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日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャー

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日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャー
INTERNATIONAL STRUCTURED FINANCE
SEPTEMBER 30, 2010
RATING METHODOLOGY
目次:
アセット・バック CP プログラムとは何か
1
ABCP プログラムにおけるリスク
2
流動性リスクの対処
3
フル・サポートのプログラムにおける流動性リ
4
スク
日本のアセット・バック・コマーシャル・ペー
パー:ストラクチャーの概要及び留意点 1
Asset-Backed CP in Japan: Overview of Structures
and Issues
アセット・バックCP 2プログラムとは何か
パーシャル・サポート・プログラムの基本的構
セラーの倒産リスクの構成要因
6
マルチ・セラーのプログラム
7
マルチ・セラーのプログラムにおける信用補完
の二重層
コンタクト:
東京
ABCP 3プログラムは、受取債権を用いた資金調達法の一種である。企業は、ABCPプログラム
を通じて、受取債権をもとに資金調達を行うことができる。ABCPプログラムを特殊な金融会社
として捉えることもできよう。
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成
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03.5408.4210
ABCP プログラムが資金調達のために用いる原債権は、売掛債権である場合が多い。クレジッ
ト・カードや消費者向けの長期のローンなど消費者向けの債権である場合もある。
ABCP プログラムには、いくつかの分類方法がある。ひとつは、特定のプログラムを通じて受取
債権をもとに資金調達を行う企業の数に基づく分類である。つまり、ABCP プログラムの「顧
客」の数をもとに分類する方法である。1社のみの受取債権を用いて資金調達を行う ABCP プ
ログラムもあり、これはシングル・セラーABCP プログラムと呼ばれる。シングル・セラーABCP プ
ログラムは、実質的には単一の顧客のみをかかえるファイナンス会社であると考えることができ
よう。プログラムを通じて受取債権を用いて資金調達を行う会社は、プログラムに債権を「売
る」ことから、セラー(売り手)と呼ばれる。シングル・セラー・プログラムは、債権をもとに資金調
達を行う手段としてセラー自らによって設けられるのが一般的である。
シングル・セラーABCP プログラムに対するものとして、マルチ・セラーABCP プログラムがある。
その名が示す通り、マルチ・セラーABCP プログラムは複数のセラーの債権をもとに資金調達
を行う。マルチ・セラー・プログラムは、顧客が資金調達を行うための手段として、大手の銀行
によって設けられるのが一般的である。
この格付手法は、現行のものではない。ムーディーズ SF ジャパンが現在使用
している格付手法は、弊社ウェブサイトを参照のこと。
This Moody’s SF Japan rating methodology is based on Moody’s Investors Service’s rating methodology titled “Moody's
Approach to Asset-Backed CP in Japan: Overview of Structures, (June 22, 2010).” The rating approach described in
the Moody’s Investors Service report was adopted by Moody’s SF Japan on September 30, 2010.
1
ムーディーズ SF ジャパン株式会社は、金融商品取引法
の下で金融庁に登録された信用格付業者であるが、
NRSRO(米国 SEC の登録を受けた格付機関)ではない。
従って、ムーディーズ SF ジャパン株式会社の信用格付
は、日本で登録された信用格付業者の信用格付である
が、NRSRO の信用格付ではない。
旧題「アセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び日本の ABCP プログラムに
おける論点」(英文:Asset-Backed CP: Overview of Structures and Focus on Japan)。このレポートは、分
析上の要点をまとめ再発行したものである。
2
CP=コマーシャル・ペーパー
3
ABCP=アセット・バック・コマーシャル・ペーパー
ムーディーズ SF ジャパン株式会社
INTERNATIONAL STRUCTURED FINANCE
ABCP プログラムの分類方法の 2 つめとして、信用補完が 100%付されているか、あるいは部分的であるかに
基づく方法が挙げられる。ここでは、ABCP を保有する投資家が、プログラムを通じてファイナンスされる債権
の信用リスクにさらされているかどうかが問題となる。
100%信用補完型(フル・サポート)のプログラムにおいては、100%の信用補完ファシリティーにより、投資家は
