。この低減に有
実施しました。その結果,①全歩行周期における膝外反角度の
効な装具として,機能的膝外反装具
(膝外反装具)
や支柱付き膝
増大②踵接地前後の内旋角度の増加③遊脚期における脛骨前
装具
(膝軟性装具)
があります。膝外反装具については,これま
方移動量の増大−が確認されました。膝内旋角度の増加は,膝
での多くの研究により,疼痛の軽減,QOLの向上,内反モーメ
外反角度が増大する要因となるとの報告があることから7),装
ントの改善効果などが報告され2∼6),膝軟性装具においても除
具による外反矯正力に加え,内旋角度の増加が膝外反角度の増
痛効果が認められる患者も存在するとの報告もあります。
大に寄与する可能性が示唆されました。また,踵接地前後およ
しかし,膝装具の疼痛軽減に対する作用機序は必ずしも明確
び立脚中期に確認された膝屈曲角度の増大による関節可動域
になっていません。そこで,3次元動作解析装置および床反力
制限は認められませんでした。
計による歩行動作解析を実施し,膝装具の有用性についてバイ
次に,KL分類2以上の内側型膝OA患者14例
(男性2例,女性
オメカニクス的観点から検討を行いました。
12例/ KL分類2:3例,KL分類3:10例,KL分類4:1例)
を対
3次元動作解析装置による歩行動作解析方法には,
「Plug in
象に「Plug in gait法」
を用いた検証を行いました。その結果,膝
gait法」
と「Point cluster法」
の2種類があり,前者が①膝関節へ
外反装具装着時は非装着時と比較して立脚初期
(1∼34%)
にお
のモーメント②荷重時の膝関節と股関節および体幹との関係−
いて,膝関節内反角度が有意に減少しました。また,立脚中期
(17
といった全身と膝の運動学・力学の計測であるのに対して,後
∼23%)
,立脚後期
(40∼53%)
における内反モーメントおよび最
者は膝関節の①屈曲・伸展②外反・内反角度③回旋角度④前
大内反モーメント,ならびに疼痛
(VASスコア)
の有意な減少が認
図1 膝外反装具装着による疼痛軽減効果
(N・m/BW)
0.9
(mm)
80
*
※非装着を100%
(%)
120
†
70
0.8
VAS
最大内反モーメント
0.7
0.6
0.5
0.4
約60%
減少
装具装着時
*P<0.05
*
100
80
80
40
60
60
30
40
40
20
20
20
10
0
50
0
非装着
(%)
120
lateral thrust
100
60
0.3
図2 膝軟性装具装着によるlateral thrust減少と疼痛軽減効果
非装着
装具装着時
†P<0.01
広島大学大学院医歯薬保健学研究科
保健学分野運動器機能医科学の臨床試験結果
(出家正隆氏提供)
非装着
装具装着時
装具装着時で
lateral thrustが減少
*P<0.01
0
疼痛(VAS)
†
非装着
装具装着時
装具装着時で
VASが減少
†P<0.05
広島大学大学院医歯薬保健学研究科
保健学分野運動器機能医科学の臨床試験結果
(出家正隆氏提供)
4
Alcare_4thOA_2013.indd 4
14.5.30 4:08:44 PM
められました。特にVASスコアに関しては約60%と大幅に改善
thrustの有無を確認し,それが視認される場合には,膝軟性装
しています
(図1)
。さらに膝屈曲角度は装着時と非装着時で有
具の処方によって疼痛改善効果が期待できると考えられます。
意差はなく,健常膝による検証結果と同様に膝外反装具は,膝
OA患者の関節運動を制限しないことが明らかになりました。
軟性装具はlateral thrustを低減させることで
膝OA患者の疼痛を低減する
膝装具の処方に当たっては
メリット・デメリットを十分に考慮すべき
近年,患者の膝装具装着に関する報告を行った海外論文にお
いて,
「医師と患者は,装具自体の費用と処方から1年または1
続いて,膝軟性装具の膝OA患者の歩行へ及ぼす影響を検証
年以上継続使用する可能性を念頭に置き,その有益性と無益
しました。KL 分類3以上の内側型膝OA患者6例
(男性3例,女
性のバランスを考慮する必要がある」
と述べられています8)。
性3例/KL分類3:5例,KL分類4:1例)
を対象に一歩行周期
そして,この言葉通り,医師は膝 OA 患者に対し装具療法を
の動作解析を行ったところ,装着時は非装着時と比較して,
処方する際は,そのメリットおよびデメリットのバランスを十
lateral thrustおよびVASスコアの有意な減少が認められました。
分に考慮して決断すべきだと考えます。
特にVASスコアに関しては,約30%の改善が見られました
(図
2)
。一方で,膝軟性装具装着により内反モーメントは減少傾向
にありましたが,両条件間に有意な差は見られませんでした。
以上の結果,膝軟性装具はlateral thrustを減少させ,それが疼
痛の軽減に寄与している可能性が示唆されました。つまり,疼
痛を愁訴する内側型膝OA患者へ装具処方をする際は,lateral
1)Kito N, et al.
