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KiK-net強震記録を用いた統一的なサイト増幅特性評価法の提案
KiK-net 強震記録を用いた統一的なサイト増幅特性評価法の提案 Proposal on evaluation method of seismic site amplification based on KiK-net strong motion records 土木工学専攻 18 号 佐藤 克晴 Katsuharu SATO 1 はじめに 地震被害に大きな影響を与える要因として,地震規 の,合計 3 地震 46 観測点でのデータである 1).また, 同じ観測点で得られた各地震の余震記録も用いた. 模・震源距離・サイト特性などが挙げられる. そのうち, スペクトル比の計算は,まず加速度波形の基線補正を サイト特性は基盤から地表までの地盤の地震動増幅特 行い,地震計の設置誤差が10 度以上の観測点では方向 性を指す.一般に,基盤については工学的基盤と地震基 修正を行う.そして,そこから得られた加速度データを 盤の 2 つに分けて考えられているが, 特に工学的基盤か 用いて解析対象区間を決定し,地表と地中での FFT に ら上部の地盤特性が地震被害に大きな影響を与えるこ よるフーリエスペクトルを算出する 2).フーリエスペク とが知られており,サイト特性をハザードマップや構造 トルはそのままでは地震波の特徴を把握しにくいため, 物の耐震設計へ反映させることは,防災対策上有効な手 バンド幅0.3HzのParzen Windowをかけて平滑化を行 段となる.また,S 波速度が Vs = 3000m/s 程度とされ う.そして,地表でのスペクトルを地中でのスペクトル る地震基盤から地表までの増幅特性については未解明 で割ることによりスペクトル比を計算する. な点が残されており,特にわが国の大都市部に分布する 大深度地盤の増幅特性を考える上で重要である. 2.2 理論伝達関数の算出 現在,独立行政法人防災科学技術研究所の基盤強震観 地盤の主要動は,一次元波動方程式を基本とし基盤 測網(KiK-net)により全国各地で発生した地震が観測さ から入射する水平せん断波(SH 波)が鉛直方向に伝播 れ,数多くの地表と地中での強震・弱震記録が公開され するという単純な現象で説明できることを前提として ている.本研究ではそれらの記録のうち 2003∼2005 いる.各観測点が図-1 のように複数の水平層から成り 年に発生した3 つの被害地震についての本震・余震の加 立つと仮定し,各層についての層厚(H )・密度(ρ)・S 速度記録を用い,地表と地中の間でのスペクトル比 波速度(Vs )・減衰定数(D)をパラメータとして与え,理 (地表/地中)を計算し,地盤の震動増幅特性におよぼす 論伝達関数を導く.理論伝達関数は基盤加速度での上 地層構造や地盤物性の非線形性の影響などを調べた.特 昇波と下降波を考慮した複合波(2As/(Ab+Bb))と,上 に,スペクトル比のピーク値と S 波速度比(基盤/表層) 昇波のみを考慮した入射波(2As/Ab)の 2 通りを導く との関係を詳細に検討した.さらに観測記録のスペクト ことができる.このとき複合波の理論伝達関数につい ル比と,地層構造から一次元重複反射理論により導いた ては観測スペクトル比同様, バンド幅0.3Hz のParzen 理論伝達関数を比較し,両者の対応したピーク値が一致 Window を用いて平滑化を行っている. するための地盤の等価減衰定数を計算した.そして,そ 層数・層厚・Vs は KiK-net の地盤柱状図による値, の等価減衰定数を用いて基盤入射波に対する地表の増 減衰定数は非粘性減衰を仮定し振動数に依存せず全て 幅率をS 波速度比から簡便に評価する方法を検討した. 表-1 地層モデルにおける各層の密度の設定値 2 解析方法 2.1 スペクトル比の算出 本研究で解析対象としたのは,2005 年福岡県西方沖 の地震と2004年新潟県中越地震で本震の地表最大加速 度が100gal以上を観測した各々11観測点と15観測点, 2003 年十勝沖地震で200gal 以上を観測した20 観測点 岩 種 区 分 (※ Vs : [m /s]) 砂 粘土 礫・砂礫 岩 盤 (500<Vs <700) 岩 盤 (700<Vs <1000) 岩 盤 (1000<Vs <1500) 岩 盤 (1500<Vs ) 密 度 [t/m 3 ] 1.8 1.6 2.0∼ 2.1 2.2∼ 2.3 2.3∼ 2.4 2.5 2.6 の層で 2.5%とした.