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微生物由来リポタンパク質・リポペプチドの 免疫生物学的活性 - J
日本細菌学雑誌 62( 3 ):363–374,2007 ©2007 日本細菌学会 総 説 微生物由来リポタンパク質・リポペプチドの 免疫生物学的活性と自然免疫系による認識 柴 田 健一郎 北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座口腔分子微生物学教室 〒 060–8586 札幌市北区北 13 条西 7 丁目 [受理:2007 年 7 月] 微生物の有するリポタンパク質(LP)がグラム陰性菌のリポ多糖体(LPS)と同様な種々の免疫生物学的活性を 有し,その活性部位は N- 末端リポペプチド(LPT)部分であることは古くから知られていたが,Toll-like receptor (TLR)が発見されるまでその受容体は明らかにされていなかった。TLR 発見以来,LP ならびに LPS の認識機構 が研究され,それぞれの認識に TLR2 ならびに TLR4 が重要な役割を果たしていることが明らかにされた。また, LP の有する新たな免疫生物学的活性ならびに LP によるマクロファージ,樹状細胞等の活性化のメカニズムも分 子レベルで明らかにされている。さらに,MHC 分子に結合する抗原ペプチドを LPT 化することにより,免疫原性 が顕著に増加することも明らかにされ,新規ワクチンとしての研究もなされている。本稿では,微生物由来 LP・ LPT の生物活性ならびに自然免疫系による認識機構について最近の知見をもとに概説している。 1.はじめに 細菌由来リポタンパク質(LP)は 1969 年に Braun 等 (14) により大腸菌で初めて見出され,B リンパ球,マクロファー ジ,脾臓細胞等を活性化することが明らかにされている。 その後,LP はグラム陽性菌,スピロヘーター,リケッチ より脂肪酸が付与される (15,80,92)。LP は,グラム陰性 菌では細胞質膜と外膜に存在し,タンパク質部分がペリプ ラズム間隙に露出し,グラム陽性菌では細胞質膜の外側に 露出している (92)。 一方,細胞壁を欠いた自己増殖可能な最小の微生物であ るマイコプラズマにも BMLP と同様な生物活性を有する物 ア,マイコプラズマ等でも見出されている (15)。大腸菌由 質が細胞膜に存在することは以前から知られていた (75)。 来 LP(BMLP)は,2 つの脂肪酸が結合したジアシルグリ しかしながら,その生物活性物質の実態は長い間不明であ セロールがタンパク質の N-末端のシステイン残基にチオ り,1994 年になって初めて活性物質が細胞膜に存在する エーテル結合し,さらに,そのシステイン残基のアミノ基 LP であることが同定された (62)。さらに,1996 年にはそ に 3 つ目の脂肪酸がアミド結合しているというトリアシル の活性部位が N-末端のリポペプチド(LPT)部分であるこ 化構造をとっている(図 1)。BMLP は N 末端にシグナル とが明らかにされた (63)。 マイコプラズマ由来 LP は BMLP ペプチドを持つ前駆体として合成され,次に,ジアシルグ とは異なり,システイン残基のアミノ基がフリーで,ジア リセロールトランスフェラーゼがLipobox [L-(A/S/T)-(G/A)- シル化構造をとっている(図 1)。マイコプラズマ由来 LP C] を認識し,ホスファチジルグリセロール由来のジアシル がジアシル化構造である理由の一つとして,マイコプラズ グリセロールをシステイン残基に付与する (15,80,92)。 マが N-アシルトランスフェラーゼを欠如しているためであ その後,シグナルペプチダーゼ II によりシグナルペプチド ると考えられている。細菌ならびにマイコプラズマ由来 LP 部分が切断され,さらに,N-アシルトランスフェラーゼに の活性部位は共に N- 末端の LPT であり,種々の生物活性 Ken-ichiro SHIBATA Immunobiological activities of microbial lipoproteins/lipopeptides and their recognition by the innate immune system Laboratory of Oral Molecular Microbiology, Department of Oral Pathobiological Science, Hokkaido University Graduate School of Dental Medicine を有している (15,63,79)。