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2012program - 日本生化学会 近畿支部
御案内 1. 会場は京都大学宇治キャンパスです.京阪電鉄宇治線黄檗駅,JR奈良線黄檗駅が最寄 駅です.お車でのご来場の場合は京滋バイパスの宇治西(大阪方面から)か宇治東(名 古屋方面から)の出口が便利です.周辺道路が狭いためお気を付け下さい. 2. 受付はきはだホール入口にて 8 時 30 分より開始します.会場では受付にてお渡しする 名札にを御着用ください.名札はお帰りの際に受付にお返しください. 3. 優秀発表賞の投票を行います.受付で受け取られた投票用紙に記入の上,16 時 30 分ま でに受付の投票箱にお入れください.なお,同一研究室の発表者の発表へは投票できま せん.優秀発表賞は懇親会で発表し,表彰します. 4. 発表者の方へ:全ての発表を口頭とポスターの両方で行います. a. 口頭発表は以下の通りに行います. i) 講演 10 分,討論 3 分の計 13 分です. ii) 発表者持ち込みのパソコンとミニ D-sub 15 ピン(オス-オス)ケーブルによって 接続した液晶プロジェクターからスクリーンに投影します.Mac を使用する場合 はミニ D-sub 15 ピン(オス)に接続するためのアダプタが必要です. iii) 事前に試写をしたい方は,きはだホールのホワイエへお越しください. iv) 発表と発表の間に交代時間がありません.前の発表者が討論に入るまでにパソコ ンを起動し,プロジェクターのケーブルと接続してください.会場の担当者が指 示します.各会場では講演開始前と4~5題ごとに試写の時間を設けます. v) プレゼンテーションに使用するソフトは自由です. vi) 持ち込みのパソコンにトラブルが生じた場合のため,USB メモリにデータを保存 したものをお持ちください.ファイルを会場備え付けのパソコン(Windows XP – Office2003)に移して投影します.PowerPoint2007 等をお使いの場合は,念のた め 2003 の形式でも保存しておいてください. b. ポスター発表は黄檗プラザのハイブリッドスペースで以下の通りに行います. i) ポスターを貼る部分の大きさは横 900 mm × 縦 1600 mm です.但し縦は 1800 mm くらいまで可能です.貼付に必要なピンと発表者リボンを受付でお渡しします. ii) ポスター掲示は 10 時 30 分までにお済ませください.また,ポスターは 15 時 30 分までは掲示し,撤去は 16 時 30 分までに行ってください. 5. 11 時 45 分から 12 時 30 分まで,B会場(セミナー室4・5)において近畿支部評議員 会を開催しますので評議員の方は受付で御確認の上,お集まりください. 6. 昼食は黄檗プラザのハイブリッドスペース横のレストラン「きはだ」,キャンパス内の 生協食堂,他大学近隣の飲食店,また,持ち込みの場合は休憩室等を御利用ください. 7. 懇親会を 18 時 00 分より黄檗プラザのハイブリッドスペースで行います.奮って御参加 ください.会費は 3,000 円(学生無料)です.当日受付も行います. 8. 大学の建物内は全面禁煙ですので,喫煙は指定の喫煙所にてお願いします. 1 ⑤ ■受け付けはおうばくプラザ1階きはだホール内にあります. 2 おうばくプラザ きはだ ⑧ ⑥ ④ ⑦ ③ ◆宇治キャンパスおうばくプラザ見取り図 会場案内 ①ポスター会場・懇親会 ②A会場・モーニングレクチャー シンポジウム・特別講演 ③B会場 ④C会場 ⑤D会場 ⑥受付 ⑦参加者休息室 ⑧講師控室 2階ハイブリッドスペース きはだホール セミナー室4・5 評議員会(11:45 – 12:30) セミナー室1・2 木質ホール3階 (前頁の図参照) (おうばくプラザから徒歩3分) きはだホール1階 セミナー室3およびハイブリッドスペースの一部 きはだホール1階 3 第 59 回 日本生化学会近畿支部例会 日時: 場所: 参加費: プログラム 2012 年 5 月 19 日(土)9 時 00 分より 京都大学宇治キャンパス 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄京都大学大学院農学研究科 応用生命科学専攻応用構造生物学分野内 例会事務局 Tel:0774-38-3736 Fax:0774-38-3735 E-mail:[email protected] HP アドレス:http://kbsw.kais.kyoto-u.ac.jp/ 無料 懇親会 3,000 円(学生無料) 08:30 –10:30 ポスター掲示 (撤去は 15:30 – 16:30) おうばくプラザ 2 階ハイブリッドスペース 09:00 – 09:50 モーニングレクチャー きはだホール 沈 建仁 先生 (岡山大学大学院自然科学研究科) 「光化学系 II の高分解能構造から見えてきた水分解の反応機構」 10:00 – 11:35 一般講演 A 会場:おうばくプラザきはだホール B 会場:おうばくプラザセミナー室4・5 C 会場:おうばくプラザセミナー室1・2 D 会場:木質ホール3階大会議室 A-01 ~ A-07 B-01 ~ B-06 C-01 ~ C-07 D-01 ~ C-07 11:35 – 12:30 昼食(11:45 – 12:30 B会場(セミナー室4・5)にて近畿支部評議員会) 12:30 – 13:30 ポスター発表 おうばくプラザ 2 階ハイブリッドスペース 13:15 – 15:16 一般講演 A 会場:おうばくプラザきはだホール A-08 ~ A-15 B 会場:おうばくプラザセミナー室4・5 B-07 ~ B-15 C 会場:おうばくプラザセミナー室1・2 C-08 ~ C-16 D 会場:木質ホール3階大会議室 D-08 ~ C-16 15:20 – 17:05 シンポジウム おうばくプラザきはだホール 「結晶構造から生化学へ―結晶構造を利用したタンパク質の機能解析―」 15:20 – 15:35 三上 文三(京都大学大学院農学研究科) 機能解析における問題点 15:35 – 16:05 馬場 清喜 先生(JASRI/SPring-8) SPring-8 における構造決定への取り組み 16:05 – 16:35 加藤 博章 先生(京都大学大学院薬学研究科) 結晶構造を基に多剤排出型 ABC トランスポーターのメカニズムを探る 16:35 – 16:55 山崎 正幸 先生(京都大学次世代研究者育成センター/再生医科学研究所) 若年性肝硬変を引き起こすタンパク質の凝集体構造とは? 16:55 – 17:05 総合討論 17:10 – 18:00 特別講演 きはだホール 三木 邦夫 先生(京都大学大学院理学研究科) 「結晶構造解析法の最近の進歩とタンパク質の構造・機能研究」 18:00 –20:00 懇親会 おうばくプラザ 2 階ハイブリッドスペース 4 座長リスト 特別講演 三上 文三(京都大学大学院 農学研究科) モーニングレクチャー 加藤 シンポジウム 博章(京都大学大学院 三上 薬学研究科) オーガナイザー 文三(京都大学大学院 農学研究科) 一般講演 (A 会場) 午前 保川 倉光 午後 林 乾 清 成紀 秀行 隆 (京都大学大学院 農学研究科) (大阪大学大学院 理学研究科) (大阪医科大学大学院 医学研究科) (大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科) (B 会場) 午前 栗原 増井 午後 上山 恩田 達夫 良治 久雄 真紀 (京都大学 化学研究所) (大阪大学大学院 理学研究科) (滋賀医科大学大学院 医学研究科) (大阪府立大学大学院 理学系研究科) (C 会場) 午前 芦高 瀬尾 午後 藤森 井原 恵美子(大阪工業大学 工学部) 美鈴 (京都産業大学 工学部) 功 (大阪薬科大学大学院 薬学研究科) 義人 (和歌山県立医科大学大学院 医学研究科) (D会場) 午前 田中 村上 午後 野島 扇田 直毅 章 博 久和 (京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科) (京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科) (大阪大学 微生物病研究所) (滋賀医科大学大学院 医学研究科) 5 6 10:26– 10:39 10:39– 10:52 04 10:13– 10:26 02 03 10:00– 10:13 01 09:50-10:00 セッション 09:00 –09:50 きはだホール 林一隆 1,藤井知実 1,吉田雅博 2,老川 典夫 2,畑安雄 1 1 京大・化研,2 関大・ 化学生命工 レゾルシノールヒドロキシラーゼ の構造-機能解析 ○山内貴恵 1,小 俊英 2,谷澤克行 2,林秀行 3 大阪医大・ 生化学 1,化学 3,阪大・産研 2 有アミン酸化酵素の高分解能 X 線 結晶構造解析 ○村川武志 1,岡島 [2Fe-2S]クラスターを持つ転写因 子SoxRのスーパーオキサイドとの 反応性とその生理的意義 ○藤川 麻由,小林一雄,古澤孝弘 阪大産研 阪大・院生命機能, 阪大・院 倉光成紀 理・生物科学,3理研・播磨研 2 光架橋性核酸素子を用いた RISC 機能制御法の開発 ○松山洋平,山吉麻子,小堀哲生, 村上 章 京工繊大院・工芸科学・生 体分子工学 後根神経節細胞における機械刺激感 受性 Ca2+流入機構の解明 ○松山純一 ,芦高恵美子 大工大・院 工・生体医工 孝 京大・エネ研 共 生 細 菌 Lactobacillus, Staphylococcus, Streptococcus 属脂質の細菌属特異的分子 種構成と糖脂質の抗原性 ○中佐昌 紀,山崎健太郎,岩森由里子,岩森正 男 近畿大・理工・生命 栄司,森井 松尾洋孝 2,池谷幸信 2,西澤幹雄 1 1 立 命館大・生命科学・生命医科 医化学,2 立命館大・薬学・生薬学 匡 1, 齋藤 茂樹, 伊藤 將弘 1, 糸乗 前 2, 三 原 久明 立命館大・生命科学・生物工, 1 立命館大・生命科学・生命情報, 2 滋賀 大・教育・化学 RNA–ペプチド複合体を基本骨 格とした蛍光性バイオセンサー の合理的設計法の開発 ○田村 友樹,劉 芳芳,仲野 瞬,中田 山吉麻子,村上章,小堀哲生京工繊 大院・工芸科学・生体分子工学 無細胞タンパク質発現系を用い た架橋性アンチセンス核酸の機 能評価 ○杉原悠太,長江悠子, Takashi Morii1,2 1Graduate School of Energy Science, Kyoto University, Kyoto, Japan, 2Institute of Advanced Energy, Kyoto University, Kyoto, Japan 生姜と乾姜に含まれる一酸化窒素産 生抑制成分の構造活性相関 1 ○加納麻奈 ,小海智弘 2, 吉開会美 1, 合 靖 1, 長友克広 2, 久保 義弘 3, 齊藤 修 1 1 長浜バイオ大・院・動物分子生物, 2 弘前 大学・院・統合機能生理, 3 生理研・神経 機能素子 緑茶カテキンによる TRPA1 及び 1 TRPV1 の活性化 ○黒木 麻湖 , 河 ,瀬尾美鈴 1, 2 1 京産大・工・生物工,2 京産大・総合生命科学・生命システム DNA-binding Proteins as the Adaptor for Locating Functional Proteins on DNA Nanostructure ○ Tien Anh Ngo1 , Eiji Nakata1,2, Kallmann 症候群原因遺伝子産物の Anosmin-1 は RGMa の成長円錐崩壊 作用を阻害する 1 ○竹内祥人 ,清水昭男 2,岡本沙矢香 2 試写 テクノロジー D 会場 木質ホール 試写 生理活性物質と生体応答 セミナー室1・2 A 会場 