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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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急性外陰潰瘍二例について
菊地, るい子; 関, 美枝
東京女子医科大学雑誌, 27(6):337-340, 1957
http://hdl.handle.net/10470/12822
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
59
〔臨 床 実 験〕
(東京女医大劇界27巻第6号頁337一一340昭和32年6月)
急性外陰潰瘍二例について
東京女子医科大学産婦人科教室(主任柚木祥三郎教授)
美
菊地るい子・関
キク
チ
コ
セキ
ミ
枝
エ
(受付昭和32年4月20日)
緒
現われていたものが,昭和25年4月,突然にツ氏反応
言
強陽性となった。其の他,特記すべきことなし。
急性外陰潰瘍は1913年LipschUtz氏によって初.
めて記載され,Lipschitz及びScherberは他の
初潮14才8ヵ月,規則正しく,月経痛其の他の異常
外陰潰瘍とは区別すべき稀有な独立せる疾患であ
を認めず。
ると主張した事から,LipschUtz−Scherber氏潰
初診日より約2週間前の夜,突然発熱38。C,同時
瘍の名称がある。LipschUtz氏によると本症は,
に口腔粘膜に甚しい胃痛を伴う潰瘍が生じ,全身の不
処女又は若い既婚列聖に多く,通常発熱を伴い,
快感甚しく,370C∼38。Cの弛張熱が約一週間継続,
解熱せず,口腔粘膜潰瘍の治療に通院する以外は就床
外陰及び其の粘膜附近に急速に現われる潰瘍形成
していた。口腔粘膜潰瘍は4日間で治癒し,一週聞目
であり,激痛と,比較的急な組織の崩壊を来たす
に解熱したので遠足に参加したが異常はなかった。発
が経過は一般に良好であり,潰瘍面からグラム陽
熱初日以来10日目,排尿時及び歩行時に外陰部疹痛を
性の太い桿菌を認め,性病とは無関係の疾患であ
覚え,疹痛甚しき為歩行困難,翌日より再び380C熱
ると。叉,この桿菌をLipschUtz氏はBacillus
発し,その翌日本院外来に来る。
crassusと名付けたが, D6derleinの膣桿菌に類
罪刑=体格,栄養良好,内臓所見に異常を認め
似しており,Scherber氏は同・一のものである
ず。胸部レ線所見異常なし。皮膚には紅斑等の異
と唱え,ある不明の原因で本菌が病原性を得て潰
常なし。体温36.・7。C,.血液,尿所見に異常を認
瘍形成をなすものであると報じた。抄し,近年に
至り,急性外陰潰瘍を一独立疾患としてみなすよ
りBehcet氏症候群等の如く,皮膚,粘膜の移行
する部分,即ち,開口部を侵す疾患に関連があり,
その一症候群の一部とする非特異的疾患であると
みる傾向が現われて来たものである。
当教室で相遇した三例は・共に16才の処女であ
り,性病と関係なく肇隼した外陰潰瘍例であるが
鼓に報告し,検討してみたいと思う。
症
例
症例1:城0愛0 1β才 処女 高校生
初診:昭和25年6月8日
家族歴;両親健在,同胞6名,うち4名は肺結核の
めず。血清のワ氏,村田氏反応陰性。
局所所見=外陰部発育正常,大陰唇異常なし。
処女膜完全。膣入口部より白色粘稠の分泌物を認
む。両側小陰唇は共に腫脹し,内側面に対称的に
約3∼4個つつ米粒大乃至帽針頭大で鋸歯状,境
界劃然とした辺縁を有し,鞍回状叉は楕円形,不
正形の比較的深く三品された潰瘍を認め,共の基
底には黄白色の極く薄い苔の附着あり。周囲は発
赤し潰瘍部に触れると激痛を訴える。潰瘍部の周
囲は少しく硬度を増していた。両側鼠径リンノや節
腫脹を認めず。潰瘍面からの分泌物より,グラム
陽性の太い桿菌が多数認められた。多核白血球も
既往歴を有している。
多数認めたが,其の他の菌は認められず,其の
既往歴:B・C,G・を数回に亘って行い疑陽1生に
時,同時に膣分泌物からも同様の桿菌を検出した。.
Ruiko KIKUCHI, Mie SEKI (Department of Gynecology & Obsterics, Tokyo Wgmen’s Med.[Coll.) :
Two cases of Ulcus vulvae acutum.
