...

【日系企業による対外投資の留意点】 第5回 欧州投資(英国)

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

【日系企業による対外投資の留意点】 第5回 欧州投資(英国)
シリーズ国際税務
日系企業による対外投資の留意点
日系企業による対外投資の留意点
▶図1 親子会社指令の源泉税の取り扱い
第5回 欧州投資
(英国)
① 通常の二国間
② EU域内
X国
X国
税理士 西田宏之
源泉税20
(税率20%の場合)
Y国
欧州ではEUの下で単一市場が創設され、欧
州各国間のヒト・モノ・カネ・サービスの移動
盟国が国内立法措置を講じることが要請され、
各加盟国での国内法の整備により初めて適用さ
る際にも、この恩恵を受けることができます。
うち代表的なものは、次のとおりです。
(1)親子会社指令
この指令は、異なる加盟国間でのクロスボー
源泉税なし
支払配当100
子会社
支払配当100
Y国
子会社
※利子・ロイヤルティー指令の源泉税に関しても、上図と同様です。
※グループ会社の要件を満たすための持株要件は、現在は15%ですが、2009年1月1日以降は
10%へと緩和される予定です。
税されることになります。
ては、その持株会社の実効税率が25 %以下と
このように、EU域内へ進出する際には、税
ならないよう留意する必要があります。この観
制障壁の少なさもあって、中間持株会社自体も
点からは、英国やオランダは、法人税率がそれ
EU域内に設立することが多くあります。
ぞれ28%、25.5%であり、タックスヘイブン
EU加盟国間では税制の障壁のない仕組みを構
ダーによるグループ会社間の配当について、配
築しているため、EU域内へ進出する際には、
当支払国における源泉税の免除と、配当受領国
現地子会社のみならず、それらを統括する中間
における課税の免除(あるいは間接外国税額控
持株会社もEU域内に設立するスキームが散見
除を認める)を通じて、グループ間の配当に関
現地子会社からの配当収入等をEU域内に留
国は、整備された金融インフラ、堅調に推移す
されます。なお、日系企業の欧州への進出先と
する税制の障壁を取り除くことを目的とするも
保することで日本での追加的課税を回避し、将
る経済、コミュニケーションツールが英語であ
して最も多いのが英国であり、英国への投資は
のです。この指令により、EU域内においては
来のEU域内での再投資に充てるため、日本親
ることなどから、欧州の現地子会社の統括拠点
もちろん、欧州各国へ投資する際の統括拠点と
原則として、配当源泉税や受取配当に対する法
会社と現地子会社との間に中間持株会社を設立
として持株会社を設立する例が多く見られます。
して英国に中間持株会社を設立する例も多く見
人税が課されることなく、クロスボーダーでの
するケースがあります。この点において、日本
られます。
配当が可能になります(<図1>参照)。
から海外の中間持株会社を介して投資する場合
第5回では、EU域内の税制の概要と、英国
税制の特徴(英国持株会社の税制と、英国事業
税制の適用を受けない範囲内での低い税率であ
2. タックスヘイブンの観点からの中間持株会社
スキーム
の最大の留意点は、中間持株会社が“タックス
(2)利子・ロイヤルティー指令
ヘイブン税制の適用を受けないこと”であると
るため、税制面から見て持株会社を設立するの
に適した国であるともいえます※2。さらに、英
Ⅲ 英国税制の特徴
1. 英国持株会社の税制
この指令は、異なる加盟国間でのグループ会
考えられます。日本におけるタックスヘイブン
英国に欧州の現地子会社を統括する持株会
社間の利子やロイヤルティーについて、源泉税
税制(本誌Vol.36第3回参照)では、子会社の
社を設立した場合の主な税制上のメリットとし
の廃止を目的とするものです。クロスボーダー
所在地国における実効税率が25 %以下である
て、次のものが挙げられます。
での利子・ロイヤルティーについては、通常、
場合には、その子会社の留保所得について日本
その支払者である会社の所在地国で源泉税が課
の親会社の所得に合算して課税されます。従っ
EUでは、「指令(Directive)」による各加盟
されますが、この指令により、EU域内※1にお
て、持株会社を海外に設立するスキームにおい
国の課税の調整を図っています。EU指令は法
いては源泉税が課されることなく、利子やロイ
的拘束力はありませんが、これに基づいて各加
