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酸化膜平坦化工程の CMP-APC の開発 東 京 工 業 大 学 機械物理工学

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酸化膜平坦化工程の CMP-APC の開発 東 京 工 業 大 学 機械物理工学
平成 23 年度博士論文
酸化膜平坦化工程の CMP-APC の開発
東 京 工 業 大 学
機械物理工学専攻
森澤
利浩
酸化膜平坦化工程の CMP-APC の開発
森澤
利浩
ii
目次
1
第1章 緒論
1.1 研究の背景と目的
1
1.2 従来の研究
12
1.3 本論文の構成
17
第 2 章 研磨レートウェハ面内分布変動に基づく CMP 工程の消耗品管理技術の開発
19
2.1 緒言
19
2.2 量産における CMP 装置状態モニタリングの問題点
20
2.3 消耗品使用時間に基づく研磨レート推定
23
2.4 消耗品交換量を推定するためのシミュレーション方法
27
2.5 消耗品使用時間の管理値設計
30
2.6 検証結果
38
2.7 結言
41
第 3 章 ウェハ面内での研磨後膜厚の管理値に対するマージンを最大化する CMP-APC
43
3.1 緒言
43
3.2 酸化膜の CMP の Run-to-Run 制御法
44
3.3 製品種類毎の研磨レートの違い
47
3.4 製品ウェハの計測位置のための研磨レート – 計測位置整合化 Site Coherence
51
3.5 研磨レートのウェハ面内分布の Run-to-Run での更新方法 – 分布シフト
Distribution Shift
56
3.6 マージン最大化研磨時間計算方法 – 上下限均等法 Even Control Limit
60
3.7 量産適用結果
63
3.7.1 従来の制御法との比較結果
63
2.7.2 マージン拡大効果を定量化する修正工程能力指数による評価結果
64
3.8 結言
66
第 4 章 非線形の研磨過程に対する CMP-APC
67
4.1 緒言
67
4.2 セリアスラリーを用いた酸化膜の研磨過程
68
4.3 研磨時間 3 次元モデルとパラメータ推定についての検討
71
4.3.1 セリアスラリーを用いた酸化膜の研磨過程のモデル化
71
4.3.2 研磨時間 3 次モデルのパラメータ推定方法の検討
72
i
4.4 研磨時間 3 次モデルのパラメータ推定方法
75
4.4.1 パラメータの算出方法
75
4.4.2 最適な項の組合せを選定するモデル決定法
75
4.4.3 研磨過程についての制約
75
4.5 モデルパラメータ推定結果
78
4.6 非線形の研磨過程に対する Run-to-Run 制御実現のための課題
83
4.6.1 研磨時間 3 次モデルの Run-to-Run 制御実現における問題点
83
4.6.2 最適パラメータ選定法の結果に基づく式表現についての検討
85
4.7 FTC モデル
86
4.7.1 FTC モデルの設計
86
4.7.2 FTC モデルのパラメータ
89
4.8 Run-to-Run 制御法における計算方式
94
4.8.1 研磨時間の算出
94
4.8.2 研磨レート推定
94
4.9 評価結果
95
4.9.1 Run-to-Run 制御シミュレーション結果
95
4.9.2 適用結果
99
4.10 結言
100
第 5 章 結論
101
参考文献
107
研究業績
111
謝辞
113
ii
記号表
本論文で使用する主な記号は以下の通りである.本論文中においても各章毎に,初出の
際に記号の意味を述べた.原則的に,斜体を変数といった数値に置き換わる変量,立体を
文字自体が意味を持つ文字記号,ボルド立体をベクトル,行列とする.フォントは Times
New Roman である.
0
切片(右下添え字)
0p/R
研磨時間補正切片(右下添え字)
B
ブランケットウェハ(左上添え字)
C
コスト
c
研磨時間 3 次モデル,及び FTC モデルのパラ
メータ
CL
管理値(右上添え字)
Cp
工程能力指数
Cpk
工程能力指数
H
研磨量
I pmargin
修正工程能力指数
I pkmargin
修正工程能力指数
K
消耗品使用時間-ブランケットウェハ研磨レー
ト関係モデルのパラメータ
K
RSM
消耗品使用時間-コスト応答曲面モデルのパラ
メータ
LCL
管理値の下限値
M
マージン
N
自然数
P
価格
p
研磨前膜厚(右下添え字)
p/R
研磨時間補正係数(右下添え字)
PES
パターン効果シフト
Px
製品ウェハ(左上添え字)
R
研磨レート(右下添え字)
r
半径
iii
rad#
半径についてのインデクス
RQC
研磨レート
s#
製品ウェハ計測位置についてのインデクス
sb#
研磨レート確認用ブランケットウェハ計測位
置についてのインデクス
t
研磨時間(右下添え字)
t
研磨時間
TGT
管理値の目標値
Tpre
研磨前膜厚
Tpost
研磨後膜厚
U
消耗品使用時間
UCL
管理値の上限値
WIWNU
ウェハ面内均一性
WIWB
ウェハ面内幅(ウェハ面内の最大値と最小値の
差)
x
X 軸の座標値
y
Y 軸の座標値
λ
EWMA コントローラのパラメータ
σ
標準偏差
iv
略語表
本論文で使用するアルファベットによる略語(Abbreviation)と略していない元の言葉(ス
ペルアウト,Spell out),および和訳は以下の通りである.本論文中においても,初出の際
に略語をスペルアウトした.
AIC
An Information Criterion , も し く は Akaike's
Information Criterion
赤池情報量基準
APC
Advanced Process Control
アドバンスドプロセスコントロール,先進的プロセス
制御
CIM
Computer Integrated Manufacturing
コンピュータ統合生産
CL
Control Limit
管理値
CMP
Chemical Mechanical Polishing
化学的機械的研磨
CoO
Cost of Ownership
保有コスト
CPU
Central Processing Unit
中央処理装置
CVD
Chemical Vapor Deposition
化学気相成長法
dEWMA
Double Exponentially-Weighted Moving Average
2 重指数重み付け移動平均
DRAM
Dynamic Random Access Memory
ダイナミックランダムアクセスメモリ,記憶保持動作
が必要な随時書き込み読み出し記憶装置
ECL
Even Control Limit
上下限均等
EES
Equipment Engineering System
装置エンジニアリングシステム
EPD
End Point Detection
終点検出
v
EWMA
Exponentially-Weighted Moving Average
指数重み付け移動平均
FB
Feed Back
フィードバック,帰還
FDC
Fault Detection and Classification
異常検知分類
FF
Feed Forward
フィードフォワード,正(順)方向送り
FTC
Fixed-coefficient with Time Correction
研磨時間補正項有り切片固定
HDP-CVD
High-Density-Plasma Chemical Vapor Deposition
高密度プラズマ化学気相成長法
HP
Half Pitch
ハーフピッチ,半ピッチ
ILD
Inter Layer Dielectric
層間絶縁膜
ITRS
International
Technology
Roadmap
for
Semiconductor
国際半導体技術ロードマップ
LCL
Lower Control Limit
管理値下限値
LSI
Large Scale Integrated circuit
大規模集積回路
MCU
Micro Controller Unit
マイコン,マイクロコントローラ
MPU
Micro Processing Unit
マイクロプロセッサ
MTTR
Mean Time To Repair
平均復旧時間
OAQC
Optimizing Adaptive Quality Controller
オーエーキューシー,条件最適化-状態適応品質コント
ローラ
ODOB
Output Disturbance Observer
オーディーオービー,出力外乱オブザーバ
OEE
Overall Equipment Effectiveness
総合設備効率
vi
PCC
Predictor Corrector Controller
プレディクターコレクターコントローラ,予測補正コ
ントローラ
PE-CVD
Plasma-enhanced Chemical Vapor Deposition
プラズマ化学気相成長法
PES
Pattern Effect Shift
パターン効果シフト
PVD
Physical Vapor Deposition
物理気相成長法
RSM
Response Surface Methodology
応答曲面法
SECS/GEM
SEMI Equipment Communication Standard/Generic
Model
for
Communication
and
Control
of
Manufacturing Equipment
SEMI(Semiconductor
Equipment
and
Material
International)定義の工場システム-半導体製造装置間
通信規格
SFE
Sheet Film Equivalent
平坦膜相当量
SoC
System on a Chip
多機能混載チップ
SPC
Statistical Process Control
統計的品質管理,統計的プロセス制御
STI
Shallow Trench Isolation
浅溝分離
TEG
Test Element Group
テストエレメントグループ,評価用素子グループ
TGT
Target
目標値
UCL
Upper Control Limit
管理値上限値
WIWB
Within-Wafer Band
(ウェハ)面内幅
WIWNU
Within-Wafer Non-Uniformity
(ウェハ)面内均一性
vii
第1章
緒論
1.1 研究の背景と目的
半導体集積回路 LSI(Large Scale Integrated circuit)チップは,計算機,通信機器から家
電,自動車,各種産業機器まで,現在ではあらゆる装置に組み込まれ,各種機能を提供す
る基幹部品であり,その売上高は 2010 年度に全世界で 30 兆円ほどと見積もられている 1).
LSI チップ単価は数百円から数万円であるので,平均で年数百億チップという莫大な数量
が 生 産 さ れ て い る と 見 積 も れ る . LSI チ ッ プ の 種 類 は , 計 算 機 の 中 心 で あ る
MPU/CPU(Micro Processing Unit/Central Processing Unit),DRAM(Dynamic Random
Access Memory) , フ ラ ッ シ ュ メ モ リ と い っ た メ モ リ , 各 種 機 器 の 制 御 に 使 わ れ る
MCU(Micro Controller Unit) , さ ら に は 特 定 の 電 器 製 品 に 合 わ せ て 設 計 さ れ る
SoC(System on a Chip;多機能をひとつのチップにまとめて実装した多機能混載チップ)に
主に分類され,特に MCU や SoC は対象とする機器に応じて膨大な種類の LSI チップが
生産されている.また各種機器の高性能化のために LSI チップの小型化,高集積化,高速
化が要求され,これら実現のために半導体素子の微細化が進んできた.2010 年では半導体
素子のゲート電極の最小線幅は 45nm が業界の実現要求水準となっている 2).この微細化
は ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductor) に よ っ て HP(Half
Pitch)として定義され,HP130nm, HP90nm, HP65nm, HP45nm, HP32nm といった目標
毎に,年々実現が進められてきた.世代が進むにつれ LSI 製造プロセスの実現難易度は高
くなる.
LSI チップの断面構造を図 1.1 に示す.LSI は半導体素子を配線で結線することで回路
を構成しており,半導体素子の層に配線層を積層することで回路を実現している.製造方
法は珪素(Si)基板ウェハ上に多数の LSI チップの回路を形成し,最終的に切り出す.切り
出した LSI チップをパッケージの端子と金(Au)などで結線してから封止することで各種電
器製品に実装できる部品となる.基盤ウェハ上に回路を形成していく工程をウェハプロセ
スと呼ぶ.ウェハプロセスでは,まず基板ウェハに対して,まずホトリソグラフィで基板
面上の領域をマスクして,イオンを注入して基板内に電位場を構成する.そしてゲートの
薄膜を成膜してプラズマエッチングによりゲート電極を形成し,さらにイオン注入を加え
ることで半導体素子を構成する.次にアルミ配線をゲートやソース,ドレインに結線する
ためのコンタクト層を形成する.以降アルミ(Al)配線層と配線層をタングステン(W)プラグ
で結線する配線層間の形成を繰り返す.配線層間の形成では,まず金属膜をスパッタで堆
積し,マスクをした後にエッチングにより配線を形成する.そして CVD(Chemical Vapor
Deposition)で酸化膜を堆積した後に CMP(Chemical Mechanical Polishing)で配線層間膜
を平坦化する.最後にホトリソグラフィとエッチングで配線上に開孔部を形成し,タング
ステンを埋め込んだ後にウェハ表面のタングステンを CMP により除去する.HP90nm 世
1
Global
wiring
layer
Global
wiring
layer
Intermediate
wiring
layer
Wiring
on layer
Plug
wiring
Intermediate
wiring
layer
Local
wiring
layer
Local
wiring
layer
Inter layer
dielectric
Gate
electrode
in transistor
Shallow
trench
isolation
Contact
layer
Silicone
substrate
Fig. 1.1 Cross-section of LSI
Dresser
Head
Pad
Slurry
Wafer
Fig. 1.2 CMP tool
代以降,配線抵抗を低減するために配線材料が銅(Cu)となったが 3),ダマシン(Damascene)
と呼ばれる,銅の埋め込みによる配線形成のために CMP が適用されている.CMP はウェ
ハプロセスにおいて,ひとつのキープロセスとなっている.
CMP は,ウェハ表面の薄膜を除去し,さらに研磨後の面を平坦とするための,砥粒を
含むスラリーとウェハ表面の化学的かつ機械的な作用を利用した研磨法であり,マイクロ
メートル以下の微細な凹凸形状を平坦化できる.CMP 装置の例を図 1.2 に示す.ヘッドで
2
ウェハを定盤(プラテン)に貼り付けられたパッド表面に押し付け,スラリーを流して,ヘ
ッドとパッドを相対運動させてウェハ表面をパッドでこすることで研磨を行う.パッドは
ポリウレタンといった珪素と比較してやわらかい素材であるため,パッド表面状態を整え
るために,ダイヤモンドを表面に付着してあるドレッサーと接触させた上で相対運動させ
てコンディショニングする.
アルミ配線形成,また配線層間の穴形成に必要となるレジスト形成時のホトリソグラフ
ィの焦点深度確保のために,配線層間膜を平坦化する手段として,1990 年代に酸化膜平坦
化 CMP が半導体製造プロセスに導入された.以降,タングステンプラグ形成のためにタ
ングステン膜を除去するタングステン除去 CMP,素子間の電流導通防止のための素子分
離構造である STI(Shallow Trench Isolation)構造形成のための STI 形成 CMP,そして銅
膜を除去することで銅配線を形成するための銅ダマシン CMP が半導体ウェハプロセスに
適用されている.図 1.3 にこれらの CMP アプリケーションの研磨前後の断面を示す.図
1.3(a)の酸化膜平坦化 CMP と図 1.3(c)の STI 形成 CMP はいずれも酸化膜の研磨である.
所定の研磨後膜厚となるように研磨時間を設定して研磨する.STI 工程 CMP については
高精度化を実現しやすくするため,窒化膜(Si4N3)と酸化膜(SiO2)との研磨速度比が大きく
なるように,スラリー材料が改良された 4).図 1.3(b)のタングステン膜除去 CMP,図 1.3(d)
銅ダマシン CMP は金属膜が無くなることをもって研磨を終了する.金属膜有無の研磨中
のモニタは透明膜の膜厚のモニタよりも容易であるため,終点検出装置を用いて高精度な
残膜を実現できる.しかし,金属膜や図 1.3(d)中のタンタル(Ta)バリアメタルを除去する
ためには,終点検出後に,指定した研磨時間だけさらに研磨を継続しなければならない.
いずれの CMP においても要求される膜厚の精度が厳しい場合,ウェハ毎の研磨ばらつき
発生に対して研磨時間をその分だけ補正しなければならない.
CMP はウェハプロセスにおいて,2010 年の時点で既に多様なアプリケーションを持つ
に至っているが,CMP 装置の市場は台数ベースで装置メーカ 2 社により占められており,
また装置構成は基本的に同じである.市場の大半を占める米国 Applied Materials 社は
1990 年代に MIRRA シリーズを,2000 年代にウェハ径φ 300mm に対応した Reflexion シ
リーズを販売している.残りの市場を占める荏原製作所は 1990 年代に EPO シリーズを販
売開始し,2000 年代に入り F ★REX シリーズの販売を開始し,現在に至っている.いず
れの装置も CMP の工具まわりの構成は図 1.2 に示したものと同様であり,小フットプリ
ント,高スループット実現のため,装置当り数台の定盤とヘッドを備える構成となってい
る.フットプリントはウェハの口径増加に伴い広くなることは否めないが,(2~4)2m2 程度
である.
アルミ配線が採用された LSI 製品ウェハの量産における CMP では,多種類の LSI 製品
の,配線層の各層の酸化膜を研磨する.この CMP は配線層間膜を平坦化するための酸化
膜平坦化 CMP である.本論文ではこれを単純に酸化膜の CMP と呼ぶ.図 1.3(a)に示し
たように,研磨前の酸化膜の表面には凹凸形状分布があるため,凹凸形状部を研磨してい
3
Polished thickness
Film-thickness
before CMP
Top of step
Bottom of step
SiO2(PE-CVD)
Target
SiO2(HDP-CVD)
Wiring
height
Al(Wiring)
SiO2(P-CVD)
W(Plug)
(a) Oxide-film CMP for inter-layer dielectric
Polished
thickness
Plug
height
W
Wiring
height
Al
SiO2
(b) Tungsten plug CMP
Polished thickness
SiO2
Film-thickness
before CMP
Si4N2
Si
Target
(c) Shallow trench isolation CMP
Polished
thickness
Ta(Barrier)
Wiring
height
Plug
height
Wiring
height
Cu(Wiring)
Cu(Plug)
Cu(Wiring)
Low-κ
dielectric
(d) Cupper damascene CMP
Fig. 1.3 Cross section of film-thickness before CMP
4
るときと平坦な酸化膜を研磨しているときの研磨レートは異なる.研磨レートとは単位時
間当たりの研磨除去された膜厚である.この研磨された膜厚を研磨量と言う.酸化膜表面
の凹凸形状は配線パターンに依存するため,製品種類と配線層に応じて研磨レートが異な
ることとなる.
また研磨時間を求めるためには,目標となる研磨量を研磨レートで割って求めることと
なる.目標となる研磨量とは,研磨前膜厚と目標の研磨後膜厚との差である.研磨前膜厚
は CMP 実施前の酸化膜堆積の結果で決まる.酸化膜は,HDP-CVD(High-Density-Plasma
CVD)により配線間に酸化膜を埋め込まれ,次に PE-CVD(Plasma-Enhanced CVD)によっ
て堆積される.この成膜処理にもウェハ毎にばらつきが発生するので,CMP 実施前に膜
厚を計測する.
図 1.4 に量産における酸化膜の CMP 工程の処理手順の例を示す.メンテナンス後,ブ
ランケットウェハを研磨して研磨レートを確認し,ロットより抜き取りで製品ウェハを先
行研磨(send-ahead work)する.ロットとは量産における処理の単位であり,例えば 25 枚
のウェハを 1 ロットとして処理する.先行研磨後に膜厚計測装置で研磨後膜厚を計測し,
誤差に応じて研磨時間を調整してロット内の各ウェハを連続的に研磨する.製品種類毎,
配線層毎の LSI 回路の配線パターンに応じて,ウェハ表面の凹凸形状分布が異なるので,
ロットの連続処理において製品種類,配線層が切り替わった時には先行研磨が必要だが,
同一製品種類ならば,研磨レート確認や製品先行作業はせずに,そのまま連続的に装置で
処理する.
Maintenance (Consumables’ exchange)
Removal rate check
Product-type A lot#1 send-ahead work
Product-type A lot#1 work
Product-type A lot#2 work
Product-type A lot#3 work
Removal rate check
Product-type B lot#1 send-ahead work
Product-type B lot#1 work
Removal rate check
Product-type C lot#1 send-ahead work
Product-type C lot#1 work
Product-type C lot#2 work
Fig. 1.4 An example of work sequence for CMP process
5
Head3
Head4
Removal rate
Head1
Head2
Time
series
drift
P.Type A
Change by
product
type(P.Type)
B
C
Sequence
Fig. 1.5 Time-series variation (trend) of removal rate
研磨後には LSI 品質管理のために膜厚を計測し,研磨結果の膜厚が所定の管理値
CL(Control Limit)に収まっているかを確認する.酸化膜の CMP において,膜厚の管理値
は目標値 TGT(target)上限値 UCL(Upper Control Limit)と下限値 LCL(Lower Control
Limit)で構成される.膜厚計測値が上限値に達していないか,下限値を超過した場合にウ
ェハは不良と判定される.CMP 装置で研磨が終了したロットから順次,膜厚計測装置で
研磨後膜厚を計測していく.
パッドは柔らかい素材のため消耗しやすく,ドレッサーでコンディショニングしても研
磨レートは研磨の度に変化してしまう.またドレッサーやヘッドも,パッド表面に押し付
けた状態で相対運動しているため,消耗していく.
処理毎の製品ウェハ研磨の研磨レートの経時的な変動の概要を図 1.5 に示す.ここで製
品ウェハ研磨レートとは,製品ウェハの研磨前後膜厚の差である研磨量を研磨時間で割っ
たものである.処理毎に研磨レートはばらつきながら低下し,また製品種類,配線層が切
り
替わると大きく製品ウェハ研磨レートが変わる.このような変動があるため,量産におい
ては研磨時間を着工の度に調整する必要がある.
ウェハプロセスはホトリソグラフィ,エッチング,CVD,CMP といった各種のプロセ
スを繰り返し適用することで成り立っている.変動があるのは CMP だけではない.その
ため,各種プロセスの変動を補償するように,ロットやウェハの処理の度に製造条件を調
整するアドバンスドプロセスコントロール APC(Advanced Process Control)の研究が,
1990 年頃から始まった
5,6).プロセスでの処理量の変動は,半導体製造装置,もしくはウ
ェハに何らかの変動があるために発生する.APC はゲート幅の寸法や膜厚などを計測し,
目標となる値との誤差に応じて製造条件を調整する方式である.この制御方法は,寸法や
膜厚などを制御量(出力),製造条件の各種項目を操作量(入力)として,処理毎に制御する方
6
法であるので,Run-to-Run 制御法と呼ばれる.1990 年代前半の研究の概説は文献 7) に示
される.制御理論においては状態量変化の微分モデルを利用しないサンプル値制御のデッ
ドビート制御(有限時間整定制御)に相当し,ばらつきと経時的な変動の 2 つを補償するた
めにフィードバック FB(Feed Back)コントローラを備える構成である.コントローラとし
ては EWMA(Exponentially-Weighted Moving Average)コントローラの適用が,やはり
1990 年代前半に考案された.コントローラのために設定しなければならないパラメータが
ひとつで良く,簡便なため,2010 年現在でも広く普及している.
APC 技術は,制御量と操作量の関係をモデル化し,制御量が目標値となるように制御を
行うための技術である.このモデルは実験や生産における実値を用いて決定する.モデル
を決定するために,物理学的,化学的な現象を解明することは,モデルの式表現の検討に
有益であっても,必須ではない.もちろん現象解明により加工結果の精度向上を図ること
は重要である.一方で APC 技術としては,装置性能やウェハ処理結果にばらつきが入り,
この原因が物理的,化学的に厳密に明確となっていない実際の生産において,決定したモ
デル式を用いて制御した結果で,出力の実値が要求精度の達成すること,これに貢献する
ことが重要である.そのために実値を用いて,主に統計解析を活用してモデルを決定する.
この技術の最大の利点は,特別な材料や装置の開発を,もしくは設備導入をしなくても,
実際の生産で通常実施している計測と処理条件設定を行うことで製品品質を向上できる点
にある.本研究は,この実値を用いて加工結果の精度を向上するアプローチをとる.本論
文では,2000 年代初頭において量産適用が進んだ酸化膜 CMP 工程を対象とし,研磨時間
を調整して目標の研磨後膜厚を得るための方法について論じる.
CMP の APC の研究事例については,1990 年代前半ではプロセスそのものが量産に向
けて開発中であることもあり,1996 年になって装置システムの試作結果について報告が出
た 7).以降,処理毎の研磨レート変動を予測するアルゴリズムが提案された 8).そして CMP
の研磨過程を表現する CMP プロセスモデルに,LSI デバイス品種依存のパラメータが導
入され 9),多品種量産に展開されてきた 10~12).多様な顧客と多種の製品ラインナップを持
ち,また製品ライフサイクルの短いマイコン・SoC 製品を製造する半導体工場において,
酸化膜 CMP 工程の APC は量産スループット向上,膜厚不良の削減に大きく寄与してきた.
酸化膜の CMP 工程において,研磨レートの経時変動や LSI デバイス品種差に対応して,
Run-to-Run 制御法で研磨時間を調整する方法は,研磨量を研磨レートと研磨時間によっ
て,代数的な式に表現できることに基づいている.この式があれば,研磨レートが変化し
ても目標とする研磨量となるように研磨時間を計算できるからである.研磨の経過に対し
て研磨量は増加するので,研磨時間に対する研磨量の関係を定式化すればよい.この関係
を研磨過程モデル(プロセスモデル)としてモデル化する.図 1.6 に横軸を研磨時間,縦軸
を研磨量としたときの製品ウェハの研磨過程の例を示す.実線が製品ウェハの研磨過程,
破線がブランケットウェハの研磨過程である.一点鎖線はブランケットウェハの研磨過程
と同じ傾きの線である.表面が平坦なウェハを研磨するときには研磨の進み,すなわち研
7
Polished thickness H
Concavo-convex
surface
Flat
surface
Product
Blanket (RQC)
PES
RQC (slope)
Polishing time t
Fig. 1.6 Polished thicknesses with polishing time
磨レートは一定である.製品ウェハでは研磨初期にはウェハ表面に凹凸があるため,平坦
な表面の研磨よりも研磨の進みが速い.しかし表面の凹凸が平坦化されれば,研磨レート
はブランケットウェハと同様に一定となる.初期の研磨の進みを製品ウェハに固有の表面
の凹凸パターンの影響として,ブランケットウェハの研磨過程をオフセットしてやれば,
製品のプロセスモデルが得られる.オフセットを PES(Pattern Effect Shift)としてパラメ
ータにする.この関係は次のように表現できる.
B
H = BTpre − BTpost = BRQC × t
Px
(1.1)
H = Px Tpre − Px Tpost = BRQC × t + Px PES
(1.2)
ここで H は研磨量,T は膜厚,RQC は研磨レート,t は研磨時間である.左添え字の B はブ
ランケットウェハ,Px は製品ウェハを意味する.右下添え字の pre は研磨前,post は研磨
後を意味する.PES は製品ウェハ表面の凹凸に起因するものであるので,製品種類毎に決
まるが,さらには図 1.1 に示したように配線層毎にも回路構成が異なるので,製品種類と
配線層に応じて定まるパラメータである.
以上が研磨レートの経時変動,LSI デバイス品種差を要因とする研磨量のばらつきを制
御するためのモデルであるが,他にも CMP のばらつきの要因は存在する.CMP の対象物
は多数の LSI チップが形成されるウェハである.CMP 装置では,ウェハはヘッドで保持
されて回転し,珪素や酸化珪素と比べて柔軟なパッドに押し付けられている.そのためウ
ェハ面内で研磨レートが分布を持つ.図 1.7 にブランケットウェハを研磨した際の,半径
に対する研磨レートの 4 例を示す.ブランケットウェハの膜厚計測では,ウェハ面内任意
の位置を計測できるため,図 1.8 に示すように同一周上の各位置を計測して,半径に対す
る研磨レートを求めることができる.図 1.7 に示す様に,研磨レートはウェハ内周で低く,
外周に向かって上昇し,最外周で低下するという傾向になるが,このウェハ面内分布は
8
Sample1
Sample2
Sample3
Sample4
RQC
Radius
Fig. 1.7 Removal-rate with radius
Measurement site
y
Blanket
wafer
x
Fig. 1.8 Measurement sites on blanket wafer
CMP を行う毎に異なる.この変化はヘッド,パッド,ドレッサーの消耗品の組合せや経
時変動によって発生する.