これらの微生物由来 LP・LPT の生物活性(マイコプラズマ由来 LP について 1994 年以降 の報告)を表 1 に簡単にまとめたが,それらの詳細につい てはこれまでの総説 (15,75,80) ならびに原著論文を参照 されたい。 363 図 1.細菌ならびにマイコプラズマ由来リポペプチドの構造 表 1.微生物由来 LP・LPT の生物活性 LP・LPT の起源 E. coli 由来 Pam3CSSNA ならびにその誘導体 生物活性 文献 マウスの B リンパ球,マクロファージ,脾臓細 10,11,13,33,35,55,83 胞の活性化ならびにマイトゲン活性 Meth A 線維肉腫に抗腫瘍活性 82 Rhodopseudomonas viridis 由来リポペプチド誘導 マウス脾臓細胞に対するマイトジェン活性 体 58 B. burgdorferi の OspA 由来及び T. pallidum 47 kDa マウスに対する免疫原性(IgG の上昇) LP 由来 LPT B 細胞及びマクロファージの活性化 26 ヒト血管内皮細胞における NF-κB の活性化 47,48,67,72,84 90 ヒト好中球 IL-8 ならびにスーパーオキサイドの 61 産生 マウス皮膚に炎症 68 アポトーシス誘導活性 5,6 M. tuberculosis由来LPT(didehydroxymycobactins) APC の CD1a に結合して T 細胞の活性化 60,91 Mycoplasmas(1994 ~) 単球・マクロファージの活性化 32,40,62–64,69,73,74,80 補体の活性化 51–53 歯肉線維芽細胞の活性化 24,65,79 TLR2 依存的な Th2 応答 23,43 樹状細胞の活性化 42 364 マクロファージ貪食能の活性化 12,25,49 骨吸収活性 70 アポトーシス誘導活性 37,38 日本細菌学雑誌 62( 3 ) ,2007 本稿では,微生物由来 LP・LPT の自然免疫,特に Tolllike receptor(TLR)による認識機構ならびに最近見出され た免疫生物学的活性について概説する。 らかにされている (2,3,4,85)。 3.TLR2 による LP・LPT の認識機構 1)補助レセプター TLR1 および TLR6 の必要性 2.LP・LPT のレセプターの発見 これまで報告されている TLR の中でも,TLR2 はもっと 微生物由来 LP・LPT のレセプターに関する研究は 1994 も大まかな特異性を示す。すなわち,TLR2 は LP・LPT 以 年以前には報告されていない。1994 年に Kostyal 等 (45) は 外にもペプチドグリカン(PGN) ,リポアラビノマンナン, Mycoplasma fermentans の 48 kDa の LP によるヒト末梢血由 原虫の GPI―アンカータンパク質,ナイセリアのポーリン, 来単球の活性化には CD14 は無関係であることを明らかに 酵母のザイモザンといった明らかに構造の異なる PAMPs している。1996 年に,Norgrad 等 (67) は Borrelia burgdorferi を認識する (3,84)。したがって,多くの研究者がそのリガ の OspA(outer surface protein A)な ら び に Treponema ンド認識機構について研究している。ここでは,TLR2 に pallidum 47 kDa の LP(LP47)由来 LPT によるヒト単球系 よる LP・LPT の認識機構に注目し,以下に紹介する。TLR2 細胞株 THP-1 細胞の活性化は大腸菌 LPS のそれとは異な はジアシル LPT(diLPT)ならびにトリアシル LPT(triLPT) ると報告している。また,マイコプラズマ由来 LP も大腸 の認識に, それぞれ TLR6 ならびに TLR1 を補助レセプター 菌 LPS とは異なったメカニズムでマクロファージを活性化 として要求することが明らかにされている(図 2,86) 。 することが明らかにされている (74)。1998 年に,Wooten 等 しかしながら,我々は,HEK(human embryonic kidney) (91) は B. burdorferi の OspA が CD14 と結合し,ヒト由来血 293 細胞に TLR2 と TLR6 を共導入すると,diLPT である 管内皮細胞ならびに好中球の活性化を促進すると報告して FSL-1 の認識は有意に増強されるけれども,TLR2 のみを いる。