ヤルティーを受け取る会社の所在地国でのみ課
会社への投資税制)をご紹介します。
Ⅱ EU域内の税制
1. EU域内における税制の調和化
※1 経過措置が設けられているギリシャ、スペイン、ポルトガル、一部の新規加盟国などを除きます。
26
受取配当100
(配当免税)
れるものになります。税制に関するEU指令の
が自由化されています。税制においても調和化
を目指しており、日系企業がEU域内へ進出す
親会社
受取配当80
(+受取配当への課税)
新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人
Ⅰ はじめに
親会社
(1)グループリリーフ制度
英国持株会社と75 %以上の所有関係がある
※2 近年、EU域内では法人税率が引き下げられる傾向にあります。英国では2008年からの法人税率が30 %から
28%へ引き下げられました(なお、英国では法人の課税所得に対する地方税はありません)。日本や米国と並ん
で法人税率が高かったドイツでも、08年の税制改正により連邦法人税率が15%へ引き下げられ、地方税と合わ
せた実効税率が29.9%となりました。全体的に見ると、EU域内での法人税率は25∼30%と想定されます。
27
日系企業による対外投資の留意点
シリーズ国際税務
グループ会社間の事業損失を、その発生年度に
なお、英国持株会社はこの制度の要件を満た
グループ内の他の会社の利益と相殺できる制度
すため、実質的株式持分免税の適用によりキャ
です。英国内での損失控除が不可能な場合には、
ピタル・ゲインが免税になると、英国持株会社
一定の条件の下、欧州経済地域(EEA)※3各国
の実効税率が25%以下となることがあります。
のグループ会社との間で損失の授受が可能です
この場合、英国持株会社の留保利益について
。
(<図2>参照)
例えば、英国持株会社の損失(借入利息等)
式を強制取得する、いわゆるスクイーズアウ
ト ※6を実行することになります(<図5>参
(1)買収方法
英国での買収方法(対象会社株式の全取得の
照)。スキーム・オブ・アレンジメントは友好
方法)としては、スキーム・オブ・アレンジメン
的な買収でのみ利用可能であるため、敵対的買
タックスヘイブン税制の適用を受ける可能性が
トと株式公開買い付け(TOB)の2通り
あるため、留意が必要です。
えられます。
と、英国子会社の事業により生じた利益は、グ
ループリリーフ制度により相殺することができ
90 %以上の株式を取得し、その後、残りの株
点をご紹介します。
※5
が考
いずれの方法によっても、原則として、対象
スキーム・オブ・アレンジメントとは、英国
(3)その他配当課税について
収には、
こちらの手法を用いることになります。
に所在する対象会社の株主総会による承認およ
会社や買収者における課税が生じることはあり
ません。
ます。その相殺後の利益は、一定の要件をもと
英国持株会社がEU域内の他の子会社から受
び裁判所の認可、そのほか一定の条件を満たし
に外国グループ会社で生じた損失と相殺するこ
ける配当については、原則として、EU指令に
た場合に、買収者が対象会社の全株式を取得で
とが可能となります。
より源泉税は課されません。なお、英国持株会
きる友好的な買収手法です。対象会社または、
社では、英国において配当が通常の課税所得と
その株主が裁判所に申し立てることにより開始
には、支払利息の損金算入による税負担の軽減
同様に28 %で課税される一方、間接外国税額
する手続きであり、対象会社の取締役会の承認
を図るため、出資による融資よりも貸し付けに
控除により当該他の子会社で支払った法人税額
も必要であるため、友好的な買収にのみ用いら
よる融資を選択する傾向にあります。日本親会
この制度は、英国に所在する事業会社または
が英国で外国税額として控除されることになり
れます。株主総会による承認には、株主の頭数
社が英国に設立した買収ビークル(事業体)に
事業会社グループに属する会社が、他の会社が
ます(現在の日本や米国が海外子会社に投資し
の過半数以上、かつ総議決権の75 %以上の賛
対し、このスキームを用いる際には、過少資本
成が必要となります。この方法によると、既存
税制(本誌Vol.35第2回参照)および移転価格
株主が保有している対象会社の株式のすべてが
税制※7に留意する必要があります。英国におけ
消却され、買収者に対して対象会社の株式が交
る関連者間の負債に関する過少資本税制は、独
