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児童虐待への対応

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児童虐待への対応
児童虐待への対応
2 児童虐待への対応
全国的に児童相談所における児童虐待の相談件数は増え続けており、重大事案が後を絶たない状
況です。
佐賀県においても、平成19年度の児童虐待の相談処理件数は107件、平成20年度は109
件で、平成10年度の6倍となっており、近年増加傾向にあり、虐待に至る前の予防と虐待の早期
発見、早期対応が喫緊の課題です。
このため、要保護児童対策は、発生予防、早期発見、早期対応、保護、アフターケア、保護者へ
のカウンセリングなど、医療機関、市町、保健福祉事務所、市福祉事務所、児童相談所、学校、警
察等が協力し、地域における総合的な支援体制づくりを進めることが必要です。
(1)予防
① 乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業
ア 乳児家庭全戸訪問事業
生後4ヶ月までの乳児のいるすべての家庭を訪問することにより、子育てに関する情報の
提供並びに乳児及び保護者の心身の状況及び養育環境の把握を行うほか、養育についての相
談に応じ、助言その他の援助を行う事業。
イ 養育支援訪問事業
乳児家庭全戸訪問事業等により把握した保護者の養育を支援することが特に必要と認めら
れる児童若しくは保護者に看護させることが不適当であると認められる児童及びその保護
者又は出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦
に対し、その養育が適切に行われるよう、当該居宅において、養育に関する相談、指導、助
言その他必要な支援を行う事業。
支援の対象として、児童養護施設等の退所又は里親委託の終了により、児童が復帰した後
の家庭も対象となっている。
② 育児の社会化(地域ぐるみ)による次世代育成支援
子どもは、次世代を担うかけがえのない宝であり、子どもが健やかに育つ大切さへの認識を
深めるとともに、子育て家庭や子どもの健全育成を社会全体で支援していく「育児の社会化」
を進めていく必要があります。このためには、講演会等の開催や啓発誌等の配布による普及啓
発を図っていく必要があります。
また、子どもの人権についての認識を深めるために、児童の権利に関する条約(子どもの権
利条約)等の内容などを普及啓発を図っていく必要があります。
③ 地域における子育て支援
核家族化や地域における人間関係の希薄化、若年夫婦の増加により、子育ての不安が増加し
ている中で、虐待に陥らないように保護者の育児不安を解消するための各種の相談窓口の整備、
孤立しがちな子どもを児童養護施設等に1週間程度預ける子育て短期支援事業(ショートステ
イ)
、週に数日程度保育所に預ける一時保育事業の利用と保護者も参加しやすい育児サロンや
育児サークル等の保護者同士の交流の場の確保などが必要です。
④ 保護者等に対する支援
ア. 両親学級(プレママパパ教室)の開催により、出産前から育児支援に努めるとともに、
出産後の母親・父親の育児不安を軽減するために、乳幼児の検診や相談を充実する必要が
あります。
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また、各市町における母子保健推進員による訪問活動、育児サークル等の活動を推進す
る必要があります。
イ. 産後のうつ等母親の精神的サポートが必要なケースについて、身近な相談場所として保
健福祉事務所、精神保健福祉センターの相談事業の充実を図ります。
ウ. 育児疲れ等による保護者の負担軽減を図るため、市町が必要に応じて、子育て支援事業
(ショートステイ、一時保育事業)を保護者に勧めることが必要です。
⑤ 要保護児童対策地域協議会の設置等
ア. 市町ごとに児童福祉、保健医療、教育、警察・司法その他民間団体等の関係機関で構成
する要保護児童対策地域協議会を設置しています。
イ. 市町職員等に対する要保護児童等に関する研修の実施や事例検討会、訪問活動等を実施
し、市町における要保護児童等への取組の強化を図ります。
(2)虐待の早期発見、早期対応
① 乳幼児健診等の活用
虐待の早期発見については、多くの親子が参加する乳幼児健診や相談の機会において、育児支
援にも重点をおいた健診等の取組が必要です。
また、乳幼児健診未受診家庭の把握に努め、保健師の訪問などが必要です。