一837一
60
潤はないが疹痛を訴える。血液所見は著変なく白
経過=全経過は入院加療により観察す。処置と
血球数7,000,赤血.球沈降速度1時間値80,体温
して,潰瘍部はリゾール液にて洗瀞後,ヨードホ
37. 70 c .
ルムを撒布し局所の清潔を保つ。注射はホモスル
ハミン,或はレ座論ン,カルシウムを使用す。入
外陰部所見:外陰部発育正常,大陰唇異常な
し。処女膜完全,両側小陰唇は共に軽度腫脹あ
院4日目,即ち,潰瘍発生後1週間目には局所疹
り,両側小陰唇内側より後連合にかけて数個の米
痛は軽度となり,接触時に疹痛を感ずるのみとな
った。小陰唇の腫脹は減退し,周囲の発赤も巾が
粒大∼小指頭大の浅く潜穿された円形潰瘍を認め
迦縁境界は劃然として僅かに硬く基底部は黄白色
せばまり,苔は殆ど消失したが,潰瘍の大きさは
の薄い苔が附着,.軽度の接触出th1ありて激痛を訴
変りなく,更に粟粒大の潰瘍が2個新生している
う。潰瘍面の分泌物から多数の多核白血球の他は
のを認めた。入院6日目に月経となる。この時局
小桿菌が少数認められるのみにて所謂Bacillus
所の発赤が増し,一部の潰瘍面が大となり疹痛再
crassusは再度検査に依っても証明されず。口腔
び強く現われ,黄白色の苔で被われ,桿菌も多数
内潰瘍よりも大桿菌,カンデイダ等を認めず』1血
現われて来た。特に発赤は著明で潰瘍の前階段の
液はワ氏反応,村田響応反共に陰性。尿検査にて
発疹と思われる点を3∼4個認めたが,翌日消失
した。月経持続は6日間で,持続の末頃より再び
’異常なし。
経過及び治療:入院翌日より月経開始,月経第
局所所見の軽快を見,一部の潰瘍を除いては潜窟
2H目より潰瘍の増大を見,互に融合し,殊に右
侵蝕の度が浅くなり,赤色を帯びた凹凸ある疲痕
小陰唇の潰瘍は内側一面に広がり,左側小陰唇の
様になり其の部分の疹痛は消失し治癒傾向に向
潰瘍と後連合にて労る。表面は小凹凸があり軽度
い,潰瘍発生以来18日目に全治退院す。入院期間
の接触出血あり。歯脚部潰瘍も2∼3個数を増
中,体温最:高37。C,全く平熱で経過,自覚症状
し,疹痛増強す。・月経は4日にて終了するも,潰
は局所の産痛以外は他になく,合併症を認めなか
瘍は増大傾向にあり更に右小陰唇に2個潰瘍の新
った。
生をみる。小陰唇浮腫も著明となる。11日目頃よ
症例H:星○輝0 16才 処女 会社員
り口腔粘膜潰瘍は治癒傾向に向つたが,外陰部潰
初診:昭和29年5月31日
瘍は全く治癒傾向なし。入院後19日迄は38∼39Q
Cの弛張熱あり。治療として,はじめ,ホモスル
家族歴:両親健在,同胞7名特記すべき事なし。
翫往歴.:3年前,ツ氏反応陽転。昭和29年3月より
ファミンの注射及び局所撒布,次いでオーレオマ
両下腿に結節性紅斑が生じた。
イシン,ストレプトマイシンを使用,ストレプト
現病歴:昭和29年5月17日頃より外陰部疹痛を覚
マイシン10gr,オーレオマイシン内服4gr,局所に
ゆ。21日某医の診察を受け潰瘍のある事を告げられ
3gr使用せるも弛張熱及び局所症状は一向に軽快
た。翌日より疹痛強度,歩行困難となり通院を休み家
で就床す。この間悪感と共に38。C発熱,筒同時に口
内疹痛を感ずるようになったが潰瘍に気付かず。25目
せず。以後抗生物質の使用を中止し,全身的に各
種ビタミン剤,其の他の栄養剤を与え,肩所にヨ
より6目間,某医により治療を受け,ペニシリン,ホ
ードフォルム及びデルマトール混合粉未を撒布乾
モヌルハミン,ダイアジン等の注射及び内服,叉外用
燥につとむ。19日目頃より解熱し始め,23日以後
と・しては潰瘍部にペニシリン軟膏,ホモズル軟膏等の
は全く平熱となり,同時に局所々見も軽快し始め,
塗布を受けたが局所の治癒傾向を認めず。潰瘍面より