。
付されます(<図4>参照)
立企業間原則に基づいています。つまり、関連
(2)実質的株式持分免税
(Substantial Shareholdings Exemption)
発行する株式の10 %以上を譲渡した場合にお
※4
た場合と同様の制度) 。
けるキャピタル・ゲインについて免税とされる
ものです。ここでの他の会社とは、事業会社ま
2. 英国事業会社への投資税制
(2)買収に係るファイナンスの留意点
一般的に親会社が各国の子会社に融資する際
たは事業会社の持株会社で、株式の譲渡直前の
日本企業の英国への進出方法としては、新規
2年間のうち12カ月以上にわたって10 %以上
に会社を設立するほか、既存の英国の会社を買
これに対し、TOBにより英国に所在する対
者間ではなく独立企業間であったならば、どの
保有する関係にあるものをいいます(<図3>
収する方法が考えられます。ここでは、英国で
象会社の全株式を取得する場合には、TOBで
ような借り入れ、貸し付けが行われたかを想定
参照)。
の買収方法と、それに伴うファイナンスの留意
▶図4 スキーム・オブ・アレンジメントのスキーム例
▶図2 グループリリーフ制度
▶図3 実質的株式持分免税
例:帳簿価額100の子会社株式を200で売却した場合
EEA内
英国
買収者
③ 買収対価
(英国以外)
親会社
親会社
損失
① 相殺可
子会社
利益
① 株式の消却
キャピタル・ゲイン
100が非課税
相殺後 ② 相殺可
利益
買収ビークル
ターゲット
② 株式の交付
損失
子会社
子会社
子会社の発行済株式の
10%以上を売却
※3 ヒト・モノ・カネ・サービスの移動の自由が保障されている貿易地域であり、EU加盟国のほかアイスランド、
ノルウェー、リヒテンシュタインが含まれます。
※4 配当課税について、英国および日本においては資本参加免税(間接外国税額控除の代わりに、海外子会社からの
配当を非課税にする制度)の導入が検討されています。
28
株主
① 買収ビークルが所有しているもの以外の株式を無償で消却します。
② ターゲットは買収ビークルに対して①で消却した株式と同数の株式を発行します。
③ 買収ビークルは①の消却の対価(買収対価)として株主に現金を交付します。
※5 英国の会社法上、日本の合併と同様の制度は存在しません。
※6 英国の会社法には、TOBによって90%以上の株式を取得した場合、残りの株式を強制的に買い取ることができ
る制度があります。
※7 国外の関連企業(国外関連者)との取引を通じた所得の海外移転に対応するため、国外関連者との取引価格を通
常の取引価格に引き直して所得計算を行い、差異がある場合には課税する制度
29
シリーズ国際税務
▶図5 TOBのスキーム例
① TOBの実施
② スクイーズアウト
買収者
株主
現金
買収者
現金
株式
買収ビークル
株主
株式
買収ビークル
ターゲット
ターゲット
① 買収ビークルは、TOBにより現金を対価として90%以上のターゲット株式を取得します。
② 買収ビークルは、現金を対価として残りのターゲット株式を強制取得します。
して、融資を検討する必要があります。過少資
本税制については、多くの国ではセーフハー
バー ※8(例えば日本では負債資本比率3:1)
が設けられているため、それを守ることによ
り、支払利息の損金算入を確実にすることが可
能です。しかし、英国の過少資本税制はセーフ
ハーバーがなく、移転価格税制の制度下にある
ため、その融資が独立企業間原則に基づいてい
るという事実を証明する文書を準備する必要が
あります。なお、独立企業間原則に基づいた負
債の査定については、実務的なガイダンスが公
表されておらず、買収者(過少資本税制の適用
対象となり得る買収ビークル)にとっては追加
課税リスクとなり得るものです。
このリスクは、
融資した時点、あるいはその後に、納税者と英
<お問い合わせ先>
国税務当局(HMRC)との間で過少資本税制の
新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人
問題について事前合意することによって回避で
トランザクションタックスグループ
きます。
Tel :03 3506 2026
Fax:03 3506 2200
次回は米国における投資方法をご紹介します。
E-mail:[email protected]
※8 あらかじめ定められたルールや一定の範囲に基づく限り、違反とはされない範囲
30
Fly UP