子嚢菌類 Mariannaea elegans 由来 の新奇スフィンゴ糖脂質の構造解 析 ◯谷 泰史, 中村 香里, 沢 良太, 西尾 命科学 シアノバクテリア時計タンパク質 KaiC の動態解析 ○大山克明,寺内一姫 立命館大・生 金光 1,増井良治 1,2,倉光成紀 1,2 1 阪大・ 院理・生物科学,2 理研・播磨研 タンパク質アセチル化の網羅的同 定および機能推定 ○岡西広樹 1, 単一のアミノ酸残基によって決定され る uridine-cytidine kinase の基質特異性 1 ○友池史明 ,中川紀子 2,3,増井良治 2,3, 1,2,3 1 試写 微生物タンパク質/脂質 B 会場 試写 酵素・構造/発現 A 会場 一般講演 セミナー室4・5 C 会場 モーニングレクチャー(きはだホール) 一般講演スケジュール 11:09 – 11:22 11:22 – 11:35 06 07 7 13:15 – 13:28 13:28– 13:41 08 09 13:10-13:15 セッション 11:35– 13:30 10:56 – 11:09 05 10:52-10:56 3 3 本 純,江崎 信芳,栗原 達夫 京大化 研 信芳,栗原 達夫 京大化研 セミナー室4・5 試写 タンパク質凝集を抑制するペプチ ドナノファイバーの開発 ○土屋 喬比古,福原早百合,西垣辰星,和 久友則,功刀滋,田中直毅 京工繊大 院 生体分子工学専攻 β-sheet ペプチドの自己組織化に よる抗原担持ナノファイバーの作 製と細胞取り込み ○川端一史, 北川雄一, 和久友則, 功刀 滋, 田中直 毅 京工繊大院 生体分子工学専攻 酵母におけるプロリン合成の鍵酵素 γグルタミルキナーゼの機能解析 ○立橋 祐樹 1,田坂侑美 1,戒能智宏 2,高木博史 奈良先端大・バイオ, 島根大・生物資源 1 1 ラミナリン結合におけるエンド-1,3-βグルカナーゼの糖結合モジュール内 1 各部位の役割 ○玉城智成 ,田邊陽 一 1,伊倉貞吉 2,伊藤暢聡 2,織田昌幸 1 1 京都府立大学・院生命環境科学,2 東京医 科歯科大学・難治疾患研究所 フォールディング/遺伝子発現 B 会場 試写 2 試写 セミナー室1・2 細胞透過性ペプチドによる抗原タン パク質のナノ粒子化と抗原提示細胞 への移送 ○市川将弘, 寺澤希実, 和久 サ ル モ ネ ラ ( Salmonella Weltevreden)の接着・付着制御に よる食中毒統御 ○北村香南子,藤 セミナー室1・2 石原慶一,秋葉 化学分野 聡 京都薬大・病態生 立大学 生命環境科学域 胞分子生物学教室 獣医学類 細 Hansenula polymorpha Pex14p のリン 酸化部位の機能解析 ○田中勝啓, 竹中重雄, 小森雅之 大阪府 野亜紀,加地弘明,通山由美 姫路獨協大 ・薬・生化 山岸伸行,畑山 巧 京都薬大・生化学 粥状動脈硬化症において IVA 型ホ スホリパーゼ A2 はマクロファージ の極性化に関与する ○金井志帆,高杉美千子,井上亜樹, 好中球の Netosis における Syk の機能 の検討 ○川上辰三,大口千穂,波多 試写 タンパク質リン酸化 Hsp105βによる Hsp70の発現誘導に 及ぼす Nmi の影響 ○齊藤洋平, 試写 生体応答/細胞内輸送 C 会場 D 会場 木質ホール 友則, 功刀滋, 田中直毅 京工繊大院 生体 分子工学専攻 和久友則,功刀滋,田中直毅 京工繊大院 生体分子工学専攻 大・薬・生体防御学 森功,天野富美夫 大阪薬大・生体防御 学 ホルムアルデヒド脱水素酵素を配合 ポリマーゲルによるアルデヒド処理 技術 ○岸達也,新井智之,多田朋子, 研・分子遺伝 迅速・簡便な白血球精製法 (LeukoCatchTM)の開発 ○岡本 歩, 鳥形康輔, 野島 博 阪大・微 試写 D 会場 木質ホール ケルセチンは神経細胞におけるア ポトーシス誘導を抑制する ○末松 那実子,天野富美夫,藤森功 大阪薬科 薬・生体防御学 冬,天野 富美夫,藤森 功 大阪薬科大・ した脂肪細胞の分化抑制 ○小野 真 アピゲニンよる AMPK 活性化を介 C 会場 昼食 (11:35 – 12:30),ポスター発表 (12:30 – 13:30),評議員会 (11:45 – 12:30) きはだホール 酵素・構造/発現 A 会場 院農・応生 ○木村恒久 1 1 京大・院農・森林,2 京大・ 彦 2,樋口慎悟 1,津久井秀 1,三上文三 2, 擬単結晶化法による蛋白質の単結晶 1 構造解析の検討 木村史子 ,水谷公 物,2 京大・院農・応用生命 高分解能 X 線結晶構造解析による甘 エイコサペンタエン酸含有リン脂 味タンパク質ソーマチンの甘味発現 質の生理機能解析を目的とした 1 機構の解明 ○佐野文音 ,桝田哲哉 1, アミド型リン脂質の合成 ○上野 2 11 三上文三 ,谷史人 京大・院農・食品生 源次郎,佐藤 翔,川本 純,江崎 裏出 良博 ,魚留 信子 ,鶴村 俊治 ,和 田濱 裕之 1 1 京大・院農・農,2 丸和栄養食 品,3 大阪バイオ研・分子行動 3 低温菌 Shewanella livingstonen sis Ac10 のエイコサペンタエン酸欠 損が外膜タンパク質に及ぼす影響 ○杉浦 美和,朴 貞河,代 先祝,川 セミナー室4・5 ER-60の b-b’ドメインとアミロイドβ ペプチドの複合体の結晶構造解析 ○ 裏出 令子 1,伊中 浩治 2,古林 直樹 2, B 会場 試写 きはだホール 試写 A 会場 一般講演スケジュール 8 14:37 – 14:50 14 セミナー室4・5 岩本 (木原) 昌子 1 1 長浜バイオ大・ バイオサイエンス,2 岩手医科大・ 薬 セミナー室1・2 山県立医大・医学部・生化 池田京平 2,阿部哲之 2,浜田大三 1 1 神戸大・院医, 2 神戸大・医 試写 1,3 1 2,3 金光 1,福井健二 3,上利佳弘 3,新海暁男 3, 増井良治 1,3,倉光成紀 1,2,3 1 阪大・院理・生 物科学,2 阪大・院生命機能,3 理研・播磨 研 高度好熱菌由来 Ser/Thr protein kinase TTHA0138 の機能解析 1 2 ○飯尾洋太 ,高畑良雄 ,井上真男 1, 試写 京大院・農・食品生物,2 京大院・農・応生 科,3 日本学術振興会特別研究員 解糖系代謝物メチルグリオキサールは TORC2 の活性化因子である 1,3 ○野村 亘 ,河田照雄 1,井上善晴 2 1 2 ,Michael 京産大・院工・生 Klagsbrun ,瀬尾美鈴 物工学,2Vascular Biology Program, Children's Hospital Boston, Harvard Medical School,3 京 産大・総合生命・生命システム ○吉田亜佑美 1,清水昭男 Neuropilin-1 を介する血管内皮増殖因 子:VEGF-A のシグナル伝達は,悪性 上皮癌細胞の生存と増殖を促進する 直敬 2, 藤吉朗 2,門脇崇 2,三浦克之 2,上 島弘嗣 2,扇田久和 1 1 滋賀医大・分子病態 生化, 2 滋賀医大・公衆衛生 小堤 保則,竹松 弘 京大・院生命・シ ステム機能学 阪大・微研・分子遺伝,2 阪大・微研・ 感染症 DNA チップ開発センター 1,2 1 リンパ球における活性化依存的な Lats2 ノックアウトマウス胎性線維芽細 シアル酸分子種変化による免疫系 胞のトランスクリプトーム解析○鳥形 1 の制御 ○内藤 裕子,村田 恵祐, 康輔 ,奥崎大介 1,2,藪田紀一 1,2,野島博 崎山晴彦 2,江口裕信 2,鈴木敬一郎 1,樋口和秀 1,朝日通雄 2 1 大阪医科大 21 関西学院大学・院理工・生命科学, 学医学部 第2内科,2 大阪医科大学医 2 兵庫医科大学・生化学 学部 薬理学教室 変異型 SOD1 に対する新規 SOD1 ラット小腸上皮細胞 IEC-6 におけ モノクローナル抗体の反応性 ○ る lansoprazole による HO-1 発現誘 1 ○依田有紀 野口隆弘 ,藤原範子 2,鴨田信子 2, 導分子機構の検討 2 北野隆之 ,武内悠希 2,吉原大作 2, 子 1,中川孝俊 2,原田智 1,梅垣英次 試写 一 2,田邉詔子 3,扇田久和 1 1 滋賀医 大・生化・分子生物,2 滋賀医大・眼 科,3 視覚研究所 功大阪薬科大・薬・生体防御学 HDAC 活性の阻害は脂肪酸合成を 抑制し,脂肪滴の蓄積を低下させ る ○柚山美希,天野富美夫,藤森 膵癌由来上皮細胞株 BxPC3 におけ る小胞体ストレスとインテグリン ○井内陽子,池田豊,井原義人 和歌 L,M 両錐体視物質遺伝子を持つ 先天色覚異常 -エキソン 3 の 塩基多型ハプロタイプがスプラ イシングのパターンに影響する 1 ○上山久雄 ,村木早苗 2,山出新 D 会場 木質ホール 嗅覚によって油を感知する機構の ホ ス ホ リ パ ー ゼ A2 グ ル ー プ 7 解明 ○宮崎尚也 1,高橋弘雄 1, ( PLA2G7 ) の 遺 伝 子 多 型 と マ ク ロ 1 吉原誠一 ,坪井昭夫 1 1 奈良医大・先 ファージにおけるアポトーシス誘導と 1 端研・脳神経システム の相関 ○前田利長 ,竹内圭介 1,高嶋 C 会場 免疫グロブリン軽鎖キメラ体の アミロイド形成能とフォールディ ング ○小林祐大 1,田代裕己 2, 藤原葉子 2,白木孝 1,輿水崇鏡 2,柴 田克志 1 1 姫路獨協大・薬,2 自治医 科大・医 アグレソーム形成における Sav1 の新たな機能 ○酒井伸也 1, B 会場 Streptococcus mutans F 型 オボアルブミンのポリマー化 H+-ATPase の大腸菌における発 張 娟,○恩田真紀 大阪府大・理・ 現 ○佐々木由香 1,前田正知 2, 生物 院農・食生科 組換え AMV 逆転写酵素 サブ ユニットの調製と耐熱化 ○小 西 篤,保川 清,井上國世 京大・ 14:24 – 14:37 木亨, 兒島憲二, 井上國世 京大・院 農・食品生物科学 マトリプターゼ LDL 受容体ク ラス A ドメインの意義解明 ○友石満里絵, 都築巧, 安元誠, 伏 13 14:07 – 14:20 12 バイオマス形態情報 界面活性剤による可溶化が膜 タンパク質酵素の活性に及ぼす 影響-セルロース合成活性を 1 例に- 下農健治 ,杉山淳司 1, 1 1 ○今井友也 京都大・生存研・ 試写 13:54 – 14:07 11 本 優也 1,深田 はるみ 1,後藤 祐 児 2,乾 隆 1 1 大府大・院生環・応 生,2 阪大・蛋白研 ヒト由来リポカリン型プロスタ グランジン D 合成酵素の脂溶 性低分子に対する相互作用解 析 ○久米 慧嗣 1,李 映昊 2,宮 きはだホール 14:20-14:24 13:41 – 13:54 10 A 会場 一般講演スケジュール 15:03 – 15:16 16 9 17:10 – 18:00 15:20 – 17:05 14:50 – 15:03 15 A 会場 きはだホール セミナー室4・5 セミナー室1・2 2 1 阪大・医, Wiriyasermkul ,金井好克 阪大院・医・生体システム薬理 2 2 特別講演(きはだホール) 1 阪大・微研・ 薮田紀一1,野島博1 1 阪大・微研・分子遺伝 Cyclin G1 及び Cyclin G2 と PP2A B'γ の 結合様式の解析 ○大野将一 1,内藤陽子1, 藤彰彦 2,薮田紀一 1,野島博 1 分子遺伝,2 近大・医・病理 GAK を標的としたゲフィチニブ・ルテオ リンの併用はヒト前立腺がん細胞株 PC-3 の細胞死を促進する. 