裏付けとなっている債権の信用リスクから完全に遮断される。100%の信用補完は、通常は L/C(信用状)の形
態をとるが、プログラムから資産を買い取ることを確約する撤回のできないコミットメントの形で提供される場合
もある。フル・サポートの ABCP プログラムの投資家にとっての最大のリスクは、100%の信用補完の提供者の
格付けが引き下げられるリスクである。格下げが為された場合、ABCP プログラムも格下げの対象となりうる。
フル・サポートの ABCP プログラムについてのムーディーズの分析は、主に 100%の信用補完ファシリティー
の提供者の信用力(格付け)に基づく。フル・サポートの ABCP プログラムの格付けが、その信用補完提供者
の格付けを上回ることはない。フル・サポートの ABCP プログラムに対するものとして部分的に信用補完が提
供されるパーシャル・サポートの ABCP プログラムがある。パーシャル・サポートのプログラムでは投資家は裏
付けとなっている債権のデフォルトから保護される度合いは部分的にすぎない。パーシャル・サポートの
ABCP プログラムには、裏付けとなる資産がデフォルトするリスクから投資家を守るために通常は何らかの信用
補完ファシリティーが付されているが、その規模は ABCP プログラムの発行総枠をはるかに下回っている場合
が多い。パーシャル・サポートの ABCP プログラムでは、投資家は全額支払いを受けるために、信用補完ファ
シリティーならびに裏付けとなっている債権のパフォーマンスの両方に依存しなくてはならない。
ABCP プログラムにおけるリスク
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ABCP プログラムに内在する主なリスクは 3 種類ある。すなわち、信用リスク、流動性リスク、および構造リスク
である。
信用リスクは、裏付けとなっている債権についてデフォルトが生じるリスクを指す。すなわち、裏付けとなってい
る債権の原債務者が支払い義務を果たさないというリスクである。このリスクは、ABCP プログラムと長期の証
券化取引(ABS 等)とが共有するリスクである。
ABCP プログラムにおける主なリスクの 2 つめが、流動性リスクである。「流動性リスク」という言葉は、裏付けと
なっている債権について回収される資金が、満期を迎えた CP を期日通りに償還できるようなタイミングで入っ
てこないリスクを指す。
通常 ABCP プログラムは、新規の CP を発行することにより、満期を迎えた CP の償還を行う。これは、CP の
「ロール・オーバー」と呼ばれる。しかしながら、ABCP プログラムが新規の CP を発行できない日があることも
考えられる。例えば、CP 市場が混乱している場合には、CP の発行ができない場合があろう。また、ABCP 市
場だけにおいて、混乱が生じている可能性もあるだろう。あるいは、格付け変更など、特定の出来事により、特
定の ABCP プログラムに対する見方が影響されるケースも考えられる。いずれの場合においても新規の
ABCP を発行することにより、満期が来た ABCP の償還資金を得ることができなくなる可能性がある。このよう
な場合、そのプログラムは、別の資金源から資金を得ることによって、満期を迎えた CP についてデフォルトす
ることのないようにしなくてはならない。
主なリスクの 3 つめとして、構造リスクが挙げられる。「構造リスク」とは、ABCP プログラムが破産やその他の法
的手続きに巻き込まれることにより、満期が来た ABCP の償還が妨げられるリスクである。構造リスクは ABCP
プログラムに内在するその他の法的リスクや事務管理上のリスクも含む。
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SEPTEMBER 2010
格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
INTERNATIONAL STRUCTURED FINANCE
流動性リスクの対処
まず、流動性リスクに着目しよう。
コマーシャル・ペーパー市場全般において、もしくは ABCP 市場に限定した狭い範囲で混乱が起こり得る時
期を厳密に予測することは不可能である。このためムーディーズでは、満期を迎えた ABCP を「ロール・オー
バー」することはできないという前提で ABCP プログラムの分析を行う。ロール・オーバーができない事由が発
生したとしても、ABCP プログラムは満期を迎えた ABCP の償還資金を用意できなければならない。
ABCP プログラムの資金源のひとつとして、プログラムでファイナンスする債権からの回収資金がある。しかし
ながら、回収資金のみでは流動性リスクに対応することは一般に不十分である。原債権からの回収金を受け
取るタイミングは極めて不確実であるからである。実際、原債権からの回収金を受け取るタイミングは、ABCP
の満期日とは全く関係がないことも考えられる。
図 1 は、横軸が期間、縦軸が金額を示している。ABCP の期日はグレーの区域で示されている。約半数の
ABCP が 30 日以内で満期を迎える。30 日から 60 日間で償還されるものが少数あり、残りが 90 日以内で償
還を迎える。この例においては、プログラムが新規の CP を発行できないと仮定する。
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図 1:流動性のニーズ
太線と細線は、2 通りの原債権の回収パターンを示している。細線で示されているように、原債権の回収が迅