この現象のため,製品ウェハ量産においては 2 つの問題に取り組む必要がある.ひとつ
は面内分布が大きくなることを防止すること,もうひとつは面内分布を反映した上で製品
ウェハの研磨時間を計算することである.面内分布の増大に対する量産における対応とし
ては,製品量産中のいつに消耗品を交換すれば,良好な研磨レート面内分布を維持しつつ
も生産性を維持できるか,という問題となる.このためには消耗品の使用に対する研磨レ
ートの,特に面内分布での経時変動に基づいて,最適な消耗品の使用時間を決定しなけれ
ばならない.
製品ウェハの研磨時間を決定するためには,製品ウェハの各計測位置におけるばらつき
9
Measurement site y
Chip
layout
y
x
(a) Product type A
x
(b) Product type B
Fig. 1.9 Measurement sites on product wafers
を評価しなければならない.研磨レートウェハ面内分布はブランケットウェハ,製品ウェ
ハのいずれにおいても存在するので,製品ウェハの計測位置に応じて異なる影響を与える.
図 1.9 に製品計測位置の例を示す.LSI チップ内において,膜厚計測位置は TEG(Test
Element Group)のある部位に限られる.また LSI チップのサイズは品種によって異なる
ため,完全に同じ計測位置を設定することはできない.更に品種により,例えば外周で歩
留りが低いなら外周で多くの位置を計測する,といったように計測の目的が異なれば,計
測位置も異なってくる.研磨レートの大きい位置を計測した製品ならば,他の製品の研磨
レートを参照して研磨時間を計算すると,研磨時間は必要以上に大きくなる.また多くの
計測位置での研磨レートが大きいならば,研磨レートの小さい特定の 1 点で研磨量が不足
することとなる.すなわち研磨時間が不適切となり,ばらつきの要因となる.したがって,
製品ウェハ毎の計測位置の違いを反映した Run-to-Run 制御法が必要である.
面内分布に関する問題の他に,さらに検討が必要な問題がある.式(1.2)で表現した製品
ウェハの研磨過程は研磨時間に関し線形である.研磨レートが分かっていれば,所望の研
磨量を得るための研磨時間の算出は容易であり,また研磨の結果から研磨レートを算出す
ることも容易である.また Run-to-Run 制御法の安定性についても公知である 7).しかし
研磨過程が研磨時間に関し十分に線形であるかどうかは,微細化が常に進んでいく LSI の
製造に対して想定できない.従来は十分に線形で近似できたとしても,許容されるばらつ
き範囲が小さくなれば,近似が適正では無くなる.CMP 技術としては研磨過程の安定化
を図ることが量産のための大きな課題である.一方で非線形となる研磨過程に対してプロ
セスモデルに基づく Run-to-Run 制御法を開発することは,新規の技術開発の期間やコス
ト,量産における生産量の変化への対応,旧来設備の有効活用といった観点で生産性向上
に関して価値がある.
そこで本研究では,CMP 工程における製品量産精度を向上するために,以下の 3 つに
10
ついて取り組んだ.
(1) 研磨レートのウェハ面内分布の均一性悪化を防止するための消耗品管理値の設計方法
の開発
(2) 研磨レートのウェハ面内分布を反映した CMP 工程の Run-to-Run 制御法の開発
(3) 非線形の研磨過程となる CMP のプロセスモデルのモデリング方法と Run-to-Run 制
御法の開発.
非線形の研磨過程となる CMP としてはセリアスラリーを用いた CMP を対象として,
製品ウェハの実際の研磨結果を用いたプロセスモデルのモデリングに取り組んだ.
本研究は 2000 年代の初めから半ばにかけて,LSI 製品ウェハ生産工場の CMP 工程を
対象に推進された.LSI 製品は HP350nm から HP130nm,ウェハ径はφ 200mm,φ 300mm
である.
11
1.2 従来の研究
APC 技術に関し,開発初期の動向,研磨レート経時変動への対応,製品量産への対応,
ウェハ面内分布への対応について項目別に示す.また消耗品の管理技術は生産管理分野,
生産システム分野中の一領域であり,一般には APC 技術とは異なる分野であるため,異
なる項目で示す.最後に,従来の研究に対する本研究の位置付けを述べる.
(1) APC 技術開発の始まりと CMP 工程への適用
APC の初期の技術開発については文献
13,14) にまとめられている.文献 14) によれば
Run-to-Run 制御技術はプロセスモデリングと,オンラインプロセスモデルチューニング
と条件調整との 2 ステップで構成されるとしており,この構成に基づく研究成果は,例え
ば文献
15) な ど
1991 年 以 降 の 発 表 と な っ て い る . APC 以 前 は 統 計 的 品 質 管 理
SPC(Statistical Process Control)技術により,製造工程の計測(測定,検査)結果が管理値
を逸脱したか,などをオンラインで判定して,プロセス,装置の不具合などを管理してい
た.この管理方法に対し,製造条件と計測結果との関係を代数式で定義し,検査結果に応
じて製造条件を調整する方法として,Run-to-Run 制御法が Sachs らにより提案された.
またばらつきを除去しつつも経時変動を捉えるため,EWMA コントローラが導入された.
Run-to-Run 制御技術は当初コントローラ性能の向上を狙って研究が推進された.まず,
EWMA の拡張である double EWMA(dEWMA)と PCC(Predictor Corrector Control)16)が
提案された.なお,EWMA はサンプル値制御における 1 次遅れ系の FB 制御,double
EWMA,および PCC は 2 次遅れ系の FB 制御に相当する.
コントローラとして逐次最小二乗法を利用する OAQC(Optimizing Adaptive Quality
Controller)が Castillo らにより提案された
17).OAQC
では操作量の算出に制約付き二次
最適化を利用しており,操作量が非線形となる多項式に対応した Run-to-Run 制御が可能
となる.OAQC の提案は 1998 年であり,計算技法自体わかり易いが,実生産への適用事
例は知られていない.2 つの理由が考えられる.ひとつは FB コントローラが逐次最小二
乗法であり,パラメータについての線形のプロセスモデル式を対象として,パラメータを
更新する方法となっているためと考えられる.状態量の FB は,例えば研磨レートといっ
たプロセス,装置の性能を表す変量に対して行いたいのであるが,モデル式のパラメータ
を更新するので,パラメータとその変量との関係を明らかにしないことには,実生産での
プロセスの管理には役に立たないこととなる.もうひとつとしては,操作量の算出が制約
付き二次最適化である点にある.プロセスモデル中の操作量が 1 次ならば二次最適化でも
1 次の式を解くことと同じとなるが,高次となると制御安定性を保証することが困難とな
る.制約条件を設定することも生産においては負担になると考えられる.
特定のプロセスに限定せずに汎用的な枠組みで Run-to-Run 制御を行うシステムは
Moyne らにより開発された 18).このシステムは当時開発中であった CMP に,Boning ら
により適用された
7,19).本文献ではブランケットウェハを研磨しており,また調整する製
12
造条件は研磨時間ではなく,回転速度,押し付け圧力などの条件をスクリーニングして決
定したものであった.実生産における Run-to-Run 制御に対する提案にはならなかった.
(2) 研磨レート経時変動に対する研究
CMP 工程ではパッドが劣化することにより研磨レートが処理の毎に低下する.この経
時変動の効果を研磨レート推定に導入した age-based double EWMA と呼ばれる制御方法
が Chen らにより考案された
8,20,21).本制御法において研磨レートの推定に用いたコント
ローラは,double EWMA をベースとしてパッド使用時間の項を研磨レート推定の式に追
加したものである.本研磨レートの推定精度については EWMA,double EWMA よりも
ばらつきが小さいことが示されており,消耗品の使用時間が研磨レート変動に影響するこ
とが明確となった.パッド使用時間の項は差分の累積として表現されており,すなわちパ
ッド使用時間に関し 1 次の線形の研磨レート変動を意味する.よって経時変動が直線的な
プロセスに対してのみ利用できる.実際の生産ではパッドの使用時間に応じた研磨レート
推定について,運用上の工夫が必要となる.
各種コントローラによる研磨レート推定性能について文献 22)に報告がある.本文献では
EWMA,PCC,OAQC の比較評価をおこなっているが,いずれも推定精度に差は無いと
いう結論であった.精度を向上するためにはコントローラのパラメータを研磨レート変動
に応じて自動的に調整するセルフチューニングが有効であることが示された.なおセルフ
チューニング技術については各種方法の文献 5,23,24)があり,APC 技術の一分野となってい
る.セルフチューニングは精度向上に寄与すると考えられるが,一方,EWMA が 1 時遅
れ系,dEWMA や PCC が 2 次遅れ系の FB 制御でしかない点にも気を付けるべきである.
つまり,制御理論そのものや他分野での活用に倣って,FB コントローラ自体の高度化を
図ることが本質的な技術向上につながる.
(3) CMP 工程における製品ウェハ量産のための APC
CMP 工程における製品ウェハ表面の凹凸に起因したばらつき低減を狙った制御方法は
Patel らにより開発された 9).ばらつきはツール起因,製品起因,その他の 3 つの要因に
分類され,製品起因の部分については,凹凸部分の研磨量を平坦な膜の研磨量に換算する
ためのパラメータ SFE(Sheet Film Equivalent)により表現された.なお 1.1 節で示した PES
とは SFE=PxH-PxPES=BRQC×t の関係にある.制御系は,SFE を用いてブランケットウェハの
研磨レートを推定する制御ループと SFE を推定する制御ループの 2 段構成となっている.
SFE は量産において検証された 11).これらの発表は 2000 年頃のものであり,この後に CMP
の半導体ウェハプロセスのアプリケーションは拡大してきた.これらアプリケーションに
おいても製品ウェハ表面に凹凸があるが,ウェハ表面凹凸の取り扱いに関連したモデル化
の議論は進展が無い.
13
(4) CMP 工程におけるウェハ面内に関する APC
CMP 装置はヘッドを回転させることにより研磨を行う構成となっているため,研磨レ
ートのウェハ面内分布は同心円状となる.そこで半径方向の研磨レートの分布によりウェ
ハ面内の研磨レートを管理する手法が Khan らにより提案された 25).この分布は半径の各
位置のブランケットウェハの研磨レートを線分で結んだものである.また研磨後膜厚の半
径方向の分布に対して,反対の半径方向分布の傾向を持つエッチングプロセスにより研磨
後の膜をエッチングすることにより,最終的に面内を均一とする工程連携でのウェハ面内
均一化も提案されている.
量産における研磨後膜厚のウェハ面内均一化については文献 26)に報告がある.やはり半
径方向に対する研磨レート分布をモデル化したものであるが,半径位置を線分で結ぶので
はなく,直線として研磨レートが外周,もしくは中心で高くなるかをモニタするモデルで
ある.研磨前膜厚の半径方向の傾向に応じて CMP 装置を選択することで研磨後膜厚を均
一化する方法が提案された.
以上のように,ウェハ面内分布の APC における活用は,工程連携や装置選択に関する
ものである.ウェハ面内分布の観点で複数工程を同時に管理しなければならないため,品
質管理は煩雑となる.またその都度の装置の処理レートの,ウェハ面内分布の状態におい
ては,均一性を制御できない.実生産で適用しやすく,インパクトある提案が望まれる.
研磨レートのウェハ面内分布を機械的に直接調整する方法が文献 27)で提案された.CMP
装置は回転常盤を用いないベルト研磨タイプであり,ベルトを介してウェハ表面に空気に
より圧力を同心円上に加えることで面内均一性を向上させる方法である.面内各位置の研
磨レートと空圧との関係を,ニューラルネットワークを用いて定量化し,空圧を調整する.
ベルト研磨タイプの CMP 装置の量産適用については不明である.また米国 Applied
Materials 社,荏原製作所といった CMP 装置の代表的メーカは,回転定盤タイプの装置
を販売しており,量産の主流となっている.量産における研磨レートのウェハ面内分布の
Run-to-Run での調整技術については,公知ではない.
(5) 消耗品の管理技術
CMP を行うために必要なパッド,ドレッサーは各種のものが部品メーカにより開発さ
れており,またヘッドについても特にウェハ面内均一性を向上させるために装置メーカが
開発を進めてきた 28,29).ヘッドの一部はパッドと接触しているため,この部分は消耗して
いく.よってこの部分は部品として交換可能となっている.パッド,ドレッサー,ヘッド
の内,特にパッドは柔軟な素材で製作されているため消耗が早く,文献 20,21)にあるように
研磨レートの経時変動を引き起こすこととなる.この変動を安定化するために消耗品が開
発されてきた 30,31).しかし CMP において重要な消耗品のひとつであるパッドは珪素のウ
ェハと比較して非常に柔軟な素材でできているため,短期間で消耗することを免れない.
量産においては,もちろん部品の性能向上への期待は無くならないが,他の方法で消耗品
14
のコストとメンテナンスのコストの削減を図る必要がある.
従来,量産において,消耗品は信頼性理論 32)に基づいて管理されている.消耗品の実際
の寿命,もしくは消耗品交換時期を集計し,平均復旧時間 MTTR(Mean Time To Repair)
モデル,ワイブル分布モデルに当てはめることで,寿命の管理値を決定する.装置稼働率
と信頼性を向上させるために CIM(Computer Integrated Manufacturing)システムや
EES(Equipment Engineering System)におけるアプリケーションとして,この方法は採
用されている.MTTR を獲得するための市販システムを活用した装置管理システムが開発
された 33).SECS/GEM(SEMI Equipment Communication Standard/Generic Model for
Communication and Control of Manufacturing Equipment)データ通信規格により収集
された装置センサデータが,装置のモニタに活用される事例も示された
34) .APC
や
FDC(Fault Detection and Classification)のように,EES システムのプラグインモジュー
ル(選択的なシステムの構成要素)のひとつとして予防保全システムが実装された事例も示
された 35).これらの 3 つの方法は標準的な信頼性理論に基づいて,生産性をモニタするた
めに用いられる.CMP 工程においては消耗品が研磨結果の品質に影響を与えるのである
が,これらの方法は装置稼働率にのみに基づいた取り組みとなっていた.生産性とは,製
品ウェハの良品の,単位期間当たりの生産数量が多く,かつ生産コストが少ないことで決
まる.信頼性理論に囚われず,プロセスの精度,つまり工程の歩留りとコストとを反映し
た取組が重要である.
(6)本研究の位置付け
本研究は,まず項(5)に示した消耗品の管理技術に関し,CMP 後の製品ウェハ品質に影
響を与える研磨レートのウェハ面内分布に基づき,消耗品使用時間を定める方法の開発で
ある.研磨レートのウェハ面内分布と消耗品の交換との関係を明らかにし,研磨レートが
製品ウェハ処理に許容される範囲において消耗品の消費量を最小とするための消耗品交換
時間を定める方法である.
この研究は,技術的には,システム工学技術の内のシミュレーションと最適化,そして
多変量の統計解析(回帰分析)に基づいており,広く有用な技術を取り込んだ取り組みであ
る.この研究の価値は,多様な技術を適宜活用し,プロセスの精度と生産コストのトレー
ドオフを鑑みて,消耗品の使用量を最適化する提案を行っている点にある.
そして APC 技術においては,項(3)の製品ウェハ量産のための APC に関し,項(4)にお
いて議論されているウェハ面内分布を反映しての研磨レートと研磨時間の計算方法を提案
するものである.研磨後膜厚がウェハ面内で管理値の中央となるように研磨時間を算出す
ることで,研磨後膜厚の管理値内のマージンを多くとることができ,管理値逸脱を防止で
きる.
従来は面内分布をモデル化しても,それを用いて工程間で装置を組み合わせるなど制限
の多い運用しか提案されていなかった.本技術は実生産で,どの装置にも適用でき,さら
15
に本方法は CMP 工程に限定されない.ウェハ表面全体を一括処理するプロセスであるな
らば,ウェハ口径も限定されるものではない.このような実生産向きの提案である点に価
値がある.
さらに非線形の研磨過程となるセリアスラリーを用いた CMP の製品ウェハの CMP 量
産において,Run-to-Run 制御で用いるプロセスモデルを開発し,制御を実現するパラメ
ータを見出した点に特徴がある.特に,この際にスラリーの組成についての改良,改善は
行わず,さらには研磨中に流体とウェハ表面で起こっている化学的,機械的な現象解明と
いったコストと工数のかかるアプローチを取らず,生産でのデータを統計解析し,数値的
な制御設計により研磨後膜厚の高精度化を図るというアプローチを取った.これにより開
発費用の削減のみでなく,既存設備を使って円滑な生産継続を実現できる点に,生産上の
大きな価値がある.
なお,セリアスラリーは STI 工程 CMP のために開発が積極的にすすめられてきたが,
セリアスラリーを用いた STI 工程 CMP における Run-to-Run 制御法についても公知例は
ない.本研究はセリアスラリーを用いた CMP の Run-to-Run 制御法を提案していること
も特徴である.
16
1.3 本論文の構成
本論文の構成は以下の通りである.
第1章
緒論
第2章
研磨レートウェハ面内分布変動に基づく CMP 工程の消耗品管理技術の開発
酸化膜の CMP では消耗品の消耗につれて研磨レートのウェハ面内分布が不均一となっ
ていく.このウェハ面内均一性は研磨結果の膜厚の品質に影響を与える.しかし消耗品を
頻繁に交換すれば生産コストが増加することとなる.そこで,研磨レートウェハ面内分布
の不均一化の品質への影響を防止するための消耗品管理方法を提案する.特に消耗品交換
後の消耗品の累積使用時間に応じて研磨レート面内分布が変化することを回帰分析により
明らかにし,この経時変動に基づいて消耗品使用時間の限界を求めることができることを
示す.
まず現状の管理方法を示した上で,消耗品使用時間と研磨レートウェハ面内分布との関
係モデルを示す.そのモデルに基づいて Run-to-Run で CMP 装置の研磨レートウェハ面
内分布変動をシミュレーションすることで消耗品の消費量を求める方法を提案する.シミ
ュレーション結果を用い,消耗品交換のコストを最小化する消耗品使用時間の限界値を決
定する消耗品の使用時間管理値設計法を示し,実験評価した結果を示す.
第3章
ウェハ面内での研磨後膜厚の管理値に対するマージンを最大化する CMP-APC
ウェハ面内分布を反映した酸化膜の CMP のための Run-to-Run 制御法を提案し,生産
に適用した結果を示す.従来はウェハ面内の研磨後膜厚の平均値が管理値の目標値となる
ように量産では管理されていたが,この方法では研磨レートがウェハ面内で変化すると,
研磨後膜厚はウェハ面内最大値,もしくは最小値で管理値から逸脱する.そこでこのよう
な不具合発生を防止するための研磨レートウェハ面内分布モデル,Run-to-Run での研磨
レート更新,研磨時間算出法を提案する.特徴は管理値に対する研磨後膜厚のマージンを
最大化できる点にある.
まず Run-to-Run 制御法について説明し,制御に必要となる機能を明らかにする.また
マージンに関する課題を明らかにする.これらの結果より,まず半径方向のプロファイル
によるウェハ面内分布モデルを提案する.このモデルに基づき製品計測位置での研磨レー
トを求める方法を示す.そして多種類の製品ウェハを繰り返し研磨したときの,製品ウェ
ハの研磨結果のデータを用いて,Run-to-Run で研磨レートウェハ面内分布を計算する方
法を提案する.更に,研磨後膜厚の管理値に対するマージンを最大とする研磨時間の算出
方法を提案する.最後に,以上の提案を実際の生産に適用した結果を,マージン拡大効果
を定量化する指標の提案と共に示す.
17
第4章
非線形の研磨過程に対する CMP-APC
セリア(CeO2)スラリーを用いた酸化膜の CMP を対象とした,非線形の研磨過程の
Run-to-Run 制御のためのモデリングと,制御方法について示す.シリカスラリーの酸化
膜の CMP では研磨量は研磨時間に関し線形となるプロセスモデルで表現できるが,セリ
アスラリーの酸化膜の CMP では,その線形のプロセスモデルでは十分な研磨後膜厚の精
度が得られなかった.そのため,プロセスモデルの表現式を開発し,Run-to-Run 制御で
必要となるパラメータを決定する.11 個の項よりなるプロセスモデル表現から,研磨量推
定精度が管理値に対して十分良好となる項を取得する方法,シリカスラリーとの研磨過程
の差異に着目した統計的手法に基づくモデル表現定義,そして制御シミュレーションを活
用したモデルのパラメータの決定法に特徴がある.
はじめにセリアスラリーを用いた酸化膜の研磨過程を示す.そしてこの研磨過程を,研
磨時間に関し 3 次式とし,研磨前膜厚,研磨レートを積和で表現したモデルを提案する.
そしてこの多項式のパラメータを求める際の注意事項を明らかにし,データと制約条件に
基づき研磨量の推定精度が良好となる項を自動化に取得する自動化モデル決定法を提案す
る.次に Run-to-Run 制御におけるモデルの良否を評価した結果を示す.結果として自動
化モデル決定法により得られたモデルを参考にして,製品ウェハに起因する研磨の進みと,
研磨時間増加に伴う研磨の進みの特徴を反映した,研磨時間に関して 1 次式となるモデル
を提案する.統計解析技術に基づきモデルのパラメータの有意性を検証することによりパ
ラメータ推定方法を議論し,最終的にパラメータは制御シミュレーションで評価すること
により決定することを示す.最後に実際の生産に適用した結果を示す.
第5章
結論
本論文で得られた結果を要約して述べる.
18
第 2 章 研磨レートウェハ面内分布変動に基づく CMP 工程の消耗品
管理技術の開発
2.1 緒言
本章では研磨レートウェハ面内分布の不均一性の増大による,製品ウェハの品質悪化を
防止するための消耗品管理方法について検討する.対象とした CMP は酸化膜の CMP で
ある.
CMP 工程においては,メンテナンスに APC を有効に活用できる.なぜなら APC によ
ってモニタされる研磨レートは,特に柔軟で損耗しやすいパッドの劣化と関連しているか
らである.しかしパッドが唯一の消耗品ではない.パッド表面状態を調整するドレッサー,
また研磨ヘッドもパッドと接触しているため消耗する.3 つの消耗品とこれらに関連する
装置メンテナンスを管理するために,ウェハ面内の研磨レートの分布(これ以下では研磨レ
ートウェハ面内分布と呼ぶ)情報の活用を提案する.
2.2 節で,まず研磨レートモニタと消耗品管理方法に関する CMP 工程の現状について述
べる.2.3 節において,消耗品使用時間と研磨レートウェハ面内分布との関係を表現する
モデルを示す.このモデルに基づき,Run-to-Run での CMP 工程の処理のシミュレーシ
ョンを行うことで,研磨レートの経時変動に応じて消耗品の使用量を見積もることができ
ることを示す.2.4 節において消耗品の管理値設計方法を示す.本管理値設計方法は消耗
品使用量をシミュレーションして,応答曲面法 RSM(Response Surface Methodology)に
より最適な消耗品使用時間の管理値を求めるものである.
19
2.2 量産における CMP 装置状態モニタリングの問題点
CMP は研磨技術である.ウェハはヘッドにより保持され,ウレタンといった柔軟な材
料により構成されるパッドに押し付けられる.パッド表面にスラリーを流しながら,ヘッ
ドとパッドを回転させることでウェハ表面を研磨する.典型的な CMP 装置の構成を図 1.2
に示した.ドレッサーは,表面に微小なダイヤモンドが貼り付けられており,パッドの表
面をこすることでパッド表面状態を整える部品である.また図 2.1 のヘッド断面構造に示
すように,ウェハを取り囲むようにリテーナリングがヘッドに取り付けられており,リテ
ーナリングがパッドに押し付けられることによって,研磨レートの面内均一性
WIWNU(WithIn-Wafer Non-Uniformity)が調整される.つまり研磨中の装置の運動で,装
置の構成要素が相互に接触し,損耗が発生する消耗品は,パッド,ドレッサー,そしてリ
テーナリングとなる.CMP 装置には 2 つの研磨用の定盤が,また 4 つのヘッドが搭載さ
れており,4 つのヘッドで製品ロット内の各ウェハを保持し,2 つの定盤に順次移動する
ことで研磨を行っていく.つまりパッド,ドレッサーは 2 つ,リテーナリングは 4 つが用
いられる.
量産では 25 枚のウェハで構成される製品ロットが連続的に処理される.各ロットの研
磨後における膜厚が管理値内であることを確認するため,研磨後膜厚が計測される.一方
APC システムはこれら研磨後膜厚を用いて次のロット処理のための研磨レートを計算す
る.図 1.8(a)および(b)に示したように,製品種類毎のウェハ内の LSI チップの配置,およ
び計測目的のため,製品ウェハの計測位置は製品種類ごとに異なる.また計測装置のスル
ープット性能もあるため計測位置の数も制限される.そこでウェハ面内の研磨レートをモ
ニタするために,珪素(Si)基板に酸化膜(SiO2)を堆積しただけのブランケットウェハを研磨
し,研磨前後の膜厚を計測する.ブランケットウェハの典型的な計測位置の例は図 1.9 に
示した.ウェハ面内の研磨レート分布の特徴のため,計測位置は同心円上に配置される.
このブランケットウェハを用いた研磨レートのモニタリングは,一日 1,2 回程度の研磨
時間累積 10 時間毎,または研磨レートか研磨レートのウェハ面内均一性が管理値を逸脱
した時,もしくは消耗品が交換された時に実施される.モニタリングの結果に問題なけれ
ば製品ロットの処理が継続される.
Absorption mechanism
Wafer
Retainer-ring
Fig. 2.1 Cross-section of polishing head
20
Radius #1
Radius #2
Radius #3
Radius #4
Radius #5
Radius #6
Radius #7
Radius #8
Radius #9
Removal rate
Retainer-ring-replace
DresserPeriod replace
(a) Tool#1
Removal rate
Retainer-ring-replace
Dresserreplace
Period
(b) Tool#2
Fig. 2.2 Examples of time-series removal rate trends
メンテナンスにおいて,研磨レートとウェハ面内均一性を維持するために,早く劣化し
てしまうパッドは必ず交換される.ドレッサーはダイヤモンドが貼り付けられており,リ
テーナリングはステンレス製であるためパッドに比べて消耗しにくい.よってドレッサー
とリテーナリングの交換の期間はパッドよりも長くなる.