1 ○櫻井みなみ ,尾崎友紀 1,内藤陽子 1,伊 D 会場 木質ホール シンポジウム(きはだホール) 「結晶構造から生化学へ―結晶構造を利用したタンパク質の機能解析」 部杜央 , 西田栄介 1 京大・院生命科学 1 日本人型シスチン尿症を発症させるアミ ノ酸トランスポーター変異体の機能解析 ○ 河 本 泰 治 1,2, 永 森 收 志 2, Pattama 繊維芽細胞から心筋細胞への変換に 影響を与えるクロマチン制御因子の 探索 ○蘆田勇平 1, 砂留一範 1, 日下 1 屋長治 5,北川裕之 1,2 1 神戸薬大・生化,2 神戸 大・G-COE,3 名大・医,4 生理研・神経分化,5 都臨床研・実験動物 コンドロイチン硫酸の硫酸化パターンに よる神経可塑性の制御 ○宮田真路 1,2,小松由紀夫 3,吉村由美子 4,多 C 会場 , 丸山悠子 2, 米田一仁 2, 丸山和一 2, 木 下茂 2, 中野正和 1, 田代啓 1 1 京都府立 医科大・院医・ゲノム医科学,2 視覚再生 外科学 1 網膜における血管新生に関連する遺 伝子の網羅的発現解析 ○足立博子 B 会場 一般講演スケジュール 特別講演要旨 結晶構造解析法の最近の進歩とタンパク質の構造・機能研究 三木邦夫 京大・院理 結晶構造解析法はタンパク質の立体構造を決定するために最も広く用いられている手段 で,現在,PDB(Protein Data Bank)に登録されている8万を超える立体構造のうち,X線 回折法で決定されたものはその 87%以上になる.タンパク質の立体構造は,その生物学的 な機能を論じる上での最も基本的な情報であり,機能と直結した固有の構造をとる一方, 同じ構造をとりながら多くの機能に対応できることも知られている. 結晶構造解析法は 1990 年代に入ってその技術要素が飛躍的に発展し,生化学・生物学分野に大きな貢献を果たす ようになった.この時期に呼応する重要な要因は,放射光利用技術の汎用化・高度化であ る.タンパク質結晶学が近年目指してきた方向には,主に以下の3つをあげることができ る. その第一は細胞内での存在形態(相互作用)にできるだけ近いかたちでの構造を捉えよ うとするもので,タンパク質どうし,あるいはタンパク質と他の生体分子間の複合体構造 の解析である.さまざまな構成成分を含む複合体は巨大で複雑なものとなり,近年のノー ベル化学賞授賞につながったように,リボソームでさえ結晶構造解析の対象である.また, PDB における登録の 0.3%程度しか構造解析例がない膜タンパク質は,今なお複合体構造と して重要な解析対象である.このような構造解析の成否は,弱い相互作用をいかに巧みに 制御し,複合体状態の維持と結晶化に導くかいうことにかかっている. 第二の方向は,構造解析法の汎用化にもつながる,広範で多様な構造の網羅的解析であ る.今世紀に入ってから世界中で推進された「構造ゲノム科学・構造プロテオミクス」プ ロジェクトは,タンパク質立体構造の辞書的な網羅に貢献するとともに,構造解析技術汎 用化に必要な省力化・迅速化・自動化が推し進められた.その結果として,技術的な水準 が高められたのみならず,多くの研究者が構造研究に携わる環境が整備された. 第三の方向は,結晶構造に含まれる情報をできるだけ多く引き出そうとするもので,一 つの分子としてのタンパク質が関与する化学反応状態が可視化される.その背景には放射 光技術高度化があり,精度が著しく向上したタンパク質の高分解能・高精度構造解析から は,水素原子の位置や外殻電子の分布についての情報も得ることができる.水素原子位置 の決定には中性子結晶構造解析が有効な手段であり,これを併用することで,さらに信頼 性を高めた議論が展開できる.その結果,タンパク質分子の構造から直接「化学」を論じ ることが可能になる.また,従来は小さな有機化合物や無機錯体が対象であった電子密度 解析を,タンパク質分子でも実現することができる.酵素分子の種々のリガンドとの相互 作用についても,水素原子や電子状態を組み込んだ精密な構造に基づく化学的議論が可能 になり,反応機構解析や創薬ターゲットの検索に新しい方向性を提示できる.しかしなが ら,このような研究には極めて精度の高い回折データが要求され,それには高品質の結晶 を得る技術や,誤差を生み出す要因を排除する測定法など,今後解決されるべき技術的要 因が残されている.この第三の方向は,将来の新しい結晶学の役割を担う重要な視点であ ると考えられる. このような結晶解析法の技術的進歩に焦点をあて,今後の方向性を探ってみたい. 10 モーニングレクチャー要旨 光化学系 II の高分解構造から見えてきた水分解の反応機構 ○沈 建仁 1, 梅名泰史 2, 川上恵典 2, 神谷信夫 2, 3 (1 岡山大学大学院自然科学研究科, 2 大阪市立大学複合先端複合先端研究機構, 3 大阪市立 大学大学院理学研究科 3) 藻類や植物の光合成において,太陽の光エネルギーを利用して水を酸素,水素イオン, 電子に分解する反応を触媒しているのが,光化学系 II(PSII)と呼ばれる膜タンパク質超分 子複合体である.水の分解によって生成される酸素は大気中酸素の源で,地球上好気的生 物の生存に不可欠であり,また,水素イオンと電子は ATP 合成酵素と一連の電子伝達系に よって生物が利用可能な化学エネルギーに変換されることになる.PSII はこのような「酸 素発生」と「光エネルギーの変換」という2つの重要な機能を持つ意味で極めて重要なタ ンパク質複合体であると言える.PSII の機能を解明するには,その構造を解明することが 不可欠であるが,原核生物であるラン藻由来の PSII は 17 種類の膜貫通サブユニットと3 種類の膜表在性サブユニットにより構成され,ポリペプチド以外にクロロフィルやカロテ ノイド,プラストキノン,Mn,Ca,Cl など 70 以上の補欠分子族を含む,総分子量が 350 kDa にも及ぶ巨大な複合体であり,その高分解能結晶を作成することが困難と考えられていた. 演者らは長期間好熱性ラン藻 Thermosynechococcus vulcanus を用いて PSII の精製・結 晶化に取り組み,その高分解能の結晶化に成功し,1.9 Å 分解能で PSII の構造を解析する ことに成功した(1).得られた構造から,PSII 二量体あたりに約 2800 個の水分子を同定し, 水分解反応を直接触媒している酸素発生中心の構造を原子レベルで明らかにした.この触 媒中心は4個の Mn と1個の Ca が5個の酸素原子により結びつけられて, 「歪んだ椅子」の 形をした Mn4CaO5 クラスターであった.また,Mn4CaO5 クラスターに配位しているすべての 配位子を特定し,そのうちの4つは水分子であることを初めて同定し,水分解反応の機構 に関する重要な知見を得た.さらにクラスターの両側に2つの塩素イオン結合部位が存在 し,プロトンチャンネル,あるいは水チャンネルとして機能する可能性のある,触媒中心 とタンパク質表面を結ぶ水素結合ネットワークを複数個同定した.本講演では,解析され た PSII 二量体の結晶構造,特に Mn4CaO5 クラスターの詳細な構造とそれによって示唆され る水分解の反応機構について紹介する. 【参考文献】 [1] Umena, Y., Kawakami, K., Shen, J.-R., Kamiya N. Nature 2011, 473, 55-60. 11 シンポジウム要旨 結晶構造から生化学へ ―結晶構造を利用したタンパク質の機能解析― 機能解析における問題点 三上文三 京大・院農 X線結晶構造解析法の最近の進歩は著しく,タンパク質の構造を決定することは今やルー チンワークとなっている.しかし,結晶構造を利用してタンパク質の機能解析を行おうと すると,様々な問題に直面し,結晶中での構造情報を十分に活用できていない現状がある. 生化学の立場からは結晶中のタンパク質を試験管の中のタンパク質と同等であると考えて, タンパク質が機能する姿を可視化できることを期待するが,実際は,結晶化が困難であっ たり,得られた結晶の分解能が不十分であったり,回折する結晶の寿命が短かったり,リ ガンドとの複合体の結晶が得られなかったり,分子表面の重要な構造が見えなかったり, さらに,得られた構造が生化学的知見と整合しないこともしばしば経験する.また,高分 解能のデータの収集のために不可欠な結晶の凍結による影響や凍結保護剤による影響も無 視できない.これらの問題の一部は結晶格子形成のためのタンパク質相互作用(結晶中で のパッキング)に由来する.タンパク質の機能発現のために重要なループが同時に結晶中 でのパッキングにも重要である場合,機能発現のために必要なループの構造変化を観察す ることは困難になる.今のところ,この問題を解決する有効な方法は徹底的な結晶化のス クリーニングにより,問題部分のパッキングを回避した結晶を得ることが重要であると思 われる.このような戦略によって結晶中でのタンパク質の構造変化を調べた例としてβ‐ アミラーゼの活性部位に存在する可動ループの機能解析について紹介する.また,凍結の 影響を排除するために,非凍結状態で構造解析を行った例を紹介し,結晶を用いたタンパ ク質の機能解析の可能性について検討する.本シンポジウムでは以上のような問題点を解 決する技術的な可能性や様々な問題点を乗り越えて解析に成功した事例について討議する. 12 SPring-8 における構造決定への取り組み 馬場清喜 JASRI/SPring-8 タンパク質の立体構造は,生命現象の理解や応用において一般的に参照される基盤情報 となっている.原子分解能で構造を解析する主要な手法は X 線結晶解析であるが,放射光 X 線は今や必須であり,毎年得られる結晶構造の 80%以上で利用されている.こうした現 状の中,SPring-8 では放射光をより適切にタンパク質結晶解析に利用するために,これま で主に二つの方向性で利用技術の開発を進めてきた.ひとつはタンパク質構造の網羅的研 究―構造ゲノム研究に対応した高速なルーチン測定法の開発であり,もうひとつは解析が 難しいタンパク質試料に対応した微小結晶・巨大格子結晶のための高精度データ測定シス テムの構築である. 高速なルーチン測定のため,SPring-8 では理研と共同でサンプルチェンジャーSPACE を 利用した独自のシステムを開発し測定の自動化を進めてきた.これによりビームラインオ ペレータを介して実験を行うメールイン測定システムが可能となり,SPring-8 キャンパス へ出かける必要なく実験可能なばかりか,放射光実験に習熟していない利用者にとっては 簡便に実験が行えるメリットがある.一方,遠隔測定システムは自ら機器操作を行いたい エキスパートに対応するために開発し,昨年度より BL38B1 で共用利用を開始している. BL41XU においても利用を目指し準備を進めている. 挿入光源のビームラインである BL41XU においてはその高輝度な特性を生かし,より測 定が困難ないわゆる高難度結晶の小さな結晶やより長い格子の結晶について,さらに測定 可能な領域を拡大してきた.一方,偏向電磁石を光源とする BL38B1 は,挿入光源のビー ムラインよりも放射線損傷の影響が少ない特性を利用し,効率的かつ異常散乱のシグナル を利用した位相決定のように高精度な回折データの測定を行うための高度化を行っている. ところで,これまで放射光施設で開発されてきた測定システムの多くは,凍結した結晶 を持ち込んで高精度かつ高効率に測定することに主眼が置かれており,凍結前の結晶の質 の確認や改善についてはあまり配慮されてこなかった.しかし,タンパク質結晶は放射線 損傷を受けやすいため,これを軽減するために 100K 以下での結晶の凍結が行われるが, この際に溶媒結晶の析出を防ぐ添加剤(抗凍結剤;クライオプロテクタント)が必要な場 合が多く,最適な試料保持条件や凍結条件を検討する必要がある.しかし,凍結後の結晶 の質を評価し,最適な条件を見つけるのは,クライオプロテクタントによって起こる損傷, 凍結時の溶媒由来の損傷,結晶自体の質の問題などの要素が複合しているため難しい.こ の問題を克服するために,高輝度 X 線を使用した結晶の質の確認,クライオプロテクタン トを低減した凍結を同時に可能とする湿度制御とポリマーコーティングを用いた新たな結 晶マウント法を開発しているので紹介する. 