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インターネット通販と店頭販売
インターネット通販と店頭販売 米国では、インターネットを利用した通信販売が盛況である。5年後には、現在の 100倍ものマーケットに成長するという予測も発表されている。この新しい販売チャ ネルの特徴は、「店舗」が介在していないことである。本稿では、インターネット通 販と店頭販売の特性を比較し、今後の店頭販売のあり方について述べる。 オンラインブックストアの販売チャネル戦略 めているのである。 先日、自宅近くに書籍流通では米国最大の 店舗網を持つBarns & Noble(BN)社の大型 店舗が開店し、大変な賑わいを見せている。 インターネット通販の事業特性 インターネット通販は、購買者にとっての この出店で驚いたのは、歩いて5分と離れて 利便性が非常に高い。品揃えが豊富で一年中 いない駅前に既存店舗があるにも関わらず、 24時間営業しているので、時間の制約を受け さらに大型の店舗を出店してきたことである。 ずに自宅でショッピングを楽しむことができ BN社は、インターネット書籍販売の大手 る。また商品は宅配されるので、店舗まで出 でもあり、米国らしい話だが、「世界一大き 向き運んでくる手間もかからない。在庫がな な本屋」を巡って裁判を起したことでも話題 くても取り寄せの可否や期間がすぐにわかる。 となった。訴えられたのは、設立以来の赤字 配送中も商品のルート確認ができる。その上、 経営を続けながらも、株高に支えられ、イン 販売価格が安く、米国では消費税もかからない。 ターネット関連の代表企業として成長を続け 販売サイドにとっても、購買者が自社の発 ているAmazon.com(AC)社である。 注ラインに入力した注文を配送システムにつ AC社の特徴は、一貫した無店舗販売の推 なげばよいのだから、取次に関わる販売管理 進にある。最近では書籍に限らず、CD、 コストを大幅に削減できる。また、無店舗な DVD、ビデオ、PC(パソコン)ソフトなど ので設備投資も抑えられる。カスタマーセン へも取り扱い商品を多角化する一方、日本語 ターに専門知識を持つ人材を集中的に配置す などのホームページを開設し、海外展開にも ることで、人件費や研修費も抑制できる。 力を入れている。 この2つの「世界一大きな本屋」には、販 さらに、こうした取引データを蓄積して、 ダイレクトマーケティングに活用することも 売チャネル戦略に明らかな違いが見られる。 可能となる。購買者の氏名や住所はもとより、 一方はインターネット通販に特化しているの 年齢や職業といった、店頭販売では得られな に対し、他方は既存の「店舗」網とインター い個人属性情報も、注文入力の際に自動的に ネット通販のダブルチャネルで事業展開を進 取得できる。こうしたデータと購買履歴を組 18 システム・マンスリー 1999年3月 み合わせることで、効果の高い独自のマーケ あることは疑いようもないが、既存のすべて ティングを行うことができる。また電子メー の店舗の存在を脅かすものではない。もちろ ルと組み合わせれば、低コストでの広告発信 ん、既存の店舗の売り上げに大きな影響を与 もできる。 えることは予想されるが、商品を比較したり、 今のところ、オンラインショッピングでの 見たり、聞いたり、触ったりして吟味したい 人気商品は、PC、書籍、CD、チケットなど、 という購買者の欲求は、商品が陳列された店 購買者になじみがあり、どこで買っても品質 頭でしか満たすことはできない。 が一定で差がないもの、購買に際して比較検 討の必要ないものが中心となっている。 昨年末、米国のクリスマス商戦で主力とな また、購買者が欲しいときに、その場で商 品を手にすることができるというのも店頭販 売の大きな強みである。 ったのも、玩具や衣料品といった、単価50米 購買者の企業に対するイメージというバー ドル程度の比較的安価で、配送コストの低い チャルなものを定着させる場としての機能も 軽量・小口の商品であった。 重要になってくるであろう。集客力のある都 高額商品では、配送中の破損や盗難の恐れ 市には積極的に出店し、購買者のイメージを があり、購買者から返品された場合の企業の 定着させ、遠隔地には通販で商品を提供して 負担も大きくなってしまう。こうした状況で いくのである。 は、独自商品の開発も難しく、納期短縮や低 価格といった面での競争になりやすい。 また店頭販売では、最近流行の「自分流に 飾った部屋で、仲間内だけのパーティー」的 さらにインターネット通販は、設備投資が な雰囲気が必要になるかもしれない。もっと 比較的小さく模倣も簡単なため、新規参入さ もこうした役割を果たすうえでも、インター れやすい。メーカー本体が直販に参入してく ネットを通した個別顧客情報の蓄積と、それ れば、PCや航空券のようにシェアを奪われて をデータベースマーケティングの手法で分析 しまうこともあり得る。 し、活用することが必要となるだろう。 またインターネット通販では、購買者のア クセスが企業の知名度に大きく依存するため、 新しい販売チャネルであるインターネット 絞り込まれてきたポータル(玄関)サイトの に特化する新興企業と、既存の店舗網の上に 広告費は、今後ますます上昇しそうである。 インターネット通販を合わせた企業のどちら のシステムが優位に立つようになるのか、大 既存店舗とインターネットの組み合わせで活用 インターネットが、有望な販売チャネルで システム・マンスリー 1999年3月 変興味深いところである。 (NRIアメリカ 小林哲也) 19