同心円上の研磨レートのウェハ面内分布は製品ウェハの研磨時間を算出するために,
APC でモニタされている.そして膜厚を制御するための CMP プロセスモデルのパラメー
タを計算するために,モニタ実施のイベント情報を利用している
8).モニタ実施のイベン
ト情報には各消耗品の累積使用時間が含まれている.APC を用いれば研磨レートのウェハ
面内分布の経時変動を観察できる.図 2.2 に経時変動の例を示す.横軸は期間,縦軸は研
磨レートである.各線はウェハ面内の半径各位置を表す.半径位置の番号は,ウェハ中央
から外周に向かって昇順である.横軸方向に沿って研磨レートがプロットされていない間
隔が,消耗品が交換される,メンテナンス実施イベントがある期間を表す.パッドは各メ
ンテナンスで交換され,リテーナリングとドレッサーは,図 2.2 の垂直な線で示したよう
に,数回のメンテナンスにおいて一度交換される.メンテナンスから次のメンテナンスま
での間には,研磨レートが低下した例が多い.リテーナリングとドレッサーの交換に関係
なく低下の傾向が見られるので,パッドの消耗によるものと考えられる.またドレッサー
が交換されると研磨レートはシフトする.リテーナリングを交換するとウェハ面内均一性
21
は向上する.リテーナリングが交換されるまでにウェハ面内均一性研磨レートの最大値と
最小値の範囲が拡大することもわかる.よってウェハ面内均一性を管理値範囲に維持する
ためにはリテーナリングを交換しなければならない.研磨レートのウェハ面内均一性とは
最大値と最小値の差の程度のことであるので,次式により算出する.
B
WIWNU =
max B RQC (rad # ) −min B RQC (rad # )
rad #
rad #
max B RQC (rad # ) + min B RQC (rad # )
rad #
(2.1)
rad #
ここで,rad# は半径についてのインデクスである.インデクス付きの max と min は,イ
ンデクス付けされた複数の値から,それぞれ最大値,最小値をとる演算である.RQC は研
磨レートである.左上添え字の B は装置モニタリングで用いられるブランケットウェハに
関連する変数であることを意味する.
研磨レートの経時変動の傾向は消耗品の使用に依存している.よって研磨レートと消耗
品使用時間との関係をモデル化できる.このモデルに基づけば,交換する消耗品がメンテ
ナンス毎で異なるという実際の消耗品の活用状況における,消耗品使用の管理基準を決め
ることができる.
消耗品交換の必要性は,酸化膜の CMP 工程では研磨レート,もしくは研磨レートのウ
ェハ面内均一性が管理値から逸脱するかを評価することにより決めなければならない.消
耗品の使用に対する研磨レートの経時変動を評価するためには,短い間隔でブランケット
ウェハの研磨レートをモニタすることが,最も信頼できる基本的な方法である.しかしこ
のためには多くの製品ではないウェハを使わなければならず,生産上の損失が大きくなる.
よって適正な管理値を設定することが重要であるが,常に一定値を適正な管理値とする
ことには問題がある.なぜなら,例えば線幅といった,製品の回路の形状がより微細とな
れば目標の製品ウェハにはより精度の良いウェハ面内分布が必要となるからである.製品
ウェハに応じて研磨レートのウェハ面内分布を保証するために極端に厳しい管理値を適用
してしまうと,消耗品の消費量は増加することになる.
実際の生産においては,ブランケットウェハを用いた研磨レートのモニタリングの頻度
を上げることは困難であり,また実験的に管理値を変更することも容易にはできない.そ
こでシミュレーションにより研磨レートを評価する方法が考えられる.消耗品の消費に関
してシミュレーション結果を信頼できるものとするには,消耗品の使用時間に従うウェハ
面内での研磨レート経時変動を,可能な限り研磨レート推定精度が高くなるように,モデル
化する必要がある.
22
2.3 消耗品使用時間に基づく研磨レート推定
図 2.2 に示した研磨レートの経時変動に対応した,消耗品の使用時間を図 2.3 に示す.
使用時間の進みはパッド,ドレッサー,リテーナリングによって異なる.これはウェハ 25
枚の 1 ロットを処理する際,パッドを貼り付ける研磨定盤は 2 つ,パッドに対応してドレ
ッサーも 2 つ,リテーナリングが取り付けられるヘッドは 4 つを用いるためである.
これらの消耗品使用の経時変動とウェハ面内の研磨レート経時変動とを共に観察した.
以下にモデリングで注意した項目を示す.
(1) 各消耗品の交換タイミングと研磨での利用の違いのため,消耗品の 3 つの使用時間は
独立の変数として取り扱われなければならない.
(2) モデルの係数の推定に利用できるサンプル数は,研磨レートモニタリングは一月あた
り 30 から 60 件であるため,あまり多くは無い.よってサンプルに含まれるばらつき
を取り除くためには,モデルの項数,もしくは係数の数は限られる.
(3) ウェハ面内均一性を評価するためには,研磨レートはウェハ面内の各半径位置につい
てモデル化する.研磨レートの経時変動は半径により異なるので,違いを評価するた
めにはモデルは簡潔でなければならない.
(4) 研磨レートの経時変動の傾向は非線形である.
さらに図 2.2 において,以下のような消耗品使用時間に対する研磨レート経時変動の特
徴が観察される.
(5) パッドの使用につれて研磨レートは減少する.
(6) リテーナリングの使用につれて研磨レートは上昇する.
上項目(1)-(3)より,次式で表現される単純線形モデルをモデル候補として考える.
B
RQC = K 0 + K retainer −ringU retainer −ring + K padU pad + K dresserU dresser
= K 0 + ∑ K iU i
(2.2)
i
ここで,U は使用時間であり,K は係数である.K0 は切片である.添え字の retainer-ring,
pad,dresser はそれぞれ対応する消耗品についての使用時間と係数であることを意味する.
上項目(4)-(6)より式(2.2)に非線形項を加える.最も単純な非線形項は 2 次の項となる.
しかし,各消耗品の劣化を意味する各消耗品の表面の状態は,各消耗品間の接触の状態に
より決まるため,モデルには交互作用を仮定する必要がある.そこで,次のような 2 次形
式で研磨レートと使用時間の関係をモデル化する.
RQC = K 0 + ∑ K iU i + ∑ K ijU iU j
i
(2.3)
i, j
インデクス i と j は各消耗品に対応する.
23
Use time (Hr)
150
Retainerring
Pad
Dresser
100
50
0
1
11
21
31
41
Period (times of monitoring)
(a) Tool #1
Use time (Hr)
150
Retainerring
Pad
Dresser
100
50
0
1
11
21
31
41
Period (times of monitoring)
(b) Tool #2
Fig. 2.3 Consumables’ use time along monitoring event
さらに消耗品交換後の初期の期間の研磨レート変動傾向をモデルに反映した.交換後の
初期において消耗品表面は速く劣化する.そこで分数項をモデルに加えた.
RQC = K 0 + ∑ K iU i + ∑ K ijU iU j + ∑
i
i, j
i
K iFRAC
1+Ui
(2.4)
モデルの各式の係数は推定される.各式において係数は線形であるので,最小二乗法に
より推定できる.図 2.2(a)に示した実績サンプルの消耗品使用時間と各半径位置の研磨レ
ートを用いて式(2.2),式(2.3),式(2.4)をモデルとして重回帰分析を行った.なお装置にヘ
ッドは 4 台搭載されるが,この推定ではヘッドは 1 つに限定している.モデルのパラメー
タの推定結果を表 2.1 に,また推定の精度に関し,相関係数 R2 と誤差標準偏差をそれぞれ
表 2.2(a)と(b)に示す.表は,行方向にモデルの式(2.2)から式(2.4)を並べ,列方向には各半
径位置と全半径位置の平均を並べている.表 2.1 中の係数の添え字 r,p,d はそれぞれリ
24
テーナリング,パッド,ドレッサーを意味する.また精度の確認のために,半径位置
Radius#1 における,研磨レートの推定値と実値との相関を図 2.4 に示す.図 2.4 中の破線
は,この線上で相関係数 R2 が 1 となることを示す補助線である.なお相関係数 R2 は 0 か
ら 1 の値をとり,1 に近いほどモデルの当てはまりが良いことを意味する.文献 30)によれ
ば研磨レートは 360 から 280nm/min へと 80nm/min 低下する.表 2.2(b)に示すように式
(2.4)による推定誤差の標準偏差は 7.49nm/min であるので,
推定誤差は 10%以下となった.
式(2.2),式(2.3)の結果と比較して高精度である.消耗品消費量を求めるシミュレーションで
利用するための,消耗品使用時間についての研磨レートのウェハ面内分布を推定するモデ
ルには,式(2.4)を採用することとする.
Table 2.1 Model parameter estimation results
Model
Expression
(2.2)
Expression
(2.3)
Expression
(2.4)
Coef.
K0
Kr
Kp
Kd
K0
Kr
Kp
Kd
K rr
K pp
K dd
K rp
K rd
K pd
K0
Kr
Kp
Kd
K rr
K pp
K dd
K rp
K rd
K pd
K FRACr
K FRACp
K FRACd
#1
508.79
0.22
-2.78
-0.46
503.03
0.13
-1.80
0.86
0.00
0.01
-0.01
-0.18
0.00
-0.01
449.09
1.02
2.67
0.27
0.00
0.01
0.00
-0.36
-0.02
-0.01
321.53
24.65
-7.57
#2
505.02
0.23
-3.43
-0.43
512.77
-0.19
-5.27
0.61
0.00
0.03
-0.01
-0.01
-0.01
-0.01
484.80
0.61
-4.61
0.09
0.00
0.03
-0.01
-0.01
0.00
0.00
235.59
2.93
-10.82
#3
501.97
0.15
-3.39
-0.41
509.33
-0.31
-5.58
0.79
0.00
0.04
-0.01
0.09
-0.06
-0.01
494.41
0.26
-7.06
1.08
0.00
0.04
-0.01
0.19
-0.08
-0.01
145.46
-11.24
3.75
#4
497.74
0.17
-3.18
-0.47
503.44
-0.15
-4.16
0.18
0.00
0.02
0.00
0.00
-0.01
-0.01
481.27
0.55
-4.81
0.21
0.00
0.01
0.00
0.06
-0.02
-0.01
193.73
-6.07
-0.76
25
Radius
#5
508.55
0.04
-2.59
-0.36
512.57
-0.29
-3.43
0.64
0.00
0.04
-0.01
-0.02
-0.06
-0.01
501.88
0.44
-5.56
0.39
0.00
0.03
-0.01
0.10
-0.05
-0.01
170.58
-13.73
-8.34
#6
519.10
0.11
-1.68
-0.37
525.50
-0.33
-2.14
0.41
0.00
0.03
-0.01
-0.01
-0.07
0.00
515.49
0.20
-2.90
-0.03
0.00
0.03
-0.01
0.04
-0.05
0.00
134.75
-4.62
-10.70
#7
526.76
0.40
-1.84
-0.51
552.16
-0.66
-3.64
-0.32
0.01
0.04
0.00
0.05
-0.04
0.01
547.30
0.10
-6.06
-1.04
0.00
0.02
0.00
0.17
0.00
0.01
167.70
-13.96
-18.77
#8
506.96
0.69
-2.57
-0.92
533.18
-0.54
-7.90
0.79
0.01
0.05
-0.01
0.24
-0.03
-0.01
511.52
0.28
-7.03
-0.45
0.00
0.03
-0.01
0.21
0.02
0.00
229.97
6.41
-25.75
#9
506.96
0.69
-2.57
-0.92
533.18
-0.54
-7.90
0.79
0.01
0.05
-0.01
0.24
-0.03
-0.01
511.52
0.28
-7.03
-0.45
0.00
0.03
-0.01
0.21
0.02
0.00
229.97
6.41
-25.75
Average
509.09
0.30
-2.67
-0.54
520.57
-0.32
-4.65
0.53
0.00
0.03
-0.01
0.05
-0.04
-0.01
499.70
0.41
-4.71
0.01
0.00
0.02
-0.01
0.07
-0.02
0.00
203.25
-1.02
-11.64
Table 2.2 Precision in estimated results
(a) Correlation coefficient
Model
#1
#2
#3
#4
Radius
#5
#6
#7
#8
#9
Average
Expression (2.2) 0.797 0.847 0.834 0.825 0.713 0.636 0.761 0.833 0.833
Expression (2.3) 0.856 0.878 0.866 0.839 0.762 0.714 0.830 0.872 0.872
Expression (2.4) 0.910 0.904 0.876 0.857 0.789 0.738 0.850 0.885 0.885
0.830
0.863
0.884
(b) Standard deviation (Unit: nm/min)
Model
#2
#3
#4
Radius
#5
9.08
7.77
6.23
8.42
7.59
6.79
8.15
7.38
7.13
8.47
8.15
7.74
9.00
8.32
7.89
Estimated Removal Rate
Expression (2.2)
Expression (2.3)
Expression (2.4)
#1
#6
#7
#8
#9
Average
9.13 11.35 14.72 14.72
8.27 9.76 13.04 13.04
7.97 9.21 12.38 12.38
Expression (2.2)
Expression (2.3)
Expression (2.4)
Actual Removal Rate
Fig. 2.4 Correlation between actual value and estimated value of removal rate
(Radius #1)
26
8.93
8.07
7.49
2.4 消耗品交換量を推定するためのシミュレーション方法
消耗品の管理値が適正であるか評価するため,製品ロットの連続処理において研磨レー
トがモニタされるという,実際の作業順序に従ってシミュレーションは進められる.よっ
てこのシミュレーションにおいては,研磨レートの変化を生成するために製品ロット処理
が繰り返される.研磨レートモニタリングにおいて,研磨レート,もしくは研磨レートの
ウェハ面内均一性が管理値を逸脱したら,消耗品が交換される.
シミュレーションのフローチャートを図 2.5 に示す.各ロット処理で,式(2.4)を用いて
ウェハ面内の研磨レートが算出される.算出の際,2.3 節で説明したモデルパラメータ推
定の際の誤差標準偏差σerror を反映したばらつきσerror×N(0,1)を研磨レートに加える.ここで
N(µ,σ2)は平均µ,分散σ 2 の正規乱数を意味する.消耗品の使用時間は,ロットの処理順序
に沿って,次回処理の累積研磨時間へと進められる.各消耗品の時間の進みを管理するた
めに,処理順のロット処理の累積研磨時間を基準時間として管理する.消耗品は装置 1 台
において利用される消耗品は 2.2 節で述べたように搭載されている数が異なる.そこで各
消耗品の使用時間は基準時間に対する,それぞれの累積使用時間の進みにより管理するこ
ととした.特に式(2.4)のパラメータはヘッドを限定して推定されているので,累積研磨時
間はヘッドの使用時間としている.研磨レート,もしくは研磨レートのウェハ面内均一性
が管理値を逸脱したら,必ずパッドは交換される.さらにパッド,ドレッサー,リテーナ
リングにはそれぞれ管理値が設定されており,各消耗品の累積使用時間が管理値を超えた
ら,該当する消耗品が交換される.消耗品使用時間の管理値とは上限値を意味する.
シミュレーション結果を図 2.6 のグラフに示す.グラフは横軸を基準時間,縦軸を研磨
レートに取っている.リテーナリングの使用時間の管理値は,研磨レートへの影響を把握
するために,図 2.6(a),(b),(c)で異なる値を設定している.ウェハ面内の各半径での研磨
レートは,図 2.2 での研磨レートと同じ色で描いている.図 2.6(b), (c)において累積研磨時
間が 100 時間を越えたあたりで半径位置 Radius#7, #8, #9 のウェハ外周側で,内周部より
も研磨レートが高く,内外周差が大きくなっていることがわかった.図 2.2 の研磨レート
の実値を見ても,グラフ中ほどの,左から 3 つ目の研磨レートをプロットしている区間で
同様の傾向があることも確認できる.この図 2.2 の実際の酸化膜の CMP 工程ではリテー
ナリングの使用時間の管理値は 120 時間である.また図 2.2 においてリテーナリングを交
換した後で内外周差が無くなっていることも確認できる.
このことは次のように解釈できる.図 2.5 のフローチャートにおいて,研磨レートモニ
タリングで NG となったならば,パッドは交換される.しかしリテーナリングの使用時間
が管理値を超えていないならば,リテーナリングは交換されない.この消耗品交換のメン
テナンス後,研磨を行っても,研磨レート内外周差はリテーナリングの消耗に起因してい
るために残ってしまう.しばらく期間が経過し,リテーナリングを交換した後では,研磨
レートの内外周差は解消する.
このような研磨レート内外周差を防止して,ウェハ面内均一性の観点で製品ウェハを良
27
好な状態に維持するためには,リテーナリング使用時間の管理値は短くされなければなら
ない.一方で他の消耗品の消費への影響もまた検証されるべきである.製品ウェハの高品
質は達成されなければならないが,消耗品を交換しすぎては無駄に製造コストがかかって
しまうことになる.各消耗品の使用時間の管理値は品質達成と製造コスト低減に基づき決
定されなければならない.そこで次節では,リテーナリング,パッド,ドレッサーの 3 つ
の使用時間の管理値を決定する手法について検討する.
Condition setting (control limits, model parameters)
Initialization of base time and consumables’ use time
Iteration; adding base time
Removal rate calculation for each radius within wafer
WIWNU calculation
Base time and consumables’ use time increment
Rate monitoring &
judgment with removal
rate and WIWNU
NG
OK
Pad use time
judgment
OK
NG
Pad replacement (Use time initialization)
Dresser use time
judgment
OK
Dresser replacement (Use time initialization)
Retainer-ring
use time judgment
OK
NG
NG
Retainer-ring replacement
(Use time initialization)
Fig. 2.5 A flowchart of consumables’ replacement simulation
28
Radius #4
Radius #5
Radius #6
Radius #7
Radius #8
Radius #9
100
150
Removal rate
Radius #1
Radius #2
Radius #3
0
50
200
Base time (Hr)
(a) Retainer-ring upper control limit 90Hr
Removal rate
Radius #7,#8,#9
0
50
100
150
200
Base time (Hr)
(b) Retainer-ring upper control limit 120Hr
Removal rate
Radius #7,#8,#9
0
50
100
150
Base time (Hr)
(c) Retainer-ring upper control limit 150Hr
Fig. 2.6 Removal rate trends of simulation results
29
200
2.5 消耗品使用時間の管理値設計
消耗品の管理値を変更すると,研磨レートの経時変動が変わってしまう.このため,研
磨量不足や過剰,または研磨後膜厚のウェハ面内均一性の悪化により製品の管理値逸脱の
不良が発生する.研磨の結果で,製品の品質は達成されていなければならい.その上で消
耗品の数を削減することで消耗品のコストを削減することが目的である.そこで消耗品使
用時間を調整することによりコストを最適化する手法を提案する.様々な条件で使用され
る消耗品のコストを計算するために,本手法では 2.4 節に記載したシミュレーションを利
用する.本シミュレーションでは研磨レートモニタリングで研磨レートと研磨レートのウ
ェハ面内均一性を判定しているので,研磨レートに関しての品質は保証される.
本手法は応答曲面法 RSM に基づいている.応答曲面法では,まず実験計画法 DOE に
よる直交計画に基づき応答曲面モデルの出力と入力のデータを取得する.そして応答曲面
モデルのパラメータを求め,出力変数を最小化する,最適な入力変数値を求める.
本手法においては,出力変数は使用した消耗品のコストである.このコストはシミュレ
ーション結果を集計して求める.入力変数は各消耗品の使用時間の管理値である.本手法
は以下の 3 ステップで構成される.
(1) 消耗品使用量を求めるために各管理値条件についてシミュレーションを実行する.
(2) 消耗品のコストを集計する.
(3) 応答曲面モデルを生成し,コストを最小化する最適管理値を見出す.
(1) 各管理値条件に対するシミュレーション
消耗品の管理値の設定は,現状の管理値を参照して決める.中心の水準を現状の管理値
と設定するため,設定の水準数は奇数とする.水準間の管理値の差は事前にシミュレーシ
ョンした結果により決める.例えば消耗品使用時間の標準偏差を水準間の差とする.シミ
ュレーション実行の回数は,水準数の消耗品数の乗数となる.例えば,水準数を 5 とし,
消耗品の数を 3 とすると,シミュレーションの実行回数は 53=125 となる.管理値条件以
外についての他の条件は,全シミュレーションで同一とする.
(2) 消耗品の消費コスト
シミュレーションの結果,消耗品の数を集計する.
コストは,消耗品の価格を参照し,次式で計算する.
C = ∑ N i Pi
i
= N pad Ppad + N dresser Pdresser + N retainer − ring Pretainer − ring
(2.5)
ここで C はコスト,N は消耗品の数,そして P は価格である.価格には交換のための人員
コストも含める.
30
(3) 応答曲面モデルと最適化
応答曲面モデルを次の 2 次式で定義する.
C = K 0RSM + ∑ K iRSMU iCL + ∑ K ijRSMU iCLU CL
j
i
(2.6)
i, j
ここで,出力変数はコスト C であり,入力変数は各消耗品使用時間の管理値 UCL である.
CL は管理値を意味する.KRSM は応答曲面モデルのパラメータである.式(2.6)においてイ
ンデクス i,j は各消耗品に対応する.1 をリテーナリング,2 をパッド,3 をドレッサーに
対応させる.右下添え字の 0 は切片を意味する.管理値は項(1)のシミュレーションで設定
した値であり,またコストは項(2)で求めた値である.
応答曲面モデルのパラメータは入力変数と出力変数の値を用いて最小二乗法により算出
する.
(
k RSM = U T U
)
−1
UT c
(2.7)
ここで c はコストの n 次のベクトル,kRSM は係数の(1+m+mC2)次のベクトル,U は管理値
の n×(1+m+mC2)行列である.ここで n はシミュレーション回数であり,m は入力変数の数
である.本手法では m は式(2.6)における消耗品の数 3 である.よって kRSM は次のような
RSM
ベクトルの構成とする.なお K ij
[
k RSM = K 0RSM
K1RSM
である.
= K RSM
ji
K 2RSM
K 3RSM
K11RSM
K 22RSM
K 33RSM
K12RSM
K 23RSM
(2.8)
消耗品のコストを最小化する最適管理値条件は次式で計算される.
u best = −K
RSM −1
tmp
k RSM
tmp
(2.9)
2
ここで Ktmp は m×m 行列,ktmp は m 次のベクトルである.
K RSM
tmp
 K11RSM

=


 sym.
[
RSM
k RSM
tmp = K1
K12RSM 2 L K1RSM
2
m

RSM
RSM
K 22
L K 2 m 2
O
M 
RSM 
K mm

K 2RSM L K mRSM
]
T
(2.10)
(2.11)
本手法では m=3 である.
本手法により最適管理値を求める.中心水準値は,リテーナリングは 90 時間,パッド
は 20 時間,ドレッサーは 40 時間とした.水準間の差については,それぞれ 15 時間,7
31
K 31RSM
]
T
時間,15 時間とした.これらを消耗品の管理値として設定し,シミュレーションによりコ
ストを求める.表 2.3 にシミュレーション結果を示す.
得られた結果より,式(2.7)から式(2.11)により消耗品使用時間の最適管理値を算出した.
リテーナリングの最適管理値は 86 時間,パッドでは 18 時間,ドレッサーでは 33 時間と
なった.これはリテーナリング,パッド,ドレッサーの水準組合せが 2,1,1∼2,3,1 の範囲
にありコストは 63M¥程度である.
従来のリテーナリングの使用時間の管理値は 120 時間,
すなわち水準 4 である.
表 2.3 において水準組合せ 4,1,1∼4,3,1 を見るとコストは 75M¥程
度であり,20%程度のコスト低減となっていることがわかった.
また本コスト計算の結果より,さらに最適管理値についての改善を検討することができ
る.水準組合せが 2,1,1∼2,3,1 でコストに対し最適となったが,表 2.3(c)にれよば,パッ
ドは水準 2,リテーナリングは水準 1 と固定であるが,ドレッサーについては水準 1∼4
であまりコスト低減に寄与していないことを見て取れる.ならばドレッサーの管理値をパ
ッドの管理値の倍数,リテーナリングの管理値の約数とすれば,作業項目の簡素化,合理
化を図ることができることがわかる.
32
Table 2.3 Results of simulations in cost
(a)
Level
Retainerring
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
Pad
0
1
2
3
4
0
1
2
3
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60
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60
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10
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10
10
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25
25
25
25
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40
40
40
40
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55
55
55
55
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70
70
70
70
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Pad
Dresser
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15.90
15.68
16.02
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16.02
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15.79
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15.68
15.57
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17.02
17.02
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17.14
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33.12
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13.02
13.02
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11.62
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9.59
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9.59
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67.86
67.53
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Retainerring
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75
75
75
75
75
75
75
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75
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75
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Dresser
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10
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10
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25
25
25
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40
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55
55
55
55
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70
70
70
70
Cost (M\)
Retainerring
Pad
Dresser
Total
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13.33
13.44
13.33
13.33
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12.77
12.66
12.66
12.66
12.77
12.66
12.54
12.66
12.66
13.22
12.88
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13.10
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12.43
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12.32
12.32
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33.12
33.21
33.12
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39.28
38.64
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39.93
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31.68
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13.38
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13.20
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12.58
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9.50
9.50
9.50
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78.24
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78.04
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(c)
Level
Retainerring
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2
2
2
2
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2
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90
90
90
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90
90
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90
90
90
90
Pad
Dresser
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13
20
27
34
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13
20
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6
13
20
27
34
35
10
10
10
10
10
25
25
25
25
25
40
40
40
40
40
55
55
55
55
55
70
70
70
70
70
Cost (M\)
Retainerring
Pad
Dresser
Total
10.19
10.19
10.19
10.19
10.19
10.53
10.42
10.53
10.53
10.53
10.30
10.42
10.42
10.30
10.30
10.53
10.53
10.64
10.64
10.53
10.86
10.75
10.86
10.86
10.86
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33.49
33.49
33.76
33.67
39.47
38.27
39.19
39.01
38.64
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67.62
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154.10
161.37
170.11
167.99
31.59
31.86
31.86
31.68
31.50
14.70
14.61
14.78
14.26
15.31
13.55
13.29
13.20
13.64
13.20
10.91
11.00
11.00
11.09
10.91
9.50
9.50
9.59
9.59
9.59
75.46
75.54
75.54
75.64
75.37
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63.30
64.50
63.79
64.48
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71.64
74.49
72.06
69.04
83.72
86.20
85.49
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89.06
184.50
174.36
181.82
190.56
188.45
(d)
Level
Retainerring
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
Pad
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1
2
3
4
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1
2
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4
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1
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1
2
3
4
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Dresser
Retainerring
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0
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1
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1
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2
2
2
2
2
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3
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3
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4
4
4
4
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
105
Pad
Dresser
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
36
10
10
10
10
10
25
25
25
25
25
40
40
40
40
40
55
55
55
55
55
70
70
70
70
70
Cost (M\)
Retainerring
8.51
8.40
8.40
8.40
8.40
8.96
8.85
8.85
8.96
8.96
8.96
8.96
8.96
8.96
8.96
9.30
9.30
9.30
9.30
9.18
9.18
9.18
9.18
9.30
9.18
Pad
Dresser
Total
35.14
34.78
34.87
34.87
34.87
40.02
40.57
41.12
40.11
41.03
45.17
46.18
47.20
43.88
46.83
76.91
75.16
77.19
77.28
74.52
175.17
175.63
174.25
173.79
175.81
32.91
33.18
32.82
32.65
32.38
15.22
15.49
15.05
14.87
15.14
13.90
13.38
13.46
13.55
13.55
11.18
11.26
11.09
11.26
11.35
9.59
9.59
9.59
9.50
9.59
76.57
76.35
76.09
75.92
75.65
64.20
64.91
65.02
63.94
65.13
68.04
68.52
69.62
66.40
69.34
97.38
95.72
97.57
97.84
95.06
193.94
194.40
193.02
192.59
194.59
(e)
Level
Retainerring
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
Pad
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
0
1
2
3
4
Use-time control limit (Hr)
Dresser
Retainerring
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
2
2
2
2
2
3
3
3
3
3
4
4
4
4
4
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
120
Pad
Dresser
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
6
13
20
27
34
37
10
10
10
10
10
25
25
25
25
25
40
40
40
40
40
55
55
55
55
55
70
70
70
70
70
Cost (M\)
Retainerring
7.73
7.73
7.73
7.73
7.73
7.95
7.95
7.95
7.95
7.95
8.18
8.18
8.06
8.18
8.06
8.06
8.18
8.18
8.06
8.06
8.18
8.18
8.18
8.18
8.18
Pad
Dresser
Total
38.18
38.18
37.44
37.63
37.90
51.24
48.94
52.35
48.39
47.66
79.86
75.62
71.67
73.42
75.35
128.89
130.09
131.93
132.30
127.70
236.07
239.11
232.76
234.32
231.93
34.85
34.76
35.29
34.94
34.85
17.60
17.60
17.42
17.69
18.22
13.55
13.82
13.64
13.11
13.55
11.35
11.44
11.35
11.26
11.35
9.59
9.59
9.59
9.59
9.59
80.76
80.67
80.46
80.29
80.48
76.80
74.50
77.72
74.03
73.82
101.58
97.62
93.37
94.70
96.96
148.31
149.70
151.46
151.62
147.11
253.84
256.88
250.53
252.09
249.70
2.6 検証結果
従来はリテーナリング交換の管理値は 120 時間であるが,これは 2.5 節において計算さ
れた管理値 86 時間と大きく異なる.そこでシミュレーションと現場における実験の両方
により,リテーナリングの管理値を評価した.現場においては管理値を 90 時間に設定し
た.パッドとドレッサーの管理値は従来の値を継続して使用した.それぞれ 18 時間,33
時間という計算結果であったが,これらは従来の管理値と近いためである.