② 要保護児童対策地域協議会の設置等
地域における要保護児童の早期発見や適切な保護を図るため、全市町は要保護児童対策地域
協議会を設置しているが、各種健診においてむし歯の状況から児童虐待の早期発見を目指し、
市町の要保護児童対策地域協議会に歯科医師の参加を増やします。
③ 社会への広報と関係機関との連携強化等
ア. 児童虐待に対する理解と虐待を発見した場合の通告等について地域の認識を深める
ため、広報・啓発を実施します。
イ. 児童相談所の機能強化及び市町の要保護児童対策地域協議会との連携強化をすすめ、
相談や通告への早期対応を図ります。
ウ. 関係機関との連携により、ハイリスク事例(保護者が精神的な問題を抱えているケ
ース等)の把握につとめ、出産前からの支援や新生児訪問等の実施を推進します。
④ 家庭内暴力
子どもや母親を家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンスを含む。以下同じ。
)の被害か
ら守り、虐待を早期発見し、早期対応するためには、相談体制・一時保護・カウンセリングの
充実が必要です。
(3)被虐待児への支援
① 地域での見守り(在宅支援)
虐待通告受理後児童相談所や市町が在宅での援助が可能と判断した場合
判断基準:ア.虐待が否定されるか、もしくは虐待が軽度である。
(*)
イ.関係機関で「在宅で援助していく」ことが可能であるとの共通認識がある。
ウ.家庭内でキーパーソンとなり得る人がいる。
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エ.子どもが幼稚園や学校、保育園などの所属集団に毎日通っている(*)
オ.保護者が定期的に相談機関に出向き、児童委員(主任児童委員)
、家庭相談員、
保健師、児童相談所職員等の援助機関の訪問を受け入れる姿勢がある(*)
*印の項目だけは最低限必要である。
要保護児童対策地域協議会の調整機関によるケース管理、ケース検討会による関係機
関の役割分担を明確にし、定期的な見守りの確認が必要である。
② 一時保護、児童養護施設等への入所の実施
被虐待児を虐待者から分離し、安全確保を図るため、一時保護を児童相談所で行います。一
時保護期間中に該当児童の行動観察や心理判定を実施し、虐待による心理的・肉体的な影響を
踏まえ、処遇指針を作成したうえで、児童養護施設等への入所により、該当児童の社会的自立
に繋げていきます。
また、被虐待児等をできるだけ家庭的な環境の中で養育するため、児童養護施設における小
規模グループによるケアや、里親制度を活用したケアを行っていきます。
③ 施設入所後の児童への支援
施設入所後の被虐待児へのケアについては、
児童相談所職員による巡回相談に努めるとともに、
児童養護施設等への心理職員、個別対応職員等の配置や、職員への専門的な研修を実施するな
ど、ケア担当職員の充実を図ります。
(4)対応困難ケースへの対応
① 保護者が精神的問題を抱えているケース
② 性的虐待ケース
③ DV(家庭内暴力)
④ 保護者が外国人のケース
上記4つのケース対応については、特別な配慮、視点が必要となります。
① 保護者が精神的問題を抱えているケース
対人関係にどのような困難、関係機関とどのようなトラブルを抱えているのか、自傷行為(リ
ストカット等)の有無を整理し、保護者の病体水準によるリスクを専門家の意見を確認してお
く必要があります。
保護者に人格障害や精神障害(統合失調症、うつ病等)が疑われる場合は県の保健福祉事務
所・医療機関との連携をとることが必要です。必要に応じて、医療機関の受診につなげること
も必要です。
実際の面接場面では、保護者やその家族の偏りのある状況や物事、人の見方に左右されず、
一貫性のある態度で望むことが必要です。記憶が曖昧な保護者には、記録を確認しながら面接
を進めます。問題解決を支援目標として、保護者もその一翼を担うものとしての責任を明確に
する必要があります。
また、保護者が自分の幼児期のトラウマ体験(保護者自身もその親等から虐待を受けてい
た。
)をほのめかした場合は、その治療は専門機関に委ねます。
-7-
② 性的虐待ケース
ア. 対応の困難性
児童虐待の中でも性的虐待は、命の危険は少ないものの、子どものその後の人生においては
様々な問題を引き起こす危険のある問題です。
性的虐待への対応が難しいのは、事実確認が非常に困難であること。子どもが虐待を受けた
ことを話したがらないことが多いからです。
加害者が家族、特に保護者である場合は子どもが虐待を受けていると話すことは、家族を虐
