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ステンレス鋼粉末を均質分散したナイロン 6 複合材料の
日本金属学会誌 第 70 巻 第 11 号(2006)940 944 ステンレス鋼粉末を均質分散したナイロン 6 複合材料の衝撃値 1 伊 藤 慶 祐1, 神 田 昌 枝2,2 西 義 武2 1株式会社第一精工舎 2東海大学大学院工学研究科金属材料工学専攻 J. Japan Inst. Metals, Vol. 70, No. 11 (2006), pp. 940 944 2006 The Japan Institute of Metals Impact Value of Composite Nylon6 Dispersed by 18 8 Stainless Steel Powders Homogeneously 1, Masae Kanda2, 2 and Yoshitake Nishi2 Keisuke Itou1, 1Daiichiseikosha 2Graduate Co., Ltd., Osaka 5740064 School of Materials Science, Tokai University, Hiratsuka 2591292 A composite polymer, that large amount of 188 stainless steel powder (SUS304) was homogeneously dispersed in Nylon6 matrix, has been prepared. The homogeneous dispersion from 0 to 30 vol of the 188 stainless steel powder decreases the Charpy impact value of the composites. However, the homogeneous dispersion from 30 to 40 vol of the alloy doesn't largely decrease the impact value. In addition, the 188 stainless steel particles dispersion enhances the specific weight (heavy), workability and appearance. (Received June 5, 2006; Accepted September 15, 2006) Keywords: 188 stainless steel powder, Nylon6 polymer, composite polymeric material, homogeneous dispersion, Charpy impact test 中に分散させた複合材料を試料として用い,その分散粒子体 緒 1. 言 積率の増加に伴う衝撃値の変化について,評価および安全性 を確認し,リサイクル複合材料を開発することを目的とした. 本研究グループではリサイクル高分子材料の実現を目指し ており,産学協同で材料開発を行い,これまで廃材を最大 70 mass含有し均質分散した高充填高分子複合材料を開発 し,エクステリアを中心とした建築部材に実用化し,市場に 実 2. 2.1 験 方 法 試料の作成 登場させた.一方,高分子材料を複合材料に適応するには, 試料の作製はナイロン 6 粉末と 188 ステンレス鋼粉末を ニーズの多様化に伴い期待される特性の向上や多機能化が必 秤量した後に,ミキサーにより均質に混錬して,90° C で 10 要であり,本研究室では高分子材料に関する基礎的研究を開 時間の乾燥を行った.乾燥した原料を混錬性の良いスクリ 始している14). そこで,産業廃棄物を中心とした廃材を多量に含有した複 ューを搭載した射出成形機(型締力 980.7 kN )によって,成 形温度 260 ° C ,金型温度 50 ° C で JIS 規格プラスチックシャ 合材料の機械的性質を確認し,その安全強度が確保できれ ルピー試験法( JIS K7111 試験片タイプ ISO 179 / 1 )の形状 ば,この製造方法は資源・環境問題の改善に効果的である. に成形した.試料の種類は母材のナイロン 6 を含め 5 種類 すなわち,ナイロン 6 中にステンレス鋼粉末を分散させた あり,ナイロン 6 に 10, 20, 30, 40 vol 188 ステンレス鋼 複合材料が十分な衝突強度が得られ,外部環境に耐えられた 粉末を分散した試料を用いて実験を行った. ならば,従来のプラスチックの安価なイメージよりも,重厚 感や高級感を演出できる建築用エクステリア材料等の実現が 可能となり,さらに大きな市場が見込まれる. 2.2 188 ステンレス鋼粉末の粒径測定 試料に用いた 18 8 ステンレス鋼粉末の粒径測定を SEM この独自に開発し,実用化された多量な均質金属粒子分散 にて行った.その結果, 188 ステンレス鋼粉末の粒径は約 複合材料の複合効果を確認するための基礎的研究として,今 20~200 mm となっていることが分かった.さらに,厳密に 回は汚染されていない物質を用い配合した. 粒径を測定するため島津レーザ回折式粒度分布測定装置を使 そこで本研究では, 18 8 ステンレス鋼粉末をナイロン 6 用し 188 ステンレス鋼粉末の粒径を測定した. Fig. 1 に粒 1 度分布を示す.