また,同年に Sellati 等 (78) は,B. burdorferi の OspA 遺伝子導入しても FSL-1 が認識されることを明らかにした ならびに T. pallidum LP47,ならびにそれらの構造を基に合 (図 2,図 3,27,69) 。我々は,HEK293 細胞において RT- 成した LPT が CD14 依存性に,しかも LPS とは異なる経 PCR 法では TLR6 を検出できなかったために,TLR2 のホ 路で THP-1 細胞を活性化すると報告している。しかしなが モダイマーでも FSL-1 を認識するのではないかと推測した ら,LP・LPT のレセプターが同定されたのは 2 年後の 1999 が,多くの研究者はこの認識には内在性の TLR6 が関与し 年であり,そのレセプターは Toll-like receptor 2(TLR2)で ていると指摘していた(図 2,27)。しかしながら,Buwitt- あった (5,16,34,46)。TLR は 1997 年に Medzhitov 等 Beckmann 等 (18, 19) も TLR2 による diLPT ならびに triLPT (54) によりショウジョウバエの Toll のホモログとして初め の認識に, それぞれ TLR6 ならびに TLR1 を補助レセプター て同定されていることから,TLR2 が LP・LPT のレセプ として要求するというこれまでの報告は必ずしも正しくな ターであると同定されるまで,約 2 年を要していることに いということを明らかにしている(図 2)。彼らは補助レセ なる。現在では,多くの TLR が発見され,種々の微生物の プターの要求性はLPTのアシル基の脂肪酸の種類やペプチ 有する分子パターン(PAMPs)を認識することが明らかに ド部分のアミノ酸配列に依存すると報告している (18,19)。 され,また,TLR2 による LP・LPT の認識機構の詳細も明 したがって,我々は diLPT は TLR2 ホモダイマーのみでも 図 2.TLR2 による LPT 認識 365 線結晶解析により立体構造が明らかにされ,馬蹄形のソレ ノイド構造をしていることが報告された(図 4,21,41) 。 これまで,TLR2 もこのようなソレノイド構造をとってい るのではないかと推測されていたが,最近,Weber 等 (89) は TLR2 の細胞外ドメインには α-ヘリックス構造は存在せ ず,ループ構造をしているのではないかと報告している。 光澤等 (59) は TLR2 の Ser40-Ile64 の領域が PGN の認識 に関与することを明らかにしている。我々は Ser40-Ile64 の 領域以外に,Leu107,Leu112 ならびに Leu115 が PGN な らびに FSL-1 の認識に関与することを報告した (27)。 また, 典型的な LRR の高度に保存された β- シート構造領域に存 在する Leu 残基を Glu に変換した点変異体を作成し, HEK293 細胞に導入し,PGN ならびに diLPT の認識を調べ 図 3.HEK293 遺伝子導入細胞による FSL-1 の認識 diLPT である FSL-1 は TLR2 遺伝子導入のみでも認識されるが, TLR6 遺伝子を共導入するとその認識が増強される。(文献 27 か ら引用) たところ,すべての点変異体が PGN ならびに FSL-1 を認 識できなくなることを明らかにしている。さらに,LRR 以 外の Leu 残基はこれらのリガンドの認識にはほとんど関与 しないという結果も得ている。しかしながら,高度に保存 された Leu 残基を変異させていることから,これらの点変 異はリガンドの認識に直接関与するのではなく,強い構造 認識されるものと推測している(図 2)。 2)LPT の認識に関与する TLR2 のロイシンリッチリ ピート構造 変化を起したために立体構造が破壊され,認識できなく なったという可能性も否定できない。しかしながら,我々 はこれらの点変異体が細胞表面に発現していること, また, TLRは細胞外ドメインに複数のロイシンリッチリピート 野生型 TLR2 と細胞膜上でオリゴマーを形成していること (LRR)構造を有することが明らかにされている。LRR は を確認しており,それほどの劇的な構造変化が起こってい ヒト血清中の α-glycoprotein で初めて見出され,1 個の LRR る可能性は低いのではないかと推測している (27)。 