待者として訴えることであり、そのことによって家庭を壊しかねない危険をはらんでいます。
また、その配偶者(子どもにとってはもう片方の親)に対する裏切り行為でもあります。さ
らに、配偶者にとっても、子どもの親としては、被害者であり、加害者の配偶者としては、加
害の立場にもなり、被害・加害の両方の立場に置かれることになります。
性的虐待への対応については、対応の初期から全ての段階において専門的な配慮が必要です。
そのため、児童相談所への通告や、必要によっては警察への通告が必要です。
イ. 発見からの通告
性的虐待の発見には、子どもと関わる者(市町の担当職員、学校関係者等)が性的虐待の存
在(児童にわいせつな行為をすること、児童にわいせつな行為をさせること。
)を知っておく
必要があります。
さらに、性的虐待によって下記のような症状を知る必要があります。
区
性 的 虐 待 の 可 能 性 が 高 い 性 的 虐 待 の 可 能 性 を 疑 う
分
身
体
症
状
行
動
特
徴
精
神
・
心
理
面
膀胱炎等の症状の反復(排尿、排尿痛、残尿
相手が特定不能な妊娠、性器出血・裂傷、性 感、排尿困難、実際の感染はない)不定愁訴
(特に腹痛)
、それまでになかった遺尿・異
感染症、肛門の出血・裂傷
糞の出現、睡眠障害
性的虐待の告白/性的逸脱行為(不特定多数
反抗的言動、家出、徘徊、非行、説明のつか
との性行為、援助交際)
、性的行動の反復(自
ない学習意欲低下、股を広げたぎこちない歩
己の性器紛部分を見せたがる、過度の自慰行
き方、落ち着きがない、ボーっとしている
為の反復、性的話題を常にだすなど)
無気力、抑うつ、記憶がない、意識が失うこ
意識低下、抑うつ、過度の警戒心、過度の依
とが頻回にある、自傷行為(リストカット等)
、
存傾向、退行、拒食、過食、自殺念慮、不安、
自殺企図、拒食、過食、アルコール・薬物乱
恐怖、強い自責感、対人過敏
用、過呼吸、PTSD(トラウマ)
子どもから被害を打ち明けられたとき、性的虐待が疑われたときには、同居人(保護者等)
から性的虐待を受けている疑いがある場合は、子どもを家庭に戻したりせずに、虐待者に合わ
せるようなことを避け、子どもの心身の安全を確保する必要があります。
子どもの安全を確保する場合は(児童相談所の一時保護等)
、子どもは不安を抱えているので、
なによりも子どもの安全確保のためだということを説明し、落ち着かせる必要があります。
面接する際は、自分が受けた性的虐待行為を子どもに思い出させることになるため、何回も
聞かずに、手短に質問した方がよいでしょう。また、そのとき子どもの状態や言動のありのま
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ま、遂語的に記録するようにします。
同時に、加害者、家族の状況を多方面から調査し把握します。
子どもとの面接を進めながらでも、その前にでも児童相談所に通告することが、その後の対
応を含めて大切です。
医療機関の場合は、身体的に性的虐待が認められた時点で、児童相談所、学校・保育所等へ
の通告が望ましいでしょう。
ウ. 二次被害について
性的被害は他の虐待以上に、子どもの罪や恥の意識が強く、事実を開示することは子ども家族
にとって危機的状況を引きおこしかねません。
また、本人の意思による開示ではなく、偶発的に開示された場合は、子どもは秘密を暴露する
決心をしていないため、精神的な危機を引き起こす可能性があるので、十分な配慮が必要です。
なお、相談を受ける者の対応によっては、子どもは二次的な被害を与えることがあるため、子
どもとの面接はかなり専門的な知識と技術が求められることを十分理解する必要があります。
③ DV(ドメスティックバイオレンス)ケース
ア. DV(ドメスティックバイオレンス)とは
ドメスティックバイオレンスは婚姻や婚姻関係と同様な事情の関係のある者で、
主として男性
から女性に対してふるわれる暴力のことを言い、通常「DV」と呼ばれています。
さらに、児童虐待防止法では、子どもの目の前での暴力も子どもへの被害が間接的であっても
児童虐待(心理的虐待)に含まれます。
DV法上で暴力の種類は以下のものがあります。
a 身体的暴力
殴る、蹴る、叩く、突く、たばこの火を押しつける等身体に対する不法な攻撃であって、
生命または身体に危害を及ぼすもの。
b 精神的暴力
大声で威嚇する。
「誰に食べさせてもらっているのだ」
、
「お前は役に立たない。
」と侮辱す
る。
けなす、無視する。
