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「高齢期の食を考える」(大谷専門委員)(PDF形式:523KB)
資料4 高齢期の 食を考える 高齢期の食を考える ∼サクセスフルエイジングを目指して∼ サクセスフル・エイジング 加齢に伴う様々な変化に直面し、変化し た状況にうまく 適応している場合には、 円熟傾向が増し、満足感や達成感などの ポジティブな感情が感じられるようになる。 サクセスフルエイジングの指標: 主観的幸福感(subjective well-being) サクセスフルエイジングとは? 1.長寿である。2.QOLが高い。3.Productivity(社会貢献)が大きい。 老年学のQOLの概念枠組み 1.生活機能や行為、行動の健全性 (ADL、手段的ADL、社会的活動など) 2.生活の質への認知 (健康度自己評価、認知力、性機能など) 3.居住環境 (人的・社会的環境、都市工学、住居など の物理的環境) 4.主観的幸福感 (生活満足度、抑うつ状態など) Productivity(社会貢献)の枠組み 高齢者を社会資源とみる 1.有償労働(自営や専門的仕事) 2.無償労働(家庭菜園、家政など) 3.ボランティア活動 4.相互扶助 5.保健行動(self-care) 老化には • 内因性老化(生理的老化):physical aging すべての人に共通して起こる。・・・ 遺伝要因が主 • 外因性老化(病的老化):pathological aging 老年期に高頻度に認められるが、全ての人に必ず起こるとは限らない。 ・・・ 環境要因が主 1)生体外部環境 (生活環境:自然・社会・個人生活) 2)生体内部環境(動脈硬化など) 3)偶発的因子(病気) 老年症候群:誤嚥、転倒、痴呆、失禁が代表的な症候群 老年疾患 :骨粗しょう症、老年痴呆、動脈硬化性疾患(特に脳血管障害) 私たちができることは? • 外因性老化を遅らせること *社会環境の整備:衛生・医療・生活水準を高める *自然環境との折り合い *生活習慣の見直し • 失った機能を補うまたは支援すること *環境整備(バリアーフリーなど) *市販品の利用で家事の軽減 *補助器具 *人的支援 *考え方の転換(若い時と同じではない) 健康寿命の延伸 動的統合生命力曲線 (Homeodynamic vitality curve) 高齢期には何が起こるか いろいろな喪失体験 1)生理機能の衰え 2)様々な疾患を持つ 3)近親者との死別 4)収入の減少 5)生き甲斐の喪失 老人四悪 (病気、孤独、貧乏、無為) • 抑うつや不安などの否定的感情の増加 変化に対する適応の失敗 (ex.定年退職者の抑うつ感情の増加や他者からの 援助に対する精神的ストレスからのうつ) 高齢者の心と体 脆い基盤の上にある心と体 • • • • • 病気にかかりやすい 高齢者は抵抗力が弱い 病因が多元的である ささいな風邪などを契機に、それまで表面化しなかったいろんな 病気が顔をだす 心理的な要因や治療薬による問題が相互に作用する 症状が非定的 肺炎でも若い人のように熱がでない(無熱性肺炎) 心筋梗塞でも胸痛がないので心不全まで気がつかない (無痛性心筋梗塞) 心理的要因が関与 抑鬱状態で食欲が低下し、脱水症状をきたしたり体力の低下をきたす。 引っ越しや人間関係の変化により心身の変調をきたす 精神症状を生じやすい 身体的な疾患や薬物でせん妄や鬱状態、妄想などの精神症状 を生じることが多い 栄養状態の悪化は全身の機能を低下させる • 食事の充実により全身状態の改善・痴呆の改善、生活に対する意欲の向上が見られる。 • • • • 血中アルブミン濃度とADLは正の相関を示す 血中アルブミン濃度は免疫力、褥創とも関連 血中アルブミン濃度が低い場合、冠動脈硬化症の発症の相対危険度は2.5倍高くなる。 血中アルブミン濃度が高いほうが、余命が長い。 血液中アルブミン濃度;栄養状態の指標 ADL:日常生活の活動のレベル • • 血中(LDL+VLDL)濃度はADLと正の相関を示す。 血中(LDL+VLDL)濃度が低いと冠動脈疾患死は15%低いが、がん死は43%、自殺(うつ 病との関係)は76%も高いという報告がある。 悪玉コレステロール:LDL +VLDL 脂肪は食べ物をおいしくする働きがあることから、 一律に動物性脂肪の摂取を減らすことは問題 疾病(動脈硬化症、高血圧症、糖尿病など)に合わせる 高齢期に栄養状態が悪くなるのは? *食物の獲得が困難となる・・・・・・ 運動機能の低下による買い物・調理・後かたづけが困難となる *食物摂取が困難となる(制限される)・・・・・ 咀嚼機能の低下(残存歯数の減少、義歯の不具合、咀嚼筋力の低下) 嚥下機能の低下(唾液量の減少(60歳以上で20歳代の13%) 薬の副作用によるドライマウス 味覚の変化(味蕾細胞の減少) 運動機能の低下(箸をつかう、ふたをあけるなど) *消化機能の低下・・・・・唾液アミラーゼなどの消化酵素量の減少 消化管の運動の低下 *食欲の低下・・・・・ 薬の常用による食欲そのものの低下 食べる意欲(作る意欲)の低下 活動量の低下 おいしさに関わる要因 部屋のしつらえ 部屋の飾り物 テーブルクロス 70% (basic color) 照明 視覚 味覚 五感 87% テーブルウェア 25% 嗅覚 (sub-color) 触覚 halo effect 聴覚 (後光効果) 料理 5% (accent color) According to Mr. Junichi Nomura 高齢者の視覚とおいしさ *口に入れた食品が何であるか識別ができない食べ物より 識別できる食べ 物の方が味を識別できる。 