その結果, 188 ステンレス鋼粉末の平均粒 東海大学研究員(Researcher, Tokai University) 2 東海大学院生(Graduate Student, Tokai University) 径は 35.4 mm であることが分かった. 11 第 号 ステンレス鋼粉末を均質分散したナイロン 6 複合材料の衝撃値 Fig. 2 Changes in Charpy impact values of Nylon6 composite polymers with 0, 10, 20, 30, 40 vol 188 stainless steel powder against fracture probability. Fig. 1 Histogram of particle size distribution for 188 stainless steel powder. 2.3 941 シャルピー衝撃試験機5) 株 富士試験機製作所のシャルピー衝撃試験機 本研究では, を使用し,以下の手順で金属粉分散高分子材料の衝撃値を求 めた.まず,ハンマー空振り時の振上がり角度(a′ )を測定す るため,試験片を設置しない状態で測定を行った.次にシャ ルピー衝撃試験機に試験片を設置して測定を行った.測定し た値より吸収エネルギー E(J)を式( 1 )より算出した. -cos a )(a+b/a+a′ )] E=WR[(cos b-cos a )-(cos a′ (1) 式中の WR はハンマー回転軸の回りのモーメント( N・m ), その時のハンマー質量は 10.92 kg ,またハンマーの回転中 心線から重心までの距離は 0.5235 m , a はハンマーの持上 ,b は げ角度,本研究で使用した装置の持上げ角度は 141.5° Fig. 3 Changes in Charpy impact values at each fracture probability (Pf=0.15, 0.50 and 0.85) of Nylon6 composite polymers against volume change from 0 to 40 vol 188 stainless steel powder. 試験片破断後のハンマーの振上がり角度を示している.な お,シャルピー衝撃値 auc(kJ/m2 )は式( 2 )より算出した. auc=(E/bNt )×103 (2) E は吸収エネルギー( J), bN は試験片の幅(つまりノッチの 残り部の幅(mm)),t は試験片の厚さ(mm)を示している. 次にメディアンランク法を用いて破壊確率 Pf を式( 3 )よ 3. 結 果 り算出した68). Pf=(i-0.3)/(n+0.4) (3) i は試料を破壊した順位,n 試験片の総数を示している. 2.4 破断面観察 シャルピー衝撃試験後,試験片の破断面を SEM で表面観 本研究では 188 ステンレス鋼粉末分散ナイロン 6 高分子 材料のシャルピー衝撃値を実測した.Fig. 2 に本研究で用い たナイロン 6 と使用した材料の各破壊確率におけるシャル ピー衝撃値を示す.この結果から,Fig. 3 にナイロン 6 中に 存在する 188 ステンレス鋼粉末の体積率変化に伴う破壊確 察を行った.破断面観察の際,試料表面に帯電するのを防ぐ 率 0.15, 0.50, 0.85 の時における衝撃値を示した. Fig. 3 に ために Au Pd を 60 秒間蒸着した.さらに,シャルピー衝 よりシャルピー衝撃値は,金属粉末添加量 30 volまでは添 撃試験での破壊機構の考察を行った. 加量とともに減少したが,30 volを超えるとほぼ一定か若 干の増加が認められた. Fig. 4 は , 18 8 ス テ ン レ ス 鋼 粉 末 を 0, 10 vol と 40 942 日 本 金 属 学 会 誌(2006) Fig. 4 第 70 巻 SEM micrographs of 0, 10 and 40 vol 188 stainless steel dispersed Nylon6 composites. vol 添加した試料の破断面を SEM で表面観察を行った写 中のみで生じる微視的な延性破壊が発生しても,粒子分散複 真である.ナイロン 6 試料の破面は,延性破壊特有の起伏 合材料の試料全体に見られる巨視的な延性破壊組織が発生す のある破面が見られる.ステンレス鋼粉末の添加量が 10 る可能性は低いと考えられる. vol である試料では,起伏は小さくなる傾向はあるが,延 つまり,均質分散した 188 ステンレス鋼粉末の添加量を 性破壊の特徴ある破面も観察できる.40 volステンレス鋼 増大させると粒子間の距離が短くなり,それに伴い亀裂がナ 粉末が分散しているナイロン 6 複合材料試料の破面は,延 イロン 6 中のみを伝播する破断面積が小さくなる.すなわ 性破壊の特徴である起伏が小さく,破面組織が均質であるこ ち, 188 ステンレス鋼粉末含有量の増大に伴い,起伏の大 とが観察された. きい破壊から起伏の小さい破壊へと変化し, 188 ステンレ ス鋼粉末含有量の増大に伴い,破壊がナイロン 6 中を伝播 4. 考 察 する面積は少なくなり, 188 ステンレス鋼粉末とナイロン 6 間の結合の弱い界面を伝播する面積が多くなるので,衝撃 Fig. 5 に示す SEM による高倍率の破面観察結果と,EDX 値を低下させると説明できる.