電話や手紙をチェックする。外出を禁止する等行動を制限する。
大切にしているものを捨てる。壊す。生活費を渡さない。女性名義で借金するなどの経済
的暴力。
子どもに暴力をふるう。子どもの前で女性を非難、罵倒するなど子どもを利用した暴力。
c 性的暴力
レイプ、望まない性行為を強要する。暴力的な性行為を行う。中絶を強要する、中絶に同
意しない。避妊に協力しない。見たくないポルノをみせるなど。
イ. DV相談の中で児童虐待が疑われる場合
a DV被害者は混乱して、一貫性がなくてまとまったことが言えない人もあれば、自己決定
できない人もあります。また、理性的に淡々と話すことができ被害者に見えない人もいれば、
それを言いたがらない人もあります。いずれの場合も、被害者を責めるようなことはせず、
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じっくりと話を聞きます。DVの相談機関として配偶者暴力相談支援センター等専門機関の
情報提供を行うことも必要です。
b 相談を受けるにあたっては、相談者が安全な状況であるかどうかを確認する必要がありま
す。加害者が追いかけまわしている、探し回っている状況では、母子の安全確保を図るため、
母子の一時保護を考えることが必要な場合があります。婦人相談所や児童相談所での一時保
護について検討し、連絡を取る必要があるでしょう。また、危険があれば、警察へ協力を依
頼します。
DV相談の中で児童虐待が疑われるときは、子どもの安全を確認した上で、必要であれば、
児童相談所との連携を取ります。
c 相談の経過の中で、被害者が家庭に戻ること(家庭で暮らすこと)を選択する場合があり
ます。そういうときにも、子どもがその家庭ですごすことが安全かどうかを判断する必要が
あります。また、婦人相談所と児童相談所の双方がその後どういう対応するのかを確認し、
緊急時の対応など十分話しあう必要があります。そうして、それぞれの機関がとりえる対応
方法を周知する必要があります。
④ 保護者が外国人ケース
保護者が外国人の場合は、まず、日本語の理解がどの程度か把握する必要があります。日常
会話程度の話せる人でも日本語の読み書きや、法律に関する言葉がわからない場合があるので、
極力平易な言葉を用いて面接を行うよう心がける必要があります。また、いざというときに備
えて通訳(秘密を守れる人で、できれば、虐待やDVについて理解のある人)や、地元の支援
団体等とのつながりを見つけておくことが重要です。相手に対して、どのようなサポートがで
きるか、これからの見通しがどういうものになりそうかなどを正確に伝える必要があります。
図や絵で説明することが、相手の理解を得られやすい場合が多いので、簡単なパンフレット等
を用いるように心がけることが大切です。
また、保護者が外国人の場合は、子育てに関する考え方や姿勢が相容れない部分が見受けら
れますが、粘り強く話し合い、一緒に、子どものために良い方向に向かうようにすることが大
切です。
外国人の場合、ビザの有無、外国人登録、結婚の状況、子どもの戸籍、国籍などについても
確認する必要があります。
不法滞在や人身売買等の犯罪がからみそうな場合は、警察、法務局等との連携が必要です。
(5)再発防止と家族再統合へむけての支援
① 家族評価の必要性
虐待においては、子どもがどの程度危険にさらされているか、また、再発の可能性を見極め
るため、危険度の評価が必要です。
これは、子どもの安全確保のための保護が必要かどうかを見極めるためにも使えるし、支援
の必要な領域を発見するために使います。
また、ケースを見ていく節目節目でケースがどの程度改善してきたか、子どもを家庭に帰す
ことができるかどうか、ケースを終結させてもよいかどうかを見極めるためにも利用します。
一方、家族の危険度、病理だけでなく、家族がどんなことを望んでいて、どのような良い面
(家族の健全な側面や潜在的な力など)を持っているかについても見立てることは、家族を力
付け、家族を問題解決の共有者として、やる気を引き出す点でも大切な作業となります。
- 10 -
② 市町における介入・支援の基本(支援の基盤は、家族との関係づくり)
市町における介入・支援の基本は、子ども・家族との協力関係をつくることをまず優先させ
ます。このことが、在宅援助の基盤づくりにつながります。
「子どもも大勢の人との関わりで
育つもの。親だけでは大変みんなで取り組むもの」という共通認識に基づき支援をすすめます。
家族は問題を抱えているかもしれないが、その苦労や家族なりに努力していること、子どもの