は 20 から 29 個のアミノ酸からなり,高度に保存された領 Meng 等 (56) は,LRR 単位で欠失変異体を作成し,N 末 域が β-シート構造をとり,それ以外の領域が α-ヘリックス 端の 1 から 7 番目の LRR(S48-V220 領域)は triLPT なら 構造をとることが知られている (44)。また,複数の LRR を びに diLPT の認識には関与しない,また,TLR2 にはいく 有するタンパク質は,凸部に α-ヘリックス構造を,凹部に つかのリガンド認識部位があると報告している。さらに, β-シート構造をとった LRR が複数並列に並んだ馬蹄形のソ Bell 等 (8) はある LRR と LRR との間に挿入配列があり, そ レノイド構造を呈していることが明らかにされている の挿入配列がリガンド認識に関与するのではないかと推測 (44)。実際,LRR 構造を有する CD14 ならびに TLR3 の X している。 図 4.LRR を有する CD14 ならびに TLR3 の細胞外ドメインの X 線結晶解析に基づく立体構造 (文献 21 ならびに文献 41 の報告によるデータバンクから引用) 366 日本細菌学雑誌 62( 3 ) ,2007 このように,TLR2 のリガンド認識機構における LRR の のセリンから 48 番目のアラニンの領域がその増強に重要 役割についてはいくつかの報告があるが,いまだその詳細 であることを明らかにしている(図 5,66)。また,CD14 は明らかにされていない。Kim 等 (41) は,CD14 の馬蹄形 は triLPT である Pam3CSK4 と,解離定数 5.7 µM の親和力 ソレノイドの N-末端から 3 番目の LRR 領域までにポケッ で直接結合するが,diLPT である FSL-1 とは結合しないこ トが形成され,そのポケットに LPS が結合するのではない とを表面プラズモン共鳴法で明らかにした (66)。さらに, かと推測している(図 4) 。LPT は LPS に比べて明らかに CD14 は TLR2・TLR1 複合体とは結合していないことを, 小さな分子であることから,TLR2 の場合も馬蹄形ソレノ 免疫沈降法を用いて明らかにした (66)。すなわち,CD14 は イドのどこかにポケットが形成され,その部分に LPT 等が 結合した Pam3CSK4 を TLR2・TLR1 の複合体に手渡すだけ 結合して認識されている可能性も考えられる。 で,Manukyan 等 (50) が報告しているような 4 分子複合体 上述したように,TLR3 の立体構造(図 4)が明らかにさ は形成されないものと推測している(図 6) 。ただし,Meng れ,dsRNA の TLR3 による認識機構が構造を元に推測され 等 (57) は Pam3CSK4 と TLR2 が直接結合することを明らか ている (21)。したがって,TLR2 によるリガンド認識機構 にしているので,Pam3CSK4 と TLR2・TLR1 の 3 分子複合 を最終的に明らかにするためには TLR2 の X 線結晶解析に 体は形成されているものと推測される。 よる立体構造が明らかにされる必要がある。 3)補助レセプターとしての CD14 4)補助レセプターとしての C- タイプレクチン(Dectin1, DC-SIGN) CD14 は TLR4・MD2 複合体による LPS の認識を増強す C-タイプレクチンはカルシウムイオン依存的に糖構造を ることが以前から明らかにされていたが,そのメカニズム 認識する糖認識ドメインを有している II 型の膜貫通タンパ は不明であった。しかしながら,Akashi 等 (1) は,まず ク質である (76)。近年,C-タイプレクチンは接着レセプター CD14 が LPS と結合することにより構造変化がおこり, としてだけでなく,病原体の認識レセプターとして機能す TLR4・MD2 複合体と結合しやすくなるということを明ら ることが明らかにされている (20,76)。C-タイプレクチン かにしている。また,CD14 は TLR2 による PGN の認識も の一つである Dectin-1 が TLR2 の補助レセプターとして機 増強し,その増強には CD14 の 57 番目から 64 番目のアミ 能することが明らかにされている (17,29,87)。そのメカ ノ酸残基が重要な役割を果たしていることが知られている ニズムは Dectin-1 が細胞質ドメインにヘミ ITAM モチーフ (39)。