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3 章:ボラティリティ

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3 章:ボラティリティ
2014/06/10
新谷元嗣、藪友良、高尾庄吾
3 章:ボラティリティ
ここでは、条件付き不均一分散のモデルを紹介する。具体的には、ARCH、GARCH、
IGARCH、EGARCH、TGARCH、多変量 GARCH モデルである。
1
分散不均一のモデル
標準的な回帰分析において、「分散は一定」と仮定される。しかし、実際のデータをみ
ると分散が一定でないことがある。
ファイル QUARTERLY.XLS では、
1960Q1∼2008Q1 における金利データが含まれる(教
科書 2 章 10 節、3 章 4 節参照)。金利スプレッド(st)を、10 年物の国債金利 r10t−政府証
券金利 tbillt として定義しよう。
genr s = r10 - tbill
また、スプレッドの変化を
genr ds = s - s(-1)
と定義する。
左下図は、スプレッドの動きを示す。通常、長期金利の方が高いため、スプレッドは正
の値をとる。しかし、金利は下がるという予想があれば、長期金利の方が低くなり、スプ
レッドは負の値をとる。右下図では、スプレッドの差を描いている。これをみると、1980
年前後で大きなショックが何度も発生していることが分かる。しかし、1985 年以降は小さ
なショックしか発生していない。このデータを見る限り、分散一定の仮定は妥当ではない
かもしれない。
1
1.1
残差 2 乗の
のコレログラ
ラム
教科
科書 2 章 10 節では、ボックス=ジェ
ェンキンス法
法によって、ARMA(2,1)が
A
が金利スプレ
レッド
の有力
力モデルとさ
された。AR
RMA(2, (1,7)))とし、
lss s c s(-1) s(-22) ma(1) ma((7)
と入力
力すると推定
定結果が得ら
られる。それ
れらをまとめ
めると
st = 0.280
0 + 0.267st-1 + 0.532st-2 + εt + 0.900εt-1 – 0.162εt-7
(2.73) (2.93)
(5.91)
(18.04)
(−4.99)
とな
なる。教科書は
は RATS で推
推定しており
り、推定値は
は多少異なる
る。ただし、
、係数の大ま
まかな
推定値
値、有意性は
は同じである
る(補足参照
照)。また、
、残差(residu
uals)のコレロ
ログラムを確
確認す
ると、
と、自己相関 AC
A と偏自己
己相関 PAC は 0 に近い値
値を取り、修
修正 Q 統計量
量もすべて有
有意と
はな
ならない。つま
まり、残差は
はホワイトノ
ノイズである
る。
こ
ここで、残差 2 乗(squared
d residuals)の
のコレログラ
ラムを確認し
しよう。Equattion ウィンド
ドウの
「Vieew」→「Residual Diagnostics」→「
「Correlogram
m Squared Ressiduals」を選
選択する。
そうすると、以
以下の表が表
表示される。
。これをみる
ると、AC と PAC は大き
きな値をとり
り、修
正 Q 統計量は有
有意となって
ている。つま り、残差 2 乗には系列相
乗
相関がある。
。以下では、
、より
厳密に LM 検定によって、調
調べてみよう
う。
2
1.2
LM 検定
マクラウド=リ
リーの LM 検定を用いて
検
て、ARCH/GA
ARCH 効果の
の存在を調べ
べよう。Equ
uation
ウィ
ィンドウの「V
View」→「R
Residual Diaggnostics」→「Heterosked
dasticity Testts」を選択す
する。
Sp
pecification ボックスの Test type:で
で ARCH を選択する。L
を選
LM 検定は、
、残差 2 乗を
を、残
差2乗
乗のラグで回
回帰し、
その
の係数が有意
意に 0 と異な
なるかを調べる
る。このため
め、Number of
o lags
で何期
期分のラグを
を説明変数と
として含める
るかを指定す
する。ここで
では 4 としよ
よう。
OK
K を押すと、
、検定結果が
が表示される
る。
3
残差 2 乗のラグは、2 期前と 4 期前で有意に 0 と異なる。また、TR2 は 18.89 と高い値と
なり、有意水準 1%で帰無仮説α1 = α2 =α3= α4 = 0 は棄却される(対応する p 値は 0.008)
。
小標本では、χ2 検定ではなく、F 検定を行う方がよいため、帰無仮説α1 = α2 =α3= α4 = 0
とした F 値を求めると、
5.11 と高い値となり、
やはり有意水準 1%で帰無仮説α1 = α2 =α3=