養育について大切な役割を果たしてきたことを認め、今後も家族が十分力を発揮することがで
きれば最も頼りになる存在となります。つまり、家族を最も重要で強力なパートナーとして扱
います。
ただし、在宅のままでは、安全が確保できないと考えられる場合には、前述したとおり、児
童相談所による子どもの一時保護等や介入的関わりが必要になります。子どもの一時保護や介
入的関わりが必要になっても、家族との関係づくりの努力の跡があれば、関係者は素直に介入、
保護の話を持っていくことができます。また、介入後に家庭支援や家族再統合、子どもの養育
方針についての話しあいも率直にすすめることができるでしょう。
③ 支援の目標は「子どもが安全であること。
」
子どもと家庭への支援は、2通りあります。
ア. 子どもが安全ではない状況での支援 → 虐待対応
イ. 十分な安全が確保された上での支援 → 健全育成的な子育て支援
ア. 子どもが安全ではない状況での支援方法
子どもの安全が十分でない家庭であっても、介入後親族のひとりが家族と一緒に住むようにな
り、その人が養育に一貫として責任を持ち、子どもの安全な養育を確実にし、子ども・家族・関
係者が虐待発生の事情を理解した上で虐待が再発しない見通しとなれば、虐待対応ケースとして
は終結することになります。
<支援策>
虐待を行った保護者への精神科医によるカウンセリング、地域の児童委員、保健師等による見
守りなど、家庭への総合的な支援体制づくりに努めます。
イ. 十分な安全が確保された上での支援
子どもが健全に育つために支援を必要とする課題が残されていれば、健全育成的な支援が必要
となります。
<支援策>
・虐待による受けた心理的影響に対しては、スクールカウンセラーによるカウンセリング、児童
相談所通所による心理的ケア。
・保護者等家族の育児負担軽減を図ることによる、虐待再発を防止するために、子育て短期支援
事業(ショートステイ)
、一時保育事業、ファミリーサポートセンターの利用、放課後児童クラ
ブ(学童保育)への参加。
④ 施設入所児童の家庭復帰へ向けての支援
施設に入所した子どもが再び家族のもとで生活できるよう、施設入所前から退所後のアフタ
ーケアに至る総合的な家族調整を行う家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)
を配置し、家族関係の再統合に努めます。
- 11 -
⑤ 家庭内暴力への支援
家庭内暴力による被害により精神的な打撃を受けた子どもや母親に対するカウンセリング
など支援体制の充実に努めます。
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(6) 児童虐待についての Q&A
Q1 どういうことを「児童虐待」というのか分かりません。
・
・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
A1 法律では18歳未満の子どもに対して、保護者等が以下の行為を行うことを「児童虐待」と
いい、子どもに様々な影響を与えるといわれています。
◆ 児童福祉法・児童虐待の防止等に関する法律
● 図:児童虐待防止法で定めた虐待の種類とその影響
身 体 的 虐 待
殴る、蹴る、熱湯をかける、溺
れさせる、逆さづりにする、タバ
コの火を押しつける、頭部を激
しく揺さぶる※1、冬に戸外に締
め出すなど身体に傷を負わせた
<身体への影響>
頭部外傷、頭蓋内出血、骨折、火傷、溺
水による障がい、妊娠、性器の外傷、性
感染症などがあります。また、愛情が遮
断されることによる発育不全などが生
じることがあります。
性 的 虐 待
子どもに性的行為を行うこと、
性器や性交を子どもに見せるこ
と、また、強要して子どもの裸を
<知的発達への影響>
ネ グ レ ク ト(養育の怠慢・放棄)
十分な食事を与えない、衣服
や下着などを長期間ひどく不
潔なままにする、おむつを替え
ない、病気やけがをしても病院
に連れて行かない、乳幼児を車
内に放置したり、家に残したま
またびたび外出する、子どもが
求めているのにスキンシップ
をしない・抱っこしないなど。
<人格形成への影響>
身体的虐待の後遺症や、情緒的なか
かわりの欠如によって知的障がいが生
じたり、ネグレクトによって子どもに
必要な社会的刺激を与えないことか
ら、知的発達が妨げられることがあり
ます。
大切に育てられている実感がないた
め、自尊心が育たず、自己否定的で、自
暴自棄になり自傷や自殺未遂などの行
動に結びつくことがあります。