潰瘍底は浅くなり範囲も野駆となる。27日目には
は雑菌のみで大桿菌を認めず,この頃から口腔粘膜の
一部の浅い潰瘍を除いては弾痕形成をなし治癒す
潰瘍を認めたというQ
る。35日目より月経をみたが局所の軽度充血,発
現症:体格,栄養中等度。内臓所見異常なし。
鼠径リンパ節の腫脹なし。皮膚は両側下腿殊に脛
赤のみにて増悪傾向を認めず47日目右小陰唇内側
に浅い廉欄を残し退院す。熱発時の流血中細菌陰
骨前面に対側性に淡紫色の発疹数個を認め,圧痛
性。ヴィダール反応100倍陽性。伊東反応陰性で
なし。口腔粘膜は上下歯齪に各2個,左上口唇粘
あった。
膜に1個,舌中央部とやや右側に各1個,何れも
総括,考按
本症はLipschUtzに依ると約.70%処女に発生
白色苔被のある小指頭大のアフタ様潰瘍を認め浸
一 838 一
61
するとされている。しかし3才の若年者例,69才
かの関係を思わせられる。月経アレルギーによる
の高齢者例もみられるがこれ等は稀有なものであ
という説もあるが明らかではない。局所症状は,
り,本症例は16才の二入共に処女である。原因と
LipschUtz氏以来多くの症例報告と同様の潰瘍形
しては,現今伺明らかではないが本潰瘍から一直
成を本例もなしていた。合併症として,本症に口
グラム陽性の大桿菌,所謂,Bacillus crassusを
腔アフタ様発疹,結節性紅斑,多形滲出性紅斑等
証明するといわれLipschittzはBacillus crassus
の皮膚疾患,稀に急性虹彩炎,再発性前房蓄膿虹
を認むる時にのみ本症の診断をくだし得るといっ
彩炎などの眼疾患を伴った報告がみられるが潜窟
たが臨床像は明らかに本症であり乍ら,本菌陰性
も共に口腔内に激痛を伴う潰瘍形成があり,第H
なるものもあり,Scherberはこれを承認してい
例は結節性紅斑も合併したものである。このよう
る。、Mc DQnaghは本症の各時期を通じて桿菌を
に,急性外陰潰瘍には,舌,口腔粘膜,皮膚,眼
証明するに転ずして症状の強弱により証明度は異
等の侵されるものが多いという事実から,皮膚と
るといい,市川,篠田もこれを認めている。Sch・
粘膜の移行する部分即ち開口部を侵す疾患と関連
erberは本底をD6derlein膣桿菌と同一のもの
があり,一独立疾患とみなすより,皮膚,粘膜及
であり,或誘因により病原性を得て症状を起すと
び眼の滲出性変化を基とする一連の症候群の一一一・xr)
いったもので,原田,齋藤の細菌学的検査,其の
とし,非特異的な疾患とみる者もある。Behcet
他により一般に認められている。窪し,本疾患が
氏症候群,慢性再発性アフタ,開口部びらん症,
B.craSSUSによる局所的疾患に非ずして,全身疾
Franceschetti−Valeros症1侯i群,叉, Robinson−
患として考えられ,腸チフス,結核等の伝染病,
Mc Crumbによつて提唱された粘膜皮膚眼症候
内分泌異常,貧1血其の他抵抗力減退が誘因とな
り,膣内常在菌が突然変異を起し毒忌上昇し自己
群等という各々特長を示し,異った疾患のようで
あるが,これ等の原因がビールス性,結核性,ア
感染を起すのではないかとのLipschittz,Scherber
レルギー性等といわれており,一連の関連性のあ
の見解に対しては,未だ明らかにされていない。
る事を知るのであるが,LipschUtz氏潰瘍も類似
腸チフスと因果関係があるというRosenthalは,
疾患でありこれ等との鑑別を困難とされている。
潰瘍があり高熱のある場合はヴィダール反応を行
LipschUtz氏潰瘍に特有とされているB. crassus
うことを高唱している。柚木教授もチフス性外陰
も病原性に多大の疑問をもたれており,或はB.
