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LDL-C
医学系研究科 医療 LDL-コレステロール測定法とその問題点 016 病態情報解析医学 教授 清島 満 e-mail: [email protected] 1)LDL-コレステロール(LDL-C)とは 私たちの血液は凝固してから遠心分離すると、血球成分と血清とよばれる液体成分とに分けられます。この血清中には様々な蛋白や 脂質を運ぶリポ蛋白が含まれています。LDL(低比重リポ蛋白)はそのリポ蛋白のひとつで、他にカイロミクロン、VLDL、HDLがあり、それ ぞれ特有のアポ蛋白とコレステロール、リン脂質、中性脂肪から成る球状粒子です。図1は高脂血症(脂質異常症)の血清の外観です。 特に中性脂肪が多いと血清は濁ってきます(図1)。このLDLのなかに含まれているコレステロールがLDL-Cであり、動脈硬化症を惹起さ せる、いわゆる悪玉コレステロールといわれています。このLDL-Cは超遠心法と呼ばれる方法で分画するのが正確な測定法ですが、時 間がかかるのと高額な機器が必要であることから、化学反応(酵素反応)によってLDLに含まれるコレステロールを測定する方法が10年 ほど前に日本で開発されました。現在の特定健康診査(メタボ健診)にもこの方法(直接法)で測定したLDL-Cが使われています。 図1 高脂血症の表現型分類 型 I IIa IIb III IV 増加する リポ蛋白 カイロミクロン LDL VLDL IDL β-VLDL VLDL 220 以上 220 未満 220 以上 V カイロミクロン VLDL TC (mg/dl) 220 未満 220 以上 220 以上 TG (mg/dl) 500 以上 150 未満 150-500 150 以上 150-1000 500 以上 透明 軽度混濁 軽度混濁 混濁 クリーム層 混濁層 血 清 の 外 観 クリーム層 透明層 時にクリーム層 図2はリポ蛋白の分画法です。超遠心法が最も基本的な方法で、各リポ蛋白の比重や粒子サイズを示しています。 図3は血清コレステロールのリポ蛋白プロファイルですが、健常者ではVLDL、LDL、HDLの3つのピークがはっきりと分離されています (黄色)。これに対して中性脂肪の高いサンプルではVLDLとLDLが十分に分離されていません(白色)。 2)LDL-C 直接法について LDL-C 直接法はLDLに含まれているコレステロールを超遠心などをせずに、血清に試薬を入れて酵素法にて測定するものです。試薬 には酵素のほか特殊な界面活性剤などが含まれており、LDLとその他のリポ蛋白との分離を可能にしています。 試薬1:LDL以外のリポ 蛋白を界面活性剤1で 可溶化し、これらに含 まれているコレステ ロールを酵素反応系で 先に消去させます。次 いでLDLを界面活性剤 2で可溶化し、コレステ ロールを発色させて定 量します(図4)。 試薬2:方法1と異な り、LDL以外のリポ蛋 白の可溶化を阻害す る特殊な糖化合物と 界面活性剤を血漿に 加え、LDLのみをコレ ステロール測定の対 象とする(図5)。 3)問題点と対応 どちらの方法も図3の健常人のようなプロファイルの場合はLDL-Cはほぼ同じ値が得られ、また超遠心法の値とも近似しています。し かし、LDLと明確な区別できないないIDL (図6の赤矢印)やLp(a)、アポE-rich HDL、LP-X (表1)とも反応し、これらに含まれるコレステロー ルを一部取り込んで測定しており、しかもその取り込み程度がこれら2つの方法で異なっています。 図6 試薬1 試薬2 対照 108 106 LDL-C (mg/dl) 1 2 3 120 99 169 180 167 154 4 79 89 対照 67 中性脂肪 (mg/dl) 1 2 3 4 370 221 468 595 (野津ら 臨床病理 2009) 表1 異常リポ蛋白の影響(%) IDL Lp(a) アポE-rich HDL LP-X 試薬1 31.2 44.5 7.6 51.0 試薬2 52.4 74.3 17.8 0 (Seishima et al, Clin Chem 2000) 国内の計8種類の試薬を対象に日米共同検証が2010年に行われました。その結果、中性脂肪の高いサンプルについては各試薬間 のLDL-C値にかなりのバラツキが認められ、問題ありと結論付けられました(Clin Chem 2010)。 原因は上述したように各試薬の異常リポ 蛋白に対する反応性が異なっていることにあります。現在国内では標準化に向けて新たに検証が行われていますが、この問題を短期 間で解決するのは非常に難しいと考えられます。そこで、当面はLDL-C=総コレステロールーHDL-Cー中性脂肪x0.2(フリードワルドの式) でLDL-Cを求めることを日本動脈硬化学会では推奨しています。しかしこの式は中性脂肪が400mg/dl以上の血清サンプルでは適用で きないので、その場合はnon-HDL-C (総コレステロールーHDL-C)が動脈硬化危険因子の指標として代用できるとしています。