(Bristol, Avon)
2010; 25: 914-919
2)城内若菜ほか. 理学療法 2008; 25: 909-915
3)Brouwer RW, et al.
2006; 14: 777-783
4)Pollo FE, et al.
2002; 30: 414-421
5)Kutzner I, et al.
2011; 44: 1354-1360
6)Fantini Pagani CH, et al.
(Bristol, Avon)
2010; 25: 70-76
7)菅川 祥枝ほか. 理学療法 2007; 24: 565-572
8)Squyer E, et al.
2013; 471: 1982-1991
変形性膝関節症の歩行時荷重ベクトルと足底板の効果
慶應義塾大学医学部整形外科 講師(現・慶應義塾大学医学部運動器生体工学寄附講座 特任准教授)
名倉 武雄氏
内反モーメントは
臨床症状の把握に有用な指標
われわれは膝 OA 患者の病態を歩行動作解析によって検討し
常群7例,膝 OA 群56例において比較検証しました。その結果,
KAM
(%体重×身長)
は健常群3.2±1.1,膝 OA 群7.0±2.2,側方
ベクトル
(%体重)
は健常群7.8±1.9,膝OA群9.7±3.2,垂直ベク
トル
(%体重)
は健常群106.1±7.5,膝 OA 群131.8±10.2となり,
た研究から,①荷重時における最大膝屈曲角度②関節可動域
膝OA群は健常群と比較して,KAM,側方ベクトル,垂直ベクト
③lateral thrust そし て ④ 内 反 モ ー メント
(knee adduction
ルの全てが有意に高値を示すことが明らかになりました。さら
moment,以下KAM)
−が膝OAの病態と密接に関連しているこ
にKAMと各荷重ベクトルの相関関係を検証したところ,その相
1∼4)
とを報告してきました
。特にKAMは,立脚期の荷重ベクト
関係数rは側方ベクトルが0.35,垂直ベクトルが0.16となり,側
ルからのレバーアーム増大による膝関節内顆への負荷および
大 骨脛骨角
(FTA)
と非常に高い相関関係があると報告されて
図1 側方ベクトルと垂直ベクトル
います5, 6)。このことから,KAMは膝 OAの臨床評価における代
表的な指標の1つであるといえます。
さらに,近年の研究において,つま先を内側方向に向けると
いった歩容の改善が,膝 OAの臨床症状を軽減するという報告
がなされており,その要因の1つとしてもKAMの減少が報告さ
れています7)。
そこで,荷重ベクトルに注目し,荷重ベクトルとKAMの関係,
垂直ベクトル
内反モーメントとの相関度は
垂直ベクトルよりも側方ベクトルが高い
荷重ベクトル
そして足底板の装着がKAMおよび荷重ベクトルに及ぼす影響に
ついて研究を行いました。
まず,荷重ベクトルは側方ベクトルと垂直ベクトルの2つに
分割されます
(図1)
。そして,この各ベクトルとKAMが健常者
と膝OA患者間でどのような差があるのかを明らかにすべく,健
側方ベクトル
(名倉武雄氏提供)
5
Alcare_4thOA_2013.indd 5
14.5.30 4:08:44 PM
変形性膝関節症の病態と装具療法の実際
方ベクトルの方が垂直ベクトルと比較し,KAMに対してより影
れました。
響を与えている可能性が示唆されました
(図2)
。
しかし,KL分類による膝OAの重症度別に効果を検討すると,
KL 分類2,
3の患者は,足底板装着時,足底板+足関節バンド
足底板+足関節バンド時に高い内反モーメント改善効果
重症度によって効果の発現に差がある
装着時ともにKAMが減少していますが,KL分類4では,足底板
装着時で有意な改善を示す一方で,足底板+足関節バンド装着
時では有意な改善は確認されませんでした。
次に,足底板の装着がKAMおよび各ベクトルに及ぼす影響に
ついて,膝 OA 患者30名を対象に検証しました。比較条件は①
足底板の処方に当たっては
1人1人の足の特性を考慮すべき
足底板非装着時②足底板
(外側ウェッジ付)
