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東洋紡 ニュースレター

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東洋紡 ニュースレター
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第25号
2013年2月15日発行
東洋紡
ニュースレター
遺伝子検査について
はじめに
東洋紡ニュースレターでは、今まで、特に臨床化学検査の項目を中心に紹介してきました。
今回からは、遺伝子検査についての話題を紹介します。
1980年代 Kary B.MullisらによりPolymerase Chain Reaction(PCR)法での遺伝子増幅法が
考え出されました。これにより、分子生物分野が大きく発展しました。PCRによって、短時間に
わずかな生体試料からでも、指数関数的に標的遺伝子を増幅することが可能になりました。遺
伝子検査の分野でも、特に培養に時間のかかる微生物やウイルスなどの感染症の分野で実
用化が進みました。特に大学病院や基幹病院では、遺伝子検査の適用範囲が、感染症項目
から、オーダーメイド医療へと、広がりを見せ始めています。
遺伝子検査測定原理
体外診断薬として、認められている遺伝子検査試薬が多く発売されています。現在、発売さ
れている遺伝子検査試薬の測定原理の主なものを図1にまとめました。
測定原理として、「核酸増幅法」と「核酸増幅を利用しない方法」に大別できます。「核酸増幅
法」は、生体試料中の標的遺伝子を、酵素反応を用いて、核酸増幅し、各種検出方法へ結び
付ける方法です。
「核酸増幅を利用しない方法」では、検出対象を培養で増幅したり、対象を顕微鏡で検出した
り、検出時に感度を増幅するなど、精度を高める工夫がされています。測定原理は主な製造
販売者(表1)のウェブサイトにも詳細に紹介されています。
○核酸増幅法
主な製造販売業者
PCR法
Polymerase Chain Reaction
ロシュ、東洋紡
TMA法
Transcription-Mediated Amplification
富士レビオ
LAMP法
Loop-Mediated Isothermal Amplification
栄研化学
TRC法
Transcription-Reverse Transcription Concerted Reaction
東ソー
SDA法
Strand Displacement Amplification
ベクトン・ディッキンソン
○核酸増幅を利用しない方法
FISH法
Fluorescence in situ hybridization
アボット、常光
ハイブリッドキャプチャー法
Hybrid Capture
キアゲン
インベーダー法
Invader
積水メディカル
表1 遺伝子検査法
東洋紡
ニュースレター
核酸増幅法について
対象となる遺伝子を酵素反応で増幅することによって、ごく少量の生体試料から病原菌など
を同定することも可能になりました。核酸増幅法に関して、体外診断薬に適用されている原理
について紹介します。
1.PCR法 (Polymerase Chain Reaction)
二本鎖 標的DNA
熱変性 97℃
2本鎖DNAを1本鎖に
プライマー1
アニーリング 60℃
1本鎖DNAにプライマー
が相補的に結合する。
温度変化を繰
り返すことで、
このサイクル
が繰り返され、
標的DNAが増
幅される。
プライマー2
DNA ポリメラーゼ
伸張 63℃ DNA
ポリメラーゼがDNA鎖
を合成する。
DNA ポリメラーゼ
図2 PCR法の原理
QProbe法によるDNA検出
図3 QProbe法によるDNA検出
PCR法は、特定の標的遺伝子を増幅する方法です。標的遺伝子の両端に2つのプライマーを
用意して、二本鎖DNAを熱変性させ、一本鎖DNAにします。その後温度を下げてプライマーをア
ニーリングさせます。そのプライマーからDNAポリメラーゼの作用により、DNAが合成されます。
この温度変化を繰り返すことで指数関数的にDNAを増幅することが可能となります。(図2)
また、増幅されたDNAの検出には、多くの方法が開発されてます。標的遺伝子にアニーリング
することで、蛍光が消光するQProbeが実用化されています。(図3)QProbeは、再び温度上昇さ
せることで、蛍光を発するため、その変化率を測定することで、標的遺伝子を検出することがで
きます。
参考文献:JJCLA Vol36No3 401-403 2011
「全自動遺伝子解析装置GENECUBE」曽家 義博
2.TMA法(Transcription-Mediated Amplification)
TMA法は、2種類のプライマーとT7RNA ポリメラーゼと逆転写酵素を使用し、等温でRNA
を増幅する方法です。標的とするRNAにT7プロモータープライマーをハイブリダイズし、逆転写
酵素によりRNA-cDNAを合成します。逆転写酵素のもつRNaseH活性によりRNAは分解され、
一本鎖cDNAとなる。これにプライマー2が結合し逆転写酵素のDNAポリメラーゼ活性によりT7
プロモーター配列を持つ二本鎖DNAが合成されます。このDNAからRNAポリメラーゼの転写反
応によりRNAが合成されます。これを元に1時間で100万コピーまでRNAが増幅さます。