速に行われた場合、満期を迎えた CP に必要な資金をほぼ全額確保することが可能だろう。
一方、原債権の回収が、太線に示されているようにゆっくりとしたペースで行われた場合、回収金だけでは
CP の償還資金を賄うことはできないであろう。CP の満期を過ぎてから回収金が入っても、CP は既にデフォ
ルトに陥っているため意味がない。
原債権からの回収のタイミングを高確度で測ることは一般に難しいため、ABCP プログラムは流動性リスクに対
処するための他の手段を備えていなくてはならない。
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SEPTEMBER 2010
格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
INTERNATIONAL STRUCTURED FINANCE
フル・サポートのプログラムにおける流動性リスク
次に、フル・サポートの ABCP プログラムでは、どのように流動性リスクに対応しているかに着目しよう。
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図 2:フル・サポート、シングルセラー ABCP プログラムのス
トラクチャー
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図 2 は、フル・サポートのシングル・セラーABCP プログラムにおける参加者と主な関係を示している。
図の中央にあるのが発行体である。発行体は通常、受取債権の取得と、こうした債権に裏付けされた ABCP
の発行に業務が限定された特別目的会社である。
発行体の上にあるのがセラーである。セラーとは、ABCP プログラムを通じて受取債権をもとに資金調達を行う
企業である。セラーと発行体の間の矢印は、(1)セラーから発行体への債権の譲渡、(2)発行体による債権購
入対価の支払い、および(3)セラーから発行体への債権からの回収資金の送金--を示している。実質的には
ほとんど全てのケースにおいて、セラーが発行体に債権を譲渡した後、債権の「サービシング」はセラーが引
き続き行う。換言すると、セラーは債権の回収に関して引き続き責任を負うということである。
セラーの上にあるのが、原債務者(オブリガー)である。原債務者は、セラーの顧客であり、債権の支払い義
務を負っている。それぞれの原債務者からセラーへと伸びている矢印は、債務者の支払い義務を示している。
発行体の下にあるのが、発行体が発行した ABCP を購入した投資家である。投資家から発行体への矢印は、
ABCP の購入代金の支払いを示しており、発行体から投資家への矢印は、満期日における ABCP の償還を
示している。
発行体とセラーの間には、100%の信用補完ファシリティーが示されている。フル・サポートの ABCP プログラ
ムにおいて、信用リスクと流動性リスクがどのように対処されているかを理解するためには、これに焦点を当て
る必要がある。100%の信用補完は、受取債権から生じうる損失リスク、ならびに償還期日に間に合うようなタイ
ミングで債権からの回収金が入ってこないというリスクの両方から投資家を完全に保護しようとするものである。
100%信用補完の規模は、常時発行済み ABCP の総額に等しいか、それ以上の額でなくてはならない(100%
信用補完の名前はここから由来している)。何らかの理由で、発行体に満期を迎えた ABCP の償還資金が不
足している場合、発行体は 100%の信用補完ファシリティーから資金を引き出し、不足分を補う必要がある。フ
ァシリティーから発行体へ伸びている太い矢印は、信用補完ファシリティーから行われうる資金の引き出しを
示している。発行体から 100%信用補完ファシリティーに向けられた小さい矢印は、100%の信用補完提供者
に支払われる手数料を示している。
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SEPTEMBER 2010
格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
INTERNATIONAL STRUCTURED FINANCE
パーシャル・サポート・プログラムの基本的構成
図 3 は、パーシャル・サポート、シングル・セラーABCP プログラムにおける参加者と、その主な関係を示して
いる。
100%の信用補完ファシリティーが、信用補完ファシリティーと流動性ファシリティーとに分けられていることを
除けば、図 2 で示したものと全く同じである。どちらの場合においても、小さい上向きの矢印が、ファシリティー
を提供する銀行への手数料を示しており、太い下向きの矢印がファシリティーからなしうる資金の引き出しを
表している。このようなストラクチャーとなっている場合、ムーディーズは原債権そのものを分析する必要がある。
信用補完ファシリティーは、通常は ABCP 発行残高の一定比率を超えるようなデフォルト・リスクを吸収するこ
とができない。
例えば、信用補完ファシリティーの規模は、プログラムで発行できる ABCP の額の 10%に過ぎない場合も考
えられる。図 2 で示したフル・サポートのプログラムでは、裏付けとなっている債権の履行状況は投資家には
全く影響を与えるものではなく、投資家は全面的に 100%の信用補完ファシリティーに依存することができた。
しかしながら、パーシャル・サポートのプログラムでは、信用補完ファシリティーは、発行体が発行した ABCP
の発行額をはるかに下回る可能性が高い。このため、債権のパフォーマンスそのもの(すなわち、裏付けとな