13 結晶構造を基に多剤排出型 ABC トランスポーターのメカニズムを探る 加藤博章 京大院薬,RIKEN/SPring-8 多剤排出型 ABC(ATP Binding Cassette)トランスポーターは,ATP の加水分解を利用して 得たエネルギーを用いて多種多様な化合物を細胞外へと排出する膜タンパク質である.そ の構造は,6 本の膜貫通αヘリックスから成る 1 つの膜貫通ドメインと RecA fold から成る 1 つの ATP 加水分解ドメインで作られる構造単位 2 つで 1 分子が構成されている.多剤排 出型 ABC トランスポーターは,生体防御に重要な役割を担っており,例えばヒトの P 糖タ ンパク質(Pgp; MDR1; ABCB1)は体内薬物動態の要として小腸上皮細胞や血液脳関門など において異物の体内への侵入を防いでいる.また,神経変性疾患とも関わりがあり,アル ツハイマー病に伴い出現するアミロイドβペプチドを脳から除去している.一方で,ガン 細胞における Pgp の発現が,抗がん剤に対する多剤耐性を引き起こす原因として知られて いる. 我々は,Pgp ホモログを単細胞真核生物から見いだし,そのアミノ酸配列がヒトの Pgp と高い類似性を示すことを見いだすとともに,7 つの多剤排出型 ABC トランスポーターを 欠失した酵母に発現させた Pgp ホモログが多剤排出活性を発揮することを実証した.そし て,メタノール資化性酵母 Pichia pastoris を用いて大量発現した Pgp ホモログを高度に精製 して結晶化を達成し,その結晶構造を決定した. 多剤排出型 ABC トランスポーターの極めて広い基質特異性や,疎水性の高い基質を細胞 外へと排出できる仕組みはどのようにして実現しているのか.講演では,薬物トランスポー トと酵素反応を比較しながら,決定した分子構造に基づいて ABC トランスポーターのメカ ニズムを考察する. 14 若年性肝硬変を引き起こすタンパク質の凝集体構造とは? 山﨑正幸 京都大学白眉センター・再生医科学研究所 ギリシャ語において”第1の”を意味する”Protios”.この”タンパク質”の語源は, 先人達がいかにタンパク質は我々の生命活動にとって欠くことのできない存在であるかを 理解していたかを示しています.しかし,ほ乳類で約10万種類は存在するというタンパ ク質.時には正しい構造に成熟できず,凝集し,我々を疾患へと導くのです. その原因は主として遺伝子配列の変化にあります.つまり,アミノ酸からなるタンパク 質の配列,そしてその構造が異常化するのです.一方で,我々のカラダもバカではありま せん.タンパク質の異常化を打ち消すシステムは多様に存在します.しかしながら,タン パク質凝集性疾患は,それらタンパク質の品質管理機構をだますことで起こるのです. 私が近年解明したのは,たった一つのアミノ酸配列の変化が引き起こすタンパク質凝集 メカニズムの一例です.アンチトリプシン欠損症と呼ばれる,欧米で 2000 人に 1 人という 非常に多くの人々がかかえる家族性疾患の治療に,この成果は直接役立つ可能性がありま す.ちなみに本疾患は,細胞内における変異型アンチトリプシンの凝集により若年性肝硬 変を引き起こすと同時に,血中のアンチトリプシン不足により肺気腫を引き起こす危険性 があります.また,単一のアミノ酸変異から疾患が起こるという意味では,世界的に疾患 数が多いパーキンソン病における凝集メカニズムにも類似性が予想されます. 本研究で明らかになった事は, 1 タンパク質は分子間でそのフォールディングを完成し凝集できること. 2 その構造の通常さ故に,細胞は異常の発生を感知できないこと. 2 また,1つのタンパク質は複数のメカニズムで凝集できること. 3 その複数種の凝集体のうちの一つが疾患に関わる可能性が高いこと. 二つの凝集体構造の決定をベースとし,いかにして疾患の本質に迫り,最終的にその予 防・治療のためにどの様なアプローチが考えられるのか?それが今回のお話です. 15 一般講演要旨 A-01 単一のアミノ酸残基によって決定される uridine-cytidine kinase の基質特異性 ○友池史明 1,中川紀子 2, 3 ,増井良治 2, 3,倉光成紀 1, 2, 3 1 阪大・院生命機能,2 阪大・院理・生物科学,3 理研・播磨研 【目的】近年,多くの生物においてゲノム解析がなされ,アミノ酸配列のみから酵素の機 能が推定されることがある.しかし,実際に活性を調べると,実際の機能がアミノ酸配列 から推定されたものとは異なる場合もある.その一例として,uridine-cytidine kinase (UCK) は uridine と cytidine の両方をリン酸化する と思われている (図 1).しかし,高度好熱 菌 Thermus thermophilus HB8 由来の UCK (ttUCK) を解析したところ,uridine に対し ては活性を示さず,cytidine に対してのみ 活性を示した 1).本研究では,cytidine と uridine 両方に活性のある酵素と, cytidine 特 異的な酵素との違いを明らかにした. 【方法と結果】ttUCK の酵素反応速度論的 図 1 uridine (左) と cytidine (右) の構造 解析を行ったところ,cytidine は酵素に結 合するが,uridine は結合しないことが明 らかになった.次に, uridine との親和性 が低い原因を探るために,(a) ttUCK 単独, (b) ttUCK ・ CMP 複 合 体 , そ し て , (c) ttUCK・cytidine・ATP アナログの三者 複合体について,X 線結晶構造解析を行っ _ _ T. thermophilus Human た.これらの立体構造を uridine に対して ttUCK hsUCK 活性を示すヒト由来の UCK (hsUCK) と比 蛋白質 _ Tyr93 His(117) __ 較すると,ttUCK の Tyr59 と Tyr93 が cytidine ○ ○ 基質 hsUCK ではそれぞれ Phe (ヒトでは 83 番 uridine × ○_ _ 目) と His (117) に置換していることが解っ 図 2 ヌクレオシド結合部位の比較 ttUCK (A) と た (図 2).そこで,これら二つの Tyr 残基 hsUCK (B) のヌクレオシド結合部位を比較した。 を hsUCK の対応するアミノ酸残基にそれ ぞれ置換したところ,cytidine の 4 位のアミノ基近傍に位置する Tyr93 一残基を His に置換 するだけで,uridine に対する活性が出現して hsUCK 型の基質特異性になった.この Tyr93 を他のアミノ酸残基に置換したが,uridine に対して十分な活性を示したのは His 置換体の みであった. 次に,uridine と cytidine に対する基質特異性の違いに対して,93 番目のアミノ酸残基が 大きく寄与するという性質は,UCK の一般的な性質であることを確認するために,cytidine と uridine の両方に活性がある hsUCK の His93 (ヒトでは His117) を Tyr に置換したところ, uridine に対する活性のみが著しく低下して ttUCK 型の基質特異性を示した. 【考察】以上の結果より,UCK ファミリー蛋白質の uridine に対する活性は,単一のアミ ノ酸残基のみに依存することが明らかになった.そこで,cytidine と uridine の両方に活性 を持つとアノテーションされている 1000 種類以上の UCK について,ttUCK の Tyr93 に相 当するアミノ酸残基を調べたところ,その約 20% が,His 残基以外のアミノ酸残基であっ た.これらの UCK は従来のアノテーションと異なり,cytidine 特異的な活性を持つと,強 く示唆される. 【文献】1. Tomoike, F. et al. (2011) Biochemistry 50, 4597-4607 16 A-02 [2Fe-2S]クラスターを持つ転写因子 SoxR の スーパーオキサイドとの反応性とその生理的意義 ○藤川麻由,小林一雄,古澤孝弘 阪大産研 【目的】大腸菌には [2Fe-2S] クラスターを持つ SoxR という転写因子が存在し, SOD など の酸化ストレス防御タンパクの発現を制御している.SoxR は通常細胞内で還元型で存在す るが,酸化ストレスがかかると酸化型となり 1),構造が変化することで 2),SoxR に結合し ている DNA がひずんだ形をとり 3),転写活性を持つ.しかし,どのような機構で SoxR が 転写活性を持つ酸化型となるのか,様々な議論がなされてきたがいまだ明らかにされてい ない.一方,Pseudomonas aeruginosa においても SoxR は存在しているが,E.coli における ものと役割が異なり,酸化ストレスに応答せず,抗生物質輸送タンパク質やモノオキシゲ ナーゼの発現に関わると報告されている 4).本研究では O2- が SoxR の応答するシグナルに なりうるのか明らかにするために, E.coli と P. aeruginosa SoxR の O2-に対する反応性にに ついてパルスラジオリシスを用いて検討した. 【方法】SoxR の発現と精製 E. coli および P.aeruginosa SoxR は発現プラスミドを,鉄イオウクラスター合成オペロン を含むプラスミドと共に E. coli C41 (DE3) 中で大量発現を行い,P-セルロースカラムとゲ ルろ過カラムにより精製した. パルスラジオリシス法 KCl (0.5 M),酒石酸ナトリウム (10 mM) , OH ラジカルスカベンジャーとしてギ酸ナトリ ウム 0.1 M を含むリン酸緩衝液 (10 mM pH 7.0) を用いた. 酸素飽和の緩衝液に SoxR (70 μM) を加え,サンプルを調製した.電子線照射は阪大産研 L-band ライナックで行った. 【結果・考察】E.coli SoxR にパルスを照射すると,400 - 600 nm の吸収がナノ秒領域で減少 し,その後ミリ秒領域で再び増加した.この吸収変化は SoxR の酸化型と還元型の差スペ クトルと一致することから,SoxR は水和電子により還元され,その後再酸化することがわ かった.SOD を 11 μM 加えると,還元過程には変化が見られなかったのに対して,再酸化 過程が消失した.これらの結果より,以下の式で示すように,水和電子により還元された 鉄イオウクラスターは,O2-により酸化されていることがわかった. SoxR の鉄イオウクラ スターを直接酸化することで,SoxR が転写活性を持つことが今回初めて確かめられた. [2Fe-2S]+ + O2- + 2H+ [2Fe-2S]2+ + H2O2 また,O2- との反応速度を E.coli SoxR と P.aeruginosa SoxR で比較したところ,E.coli SoxR が 5 ×108 M-1 s-1,P. aeruginosa SoxR が 3.5 ×107 M-1 s-1 と大きく異なる結果となった.こ の反応性の違いは,E.coli と P.aeruginosa における SoxR の役割の違いを大きく反映してい ると考えられる. 【文献】 1. Hidalgo, E.; Ding, H.; Demple, B. Cell 1997, 88, 121. 2. Kobayashi, K.; Mizuno, M.; Fujikawa, M.; Mizutani, Y. Biochemistry 2011, 50, 9468. 3. Watanabe, S.; Kita, A.; Kobayashi, K.; Miki, K. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2008, 105, 4121. 