α4 = 0 は棄却される(対応する p 値は 0.0006)。以上から、ARCH/GARCH 効果が存在
するといえる。
1.3
ARCH/GARCH モデルの推定
平均のモデルは ARMA(2, 1)とし、誤差項は ARCH(2)としよう1。
平均の式:
誤差項:
st= a0 + a1st-1+ a2st-2+εt+b1εt-1
ε t = vt ht
分散の式: ℎ =
+
+
「Quick」→「Estimate Equation」を選択して、Equation Estimation ウィンドウを表示
する(下図)。そして平均の式を ARMA(2,1)としよう。そして、推定法 Method として、
LS ではなく、ARCH-Autoregressive Conditional Heteroskedasticity を選ぶ。
推定法 Method を選択すると、ウィンドウが切り替わり、Specification の画面が表示さ
れる(下図)。平均の式(Mean equation)には、先ほど定義した ARMA(2,1)モデルが書
かれている。分散の式(Variance and distribution specification)で、ARCH(2)を選択し
よう。具体的には、Order ボックスにおいて、ARCH を 2、GARCH を 0 と指定する
(GARCH(1, 1)が推定したいなら、Order ボックスにおいて、GARCH の次数を 0 から 1
に変更すればよい)2。
1
2
ARCH 効果を考慮すると、平均の式で εt-7 は有意ではなくなるため、ここでは ARMA(2,1)としている。
ここでは正規分布を仮定している。t 分布を仮定したいなら、Error distribution において Student’s t を選択する。
4
そして、OK とすると、以下の推定結果が得られる。
平均の式
分散の式
これをまとめると、以下となる。
st = 0.069 + 1.596st-1 − 0.657st-2 + εt − 0.14εt-1
(2.42)
(11.48)
ht = 0.095 + 0.336
(4.67)
(−4.76)
εt-12+
(2.22)
0.458εt-22
(4.24)
5
(−1.67)
2.
他
他のモデル
ル
2.1
IGARCH と ARCH-M モデル
前節
節の GARCH
H モデルの推
推定結果を見
見ると、
st= 0.105+ 1.3466st-1−0.441sst-2+εt −0.082
2εt-1
ℎ = 0.0049 + 0.292
+ 0.748ℎ
2
とな
なる。ここで、
、εt-1 、ht-1 の係数の和(0
の
0.292 + 0.748
8)はほぼ 1 となっている
と
る。このため
め、係
数の和
和が 1 とする
る制約をおい
いたうえで、
、モデルを再
再推定しよう
う(IGARCH)
)。ただし、MA(1)
M
は有意
意ではないた
ため、取り除
除いておこう
う。
IG
GARCH を推
推定するには
は、Variancee and distrib
bution speciification の Restriction
ns で
IGAR
RCH を選択
択して OK を押すとよい
を
い(下図参照)
)。
そうすると、以
以下の推定結
結果が表示さ
される。ここ
こで、係数の
の和はちょう
うど
1(=0..193290+0.806710)であ
あることが確
確認できる。
。IGARCH では、推定す
で
するパラメー
ータが
1 つ減
減っているた
ため、(制約
約が正しい
いという条件
件のもとで)
)通常の GAR
ARCH よりも
も高い
精度
度の推定がで
できる。
6
最後に、もし ARCH-M モデルを推定したいなら、Equation Estimation ウィンドウの右
上に、ARCH-M ボックスで、None と設定されているのを、Variance に変更すればよい(下
図参照)。こうすると、平均の式に、新たに ht が説明変数として追加される。
7
2.2 非対称のモデル
金融市場では、「悪いニュースは良いニュースよりボラティリティに大きな効果を持
つ」といわれる。収益率の下落がボラティリティをより大きく増加させる傾向は、レバ
レッジ効果と呼ばれる。ここでは、こうした非対称性を捉えるモデル(TARCH、EGARCH)
を推定しよう。
TARCH モデル
教科書 3 章 10 節で確認した、NYSE の収益率を分析する(データは nyse.xls)3。日次
収益率 rt を
genr r = 100*log(int100/int100(-1))
と定義する。ここで、平均の式は
r c ma(1)
分散の式は TARCH とする。TARCH では、ダミー変数
dt-1 =1
=0
もし εt-1 < 0
もし εt-1 ≥0
を導入し、条件付き分散を
ht = α0 + α1εt-12 + λ1d t–1εt-12 + β1ht–1
と定式化する。ここで、λ1>0 であれば、負のショックは、正のショックよりもボラティリ