っている債権の原債務者の支払い状況)について、最低基準が満たされていなくてはならない。
さらに、パーシャル・サポートの ABCP プログラムでは、ムーディーズは信用補完ファシリティーと流動性ファシ
リティーとの間で様々なリスク要因がどのように配分されているのかを十分に理解することが不可欠となる。
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マルチ・セラーABCP プログラムの流動性ファシリティーは、通常はプログラムの発行枠の 100%をカバーする。
流動性ファシリティーが 100%に満たない場合においても、Prime-1 の格付けを取得するのは、特別な状況に
おいてに限られる。流動性ファシリティーは、裏付けとなっている債権の信用リスクのかなりの部分に加えて流
動性リスクを全て吸収しなければならないため、サイズが大きくなくてはならない。
図 4 にあるように、単に曖昧な信用リスク・流動性リスクの概念を用いるだけでは、信用補完ファシリティーと流
動性ファシリティーの間で具体的なリスク項目を配分することはできない。具体的なリスク項目に着目し、これ
らのリスクがどのようにしてそれぞれのファシリティーによってカバーされるかを理解しなくてはならない。当然、
信用補完ファシリティーに配分されているリスク項目が多ければ多いほど、信用補完ファシリティーの額も大き
くなる。
図 3:パーシャル・サポート、シングル・セラーABCP プロ
グラムのストラクチャー
図 4 :ABCP におけるリスク配分
ここで、いくつかの具体的リスクについての分析を行い、パーシャル・サポートの ABCP プログラムでこれらが
どのようにカバーされているかに着目してみよう。
» 具体的リスクとしてまず第一に考慮すべき項目は、「原債務者の倒産リスク」である。これは、原債務者が
倒産に陥ることにより、債務の返済ができなくなるリスクである。このリスクは、パーシャル・サポートのプログ
ラムにおける信用リスクとしては、最も本質的な項目と言えるであろう。全てのパーシャル・サポートの
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格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
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ABCP プログラムは、このリスクを信用補完ファシリティーに配分する。これは、図では、一番左の端にある
「原債務者の倒産」で示されている。
» 原債務者の倒産リスクに対するものとして、「セラーの倒産リスク」がある。これは、債権のセラーが倒産に
陥り、ABCP プログラムに対する債務を果たせなくなる場合である。セラーは、債権について支払いを行う
主体とはなっていないものの、ABCP プログラムに対して多くの義務を負っているケースが多い。通常は、
セラーに関するリスクは、流動性ファシリティーの対象としてふりわけられている。これは、図の一番右端に
示してある「セラーの倒産」にあたるリスクである。
しかしながら、セラーの倒産リスクが全て流動性ファシリティーに配分されていると、単純に言いきることはでき
ない。現実には、セラーの倒産リスクはさらにいくつかの細かい要因に分類され、場合によっては異なった扱
いを受けることがある。
セラーの倒産リスクの構成要因
こうした細分化されたセラーの倒産リスクの要因のひとつに、未送金の回収金に関わるリスクが挙げられる。ほ
とんど全てのパーシャル・サポートの ABCP プログラムは、このリスクを流動性ファシリティーでカバーしている。
図では、「未送金の回収金」として、一番右にこのリスクを示している。
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もうひとつ、セラーの倒産リスクを細分化した要因が、債権の減額リスク(ディリューション)である。ディリューシ
ョン・リスクというのは、債権(特に売掛債権)が、当初予想額を下回るさまざまなケースを指す。ディリューショ
ンの典型的な原因は、紛争、返品、オフセット、与信、リベート、あるいは保証請求などである。ディリューショ
ンは、原債務者ではなく、セラーによって引き起こされるものであるため、全ての ABCP プログラムは ABCP プ
ログラムが購入した債権のディリューションについてはセラーが補償することを求めている。しかしながら、セラ
ーが倒産し、その補償義務を果たすことができなかった場合には、補償されなかった額は、流動性ファシリテ
ィーもしくは信用補完ファシリティーによってカバーされなくてはならない。
ABCP プログラムにおけるディリューションの扱いに関してはプログラムによって異なる。場合によっては、ディ
リューションのリスクの配分に一見関係がないような要因(例えば、90 日間など、ある一定期間を受取債権が
超えているかどうか等)によって決まってくる。ディリューションの扱われ方にはいろいろあるということを、図の
中央におくことによって示している。
セラーの倒産リスクの 3 番目の構成要因は、セラーが受取債権に関して行う「言明および保証」に関するもの
である。例えば、ABCP プログラムを通じてファイナンスできる受取債権に関して、各種の適格基準が課されて
いる場合がある。セラーが不適格な債権を ABCP プログラムに売っていた場合には、その債権において損失
が生ずる可能性がある。そのようなロスが生ずるリスクは、信用補完ファシリティーあるいは流動性ファシリティ