参考文献
遺伝子検査技術 克誠堂出版 より
第25号
3.LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)
標的DNA
図4 LAMP法 標的DNA とプローブ
ダンベル型DNA
図5 LAMP法 ダンベル型DNA
図6 LAMP法 伸張したDNA
LAMP法は、6カ所の領域を含む4種類のプライマーとDNAポリメラーゼを反応させることで可
能な遺伝子増幅方法です。標的遺伝子が存在する場合、増幅のために専用に設計されたプラ
イマーとDNAポリメラーゼの反応により図4の標的遺伝子から、図5のようにダンベル型の構造
のDNAが作られます。さらにこのダンベル型の構造にプライマーとDNAポリメラーゼが反応し
図6のように伸張しDNAが増幅されます。
参考文献
日本臨床微生物学雑誌 「新規遺伝子増幅法:LAMP法」池戸 正成 Vol.15No.1 2005 P1.-8
4.TRC法 (Transcription-Reverse Transcription Concerted Reaction)
TRC法は標的遺伝子を一定温度で増幅する方法です。アンチセンスプライマーと逆転写酵
素によりRNAからcDNAが合成され、さらにT7プロモータープライマー、逆転写酵素のDNAポリ
メラーゼ活性でプロモーター配列を持つ二本鎖DNAが合成されます。この二本鎖DNAが
T7RNAポリメラーゼによりRNAに転写・合成されます。合成されたRNAが再び逆転写酵素と反
応し、二本鎖DNAが作られるサイクルに入りRNAが増幅されます。
参考文献
遺伝子検査技術 克誠堂出版 より
5.SDA法 (Strand Displacement Amplification)
SDA法は、SDAプライマーとDNAポリメラーゼ、制限酵素を組み合わせて、標的遺伝子を増
幅させる方法です。チオデオキシシチジン三リン酸(dCsTP)の存在下で、標的遺伝子にSDAプ
ライマーが相補的に結合し、DNAポリメラーゼにより標的遺伝子が伸長されます。dCsTPを含
んで伸長された標的遺伝子は制限酵素で切断されず、一方のDNA鎖のみ切断される。その切
断部位から再びDNAポリメラーゼにより標的遺伝子が増幅されます。これを繰り返すことで標
的遺伝子が増幅されます。
核酸増幅を利用しない方法について
1.FISH法 (Fluorescence in situ hybridization)
図7 FISH法の測定原理
FISH は,蛍光in situ ハイブリダイゼーション
(fluorescence in situ hybridization)の頭文字をとっ
た略語です。特定の遺伝子座を、染色体や間期核
の上でじかに見る方法です。FISH はゲノムマッピン
グの技術であり、染色体異常症候群や腫瘍の染色
体異常を検査するために導入されています。
測定原理(図7):プローブは特定の遺伝子座の
DNA を酵素反応によって標識し、さらに免疫化学反
応で蛍光をつけています。DNAの2重鎖は高温に置
くと水素結合が解離して1本鎖になります(熱変性)。
1本鎖になった染色体や間期核の中のDNA と、プ
ローブDNA を混ぜておくと、検査対象のDNA に相
補的なプローブDNA が結合し雑種ができます。この
結合をハイブリダイゼーションと呼びます。これを蛍
光顕微鏡で観察すると、染色体や間期核の上で特
定の遺伝子座をじかに見ることができます。
参考文献
染色体遺伝子検査の分かりやすい説明ガイドラインⅡ:日本染色体遺伝子検査学会
http://www.jacga.jp/guide%20line/guide%20line2_0803.pdf
次号で、他の「核酸増幅を利用しない方法」を紹介する予定です。
主な学会開催予定(2013年2月~2013年3月)
学会名
開催日
開催場所
参考URL
2/2-3
横浜パシフィコ(神奈川A)
http://www.procomu.jp/jscm2013/
生物試料分析科学会年次学術集会(第23回)2/10-11
新梅田研修センター(大阪)
http://www.congre.co.jp/abs23/
日本痛風・核酸代謝学会総会(第46回)
2/14-15
京王プラザホテル(東京)
http://www.tukaku.jp/
日本細菌学会総会(第86回)
3/18-20
幕張メッセ(千葉)
http://www.aeplan.co.jp/jsb86/
日本消化器病学会学術総会(第99回)
3/21-23
城山観光ホテル他(鹿児島)
http://www2.convention.co.jp/99jsge/
日本結核病学会総会(第88回)
3/28-29
幕張メッセ国際会議場(千葉)
http://jst88.umin.jp/
2013年2月
日本臨床微生物学会総会(第24回)
2013年3月
*開催日等は変更される場合があります。参加される際は必ずご確認ください。
*「The Medical & Test Journal」より抜粋
東洋紡株式会社
診断システム事業部
本社
大阪市北区堂島浜2-2-8 東洋紡ビル 〒530-8230
TEL: 06-6348-3335
URL: http://www.toyobo.co.jp/seihin/dsg/
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