各層の密度は柱状図の土質・岩種 3 区分を参考にして表-1 に示す値とした. 3.1 観測スペクトル比による増幅特性 解析結果 図-2 は十勝沖地震におけるスペクトル比のピーク値 2.3 表層の決め方 とVs 比の関係を示したグラフである.このグラフから 各観測点の地盤は,図-1 に示すように基盤の上に複 数の層が 1 次元成層構造をなしていると考える. そのよ Vs 比の増加に伴ってスペクトル比のピーク値もピー ク次数に関わらず増加する右上がりの傾向を読み取る うな地盤の SH 波による震動増幅特性は,基盤と地表層 ことができる.また,余震の増幅率が本震に対して明ら との間の Vs 比に大きく依存することが示されている 3). かに大きく,少数の例外を除いてVs 比の増加に伴い本 基盤は層厚が大きく Vs の代表値を求め易い地中地震計 震と余震の最大ピーク値の差が大きくなる傾向がある. が設置されている層と仮定しているが,地表層は厚さ これは地盤物性の非線形性の影響がVs 比の大きい地 数 m 以下と薄いものが多く,その Vs を表層の代表値 盤ほど現れやすいためと考えられる. として採用してよいか疑問がある.そこで本研究では, それに対し図-3 は,通常行われているようにスペク 以前よりスペクトル比のピークを生み出す表層は複数 トル比の 1 次ピークのみに着目して各観測点での表層 の層からでも成り得るとものとし,その平均 Vs (Vs ) を決定し,柱状図からVs と H を求めた.このように 1 を表層の S 波速度の代表値としてきた 4).ここに,次式 次ピーク振動数のみで決定した表層のVs 比を用いると, に示すようにKiK-net の地盤柱状図に基づき,1/4 波長 スペクトル比のピーク値はVs 比に対してやはり右上が 則により求めた 1 次固有振動数( f )からVs 比を計算し, りの傾向を示すものの,ばらつきの大きい結果となる. 基盤の Vs をVs で割ることによりVs 比を算出する. , f =1/4∑(Hi /Vsi ) , H = ∑ Hi Vs = 4 Hf 地震でも同様に見られた.したがって,本研究で我々が (1) i i ( H i :各層の層厚 ,Vsi :各層の S 波速度) 地表地震計 H 2 ,V s2 As 用いた同一観測点においてもピーク次数毎に異なる範 囲を表層として扱う考え方の方がばつきも生じにくく, 全ピークを評価できるので有用性が高いと考えられる. B s= A s ・ ・ ・ H ,Vs 十 勝 沖 地 震 (2 0 0 3 ) 60 表層 ・ ・ ・ H i , Vs i H n −1 , Vs n −1 Amplification (Spectrum Ratio) H 1 , V s1 以上のような傾向は福岡県西方沖の地震,新潟県中越 本 余 本 余 50 震 震 震 震 (1 次 (1 次 (1 次 (1 次 ピ ピ ピ ピ ー ー ー ー ク値 ク値 ク値 ク値 ) ) 以降) 以降) 40 30 20 10 地中地震計 0 Vs n Ab Bb 0 1 層とする.したがって,複数の顕著なピークが認められ る場合,同一観測点においても異なるピーク振動数に対 して複数の異なる表層が定義されることになる. Amplification (Spectrum Ratio) 一致度が高い境界層までをピーク振動数に対応した表 9 10 十 勝 沖 地 震 (2 0 0 3 ) 60 に基づく複数の層からなる表層の f の計算値を比較し, 8 (ピーク次数毎に異なる表層を定義した場合) 本 余 本 余 各観測点での表層は,スペクトル比や理論伝達関数の ピーク値での振動数を読み取る.次に,その値と式(1) 3 4 5 6 7 V s R a t io ( B a s e / S u r f a c e ) 図-2 スペクトル比のピーク値とVs 比の関係 図-1 KiK-net 観測点の地層モデルの概念 グラフから,明瞭にピークが確認できるものについて各 2 50 震 震 震 震 (1 次 (1 次 (1 次 (1 次 ピ ピ ピ ピ ー ー ー ー ク値 ク値 ク値 ク値 ) ) 以降) 以降) 40 30 20 10 0 0 1 2 3 4 5 6 7 V s R a t io ( B a s e / S u r f a c e ) 8 9 10 図-3 スペクトル比のピーク値とVs 比の関係 (1 次ピークのみで表層を定義した場合) 3.2 理論伝達関数による増幅特性 し,観測スペクトル比に一致するような理論伝達関数 図-4 は地盤の減衰定数を一律 2.5%と仮定した場合 のピーク次数毎の等価減衰定数を検討した.