ティを増大させる(レバレッジ効果がある)。
先と同じように、ARCH の specification ウィンドウを開いて、
Mean equation は r c ma(1)
とし、Variance and distribution specification の Order は ARCH を 1、GARCH を 1 とし
て、新たに Threshold order に 1 を入力しよう(下図参照)。これで分散式に、d t–1εt-12 が
追加される。
3 このデータは日次であるが、土日に加えて祝日でも観測がされていない(株式市場が閉じていれば株価に値はつかな
い)。こうした不規則なデータであれば、データの種類を unstructured/undated としよう。この場合、サンプルサイ
ズを 2148 である。
8
ここで、OK を押すと以下の推定結果が得られる(下図)。resid(-1)^2*(resid(-1)<0)、つま
り dt-1εt-12 の係数は 0.109 であり、有意水準 1%で帰無仮説(係数=0)が棄却される。つまり、
レバレッジ効果の存在が確認される。
EGARCH モデル
EGARCH では、被説明変数は ln(ht)となっており、係数に非負制約をかける必要がな
い。
ln( h t ) = α 0 + α 1 | ε t − 1 / h t0−. 51 | + λ 1 ( ε t − 1 / h t0−. 51 ) + β 1 ln( h t − 1 )
先と同じデータで EGARCH の推定をしてみよう。ARCH の specification 画面を開いて、
Variance and distribution specification の Model を、GARCH/TGARCH を変更して、EGARCH
を選択しよう。Order は、ARCH を 1、GARCH を 1、Asymmetric order を 1 と指定する。
9
OK を押すと、推計結果が Equation ウィンドウとして表示される。
推定結果をまとめると、
rt = 0.023 – 0.057εt-1 + εt
(1.10)
(–2.47)
ln(ht) = –0.083 + 0.109|εt-1/ht-10.5|– 0.075 εt-1/ ht-10.5 + 0.979 ln(ht-1)
(–6.92) (6.84)
(–6.66)
(272.42)
となり、すべての係数は有意である(平均式の定数項は除く)。また、ht-1 の値を所与
とすると、εt-1 が 1 単位増えると、ln(ht)は 0.034 (=0.109–0.075)単位だけ増加する。これ
に対し、εt-1 が 1 単位減少すると、ln(ht)は 0.184 (=0.109+0.075)単位も増加する。これは、
悪いニュースの方が良いニュースより条件付き分散を増大させる効果があることを意
味する。
10
3. 多変量 GARCH
前節までは 1 変量のモデルを学習してきた。しかし、近年では、グローバル化を背景
とし、国際的なボラティリティ・ショックの波及に注目が集まっている。このような分
析では、変数間の相互関係を考慮することが重要となる。
3.1 vech モデル
多変量の GARCH モデルでは複数の条件付き分散・共分散を推定する。2 変数、ラグは 1
期のみの場合を考えると vech モデルは以下のように定式化される(本文の(3.42) − (3.44)
式、補足 3.2 も参照)。
vech(Ht) = C + A vech(εt-1εt-1′) + Bvech(Ht-1)
ℎ
ℎ
ℎ
=
+
ℎ
ℎ
ℎ
+
しかし、この定式化はパラメータの数が非常に多くなってしまい、推定は困難になって
しまう。そこで、制約を課して、パラメータ数を減らした対角 vech モデルが考案された(行
列 A、B において、対角要素以外を 0 と置いている)。
ℎ
ℎ
ℎ
0
=
+
0
0
0
0
0
+
0
0
0
0
0
0
ℎ
ℎ
ℎ
ここで、データ exratesdaily.xls を用いて、対角化 vech モデルを推定してみよう(教科
書 3 章 11 節参照)。為替レートを Sit とし、その変化率を yit=100*ln(Sit/Sit-1)とする。ここ
で、ユーロは y1t、ポンドは y2t、スイス・フランは y3t としよう。前段階として、yit = μi + εit
を推定すると、定数項μi は
euro
pound
sf
0.0136
–0.00415
0.0161
(1.08)
(–0.36)
(1.18)
となる。残差 2 乗を用いて、ラグを 5 期まで含めて LM 検定を行うと、帰無仮説は棄却さ
れる(ARCH/GARCH 効果を示唆する)。
それでは、GARCH(1,1)として対角 vech モデルを推定しよう。多変量モデルでは、単変
量の方法とは異なり、システム全体を指定する必要がある。まず workfile ウィンドウで、