4. Palma, M.; Zurita, J.; Ferreas, J, A.; Worgall, S.; Larone, D, H.; Shi, L.; Campagne, F.; Quadri, L, E, N. Infect. Immune. 2005, 73, 2958 17 A-03 銅含有アミン酸化酵素の高分解能 X 線結晶構造解析 ○村川武志 1,岡島俊英 2,谷澤克行 2,林秀行 3 大阪医大・生化学 1,化学 3,阪大・産研 2 【目的】銅含有アミン酸化酵素は,生物界に広く分布し種々の生理活性アミン類の酸化的 脱アミノ反応を触媒する.本酵素はサブユニット分子量 約 70,000 のホモダイマー構造を もち,各サブユニットは,補欠金属の 2 価銅イオンとペプチド・ビルトイン型キノン補酵 素,トパキノン(TPQ)を含有している.本酵素の触媒過程は,TPQ の酸化還元状態によ り還元的半反応と酸化的半反応の 2 つに大きく分けられる.前半の還元的半反応では,酸 化型 TPQ が基質により還元され還元型 TPQ と第一生成物のアルデヒドが生成し,後半の 酸化的半反応では,還元型 TPQ が分子状酸素により再酸化されアンモニアと過酸化水素が 生じる.我々は以前,土壌細菌 Arthrobacter globiformis 由来の銅含有アミン酸化酵素(AGAO) の結晶構造を分解能 1.8 Å で決定した 1).さらに,本研究では主に抗凍結剤を見直すことに より,分解能 1.08 Å の高分解能構造を決定することに成功した.活性中心の精密な立体構 造情報に基づいて,本酵素触媒機構に関して重要な知見を得ようとした. 【方法】AGAO の発現,精製,結晶化は以前確立した方法により行った.得られた結晶を 35% PEG200 を含むリザーバー液に浸漬したのち SPring-8, BL44XU にて回折データを取得 した.分子置換法のモデルには以前決定した分解能 1. 8 Å の AGAO 構造(1IU7)を用いた.精 密化には Refmac5 および Phenix を用い,精密化の最終段階には水素原子の付加および異方 性温度因子の導入を行った. 【結果・考察】抗凍結剤を以前使用していたグリセロールから PEG200 に変えることによ って,分解能の大幅な向上に成功した.タンパク質分子周辺には多数の低分子量 PEG 分子 が存在し,入り込んだ PEG 分子によりタンパク質分子の揺らぎが抑えられたことが分解能 の向上に寄与したと考えられる(Wilson plot による温度因子は 1.8 Å:18.0 , 1.08 Å:8.2).ま た,多くのアミノ酸残基で double conformer が見られた.活性中心においては,補酵素 TPQ をはじめとするいくつかの残基の水素原子の電子密度が観測されたほか,TPQ のコンホメ ーションをコントロールすると考えられている Asn381 の側鎖の異方性温度因子が TPQ 面 に対して垂直方向に大きくなっていることが明らかとなった.また活性中心付近において 酸素分子と考えられる電子密度が観測された.酸素分子アナログである Xe 複合体との構造 解析 2)の結果と併せると,銅イオンと基質である酸素分子の反応は,周辺残基の induced fit および gating により制御されていると考えられた. 図.酸素分子の活性中心への進入経路. 【文献】1) J. Am. Chem. Soc. (2003) 125, 1041-55, 2) J.Mol.Biol. (2004) 344, 599-607 18 A-04 レゾルシノールヒドロキシラーゼの構造-機能解析 ○山内貴恵 1,小林一隆 1,藤井知実 1,吉田雅博 2,老川典夫 2,畑安雄 1 1 京大・化研,2 関大・化学生命工 【目的】微生物による芳香族化合物の分解反応は,芳香環へ水酸基を付加する初発酸化反 応により開始されることが知られている.スクリーニングにより,γ - レゾルシン酸脱炭酸 酵素活性を強く示す根粒菌 Rhizobium sp. strain MTP-10005 株が発見され,この菌においてγ レゾルシン酸からレゾルシノール代謝へとつながる新規代謝経路の存在が明らかにされた 1,2) .本代謝系においても,レゾルシノールヒドロキシラーゼによるレゾルシノールへの水 酸基の付加が初発酸化反応となっている.本酵素は,フラビン依存性モノオキシゲナーゼ (GraA)と,フラビン還元酵素(GraD)の二成分によりなるマルチコンポーネント型酵素 である.本研究では,本酵素の機能発現機構を解明することを目的に,X 線結晶構造解析 を行った. 【方法】GraA と GraD は大腸菌内で大量発現させて精製し,結晶化を行った.回折実験は 高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設で行い,GraA に関しては分解能 2.6 Å までの回折強度データを得た.分子置換法により初期位相を決定し,Rfactor = 21.1%,Rfree = 25.3%まで構造の精密化を行った.GraD に関しては,GraD-FAD 複合体結晶及び,これを NADH を含む溶液にソーキングすることによって得た GraD-FAD-NADH 複合体結晶につい て,それぞれ分解能 1.8Å までの回折強度データを得た.分子置換法により初期位相を決定 し,GraD-FAD 複合体結晶については Rfactor = 15.7%,Rfree = 19.1%,GraD-FAD-NADH 複合 体結晶については Rfactor = 18.0%,Rfree = 21.2%まで構造の精密化を行った. 【結果】GraA 結晶では,非対称単位中に1つのサブユニットが存在し,結晶中で直交する 三本の結晶学的対象で関係付けられる4つのサブユニットが四量体を形成していることが 確認された.サブユニットは主に逆平行 α - へリックスからなる N 末端ドメイン,二枚の β シートが重なった β - バレルドメイン,長い4本の逆平行 α - へリックスからなる C 末端ド メインの3つのドメインからなり,C 末端ドメイン間相互作用が四量体の形成に関与して いた.これらのドメイン間に,補酵素や基質が結合すると考えられる間隙が存在していた. GraD は FMN-binding split barrel fold をとって結晶内で二量体を形成しており,A 鎖,B 鎖の 両方にそれぞれ 1 分子の FAD が結合していた.GraD-FAD-NADH 複合体結晶では,B 鎖に 結合した FAD 近傍に NADH と考えられる電子密度が確認され,両者が反応するのに適し た配置をしていた. 【考察】GraA では,基質が結合すると考えられる領域の近傍に,ディスオーダーしている 部分が存在していた.この部位が基質結合に伴う酵素の構造変化などのイベントに関与す るのではないかと考え,現在解析を進めているところである.GraD では基質結合ポケット が大きく,補酵素として結合している FAD に加えて,もう一分子の FAD を結合するのに 十分なスペースを有しており,これは GraD の相同酵素で提唱されている ping-pong bi-bi 機 構に矛盾しない.また,本酵素は相同酵素にはない 15 残基ほどの N 末端ドメインを持って いるが,これが FAD を覆い隠すように配置しており,還元型 FAD を溶媒から遮蔽する役 割を持っているのではないかと考えられる. 【文献】 1. Yoshida, M., Fukuhara, N., and Oikawa, T. (2004) J.Bacteriol. 186, 6855–6863 2. Yoshida, M., Oikawa, T., Obata, H., Abe, K., Mihara, H., and Esaki, N. (2007) J.Bacteriol. 189, 1573–1581 19 A-05 ER-60のb-b’ドメインとアミロイドβペプチドの複合体の結晶構造解析 ○裏出 令子 1,伊中 浩治 2,古林 直樹 2,裏出 良博 3,魚留 信子 3,鶴村 俊治 3, 和田濱 裕之 1 1 京大・院農・農,2 丸和栄養食品,3 大阪バイオ研・分子行動 【目的】アルツハイマー病は, 脳内に生じたアミロイドβペプチド(Aβ)により神経細胞 死が惹起され,線維化したAβが沈着する痴呆症である.我々は,脳神経細胞に高発現して いる小胞体分子シャペロンER-60がAβと結合することによりAβの線維化を阻害すること, またAβの細胞毒性に対して耐性を付与していることを明らかにした.ER-60は4個のドメイ ンa, b,b’,a’がタンデムに配置した構造を有するが,このうちb-b’がAβの結合領域であ る.本研究では, Aβとの結合様式からER-60の作用機構を解明するために, b-b’断片と, ER-60にAβ1-40やAβ1-42と同等の親和性で結合する最小ペプチドであるAβ1-28の複合体の結晶 構造解析を行った. 【方法】大腸菌発現系を用いて,GSTとの融合タンパク質としたER-60のb-b’断片を大量発 現させた.融合タンパク質をグルタチオンアフィニティーカラムに吸着させた後,プロテ アーゼ処理によりb-b’断片を切り出し,カラムから溶出させ,さらにゲル濾過クロマトグ ラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーにより純化した.結晶化条件は,先に報告 されたb-b’単独の結晶化条件1)をベースに検討し,さらに分解能を高めることを目的に,国 際宇宙ステーションに設置されている日本の実験棟「きぼう」内に於いて,微小重力環境 下で液液拡散法を用い, b-b’およびb-b’とAβ1-28の複合体の結晶化を行った.得られた結晶 の回折実験は, SPring8のBL41XUにおいて実施し,数値化にはHKL2000を,構造解析とそ の精密化はccp4iを用いて行った. 【結果】今回宇宙実験で得られた結晶はb-b’およびb-b’とAβ1-28の複合体ともに単斜晶系P21 に属し,非対称単位中に独立な3個の分子が存在していることが明らかになった. b-b’単独 結晶の最高分解能は1.8Åであった.これまでに報告されているb-b’単独の構造の最高分解 能は2.0Å(PDB_ID:2H8L)であり,宇宙実験により結晶の質を改善することに成功した.そ の精密化モデルから, bとb’の間に全長で20Åに及ぶ長いトンネルが存在し,トンネルの 内部には,水分子による水素結合ネットワークが形成されていることを初めて明らかにし た.一方, b-b’とAβ1-28の複合体からは1.38Åの分解能の結晶が得られ, 1.41Åの分解 能で, Rwork = 0.19, Rfree = 0.23を示す精密化モデルを得ることに成功した.複合体にの み,トンネルの入り口近傍に,水和している水分子とは異なる連続した電子密度が存在す ることが明らかとなった. 【考察】この電子密度には, Aβ1-28 として明瞭なモデルを構築するほどの連続性は確認で きなかったが,電子密度は複合体でのみ観察され b-b’断片単独の場合には存在しなかった こと,また,複合体の他の分子領域にはペプチドに該当する電子密度は観察されなかった ことから, Aβ1-28 の一部がこのトンネル構造の中に入り込んでトラップされていることが 強く示唆された.高分解能であるにもかかわらず Aβ1-28 由来と推定される電子密度が不明 瞭で,特定の構造として認識できなかったことから,b-b’に結合した Aβ1-28 特定の立体構造 を保有せずフレキシブルであると考えられる. 【文献】 1. Kozlov, G., OtsuMaattanen, P., Schrag, J.D., Pollock, S., Cygler, M., Nagar, B., Thomas, D.Y., Gehring, K. (2006) Structure 14, 1331–1339 20 A-06 高分解能 X 線結晶構造解析による甘味タンパク質ソーマチンの甘味発現機構の解明 ○佐野文音 1,桝田哲哉 1,三上文三 2,谷史人 1 1 京大・院農・食品生物,2 京大・院農・応用生命 【目的】ソーマチンはモル比でショ糖の約 10 万倍の甘味を呈する甘味タンパク質である. 