さらに,Manukyan 等 (50) は TLR2・TLR1 複合体に を有し,そこで Syk が活性化され,そのシグナルが MAPK よる triLPT の認識に及ぼす CD14 の影響を調べ, まず CD14 ならびに NF-κB に伝達されると推測されていた (87)。しか と triLPT が結合し,TLR2・TLR1 の複合体と近接し,最 しながら,最近 Gringhuis 等 (31) は DC-SIGN(dendritic cell- 終的に 4 分子複合体を形成することを FRET(fluorescence specific ICAM3 grabbing nonintegrin)は Raf-1 を活性化し, resonance energy transfer)な ら び に FRAP(fluorescence 予め TLR のシグナルで活性化された NF-κB の p65 をリン recovery after photobleaching)法を用いて明らかにした。 酸化ならびにアセチル化し,IL-10 の産生を増強すると報 我々も同様な研究をしており,CD14 は TLR2・TLR1 の複 告している。さらに,彼等は DC-SIGN による TLR シグナ 合体による triLPT の認識を増強し,その増強には TLR1 が ルの調節には Syk は無関係であることも明らかにしている 必須であることを RNA 干渉法で,また,CD14 の 39 番目 (図 7,31)。 図 5.CD14 による TLR2/1 による triLPT 認識の増強 triLPT の TLR2/1 による認識は CD14 の導入で増強される。ただし,TLR1 の存在が必須である。(文献 66 から引用) 367 図 8.DC-SIGN は TLR2 による diLPT の認識を増強する 図 6.TLR2/1 複合体による triLPT 認識の CD14 による増強メカ ニズム まず,CD14 が triLPT と結合することにより,TLR2/TLR1 複合体 と triLPT が結合し易くなる。ただし,CD14 は TLR2/TLR1 複合 体とは結合しないものと推測される。(文献 66 のデータをもとに 作成) 2004 年に,Doyle 等 (25) は種々の TLR のリガンドが種々 の貪食レセプターの発現を増強することにより,マクロ ファージによる細菌貪食を促進することを報告している。 また,Blander 等 (12) は MyD88,TLR2 ならびに TLR4 を ノックアウトしたマウスのマクロファージの貪食活性は野 生型のマクロファージの貪食活性よりも有意に減弱すると 報告している。我々も,TLR2 のリガンドである FSL-1 刺 激はマクロファージに TLR2 媒介性のシグナル伝達経路を 通してスカベンジャーレセプター(macrophage scavenger receptor 1, CD36),dectin-1, DC-SIGN 等の貪食受容体の発 現を上昇させることにより細菌貪食活性を促進させるこ と,さらに TLR2 自身が貪食レセプターとしては機能しな いことを明らかにしている(図 9,49) 。 Dectin-1, DC-SIGN などの C-タイプレクチンは貪食レセ プターの一つであり,また,これら C-タイプレクチンは細 菌を認識することも明らかにされている (88)。したがって, 上述したように,TLR と貪食レセプターを介するシグナル 図 7.DC-SIGN による TLR のシグナルの調節 TLR のシグナルにより NF-κB が活性化されると,DC-SIGN から のシグナルが Raf-1 を通してその p65 サブユニットがアセチル化 される。(文献 31 の報告をもとに作成) に,どのようなクロストークがあるのかを明らかにするこ とは微生物感染初期の自然免疫機構を明らかにする上で非 常に興味深い。上述したように,DC-SIGN が TLR2 による LPT 認識(図 8)ならびに TLR3 による dsRNA 認識を増強 することを明らかにしている(未発表データ) 。 我々も,DC-SIGN の遺伝子を導入すると TLR2 による LPT の認識を相乗的に増強すること(図 8),さらに,TLR2 と DC-SIGN のテトラマーが細胞膜で結合していることを 明らかにし,現在その分子メカニズムを検討している。 4.LP・LPT は TLR を介して細菌貪食を増強する 自然免疫系においては重要な役割を果たしている食細胞 5.LP・LPT は TLR を介してアポトーシスを誘導する 上述したように,マイコプラズマの細胞膜リポタンパク 質(mLP)は TLR2 ならびに TLR6 によって認識され,転 写因子 NF-κB や AP-1 を活性化することにより種々の炎症 性サイトカイン産生を誘導する。