食材の切り方、調理方法、盛り付け方の工夫、 声かけ、安全性への配慮 *慣れ親しんだ食品の種類が多いほど味を識別できる能力 が高い。 個人の食習慣、嗜好の重視 *食卓の環境整備・・・・食べる意欲の喚起 雰囲気 食べる気分を盛り立てる工夫 咀嚼機能について *咀嚼機能はADLと正の相関を示す。 栄養状態との関係 *咀嚼機能が高い方が主観的幸福度が高い。 また人間関係が充実している。 栄養状態が良い・・ADLが高い・・QOLが高い *咀嚼機能が高い方が消化器疾患の罹患率が低く、 健康状態の自己評価も高い 高齢期の口腔ケアの意義 (清潔の維持・歯科疾患の予防・歯や口の機能を高めるリハビリテーション) • 残存歯の数より義歯が適合していることが重要 • ケアにより(歯周病・虫歯)口腔細菌数が減少し、肺炎 の発生を抑制する。 (耳掻き1杯の歯垢には約1億個もの細菌がいる。) 米山武義:月刊ケアマネジメント10(2000) 食をデザインするということは? デザイン:意匠、設計、計画、構想、着想 意匠 心 音 斧 函 = ? 食べる人のニーズ・状況 包丁 料理 高齢者は特に、いろいろな面で個人差が大きい。 <食>は病んでいるか 揺らぐ生存の条件 おとな(要介護者)が食事を与えられる際に、・・・自分 がfeedされているのか否かが最大の関心事になるからで ある。・・・「ひとりのひと」としてのじぶんの存在が そこで認められているということが判然としないことに は、存在がもたないからである。・・・ここで「ひと」 というのは「だれ」としてのひとの個別的な存在のこと である。だれか特定のひとの意識の宛て先になっている ような、代わりのきかない特異性におけるひとのことで ある。 給食という、個人の嗜好を勘定に入れない食 事は、「吟味」という、対象に向かうひとの根源的な志向 性を否定しているという意味で、それがどんなに凝った 料理として供されても、「不味い」ものである。そこで は、「わたし」は、複数のひとりとして匿名のまま存在 するしかないからである。 鷲田清一氏(阪大文教授) 歯は口を変え、口は顔を変え、 顔の表情は人生を変える。 口は、体と心の健康の入り口(食習慣、人間関係) であり、 社会への入り口(言葉、審美)でもある。 参考文献 *池邊一典、佐蔦英則、難波秀和、小野高裕、山本誠、安井栄、喜多誠一、吉備政二、岩瀬勝也、清水裕子、 沖山誠司、波多賢二、由利京子、上原美華、出羽治、野首孝祠、1999、自立している高齢者の口腔と全身の 健康、老年歯学、14、p.131 *大谷貴美子、杉山美穂、中北理映、南出隆久、饗庭照美、康薔薇、松井元子、山田朋美、恵比須繁之、2002、 高齢者のQOLに果たす食生活の役割−居住形態とADLの違いから見て−、日本食生活学会誌、12、p.306 *金子康子、溝川信子、1997、老人病院入院患者の口腔内状況とADLの関係、老年歯学、12、p.94 *熊谷修、2001、高齢者の食と栄養に関する介入研究とエビデンス、渡邊孟、武田英二、奥田拓道編、高齢者の 食と栄養管理、建帛社、p85 *佐藤眞一、1996、“生きがい”その評価の測定のポイント、生活教育、43(6)、p.28 *柴田博、2001、サクセスフルエイジングへの食と栄養、渡邊孟、武田英二、奥田拓道編、高齢者の食と栄養管理、 建帛社、p63 *高城孝助、2002、高齢社会の食ビジネスのグランドデザイン、荒井綜一、茂木信太郎、川端晶子、山野井昭雄編、 フードデザイン21、サイエンスフォーラム、p.98 *寺岡佳代、柴田博、渡辺修一郎、熊谷修、品田加世子、浅香次夫、尾崎文子、岡田昭五郎、1994、高齢者の咀嚼 能力と身体活動および生活機能との関連性について、口腔衛生学会雑誌、44、p.653 *野村順一、2001、色の秘密、文春ネスコ、p.151 *早野三郎、1995、眼の健やかな老いのために、日本化学会編、健やかに老いる、p.85 *星猛、2000、健康長寿および健康老死達成の基本的考え方、日本国際生命科学協会編、長寿と食生活、建帛社、 p.10 *三浦宏子、荒井由美子、三浦邦久、1999、厚生の指標、46巻、p.19 *Miura H., Araki Y., Umenai T.,1997、Chewing acitivity and activities of daily living in the elderly, Journal of Oral Rehabilitation, 24, p.457 *鷲田清一、2003、食は病んでいるか、揺らぐ生存の条件、ウェッジ、p.29