観測記録 の,3 地震で解析対象とした観測点の地層構造から計 は基盤で上昇波と下降波の合わさった波を記録してい 算した複合波(2As/(Ab+Bb))の理論伝達関数のピーク るため,それに対応した複合波(2As/(Ab+Bb))の理論 値とVs 比の関係を示したグラフである.このグラフ 伝達関数と比較した. から,ばらつきは見られるもののピーク次数毎に右上 図-6 は例として十勝沖地震で解析対象とした浜中 がりの傾向が読み取れる.また,ピーク次数が低いほ という観測点における,観測スペクトル比と理論伝達 ど増幅率が大きくなる傾向が明らかである. 関数(D =2.5%)を示している. このような比較から振動 次に,図-5 は同じく 3 地震の観測点についての入射 数の一致度が良好なピークに限り,理論伝達関数のピ 波(2As/Ab)の理論伝達関数のピーク値とVs 比の関係 ーク値Q1 を観測スペクトル比のピーク値Q 2 に一致す を示したグラフである.地盤の減衰定数は複合波同様, るように,一律 2.5%と仮定した地盤の減衰定数を補正 全ての層で 2.5%と仮定している.このグラフからも, する.理論伝達関数のピーク増幅率は減衰定数にほぼ 複合波ほど明瞭ではないがピーク次数毎に右上がりの 反比例するため,補正後の等価減衰定数は次式の値で 傾向があり,低次ピークほど増幅率が大きくなる傾向 設定したことになる. が確認できる.すなわち,地盤の震動増幅率は基盤と 表層との間の Vs 比と明らかな相関関係があることが D = ここでも確認できる 3). Q1 × 2 .5 Q2 [% ] (2) スペクトル比のピーク値はEW 方向とNS 方向で多少 3.3 等価減衰定数を用いた地震基盤からの増幅特性 図-2 からわかるように観測スペクトル比のピーク 異なるため,等価減衰定数は 2 方向について求めその 平均値を用いている. 値とVs 比の関係ではピーク次数による差異は見られ 図-7 は3地震から導いた等価減衰定数と理論伝達関 ない.これは,観測波は振動数などの影響によりピー 数のピーク振動数の関係を示したものである.このグ ク次数によって減衰定数が異なるためであると考えら ラフからばらつきはあるが全体的に右下がりの傾向が れる.そこで観測スペクトル比と理論伝達関数を比較 現れている.ここに算定した等価減衰定数は地盤の震 理 論 伝 達 関 数 ・ 複 合 波 ( D = 2 .5 % ) 45 35 30 Amplification (Transfer Function) Amplification (2As/(Ab+Bb)) 40 浜 中 (K S R H 1 0 ) 60 理論伝達関数<複合波> 平 滑 化 0 .3 [ H z ] , D = 2 .5 % 1次 ピ ー ク 値 2次 ピ ー ク 値 3次 ピ ー ク 値 4次 ピ ー ク 値 5次 ピ ー ク 値 以 降 25 20 15 10 理 論 伝 達 関 数 (複 合 波 ) 理 論 伝 達 関 数 (入 射 波 ) ス ペ ク ト ル 比 (e w ) ス ペ ク ト ル 比 (n s ) 50 40 30 20 10 5 0 0 0 2 4 6 8 10 V s R a t io ( B a s e / S u r f a c e ) 12 14 0 図-4 複合波(2As/(Ab+Bb))とVs 比の関係 8 10 12 F re q u e n c y [H z ] 14 16 1次 2次 3次 4次 5次 18 Average Damping Ratio [%] Amplification (2As/Ab) 20 6 18 20 振 動 数 と 減 衰 定 数 の 関 係 (複 合 波 ) 20 理論伝達関数 < 入 射 波 D = 2 .5 % > 1次 ピ ー ク 値 2次 ピ ー ク 値 3次 ピ ー ク 値 4次 ピ ー ク 値 5次 ピ ー ク 値 25 4 図-6 スペクトル比と理論伝達関数の比較 理 論 伝 達 関 数 ・ 入 射 波 ( D = 2 .5 % ) 30 2 15 10 5 16 14 ピ ピ ピ ピ ピ ー ー ー ー ー ク ク ク ク ク以 降 12 10 8 6 4 2 0 0 5 10 15 20 V s R a t io ( B a s e / S u r f a c e ) 図-5 入射波(2As/Ab)とVs 比の関係 25 0 0 2 4 6 8 F re q u e n c y [H z ] 10 図-7 等価減衰定数と振動数の関係 12 30 あり,震動増幅率に与える振動数の影響が明瞭に現れ 25 ていると言える. このようにして設定し直した等価減衰定数を用いて, 各地点の地盤モデルにより入射波(2As/Ab) の理論伝 Amplification (2As/Ab) 動増幅率から地層全体の平均値として算出したもので 理 論 伝 達 関 数 ・ 入 射 波 増 幅 率 (減 衰 変 更 後 ) 1次 2次 3次 4次 ピー ピー ピー ピー ク値 ク値 ク値 ク値 20 15 10 達関数を計算する.