装着時③足底板
(外
側ウェッジ付)
+足関節バンド装着時−の3つです。③において
足関節バンドを用いた理由は足底板による足関節の外反効果が
この結果より,足底板および足底板+足関節バンドはKL 分類
距踵関節において阻害されることを防ぐ目的です。その結果,
4といった膝OAの重症度が高い場合には改善効果がないもの
KAM
(%体重×身長)
は足底板非装着時が4.2±1.7,足底板装着
の,KL 分類2,
3といった膝OAの重症度が比較的低い群には有
時が3.9±1.5,足底板+足関節バンド装着時が3.7±1.4となり,
益な効果をもたらすことが明らかになりました。この要因として
足底板非装着時と比較して,足底板装着時が8%,足底板+足
は,やはり側方ベクトルが関連していると考えられます。よって,
関節バンド装着時が13%の割合でKAMが減少することが確認さ
その点を立証すべく,両側膝OAのある71歳女性患者1人
〔KL 分
類2,FTA 182度,HSS(Hospital for Special
図2 内反モーメントと荷重ベクトルの相関
(%体重)
18
Surgery Knee score;臨床スコア)
87点〕
を対
象に,上記と同一の比較条件にて,KAM
(%
(%体重)
160
r=0.35
16
体重×身長)
および側方ベクトル
(%体重)
な
r=0.16
らびに垂直ベクトル
(%体重)
を計測し,再
150
14
垂直ベクトル
側方ベクトル
12
10
8
6
4
検討しました。その結果,足底板非装着時
140
ではそれぞれ5.5,6.4,99.8,足底板装着時
は5.0,6.1,97.3,足底板+足関節バンド装
130
着時は4.9,8.3,94.0となりました
(図3)
。
120
足底板装着時には側方ベクトルの減少が,
110
KAMの減少に寄与していることが推察され
2
ます。一方,足底板+足関節バンド装着時
100
0
0
2
4
6
8
10
12
14
0
2
4
6
8
10
12
14
膝内反モーメント(%体重×身長)
膝内反モーメント(%体重×身長)
は足底板非装着時より垂直ベクトルは減少
しているのですが,側方ベクトルはむしろ
増加し,結果としてKAMは減少しています。
OAでは側方ベクトル像増加→膝内反モーメント増加
(名倉武雄氏提供)
また,このような例が存在する一方で,足
底板装着時や足底板+足関節バンド装着時
図3 足底板効果による荷重ベクトルの変化の1例
において,側方ベクトル,垂直ベクトルがと
もに減少し,KAMが減少している例も多数
歩行計測ソフトによるデモ
あります。このことから,膝OA患者に対す
両側OA(71歳女性)
左 KL分類2,FTA 182度,HSS 87点
健常者(60歳女性)
る足底板の処方においては,全ての患者に
腸骨
おいて同様の作用機序によりKAMを改善し,
疼痛軽減につながるとは一概に断言できま
大転子
せん。そのため,足底板による最大の改善
効果を得るためには,1人1人の足部の特性
に合わせた処方,適合が必要ではないかと
膝
考えています。
FTA
2度改善
踵
外果
第5中足骨
1.6
KAM
側方ベクトル 5.7
垂直ベクトル 101
足底板なし
足底板あり
5.5
KAM
側方ベクトル 6.4
垂直ベクトル 99.8
KAM
5.0
側方ベクトル 6.1
垂直ベクトル 97.3
足底板+足関節バンド
KAM
側方ベクトル
垂直ベクトル
4.9
8.3
94
(名倉武雄氏提供)
1)Kuroyanagi Y, et al.
2007; 15:
932-936
2)Kuroyanagi Y, et al.
2009; 16: 371-374
3)岩本航ほか. 臨床バイオメカニクス 2011; 32: 407-411
4)Kuroyanagi Y, et al.
2012; 19: 130-134
5)Andriacchi TP.
1994; 25: 395403
6)Hurwitz DE, et al.
2002; 20: 101-107
7)Shull PB, et al.