潰瘍例を本症と共に述べており,チフス患者に本
crass usとは全く無関係にピーールスか或は真菌で
症の合併せる時の鑑別に注意を要するという。結
あるか其の他の原因によるものかは今後の研究を
核との関係を予想する者もあり,Bureau氏は結
まつものである。
診断として,本症は好んで,処女,若い婦人に
核の顕性化により,B. crassusの毒力増強を来す
急激に来るものであり,性交に無関係の潰瘍が外
であろうといっている。二神,原氏が外陰潰瘍発
生ニカ目前にッ氏反応陽性転化をしている二例の
陰部に発生し激痛を訴え,多くは潰瘍面からB.
報告があるが,本例第二例は小桿菌以外は認めら
crassusを認むる事に依り容易であるが前記の如
く鑑別に困難な例もあると考える。第1例は典型
れなかったが第1例に於いてはグラム陽性大桿菌
を認め,且つ陽性転化して間もないものであり,
的症状を呈せるもので診断は容易であった。治療
赤一血球沈降速度も増加し,家族歴は結核による負
法には特種療法もなく,自然に放置しても速に治
癒に傾き,安静,全身栄養状態を良好にし,局所
荷の大である例であるが,結核に依る何等かの関
連も考えられる。尚,月経との関係は,月経到来
を清潔に保つのみで良いとされているが,潰瘍が
前の少女,閉経期過ぎの高年者及び妊婦にもみら
簡単に治癒せず,ストレプトマイシン,プロミン
れた例より特別関係はないという者もあるが,田
使用例もある。第1例は局所の清潔を保つたのみ
上氏の例は初潮以来,月経毎に再発し,城野,原
で速かに治癒し,第1][例は,オーレオマイシン,
田氏の3例は潰瘍の軽快するまで無月経であった
ストレプトマイシンの使用にも拘らず治癒せず却
と報告している。第1例は月経と同時に局所の一
って,それ等を中止し,簡単な局所療法を行うこ
時的悪化を認め,B. crassusを多量検出した。第
とにより効果があり,比較的長期の経過をとって
ll例も同様に月経時症状の増強をみているが何等
治癒した例であるが,局所の清潔保持及び全身状
一一
窒W,g9, 一
62
4) Robinson, Jr.:Arch. Dermato. u. Syph. 61,
態の改善を最:も必要とすると考える。
結
539 (1950)
語
1) 旧例は栄養,体格共に良好なる16才の処女に
5) Behcet, H.:Dermato. Wschr. 105, l152
(1937)
発生せる急性外陰潰瘍2例である。
6) Behcet, H.:Dermatologica. 81, 73 (1940)
2)潰瘍面よりグラム陽性大桿菌を認めた1例,
7)柚木祥三郎:臨床日本,6,「697(昭13)
小桿菌の他は認めなかった1例である。
8)二紳田紀彦:皮尿誌,47,456(昭15)
3) 2例共に口腔内粘膜にアフタ様潰瘍の形成を
9)原田儀一郎:体性,27,541(昭15)
み,1例は結節性紅斑も合併した。
10)鴨打秀夫:満洲医誌,31,801(昭14)
4) 月経時局所の増悪をみた。
11)城野将ニニ治療処方,20,232(昭14)
5).治療法は簡単な局所の清潔保持と一般の全身
12)田上初雄:皮尿誌,36,39,40,41,42,44,
療法に依り治癒しt;。
(日召.g, 日召11, 日召12, 日召13)
6)原因は伺不明にして今後の研究をまつもので
13)田中英雄;産科と婦入科,8,320(昭25)
あ.る。
14)榊原彦一郎:産科と婦入科,8,490(昭25)
15)原田 彰:臨皮泌,3,232(昭23)
参考丈献
1) Lipschiltz, B.:Arch. Dermato. u. Syph. 660
16)原田 彰,斎藤徳明:皮性誌,59,94(昭24)
(1912)
17)原田 彰=産婦人科の世界,2,519(昭25)
2) Scherber. G. : Arch. Dermato. u. Syph. 127
18)尿井隆吉;臨皮泌,5,485(昭26)
(1920)
19)石原 力,柴生圧潤他:臨床婦人科産科,8,9
3) Lipschiltz, B.:Handbuch d. Haut u. Gesch.
(昭29)
Krht. von Jodassohn. 22, , 392 (1927)
20)小関進:日本耳鼻咽喉誌,57,9(昭29)
一 ,g40 一一一
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