本研究室では,これまでソーマチン部位特異的変異体に対する甘味評価の結果から,クレ フト面に存在する複数の塩基性アミノ酸残基の正電荷がソーマチンの甘味発現に寄与して いることを明らかにしてきた 1,2).しかしながら,ソーマチンの甘味発現に必須である構造 的特性については明らかにされていない.そこで本研究では,甘味の低下が見られたソー マチン変異体のうち R82Q,R82E (表 1)に対して X 線結晶構造解析を行うことで,ソーマ チンの甘味発現に必須な構造的特性について検討することを目的とした. 【方法】ソーマチン変異体 R82Q,R82E は Pichia pastoris を用いて作製し 3,4),陽イオン交 換クロマトグラフィー,ゲルろ過クロマトグラフィーによって精製した.精製したソーマ チン変異体溶液を濃縮し,ロッシェル塩を用いた蒸気拡散法により結晶化を行った.得ら れた結晶を用いて,大型放射光施設 SPring-8 にて BL26B1 の IP ディテクターを用い回折デー タを収集した.Plant ソーマチン I や recombinant ソーマチン I の構造を用いて分子置換を行 い,両変異体の初期モデルを構築した.Coot によってモデル修正を,SHELXL によって分 解能 1.0Åまでのデータを用いて精密化を行い,分子構造を決定した.その後,CCP4i を用 いて R82Q においては plant ソーマチン I の構造 (PDB:2VU6,0.95Å)と,R82E において は recombinant ソーマチン I の構造 (PDB:3AL7,1.1Å)5)と,構造比較を行った. 【結果】得られた結晶の空間群は R82Q,R82E ともに P212121 であった.収集した回折デー タと精密化に関する数値は表 2 に示すとおりであった.構造比較の結果,R82Q,R82E と もに主鎖骨格において明確な構造変化は見られなかったが,アミノ酸置換部位において, 置換後の側鎖の方向が置換前とはほぼ反対になっていることが観察された. 甘味閾値(nM) Thaumatin 45±9 plant 45±12 recombinant 1010±135* R82Q 8800±1600* R82E * p > 0.01 (n = 4-6) 表 1. ソーマチン・ソーマチン 変異体の甘味閾値 R82Q a = 52.101, b = 52.137, Cell dimension (Å,°) c = 70.880, α=β=γ= 90 Rmerge 0.045 Data collection Completeness (%) <I>/<σ(I)> Refinement Isotropic: Rwork/Rfree Anisotropic: Rwork/Rfree Anisotropic: Rwork/Rfree (H-atoms) Rcryst r.m.s.d bond (Å) r.m.s.d angle (Å) R82E a = 43.689, b = 62.386, c = 70.610, α=β=γ= 90 0.046 97.3 64.69 99.4 62.87 18.45/21.53 13.00/16.15 18.51/21.22 12.62/15.22 11.64/14.34 10.98/13.58 11.66 11.04 0.016 0.030 0.016 0.030 表 2. 回折データ収集と精密化 【文献】 1. Ohta, K., Masuda, T., Ide, N., Kitabatake, N. (2008) FEBS J., 275, 3644–3652. 2. Ohta, K., Masuda, T., Tani, F., Kitabatake, N. (2011) BBRC., 413, 41-45. 3. Ide, N., Masuda, T., Kitabatake, N. (2007) BBRC., 363, 708-714. 4. Masuda, T., Ide, N., Ohta, K., Kitabatake, N. (2011) Food Sci. Technol. Res., 16, 585-592. 5. Masuda, T., Ohta, K., Mikami, B., Kitabatake, N. (2011) Acta Crystllog. F67, 652-658 . 21 A-07 擬単結晶化法による蛋白質の単結晶構造解析の検討 木村史子 ,水谷公彦 2,樋口慎悟 1,津久井秀 1,三上文三 2,○木村恒久 1 1 京大・院農・森林,2 京大・院農・応生 1 【目的】タンパク質の単結晶構造解析を行うためには,一辺が数十μm 程度の結晶が必要と なるが,結晶作製がボトルネックとなっている.我々は構造解析に用いるには十分でない 大きさの微結晶を用いて単結晶構造解析を行うことを試みている.本報告ではリゾチーム を用いて本方法の検証を行ったので報告する. 【方法】擬単結晶試料(MOMA: Magnetically Oriented Microcrysta Array):卵白リゾチーム を再結晶し斜方晶の結晶を得た.その結晶を乳鉢ですり潰して微結晶化し UV 硬化樹脂に 懸濁して試料懸濁液とした.8 T の磁場下にて試料を変調回転させて微結晶を三次元配向さ せた後,UV 光を当て配向を固定し試料を作製した.X 線回折測定には MAC Science 社製 Dip 2000 回折装置を用いた.Graphite で単色化した Cu-Kα及び 0.9mmφのコリメータを用 いて,回折実験を行った.1° 毎の ω スキャンで 200 枚の振動写真を得た. MOLREP, phenix.refinement で処理し,最高分解能 3.0 Å でモデリングと精密化を行った.初期構造と して PDB コード 1VDQ を用いた. 懸濁系試料(MOMS: Magnetically Oriented Microcrystal Suspension) :上の方 法と同様にして,得られた卵白リゾチー χ1 ム懸濁液をキャピラリーに入れ試料とし χ3 χ2 χ2 た. 永久磁石(1.2 T)を備えた回転装 χ1 χ1 置に試料をセットし,その装置を X 線 回 折装置に設置し,試料を 22 rpm で等速 Fig. 1.リゾチーム擬単結晶の X 線回折振動像.それ ぞれ磁化軸を立てω を 0~60°回転させた. 回転させながら in-situ 回折像を得た. 【結果】Fig. 1 に,固化して得られた試 料の磁化軸を立て試料を 60°オシレーションし て得られた X線回折像を示した.この図より, 得られた試料中のリゾチーム微結晶は 3 次元 的に配向していることが分かった (擬単結晶). 擬結晶は斜方晶(P212121),単位格子長は a= 51.26,b= 59.79,c= 29.95 Å であった.これら は元の結晶の値と一致した.精密化の結果,R Fig. 2. リゾチーム擬単結晶から決定した構造. 値は,21.5%,R free 値は 27.0%となった.Fig. 2 には構 造決定の結果を示す.分解能は 3.0 Å であった. Fig. 3 に,リゾチーム懸濁液の in-situ 回折像と,8 T(超 伝導磁石)の磁場下で等速回転し,UV 照射して試料を 固化させた試料の回折像を示した.リゾチーム懸濁液の in-situ 回折像は,回折面の強度は弱いが,8 T の磁場下で 固化した試料と同程度の半価幅を示した. Fig. 3. 左:1.2 T 下で 22 rpm で 【考察】擬単結晶化法による蛋白質の単結晶構造解析を リゾチーム懸濁液を回転させて 検討した.固化試料(MOMA)からは分解能 3.0 Å で構造 得られた in-situ 回折像,右:8 T 解析が可能であった 1).懸濁法(MOMS)においても解析ス で 22 rpm で懸濁液を回転させ ポットが得られたので,微結晶懸濁を用いた単結晶構造 固化させた試料の回折像. 解析に発展させたいと考えている.大きな(~mm)な擬 単結晶が作製できるので,中性子回折にも展開できると考えている. 1. 【文献】Kimura, F., Mizutani, K., Mikami, B., Kimura, T. (2011) Cryst. Growth Des. 11, 12–15. 22 A-08 酵母におけるプロリン合成の鍵酵素 γ-グルタミルキナーゼの機能解析 ○立橋祐樹 1,田坂侑美 1,戒能智宏 2,高木博史 1 1 奈良先端大・バイオ,2 島根大・生物資源 【目的】酵母Saccharomyces cerevisiae のプロリン(Pro)合成は,γ-グルタミルキナーゼ(GK) の活性が最終産物のPro によってフィードバック阻害を受けることで制御されている.大腸 菌や酵母など多くの微生物のGK は,N 末端側のキナーゼドメインとC 末端側のpseudouridine synthase andarchaeosine transglycosylase(PUA)ドメインから構成されている1) 2).一方, Campylobacter jejuni やStreptococcus thermophilus など一部の微生物GKでは,PUA ドメイン が存在しなくてもGK 活性を示す.PUA ドメインはRNA 結合モチーフの一つであり,多く の生物に広く保存されたドメインである.そのほとんどはpseudo1uridine synthase や tRNA-guanine transglycosylase などのRNA修飾酵素やリボソーム合成タンパク質に存在して いるが,GK におけるPUA ドメインの機能には不明な点が多い3).本研究では,酵母GK に おけるPUA ドメインや両ドメイン間のリンカー領域(67 残基)を含むC 末端領域の機能解 析を行った4). 【方法】PUA ドメインやリンカー領域が GK 活性に与える影響を調べるため,野生型 GK および PUA ドメインとリンカー領域を含む C 末端領域を削除した種々の GK の遺伝子を構 築し,大腸菌と酵母の発現用ベクターにクローニングした.各プラスミドを大腸菌と酵母 の GK 遺伝子破壊株(大腸菌:KC1325ΔproB,酵母:BY4741Δpro1Δcar2)にそれぞれ導入 し,得られた形質転換体について Pro 要求性の相補実験を行った.また,野生型および C 末端領域を削除した GK を組換えタンパク質として精製し,GK 活性の測定を行った. 【結果】Pro 要求性の大腸菌に各プラスミドを導入したところ,野生型 GK および PUA ド メインのみを削除し,リンカー領域を完全に残した GK(kd+67)では,Pro を含まない最 少培地で生育が見られ,Pro 要求性を回復した.しかし,kd+67 では野生型 GK より生育が 遅延し,酵素活性も野生型 GK の約 1%に低下していた.一方,キナーゼドメインと PUA ドメインを繋ぐリンカー領域を削除した GK(kd+PUA)では Pro 要求性を回復しなかった. また,C 末端を削除した GK を発現させたところ,すべての組換えタンパク質が可溶性画 分に検出されたが,機能相補しなかったタンパク質では存在量が減少していた.次に,PUA ドメインを完全に残してリンカー領域の長さを種々に変えた GK を作製し,Pro 要求性の酵 母を用いて同様の実験を行った.その結果,PUA ドメインを残してもリンカー領域が一部 でも欠けると,Pro を含まない最少培地で生育できず,GK の機能を相補しなかった. 【考察】以上の結果から,両ドメイン間のリンカー領域が GK 活性に必須であることが判 明した.また,PUA ドメインは GK 活性の発現に必須ではないが,高い活性の維持に重要 な役割を担っていることが示唆された. 