ーによってカバーされていなくてはならない。最近は、流動性ファシリティーを使って、言明および保証に関
連したリスクをカバーする傾向が増している。
セラーの倒産リスクの 4 番目の構成要因として、偏頗的移転とみなされるリスク(プレファレンス・リスク)が挙げ
られる。これは、セラーがディリューションや言明および保証に違反したために行われなければならなくなった
支払いがセラーが倒産する直前に行われ、なおかつ担保が支払いの全額に満たない状況で行われた場合、
プレファレンスとみなされてしまうリスクである。ほとんどのプログラムでは、このリスクは信用補完ファシリティー
によって担われているが、一部のプログラムではこのリスクは信用補完ファシリティーと流動性ファシリティーの
両方によってカバーされている。
信用補完ファシリティーによってカバーされるリスクが大きいほど、ファシリティーのサイズも大きくなるという見
方をとっている。従って、2 つの ABCP プログラムを分析する場合、セラーと受取債権が実質的に全く同じで
あったとしても、プログラムにおけるリスクの配分が異なっていれば、信用補完ファシリティーの規模も異なった
ものにならなければならない、ということになる。
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格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
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マルチ・セラーのプログラム
次に、前述のパーシャル・サポートのシングル・セラー・プログラムの例を踏まえて、パーシャル・サポート、マ
ルチ・セラーABCP プログラムに移りたい。パーシャル・サポート、マルチ・セラーのプログラムは、ABCP プログ
ラムの技術の粋を尽くしたものとも言える。図 5 では、セラーが 2 つあり、それぞれが複数の原債務者を持っ
ているマルチ・セラーのプログラムが示されている。各セラーが発行体に債権を譲渡し、発行体は CP を投資
家に販売する。そして、前述のタイプと同様に信用補完ファシリティーならびに流動性ファシリティーが別々に
設けられている。これに加え、前述のタイプにはなかった 2 つの参加者が一番下に示されている。一方はスポ
ンサー、もう一方はオーナーである。スポンサーとは、ABCP プログラムを設定し、その管理にあたる銀行であ
る。スポンサーあるいはその系列会社が、発行体に対してサービスを提供するのである。
発行体自体は、オペレーティング・カンパニーではない。すなわち、従業員もいなければ、オフィスもなく、実
際の業務を行っていないペーパー・カンパニーであるのが通常である。発行体の業務の全ては、スポンサー
(もしくはその系列会社)が、発行体の「事務管理人」、「マネージャー」あるいは「エージェント」として遂行する。
実際、スポンサーならびに系列会社は、この種の役割をいくつか果たし、それぞれのサービスついて手数料
を受け取ることもある。
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さまざまな会計上・規制上の理由から、発行体はスポンサーの子会社や系列会社ではないのが通常である。
発行体は、いわゆる「孤児子会社」として設立されることが多い。これは、「法律上のオーナー」として右下角に
示されている。つまり、第三者が、発行体の法律上の所有者となっているのである。法律上の所有者は、毎年
わずかな配当を発行体から受け取るが、ABCP プログラムより得られる真の意味での利益を受け取ることはで
きない。利益は手数料の形でスポンサーに支払われる。手数料に関する契約は柔軟に設定されているので、
スポンサーは ABCP 業務からあがる利益を受理することができる。
図 5:パーシャル・サポート、マルチ・セラー、ABCP プログ
ラムのストラクチャー
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格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
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マルチ・セラーのプログラムにおける信用補完の二重層
パーシャル・サポートのマルチ・セラー・プログラムのストラクチャーは、一見、パーシャル・サポートのシング
ル・セラー・プログラムと比べてはるかに複雑であるとはみえないが、これは間違った見方である。マルチ・セラ
ーの方がはるかに複雑な構造となっている。これは、信用補完が、プログラム・レベルの信用補完ファシリティ
ーによってのみ提供されているわけではなく、さらにそれぞれのセラーが提供する受取債権のプールについ
て、各セラーによって提供される信用補完ファシリティーも存在するからである。
換言すると、信用補完が 2 重層になっているわけである。ひとつはプログラム・レベルで信用補完ファシリティ
ーを通じて提供され、もうひとつは各々のセラーによって超過担保あるいは L/C などを通じてそれぞれのプー
ルについて提供されているものである。また、セラー・レベルの信用補完はセラーによって額が異なりうる。
典型的なケースを考えてみよう。6 から 12 程度のセラーが存在する ABCP プログラムにおいて、100 億円相
当をファイナンスする受取債権があるとする。さらに、10 億から 15 億円のプログラム・レベルの信用補完ファ