表 2.4 に従来の管理値での装置 3 台の実際の生産における消耗品の交換回数を示す.集
計対象期間は 30 日である.各消耗品の数量を比較するために,リテーナリングの交換数
に対する比を取った.リテーナリングの管理値を 120 時間とした条件のシミュレーション
結果を表 2.5 に示す.集計対象期間は,実際の生産においては 1.5 年程度,もしくはそれ
以上に相当する,累積研磨時間 10000 時間とした.シミュレーションでは,消耗品使用時
間に対する研磨レートモデルは式(2.4)とし,従来の管理値条件での実際の生産におけるサ
ンプルを用いて係数を計算した.また装置 1 台には 4 ヘッドが搭載されており,式(2.4)は
ヘッドの別にパラメータを定めているので,ヘッドの別にシミュレーションした.またヘ
ッド別にシミュレーションしているため,装置当たりのリテーナリングの消費量はヘッド
#1 からヘッド#4 までの総和となる.パッドとドレッサーの消費量については,ヘッド別
の各シミュレーションで装置 1 台当たりの消費量を求めている.表中の比率については装
置 1 台当たりの消費量の比率としている.表 2.4 と表 2.5 の平均のリテーナリングに対す
る比率を比較すると,シミュレーションの精度は,パッドで(5.71-5.46)/5.71×100=4.4%,ド
レッサーで(1.71-1.53)/1.71×100=10.5%の誤差あった.
リテーナリングの管理値を 90 時間とした,新たな管理値条件でのシミュレーション結
果を表 2.6 に示す.このシミュレーションでもモデル式の係数は従来の管理値における実
際の生産のサンプルを用いて計算している.リテーナリングの消費量に対する比率の計算
は表 2.5 と同様としている.リテーナリングの消費量に対し,パッド,ドレッサーともに
消費は大きく抑えられる予測結果を得た.
新管理値での対象期間 60 日の実験結果を表 2.7 に示す.リテーナリングの交換数に対す
るパッド,ドレッサーの交換数の比率で結果を確認すると,予測したようにパッド,ドレ
ッサーの消費は抑えられた.
リテーナリングの管理値を 120 から 90 時間に変更することで,装置#1 の一ヶ月平均
の消費数は,リテーナリングが 4.67 から 6.75 個,パッドは 26.67 から 21.00 枚,ドレッ
サーは 8.00 から 8.00 となった.1.5 年のシミュレーション結果では,数値を四捨五入し
て個数とすると,リテーナリングの消費数はヘッド当り 74 から 94 個と 20 個増加し,パ
ッドは 1611 から 1426 枚と 185 枚減少した.リテーナリングとパッドとの,消費数の増
減の関係は実験結果からも確認できる.もしリテーナリングの価格を 100 ドル,またパッ
ドの価格を 200 ドルとするならば,装置 1 台当たり 1.5 年でコストは-100 ドル×4 ヘッド×20
個+200 ドル×185 個=29,000 ドルの削減となる.リテーナリングの管理値変更は,このよ
38
うに消費量管理に大きく影響することがわかった.以上により,提案した消耗品消費シミ
ュレーションを用いたコスト最適化手法により,消耗品コストの大幅削減を実現できると
ともに,これをシミュレーションで事前に把握できるようになった.
Table 2.4 Consumption and maintenance summary (Actual Production, former control limit)
Equipment
Retainer-ring
#1
6
#2
4
#3
4
4.67
Average
1.00
Ratio (retainer-ring base)
Consumption
Pad
28
26
26
26.67
5.71
Dresser
10
8
6
8.00
1.71
Table 2.5 Consumption and maintenance summary (Simulation, former control limit)
Equipment
Head
Retainer-ring
73
72
#1
75
77
71
76
#2
74
74
74
73
#3
74
73
73.83
Average
1.00
Ratio (retainer-ring base)
#1
#2
#3
#4
#1
#2
#3
#4
#1
#2
#3
#4
39
Consumption
Pad
1310
1986
1642
1852
988
3310
1396
1706
1096
1232
1410
1408
1611.33
5.46
Dresser
507
420
459
456
507
411
492
444
441
438
411
435
451.75
1.53
Table 2.6 Consumption and maintenance summary (Simulation, control limit change)
Consumption
Retainer-ring
Pad
90
1120
#1
97
2496
#2
#1
93
1570
#3
93
1600
#4
93
1080
#1
94
1214
#2
#2
93
1018
#3
95
1306
#4
93.50
1425.50
Average
1.00
3.81
Ratio (retainer-ring base)
Equipment
Head
Dresser
513
405
441
444
417
444
402
453
439.88
1.18
Table 2.7 Consumption and maintenance summary (Experimental test, control limit change)
Consumption
Retainer-ring
Pad
#1
15
44
#2
12
40
13.50
42.00
Average
1.00
3.11
Ratio (retainer-ring base)
Equipment
40
Dresser
14
18
16.00
1.19
2.7 結言
酸化膜の CMP 工程のために研磨レートのウェハ面内の経時変動に基づく消耗品管理方
法を開発した.本方法は,使用時間上限値で管理される消耗品の交換に対し,交換におい
て発生するコストを最小化するための管理値の最適化法である.得られた結果を要約すれ
ば以下の通りである.
(1) 消耗品の使用時間に対する研磨レートの経時変動をモデル化した.各消耗品間の接触
による相互的な作用を考慮してモデルを使用時間に関する 2 次式とし,さらに使用時
間に関する分数項を加えた式で表現した.研磨レートの実値を用いて重回帰分析した
結果,実値に対する誤差は 10%以下となった.
(2) 消耗品の使用時間管理値に対する消耗品の交換回数と消費量とを求めるために,CMP
装置における研磨レートのウェハ面内分布の経時変動に基づく Run-to-Run でのロッ
ト処理のシミュレーション方法を開発した.
(3) 消耗品使用時間の管理値とコストの関係を応答曲面により定義し,実験計画法を活用
して関係を定めた.コストは消耗品の消費量と交換作業コストで決まる.応答曲面法
により使用時間管理値の最適値を求めることが可能となった.
(4) 上(1)の実値で得た研磨レートの経時変動モデルに基づき消耗品の消費量をシミュレ
ーションにより求め,消耗品の使用時間管理値の最適値を求めた.これを実機に適用
した結果,見積上のコスト低減が 19,333 ドル/年となる改善を図る見通しを得た.
41
第 3 章 ウェハ面内での研磨後膜厚の管理値に対するマージンを最
大化する CMP-APC
3.1 緒言
前章での検討より,研磨レートは消耗品使用時間についてウェハ面内の全範囲において
経時変動することがわかった.この変動に基づき研磨レートのウェハ面内の不均一性低下
を防止するための消耗品の管理方法を提案できた.次に製品ウェハの,ウェハ面内の膜厚
の精度を向上するために,CMP 処理時の研磨レートを次回の CMP 処理にフィードバック
して,研磨時間を調整する Run-to-Run 制御法を検討する.従来,製品ウェハを処理する
CMP において製品ウェハ特有のウェハ表面の凹凸を反映したプロセスモデルが提案され
ている.本研究では研磨レートウェハ面内分布を反映した製品ウェハの CMP 工程の
Run-to-Run 制御法を開発する.
研磨後膜厚はウェハ面内の平均値で管理されるのではなく,全ての計測位置で管理され
る.これは研磨後膜厚がウェハ面内の 1 点でも管理値から逸脱すれば,ウェハは不良であ
ると判定されることを意味する.研磨後膜厚は,研磨レートの面内分布だけでなく,研磨
前の膜厚とウェハ表面の凹凸にも依存する.これらの要因はウェハ面内で分布が変化する.
よってこれら要因の組合せによっては,特定の計測位置において研磨後膜厚が管理値から
逸脱することとなる.
管理値が厳しい CMP 処理において膜厚不良を防止するという課題に対して,ウェハ全
面で高品質を達成して不良を防止するために,管理値上下限とウェハ面内の膜厚最大値,
最小値との差で決まるマージンに着目する.製品量産におけるマージンを確保するために,
膜厚および研磨レートの,ウェハ面内に亘る分布および計測位置間の違いを Run-to-Run
制御法における研磨時間計算と研磨レート推定に反映する.
本章では,まず 3.2 節において Run-to-Run 制御法の処理手順について示し,制御に必
要な機能を明らかにする.3.3 節において,研磨後膜厚のウェハ面内分布に関連するマー
ジンについての課題を明らかにする.3.4 節では,研磨レートのウェハ面内分布のモデル
化について示し,この分布モデルに基づいて,異なる製品種類での計測位置に整合して研
磨レートを求める方法を提案する.3.5 節では,ウェハ面内分布モデルで表現される研磨
レートの Run-to-Run での更新方法を提案する.3.6 節において研磨後膜厚を管理値範囲
内の上側と下側のマージン内に調整するための研磨時間計算方法を提案する.最後に 3.7
節において,マージンを反映した工程能力指数を提案し,実際の量産に適用評価した結果
を示す.
43
3.2 酸化膜の CMP の Run-to-Run 制御法
図 3.1 に Run-to-Run 制御法を適用した酸化膜 CMP 工程において利用されている処理
のフローチャートを示す.酸化膜の CMP では研磨パッドが消耗するため研磨パッド交換
のメンテナンスが必要となる.メンテナンス実施後,装置が要求される研磨レート性能を
満たすかどうかを確認するために研磨レート確認作業が行われる.まずブランケットウェ
ハと呼ばれる製品ウェハとは異なる,珪素(Si)基板に酸化膜を堆積しただけの,表面が平
坦なウェハを用いて研磨レートを算出する.このためにブランケットウェハの膜厚を研磨
前に計測し,時間固定で研磨を行い,研磨後にも膜厚を計測する.
引き続き製品ウェハの研磨を行う.数枚から数十枚の製品ウェハをまとめたロットの単
位で処理を繰り返す.ロット着工の前に製品ウェハを抜き取って研磨前膜厚を計測してお
く.ロット処理の繰り返しにおいて製品種類が変わったときには,ウェハ表面凹凸が異な
るため先行研磨作業(send-ahead work)を行う.
先行研磨作業では,ロットから製品ウェハ 1 枚を抜き取り,
まず研磨前膜厚を計測する.
次にブランケットウェハ研磨レート,研磨前膜厚を参照し,これらの値を製品種類に応じ
た CMP プロセスモデルに代入して研磨時間を求める.そして実際に研磨して,膜厚を計
測する.研磨前後の膜厚と研磨時間を用いて,先行研磨作業時点でのブランケットウェハ
研磨レートを推定する.製品ロットの残りウェハの研磨時間算出のために制御システムの
ブランケットウェハ研磨レートの登録値を更新する.
ロット着工時に,予め計測しておいた研磨前膜厚,ブランケットウェハ研磨レートを参
照し,研磨時間を算出する.これを用いてロットに含まれるウェハを次々に研磨する.研
磨後に膜厚計測装置で膜厚を計測する.そして,ブランケットウェハ研磨レートを推定し,
CMP 装置で次回処理するロットの研磨時間算出のために制御システムの値を更新する.
酸化膜 CMP 工程では,製品種類が切り替わる毎に,ロット着工前にブランケットウェ
ハを用いた研磨レート確認作業と,先行研磨作業が行われている.Run-to-Run 制御シス
テムを活用し,製品ウェハの研磨結果でブランケットウェハ研磨レートを推定できれば,
これらの作業を不要として,スループット向上を期待できる.多品種量産において研磨後
膜厚のばらつきを低減し,生産性を向上するために,研磨時間,ブランケットウェハ研磨
レートを算出できる CMP プロセスモデルが必要である.
CMP プロセスモデルにおいて製品種類の違いを反映するパラメータを求めるために,
全ての製品種類に対し,例えば数十から数百枚といった十分なサンプル数を用いることは
困難である.なぜなら CMP プロセスモデルにはブランケットウェハ研磨レートが含まれ
ており,製品ウェハと同時にブランケットウェハを研磨しなければならないからである.
そこで何らかの手段で効率的にプロセスモデルのパラメータを決定しなければならない.
なお,プロセスモデルが式(1.2)ならば,ブランケットウェハの研磨と,製品ウェハの研
磨を同時連続に行えば,ブランケットウェハ研磨レートがわかるので、プロセスモデルの
パラメータである PES を確認できる.
44
Maintenance (Consumables’ exchange)
Blanket-wafer’s film-thickness measurement before CMP
CMP
Blanket-wafer’s film-thickness measurement after CMP
Actual blanket-wafer’s removal-rate calculation
Product wafers’ film-thickness measurement before CMP
Product-type
is changed
No
Yes
Send-ahead work
is necessary
No
Yes
Film-thickness measurement before CMP for send-ahead work
Polishing time calculation for send-ahead work
CMP in send-ahead work
Film-thickness measurement after CMP for send-ahead work
Blanket-wafer’s removal-rate update
Polishing time calculation for a lot work
CMP of all wafers in a lot work
Product wafers’ film-thickness measurement after CMP
Blanket-wafer’s removal-rate update
Yes
Maintenance
is required
No
Fig. 3.1 Flowchart of lot work in CMP process with control
45
更に研磨レートはウェハ面内分布を持ち,研磨後膜厚の管理値逸脱に影響を与えること
が想定される.そのためにウェハ面内分布に応じた研磨時間の補正が必要である.
図 3.2 に CMP-APC のシステムの構成を示す.図中,上部には研磨レート確認作業での
処理順序,下部には製品ウェハの処理順序を示している.製品ロットの着工において,ま
ず製品種類に応じたパラメータが選定される.そして研磨時間を算出してから研磨を開始
する.研磨後に膜厚を計測して,次回処理のロットのために研磨レートを推定するという
ものである.プロセスモデルのパラメータを効率的に定めるための補償機能と研磨レート
のウェハ面内分布を補償する機能を備えていなければならない.
Measurement
CMP
Measurement
(1)Thickness
Blanket
wafer
CMP Run-to-Run control
Parameter selection
(2)Thickness
Parameter compensation
Product
wafer
Time-series variation/drift
compensation
(3)P. type
& layer
(6)Thickness
Within-wafer
compensation
(4)Thickness
Measurement
(5)Polishing
time
CMP
Measurement
Fig. 3.2 Schematic diagram of CMP-APC
46
3.3 製品種類毎の研磨レートの違い
製品ウェハのための酸化膜の CMP の研磨過程は,1 章で示したように研磨前膜厚,研
磨後膜厚,研磨レート,研磨時間,そして製品種類間のウェハ表面段差の違いを表現する
製品依存のパラメータ PES(Pattern Effect Shift)を用いて式(1.2)で定式化できる.研磨前
後の膜厚,研磨レートそして PES はいずれも計測位置に応じて異なる.研磨レートは CMP
装置の研磨動作のためにウェハ面内分布を持ち,また研磨前膜厚とウェハ表面の段差は前
工程のウェハ面内分布に依存するためである.ウェハ面内の計測位置は図 1.8,図 1.9 に
示した.研磨レート確認作業での研磨レートモニタリングで用いられるブランケットウェ
ハは任意の位置で膜厚を計測できるので,研磨レートウェハ面内分布の特徴を捉えるため
に,図 1.8 に示すように計測位置は同心円上に配置される.一方で製品ウェハの計測位置
のウェハ面内の配置は,計測位置が LSI チップ内の TEG 上に限定され,また製品毎にチ
ップサイズが異なり,膜厚を管理するための計測の目的も異なるため,製品種類により様々
となる.計測位置が異なるため,式(1.2)に基づいて製品ウェハ研磨結果より推定される研
磨レートは異なることとなる.図 3.3 に複数の製品種類の,各計測位置における研磨レー
トのロット処理毎の変動を示す.横軸は処理順,縦軸は研磨レートである.参照用に研磨
レート確認作業での研磨レートを補間して破線で示し,また同一製品種類が処理されてい
る区間について,ウェハ内の研磨レート平均値の変化傾向を実線で示した.各製品ウェハ
処理区間ではそれぞれの計測位置でウェハ毎にばらついているだけであるが,製品毎には
研磨レートがシフトしていることがわかる.製品種類 A,B の研磨レート平均値は破線の
参照線よりも低いが,製品 C,D では参照線より高い.膜厚と PES の管理基準値は定めら
れており,同一の製品では計測位置の配置は同じである.よって同一製品の区間の研磨レ
ートの変動は式(1.2)に含まれる研磨前後の膜厚と研磨レートのウェハ間の差が要因であ
る.しかし製品種類間のシフトはランダムな変動ではない.このシフトは異なる製品種類
間での計測位置の違いにより引き起こされることになる.図 3.4 に,横軸を直径,縦軸を
研磨レートとして,研磨レートのウェハ面内分布を示す.中心の範囲では研磨レートは低
いが,外周に向かって高くなる.ウェハの周辺では研磨レートは若干低下する.製品計測
位置における研磨レートを,製品種類 D を丸で,製品種類 A を三角でプロットした.計測
位置の違いにより,製品種類 D の研磨レートの平均値は,ウェハ面内分布の平均値よりも
∆D だけ高くなり,製品種類 A については∆A だけ低くなる.よって,各製品種類の計測位
置における研磨レートより研磨時間を計算する必要がある.また製品種類間の計測位置の
違いに基づいて研磨レートを推定する必要がある.なお製品種類が同一であっても計測位
置が異なっていれば,研磨レートのウェハ面内分布に依存した研磨レート平均値が異なる.
本論文では 1 つの製品種類に対して,1 通りの計測位置の配置となると仮定して議論を進
める.
47
1.15
Removal rate (arb. unit)
1.1
Blanket
Prd. A
Prd. B
Blanket
Prd. C
Prd. D
1.05
1
0.95
0.9
0.85
0.8
0.75
Lot (work sequence)
Fig. 3.3 Lot-by-Lot removal-rate time-series variations
Removal rate
Product D
Product A
An average of product D
A removal-rate within-wafer
distribution profile
Offset
∆D
An average of within-wafer
distribution
Offset
∆A
An average of product A
Radius
Fig. 3.4 The relationship between removal-rate within-wafer distribution and at measurement sites
他にも研磨後膜厚の管理値のマージンに関して,計測位置の配置に起因する課題がある.
次段落で式を用いて定義するが,マージンとは膜厚と管理値との差である.横軸を研磨時
間,縦軸を膜厚とし,各計測位置における研磨過程を図 3.5 に示す.実線で示した線が各
計測位置における実際の研磨過程であり,太破線は式(1.2)で表現したモデルに基づく研磨
過程である.ウェハ面内の研磨レート平均を用いて式(1.2)で研磨時間は計算される.破線
が研磨後膜厚の目標値になったとき,研磨レートが高く,PES が大きい計測位置では研磨
後膜厚が管理値を逸脱することとなる.研磨時間を計算したときに,この計測位置では管
理値は逸脱しないと予測したとしても,各ウェハを研磨する度にばらつきが発生するため,
管理値との差が小さければ常に管理値逸脱の可能性がある.計測位置全点で膜厚不良を防
48
Calculation(Eq.(1.2))
Film thickness
Step height
dependent
parameter
Upper
Control
limits
Target
Lower
Deviation
Calculated time
Polishing
time
Fig. 3.5 Film thickness over the polishing process at different measurement positions
止するためには,各計測位置における膜厚と管理値の上下限値との差を最大にして,マー
ジンを確保すべきである.
マージン M は管理値と膜厚との,上側及び下側両方との差としてモデル化できる.
UCL
M upper = Px Tpost
−max Px Tpost ( s # )
(3.1)
LCL
M lower = min Px Tpost ( s # )− Px Tpost
(3.2)
s#
s#
ここで右上添え字の UCL と LCL はそれぞれ管理値の上限値,下限値を意味する.max と
min は引数から最大値と最小値を求める演算である.インデクス s#は製品上の計測位置の
番号を表す.式(1.2)で研磨後膜厚を算出できるが,先に述べたように研磨後膜厚の誤差は
2 つの要因により引き起こされる.計測位置の違いによる研磨レートの誤差と,ウェハ毎
の研磨前膜厚と PES のばらつき,及び装置に起因する研磨毎の研磨レートのばらつきによ
る誤差である.研磨毎の研磨レートの時系列でのばらつきに対しては,指数重み付け移動
平均 EWMA(Exponentially-Weighted Moving Average)コントローラといった,推定値を
平滑化するローパスフィルタの効果がある FB コントローラを利用すればばらつきを低減
できる.しかし計測位置の違いによる誤差は,ウェハ全面に亘るシステマチックな効果で
あるため,製品毎の違いを反映した別の方法により対処する必要がある.Run-to-Run 制
御法においては,膜厚計測での研磨レート推定と,ロット着工時の研磨時間とに,計測位
置の違いを反映できれば,製品種類毎にマージンを評価した制御を実現できると考えられ
る.
研磨レート推定においては,Run-to-Run でのばらつきを除去した製品ウェハ研磨の結
49
果を用いて,全ての製品種類のために最も適切なウェハ面内分布を決定する.研磨レート
確認作業で取得した研磨レートのウェハ面内分布を,製品ウェハの計測位置における研磨
の結果で更新すれば,製品種類間の計測位置の違いを補償して次回の CMP 処理に反映で
きる.
研磨時間の計算のためには,研磨レートのウェハ面内分布を用いて製品ウェハの計測位
置における研磨レートを導出する.そしてウェハ全面に渡って高精度を保ち,ウェハ不良
となる研磨後膜厚の管理値逸脱を防止するために,上側と下側両方での研磨後膜厚のマー
ジンを最大化する.
次節以降で,これらの研磨レート推定と研磨時間算出の方法を論じる.そのためにまず
必要となる研磨レートのウェハ面内分布から製品計測位置での研磨レートを求めるための
方法を検討する.
50
3.4 製 品 ウ ェ ハ の 計 測 位 置 の た め の 研 磨 レ ー ト – 計 測 位 置 整 合 化 Site
Coherence
計測位置の配置は,図 1.9 に示したように,製品種類間で異なる.よって研磨レートに
ウェハ面内分布があると,全ての製品種類に対して,ウェハ面内全計測位置の平均の研磨
レートは異なる.さらに,図 3.4 にプロファイルとして示した研磨レートのウェハ面内分
布は研磨パッドといった消耗品の状態により変化するので,同じ計測位置であっても平均
の研磨レートは異なることとなる.様々な製品ウェハ処理のための適切な研磨レートを求
めるためには,研磨レート確認作業でのブランケットウェハの研磨結果でモニタされた研
磨レートのウェハ面内分布から,製品ウェハの計測位置における研磨レートを必要に応じ
て算出しなければならない.
図 1.8 に示したように,研磨中ではウェハは回転運動するのでブランケットウェハの計
測位置は同心円上に配置される.これは研磨レートが半径位置と対応することを意味する.
図 3.6 に,横軸を半径,またウェハ面内平均を基準とした研磨レートの相対値を縦軸とし
た,研磨レート確認作業でモニタしたブランケットウェハの研磨レートの分布例を示す.
この縦軸の単位系は任意単位系 arb. (arbitrary) unit である.ダイヤモンド形のプロット
は,計測位置での研磨レートのサンプルである.サンプルは半径が同じであるならば研磨
レートに大きな差がないことがわかる.そこで,半径方向のプロファイルとして,次式の
研磨レートのウェハ面内分布モデルを定義する.各半径位置において研磨レートは平均化
される.
B
RQC (rad # ) =ave B RQC ( sb# ) r (rad # ) = x( sb# ) 2 + y ( sb# ) 2
sb #
(3.3)
ここで rad#は半径についてのインデクスであり,sb#はブランケットウェハの計測位置に
ついてのインデクスである.式(3.3)中の条件部の記載は,インデクス rad#の半径が計測位
置 sb#の(x,y)座標より求めた半径と等しいことを示している.インデクス rad#は中心から
外周に向かって昇順に設定されているとする.演算 ave d (i # ) は i#でインデクス付けされた
i#
データ d の全ての要素の平均をとる演算である.
製品ウェハの計測位置における研磨レートは,半径方向の分布の直線の線分を補間する
ことで半径位置に整合させて求めることとする.
B
RQC ( s # ) =
(r (rad # ) − r (s # ))×B RQC (rad #−1) + (r (s # ) − r (rad #−1))×B RQC (rad # )
r (rad # ) − r (rad #−1)
(3.4)
こ こ で s# は 製 品 の 計 測 位 置 に つ い て の イ ン デ ク ス で あ る . ま た 半 径
r ( s # ) = x( s # ) 2 + y ( s # ) 2 は r (rad #−1) ≤ r ( s # ) < r (rad # ) を満たすものである.
51
1
Sample
Profile
Removal rate (arb. unit)
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
-0.4
-0.6
0
0.2
0.4
0.6
Radius (arb. unit)
0.8
1
Fig. 3.6 Example of removal rate on a blanket wafer
なおウェハ面内全域において研磨レートを補間するためには,ウェハエッジにおける半
径での研磨レートが必要となる.しかしウェハエッジは形状の変化が大きく,計測器で膜
厚は測れない.そこで実際に計測している範囲で最も外周の研磨レートを,ウェハエッジ
の半径での研磨レートとして形式的に補間できるようにする.