計算する入射波の理論伝達関数は 5 図-6 で示すようなグラフで複合波と入射波を比較し, 0 0 5 10 15 V s R a t io ( B a s e / S u r f a c e ) ピーク振動数の一致度が良好なピークのみを対象とし 基盤から入射した地震動に対する地表での最大増幅率 に示す結果とは異なり入射波の理論伝達関数のピーク 1次 2次 3次 4次 45 40 Amplification (2As/Ab) このグラフから,全ての層で D =2.5%と仮定した図-5 理 論 伝 達 関 数 ・入 射 波 地 震 基 盤 か ら の 増 幅 率 50 を表していることになる. 入射波のピーク値とVs 比の関係を示したものである. 25 20 15 10 5 0 0 図-8 の関係を導くにあたって用いた地震観測点は基 35 1次 2次 3次 4次 45 Amplification (2As/Ab) 40 40 ピ ピ ピ ピ ー ー ー ー ク値 ク値 ク値 ク値 35 30 25 20 15 10 5 の増加率と同様の増加率でピーク値も変更したもので 0 ある.このグラフより,Vs = 3000m/s の地震基盤から のVs 比と入射波の増幅率の間にほぼ線形の関係が成 10 15 20 25 30 V s R a t io ( B a s e = 3 0 0 0 / S u r f a c e ) 表 層 V sと 入 射 波 地 震 基 盤 か ら の 増 幅 率 50 盤の Vs が 400~3000m/s の幅広い値をとっている.し を全ての地点で 3000m/s と仮定し, それに伴ってVs 比 5 図-9 地震基盤からの入射波増幅率 の一致度も良い. れる.図-9 では図-8 と同じデータに基き,基盤での Vs ク値 ク値 ク値 ク値 30 線形関係が成り立つことがわかる.また,3 地震の間 盤からの増幅特性も同じ直線上で評価できると考えら ピー ピー ピー ピー 35 値とVs 比の間に,ピーク次数によらずほぼ一意的な たがって,一般的に Vs = 3000m/s 程度とされる地震基 25 図-8 入射波のピーク値とVs 比の関係(減衰変更後) ている.このようにして計算された理論伝達関数は, 図-8 は前述の等価減衰定数を用いて導いた3地震の 20 0 200 400 600 800 表 層 V s [m / s ] 1000 1200 図-10 地震基盤からの入射波増幅率と表層Vs の関係 り立つことがわかる.また,図-10 は表層のVs を横軸 にとって, 図-9と同じ増幅率の関係をプロットしている. 謝辞:本研究を進めるにあたり,(独)防災科学技術研究所 これにより表層Vs が小さくなるほど,地震基盤からの がウェブサイトで公開している地震観測データを使わせて 入射波の増幅率が急激に増幅する傾向が読み取れる. いただいた. 末筆ながらここに記して感謝の意を表します. 4 参考文献 結論 本研究では観測スペクトル比と理論伝達関数の比較 1) 金丸哲也:KiK-net 強震記録を用いた地震動増幅特性の から等価減衰定数を導き,その値を用い基盤入射波に対 解析結果資料集,中央大学理工学部2006 年度卒業論文 する地表層での増幅特性を検討した.その結果,基盤∼ 2) 大崎順彦:新・地震動スペクトル解析入門,鹿島出版 会,1994 表層間のVs 比と基盤∼地表間の入射波の増幅率の間 には明瞭な正の相関関係が成り立つことが明らかになっ た.ここで対象とした基盤の Vs は400~3000m/s の値を とるため,ここで見い出した相関は地震基盤を含む幅広 い条件に当てはまる統一的関係となることが期待できる. 3) Shima,E.:Seismic Microzoning map of Tokyo,Proc. Second Inter. Conf. on Microzonation,pp433-443 ,1978 4) 長尾晋悟:KiK-net を用いた表層地盤の地震応答特性, 中央大学理工学部 2004 年度修士論文