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タマネギ機械移植専用培土の開発と機械移植の普及

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タマネギ機械移植専用培土の開発と機械移植の普及
タマネギ機械移植専用培土の開発と機械移植の普及
∼香川県西讃農業改良普及センター∼
権利化した知的財産
取
組
内
機械移植専用培土の特許権
容
(1)権利化した背景・ねらい
① 産地の現状
香川県におけるタマネギの機械化は、平成元年に収穫機の導入が始まり、平成7年には10台の稼働
がみられた。一方、全自動移植機は平成3年から7年までに7台が導入された。機械化の可能性は認め
られたが、これに対応する栽培技術が確立されていないため、機械化栽培体系の収量は手植えによる慣
行栽培体系の約70%にとどまっていた。この原因の大きなものとして、全自動移植機ではセル成型苗
を使用するので、若い苗による活着が不十分であった。
②
権利化に至ったきっかけ
全自動移植機に使用するセル成型苗の苗質の向上をはかり、移植後の本田での活着を向上させるため
に、育苗用培地の培土に所定の繊維を混入させることによって、機械移植に適し、かつ、本田での生育
が促進される良質な苗を生産する技術を開発した。
(2)権利化の経過
○ 特 許 出 願:平成7年10月6日(特願平07-284576)
○ 出
願
者:香川県農業試験場研究員、西讃農業改良普及センター普及指導員、株式会社D社
○ 特許出願審査請求:平成14年9月9日
○ 拒 絶 通 知:平成17年3月1日
○ 拒 絶 査 定:平成17年7月12日
本出願は権利取得できなかったが、この技術開発に先立って、香川県農業試験場および西讃農業改
良普及センターの職員は、他の農業機械メーカーとの間でより基礎的な共同研究を行ってきており、
本技術はその農業機械メーカーに引き継がれて、タマネギ用セル成型苗の専用培土の開発が実用化さ
れた。
(3)取得した権利を活用した取組
培土中に所定の繊維を混ぜ込むことによって、セル成型苗の苗質の向上と移植後の生育が良好となる
開発した技術は、民間レベルで実用化され、タマネギやネギ、ニラ等の野菜苗の育苗培土が開発され、
全自動機械移植の普及に貢献した。
(4)取組の成果・活用
タマネギの専用培土による育苗技術の実用化により、香川県
におけるタマネギの機械化移植が普及し、毎年約40haの面積
に活用されている。
全自動移植機によるタマネギの移植作業
(観音寺市郊外)
普及組織の関与(支援内容)
(1)支援のきっかけ
タマネギ生産農家から機械化移植の実用化の要請を受け、普及指導員が農業試験場の研究員や農業機
械メーカーと共同研究を実施し、土壌水分保持のため、育苗用培土に繊維を混入する技術を開発した。
(2)権利化
農業試験場において、育苗から定植までの生育及び土壌水分保持能力を慣行技術と対比しながら有効
な技術であることを確認した。この技術を県職員の職務発明の認定を得て、県職員と民間業者の共同で
特許出願を行った。出願申請書類は自力で作成した。
(3)活用
それまでに共同研究を行った他の農業機械メーカーにより、本技術を参考にした育苗培土が開発・市
販され、タマネギの機械化移植の普及に貢献した。
(4)問題点・課題(普及組織が支援する際の問題点や課題)
特許申請に当たっては、弁理士を通さず自力出願としたため、結果的に権利取得が出来なかった。ま
た、ノウハウだけを他者に活用された場合に権利侵害を主張することができなかった。公的機関として
権利保護をするための弁理士費用等の予算確保が必要とされる。
調 査 者 の 所 感
本事例は、共同研究において優れた研究成果が得られているが、残念ながら権利化に至らなかった。その
理由は、県の予算制約により、弁理士などの代理人を通した形での特許出願をしなかったために、特許出願
書類の品質が充分ではなく、拒絶理由通知に対する対応も適切ではなかったためと考えられる。このような
優れた共同研究成果の権利化の失敗を防ぐためには、共同研究成果を特許出願する際に必要となる予算をあ
らかじめ確保しておくか、権利化の費用は民間企業サイドに負担させる旨の契約を設けておくなどの工夫が
必要と考えられる。
今後、県の農業試験場研究者・普及指導員と民間企業との共同研究が盛んになると予想されるので、この
事例を踏まえて、上記のような方策を立案して各都道府県に提案することが求められる。
なお、この共同研究成果の権利化自体は失敗であったが、このような先進的な共同研究の取り組みが、関
係者に刺激を与え、民間レベルでの研究開発を活性化した点については高く評価される。
このように、都道府県の農業試験場研究者・普及指導員と民間企業との共同研究は、都道府県にのみ利益
をもたらすものではなく、共同研究先の民間企業に刺激を与え、民間レベルでの研究開発を活性化し、日本
の農林水産技術(特に農業資材、農業機械などの技術)の発展を促すことによって、広い意味での日本の国
益に資する作用があると考えられる。
調査日:平成19年11月22日(木)
調査者:奥野
彰彦(園田・小林特許事務所)
岡崎紘一郎((社)全国農業改良普及支援協会)
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