異なる製品種類間の研磨レートの差を,研磨レート確認作業で得られた 3 つの半径方向
の分布を用いて評価した.半径方向の分布を図 3.7 に,また研磨レートのデータを表 3.1
に示す.プロファイルは半径毎のデータを補間することで構成される.研磨レートは,図
3.6 と同様に相対値に調整した.最小値と最大値の範囲は Monitor1 で 0.786,Monitor3 で
1.201 となっていることに注意する.これらの分布に対して,式(3.4)を用いて 3 種類の製
品の計測位置の研磨レートを計算した.結果を表 3.2 に示す.研磨レート平均値の最小値
は Monitor3 に対する製品種類 3 の-0.037 であり,また最大値は Monitor2 に対する製品種
類 1 の 0.136 となった.ここで表 3.1 の範囲 range を見ると値は 0.786 から 1.201 となっ
ているので,ウェハ面内の範囲を 1 で代表とすれば,研磨レート確認作業での平均値から
の製品計測位置での研磨レート平均値の乖離は,製品種類により計測位置が異なることで
10%以上となる.これは製品種類間の計測位置の違いで,ウェハ面内平均の研磨後膜厚が
目標値をからずれてしまうことを意味する.また計測位置の違いを補償しなければ,ある
製品の研磨結果で推定した研磨レートは,他の製品種類の研磨には不適切なものとなるこ
とを意味する.よって,研磨レート推定のためには,研磨レートのウェハ面内のプロファ
イルを保ちながらも製品種類間の計測位置の違いを補償するための,研磨レート計算方法
が必要であると言える.
さらに表 3.2(a)に示したように,ウェハ面内の研磨レートの最小値は-0.407 から-0.084
まで,また最大値は 0.342 から 0.609 までばらついた.つまり研磨レートのウェハ面内の
52
プロファイルの形状に依存して,上側と下側それぞれで管理値を逸脱するリスクが変化す
ることとなる.研磨レートの最小値と最大値の変化による管理値逸脱を防止するための研
磨時間計算方法が必要であると言える.
以上より,研磨レートのウェハ面内プロファイルを Run-to-Run で更新することは,異
なる製品種類の連続処理のための研磨レート推定と,研磨後膜厚の管理値に対するマージ
ンを最大化する研磨時間計算のいずれにおいても必要であるといえる.従って,次節にて
研磨レートのウェハ面内分布の更新方法について検討し,その後の 3.6 節においてマージ
ンを最大化する研磨時間計算方法について検討する.
1
Monitor1
Monitor2
Monitor3
Removal rate (arb. unit)
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1
0
0.2
0.4
0.6
Radius (arb. unit)
0.8
1
Fig. 3.7 Removal-rate within-wafer distributions at removal rate monitoring
Table 3.1 Removal-rate within-wafer distributions at removal rate monitoring
Radius#
(inside) 1
2
3
4
5
6
7
(outside) 8
Average
Min
Max
Range
Monitor1 Monitor2 Monitor3
-0.057
-0.188
-0.227
-0.205
0.030
0.412
0.510
-0.276
0.039
-0.227
0.510
0.736
53
0.222
0.029
-0.056
-0.090
0.045
0.369
0.310
-0.829
0.118
-0.090
0.369
0.459
-0.378
-0.460
-0.314
-0.267
0.061
0.439
0.741
0.179
-0.026
-0.460
0.741
1.201
Table 3.2 Removal rate at measurement sites on product wafers
(a) Product type 1
Site#
1
2
3
4
5
6
7
8
9
Average
Min
Max
Range
Removal rate for product wafer (arb. unit)
Monitor1
Monitor2
0.467
0.299
-0.209
-0.223
-0.103
-0.218
-0.221
0.371
0.457
0.069
-0.223
0.467
0.690
0.336
0.273
-0.084
-0.048
0.154
-0.037
-0.045
0.335
0.342
0.136
-0.084
0.342
0.426
Monitor3
0.609
0.327
-0.276
-0.329
-0.407
-0.346
-0.333
0.399
0.578
0.025
-0.407
0.609
1.016
(b) Product type 2
Site#
1
2
3
4
5
6
7
8
9
Average
Min
Max
Range
Removal rate for product wafer (arb. unit)
Monitor1
Monitor2
0.090
0.281
-0.225
-0.224
-0.081
-0.218
-0.221
0.494
0.498
0.044
-0.225
0.498
0.724
0.095
0.258
-0.054
-0.060
0.185
-0.038
-0.044
0.320
0.317
0.109
-0.060
0.320
0.380
54
Monitor3
0.120
0.310
-0.319
-0.309
-0.394
-0.345
-0.335
0.691
0.705
0.014
-0.394
0.705
1.099
(c) Product type 3
Site#
1
2
3
4
5
6
7
8
9
Average
Min
Max
Range
Removal rate for product wafer (arb. unit)
Monitor1
Monitor2
-0.044
0.301
-0.220
-0.215
-0.122
-0.217
-0.212
0.356
0.461
0.010
-0.220
0.461
0.681
-0.034
0.275
-0.066
-0.074
0.126
-0.071
-0.078
0.322
0.339
0.082
-0.078
0.339
0.418
55
Monitor3
-0.053
0.329
-0.301
-0.290
-0.419
-0.294
-0.283
0.384
0.591
-0.037
-0.419
0.591
1.010
3.5 研磨レートのウェハ面内分布の Run-to-Run での更新方法 – 分布シフト
Distribution Shift
図 2.2 に示したように,処理に従って,研磨レートは経時的に変動する.また前節で示
したように,製品ウェハの計測位置番号に対する研磨レートは製品種類の違いにより異な
る.研磨レートのウェハ面内プロファイルの形が変われば,同じ製品の同じ計測位置であ
っても研磨レートは変わる.そこで,Run-to-Run で様々な製品種類の研磨時間を補正す
るためには,研磨レートのウェハ面内プロファイルを更新する必要がある.このことは,
処理順で種類が異なる製品ウェハの計測結果を用いて,研磨レートのウェハ面内プロファ
イルを計算しなければならないことを意味する.
研磨レートのウェハ面内プロファイルを求めるためには,製品ウェハよりも多くの計測
位置を設定でき,また研磨ヘッドの動きに対応した同心円状に分布する研磨レートを管理
できるように計測位置を設定できる研磨レート確認作業でのブランケットウェハ研磨結果
が必要である.3.4 節に記載したように,式(3.3)で計算した研磨レートを半径方向で連結
した折れ線によりプロファイルを定義した.研磨レート確認作業はメンテナンス直後の,
製品ロット着工の前に実施されるので,研磨レートの面内プロファイルを Run-to-Run で
の製品ロット処理のための初期値として利用できる.
製品ロット処理順における Run-to-Run でのプロファイルの更新のためには,研磨レー
ト確認作業を頻繁に実施するか,もしくは製品ウェハでウェハ面内分布をモニタし易いよ
うに計測位置を再設定すればよい.しかし研磨レート確認作業の頻度を増やすこと,また
製品ウェハの計測位置数を増やすことは生産性を低下させるため,多品種工場の量産のた
めには利用できない.よって本研究では,製品ウェハ研磨の結果を用いてプロファイルを
シフトすることとした.
このときウェハ毎のばらつきによる誤差を低減するために EWMA
フィルタを適用した.各ロット処理のためにプロファイルは更新され,次の製品ロット処
理における研磨時間計算のために更新されたプロファイルが利用される.1 回の製品ロッ
ト処理での研磨レートのプロファイルのシフト量は,その製品のロット処理結果だけでの
研磨前後の研磨レートを評価することで求めることとした.なぜならロット毎に製品種類
が変わっても対応できるようにするためである.シフト量を評価するためには,製品ウェ
ハの各計測位置の研磨レートの差を計算しなければならないため,式(3.4)を用いて研磨前
の研磨レートを計算することとした.研磨レートのウェハ面内プロファイルの更新の計算
方法は以下のとおりである.
(1) 研磨前の研磨レートのウェハ面内プロファイルを参照して式(3.4)を用いて各計測位
置の研磨レートを計算する.
(2) 式(1.2)に基づき,研磨前後の実際に計測した膜厚を参照して研磨レートを次式で計算
する.
Px
B
*
RQC
(s# ) =
*
*
Tpre
( s # )− Px Tpost
( s # ) − PES ( s # )
t*
56
(3.5)
ここで右上添え字のアスタリスク*は実際の研磨結果である実績値を意味する.
(3) 研 磨 前 後 の 研 磨 レ ー ト の 差 を 加 え て , 研 磨 レ ー ト の ウ ェ ハ 面 内 プ ロ フ ァ イ ル
B
tmp
RQC
(rad # ) を計算する.
B
(
tmp
*
RQC
(rad # )= B Rˆ QC (rad # ) + ave B RQC
( s # ) −ave B RQC ( s # )
s#
s#
)
(3.6)
ここで変量の上のハット^は推定値であることを示す.右辺第 1 項は研磨前の研磨レ
ートのプロファイルである.
(4) フィルタとして,ばらつき低減のために重み係数λを用いて EWMA 計算を行う.
B
tmp
Rˆ QC (rad # ) ← λ × B RQC
(rad # ) + (1 − λ )× B Rˆ QC (rad # )
(3.7)
本方法を分布シフト法 Distribution Shift と呼ぶ.
この研磨レートのプロファイル更新計算を表 3.3 に示した実際の処理順の例に適用した.
2 回の研磨レート確認作業と製品ロット処理 21 回の,13 種類の製品の処理順である.式
(3.7)の重み係数の値λ は 0.5 とした.これはλ の値を 0.0, 0.1, 0.2, ∼, 1.0 と様々に設定し
て Run-to-Run 制御シミュレーションを行い,研磨後膜厚の工程能力指数 Cpk が最高とな
るものを選定したものである.ウェハ面内プロァイルの折れ線の頂点位置に対応する半径
位置の研磨レートの経時変動を図 3.8(a)に示す.さらに半径位置の研磨レートの平均値(図
中 AVE)と式(3.5)で直接的に計算した計測位置の研磨レートの平均値(図中 SITE_AVE)を
図 3.8(b)で比較した.図 3.8(a)に示したように,異なる半径位置間の研磨レートの差は研
磨レート確認作業で決まり,連続的な製品ロット処理の間は一定のままとなる.
Run-to-Run で誤差を含みながらロット毎にドリフトするのみの変動となる.図 3.8(b)の
研磨レートの違いでは,計測位置における研磨レートの平均値は半径位置の研磨レート平
均値よりも若干高くなっており,Run-to-Run でのドリフトと誤差のほかに,計測位置の
違いにより製品毎に研磨レートの差に変化があることを示している.式(3.4)-(3.6)による研
磨レートのプロファイルの更新を行う分布シフト法により,Run-to-Run 制御計算におけ
るウェハ面内分布の取り扱いが可能となった.さらに,計測位置の研磨レートを補正する
ことにより計測位置に依存する誤差を削減する効果もある点で,ウェハ面内平均値の更新
よりも分布シフト法が精度向上に有効なこともわかった.
57
Table 3.3 CMP work sequence
No
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
Operation
Product Type
Removal-rate monitoring
Product
PRD01
Product
PRD01
Product
PRD01
Product
PRD02
Product
PRD13
Product
PRD06
Product
PRD11
Product
PRD03
Product
PRD04
Product
PRD06
Product
PRD13
Product
PRD05
Removal-rate monitoring
Product
PRD08
Product
PRD12
Product
PRD12
Product
PRD09
Product
PRD10
Product
PRD12
Product
PRD04
Product
PRD03
Product
PRD07
58
1.1
Radius #1
Radius #2
1
Radius #3
Radius #4
0.95
Radius #5
Radius #6
0.9
Radius #7
Radius #8
0.85
Radius #9
0.8
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10111213
14151617181920212223
lot (No)
(a) Within-wafer removal-rate at the radius
1.05
AVE
SITE_AVE
Removal rate (arb. unit)
Removal rate (arb. unit)
1.05
1
0.95
0.9
0.85
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10111213
14151617 181920212223
lot (No)
(b) Average
Fig. 3.8 Run-to-Run removal rate update results
59
3.6 マージン最大化研磨時間計算方法 – 上下限均等法 Even Control Limit
研磨後膜厚を管理値内に収め続けるためには,製品ウェハの全ての計測位置における膜
厚の管理値からの逸脱を評価することが必要である.よって Run-to-Run 制御法において,
半径方向のプロファイルとしたウェハ面内分布に基づいて研磨レートを管理することとし
た.さらに,製品ロット着工時に,全ての計測位置の膜厚について管理値からの逸脱の可
能性を最小とする,研磨時間の計算方法が必要である.
研磨レートの平均値で計算した研磨時間では研磨後膜厚が管理値の下限値を逸脱する例
を 3.3 節の図 3.5 に示した.これは,研磨レートのウェハ面内分布のために各計測位置で
研磨レートが異なり,ウェハ面内の計測位置間の研磨レートの平均と,研磨レートの最大
値もしくは最小値との間に差があることが原因である.
研磨レートのウェハ面内分布をプロファイルと定義して,計測位置整合化法を開発する
ことにより,製品計測位置での研磨レートを求めることができるようになった.このこと
は,計測位置が異なっても,式(1.2)で表現される研磨過程が全ての計測位置で得られるこ
とを意味する.全ての計測位置の研磨過程の中には,膜厚が最大,最小となる計測位置の
研磨過程も含まれる.
研磨時間の計算方法を検討するため,ここで再度,図 3.5 に注目する.研磨後膜厚は管
理値の下限値を逸脱しているものの,膜厚最大値と管理値の上限値との差である上側マー
ジンは大きいことが確認できる.この場合,下側マージンを拡大するためには,上側マー
ジンを縮小すればよいと分かる.よって研磨時間を短くすればよい.このことは,マージ
ンを評価して,研磨時間を調整することが有効であることを意味する.図 3.9 に示すよう
に,最適な研磨時間は,上側と下側のマージンが等しく,全計測位置における研磨後膜厚
が中央の範囲内,つまり上側と下側の管理値マージンの間に収まるという制約を満たす.
管理値の上限値と研磨後膜厚の最大値との差が管理値の下限値と研磨後膜厚の最小値と
の差と等しいという条件は式(3.8)で表現できる.
Px
UCL
LCL
Tpost
−max Px Tpost ( s # ) = min Px Tpost ( s # )− Px Tpost
s#
s#
(3.8)
式(3.8)の左辺は式(3.1)の右辺,そして式(3.8)の右辺は式(3.2)の右辺となっている.これ
は上側と下側のマージンが同じ,言い換えると均等であることを意味する.よってこの条
件を上下限均等 Even Control Limit と呼ぶこととする.
本条件を実現するために,上下限均等研磨時間計算法を開発した.全ての計測位置の組
合せについて,式(1.2)の研磨過程モデルを式(3.8)に代入してみる.すると全ての計測位置
の膜厚が 2 つの計測位置の膜厚の範囲内にあって,その 2 つの計測位置の膜厚が条件式
(3.8)を満足する最大値と最小値になっているものを見出すことができる.計算方法を以下
に示す.
(1) 全ての計測位置から 2 つの計測位置の組合せを求める.計測位置の数を n とするなら
組合せの数は nC2=n!/(n-2)!/2 となる.
60
Film thickness
Step height
dependent
parameter
Margin
Upper
Control
limits
Target
Lower
Polishing
time
The best
Fig. 3.9 Film thickness over the polishing process and the optimal polishing times
(2) 全ての組合せについて式(3.11)を用いて研磨時間を計算する.
t=
∑T
*
pre
s #∈{ s1 # , s 2 #}
(s # ) −
∑ PES (s # ) − (
s #∈{ s1 # , s 2 #}
∑
B
Px
UCL Px LCL
Tpost
+ Tpost )
(3.9)
RˆQC ( s # )
s #∈{ s1 # , s 2 #}
ここで S1#と S2#は各組合せで選択した計測位置 2 つについてのインデクスである.ま
た総和を得る範囲の指定を,インデクスを要素とした並び(リスト)として示している.
データを d,インデクスを i#,インデクスの要素を ij#,インデクスの要素数を n とす
れば,総和は次式で表される.
∑ d (i # ) = d (i # ) + d (i # ) + L + d (i # )
1
2
(3.10)
n
i #∈{i1 # , i 2 # ,L, i n #}
(3) 研磨後膜厚を予測し,式(3.8)の上下限均等条件を満足するか評価する.満足するなら
ば,その組合せで計算した研磨時間が解となる.
Px
(
*
Tˆpost ( s # )= Px Tpre
( s # ) − PES ( s # ) − t× B Rˆ QC ( s # )
Px
∨
(3.11)
Tˆpost ( s1 # ) = min Px Tˆpost ( s # )∧ Px Tˆpost ( s 2 # ) =max Px Tˆpost ( s # )
(
s#
Px
s#
)
Tˆpost ( s 2 # ) = min Px Tˆpost ( s # )∧ Px Tˆpost ( s1 # ) =max Px Tˆpost ( s # )
s#
s#
)
(3.12)
研磨前膜厚,PES,研磨レートは計測位置別のデータでなければならないことに注意す
る.製品ロット内で全てのウェハの研磨前膜厚を計測することが望ましいが,スループッ
トの観点で全てのウェハを計測できないならば,ウェハ抜き取りにより計測した膜厚であ
61
ってもロット毎の膜厚ばらつきを補償できる.研磨レートは式(3.4)の計測位置整合化法を
用いることで,研磨レートのウェハ面内プロファイルから計算できる.PES についても,
膜厚の実績値と計測位置整合化を用いた研磨レートを参照して式(1.2)を用いて計算すれ
ば,全ての計測位置の値を決定できる.
62
3.7 量産適用結果
3.7.1 従来の制御法との比較結果
研磨時間を計算して研磨後膜厚を推定した結果を,実際に研磨した膜厚と共に図 3.10
に示す.横軸を半径,縦軸を膜厚としている.図には,上下限均等研磨時間計算による研
磨時間を用いた推定値(実線)と式(3.13)で計算した研磨時間を用いた推定値(破線)との 2 つ
の推定値を示している.式(3.13)の計算を目標平均法 Average Target と呼ぶ.なぜなら研
磨後膜厚の平均値が目標値に一致するという条件を満たす研磨時間の計算方法だからであ
る.これらの推定では,実際の計測位置別の研磨前膜厚と PES を用いており,また研磨レ
ートのウェハ面内プロファイルから計測位置整合化した研磨レートを用いている.
t=
*
TGT
( s # ) − Tpost
− ave PES ( s # )
ave Px Tpre
s#
s#
(3.13)
ave Rˆ QC ( s # )
B
s#
上下限均等法により計算された研磨時間は 131.97 秒であり,目標平均法は 134.51 秒で
あった.実際の研磨では,上下限均等法の結果を参照して 132 秒を設定した.点線で示す
実績値は実線の上下限均等法を用いた推定結果と近いものとなった.破線で示した目標平
均法を用いた推定結果は,特に半径方向で最外周の計測位置で管理値の下限値に近くなっ
た.これは横軸で 0.4 から 0.6 の範囲で膜厚が厚いことから研磨時間が長めに計算された
ためである.最外周の計測位置での膜厚実績値を考慮すると,実績値は上下限均等法を用
いた推定結果よりも膜厚が薄くなっているので,目標平均法の時間を実際に設定して研磨
していたら膜厚は下限値を逸脱していたと考えられる.
Film thicknesss (arb. unit)
1
Average Target
0.5
Even Control Limit
(ECL)
Actual Result (ECL)
0
TGT
LCL
-0.5
UCL
-1
0
0.2
0.4
0.6
Radius (arb. unit)
0.8
1
Fig. 3.10 Distribution of film-thickness after CMP
63
Film thickness after CMP (arb. unit)
1.5
Average Target
Even Control Limit
MAXIMUM
1
UCL
MAXIMUM
0.5
0
-0.5
-1
MINIMUM
MINIMUM
LCL
-1.5
Wafer
Fig. 3.11 Trend of film-thickness after CMP in a SOC product
図 3.11 に,SoC(System-on-a-Chip)製品の量産におけるウェハ毎の研磨結果実績値を示
す.横軸は 1 装置での処理順を表しており,膜厚は平均値,最小値,最大値をプロットし
ている.このグラフにおいて,左側は研磨時間計算に目標平均法を用いた,計測位置毎の
補償をして無い従来の APC の結果を示しており,右側は上下限均等法を用いた結果を示
している.MAXIMUM と示した直線は全ウェハの膜厚最大値の平均を意味しており,ま
た MINIMUM と示した直線は膜厚最小値の平均を意味している.上下限均等法が適用さ
れた後で上側マージンが拡大していることを確認できる.目標平均法を用いていた左側で
は,膜厚の最大値がウェハ何枚かで管理値の上限値を逸脱しているが,上下限均等法を用
いた右側では管理値逸脱による膜厚不良は無くなっている.
3.7.2 マージン拡大効果を定量化する修正工程能力指数による評価結果
上下限均等法によるマージン拡大効果を定量化するために,マージンとばらつきとを比
margin
較する修正工程指数 I p
margin
, I pk
を提案する.これらの指数は,マージンはウェハ面内
分布の範囲を管理値の範囲から差し引くことで求めることができることに基づいて算出さ
れる.ウェハ面内分布の範囲のことを面内幅 WIWB(WithIn-Wafer Band)と呼ぶ.工程能
力指数 Cp,Cpk の分子を WIWB で差し引く.上側と下側のマージンの差を評価するために,
目標値,もしくは管理値の中央値からのウェハ面内平均値の偏差を用いる.
*
*
*
WIWBpost
( w# ) = max Px Tpost
( w# )( s # ) −min Px Tpost
( w# )( s # )
(3.14)
*
*
*
∆Tpost
( w# ) =ave Px Tpost
( w# )( s # ) − ave Px Tpost
( w# )( s # )
(3.15)
s#
s#
s#
w #, s #
64
*
*
σ post
= ave(∆Tpost
(w# ) )
(3.16)
*
TGT
e*post ( w# ) = ave PxT post
( w# )( s # )− Px T post
(3.17)
2
w#
s#
Px
I
margin
p
=
w#
*
6σ post
Px
I pumargin =
Px
I plmargin =
UCL Px LCL
*
Tpost
− Tpost − ave WIWBpost
( w# )
(3.18)
1
*
*
UCL Px TGT
( w# ) − ave epost
( w# )
Tpost
− Tpost − ave WIWBpost
w#
2 w#
*
3σ post
(3.19)
1
*
*
TGT Px LCL
( w# ) + ave epost
( w# )
Tpost
− Tpost − ave WIWBpost
w
w
#
#
2
*
3σ post
(3.20)
I pkmargin = min{I pumargin , I plmargin }
(3.21)
ここで,式(3.21)の演算子 min は括弧中に並んだ数値のうち最小の値を探す演算である.
インデクス w#はウェハについてのインデクスを意味する.
図 3.11 に示した結果の修正工程能力指数を計算した.目標平均法を用いて得られた結果
margin
の Ip
は 0.92 であり,上下限均等法を用いて得られた結果では 0.91 であった.ほぼ同
じとなったが,上下限均等法は管理値内における膜厚分布の配置を制御するのみであり,
ウェハ面内分布そのものを低減することはできないためである.しかし,目標平均法での
margin
結果の I pk
は 0.39 であり,上下限均等法では 0.67 となった.71.6%の指標値向上であ
る.このように上下限均等法は膜厚不良を削減するためのマージン拡大に有効であり,修
正工程能力指数はマージンに関する工程の能力を評価できることが分かった.
65
3.8 結言
多品種量産における膜厚不良を防止するための,製品種類に応じた膜厚計測位置の違い
の観点で,研磨後膜厚の管理値に対するマージンを調整する Run-to-Run 制御法を開発し
た.得られた結論を要約すれば以下の通りである.
(1) 計測位置が同心円上に配置されるブランケットウェハ研磨の結果を用いて半径に対す
る研磨レートをプロファイルとしてモデル化した.
プロファイルに基づき製品ウェハの計測位置の研磨レートを計算する方法を開発した.
(計測位置整合化法)
(2) 製品ウェハの計測位置における研磨前後の研磨レート差を評価し,EWMA フィルタ
を用いて研磨レートのプロファイルをシフトすることによる Run-to-Run での研磨レ
ート更新方法を開発した.(分布シフト法)
管理値の上限値と研磨後膜厚の最大値との差と,下限値と最小値との差が等しいとい
う制約条件を満たす研磨時間の計算方法を開発した.(上下限均等法)
(3) ウェハ面内の全計測位置の膜厚ばらつきの,管理値に対する余裕を定量化するために,
管理値内の上側もしくは下側のいずれか小さい方のマージンを,ウェハ毎のばらつき
で除すことにより計算される修正工程能力指数を定義した.
実際の SoC 製品の量産に上下限均等法を適用した結果,ウェハ面内の全計測位置で研
磨後膜厚を管理値に収めることができた.修正工程能力指数によりその効果を定量化
すると,ウェハ面内の全計測位置に亘る精度向上は 71.6%となる結果を得た.
66
第 4 章 非線形の研磨過程に対する CMP-APC
4.1 緒言
本章では非線形の研磨過程に対する,プロセスモデルのモデリングと Run-to-Run 制御
法について論ずる.対象とする CMP はスラリーにセリア(CeO2)を用いた酸化膜の CMP
である.
酸化膜の CMP では,代表的なスラリーの砥粒はシリカ(SiO2)とセリアの 2 種類である.
シリカスラリーを用いた CMP では,In-Situ でパッドコンディショニングしてブランケッ
トウェハを研磨すれば,研磨量が研磨時間に関して線形となる研磨過程が得られる.研磨
性能が安定しているため半導体ウェハの酸化膜の CMP の主流となっている.一方,旧来
より光学レンズといったガラスの研磨材料として広く利用されているセリアスラリーを用
いた CMP は,非常に高い研磨レートが得られる利点がある.
セリアスラリーを用いた CMP の多品種マイコン・SoC 量産においても,システム化に
よる生産性向上が望まれていた.しかし線形関係のプロセスモデルでは管理基準に対し十
分な精度が得られなかった.すなわち研磨過程のモデル化がシステム化の隘路となってい
た.
そこで本章では,まず 4.2 節でセリアスラリーを用いた酸化膜の研磨過程を確認する.
4.3 節で研磨時間,研磨レート,研磨前膜厚に関する多項式表現による非線形のプロセス
モデルを提案する.このモデルを研磨時間 3 次モデルと呼ぶ.4.4 節で研磨時間 3 次モデ
ルのパラメータの推定方法を提案する.本推定方法は,多品種の量産において当てはめの
ためのサンプル数が少くてもパラメータを算出できること,および研磨過程表現として不
当とならないことに基づいている.4.5 節で研磨時間 3 次モデルのパラメータの推定結果
を示す.4.6 節では研磨時間 3 次モデルに基づくシミュレーション結果とパラメータ推定
結果に基づき,本 Run-to-Run 制御法で用いるモデル表現を得るための方策を示す.4.7
節では方策に従い新たなモデルを提案する.本モデルを FTC(Fixed-coefficient with Time
Correction;研磨時間補正項有り切片固定単純モデル)と呼ぶ.研磨レートに対する非線形
的な効果を反映しているが,研磨時間に関しては線形とできた.本説ではパラメータ推定
方法についても併せて示す.4.8 節で本 Run-to-Run 制御法での計算方法を提案する.4.9
節で FTC モデルに基づく本 Run-to-Run 制御法の評価結果を示す.