また、ちょっとした注意や叱責でも、
虐待された場面がよみがえってパニッ
クになったり、すぐに興奮して暴れた
り、うつ状態や、無感動・無反応になっ
てしまうなどの精神症状が現れたりす
る子どももいます。
心 理 的 虐 待
脅したりおびえさせたりす
る、甘えてきても無視するなど
の拒否的な態度、きょうだい間
の極端な差別など、子どもの心
に著しい傷を与える言動を行う
こと。また、子どもを DV(ドメス
<行動への影響>
★ これらのタイプが重複している場合もあります
※1 揺さぶられっこ症候群
泣きやまない乳児を激しく揺さぶったりした際など、前後に首が
強く揺すられることにより、脳内の血管が破れて出血したり、脳自体
が損傷を受けたりして、重大な脳障がいが残ったり、死亡したりする
ことがあります。
※2 虐待の放置
子どもが、きょうだいや同居人等から暴力を振るわれ
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たり、性的関係を強要されているのに、保護者が適切な対応
不安や孤独、虐待を受けたことへの
怒りなどを様々な行動で表します。集
中力の欠如、落ち着きのなさ、衝動的な
行動などが特徴として指摘されていま
す。
さらに、家に帰りたがらない、家出を
繰り返す、万引きを繰り返したり、過度
に性的な興味や関心を示すなどの非行
の背景に虐待がある場合があります。
Q2 「もしかして虐待?」と考えると、どうしていいか分かりません。
A2 ひとりで抱え込まず、みんなで考えていきましょう。
虐待されているのでは?と疑われる子どもを目の前にした時、保育や教育にたずさわる者とし
て、様々な迷いや不安が浮かんでくるのは、きわめて自然なことです。
そんなときこそ、ひとりきりで悩まず、積極的に同僚や管理職に相談したり、児童相談所や各
専門機関に相談したりして、みんなで一緒に考えていきましょう。
●「Ⅳ資料」の相談機関を参照してください。
Q3 しつけと虐待はどう区別するのですか?
顔や腕にときどきあざがあり、虐待されているのでは?と疑われる子どもがいます。
親は「この子のためを思って厳しくしつけている」と言います。しつけと虐待はどう区
別したらよいのでしょうか?
A3 子どもの心身への影響など、子どもの身になって判断しましょう。
① 子どもの立場で判断を
「しつけ」とは、子どもの気持ちや身体を尊重し、健全な成長発達のためになされるべきもの
です。親がいくら「愛情に根ざしたしつけ」のつもりでいても、子どもの身体や心を傷つける行
為であれば、
「虐待」となります。
「虐待かどうか」は、すべて子どもの側に立って判断すること
が大切です。
② 固定観念に縛られない
「実の親がそんなことをするはずがない」
「そんなことをする人には思えない」など、一般の常
識や自分の固定観念がいつもあてはまるとは限りません。
重要なのは、常識や固定観念にとらわれず、子どもに何が起こっているのか、子どもにどのよ
うな影響が現れているのかを判断することです。
14
Q4 「通告」と言われても、馴染みがないので敷居が高く感じます。
A4 「通告」とは、市町村児童相談担当部署や児童相談所に「連絡」することです。
「通告」という言葉に馴染みがないので、難しそうな印象を受けるかもしれません。
「通告」と
は、市町村の児童相談担当部署や児童相談所に、援助が必要な子どもや家庭があることを「連絡」
することをいいます。
方法には、電話や手紙、窓口で直接伝えるなどがあります。匿名でもかまいません。
「通告」では敷居が高いようなら、
「虐待かどうかの判断に迷う」
、
「どう対応していいか分から
ない」といった「相談」をしてみるのがよいでしょう。
Q5 「通告」というと「密告」するようで抵抗を感じます。
暴力でしつけをされている子どもがいます。あざもときどき見かけますが、職業柄、家庭
のプライバシーを密告するような抵抗感があり、
「通告」に踏み切れません。
A5 子育て支援のきっかけづくりと考えてはどうでしょう。
虐待している親のほとんどは、子育てがうまくいかず、悩んだりイライラしたりしています。
また、虐待の背景に、親の生育歴や家庭の経済状況などの複雑な要因が絡んでいることもあり、
親がたくさんの悩みを抱え込んで、誰にも相談できずにいる場合もあります。
「通告」とは、親の虐待行為を児童相談所等にこっそり耳打ちすることではなく、子育て支援
が必要な親や家庭について、専門の相談機関に、
「この親(家庭)への子育て支援に、手を貸して
もらえませんか」と援助を求めることだと考えてみてはどうでしょう。