【文献】 1. Aravind, L., Koonin, E.V. (1999) J. Mol. Evol. 48, 291-302 2. Marco-Marín, C., Gil-Ortiz, F., Pérez-Arellano, I., Cervera, J., Fita, I., Rubio, V. (2007) J. Mol. Biol. 367, 1431-1446. 3. Pérez-Arellano, I., Gallego, J., Cervera, J. (2007) FEBS. J. 274, 4972-4984. 4. Kaino, T., Tasaka, Y., Tatehashi, Y., Takagi, H. (2012) Biosci. Biotech. Biochem. 76, 454-461. 23 A-09 ラミナリン結合におけるエンド-1,3-β-グルカナーゼの糖結合モジュール内各部位の役割 ○玉城智成 1,田邊陽一 1,伊倉貞吉 2,伊藤暢聡 2,織田昌幸 1 1 京都府立大学・院生命環境科学,2 東京医科歯科大学・難治疾患研究所 【目的】Cellulosimicrobium cellulans DK-1 由来エンド-1,3-β-グルカナーゼは,N 末端に触媒 ドメイン,C 末端に family 13 に属する CBM(CBM-DK),及び 2 つのドメインを繋ぐ Gly/Ser リンカー領域から構成される.本研究対象である CBM-DK が属する CBM family 13 は,そ の三次構造が疑似 3 回軸対称のβ-trefoil 構造をとり,1 分子中に 3 つの糖結合部位を持つ. これら複数の結合部位が関与する多価結合性により,リガンドに対して高い結合親和性 (Ka) を示すと考えられている.本研究では,CBM-DK におけるβ-1,3-グルカンとの結合特性,単 価結合と多価結合の定量的相関の解明を目指した. 【方法】CBM-DK とその変異体は,大腸菌発現系において不溶性画分として得られる為, 尿素を用いて可溶化,透析により尿素を除く方法でリフォールディングを行った.N 末端 に付加した His-tag を用いて Ni-NTA agarose により可溶性 CBM-DK の精製を行った.精製 CBM-DK の円二色性分散(CD)スペクトルを解析し,その二次構造を確認した.CBM-DK と,β-1,3-グルカンであるラミナリン(6 k,β-1,3:1,6=7:1)及びラミナリオリゴ糖との分子 間相互作用解析は,表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーと等温滴定型熱量計(ITC) を用いて行った.また各リピートの多価結合への寄与を調べる為,ラミナリン結合への関 与が考えられる Asp270,Asp311,Asp355(それぞれα-,β-,γ-repeat に存在)を単独,もし くは同時に Ala に,また Trp273(α-repeat)を Ser に変異させ,各変異体のβ-1,3-グルカン結 合能を評価した.加えて動的光散乱(DLS)測定により,CBM-DK とラミナリンの多価結 合により生じる複合体解析を行った. 【結果】CD 測定より,リフォールディングにより精製した CBM-DK はβ-strand rich な native 様構造であることが示唆された.SPR 及び ITC 測定において,CBM-DK 野生型はラミナリ ンに対してラミナリオリゴ糖よりも約 102 倍高い Ka 値を示した.さらに ITC 測定結果より, ラミナリン結合はエンタルピー駆動であること,結合比はラミナリオリゴ糖ではほぼ 1, ラミナリンでは 0.12 を示した.各残基置換の影響について,D311A,D355A,及び D311A/D355A の各変異体は,野生型と同程度のラミナリン結合力を示したが,D270A 変異 体では検出限界以下に,また W273S 変異体においては,約 10 倍低下した. 一方,DLS 測 定において,CBM-DK 野生型がラミナリン結合により高分子複合体を形成したのに対し, D311A/D355A 変異体では同様の複合体形成はみられなかった. 【考察】SPR,ITC を用いた相互作用解析から,CBM-DK は分子量の大きなラミナリンに 対して複数の結合部位が関与することで,多価結合(avidity)の寄与により,ラミナリオ リゴ糖と比較してより高い結合能を示したと考えられる.また変異体による結合能評価か ら,CBM-DK のα-リピートが最もβ-1,3-グルカン結合に重要であることが示唆された. CBM-DK のラミナリン結合には,各リピートの Asp 残基による水素結合,加えてα-リピー トでは Trp 残基の側鎖によるスタッキング相互作用が関与すると考えられる.α-リピート の Trp273 が,β-,γ-リピートではそれぞれ Asp と Gly であり,これらアミノ酸の違いが各 リピート間のラミナリン結合における役割の差に寄与すると考えられる.さらに興味深い ことに,DLS 測定結果は,Asp311 や Asp355 も高分子複合体形成に必要であることを示し た.すなわちα-リピートが主にラミナリン結合に関与するものの,β-,γ-リピートも二次的 に関与し,複数のラミナリンが複数の CBM-DK とクロスリンク反応することで,高分子複 合体を形成すると解釈できる. 【文献】Tamashiro, T., Tanabe, Y., Ikura, T., Ito, N., and Oda, M. (2012) Glycoconj. J. 29, 77-85. 24 A-10 ヒト由来リポカリン型プロスタグランジン D 合成酵素の 脂溶性低分子に対する相互作用解析 1 ○久米 慧嗣 ,李 映昊 2,宮本 優也 1,深田 はるみ 1,後藤 祐児 2,乾 隆 1 1 大府大・院生環・応生,2 阪大・蛋白研 【目的】リポカリン型プロスタグランジン D 合成酵素(L-PGDS)は哺乳類の中枢神経系 で高発現し,睡眠誘発物質である PGD2 を生合成する酵素である.また,生体内輸送タン パク質群であるリポカリンファミリーに属する.本研究では,L-PGDS の輸送タンパク質 としての機能に焦点を当て,ヒト由来 L-PGDS と脂溶性低分子との結合親和性を内因性 Trp 残基の蛍光消失効果,および等温滴定型熱測定法(ITC)により調べた. 【方法】L-PGDS の内因性 Trp 残基の蛍光消失効果(励起波長: 290 nm,蛍光波長: 334 nm, 25 °C,pH 8.0)を利用し,血中ヘム代謝産物であるビリベルジン,ビタミンA誘導体であ るレチノイン酸,黄体ホルモンであるプロゲステロン,甲状腺ホルモンである L-サイロニ ン,および植物フラボノイドであるゲニステインに対する結合親和性を測定した.さらに, ITC を用いて L-PGDS に対するビリベルジン結合の熱力学パラメータ(ギブスエネルギー 変化; ΔG°,エンタルピー変化; ΔH°,エントロピー変化; -TΔS°)を決定した(25 °C,pH 8.0). 【結果】すべての脂溶性低分子においてリガンド濃度依存的な Trp 残基由来の蛍光消失が 観測され,L-PGDS がこれらの脂溶性低分子と結合することが分かった.特に,ビリベル ジンに対する L-PGDS の解離定数(Kd)は 19.1 nM であり,他の脂溶性低分子(Kd = 145 nM ~ 11.3 μM)に比べて高い親和性を有することが判明した.次に,L-PGDS とビリベルジン との高親和結合様式を明らかにするために,ITC を用いて両者間の相互作用を調べた.ビ リベルジン溶液に対して L-PGDS を逆滴定したところ,両者の結合に伴って発熱,及び吸 熱反応が観察された(図1a).本測定結果を2結合部位モデルにより解析したところ(図 1b),L-PGDS は,2分子のビリベルジンをそれぞれ高親和(Kd = 6.6 nM),および低親 和(Kd = 1.2 μM)に結合することが判明した. また,高親和結合部位における ΔG°,ΔH°,および -TΔS°は,それぞれ-46.7 kJ mol-1,-13.1 kJ mol-1,およ び-33.6 kJ mol-1 であった.一方,低親和結合部位にお ける ΔG°,ΔH°,および-TΔS°は,それぞれ-33.9 kJ mol-1, -24.9 kJ mol-1,および-9.0 kJ mol-1 であった. 【考察】以上の結果から,L-PGDS は脂溶性低分子に 対して幅広いリガンド選択性を有することが分かっ た.さらに,L-PGDS のビリベルジンに対する非常に 高い結合親和性は,脱水和に起因すると考えられる エントロピー利得と有利なエンタルピー変化が共に 寄与していることが明らかとなった. 図1. ITC を用いた L-PGDS と ビリベルジンの相互作用解析 25 A-11 界面活性剤による可溶化が膜タンパク質酵素の活性に及ぼす影響 -セルロース合成活性を例に- 下農健治 1,杉山淳司 1,○今井友也 1 1 京都大・生存研・バイオマス形態情報 【目的】膜タンパク質の機能や構造に,脂質分子が寄与している場合がしばしば見られる. 一方で,膜タンパク質を取り扱うために,細胞膜から界面活性剤で可溶化することが一般 的である.そこで,膜タンパク質酵素であるセルロース合成酵素を使って,界面活性剤に よる可溶化が膜タンパク質の活性に及ぼす影響を,速度論的解析を行うことで調査した. 【方法】酢酸菌 Gluconacetobacter xylinus ATCC53524 を,0.1% cellulase 含有 Schramm-Hestrin 培地 1)で,28℃にて培養した.培養後,遠心で集菌し,一度バッファーで洗浄したのち, フレンチプレスによる細胞破砕を行い,遠心分画により細胞膜画分を単離した.細胞膜画 分に界面活性剤を加えて膜タンパク質の可溶化を行い,超遠心で不溶残渣を取り除いて粗 酵素画分を得た.粗酵素画分に,基質である UDP-D-glucose を加えて合成反応を行った. UDP- D- [U-14C]glucose 存在下で合成反応を行わせ,エタノール不溶物に取り込まれた 14C の量をセルロース合成量として,液体シンチレーションカウンターにて測定した.以上の 実験から求めた比活性を Hill 式にフィッティングさせ,酵素反応速度論的解析を行った. 【結果】細胞膜からセルロース合成活性を可溶化する条件の検討を行った結果,試した限 りで 2% n-デシル-β-マルトシド(DM)を使った場合で最も高い合成活性が粗酵素に得ら れた.そこで,2% DM による可溶化で得た粗酵素画分を使い,基質である UDP-glucose に ついて酵素反応速度論による解析を行った.その結果,シグモイド型の曲線が得られ,Hill 係数は 1.5 となった. 本試験管内合成活性はセロビオース濃度依存性を持つので,これを利用してセロビオー ス濃度で反応速度を変えて同様の解析を行ったが, いずれの場合でもシグモイド型となり, Hill 係数は 1.3-1.5 程度となった.一方で,可溶化前の細胞膜を用いた場合,Hill 係数は 0.7-0.9 程度となり,Michaelis-Menten 式で十分説明できる場合もあった.したがって,界面活性剤 で可溶化した場合に限り,UDP-glucose の酵素への結合に小さいが確かに正の協同性がある と判断した.なお Km については,可溶化前後で大幅な変化は認められなかった. 【考察】可溶化前と可溶化後のセルロース合成活性に,協同性という点で違いが生じたこ とは,細胞膜に埋まっている状態と細胞膜から抜き出された状態で,セルロース合成反応 機構に根本的な違いが生じたことを示唆している.酵素活性の協同性は,多量体として働 く酵素複合体において,プロトマー間に相互作用が存在し,お互いの基質結合を制御する 場合に見られる現象だと説明される.セルロース合成酵素も多量体として存在すると考え られており 2, 3),プロトマー間の相互作用は,脂質・界面活性剤の混合ミセル内(可溶化 後)では現れるが,脂質二重層(可溶化前)では現れないと考えられる.