Aliprantis 等 (5,6) は, 1999 年にすでに TLR2 リガンドである Pam3CSK4 が TLR2 (マクロファージ,樹状細胞,好中球)は微生物の侵入を, を強制発現した HEK293 細胞に Fas-associated death domain TLR を介して感知した後,貪食し,破壊する。また,微生 (FADD)ならびに MyD88 依存的にアポトーシスを誘導す 物の貪食には多くの貪食レセプターが関与することが明ら ることを報告している。 かにされている (88)。しかしながら,微生物の侵入を感知 我々は,mLP がリンパ球や単球に対して,caspase3 の活 するTLRを介するシグナルが微生物の貪食にどのような影 性化を伴うアポトーシスを誘導することを明らかにした 響を与えるのかについては不明な点が多く残されている。 (38)。mLP のアポトーシス誘導活性は TLR2 を介して誘導 368 日本細菌学雑誌 62( 3 ) ,2007 図 9.FSL-1 による TLR2 を介した貪食受容体の発現増強 TLR2 を介するシグナルはスカベンジャーレセプターや C-type レクチンなどの貪食受容体の発現を高めることにより,貪食作用を増強 する。 (文献 49 のデータをもとに作成) 図 10.mLP による TLR2 を介したアポトーシス mLP は TLR2 を介して MyD88 ならびに FADD 依存的に,また,IRAK4 非依存的にアポトーシスを誘導する。(文献 38 から引用) され,補助レセプターである TLR6 を共導入することによ り増強された。さらに,TLR2 と TLR6 を介する mLP のア 6.TLR2 依存的な Th2 応答を誘導する ポトーシス誘導活性は, ドミナントネガティブ型 MyD88 な TLR(特に TLR3, TLR4, TLR7, TLR9)を介するシグナル らびに FADD によって抑制され,さらに,MAP キナーゼ により IL-12 や IFN-γ の産生が誘導され,Th1 応答が導か JNK ならびに p38 の選択的阻害剤 SB203580 は著明に抑制 れるという報告は非常に多い (7,71)。また,TLR のシグ された(図 10,37)。 ナルの無い状態では Th2 応答が導かれるという報告もある 以上の結果から,LP・LPT は TLR2 ならびに TLR1 ある (77)。しかしながら,Dillon 等 (23) は TLR2 と TLR1 で認 いは TLR6 により認識され,そのシグナルは MyD88 なら 識される Pam3CSK4 は CD11c+ CD11B+ の樹状細胞に IL-10 びに FADD を介してアポトーシスを誘導する活性を有して の産生を誘導し,Th2 応答に導かれるということを報告し いるものと推測される。 た。そこで,我々はマイコプラズマ由来 diLPT である FSL- このように,微生物由来 LP が,重要な免疫担当細胞で 1 を腹腔ならびに鼻腔に免疫し,産生されるサイトカイン あるリンパ球や単球を活性化するだけでなく,アポトーシ ならびに抗体のサブタイプを検索したところ, Dillon 等 (23) スを誘導することは感染防御免疫機構上非常に興味深いも の報告と同様に,TLR2 依存的に Th2 型抗体である IgG1 が のと推測している。 Th1 型抗体 IgG2a よりも顕著に多く産生された (図 11,43) 。 ただし,マウスの骨髄細胞を GM-CSF で樹状細胞に分化さ 369 図 11.diLPT である FSL-1 による TLR2 依存性の Th2 応答誘導 HEL を抗原として,LPS あるいは FSL-1 共存下あるいは非共存下でマウスの鼻腔に免疫すると TLR2 依存的に Th2 応答が誘導される。 (文献 42 から引用) せた細胞を in vitro で,FSL-1 で刺激した場合は Th1 タイ MHC のクラス I ならびにクラス II 分子に結合するペプチ プのサイトカインが産生されること,さらに,補助刺激シ ドのみでは効果的な抗体産生ならびにCTLの誘導がみられ グナル分子(B7.1, B7.2)ならびに MHC 分子の発現を増強 なかったためであると推測される (9)。しかしながら, することを明らかにした (42)。 