2013; 31: 1020-1025
6
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Screw-home movement
(SHM)を考慮した靴型装具の臨床効果
医療法人日高整形外科病院 院長
日高 滋紀氏
膝OAが進行するとSHMの外旋運動が
内旋運動へと変化し,lateral thrustを増大させる
ントや歩行時におけるlateral thrustを減少させる可能性が示唆さ
れました。そして,実際に患者からも「SHM靴を装着すると非常
に歩きやすい」
という感想が得られました。
骨
さらに,SHM靴装着時の歩行動作における膝関節動作を詳細
に対し軽度の外旋運動を起こす現象である終末強制回旋運動
に検証すべく,膝OA患者3例を対象として,3次元歩行解析装置
(Screw-home movement;SHM)
が不随意的に起こり,膝関節
による計測を行いました。その結果,通常靴装着時においては
の安定性および関節軟骨に対する負荷の軽減につながるといわ
立脚早期に脛骨の内旋運動が見られましたが,SHM靴装着時に
れています。しかし,内側型膝 OAの症状が悪化すると,SHM
は脛骨が外旋方向へ動作していることが確認され,膝OAの保存
膝関節動作においては,膝関節最終伸展時に脛骨が大
における脛骨の外旋運動が内旋運動に変化します。そして,こ
療法に対する応用への期待も示唆されました。また,3人の患者
れが膝 OA 患者の立脚初期∼中期における膝関節の急激な外側
から,
「より歩きやすさが向上した」
という感想が得られました。
方動揺であるlateral thrustを増大させ,疼痛の愁訴につながる
1∼3)
と報告されています
(図1)
。
このことから,膝OA患者のSHMを正常動作に戻すことができ
踵部にSHM機構を付けた靴型装具で
膝関節機能,ADLが改善される傾向に
れば,lateral thrustならびに日常生活動作における疼痛を緩和
これまでの研究結果を受けて,膝関節最終伸展時に膝OA患
することができるのではないかと考えました。また,当院の理
者の脛骨を外旋方向へ約7度矯正可能と考えられる4mmの
学療法士が,靴の踵部に外旋方向へ矯正可能なスクリュー状機
SHM機構を装着した靴型装具
(4mmSHM靴)
を開発し,その有
能を付加させた内反足治療装具について討議していたことがあ
効性を検証しました。対象者は40歳以上の軽度の膝OA患者23
り,その原理は膝 OA 患者のSHMにおける脛骨の異常動作を矯
例であり,比較条件として4mmSHM靴装着群,有効性がない
正可能にする装具として応用できるのではないかと考えました。
と考えられる1mmのSHM機構型靴型装具
(1mmSHM靴装着)
このような背景から,脛骨の外旋を矯正し,膝OA患者のSHM
群,通常靴群のいずれかにランダムに振り分けました。検査項
を正常化させるスクリュー機構
(図2)
を踵部に埋め込んだ靴型
目は,SF-36によるADL評価,Lequesneの重症度指数による膝関
装具
(SHM靴)
を靴メーカーと共同開発しました。そして,この
節機能評価,ならびに1日当たりの歩数の変化量とし,1カ月,
SHM靴が膝OA患者の立脚時姿勢および歩行動作に及ぼす効果
3カ月,6カ月の各時点において調査しました。結果としては,
を明らかにすべく,一般的な靴
(通常靴)
装着時において大 脛
N数が少なかったために,各条件において各検査項目に有意差
骨角
(FTA)が座位時199°
,立位時202°
,歩行時208°
であり,
は認められませんでした。しかし,4mmSHM靴装着群は他の2
lateral thrustが顕著に確認できる1例を対象に,SHM靴装着時の
条件と比較して試験開始時の全測定項目は最も低値だったにも
FTAならびに膝関節の内反および外反方向の加速度を計測しま
かかわらず,介入6カ月後にはSF-36における身体機能,日常役
した。その結果,SHM靴装着時は通常靴装着時と比較して,歩
割機能:身体,体の痛み,全体的健康感,また,Lequesneの重
行時FTAが205°
に改善しただけでなく,1歩行周期内における膝
症度指数および1日当たりの歩数において,他条件と比較して
関節の内反方向への加速度の上昇回数が大幅に減少しました。
も改善傾向が見られました。特に1日当たりの歩数は,試験開
以上の結果より,SHM靴は立脚時における膝関節の内反モーメ
始時には平均6,000歩でしたが,介入6カ月後には10,000歩に増
図1 SHM(screw-home movement)
正常膝関節では
立脚期の前期で下 は大
外旋の動きをする。
図2 SHM機構
SHM機構
に対して
変形性膝関節症では