67
4.2 セリアスラリーを用いた酸化膜の研磨過程
図 4.1 に表面凹凸形状分布の異なるウェハ 2 種類の,研磨量と研磨レート,研磨時間,
および研磨前膜厚の関係を示す.研磨量は研磨前膜厚と研磨後膜厚の差であり,研磨後膜
厚が目標値となるように研磨時間を調整している.研磨前膜厚が厚ければ研磨量は大きく
なることが想定される.また研磨レートが大きければ,研磨時間は短く調整される.図
4.1(a)(c)の研磨量と研磨レート,研磨前膜厚との関係に特徴は無い.図 4.1(b)では,研磨
時間が同じだとしても研磨レートと研磨前膜厚に応じて研磨量は異なるため研磨量ばらつ
きが大きいが,研磨時間 110 秒から 115 秒の研磨量変化に対し,110 秒以下と 115 秒以上
で研磨量変化が大きくなっており,研磨過程は 3 次関数のような非線形であることがわか
る.
研磨時間に対する研磨量の関係を確認するため,25 秒毎に研磨時間を設定しての研磨実
験を行った.研摩時間以外の条件は図 4.1 に示した研磨の条件と同じであり,押し付け圧
力 35kPa,ヘッド回転数 76rpm,テーブル回転数 75rpm である.ウェハ毎の研磨の前と
In-Situ とでパッドコンディショニングしており,ウェハの研磨中にはスラリーを供給し
続けている.
図 4.1 に示した 2 種類のウェハよりも配線高さが 33%低いウェハを用いたが,
膜の構成は同じである.結果を,図 4.2(a)に研磨量の変化,(b)に研磨量の変化分を時間間
隔で除した研磨レートの変化として示す.これらの図には,平均値をプロットし,段差上
部を実線,段差下部を破線で示した.図 4.2(a)の研磨量の変化からは明確にわからないが,
図 4.2(b)においては,矢印(1)の研磨時間 50 秒までは研磨レートが増加し,矢印(2)の研磨
時間 50 秒から 75 秒の平坦化の際,研磨レートが低下し,そして矢印(3)の研磨時間 75 秒
以降では研磨レートが上昇することがわかった.この研磨レートの変化を研磨量の変化と
して表現すれば,研磨時間 50 秒以降で研磨量は 3 次関数となるように研磨レートが上昇
することを意味する.
この研磨過程を,図 4.1(b)の分布の中心を通るような曲線として定式化できれば,研磨
レートを推定して,研磨時間を自動調整することが可能となる.ただし多品種量産のため
には製品種類の違いをモデルのパラメータに反映できなければならない.セリアスラリー
を用いた酸化膜の CMP の研磨過程モデルの要件は次となる.
(1) 段差平坦化後における,研磨レートの上昇の特徴を表現可能なこと
(2) 研磨時間が算出可能なこと
(3) ブランケットウェハの研磨レートを推定可能なこと
(4) 製品種類毎にモデルパラメータを算出可能なこと
68
Polished thickness (µm)
1.5
Wafer-type1
Wafer-type2
1.4
1.3
1.2
1.1
1.0
0.50
0.55
0.60
0.65
0.70
Removal rate (µm/min)
0.75
Polished thickness (µm)
(a) Polished thickness with removal rate
1.5
Wafer-type1
Wafer-type2
1.4
1.3
1.2
1.1
1.0
100
105
110
115
120
Polishing time (sec)
125
Polished thickness (µm)
(b) Polished thickness with polishing time
1.5
1.4
Wafer-type1
Wafer-type2
1.3
1.2
1.1
1.0
1.95
2.00
2.05
2.10
Film-thickness before CMP (µm)
2.15
(c) Polished thickness with film-thickness before CMP
Fig. 4.1 Polished thickness in actual production
69
Polished thickness (µm)
2.5
Top of step
Bottom of step
2.0
1.5
1.0
(3)
(2)
(1)
5.0
0.0
0
50
100
150
Polishing time (sec)
200
Removal rate (µm/min)
(a) Polished thickness with polishing time
1.0 Increase Decrease Increase
(3)
0.8 (1) (2)
0.6
0.4
0.2
0.0
0
Top of step
Bottom of step
50
100
150
Polishing time (sec)
200
(b) Removal rate with polishing time
Fig. 4.2 Polished thickness along polishing time
70
4.3 研磨時間 3 次モデルとパラメータ推定についての検討
4.3.1 セリアスラリーを用いた酸化膜の研磨過程のモデル化
図 4.2(b)の研磨時間に対する研磨レート変化のグラフより,段差凸部の研磨レートは,
研磨開始 50 秒の段差研磨時には極大となり,段差平坦化完了で一度低くなり,そして上
昇する.図 4.3 にてこの研磨過程のモデルについて検討する.図 4.3(a)でシリカスラリー
による研磨過程と比較する.研磨時間 75 秒から 125 秒までの間で,両方の研磨過程は一
致し,重なるものとした.これは,研磨時間 75 秒程度までは段差研磨の段階,すなわち
ウェハ表面凹凸を研磨している段階であり,セリアスラリーを用いたウェハ表面凹凸の研
磨の段階を,シリカスラリーを用いた研磨と比較するためである.シリカスラリーを用い
た研磨の研磨過程は,図 1.7 に示したように,段差が平坦化するまで徐々に研磨レートが
低下し,平坦化後にブランケットウェハの研磨レートと一致する研磨過程となる.しかし
セリアスラリーを用いた研磨の研磨過程(A)は研磨時間 50 秒までに,シリカスラリーの研
磨過程(B)よりも早く研磨が進む.研磨時間 75 秒の段差平坦化で研磨レートが低下し,研
磨過程(B)程度の研磨の進みとなる.研磨時間 125 秒以降では研磨の進みは研磨過程(B)よ
りも増大する.そこで図 4.3(b)に示すように,多項式として 3 次式に着目する.これを概
念的に表せば図 4.3(b)のようになり,図 4.3(a)に似た研磨過程が表現できるように思われ
Polished thickness (µm)
る.
2.5
(A) Ceria slurry
2.0
1.5
1.0
(B) Silica slurry
0.5
0.0
PES
0
50
100
150
Polishing time (sec)
200
Polished thickness (µm)
(a) Comparison
2.5
3rd order polynomial
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
50
100
150
Polishing time (sec)
200
(b) Characteristic
Fig. 4.3 Polishing process (polishing volume along polishing time)
71
研磨時間に関する 3 次式は次式となる.
Px
H = c0 + ct t + ctt t 2 + cttt t 3
(4.1)
また所要の研磨量を得るためには,ブランケットウェハ研磨レートが高ければ研磨時間
を短くし,研磨前膜厚が厚ければ研磨時間を長くするというように,変数間には交互的な
関係が必要である.そこで双 2 次を含むこれらの 2 次の関係を加えて研磨量を表現するこ
ととした.式(4.2)を研磨時間 3 次モデルと呼ぶ.
Px
H = c0 + ct t + cR B RQC + cp PxTpre
2
+ ctt t 2 + cRR B RQC + cpp PxTpre
2
(4.2)
+ cRt B RQC t + cRp B RQC PxTpre + ctp t PxTpre + cttt t 3
ここでパラメータ c の添え字 0 は切片,また t,R,p はそれぞれ研磨時間,ブランケッ
トウェハ研磨レート,研磨前膜厚に係る項を意味する.
4.3.2 研磨時間 3 次モデルのパラメータ推定方法の検討
研磨時間 3 次モデルはパラメータに関して線形である.そこで,製品ウェハの研磨時間,
研磨前後の膜厚,ブランケットウェハ研磨レートの実績サンプル X と研磨量実値サンプル
H を用い,重回帰分析によりパラメータベクトル c を統計的に決定する.パラメータベク
トル c は次式の最小二乗法により算出する.
(
c = XT X
)
−1
XT H
(4.3)
行列の右上添え字の T は転置を意味する.式(4.3)は,モデルによる研磨量の推定値と実値
との誤差を最小とするパラメータを算出する式である.(XTX)-1XT は X の擬似逆行列,も
しくは一般化逆行列と呼ばれる.
重回帰分析ではサンプル数はモデルのパラメータ数以上でなければならない.研磨時間
3 次モデルのパラメータ数は 11 個である.実績サンプルは図 1.4 に示した処理手順におけ
る研磨レート確認と先行研磨の組み合わせであるため,十分なサンプルを得るにはそれに
応じた製品生産量が必要となる.半導体工場において数種類の製品しか生産していないな
らば 11 枚のサンプル取得は容易であるが,数十以上の種類の製品を生産しているならば,
パラメータを求めるだけのサンプルの収集は困難となる.
実際の生産では,顧客ニーズに応じて製品種類毎に生産量が異なる.そこで生産量の多い
製品のパラメータを他製品に流用することを考える.図 4.4 に少数のサンプルに他製品の
研磨過程を流用した例を示す.三角のプロットは流用を決めた時のサンプルである.実線
が流用した研磨過程,破線が真の研磨過程をあらわすものとする.丸のプロットは流用以
降に得られたサンプルである.膜厚変化の大きい時間範囲では図中の誤差 1,誤差 2 に示
すように誤差が大きくなる.このような誤差の発生を防止するためには,パラメータを流
72
用せず,製品種類それぞれのサンプルによりモデルパラメータを決めたほうが良い.
今,式(4.4)により図 4.4 の三角プロットの当てはめを行う.
Px
H = c0 + c t t
(4.4)
図 4.5 に式(4.4)の当てはめ結果を示す.図 4.4 で大きな誤差となったサンプルとモデル
との誤差は,誤差 3,誤差 4 のように小さくなる.そこで誤差に応じて研磨時間 3 次モデ
ルの内の項を取捨選択し,モデルを決定することとした.
少数のサンプルで高次のモデルの当てはめを行った場合,当てはめ結果の形状も問題と
なる.図 4.6 にそのような例を示す.図 4.6(a)では研磨量は研磨時間に沿って減少,増加,
減少しており,すなわち研磨レートは負,正,負と変化している.また図 4.6(b)では研磨
レートは正,負,正と変化している.研磨レートが負とはなり得ないので,これらは CMP
での研磨過程の表現とはならない.そこで研磨時間 3 次モデルのパラメータに関する制約
条件を設けてモデルの適切性を判定することとした.
パラメータ推定方法の方針をまとめる.
(1) 少数サンプルでパラメータを算出可能とする,研磨時間 3 次モデルの任意の項を組合
せた研磨過程のモデル化
Polished thickness
(2) モデルパラメータの制約条件に基づく研磨過程の判定
Polishing process of
similar product-type wafer
Error2
Error1
True polishing process
After parameter setting
Before parameter setting
Polishing time
Fig. 4.4 Difference between true polishing process and that of similar product-type
73
Polished thickness
Polishing process expressed
with reduced –term model
Error4
Error3
True polishing process
After parameter setting
Before parameter setting
Polishing time
Polishing process where polished
thickness decreases with time
Polished thickness
Polished thickness
Fig. 4.5 Difference between true polishing process and that expressed with reduced-term model
Polishing time
Polishing process where polished
thicknesse once decreases
Polishing time
(a)
(b)
Fig. 4.6 Examples of abnormal polishing process
74
4.4 研磨時間 3 次モデルのパラメータ推定方法
4.4.1 パラメータの算出方法
本モデルパラメータの推定方法は,研磨時間 3 次モデルの項の任意の組合せのうち,制
約条件を満たすモデルを求めるものである.そこでパラメータ計算結果の良否は制約条件
で判定することとし,パラメータの計算にはサンプル数にかかわらずパラメータを求める
ことができるリッジ回帰分析 36)を採用する.
(
c = XT X + θ I
)
−1
XT H
(4.5)
ここで I は単位行列,θ は計算用のパラメータである.
4.4.2 最適な項の組合せを選定するモデル決定法
4.3 節末の方針に従い,項の組合せを設定してパラメータを算出して,当てはまり度合
いを定量化する手段と,当てはまり度合いを比較して制約条件を満たす最適なモデルを選
定する手段の 2 つの処理で構成した.処理手順を図 4.7 のフローチャートに示す.本方法
を最適モデル選定法と呼ぶ.
当てはまり度合いを定量化する手段についてまず説明する.
まず項の組合せは,1 から研磨時間 3 次モデルの項数 11 までの各整数を取る組合せを求
めることにより求まる.
モデルの当てはまり度合いの定量化は,研磨量実値と推定値の誤差標準偏差が小さいほ
どモデルが良いことに基づく.サンプル数に対してモデルパラメータの数が多い場合には
過剰な当てはまりとなる.そこでサンプル数 Nsample,モデルパラメータ数 Nparam,および誤
差標準偏差σ を同時に評価できる赤池情報量基準 AIC 37)により当てはまり度合いを定量化
することとした.
AIC = N sample ln σ + 2 × N param
(4.6)
赤池情報量基準 AIC は小さいほど当てはまりが良い.
4.4.3 研磨過程についての制約
まず,研磨レート上昇の特徴を表現可能なことを定式化する.
図 4.6 に示したように研磨時間増加に対して研磨量が減少することはありえない.研磨
量の研磨時間についての微分(製品ウェハの研磨レート)に基づき条件を設定できる.研磨
時間 3 次モデルの時間微分は次式である.
∂ Px H
= 3c ttt t 2 + 2c tt t + c t + cRt B RQC + c tp PxTPre
∂t
(4.7)
製品ウェハの研磨レートが正であることが条件である.式(4.7)は研磨時間について 2 次
の式であるので,式(4.7)をゼロとおいたときに研磨時間が実数解を持たない,すなわち判
75
Making possible arbitrary combinations from
all terms in polishing-time 3rd model
Parameter estimation with ridge-regression
Calculation of error between actual and estimated
polishing volume
Calculation of criterion based on the error
All combinations
finished
No
Yes
Judgment with
model parameter
constraints
OK
Judgment with
error
criterion
NG
No-best
Best
Set as optimal model
All combinations
finished
No
Yes
End
Fig. 4.7 Flowchart of selecting optimal polishing-process model
別式が負であるとして定式化できる.式(4.7)はブランケットウェハ研磨レート,研磨前膜
厚を含むため,これらの実値の最大値,最小値の組合せを用いて判定することとした.
*
*
(2ctt )2 − 4 × (3cttt )× (ct + cRt B RQC
)< 0
+ ctp PxTpre
(4.8)
変数右肩添え字のアスタリスク*は実値を意味する.
研磨過程は製品ウェハの表面平坦化以降増加する.まず研磨時間に関する 3 次の項につ
いて次の制約条件を設けた.
3cttt ≥ 0
(4.9)
76
研磨時間範囲で製品ウェハの研磨レートは下降して,上昇する.すなわち極小値があり,
式(4.9)が成立するので次式を得る.
ctt ≤ 0
(4.10)
*
t min
≤−
2ctt
*
≤ t max
2 × (3cttt )
(4.11)
研磨時間 t の添え字 min,max はそれぞれ最大,最小である.
次に研磨時間が算出可能なことを定式化する.
式(4.8)が満足されるならば,研磨時間に関し 3 次の項があっても 1 つのみの実数解が得
られる.しかし 3 次の項が選定されずに 2 次の項が選定された場合には式(4.8)に矛盾する.
そこでパラメータ選定について制約条件を設けた.
ここで
c t ≠ 0 ∨ c Rt ≠ 0 ∨ c tp ≠ 0 ∨ c ttt ≠ 0
(4.12)
¬(cttt = 0) ∨ (cttt = 0 ∧ ctt = 0)
(4.13)
¬,∨
, ∧ は否定,論理和,論理積の演算である.
次にブランケットウェハ研磨レートが推定可能なことという条件を定式化する.
ブランケットウェハ研磨レートの項を 2 次とすると 1 つの値に推定できなくなるため,
パラメータ選定について制約条件を設けた.
cRR = 0
(4.14)
cR ≠ 0 ∨ cRt ≠ 0
(4.15)
ブランケットウェハ研磨レートは装置性能を確認するための変量である.そのためブラ
ンケットウェハ研磨レート推定値は管理基準に収まることを制約条件とする.まず実値に
て推定した結果が管理値を逸脱しないこと,また標準的な研磨時間においての製品ウェハ
の研磨レートがブランケットウェハ研磨レートと同等となることを制約条件とした.
B
LCL B ˆ
UCL
RQC
≤ RQC ≤ BRQC
B
LCL
RQC
≤
(4.16)
∂ PxH B UCL
≤ RQC
∂t
(4.17)
添え字の LCL,UCL はそれぞれ下限,上限を意味する.また式(4.16)の計算のためには
式(4.2)に基づき研磨レートを算出し,式(4.16)のためには式(4.7)に基づき研磨レートを算
出する.
以上の 4.4.1 節,4.4.2 節,4.4.3 節に示したパラメータ推定法を,本論文では最適パラ
メータ推定法と呼ぶ.
77
4.5 モデルパラメータ推定結果
(1) 最適モデル選定法の評価
研磨時間 3 次モデルのモデルパラメータを仮定し,乱数を用いてブランケットウェハ研
磨レート,研磨前膜厚,研磨時間と研磨量のサンプルを生成し,最適パラメータ選定法を
適用して評価する.サンプルのばらつきは実際の量産と同等に設定した.仮定した研磨時
間 3 次モデルにサンプル値を代入し,得られた研磨量に研磨量の平均の 1%,および 2%の
標準偏差の正規乱数を加えて研磨量を生成した.仮定した研磨過程と生成したサンプルを
図 4.8 に示す.
最適パラメータ選定法によるモデルパラメータ推定結果を表 4.1 に示す.表 4.1(a)は仮
定した設定値,研磨量 1%標準偏差サンプルによる 5,10,15,20,50,100 サンプルを用いた推
定結果,表 4.1(b)は研磨量 2%標準偏差サンプルによる 5,10,15,20,50,100 サンプルを用い
た推定結果,研磨量 0.05%標準誤差の 100 サンプルによる推定結果である.表 4.2(b)の最
も右の列 Ref.(σ 0.05%)に示した,研磨量 0.05%標準誤差の 100 サンプルによる結果では設
定と同じモデルパラメータが選定され,値も非常に近い結果となった.
一方,研磨量 1%,2%標準誤差サンプルによる結果ではサンプル数に応じて異なるモデ
ルパラメータが選定された.cRt のほか ct も選定されている場合が多く,研磨時間に応じて
研磨量が増加する効果が反映されている.図 4.9 に各結果による研磨過程を示す.5,10 サ
ンプル以外の結果は設定した研磨過程に近いことがわかる.
仮定したモデルに研磨量 1%,2%標準偏差の乱数を別途 100 サンプル作成し,パラメー
タ推定結果を用いて研磨量予測値を求め,誤差の標準偏差を評価した.誤差標準偏差を研
磨量 1%,2%標準偏差の値で割った値を表 4.2 に示す.この割合はサンプル数を増やすと
100%に収束する.100%以下は偶然に乱数成分が予測モデルに近い値となることを意味す
る.σ 1%のばらつきに対し,15 サンプルでは誤差標準偏差はσ 1%×114.6%/100%=σ 1.15%
となっている.また σ 2%のばらつきに対しても,15 サンプルでは誤差標準偏差は σ
2%×107.2%/100%=σ 2.14%となっている.この値から,10 サンプルより多ければ,仮定し
た設定値と同程度の研磨量精度となるモデルパラメータを決定できることがわかる.
78
Polished thickness (µm)
1.4
1.3
Polishing process
Generated sample
1.2
1.1
1.0
80
90
100 110 120 130
Polishing time (sec)
140
Polished thickness (µm)
(a) Sigma σ 1%
1.4
1.3
Polishing process
Generated sample
1.2
1.1
1.0
80
90
100 110 120 130
Polishing time (sec)
140
(b) Sigma σ 2%
Fig. 4.8 Polishing process and generated sample
79
Table 4.1 Parameter estimation results
(a)
Para- Setting
Estimation result (σ 1%)
5 sample 10 sample 15 sample 20 sample 50 sample 100 sample
meter
c0
0
0
0
6.8739
7.0327
6.9723
0
cR
0.0767
0
0
0
0
0.1397
0.1089
ct
0.2385
0
0.1889
0.0387
0.0381
0.0373
0
cp
0
0.4699
0
0
0
0
0.9153
c RR
0
0
0
0
0
0
0
c tt
-0.0018
0
0
0
0
0
0
c pp
0
0
-0.0204
0
0
0
-0.0268
c Rt
0
0.0023
-0.0183
0.0013
0.0011
0
0
c Rp
0
0
0.0984
0
0
0
0
c tp
0
0
0
0
0
0
0.0017
c ttt 5.28×10-6
0
0
0
0
0
0
(b)
ParaRef.
Estimation result (σ 2%)
10
sample
15
sample
20
sample
50
sample
100
sample
meter 5 sample
(σ 0.05%)
c0
11.5777
0
10.9224
0
0
7.4203
0
cR
0
-6.7724
0
0
0
0
0.0763
ct
0
0.4976
0
0.1792
0.1756
0.0359
0.2407
cp
0
0
0
0
0
0
0
c RR
0
0
0
0
0
0
0
c tt
0
0
0
0
0
0
-0.0018
c pp
0
0.0166
0
0.0190
0.0157
0
0
c Rt
0.0007
0
0.0056
0.0012
0.0008
0.0008
0
c Rp
0
0.3361
-0.0227
0
0
0
0
c tp
0
-0.0225
0
-0.0074
-0.0064
0
0
c ttt
0
0
0
0
0
0 5.47×10-6
80
Polished thickness (µm)
1.4
Setting
5 sample
1.3
10 sample
15 sample
1.2
20 sample
1.1
50 sample
1.0
80
100 sample
90
100 110 120 130
Polishing time (sec)
140
Polished thickness (µm)
(a) Sigma σ 1%
1.4
Setting
5 sample
1.3
10 sample
15 sample
1.2
20 sample
1.1
50 sample
1.0
80
100 sample
90
100 110 120 130
Polishing time (sec)
140
(b) Sigma σ 2%
Fig. 4.9 Estimated polishing process
Table 4.2 Prediction error standard deviation compared with variation
Model 5 sample 10 sample 15 sample 20 sample 50 sample 100 sample
296.1%
283.3%
114.6%
109.6%
104.8%
100.7%
σ1%
136.6%
189.3%
107.2%
103.8%
101.1%
99.1%
σ2%
(2) 量産サンプルへの適用結果
量産 42 品種に対し,最適パラメータ選定法を適用した結果を表 4.3 に示す.推定した研
磨量の誤差標準偏差をσ H とし,σ H の 6 倍が研磨後膜厚の管理値(上限値
Px
Px
UCL
Tpos
t ,下限値
LCL
Tpost
)より小さければ,モデルを量産適用できるとし,次条件で判定する.
Px
index =
UCL Px LCL
Tpost
− Tpost
6σ H
≥1
(4.18)
81
表 4.3 より,製品 42 種類の内 25 種類,すなわち 62.5%の製品種類で条件を満たしてい
ることがわかる.但しサンプル数 n が 10 件以下の,表中をグレーに塗った場合では,4.4.1
項の結果より精度が不十分となる.10 サンプル以上の 18 種類については 9 種類,すなわ
ち 50%の製品種類で条件を満たしていることがわかる.最適パラメータ選定法は,多品種
量産におけるサンプルを用いて,研磨後膜厚の管理値に対して十分な精度で研磨量を推定
できるモデルを決定できることがわかった.
Table 4.3 Parameter estimation results with actual production sample
No
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
n index Judgment
21 1.01 Satisfied
26 0.59 6 2.71 Satisfied
24 0.90 24 0.78 9 2.50 Satisfied
6 0.44 6 1.83 Satisfied
13 0.42 9 1.91 Satisfied
6 3.09 Satisfied
6 2.21 Satisfied
9 0.33 15 1.38 Satisfied
9 0.30 6 1.44 Satisfied
18 1.09 Satisfied
14 1.11 Satisfied
6 1.68 Satisfied
12 0.64 9 0.95 -
No
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
82
n index Judgment
11 0.43 18 0.37 6 2.48 Satisfied
15 2.11 Satisfied
9 3.15 Satisfied
9 2.25 Satisfied
6 1.77 Satisfied
6 2.41 Satisfied
24 0.53 9 0.71 6 0.95 9 2.96 Satisfied
6 0.15 18 1.16 Satisfied
6 1.17 Satisfied
6 1.32 Satisfied
24 0.98 15 1.18 Satisfied
18 0.92 18 1.68 Satisfied
6 1.60 Satisfied
4.6 非線形の研磨過程に対する Run-to-Run 制御実現のための課題
式(4.2)で表現される研磨時間 3 次モデルにより,表面に凹凸のあるウェハの研磨におい
て,初期段階の段差研磨中では研磨の進み(研磨レート)が速く,平坦化が達成されたと
きに研磨の進みが遅くなり,以降さらに研磨の進みが速くなるという,セリアスラリーを
用いた CMP の研磨量の変化が推定可能となる.また研磨前膜厚とブランケットウェハ研
磨レートの項を導入することで,目標の膜厚となる研磨時間も算出できる.
さらに前節で示したように,最適パラメータ選定法を適用すれば,研磨時間 3 次モデル
の内の幾つかの項を用いるだけで,研磨量を推定できる.
最適パラメータ選定法によれば少数の項のプロセスモデルが得られるが,多くの種類の
製品生産における制御計算や制御システム実現のためには,モデルを表現する式を統一し
ておくことは重要である.また Run-to-Run 制御法を量産に適用するためには,制御結果
である研磨後膜厚が管理値を外れてしまうような研磨時間の調整値を算出しないことが必
要である.すなわち制御が安定であることである.そこで本節では Run-to-Run 制御法で
利用する式表現について検討する.
4.6.1 研磨時間 3 次モデルの Run-to-Run 制御実現における問題点
式表現を統一するための一つの方法は,研磨時間 3 次モデルの式(4.2)そのもので研磨時
間と研磨レートを計算することである.最適パラメータ選定法で選定されなかった項のパ
ラメータはゼロとして扱えばよい.
そこで研磨時間 3 次モデルに基づく Run-to-Run 制御法をシミュレーションにより評価
した.シミュレーションで参照したデータは,ブランケットウェハの研磨レートをモニタ
リングしたときの実値と,以降に処理された製品 15 ロット処理(膜厚計測ウェハ 39 枚)の
実値である.シミュレーションでは,製品ロット着工の度に,研磨前膜厚,研磨レート,
そして研磨後膜厚の目標値を得るための研磨量を参照して,研磨時間 3 次モデルにより研
磨時間を算出した.算出した研磨時間と実値との差を取り,研磨レートを掛け合わせるこ
とで研磨後膜厚の差を求めた.結果を図 4.10 に示す.図 4.10(a)はロット毎のプロットで
ある.図 4.10(b)はウェハ毎のプロットであり,ロット間に隙間(空白)を入れた.ここで
TGT,UCL,LCL は目標値,上限値,下限値である.同図より,式(4.2)を用いて求めた研
磨時間の値は実値と比較してばらついていること,そして式(4.2)に基づく研磨後膜厚は上
下限値の範囲から外れる程ばらついていることがわかる.