コントロールキーを押しながらクリックすることで、 y1、y2、y3 を同時に選択する。この
状態で右クリックすると、メニューが表示されるので、「Open」→「as System」を選択
する(下図)。
11
そうすると、Make System ウィンドウが表示される(下図)。ここでシステム(連立方
程式モデル)を指定する。ここでは何も変更しないで推定を行う。つまり、変化率の説明
変数として、定数項のみをとるモデルを想定する。
OK をクリックすると、System ウィンドウが表示される(下図)。メニューバーから
Estimate を選択する。
12
す
すると、Systtem Estima
ation ウィン
ンドウが表示
示される。こ
ここで Estim
mate method の
メニ
ニューから、
、ARCH-Autoregressivee Conditiona
al Heteroskedasticity を
を選択する。
。
す
すると、ウィ
ィンドウが切
切り替わり、
、ARCH モデ
デルの指定画
画面となる
る(下図)。こ
ここで、
ARC
CH model sp
pecification
n の Model type から Diagonal
D
VE
ECH を選択
択する4。
K を押すと、
と、System ウィンドウに
ウ
に推定結果が
が表示される
る(下図は推
推定結果の一
一部)。
OK
4 ここ
こで Diagonal VECH
V
ではなく、
く、CCC モデル、
、BEKK モデル
ルなどを選択する
ることもできる。
。
13
yit = μi + εit の μi の推定された値がそれぞれ c(1),c(2),c(3)にあたる。つまり、
y1t =c(1)+ ε1t, y2t =c(2)+ ε2t, y3t =c(3)+ ε3t,
となる。また、Variance Equation Coefficients 以下には条件付き分散共分散(vech(Ht) = M
+ A vech(εt-1εt-1′) + Bvech(Ht-1))
についての係数が表示されている。c(4)から c(9)が切片 C、
c(10)から c(15)が vech(εt-1εt-1′)の係数 A、c(16)から c(21)が vech(Ht-1)の係数 B となってい
る5。
h11t = c(4) + c(10)ε1t-12 + c(16) h11t-1
h12t = c(5)+c(11)ε1t-1ε2t-1+ c(17)h12t-1
h13t = c(6)+c(12)ε1t-1ε3t-1+ c(18)h13t-1
h22t = c(7) + c(13)ε2t-12 + c(19) h22t-1
h23t = c(8)+c(14)ε2t-1ε3t-1+ c(20)h23t-1
h33t = c(9) + c(15)ε3t-12 + c(21) h33t-1
ここで推計結果を簡単に表にまとめると、以下のようになる。
h11t
h12t
h13t
h22t
h23t
h33t
C
0.00317
0.00259
0.00331
0.00367
0.00238
0.00409
α1
0.040
0.034
0.038
0.041
0.032
0.037
β1
0.952
0.956
0.955
0.948
0.959
0.955
これらの式は推計後に System ウィンドウのメニューバーから「View」→「Representations」を選択するとわかりや
すくまとまる。
5
14
補足: EViews と RATS の違い
教科書と EViews の結果が違っていることに気になる人もいるかもしれない。こうした
違いが生じるのは、教科書では RATS を用いているためである。もちろん、推定方法を完
全に一致させれば、ほぼ同じ結果が得られる。たとえば、3.4 節と同じ結果を得たい場合は、
メニューバーの「Quick」→「Estimate Equation」を選択して Equation Estimation ウィ
ンドウを開き、Specification に s c s(-1) s(-2) ma(1) ma(7)と入力し、Options の右上にある
Backcast MA terms オフにすればよい(チェックを外す)。
そして OK をおすと、以下の結果が得られる。教科書の 3.4 節と比較してもらえれば、結
果がほぼ同じであると確認できる。
Backcast MA terms をオフにするということは、誤差項の初期値を 0 として最尤法でパ
ラメータを推定するということである(教科書で説明された方法である)。これに対して、
Backcast MA terms をオンにしておくと、初期値を 0 と仮定しないで推定ができる。EViews
では、デフォルト(初期設定)として Backcast MA terms がオンとなっている。
15
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