Q6 「虐待」と判断してよいのか自信がありません。
担任している子どもから、
「お母さんにしょっちゅう叱られる」と相談されましたが、
その子どもの顔や身体にあざがあったこともないので、虐待の証明ができません。
それに、
「間違いだったらどうしよう」と思うと、通告することができません。
A6 「虐待」かどうかの証明は必要ありません。
保育士や教職員が児童虐待を証明する必要はありません。通告する際に、虐待が疑われる理由
(状況)を伝えるだけで十分です。
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「もし、間違っていたら・・・」という不安や、
“疑うことの後ろめたさ”を感じる人はいるかも
しれませんが、でも、もし本当だったら、重大な結果が生じてしまうかもしれません。虐待を疑
ったことは責められたりしませんし、通告者が特定されないようにもしてもらえるので、専門機
関等に連絡しましょう。
● 次のQ7を参照してください。
Q7 内部から「通告しなくてよい」と言われ迷っています。
担任している子どもが虐待されているようなので、内部で対応を話し合ったところ、
「我々
には守秘義務がある。通告はしなくてよい」と言われました。
でも、担任としてはこれ以上放っておけません。どうしたらよいでしょう。
A7 私たちには、児童虐待についての通告義務があります。以下の①と②を踏まえ、まず、
個人として児童相談所等に相談します。
その上で、
「内部では通告しないことにしたが、担任個人として、子どもの状況は放っておけな
い」ことを伝え、さらに、
「自分が相談したことは絶対に秘密にして欲しい」と伝えれば、通告者
が特定される情報が伝わることはありません。
また、すべての児童虐待相談で、市町村や児童相談所が前面に出て対応したり、子どもを保護
したりしている訳ではありません。子どもの状況を見極め、
“後方支援”という形で先生や保育所
や幼稚園、学校をサポートしている例もあります。
① 児童虐待の通告義務の優先
児童虐待の通告義務は守秘義務に優先し、守秘義務違反にはあたりません。
児童虐待を発見した者は、速やかに市町村、福祉事務所または児童相談所に通告する義務があ
ります。
◆ 児童福祉法第25条、児童虐待の防止等に関する法律第6条第1項
この通告は守秘義務に優先し、個人情報保護法でも、情報の提供が認められています。
◆ 児童虐待の防止等に関する法律第6条第2項、個人情報の保護に関する法律第23条第2項第3項
<参考>個人情報保護法の第三者提供の制限について
人の生命、身体又は財産の保護や児童の健全な育成の推進のために特に必要な場合であって、
本人の同意を得ることが困難であるときや、国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受け
た者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意
を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるときは、個人データを第三者に提
供してもよいことになっています。
◆ 個人情報の保護に関する法律第23条第2項、第3項
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② 通告者の保護
通告を受けた市町村や福祉事務所又は児童相談所等が、通告した者が特定される情報を漏らす
ことはありません。
◆ 児童虐待の防止等に関する法律第7条
Q8 保護者との信頼関係は損なえません。
子どものお尻に新旧の小さな火傷を見つけました。その子の話では、母親が線香の火を押
しつけるようなのです。でも、しつけへの熱心さのあまりの行為だと思いますし、園は保護
者との信頼関係が一番大切と考えているので、そっとしておきたいのですが。
A8 子どもの立場で考えましょう。
保護者との関係にばかり目を奪われていると、
虐待している保護者と同じ目線になってしまい、
傷ついている目の前の子どものことが見えなくなります。
児童虐待は、子どもの身体だけではなく、心にも消せない傷を残します。また、子どもの成長
にさまざまな影響を与え、その次の世代にまで虐待が連鎖するほど、大きな影響を受ける子ども
● Q1を参照してください
もいます。
子どもの安全や健全な成長を最優先に考え、専門機関に通告しなければなりません。
Q9 保護者からのクレームや、怒鳴り込まれるのは困ります。
他の保育所から、