ここで,研磨時間は次式に示すカルダノの公式で算出している.
t=3
− q + q2 + 4 p3 3 − q − q 2 + 4 p3
c
+
− tt
2
2
3c ttt
83
(4.19)
p=
(
9c ttt
2
(
3
q=
)
3c ttt c t + cRt B RQC + c tp Px Tpre − c tt
2
(4.20)
)
2
2ctt − 9cttt ctt ct + cRt B RQC + ctp PxTpre + 27cttt r
27cttt
3
r = c0 + cR B RQC + cp PxTpre
2
2
+ cRR B RQC + cpp PxTpre + cRp B RQC PxTpre − Px H
(4.21)
(4.22)
カルダノの公式はパラメータが多く,この式を用いて研磨時間のシミュレーション値を
ばらつかせた原因となるモデルパラメータの特定や,パラメータ値の見直しによる制御性
向上の検討といった解析は困難と考えられる.
160
Polishing time (sec)
140
120
100
80
60
40
20
0
Actual
Simulation
(send-ahead)
Simulation
(lot)
Work sequence (lot)
Film thickness (µm)
(a) Polishing time with work sequence
1.5
1.4
1.3
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
Actual
Simulation
TGT
LCL
UCL
Work sequence (wafer)
(b) Film-thickness with work sequence
Fig. 4.10 Run-to-run control simulation results with time 3rd model
84
また Run-to-Run での研磨レート推定計算においても,式(4.3)によれば,2 次方程式を
解く必要がある.研磨時間算出の不具合解析と同様に,やはり解析は難しい.
式(4.3)の表現ではなく,最適パラメータ選定法の結果を個別に,製品種類毎の式表現と
することも考えられる.しかし項の組合せ数 11C11+11C10+ ~ +11C1 は膨大となるため,個別
の計算処理のシステム実装や,安定性の解析は現実的ではないとわかる.
4.6.2 最適パラメータ選定法の結果に基づく式表現についての検討
研磨時間 3 次モデルは 11 個の項を持つが,最適パラメータ選定法を適用した結果,数
個の項でもサンプルの研磨量ばらつきと同程度に研磨量を推定できるモデルが得られた.
真の研磨過程として想定した式は研磨時間について 3 次関数としたが,選定結果には研磨
時間が 3 次となる項は含まれなかった.表 4.1 に示した 12 回のパラメータ選定の結果,cRt
は 9 回,また ct は 8 回と,多くの場合について選定されていた.すなわち以下の式となる.
(4.23)
H = c0 + ct t + cRt RQC t
式(4.23)は,式(1.2)で表現されるシリカスラリーを用いた酸化膜の CMP のプロセスモデ
ルに,ブランケットウェハ研磨量 RQCt に係数 cRt を掛けて,さらに研磨時間のみで研磨量
を補正する項 ctt を追加した式である.ブランケットウェハ研磨量のことを本論文では換算
研磨量と呼ぶ.またセリアスラリーを用いた研磨であっても製品ウェハの凹凸はあるため,
式(4.23)には切片 c0 を含めている.すなわち式(4.23)はシリカスラリーを用いた酸化膜の
CMP のプロセスモデルに対して,研磨レートを係数で補正し,さらに図 4.3 に示したウェ
ハ表面平坦化後の研磨量上昇の効果を研磨時間項 ctt で表現したものと捕らえることがで
きる.
セリアスラリーを用いた酸化膜の CMP のプロセスモデルを,ウェハ表面凹凸部の研磨
の効果と,平坦化以降の研磨量上昇の効果に分けて考えれば,式の項を少なくできる可能
性がある.
そこで,シリカスラリーの場合を参考にして,線形の式(1.2)をベースとし,実際の研磨
量に対するモデルの誤差をもとに補正項を導入し,Run-to-Run 制御用のモデルを定式化
することとする.
85
4.7 FTC モデル
4.7.1 FTC モデルの設計
セリアスラリーを用いた酸化膜の CMP の研磨過程を図 4.11(a)に示す.図 4.11(a)には
シリカスラリーを用いた CMP についても示しており,これより平坦化が完了する研磨時
間 90 秒,研磨量 1.2µm 程度まで研磨が速く進むが,それ以降は研磨の進みは少し遅くな
ることがわかる.セリアスラリーを用いた場合,平坦化が完了すると研磨の進みは一旦遅
くなるが,それ以降,研磨レートが上昇しながら研磨が進むことがわかる.
図 4.11(b)に研磨時間範囲が 90 から 130 秒の間における研磨過程を拡大し,また研磨過
程を単純化した直線を補助線で示す.セリアスラリーを用いた CMP の研磨過程は,研磨
時間が 110 秒より短いとき補助線に対して研磨量が小さく,110 秒より長いとき研磨量が
大きくなる.補助線の直線は研磨時間とブランケットウェハ研磨レートの積に比例するの
で,式(4.24)で表現する.
Px
H = c0 + c Rt B RQC t
(4.24)
式(4.24)を単純モデル(Simple Model)と呼ぶ.研磨時間とブランケットウェハ研磨レート
Polished thickness (µm)
の積を,換算研磨量と呼ぶ.ここで平坦化完了時点の研磨レートはブランケットウェハ研
2.5
(A) Ceria slurry
2.0
(C) Auxiliary line
1.5
1.0
(B) Silica slurry
0.5
0.0
0
50
100
150
Polishing time (sec)
200
Polished thickness (µm)
(a) Comparison
1.5
(A) Ceria slurry
1.4
1.3 (C) Auxiliary line
1.2
1.1
1.0
90
100
110
120
Polishing time (sec)
130
(b) Magnified view
Fig. 4.11 Polishing process (polishing volume along polishing time)
86
磨レート程度であるとすれば,cRt は 1 程度になる.
単純モデルとセリアスラリーを用いた実際の研磨量を定量的に比較するため,製品ウェ
ハ研磨結果の換算研磨量と実際の研磨量を図 4.12 にプロットして示す.換算研磨量は
0.8µm から 1.3µm の範囲に分布しているが,研磨量は 1.1µm から 1.3µm と狭い範囲に分
布している.上述の図 4.11(b)の研磨量変化の特徴を考慮すれば,図 4.12 における実際の
研磨量と換算研磨量の差を取り,式(4.24)に研磨時間に関する補正項を導入すれば,研磨
過程のモデル精度が向上すると考えられる.
ブランケットウェハ研磨レートと研磨前膜厚による,研磨量と換算研磨量との差の補正
を考える.ここでは研磨前膜厚を研磨レートで除した合成変数 Tpre/RQC を導入する.この
合成変数 Tpre/RQC を研磨時間補正変数と呼ぶ.これは時間の次元を持つ.
研磨時間補正変数の値と,単純モデルにより算出される換算研磨量と実際の研磨量との
差を,図 4.12 に示したデータにより確認した.研磨時間補正変数値は,研磨前膜厚とブラ
ンケットウェハ研磨レートの実値で得られる.単純モデルのモデルパラメータはフィッテ
ィングで求めた.ここでは c0=0 とし,最小二乗法により cRt=1.12 を得た.そして実際の研
磨量と得られたパラメータによる単純モデルによる研磨量推定値の差を求めた.この差を
単純モデル残差と呼ぶ.研磨時間補正変数値に対する単純モデル残差の関係を図 4.13 に示
す.研磨時間補正変数値と単純モデル残差に正の相関を確認できる.そこで,研磨時間補
正変数と単純モデル残差との関係を次式の直線のモデルで表現することとした.
Px
Px
B
H − c0 − cRt RQC t = c0p/R + cp/R
B
Tpre
RQC
(4.25)
切片 c0p/R を研磨時間補正切片と呼ぶ.また cp/RTpre/RQC を研磨時間補正項と呼ぶ.式(4.25)
Polished thickness (µm)
を変形し,研磨量 H を表現する次式のモデルを得る.
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
Blanket-wafer equivalent polished thickness (µm)
Fig. 4.12 Polished thickness and blanket-wafer equivalent polished thickness
87
Residual with simple model (µm)
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
2
3
4
Polishing-time correction term (min)
5
Fig. 4.13 Residual with simple model and polishing-time correction variable
Polished thickness (µm)
1.35
1.25
RQC: low
PxT : thick
pre
Simple,RQC:0.61
Simple,RQC:0.63
Simple,RQC:0.65
FTC,RQC:0.61
FTC,RQC:0.63
FTC,RQC:0.65
RQC: high
PxT : thin
pre
1.15
1.05
100
110
120
Polishing time (sec)
130
Fig. 4.14 Polishing-time and polished-thickness relation with FTC model
Px
Px
H = c0 + cRt B RQC t + c0p/R + cp/R
B
Tpre
RQC
(4.26)
式(4.26)を FTC モデル(Fixed-coefficient with Time Correction;研磨時間補正項有り切片
c0 固定単純モデル)と呼ぶ.
FTC モデルにおける研磨時間と研磨量の関係を図 4.14 に示す.太線が FTC モデル,細
線が単純モデルの関係を表し,ブランケットウェハ研磨レートが 0.61,0.63,0.65µm/min
のときの関係をそれぞれ実線,破線,点線で示している.研磨前膜厚が厚いならば,所定
の研磨後膜厚を得るための研磨量は大きい.図 4.14 左下に示す様に,研磨前膜厚が薄く所
望の研磨量が 1.05µm と小さく,ブランケットウェハ研磨レートが高いとき FTC モデルは
単純モデルと比較して研磨時間を長く調節できる.また図 4.14 右上に示す様に,研磨前膜
厚が厚く所望の研磨量が 1.25µm と大きく,ブランケットウェハ研磨レートが低いとき
FTC モデルで研磨時間を短く調節できる.
88
FTC モデルを用いれば,研磨前膜厚とブランケットウェハ研磨レートを参照して,式
(4.23)に相当する研磨時間調整効果が得られる.そこで FTC モデルを Run-to-Run 制御に
用いる式表現として,次節以降で制御実現に必要となるモデルパラメータの決定方法,制
御計算方法について検討する.
4.7.2 FTC モデルのパラメータ
(1) FTC モデルパラメータの推定方法
FTC モデルのパラメータ c0,cRt,c0p/R,cp/R の推定方法について検討する.本研究では,
2 通りの推定方法を検討する.ひとつは 1 回の重回帰分析により一括にパラメータを推定
する,一括パラメータ推定法である.もうひとつは,4.7.1 節で示した FTC モデル導出に
倣った方法である.すなわち単純モデルのパラメータをまず推定し,次に研磨時間補正変
数に関するモデルパラメータを推定する,2 段階推定法である.
一括パラメータ推定法では,研磨量,研磨時間,研磨レート,研磨前膜厚の実値より,
FTC モデルの式(4.26)の各変量のサンプルを作成し,重回帰分析によりパラメータ c0,cRt,
cp/R を推定する.c0p/R は c0 と区別できないので 0 として扱う.
2 段階推定法では,まず単純モデルの式(4.24)の切片 c0 をマニュアルで定める.そして
単純モデルの換算研磨量項 cRtRQCt のパラメータを次式で推定する.
n
cRt =
∑(
Px
i =1
)
*
H * (i ) − c0 B RQC
(i )t * (i )
n
∑(
i =1
B
*
QC
*
R (i )t (i )
(4.27)
)
2
ここで n はサンプル数である.右上添え字のアスタリスク*は各変量の実値を意味する.そ
して単純モデルによる残差を出力 y,研磨時間補正変数値を入力 X として,最小二乗法に
より残りのパラメータ c=[c0p/R cp/R]T を求める.
2 段階推定法は,単純モデルと研磨時間補正変数に関わるモデルのパラメータを段階的
に求めるものであり,各段階では研磨量の推定値と実値との誤差を最小とする計算方法で
ある.すなわち,研磨前後の実値のデータではウェハ表面凹凸の効果と平坦化後の研磨量
増加の効果を切り分けることができないという状況において,ウェハ表面凹凸の効果を切
片 c0 で仮定して効果を分離して,研磨量推定誤差を最小とするパラメータを推定する方法
である.
(2) 推定結果の評価
図 4.12,図 4.13 のデータを用いて FTC モデルに 2 段階推定法と一括パラメータ推定法
を適用した結果を表 4.4 に示す.2 段階推定法では c0=0 と設定した.一括パラメータ推定
法を適用する場合,切片 c0 をマニュアルで定める必要は無い.
表 4.4 より FTC モデルによる研磨量推定残差の標準偏差 residual SD は一括パラメータ
89
推定結果の方が小さく,推定精度が良いことがわかる.しかし一括パラメータ推定ではパ
ラメータ値が小さくなることがわかる.特に一括パラメータ推定法による換算研磨量項
cRtRQCt のパラメータ cRt は 0.144 となった.これはブランケットウェハ研磨レートに対し,
製品ウェハの研磨レートが 0.144 倍であることを意味する.段差研磨中で研磨レートが高
いことは切片 c0 で,また平坦化完了後の研磨レート変化は研磨時間補正項パラメータ cp/R
と研磨時間補正切片 c0p/R で補正できるように FTC モデルを定めている.平坦化完了時点
における研磨レートはブランケットウェハ研磨レートと同程度であることを想定している.
図 4.12,図 4.13 のサンプル数は 327 件あり,3 パラメータの重回帰分析には十分な数に
もかかわらず,以上のように一括パラメータ推定法を適用した場合には cRt が 1 から大き
く外れた.ブランケットウェハの研磨の進みに対して平坦化後の製品ウェハの研磨の進み
を表すパラメータとして,不適切なパラメータの推定結果となってしまった.
次に,統計量を比較する.表 4.4 上段のパラメータ欄の括弧内の数値は重回帰分析の P
値である.これはパラメータ値が 0 という仮説の有意確率であり,P 値が小さいほどパラ
メータの値は左辺の変化に影響する.表 4.4 より,2 段階推定法では P 値が小さく良好で
あることがわかる.
相関係数値 R2 はサンプルデータと推定値の相関関係を表現し,1 に近いほど推定結果が
実際のデータとあっていることを意味する.一括パラメータ推定結果では 0.027 と小さい
が,2 段階推定結果は各段階で 0.993,0.605 と高相関となっていることがわかる.
F 値は重回帰分析において,推定に用いた変数による推定結果の良否を検定する値であ
り,小さいほど当てはまりが良い.表 4.4 下段を比べると,2 段階推定では各段階で変数
の設定が良いが,一括パラメータ推定では変数の設定が劣る結果となっていることがわか
る.
以上より,残差標準偏差 residual SD の観点からは一括パラメータ推定法の方が良好だ
が,2 段階推定法の方が統計的有意性の観点からは良好と判断される.
Table 4.4 Parameter estimation results
c 0(P-value) c Rt(P-value) c 0p/R(P-value) c p/R(P-value)
0.000
1.117
-0.851
0.246
fixed-intercept
(-)
(0.0)
(0.0)
(0.0)
for simple model
0.928
0.144
0.033
all paramter
estimation
(9.57×10-21)
(0.003)
(-)
(0.011)
fixed-intercept
for simple model
all paramter
estimation
residual SD
0.063
0.043
R2
1st:0.993
2nd:0.605
0.027
90
F-value
1st:0.0
2nd:0.0
0.013
Polished thickness
Model[0]
Model[1]
Result[1]
Model[2]
Result
Model
True process
Target
Result[2]
t[2]t[1] t[3]
Polishing time
Polished thickness
(a) Steep decline
Result
Model[1]
Model
True process Result[1]
Target
Model[0]
Result[2]
Model[2]
t[2]
t[1]
Polishing time
(b) Gentle decline
Fig. 4.15 Polishing time calculation and removal-rate update
(3) 一括パラメータ推定の危険性
上述の通り,一括パラメータ推定法による推定結果はパラメータ cRt が想定される値より
も小さくなった.このような換算研磨量項のパラメータ推定値が実際に想定されるパラメ
ータより小さい場合に,Run-to-Run 制御法で発生する不具合を,図 4.15 を用いて説明す
る.図 4.15(a)(b)ともに横軸を研磨時間,縦軸を研磨量に取っており,真の研磨時間と研
磨量の関係を破線で示す.実際の研磨量はこの破線近傍にばらつく.また目標の研磨量を
一点鎖線で示す.プロセスモデルは単純モデルの式(4.24)であるとした.研磨結果より研
磨レート,すなわち傾きを更新して,次回処理の研磨時間を求める手順で制御を行う.図
4.15(a)ではプロセスモデル初期値 Model[0]の傾きが真の関係と近い場合を示している.こ
のモデル Model[0]により研磨時間 t[1]を求め,研磨の結果,真の関係より研磨量が大きい
側にばらついた実値 Result[1]となった.この結果より研磨レートを更新すれば更新したプ
ロセスモデル Model[1]が得られる.これより研磨時間 t[2]を求め,研磨し,結果 Result[2]
を得る.研磨レート更新によりプロセスモデル Model[2]が得られる.研磨結果がばらつい
ても研磨時間算出値は真の関係で求まる研磨時間の付近に留まることがわかる.一方,図
91
4.15(b)には真の関係よりもプロセスモデル Model[0]の傾きがかなりなだらかとなってい
る場合を示している.研磨時間 t[1]による研磨の結果 Result[1]が得られ,研磨レート更新
によりプロセスモデル Model[1]が得られる.このモデル Model[1]では研磨時間は t[2]とし
て算出される.研磨時間 t[2]で研磨を行うと,実際の研磨結果は真のモデル付近にばらつ
くので結果 Result[2]が得られる.このモデル Model[2]では次回の研磨時間は負となって
しまう.一括パラメータ推定では研磨量推定残差の標準偏差 residual SD が小さいという
点で高精度な推定結果となったが,換算研磨量項の係数値が小さ過ぎるため制御が不安定
となる危険があることが,以上の考察よりわかる.
(4) 切片値に応じた 2 段階推定法の特徴
2 段階推定法を採用し,切片 c0 を変化させて FTC モデルのパラメータを推定し,研磨
量残差標準偏差 residual SD を求めた結果を表 4.5 に示す.同表より切片 c0 が大きくなる
と換算研磨量項パラメータ cRt は小さくなることがわかる.切片 c0 が 0.0 から 0.2 の範囲で
換算研磨量項パラメータ cRt が 1 に近い結果を得ることができた.
表 4.4 に示した結果では一括パラメータ推定法は残差標準偏差 Residual SD については
0.043 が得られ良好であった.このときパラメータ推定値は c0+c0p/R=0.928,cRt=0.144,
cp/R=0.033 であった.表 4.5 に示す 2 段階推定法では,切片 c0 が 1.0 で c0+c0p/R=0.854,ま
た cRt=0.185,cp/R=0.042 と一括パラメータ推定法の結果と近く,また残差標準偏差 Residual
SD も 0.043 と同程度の精度の結果を得ることができた.
2 段階推定法は本節項目(2)で示したように,パラメータ推定結果の統計的有意性が良好
であった.本項目で示したように切片 c0 を各値に設定することで換算研磨量項パラメータ
が 1.0 近傍となる各パラメータの値を求めることも,残差標準偏差 Residual SD を最小と
する各パラメータの値を求めることもできた.そこでパラメータ推定方法としては 2 段階
推定法を採用することとする.そして切片 c0 を様々に設定して各パラメータの値を求めて,
Run-to-Run の制御をしたときの安定性を評価することにより,最終的な各パラメータの
値を決定する.
92
Table 4.5 Parameter estimation results with various fixed-intercept
c0
-10.0
-1.0
-0.9
-0.8
-0.7
-0.6
-0.5
-0.4
-0.3
-0.2
-0.1
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2.0
10.0
c Rt
10.435
2.049
1.956
1.862
1.769
1.676
1.583
1.490
1.396
1.303
1.210
1.117
1.024
0.931
0.837
0.744
0.651
0.558
0.465
0.371
0.278
0.185
0.092
-0.001
-0.094
-0.188
-0.281
-0.374
-0.467
-0.560
-0.653
-0.747
-8.201
c 0p/R
-7.902
-1.556
-1.486
-1.415
-1.345
-1.274
-1.204
-1.133
-1.063
-0.992
-0.922
-0.851
-0.781
-0.710
-0.640
-0.569
-0.499
-0.428
-0.358
-0.287
-0.217
-0.146
-0.076
-0.005
0.065
0.136
0.206
0.277
0.347
0.418
0.488
0.559
6.200
93
c p/R residual SD
2.283
0.501
0.450
0.102
0.429
0.098
0.409
0.093
0.388
0.089
0.368
0.086
0.348
0.082
0.327
0.078
0.307
0.074
0.287
0.070
0.266
0.067
0.246
0.063
0.225
0.060
0.205
0.057
0.185
0.054
0.164
0.051
0.144
0.049
0.124
0.047
0.103
0.045
0.083
0.044
0.063
0.043
0.042
0.043
0.022
0.043
0.001
0.043
-0.019
0.044
-0.039
0.045
-0.060
0.047
-0.080
0.049
-0.100
0.052
-0.121
0.054
-0.141
0.057
-0.162
0.061
-1.791
0.407
4.8 Run-to-Run 制御法における計算方式
FTC モデルをプロセスモデルとして,ロット処理において研磨前に研磨時間を算出し,
研磨後にブランケットウェハ研磨レートを推定するための計算方法を示す.
4.8.1 研磨時間の算出
次式で研磨時間を算出する.
(
Px
Px
)
*
TGT
Tpre
− Px Tpost
− c0 − c0p/R − cp/R
*
Tpre
B ˆ
R
QC
t=
cRt
B
Rˆ QC
(4.28)
ここでブランケットウェハ研磨レート RQC のハット^は推定値であることを意味する.ブラ
ンケットウェハを用いた研磨レート確認作業の直後の製品ロットでは,研磨レート確認作
業で算出したブランケットウェハ研磨レートを採用する.
4.8.2 研磨レート推定
FTC モデルの式(4.26)右辺第 4 項はブランケットウェハ研磨レートを分母とする分数で
ある.よって 2 次式よりブランケットウェハ研磨レートが算出されるが,ひとつを求めな
ければならない.
FTC モデルは段差の有る表面を平坦化する研磨過程を簡略化した単純モデルに,平坦化
完了以降の研磨レートの変化の効果を研磨時間補正項として導入したものである.研磨時
間補正項により補正の対象となる研磨量の範囲は,例えば図 4.12 ならば-0.25µm から
0.25µm であり,全研磨量 1.2µm 程度に対し割合は少ない.そこで FTC モデルの式(4.26)
右辺第 4 項のブランケットウェハ研磨レートは研磨時間算出に用いた推定値とし,右辺第
2 項でブランケットウェハ研磨レートを推定することとした.すなわち式(4.29)でブランケ
ットウェハ研磨レートを推定する.
(
B
tmp
RQC
=
Px
Px *

T pre 
*
*

Tpre
− Px T post
−  c0 + c0 p / R + c p / R B
ˆ 

R
QC 

*
cRt t
)
(4.29)
tmp
この推定値 RQC には研磨ばらつきが入ってしまうため,EWMA(Exponentially-Weighted
Moving Average)により平滑化する.
B
tmp
Rˆ QC [i + 1] =λ BRQC
+ (1 − λ ) BRˆ QC [i]
(4.30)
インデクス[i]はレート確認作業後の i 回目を意味する.λ は重み係数であり,0 から 1 の
範囲で設定する.
94
4.9 評価結果
4.9.1 Run-to-Run 制御シミュレーション結果
以上で提案した FTC モデルの有効性について,図 4.12,図 4.13 に示した製品種類とは
異なる製品種類の CMP の実値を用いてシミュレーション検証を行った.まず FTC モデル
のパラメータを推定した.図 4.16 に換算研磨量と研磨量の関係を,図 4.17 に研磨時間補
正項と単純モデル推定残差との関係を示す.それぞれ図 4.12,図 4.13 と類似した分布を
示している.2 段階推定法によるパラメータ推定結果を表 4.6 に示す.切片 c0 が 0.0 付近
のとき換算研磨量項のパラメータ cRt が 1.0 付近となった.
研磨レート確認作業後の 15 ロット(膜厚計測ウェハ全 39 枚)の実績に対して
Run-to-Run 制御シミュレーションを行った.シミュレーションでは式(4.28)により研磨時
間を算出し,研磨時間実値の差分とブランケットウェハ研磨レートにより研磨後膜厚実値
を加減して研磨後膜厚のシミュレーション結果を得た.なお式(4.30)の重み係数λ は 0.5 に
固定している.表 4.7 に切片 c0 各値に対するシミュレーション結果一覧を,また図 4.18
にロット処理毎の研磨後膜厚のトレンドを示す.表 4.7 は左から切片 c0,研磨後膜厚の平
均値,最小値,最大値,標準偏差,工程能力指数 Cp,Cpk を示しており,実値,先行研磨
作業の有無に分けて一覧とした.工程能力指数は次式で算出した.
Cp =
UCL − LCL
6σ
C pk =
(4.31)
min{UCL − d , d − LCL}
3σ
(4.32)
ここでデータ d の上のバーは平均を意味し,σ は標準偏差である.min{a,b}は a と b の小
さい値を返す演算である.工程能力指数が 1 より大きいとき,管理値の余裕ははばらつき
の 3 倍以上であり,精度が良好であることを意味する.
実績の工程能力指数 Cp=1.50,Cpk=1.40 に対し,切片 c0=0.0 のとき先行研磨作業実施で
Cp=1.54,Cpk=1.49,先行研磨作業無しで Cp=1.43,Cpk=1.39 の結果となり,プロセスモデル
に基づく研磨時間算出,ブランケットウェハ研磨レート推定による Run-to-Run 制御法に
より十分な精度が得られることがわかった.また切片 c0 が 0.0 から離れると研磨後膜厚精
度が悪くなるが,図 4.18(a),(b)から研磨後膜厚が大きくドリフトしていることがわかる.
制御計算を繰り返すことにより研磨時間,及びブランケットウェハ研磨レートの算出値が
発散していくためである.従って切片 c0 に対する制御性の確認は重要であることがわかる.
以上の制御法において,プロセスモデルのパラメータを,制御をシミュレートすること
により決定した.プロセスモデルのパラメータは 4.3 節,4.7 節で試みたように,最小二
乗法といった当てはめにより求めることが多い.非線形の研磨過程が複雑になると,装置
の経時変動や製品種類に応じた差異の効果の,制御の安定性への影響把握が難しくなる.
このような場合,プロセスモデルのパラメータを,制御を通して決定することは有効であ
ると考えられる.本方法を本論文では制御ベースプロセスモデルパラメータ同定法と呼ぶ.
