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証券化・流動化が信用力に与える影響

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証券化・流動化が信用力に与える影響
格付方法
証券化・流動化が信用力に与える影響
● 一般の事業会社が証券化や流動化を行った場合、その会社の信用力にどのような影響があるだろう
か。R&I では原則中立、あとはケースバイケースと考えている。
● 証券化は極論すればオリジネーターが保有している資産を切り離して換価するに過ぎない。単純な
銀行借り入れを行う場合に比べて、仕組みを作る関係者が増えるため、手間とコストがかかること
も事実だ。R&I では証券化を財務行動のひとつと捉えている。
証券化の効果
完全に効率的な市場において証券化が実施されるのであれば、証券化自体は企業価値を高めるわけ
でも下げるわけでもない。例えば、オリジネーターがもともと保有していた 100 の価値がある固定資
産を SPV(特別目的会社や信託)に売却・譲渡して 100 の現金を手にしたという場合、証券化の前
と後とではオリジネーターの価値は基本的には変わらない。しかし、現実の市場では完全などという
状況はあり得ない。不動産など流動性が乏しい実物資産を流動性の高い金融資産に換えることにはメ
リットがあるだろう。一方、金銭債権や不動産のように価格を設定しづらい資産であれば、結果的に
割安に売却できた、購入できた、という勝ち負けが存在するし、証券化に際してはアレンジャー(金
融機関や証券会社)やその他関係者(含む格付会社)などへの支払い(すなわちコスト)が必然的に
発生する。以下では、オリジネーターからみた証券化のメリットとコスト、留意点を検討する。
証券化のメリットと留意点(オリジネーターの視点)
オリジネーターの立場から証券化を行う背景には、以下の点が挙げられることが多い。
①調達手段の多様化
従来であれば銀行借り入れに依存せざるを得なかったオリジネーターにとって、新たな資金調達手
段の確保に繋がる。ただし、銀行借り入れなどの担保繰りに留意する必要がある。
②資金調達の効率化(流動性の向上)
売掛金であれば取引先からの回収金を ABCP 等に組み込めば、組み込んだ時点で即座に債権を現
金化でき、資金の効率的な調達が可能となる。また、不動産のように流動性のない資産を売却・譲渡
することにより資産の効率の良い利用ができる。
③資金調達コストの低下
新たな資金提供者の出現によって従来の調達手段より低い調達コストを達成できる場合がある。
④オフバランス化
資産のオフバランス化によって ROA や ROE といった財務指標の改善につながる。
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⑤資産・負債の管理(ALM)
取引先の信用リスク管理や調達と運用のミスマッチ調整を行うことができる。
これらの点は企業経営にとってメリットが大きいのは言うまでもないが、一方で各種のコスト・手
間が発生することも忘れてはならない。例えば、証券化商品を組織する際には信用補完のために超過
担保が設定されることが多く、この部分が従来の資金調達に用いられる超過担保比率に比べて過大だ
と、表面上の調達金利を引き下げられたとしても、総合的なコスト低下を達成できない場合もある。
また、オフバランス化については、目に見える財務諸表上では達成できていたとしても、証券化の詳
細をみると実質的にはオフバラ化できていない(少なくとも外部からはできていないと評価される)
こともあり得る。
以上を総合すると、現実的(不完全)な市場において証券化のメリットは確かに存在する。ただし、
当たり前ではあるが、オリジネーターとなる企業は証券化によって何を本当に得ようとしているのか
を、自社の財務状況を含めて慎重に検討するべきである。実際に証券化の詳細を決定する場合には、
次項で述べる外部からの評価の視点にも注意を払っておくことが望まれる。
外部から細かく見ると(信用リスク評価上の視点)
前項では、オリジネーターの視点からみた証券化を行う際の留意点を示し、証券化がオリジネータ
ーにどのような影響を及ぼすのかを概観した。本項では、投資家(債権者を含む)が証券化を行った
企業をどのように評価することが望ましいか、という問題意識の下でやや詳細な調査・検討ポイント
を提示する。
もちろん、すべての情報が公開されているわけではないが、貸借対照表(B/S)、損益計算書
(P/L)、キャッシュフロー(CF)表の整合性を詰めれば、証券化が行われているかどうかの推測が
できると考えられる。詳細は企業の IR(投資家向け広報)担当者に確認してみるのも一案であろう。
なお、証券化を行う際には、各種の複雑な仕組みが組み込まれる。これらの仕組みがオリジネータ
ーにどのような影響を及ぼすかを知るには、企業を評価する投資家やアナリストらも証券化商品の知
識を持っておくことが肝要と思われる。
(1)証券化自体の評価
証券化とオリジネーターの信用力の関係を整理するためには、証券化の実施という行為そのものが
企業価値に及ぼす影響と、証券化に派生して後々発生しうるリスク要因に分けて考えることが必要で
ある。まず、証券化の実施は、オリジネーターが SPV へ資産を売却・譲渡するところから始まる。
証券化の評価を行う上では、まず、①どのような資産を、②どのような価格で、③どのような形態で
証券化するのか――を確かめる必要がある。
①資産内容については、売掛金、貸付金、不動産といった資産の種類を確かめ、その規模を把握する。
残念ながら、多くの財務諸表では証券化の情報開示が徹底されていない。オリジネーターによる積
極的な情報開示が求められる。また、証券化対象資産がオリジネーターの資産全体の質からみた上