「児童相談所に虐待を通告したら、保育所が通告したことが親に伝わっ
てしまい、父親が怒鳴り込んできて大変だった」と聞かされました。
うちの保育所にも虐待が疑われる子がいますが、通告などしたら、同じ状況が予想される
親で、職員はみな女性のため、怒鳴り込まれたら困るのですが。
A9 「機関」として組織的な対応を依頼されることがあります。
児童虐待の通告者は、特定されないよう守られますが、
「機関」から通告された児童相談所が、
対応の手法上、通告した機関の了解を得て、保護者に「どの機関からの通告を元に調査している
か」を伝えることがあります。また、児童相談所が「学校から保護者に、
『虐待を通告した(する)
』
と伝えて欲しい」などと協力を依頼することもあります。
また、たとえ、保育所や幼稚園、学校が通告していなくても、保護者から「通告された」と疑
われやすい立場であることは事実です。そのため、通告を疑った保護者から、電話で激しく抗議
されたり、怒鳴り込まれたりする場合があります。
保護者が抗議をしにきた場合、①必ず複数の職員で対応し、②「すべて児童相談所の判断で
あり、学校(園・所)の判断ではない」と伝え、保護者と虐待の話ができるようなら、③通告義
務について説明します。
その際、親の言い分を聴き、通告された(疑われた)親の気持ちに理解を示しながら、②あ
るいは③を繰り返し伝え、
「児童相談所とよく話し合って欲しい」と伝えるのがよいでしょう。
もし、暴力的な保護者なのであれば、事前に児童相談所や警察に相談しておきましょう。
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また、実際に保護者が暴れたり、脅したりする場合は、警察に支援を求めます。外部への支
援依頼や相談は、校(園・所)長や副校(園)長、主任などが窓口となるのがよいでしょう。
Q10 通告はしたけれど・・・。
児童虐待の通告義務は知っていますが、前にいた学校では、通告してもすぐに対応して
もらえませんでした。あとで訪問した児童相談所の職員にいろいろ聞かれましたが、
「様
子を見ましょう」と言われただけで、対応には満足できませんでした。
A10 児童相談所や地域の児童相談体制は強化されています。
① 48時間以内対応
厚生労働省の『児童相談所運営指針』
(平成 19 年 1 月改正)で、児童相談所は、通告を受理し
てから48時間以内に安全確認等の具体的対応をすることが望ましいとされており、現在、福島
県の児童相談所でも48時間以内に安全確認する方針で対応しています。
児童相談所が通告(相談)を受理した後の、対応の流れについては、p.8の「相談機関に通告
した後の流れ」を参照してください。
② 児童虐待専門職員の配置
福島県では、平成19年4月から各児童相談所に、児童虐待相談に専門に対応する「児童虐待
専門職員」を配置し、通告等があれば、地区を担当する児童福祉司と一緒に、保育所や幼稚園、
学校を訪問するなどして、
子どもの安全確認や情報収集、
職員の方々からの相談等に対応します。
「児童虐待専門職員」は、ベテランの児童福祉司ですので、保育所や幼稚園、学校が感じてい
る不安や疑問は遠慮せず相談し、一緒に考えていきましょう。
③ 要保護児童対策地域協議会
◆ 児童福祉法第25条の2による
児童保護法が改正され、平成17年度からは、市町村も児童相談を受け付けています。なかで
も、
「要保護児童※対策地域協議会」といって、援助を要する子どもや親にかかわる、保育園や幼
稚園、学校をはじめとした、様々な関係機関や関係者によって構成される、児童相談ネットワー
クを整備し、親子を地域で支えていく体制ができつつあります。
※ 児童福祉法では、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童を「要保護児
童」と表現します。
児童虐待への対応は、専門機関に通告しておしまいではありませんし、通告した子どもがすべ
て一時保護されたり、施設に入所したりするわけではありません。
「通告」や「相談」は、子どもや親への支援のはじまりの一歩に過ぎないと認識する必要があ
ります。
保育所や幼稚園、学校は、まず、市町村の児童相談窓口や児童相談所への「通告」あるいは「相
談」をし、地域で親子を支援するためのネットワークの一員になり、ケース検討会等に参加する
など、子どもと親への支援者のひとりとして、かかわっていく姿勢が求められています。
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