95
Polished thickness (µm)
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
Blanket-wafer equivalent polished thickness (µm)
Residual with simple model (µm)
Fig. 4.16 Polished thickness and blanket-wafer equivalent polished thickness
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
1
2
3
4
5
Polishing-time correction term (min)
Fig. 4.17 Polishing-time correction variable and residual with simple model
Table 4.6 Parameter estimation results
c0
c Rt
c 0p/R
c p/R residual SD
-10.0 10.723 -6.814 2.287
0.633
-1.2 2.187 -1.451 0.487
0.131
-0.9 1.896 -1.268 0.425
0.115
-0.6 1.605 -1.085 0.364
0.099
-0.3 1.314 -0.902 0.303
0.084
0.0 1.023 -0.719 0.241
0.070
0.3 0.732 -0.537 0.180
0.058
0.6 0.441 -0.354 0.118
0.049
0.9 0.150 -0.171 0.057
0.045
1.2 -0.141 0.012 -0.004
0.047
10.0 -8.676 5.375 -1.805
0.526
96
Table 4.7 Run-to-run control simulation results
c0
Actual
-
10
1.2
0.9
0.6
Simulation
0.3
with send0
ahead
-0.3
operation
-0.6
-0.9
-1.2
-10
10
1.2
0.9
Simulation 0.6
without
0.3
0
send-0.3
ahead
-0.6
operation
-0.9
-1.2
-10
Average
0.761
9.905
119.743
0.647
0.706
0.728
0.745
1.730
1.460
1.792
5.814
3.654
2.183
9.864
0.548
0.667
0.713
0.745
0.777
0.820
0.908
1.498
2.301
T post (µm)
Minimum Maximum
0.699
0.837
0.940 377.232
1.439 1896.477
-0.279
0.784
0.531
0.808
0.642
0.820
0.682
0.836
0.714
15.437
0.741
7.882
0.759
33.564
0.788
62.559
0.874
92.428
0.891
9.683
1.476
56.808
-0.279
0.769
0.471
0.779
0.627
0.808
0.684
0.841
0.710
0.870
0.743
0.896
0.760
1.315
0.773
7.385
0.845
11.477
97
SD
0.038
53.078
453.622
0.209
0.063
0.037
0.037
3.499
1.918
4.657
14.757
12.952
2.622
15.647
0.287
0.076
0.040
0.040
0.041
0.040
0.140
1.785
3.086
Cp
C pk
1.50
0.00
0.00
0.27
0.90
1.54
1.54
0.02
0.03
0.01
0.00
0.00
0.02
0.00
0.20
0.74
1.41
1.43
1.38
1.42
0.40
0.03
0.02
1.40
-0.06
-0.09
0.11
0.67
1.34
1.49
-0.08
-0.09
-0.06
-0.11
-0.07
-0.16
-0.19
-0.04
0.38
1.10
1.39
1.16
0.84
0.03
-0.11
-0.15
0.95
c0:0.6
c0:0.3
c0:0
c0:-0.3
c0:-0.6
c0:-0.9
c0:-1.2
c0:-100
TGT
LCL
UCL
0.85
0.75
0.65
0.55
lo
lot01
t0
2
lo
t0
3
lo
t0
4
lo
t0
5
lo
t0
6
lo
t0
7
lo
t0
8
lo
t0
9
lo
t1
0
lo
t1
1
lo
t1
2
lo
t1
3
Polished thickness (µm)
Actual
c0:10
c0:1.2
c0:0.9
Work sequence (wafer)
0.95
0.85
0.75
0.65
lo
lot01
t0
2
lo
t0
3
lo
t0
4
lo
t0
5
lo
t0
6
lo
t0
7
lo
t0
8
lo
t0
9
lo
t1
0
lo
t1
1
lo
t1
2
lo
t1
3
0.55
Work sequence (wafer)
(b) Without send-ahead operation
0.85
0.8
0.75
0.7
Actual
Send-ahead
No send-ahead
0.65
lo
lot01
t0
lo 2
t0
lo 3
t0
lo 4
t0
lo 5
t0
lo 6
t0
lo 7
t0
lo 8
t0
lo 9
t1
lo 0
t1
lo 1
t1
lo 2
t1
3
Polished thickness (µm)
Polished thickness (µm)
(a) With send-ahead operation
Work sequence (wafer)
(c) Simulation results for c0:0.0
Fig. 4.18 Run-to-run control simulation results
98
4.9.2 適用結果
FTC モデルと Run-to-Run 制御システムを開発し,適用した.図 4.19 に適用前後の研
磨後膜厚の分布を示す.適用前のウェハ数は 160 枚,適用後は 437 枚を評価した.図 4.19
ではそれぞれ 100 枚に対する頻度により表す.研磨後膜厚は目標値 0.75µm に対し,適用
前後で平均値が 0.785µm から 0.769µm へと誤差が 45.8%低減し,標準偏差が 0.040µm か
ら 0.036µm へとばらつきが 9.4%低減したことがわかる.併せて研磨レート確認作業,製
品先行研磨作業といった段取り作業を削減したことにより,装置稼働時間における製品ウ
ェハ処理時間は増加した.
Normalized frequency
30
25
Before APC
After APC
20
15
10
5
0
0.65
0.7
0.75
0.8
0.85
Film-thickness after CMP (µm)
Fig. 4.19 Film-thickness distribution before and after APC deployment
99
4.10 結言
セリアスラリーを用いた酸化膜の CMP 工程の研磨後膜厚精度向上とスループット向上
を狙い Run-to-Run 制御法を開発した.研磨量と研磨時間の関係を表す非線形の研磨過程
を定式化し,プロセスモデルに基づく Run-to-Run 制御法を開発した.
(1) 研磨時間,研磨前膜厚,ブランケットウェハ研磨レートの各元について双 2 次,研磨
時間については 3 次として研磨量を表現する研磨時間 3 次モデルを定めた.さらに多
品種量産に対応し,少数の製品ウェハ研磨の実績サンプルを用いてプロセスモデルの
パラメータを推定するために,研磨時間 3 次モデルに含まれる任意の項の組合せより,
研磨量推定精度が最良のプロセスモデルを求める方法を考案した.本方法は,得られ
るプロセスモデルが研磨過程の表現として適切となるようにするために,モデルのパ
ラメータが制約条件を満足するかを判定する方法を備える.(最適パラメータ選定法)
(2) 真のパラメータを仮定して乱数を加えたサンプルを用いて,最適パラメータ選定法に
よりプロセスモデルを推定した結果,10 サンプル以上で加えたばらつきと同程度の推
定誤差となった.さらに製品ウェハ実績サンプル数 10 件以上の製品種類に対し,最
適パラメータ選定法を適用した結果,18 種類中 9 種類で研磨量推定誤差σ の 6 倍(6σ )
は研磨後膜厚管理値を満たした.最適パラメータ選定法により,管理値に対し十分な
精度で研磨量を推定できるモデルを決定できるとわかった.選定されたパラメータに
ついて考察し,シリカスラリーを用いた研磨のモデルとの違いに基づき,セリアスラ
リーを用いた研磨のプロセスモデルを定式化する,という方針を得ることができた.
(3) Run-to-Run 制御において研磨前膜厚と研磨レートを研磨時間算出で参照するため,
ブランケットウェハの研磨レートと研磨時間の積,研磨時間を補正するための研磨前
膜厚を研磨レートで除した研磨時間補正項,および 2 つの定数の全 4 項よりなるプロ
セスモデル(FTC モデル)を提案した.
(4) FTC モデルのパラメータを適正に求めるため,ブランケットウェハ研磨レートと研磨
時間の積にかかわる部分モデルのパラメータをまず求め,次いで部分モデルによる研
磨量推定残差を用いて研磨時間補正項のパラメータを求める,2 段階パラメータ推定
法を考案した.Run-to-Run 制御における研磨時間算出方法とブランケットウェハ研
磨レート推定方法を考案した.Run-to-Run 制御における安定性を評価するため,シ
ミュレーションを行いパラメータの値を決定する,制御の設計法とした.(制御ベース
プロセスモデルパラメータ同定法)
(5) Run-to-Run 制御シミュレーションを行うことにより,製品ロットの先行研磨作業を
しなくても,研磨後膜厚推定精度は工程能力指数 Cpk=1.39 と高い精度を得た.これに
より,本プロセスモデルに基づく Run-to-Run 制御の適用の見通しを得た.本
Run-to-Run 制御を適用した結果,研磨後膜厚ばらつきを 9.4%低減し,段取り作業を
削減したことにより製品ウェハ処理可能時間は増加した.
100
第5章
結論
本論文では,半導体ウェハプロセスにおける酸化膜平坦化 CMP 工程の研磨後膜厚の量
産精度向上を目的として,生産管理,品質管理,および品質制御(APC)技術に基づく取り
組みを行った.すなわち,研磨レートのウェハ面内分布の経時的な変動による均一性悪化
を防止するための消耗品管理値の設計方法,研磨レートのウェハ面内分布を反映した
Run-to-Run 制御法,非線形の研磨過程のモデリングと Run-to-Run 制御法の開発を行っ
た.得られた結論を要約すれば以下の通りである.
(1) 研磨レートウェハ面内分布の経時変動に基づく消耗品管理方法を開発し,実際の装置
での検証により高額な消耗品の消費量削減に効果があることを示した.
消耗品の使用時間に対する研磨レート経時変動をモデル化した.モデルを使用時間
に関する 2 次式に,使用時間に関する分数項を加えた式で表現し,実際の研磨レート
に対する誤差が 10%以下となった.
研磨レート経時変動モデルに基づき,Run-to-Run での研磨の繰り返しをシミュレ
ーションすることで消耗品の交換回数を求める方法を提案した.さらに消耗品使用時
間管理値と消耗品コストの関係を応答曲面で定義し,実験計画法に基づきシミュレー
ションを行うことで消耗品使用時間の管理値の最適値を求める方法を提案した.
以上の方法により,実際の生産における管理値と研磨の実値を用いて管理値の最適
値を求め,実際の装置で 2 ヶ月間の検証を行った.その結果,消耗品使用時間の管理
値を最適化することで,高額なパッド消費量を削減できた.
(2) 多品種量産における膜厚不良を防止するための,研磨後膜厚の管理値に対するマージ
ンを調整する Run-to-Run 制御法を開発し,生産に適用することで研磨後膜厚の管理
値不良削減に効果があることを確認した.
計測位置が同心円上に配置されるブランケットウェハ研磨の結果を用いて,半径に
対する研磨レートをプロファイルとした面内分布モデルを提案した.
製品ウェハの計測位置における研磨前後の研磨レート差を用いることで,計測位置
が異なる製品種類の混合した繰り返し研磨でも,研磨レート面内分布を Run-to-Run
で更新する方法を考案した.また管理値範囲内の膜厚最大値,最小値に対する上側,
下側のマージンを等しくするための研磨時間計算方法を考案した.
さらに研磨繰り返しの研磨後膜厚ばらつきに対する管理値内のマージンの大きさを
評価するための工程能力指数を提案した.
以上を実際の LSI 製品の量産に適用し,提案した工程能力指数を用いて評価した結
果,ウェハ面内平均値を制御する方法よりも 71.6%精度が向上した.
101
(3) セリアスラリーを用いた酸化膜の CMP の,研磨時間に対する研磨量の非線形な研磨
過程をプロセスモデルとして定式化し,Run-to-Run 制御法を開発した.本開発結果
を,シミュレーションおよび実際の生産設備へ適用し,研磨後膜厚の目標値に対する
精度向上の観点から,その有用性を示した.
非線形の研磨過程を研磨時間,研磨前膜厚,研磨レートの各元について双 2 次,研
磨時間については 3 次の項を加えて研磨量とする式で表現した.少数の製品ウェハ研
磨の結果を用いて式のパラメータを推定するため,任意の項を組み合わせて,かつ研
磨過程についての制約条件を満足するモデルを得る,自動化モデル決定法を考案した.
実際の研磨量誤差に基づきモデルを決定した結果,研磨時間と,研磨時間と研磨レー
トとの積の 2 つの変量を項とする式表現を得た.
実生産適用と制御の安定性の観点より,研磨前膜厚を研磨レートで除した項を導入
して,得られたモデルを改善した.統計解析によりパラメータ推定の有意性を検証し,
切片を設定してモデルの一部のパラメータを算出した後に,残りのパラメータを推定
する 2 段階パラメータ推定法を採択した.切片を様々に設定してパラメータ値を求め,
制御シミュレーションを行った結果で工程能力指数が最大となる最適なパラメータ値
を決定する制御設計法とした.
以上の方法を,研磨の実値を用いて制御シミュレーションを行った結果,研磨後膜
厚の精度は工程能力指数 1.39 となる結果となった.実際の生産に適用した結果,研磨
後膜厚ばらつき低減は 9.4%となった.
今後の課題
本研究,開発の特徴は,生産管理分野における消耗品管理技術に対して,(1)品質管理,
もしくは APC 技術を導入したこと,また従来の製品ウェハ量産用 Run-to-Run 制御法に
対して,(2)ウェハ面内分布を導入したこと,(3)非線形研磨過程をモデリングして制御を設
計したことにある.項目(1)から(3)に関する課題を検討した.
(1) 消耗品管理技術と品質管理技術,APC 技術との融合
本論文では,第 2 章において研磨レートウェハ面内分布の経時変化に基づき消耗品使用
時間の管理値を決定する方法を示した.消耗品使用時間の管理値は製品ウェハ品質に影響
を与えることが研究の動機である.一方,この管理値はメンテナンス回数や MTBF にも影
響を与える.
また第 3 章,第 4 章で示したように,APC は製品ウェハの精度を向上し,ウェハ不良を
削減するだけでなく,段取り作業などを削減してスループットを向上する効果がある.
製品生産において,特に LSI のような要求精度が厳しい製品では,その精度の達成は必
102
須であり,すなわち品質が他の生産性向上の要求よりも優先される.品質目標が達成でき
るならば,スケジューリングなどでの生産性向上を図る,という順序になる.そこで,APC
を開発する際に,あわせてメンテナンス方法設計やスループット向上効果を試算できるよ
うにしておくことは,APC のユーザーに対して技術の必要性を訴求して,更に他の生産性
向上のための施策を提示して,トータルでの生産性向上の効果を検討するために重要であ
る.なぜならば,投資対効果を見積もれ,開発プロジェクトを計画できるからである.
本論文では消耗品交換回数を見積もることができることを示した.つまり装置稼働率の
主な要因であるメンテナンス回数が分かることとなる.APC は単位時間あたりの LSI 製
品ウェハ処理枚数,すなわちスループットに影響し,また全生産数に対する良品の割合で
ある歩留りにも影響する.そこで,OEE(Overall Equipment Effectiveness)38)と呼ばれる
指標を APC の性能表現として活用することを検討できる.
OEE = Availability × Throughput × Yield
(5.1)
ここで Availability は稼働率,Throughput はスループット,Yield は歩留りである.OEE は期
間あたりの良品の取得数である.スループットを装置稼動時間に対する製品処理時間とし,
歩留りを全加工品に対する良品の割合(比率)とするならば,OEE は全期間に対する良品の
みの生産にかかった時間の割合である.
これまでは精度,工程能力指数,スループットといった個別の指標で効果が示されてき
た.OEE 表現は,制御対象の要求精度や各工場の生産状況を問わず共通して利用でき,各
プロセスの特徴を表現のできる指標である.
OEE 表現は,特に LSI メーカなど量産工場を顧客とする装置メーカ,ソフトウェアベン
ダにとって,訴求力のある定量値を用いて提案するために重要,もしくは必須である.な
ぜならば稼働率は保守のし易さや装置の信頼性と,スループットはツールの数や動作速度
と関連しており,これらは装置の設計と関わるからである.また装置メーカ,ソフトウェ
アベンダは,生産性をキーワードにして他社差別化を図ることもできる.競争力を強化す
るためにも重要と思われる.
APC による生産性向上の指標を統一し,指標に基づく生産性向上手段や制御方法を整備,
体系化することが課題である.
(2) Run-to-Run 制御法のためのウェハ面内分布
本論文では,CMP 装置の研磨時の動作の特徴から,ウェハ面内分布を半径方向の分布
として取り扱った.ウェハ自体が円盤状であるので,CMP のみならず,CVD,エッチン
グといったチャンバを用いたプロセスでも有効と考えられる.しかし CVD,エッチングは
ウェハを台座に載せ,特にウェハは運動させずに処理するため,台座の傾きやガス導入口
の配置によっては,半径方向だけでは分布の表現としては十分ではない.
また LSI 製品ウェハの形成工程は複数のプロセスを何度も適用するものであり,ウェハ
103
全面での凹凸の分布が重ね合わさって,結果として複雑な分布となることも想定できる.
これに対処するためには 2 次元のウェハ全面で分布をモデル化することが重要である.
B スプライン曲面といった自由曲面によるモデルでそのような分布を表現することは可
能ではある.しかし,LSI ウェハ生産において計測位置を多くすることは,スループット
の観点で困難である.
LSI 製品ウェハ量産で利用することができる,2 次元に関してウェハ面内分布を表現す
るためのモデルの開発が今後の課題である.
(3) 非線形プロセスの Run-to-Run 制御法
本論文では非線形の研磨過程をプロセスモデルとして定式化し,特に統計解析によりモ
デルを洗練していき,パラメータ値をシミュレーションにより決定することで制御の実現
を図った.対象はセリアスラリーを用いた酸化膜の CMP である.ひとつの課題としては,
他の研磨過程,もしくは CMP 以外のプロセスでも利用可能な方法であるのかを検証する
ことである.すなわち非線形プロセスのプロセスモデルのモデリングと Run-to-Run 制御
法の一般化である.
特に本論文第 4 章では,曲線的には 3 次関数となる研磨過程を 1 次で近似してモデル式
とすることで制御を実現している.非線形のプロセスモデルを線形,もしくは次数の異な
る非線形のプロセスモデルで表現する方法,更にそのモデルを用いて制御を行う方法を,
汎用の設計法として開発することが課題である.
また非線形のプロセスモデルに基づく Run-to-Run 制御の安定性についての研究も重要
と考えられる.これは出力が発散しないような,モデルを表現する式のパラメータの存在
領域を決めることである.線形モデルについては,例えば文献 13,39)などで報告がある.APC
分野において非線形モデルに基づく Run-to-Run 制御の安定性解析については不明である
が,非線形モデルに基づくデッドビート制御の安定性解析については文献 40,41)が存在する.
APC 分野における非線形モデルに基づく制御の安定性解析がひとつの課題である.
本論文ではばらつきを除去するためのコントローラとしては,EWMA コントローラし
か採用しなかった.線形のプロセスモデルに基づく Run-to-Run 制御法については,他の
コントローラとの違いも評価されているが
8,16,21),非線形のプロセスモデルについては報
告がない.なお,OAQC17)はモデルの多項式が非線形であるが研磨レートといった状態量
の更新をするのではなく,モデル式中のパラメータ(操作量や出力の係数)の値を逐次最小
二乗法により更新するものである.このモデルはパラメータに関し線形の式でなければな
ら な い . 非 線 形 の モ デ ル に 基 づ き , モ デ ル の パ ラ メ ー タ を 楕 円 体 推 定 Ellipsoidal
Estimation を用いて調整する制御法が Baras らにより発表されている
42,43,44,45).この楕
円体推定ではモデルの式表現はパラメータについて線形である必要はなく,文献 42,43,44)で
は指数,対数,分数項を含む式をモデルとしており,OAQC よりも多様なモデルに基づき
制御を実現できると考えられる.また,新たに ODOB(Output Disturbance Observer)と
104
呼ばれるコントローラが提案された 46).論文 46)によれば EWMA,double EWMA,PCC
の数倍の精度向上結果となっている.
本論文 4.7 節から 4.9 節において,プロセスモデルのパラメータ値を様々に設定するこ
とで,シミュレーションにより工程能力指数を最大にするパラメータが決定された.しか
し FB コントローラ EWMA のパラメータ(重み係数λ )は固定されている.FB コントロー
ラパラメータを変更すれば FB 制御能力は変わるので,工程能力指数の値が変わることは
自明である.FB コントローラパラメータをチューニングすれば,精度は向上する.
本論文 1.2 節の項(2)に記載した様に,EWMA,PCC,OAQC の FB 制御性能に大差は
無いという報告があり,FB コントローラは最も単純な EWMA のみを利用して本研究は
進められた.また EWMA コントローラ等の FB パラメータチューニング技術も既に広く
知られている.しかし楕円体推定は非線形モデルを直接制御に利用できる点で,また
ODOB は EWMA に対する精度向上効果の点で制御系への採用を検討する価値がある.非
線形プロセスを対象とした Run-to-Run 制御法における,各種 FB コントローラとパラメ
ータチューニング技術の評価も今後の課題である.
105
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研究業績
ジャーナル論文
[1] T. Morisawa, H. Abe, K. Tachikawa, T. Nakajima, Consumption Optimization in
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[3] 森澤利浩,小林裕通,杉本浩一,非線形プロセスモデルに基づく CMP-APC(第 1 報)
−セリアスラリーによる酸化膜の CMP の研磨過程モデリング−,精密工学会誌,Vol.77,
No.3,2011,pp.284-289
[4] 森澤利浩,小林裕通,武田行生,非線形プロセスモデルに基づく CMP-APC(第 2 報)
−セリアスラリーによる酸化膜の CMP の Run-to-Run 制御−,精密工学会誌,Vol.77,
No.9,2011
国際会議論文(査読有り)
[5] T. Morisawa, T. Abe, K. Tachikawa, T. Nakajima, Polishing Time Calculation
Method to Reduce Oxide-film-CMP Send-ahead Works, ISSM2005 International
Symposium on Semiconductor Manufacturing, 2005, pp.158-161
[6] T. Morisawa, H. Kobayashi, Y. Takeda, Non-linear Process Model for CMP-APC,
ICIEM2011 International Conference on Industrial Engineering and Management,
2011, pp.79-82
国際会議(査読無し)
[7] T. Morisawa, M. Sawa, K. Tamaki, T. Miwa, K. Tachikawa, H. Abe, T. Nakajima, Y.
Iwata, Development of Run-to-Run Control System for Oxide Film CMP for
High-Product Mix Fab, 4th European AEC/APC Conference, 2003
[8] T. Miwa, Y. Yoshitake, Y. Miyamoto, T. Morisawa, T. Yokouchi, Run-to-Run CD
Control of Photolithography Process without Parameter Setting, 4th European
AEC/APC Conference, 2003(本論文と関係無し)
[9] T. Morisawa, T. Nakajima, M. Terui, E. Shimizu, A. Takahashi, T. Aoyama, T.
Hanawa, Development of a Process-Collaborative Fab-Wide APC System for
Inter-Layer Dielectric Processes Applicable to High-Product-Mix High-Volume Fab,
AEC/APC Symposium XVI, 2004(本論文と関係無し)
111
国内講演会(査読有り)
該当無し
国内講演会(査読無し)
[10] 森澤利浩,金井理,高橋秀智,組立用治具 CAD システムの開発(第 1 報)−システム
の基本構成−,1993 年度精密工学会春季大会学術講演会,1993(本論文と関係無し)
[11] 森澤利浩,金井理,高橋秀智,組立用治具 CAD システムの開発(第 2 報)−接触形態
を利用した治具要素−,1994 年度精密工学会春季大会学術講演会,1994(本論文と関係
無し)
[12] 森澤利浩,津山努,山崎詠美,金山良悦,岩澤和孝,高崎利夫,大迫昭一,据付作業
工程を対象とした自動工程設計システム,2000 年度精密工学会秋季大会学術講演会,2000
(本論文と関係無し)
解説
該当無し
国内特許
[13] 森澤利浩,増田茂,加工工程設計システム,登録番号 P03462669,2003/08/15 登録
(本論文と関係無し)
[14] 玉置研二,森澤利浩,立川幸作,安部寿彦,複数品種の半導体ウエハの研磨方法およ
び研磨システム,登録番号 P04108392,2008/04/11 登録
[15] 森澤利浩,沢真司,立川幸作,中島理博,製品ウエハの処理レシピ決定方法,登録番
号 P04274813,2009/03/13 登録
[16] 森澤利浩,安部壽彦,立川幸作,中島理博,ウエハの研磨方法,登録番号 P04163145,
2008/08/01 登録
米国特許
[17] T. Morisawa, H. Abe, T. Kosaku, T. Nakajima, Method of Polishing Semiconductor
Wafer, US7070477, April 7, 2006 (Issued Date)
[18] T. Morisawa, A. C. Walker, Y. Wong, Advanced-process-control system utilizing a
lambda tuner, US7809459, October 5, 2010 (Issued Date)(本論文と関係無し)
112
謝辞
本研究は(株)日立製作所生産技術研究所(2011 年 4 月より横浜研究所生産技術センタ)にて
推進しました.また社会人博士課程学生として 2009 年 4 月より東京工業大学機械物理工
学機能システム学研究室に在籍し,杉本浩一教授(2011 年 3 月退官),武田行生准教授のご
指導のもとに本論文を執筆致しました.本論文をまとめるまでには,様々な人からご指導,
ご支援を頂いてきました.
本論文をまとめるに当たり,論文投稿を中心とした取組方針をご指導頂いた杉本浩一教
授に深く感謝致します.
論文投稿や博士論文作成に当たり熱心にご指導下さった武田行生准教授に深く感謝致し
ます.
また私は,平日は会社活動が中心であり,あまり多くの時間を共有できませんでしたが,
樋口勝助教(2011 年 3 月迄;2011 年 4 月より日本工業大学准教授),松浦大輔助教(2011 年
6 月より),高野浩子さん,学生諸君,同窓の各位に感謝致します.大学の研究室などでの
会話で,いろいろな情報を交換できました.明るい研究室に在籍できたことは真に幸運で
あったと思います.
本研究は,(株)日立製作所,およびルネサステクノロジ株式会社(2010 年 4 月よりルネ
サスエレクトロニクス株式会社)での活用を目的に推進されました.研究にあたり,様々な
ご指導,ご要望を頂き,更に実際にシステム開発を積み上げていくことで,研究を効果的
に進めることができました.大変感謝申し上げます.
茨城県那珂地区半導体工場においては次の方々のお世話になりました.
松岡一彦氏,および宮本佳幸氏には研究テーマのマネジメントをして頂きました.
安部寿彦氏は開発のリーダーとして様々なご指導を頂きました.
立川幸作氏は CMP の条件決めなど,各種の開発・適用を推進して頂きました.
システム開発に当たっては,岩田義雄氏には各種システム開発との調整を図り,本シス
テム開発を円滑に推進できるようご指導を頂きました.
中島理博氏にはシステム実装にあたり中心的に推進実行して頂きました.
愛媛県西条地区半導体工場においては次の方々のお世話になりました.
渡部信也氏,宮武浩氏,山本正美氏には研究テーマのマネジメントをして頂きました.
小原良氏には,開発推進において各種の取りまとめをして頂きました.
藤井淳弘氏には,論文投稿において論文チェックや助言など頂きました.
小林裕通氏には,CMP の条件決めから生産ライン対応,システム開発への要求決めな
ど,開発の中心として取り組んで頂きました.
本研究,開発においては他にも多くの方々にご協力頂きました.ありがとう御座いまし
た.
113
(株)日立製作所生産技術研究所において,以下の方々のお世話になりました.
中里純氏には本論文中のテーマの開始から終了まで,一貫してアドバイスを頂き,特に
西条地区の仕事の推進に当たりご指導頂きました.
沢真司氏には那珂地区の仕事の推進に当たりご指導頂きました.
玉置研二氏には研究・技術についてご提案,ご助言頂きました.
濱村有一氏,三輪俊晴氏には研究活動から日々のビジネスに亘り,各種調整などご苦労
をおかけしました.
また生産性向上技術,品質管理技術について共に研究を進めてきた,研究室のメンバー
がいたので,研究を積み上げることができたと思います.ありがとう御座いました.
114
Fly UP