Hopp (36) は,MHC の X 線結晶解析による構造が明らかに 以上のことから,TLR を介するシグナルは Th1 応答に導 される以前に,HBV の HBs 抗原ペププチドに dipalmytoyl- かれ,TLR のシグナルの無い状態では Th2 応答が導かれる lysine を結合させた LPT を免疫すると抗体産生が増強され という Schnare 等の報告 (77) は必ずしも正しくないものと ることを明らかにしている。さらに,Deres 等 (22) は 思われる。すなわち,in vitro では Th1 タイプのサイトカイ tripalmytoyl-Cys-Ser-Ser の C 末端に HIV の抗原ペプチドを ンが産生されたからといって,in vivo では複雑なサイトカ 結合させると効率よくCTLが誘導されることを明らかにし インネットワーク等の影響で,必ずしも Th1 応答が誘導さ ている。 れるとは限らないものと推測される。 7.LPT のワクチンアジュバントとしての可能性 MHC の X 線結晶解析による構造が明らかにされて以来, さらに,ミエロイド樹状細胞や皮膚のランゲルハンス細 胞に発現している MHC 様分子である CD1a に LPT が結合 し,T 細胞を活性化し,IL-2 の産生を誘導することが最近 明らかにされている (60,93)。 抗原提示細胞による T 細胞の活性化のメカニズムの詳細が このように,MHC 分子に結合するペプチドを LPT 化す 明らかにされた。すなわち,外来の抗原タンパク質はエン ることにより免疫原性が増強されるということは,LPT が ドサイトーシスや貪食により取り込まれ,ファゴリソソー 化学的に合成できることから,不純物が少なく,活性の安 ムでペプチドまで分解され,MHC クラス II 分子に結合し 定したワクチンになりうるものと期待される。 て CD4 陽性の αβT 細胞を活性化し,ヘルパー T(Th1 及 び Th2)細胞を誘導する。一方,ウイルスのような細胞内 寄生体由来抗原タンパク質はプロテアソームで分解され, 8.終わりに 上述したように,微生物由来 LP が LPS と同様な生物活 粗面小胞体で MHC クラス I 分子に結合し, CD8 陽性の αβT 性を有することは以前から知られていたが,TLR の発見以 細胞を活性化し,細胞障害性 T 細胞(CTL)を誘導する。 来,それらの認識機構が詳細に研究され,LPS とは違った この免疫学的に重要な発見以来,多くの研究者が MHC の メカニズムで認識されることが明らかにされた。しかしな クラス I ならびにクラス II 分子に結合するペプチドをワク がら,LP ならびに LPS 共に NF-κB の活性化に導かれ,炎 チンとして用いようと考え,多くの研究がなされたが,今 症性サイトカインの産生が誘導される。また,LP は菌体外 でも従来のワクチン(生ワクチン,弱毒ワクチン,不活化 に分泌されることはなく,グラム陽性菌ならびにグラム陰 ワクチン,トキソイド)が使用されている。その理由は 性菌の細胞膜に結合して存在している菌体結合性タンパク 370 日本細菌学雑誌 62( 3 ) ,2007 質である。このようなことを考え合わせると,私は LPS が 内毒素であるという monopoly の時代は終わりをつげたと 言ってもいいのではないかと考えているし,実際そのよう 14) な報告 (28) もある。また,LPT が MHC 分子や,MHC 様 分子である CD1a に結合し,T 細胞を活性化するというこ とは獲得免疫の新たな一面を見出せる可能性があるだけで 15) なく,上述したように,LPT 研究は新規なワクチンの開発 にも繋がるものと期待される。 16) 謝 辞 この総説で使用した我々のデータは,私の研究室で大学 院生として研究してくれた引頭 毅,中村順一郎,藤田真 理,木浦和人,前 多厚,中田 貴,片岡嗣雄,伊従光洋 等の努力の結晶であり,彼等に感謝するとともに,執筆の 機会を与えていただきました高田春比古先生に深謝いたし 17) 18) ます。 文 献 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) 10) 11) 12) 13) Akashi, S., Saitoh, S., Wakabayashi, Y., Kikuchi, T., Takamura, N., Nagai, Y., Kusumoto, Y., Fukase, K., Kusumoto, S., Adachi, Y., Kosugi, A., Miyake, K. 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