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でどの位置づけにあるのか、も重要な調査ポイントとなる。例えば、売掛金の証券化を行う場合、
譲渡対象となる売掛金の信用力(すなわち売掛け先の信用度)が、残存する売掛金の信用力に比べ
て高い場合には、オリジネーターは残存する低い信用力の資産を持つことになる(証券化商品の信
用補完として組成される劣後債を保有する場合も同様(注 1))。
このため、保有する資産(売掛金)のオフバランス化が表面上できて自己資本比率が上昇してい
ても、これだけではそのままオリジネーターの信用力が上がったとは評価はできないのである。
さらに、不動産関連を中心に買い戻し特約などの有無も確認しておきたい。というのは、こう
した特約が存在する場合には、結局のところオリジネーターから対象資産が本当にオフバランス化
したとは判断しがたいためである。
(注 1)一方、劣後債を保有するということは、企業が保有するリスクにキャップを設けるというメリットも存在する。
②証券化される資産の価格評価については、適正な価格が付けられることが前提である。市場実勢に
比べて譲渡価格が低すぎると譲渡自体に疑義が発生する(場合によっては譲渡自体を否認される)
ほか、逆に高すぎると証券化商品の投資家が損失を被る(よって証券化商品の格付けでは価格を保
守的に算出する)。適正な価格付けがなされていない取引には、証券化に限らず何らかの問題点を
抱えていると考えるべきであろう。
③証券化の形態も、当然のことながら把握しておくべきポイントである。具体的には、ABS といっ
た長期の資金調達として利用される場合と、ABCP のように短期の資金調達に利用される場合に区
別できよう。証券化対象資産の性格によってある程度こうした形態は規定されるが、証券化の目的
に合った利用法がなされているかを見極めたいところだ。
④こうした事実関係を確認した上で、最も重要なポイントとして、経営者が証券化を行う理由、を把
握し理解するべきである。上記のとおり、証券化という行為自体はオリジネーターにとって余計な
負担を強いるものだ。それでもあえて証券化を実施するというのは、手間ひまをかけても上記で挙
げたようなメリットがあるからに他ならない。
(2)証券化に派生して発生しうるリスク要因
証券化の影響は実施時点だけにとどまらないことにも注意が必要だ。検討すべきポイントは証券化
の案件によって多岐にわたるのでここでは代表的なものを挙げておこう。
まず、調達した資金を何に利用するかは必ず確認しておきたいポイントだ。仮に証券化で得た資金
を既存債務の圧縮に利用したならば、先述の手間やコストなどを除けばオリジネーターの信用力には
原則として中立と考えられる。ただし、新規事業の立ち上げに利用するならば、その新規事業のリス
クをオリジネーターの評価に加える必要がある。
一方、将来のキャッシュフローを前倒しで入手することにより、事業改革が進み結果的に競争上の
優位性など事業運営のメリットが期待できる場合にはプラス要素と評価し得る。また、事業が好調で
伸びている既存事業の運転資金として利用される場合も同様だ。資金使途はオリジネーターの信用力
を検討する上で不可欠な調査項目と言える。
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次に、証券化が継続的に行えるかについても検討しておきたい。仮にオリジネーターが「資金調達
の多様化」を目的に証券化に踏み切ったとしても、その市場で順調に発行を続けられなければ目的は
達成できない。順調な発行が可能なのかを検討するには、市場全体の安定性と、オリジネーターの契
約内容を把握しておくことが肝要であろう。
例えば、証券化市場でもリース債権などを裏付けとする市場はかなり成熟化してきているため安定
した資金調達源と言えるが、不動産関連の証券化は変動が大きく、案件ごとに慎重な吟味が必要であ
ろう。証券化を行う際に契約書に織り込まれる財務制限条項等もできれば把握しておきたいところだ。
また、従来は無担保の銀行借入や社債発行で資金調達を行っていた企業にとって、信用力が悪化した
場合に債権者に提供できる担保としての資産も減少することになる点も注意が必要であろう。
格付けの視点(まとめ)
これまで見てきた通り、証券化がオリジネーターの信用リスクに与える影響についての一般論を述
べるのは非常に難しい。あまりに各種の「仕組み」があるからだ。結論として、R&I は、原則中立、
あとは「ケースバイケース」と考えている。
R&I がこれまで行ってきた格付けでは、ノンバンクの一部に対して総合的な判断の一環として証券
化を前向きに評価したケースは存在するが、一般事業法人に対して証券化を実施したという事実のみ
で格付け符号を変更したということはない。
今後、格付け対象の企業が証券化による資金調達に依存する割合を上昇させると、本稿で述べてき
た検討項目が一段と重要性を増すことは間違いない。証券化自体は「魔法のつえ」や「打ち出の小
槌」でもなければ「有害な手段」でもない。結局は使い方が重要なのである。
R&I が格付対象の評価に用いる格付方法及びモデル等(以下「格付方法等」と総称します)は、R&I が独自の分析、研究等
に基づいて作成した R&I の意見の表明にすぎず、R&I は、格付方法等の正確性、適時性、網羅性、完全性、商品性、及び特
定目的への適合性その他一切の事項について、明示・黙示を問わず、何ら表明又は保証をするものではありません。また、
R&I は、格付方法等の開示によって、いずれかの者の投資判断や財務等に関する助言を行い、又は投資の是非等の推奨をする
ものではありません。R&I は、格付方法等の内容、使用等に関して使用者その他の第三者に発生する損害等につき、請求原因
の如何や R&I の帰責性を問わず、何ら責任を負いません。格付方法等に関する一切の権利・利益(特許権、著作権その他の知
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