シリティーが設定されているとしよう。これに加えて、各セラーが超過担保の形で信用補完を提供すると仮定
する。
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このうちひとつのセラーは、極めて財務内容の良好な会社で債権のポートフォリオのパフォーマンスも非常に
良いとし、もうひとつの別のセラーは、会社としては弱く、債権の履行状況もそれほど良くないとしよう。この場
合、パフォーマンスの良い債権を持つ強い会社の方は、セラー・レベルにおける信用補完はさほどのものとは
ならないと考えられる。超過担保額は 5-7%で十分と言えよう。他方、債権のパフォーマンスがあまり良くない
弱い会社の方は、これよりずっと多くの超過担保額が必要になり、10-20%程度必要になるだろう。
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ABCP プログラム全体の信用力を評価するプロセスにおいては、セラー・レベルの信用補完がそれぞれのセ
ラーによってどの程度提供されているかということに加え、プログラム・レベルでの信用補完ファシリティーがフ
ァシリティーによってどの程度提供されているかという点が併せて分析される。
図 6 :信用補完の二重層
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る保証も行っていません。
MSFJ は、ムーディーズ・ジャパン株式会社("MJKK")の完全子会社の信用格付会社です。MJKK は、ムーディーズ・グループ・ジ
ャパン合同会社の完全子会社であり、同社は、Moody's Corporation (以下「MCO」といいます。)の完全子会社である Moody's
Overseas Holdings Inc.の完全子会社です。MSFJ は、「全米で認知された統計的格付機関(NRSRO)」ではありません。従って、
MSFJ の信用格付は、「NRSRO ではない信用格付」です。「NRSRO ではない信用格付」は、NRSRO ではない者により付与され
た信用格付であり、したがって、本信用格付の対象となる債務については、格付を基礎とする基準(NRSRO 格付を参照してい
るもの)を含む米国法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MSFJ は、日本の金融商品取引法の下で
金融庁に登録された信用格付業者であり、登録番号は金融庁長官(格付)第 3 号です。
MSFJ は、MSFJ が格付を行っている債券(社債、地方債、債券、手形、CP を含みます。)及び優先株式の発行者の大部分が、
MSFJ が行う評価・格付サービスに対して、MSFJ による格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を
MSFJ に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO 及び MSFJ は、MSFJ の格付及び格付過程の独立性を
確保するための方針と手続きを整備しています。MCO の取締役と格付対象会社との間の何らかの利害関係の存在、及び
MSFJ から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社間の何らかの
利 害 関 係 の 存 在 に 関 す る 情 報 は 、 MOODY'S の ウ ェ ブサ イ ト www.moodys.com 上 に "Shareholder Relations-Corporate
Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、掲載されます。
本書のオーストラリアでの公開は、オーストラリア金融サービス認可番号 336969 を有する MOODY'S の関連会社である
Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657 によって行われます。本文書は(2001 年会社法 761G 条の定める
意味における)「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内から本文書に継続的にアクセスし
た場合、MOODY'S に対して、「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者として本文書にアクセスして
いること、及び、貴殿又は貴殿が代表する法人が、直接又は間接に、本書又はその内容を(2001 年会社法 761G 条の定める
意味における)「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。
本信用格付は、発行者の信用力又は債務についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール投資家が取得可能
なその他の形式の証券について意見を述べるものではありません。リテール投資家が、本信用格付に基づいて投資判断を
するのは危険です。もし、疑問がある場合には、フィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
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SEPTEMBER 2010
格付手法:日本のアセット・バック・コマーシャル・ペーパー:ストラクチャーの概要及び留意点
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