以上の考察を検証するために, による 188 ステンレス鋼粉末とナイロン 6 の状態の観察結 188 ステンレス鋼粉末の平均粒径を測定し,その結果から 果から,破壊伝播経路中に 188 ステンレス鋼粉末が確認さ 試料破断面の粒子の面積比を計算した結果と衝撃値の関係を れた.Fig. 6 に破断面の模式図を示す.ナイロン 6 中の切断 Fig. 7 に示す.衝撃値の対数値と面積比の間に比較的良好な 部分では,延性破壊特有の引き伸ばされた状態の組織である 直線関係が見られた.このことから, 188 ステンレス鋼と ( Fig. 4 参照).一方, 18 8 ステンレス鋼粉末を分散した高 ナイロン 6 間の結合の弱い界面を破壊が伝播する面積が多 分子複合材料の破断は, Fig. 4 の写真と Fig. 6 の模式図に くなり,衝撃値が低下すると考えられた. 見られるように,マクロ的には均質に粗い破壊面が見られ さらに,188 ステンレス鋼粉末の面積比が 56を越えた た.これは,均質分散している粒子と母相との間の結合力の 試料では衝撃値が低下しないことを確認した.この状態では 弱い界面に沿って破壊が優先的に伝播するため,ナイロン 6 188 ステンレス鋼粉末が密に接近しており,樹脂(ナイロン 第 11 号 ステンレス鋼粉末を均質分散したナイロン 6 複合材料の衝撃値 Fig. 5 943 SEM micrograph and EDX mappings of 40 vol 188 stainless steel dispersed Nylon6 composite. Fig. 6 Schematic diagrams of fracture propagation path in 0, 10 and 40 vol 188 stainless steel dispersed Nylon6 composites. Fig. 7 Charpy impact values of Nylon6 composites as a function of area ratio of 188 stainless steel powder. 6 )が接着剤としての役割に近いと考えられる.すなわち, 的になり,ナイロン 6 の強度への影響は減少し,その結果 188 ステンレス鋼粉末量(面積比)がある値以上になると, 衝撃値がある一定値に近づくと結論付けた.これは,分散粒 188 ステンレス鋼粉末とナイロン 6 の界面接着強度が支配 子である廃棄物を多量に含有できる複合材料の脆性の低下を 944 日 本 金 属 学 会 誌(2006) 第 70 巻 抑えられる可能性を示唆するもので,工学的に重要な知見で ある.今後は, 188 ステンレス鋼粉末の表面酸化の状態, 文 献 粒度分布,形状,さらに粉末材料の種類による衝撃値の変化 を検討する予定である. 5. 結 論 本研究では,ナイロン 6 に 188 ステンレス鋼粉末を均一 に分散させた複合材料を作製し,その機械的性質をシャル ピー衝撃試験により評価した.その結果,シャルピー衝撃値 は, 188 ステンレス鋼粉末の添加量の増加とともに減少し たが, 30 vol を超えるとほぼ一定が若干の増加が見られ た.これは, 188 ステンレス鋼粉末量(面積比)がある値以 上になると, 188 ステンレス鋼粉末とナイロン 6 の界面接 着強度が支配的になり,ナイロン 6 の強度への影響は減少 し,その結果衝撃値がある一定値に近づくと結論付けた. 1) A. Mizutani and Y. Nishi: Mater. Trans. 44(2003) 18571860. 2) T. Takahashi, T. Morishita and Y. Nishi: J. Jpn. Inst. Metals 69(2005) 759762. 3) K. Inoue, K. Iwata, T. Morishita, A. Tonegawa, M. Salvia and Y. Nishi: J. Jpn. Inst. Metals 70(2006) in press. 4) K. Oguri, T. Takahashi, A. Kadowaki, A. Tonegawa and Y. Nishi: J. Jpn. Inst. Metals 68(2004) 537539. 5) K. Iwata, K. Yamada, A. Kadowaki, N. Yamaguchi, A. Tonegawa and Y. Nishi: J. Jpn. Inst. Metals 68(2004) 534536. 6) T. Nishida and E. Yasuda: Evaluation of dynamic properties of ceramics, (in Japanese: Ceramics no rikigaku tokusei hyouka ), Nikkan Kogyou Shimbun Sha (1986) 5051. 7) A. Mizutani and Y. Nishi: Mater. Trans. 44(2003) 18571860. 8) A. Mizutani, O. Uchida, K.Oguri and Y. Nishi: J. Jpn. Inst. Metals 68(2004) 158161.