この正常な外旋運動が阻害されて,
変形が進むと逆SHMが生じてくる。
脛骨が
外側へ
回旋
(日高滋紀氏提供)
(日高滋紀氏提供)
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変形性膝関節症の病態と装具療法の実際
日常生活において使用する靴
(通常靴)
装着,改良型SHM靴装着
加していました。
の3条件としました。また,測定項目は20m歩数
(3回実施)
,
靴型装具の前方に内旋を促す機構を付けることで
適切な踏み返しの形成が可能となる
20m歩行時間
(4回実施)
,歩行快適性
(VAS)
として評価を実施
しました。その結果,改良型SHM靴装着時は,裸足,通常靴装
以上の結果より,膝OA患者に対するSHM靴の有用性が示唆
着時と比較して,全ての項目において改善が見られ,また,内
されましたが,SHM靴群の中には歩行時に内側広筋付近に違和
側広筋付近の違和感も解消されました
(図4)
。この結果より,
感を訴える例がありました。その要因として,SHM靴は歩行時
改良型SHM靴は,膝 OA 患者の身体動作を制限することなく,
の体重移行期に外旋方向への力を付加しますが,踏み返しにあ
疼痛を軽減する可能性があることが示唆されました。
たる小趾球部において多少の内旋方向の力が付加されなけれ
最後に,靴は日々の生活において欠かせないものであるため,
ば,立脚中期におけるSHM靴による脛骨の外反方向への傾きを
膝 OA 患者に対する靴型装具の応用は日常生活の使用において
抑制することができず,MP関節の踏み返しが適切に形成され
コンプライアンスが高いのではないかと期待しています。今後,
ないことが考えられます。そのため靴型装具の小趾球部に近い
さらに歩行動作解析を実施するなどし,この靴型装具のエビデ
部分に,内旋機構を付加し,MP関節の踏み返しを促す改良を
ンスを蓄積することが,実用化のために必要だと考えています。
行いました
(図3)
。
そして,この改良型SHM靴の有用性について,重症度の高い
膝 OA 患者3例を対象に検討を行いました。比較条件は裸足,
図3 改良型SHM靴
1)石井 卓ほか. 日整会誌 1992; 66: S1433
2)大森 豪ほか.
2003; 16: 1-6
3)日高滋紀.
2012; 25: 69-76
図4 改良型SHM靴の効果
20m歩数(各3回平均)
VASによる評価
80
40
70
1mm突出
(内旋)
60
35
50
SHM靴(底面)
40
30
30
3mm突出
(外旋)
足底面より,踵部で約3mm突出し外旋させ,小指球部で約1
mm突出し内旋させる構造になっており,足部のあおり運動を
促すような構造となっている。
20
25
10
20
Sさん
(日高滋紀氏提供)
0
Mさん
Iさん
裸足
通常靴
Sさん
Iさん
Mさん
改良型SHM靴
(日高滋紀氏提供)
総合討論
4人の演者による講演後に行われた総合討論では,活発な議
れれば,医師としてもさらに積極的に装具療法を勧めやすい」
と
論が繰り広げられた。議論の中心テーマは「装具のコンプライ
述べた。名倉氏は「装具療法を膝OAのどの様な状態の患者に適
アンス」
。村木氏は自身の診療経験より,
「膝外反装具のコンプ
応すべきかについてはエビデンスがほとんどないのが現状。動
ライアンスはなかなか向上しないのが実情。患者が継続使用す
作解析による研究が進み,装具療法が奏効しやすい患者の特徴
る装具は薄いサポーターくらい」
と述べた。出家氏は装具使用の
が明らかになれば,TKAを回避できる症例も多いのではないか」
コンプライアンス向上のためには,
「まず2週間程度の試用後に
と話す。座長を務めた池田氏は「20年前までは,保存治療の1
効果を実感した人に対してのみ処方することがポイント。自分
つである運動療法の有効性はほとんど認知されない状況が続い
自身で効果を納得して装具を使用した患者はコンプライアンス
たが,多くのエビデンスが重ねられたことで,今やその有効性
も比較的高い」
と述べた。コンプライアンスが低い要因として,
は全世界的に知られるようになった。装具療法も,長い時間が
装具療法のエビデンスが少ないことを挙げたのは日高氏。
「エ
かかるとは思うが,この研究会がきっかけとなって,数多くの
ビデンスが蓄積されて,症状に対する効果が高いことが証明さ
エビデンスが出されるよう期待したい」
と会を締めくくった。
発行:アルケア株式会社
編集・制作:株式会社メディカルトリビューン
2013年 12月作成
Alcare_4thOA_2013.indd 8
14.5.30 4:08:26 PM
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