ただし,本研究 では粗酵素を使っているので,解釈には注意を要する.一方で,界面活性剤による細胞膜 の可溶化は,セルロース合成酵素周囲からの脂質の解離や,細胞膜という物理的環境の消 失をもたらすのは必至であり,これらはプロトマー間の相互作用に影響する因子として妥 当なものであると推測される. 【文献】 1. Schramm M., Hestrin S. (1954) J. Gen. Microbiol. 11, 123-129 2. Somerville C. (2006) Ann. Rev. Cell Dev. Biol. 22, 53-78 3. Endler A., Sánchez-Rodríguez C., Persson S. (2010) Nat. Chem. Biol. 6, 883-884. 26 A-12 マトリプターゼ LDL 受容体クラス A ドメインの意義解明 ○友石満里絵, 都築巧, 安元誠, 伏木亨, 兒島憲二, 井上國世 京大・院農・食品生物科学 【目的】マトリプターゼは高等動物の上皮細胞に発現するⅡ型の膜結合性セリンプロテアー ゼである. 本酵素の前駆体(プロマトリプターゼ)はプロテアーゼ活性を有しており,この 活性を用いて, 自己触媒的かつ選択的な Arg614-Val615 (ペプチド結合 A) の加水分解とそれ に伴う活性型酵素への変換がおこると考えられている (図1)1). マトリプターゼは触媒ドメ インとその N 末端側に位置する低密度リポ蛋白質受容体クラス A(LDLRA)ドメインなど を含むステムドメインとから構成されている (図1)2) . 本研究の目的は,マトリプターゼ前 駆体の活性発現に対する LDLRA ドメインの効果を明らかにすることである. 【方法】ペプチド結合 A を自己触媒的な加水分解を受けないように改変した偽前駆体マト リプターゼ2種 (LDLRAドメインと触媒ドメインとからなる LDLRA-CDと触媒ドメインの みからなる CD)(図1)をハムスター卵巣由来 CHO-K1 細胞を用いて生産した. これらは S-protein アガロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した. LDLRACD と CD の合成基質 Ac-KTKQLR-MCA 分解活性を測定した. また, LDLRA ドメインと触媒 ドメインとからなる分泌型の前駆体マトリプターゼ LDLRA+と触媒ドメインのみからなる 前駆体マトリプターゼ LDLRA-をアフリカミドリザル腎臓由来 COS-1 細胞で発現させ, 両 者の活性化の程度について抗マトリプターゼ抗体を用いたウェスタンブロッティング法で 検討した. Matriptase zymogen Two-chain matriptase (fully active) LDLRA-CD CD 図1マトリプターゼと偽前駆体マトリプターゼのドメイン構造 【結果】Ac-KTKQLR-MCA に対する加水分解活性は,LDLRA-CD の方が CD よりも顕著に 高かった. LDLRA+と LDLRA-とも自己触媒的にペプチド結合 A を加水分解し, 活性型 マトリプターゼへ変換する活性を持つこと, 活性化の程度は LDLRA-に比べて LDLRA+ で顕著に高いことが示された. 【考察】これらの結果から, LDLRA ドメインはマトリプターゼ前駆体の活性を高める効果 があることが示された. 【文献】 1. K. Inouye et al., (2010) J. Biochem. 147, 485-492. 2. K. Inouye et al., (2010) J. Biol. Chem. 285, 33394-33403. 27 A-13 組換え AMV 逆転写酵素・サブユニットの調製と耐熱化 ○小西 篤,保川 清,井上國世 京大・院農・食生科 【目的】トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV RT)とモロニーマウス白血病ウイル ス逆転写酵素(MMLV RT)は cDNA 合成酵素として分子生物学的研究や臨床診断で広く 用いられている.AMV RT は分子量 63,000 のαサブユニットと 95,000 のβサブユニットから 成るヘテロダイマーで,MMLV RT は 75,000 のモノマーである.RNA は高温では二次構造 をとらないため,逆転写反応は高温で行うことが望まれるが,RT の熱失活が問題となる.我 々は大腸菌を宿主として組換え MMLV RT を調製し,鋳型プライマー(T/P)との結合領域 に正電荷を導入する変異 E286→R/E302→K/L435→R と RNase H 活性を消失させる変異 D524→A を合わせて導入することにより耐熱性を上げた 1).本研究では,昆虫細胞を宿主 とした組換え AMV RT・αサブユニット(α)の調製と耐熱化を試みた. 【方法】①αの調製:C 末端に(His)6 をもつ・の遺伝子が挿入された Baculovirus transfer プ ラスミドと Baculovirus DNA を昆虫細胞 Sf9 に導入した.この細胞から硫安分画,陰イオン 交換クロマトグラフィー,Ni2+ アフィニティークロマトグラフィーによりαを精製した.② αの耐熱化:AMV RT と MMLV RT のアミノ酸配列は 23%の相同性をもつ.MMLV RT の アミノ酸残基 E286,E302,L435,D524 は,AMV RT の V238,K254,L388,D450 に相当 する.そこで,変異 V238→L/L388→R/D450→A をαに導入した.③poly(rA)-p(dT)15(T/P) への dTTP の取込み:αを 42-50ºC で 0-30 分間熱処理した.その後,25 ⎧M T/P(濃度は p(dT)15 のモル換算),0.2 mM [3H]dTTP 存在下,37ºC で反応を行い,経時的に反応液を採取し, 酸不溶性画分への放射能の取込みから初速度を求めた.④cDNA 合成:モデル RNA(1,014 塩基)存在下,44-66ºC で cDNA 合成反応を行った後,PCR を行った.PCR の反応物をア ガロース電気泳動にかけ増幅産物を解析した. 【結果】①αの調製:100 mLの培養液から20 μgのαを精製した2).②T/PへのdTTPの取込み 活性を指標としたαの耐熱性:T50(10分間の熱処理により逆転写活性を50%に低下させる 温度)は,野生型(WT)では44ºC,V238L/L388R/D450A(AM4)では50ºCであった.③ cDNA合成活性を指標としたαの耐熱性:PCRで増幅産物が得られたcDNA合成の反応温度 の上限は,WTでは60ºC,AM4では64ºCであった. 【考察】AM4 は WT よりも高い熱安定性を有した.このことから,部位特異的変異により T/P との結合領域に正電荷を導入して熱安定性を向上させる方法は,MMLV RT に対してだ けではなく AMV RT に対しても有効であると考えられた 3). 【文献】 1. Yasukawa, K., Mizuno, M., Konishi, A., Inouye, K. (2010) J. Biotechnol. 150, 299-306 2. Konishi, A., Nemoto, D., Yasukawa, K., Inouye, K. (2011) Biosci. Biotechnol. Biochem. 75, 1618-1620 75, 1618-1620 3. Konishi, A., Yasukawa, K., Inouye, K. (2012) Biotechnol. Lett. in press 28 A-14 Streptococcus mutans F 型 H+-ATPase の大腸菌における発現 ○佐々木由香 1,前田正知 2,岩本 (木原) 昌子 1 1 長浜バイオ大・バイオサイエンス,2 岩手医科大・薬 【目的】F 型 H+-ATPase ファミリーに属する ATP 合成酵素は,呼吸鎖により形成された ΔμH+を利用し,H+を細胞内に輸送するのに共役して ATP を合成している.一方,口腔内 の酸性環境で生存する Streptococcus mutans は,細胞内部の pH を中性付近に維持するため に細胞膜の F 型 H+-ATPase で H+を細胞外に排出すると示唆されることから,ATP 合成反応 を抑制する調節機構が存在すると考えた.本研究では,その調節機構を調べる手始めとし て,大腸菌細胞において S. mutans H+-ATPase を発現させることを検討した. 【方法】染色体 DNA より S. mutans H+-ATPase 遺伝子 (6.4 kb) をクローン化し,trc プロモー ターの下流に結合したプラスミドを構築した.H+輸送路を形成する a サブユニットおよび 触媒部位を持つβサブユニットの遺伝子には,それぞれ myc タグの配列を導入した.ATP 合成酵素を欠失した大腸菌 DK8 株にこれを導入して対数期まで培養した後,10 mM IPTG を加えて 5 時間インキュベーションした.反転膜小胞はフレンチプレスにより調製し,膜 表在性の触媒部分である F1 を除去する場合は,EDTA を含む緩衝液で膜を洗った.反転膜 小胞からドデシルマルトシド (DDM) で可溶化した膜タンパク質は Blue Native-PAGEで分離 し,ウェスタンブロット解析および In-gel ATPase assay を行った.また,ATPase 活性の pH 安定性は,膜画分を pH4.0~9.0 にて 0~4 時間処理した後,ATPase 活性を pH 8.0 で測定し て調べた.反転膜小胞の H+輸送は,小胞内への H+の蓄積と共に緩衝液に加えてあるアク リジンオレンジの蛍光が低下することを利用して調べた. 【結果】S. mutans の H+-ATPase 遺伝子の発現を誘導した大腸菌細胞の膜画分には抗 myc 抗 体陽性のタンパク質が増加しており,それらは,分子量からβサブユニットおよび a サブ ユニットと考えた.DDM で可溶化された約 300 kDa と約 600 kDa のタンパク質複合体に ATPase 活性が存在しており,myc タグ入りのβサブユニットは両方の複合体に含まれてい た.膜画分の ATPase 活性を pH を変えて測定すると,pH 7.0 で最大となり pH 5.5 ではその 40 %程度だったが,pH 9.0 では 23 %まで低下していた.pH 依存性は S. mutans 細胞の膜で 報告されているものとほぼ一致していた (1).ATPase 活性の pH 安定性を大腸菌の ATP 合 成酵素と比較したところ,pH 7.0 でどちらも最も安定だった.pH 5.0 でインキュベーショ ンした場合には大腸菌酵素の活性が 7 %まで低下したのに対して,S. mutans 酵素では 55 % が保たれていた.対照的に,pH 9.0 のインキュベーションで大腸菌酵素が 88 %の活性を保 っているとき,S. mutans 酵素は 63 %まで低下した.S. mutans の H+-ATPase を発現した株の 反転膜小胞に ATP を添加したところ,H+の能動輸送は全く見られなかった.膜表在性の F1 部位を除いた膜に呼吸鎖の基質を加えたところ,FO 部位から H+が受動輸送されることが示 唆された. 【考察】約 300 kDa と約 600 kDa の複合体は,それぞれの分子量から膜表在性の F1 部分と ホロ酵素の FOF1 と考えられ,大腸菌の細胞膜に活性のある H+-ATPase が発現できた.本酵 素の pH5.0における ATPase活性が比較的安定なことは,本酵素が酸性下で生育する S. mutans の酵素であることとよく一致している.FO 部位が H+の輸送路を構成していることは示唆さ れたが,能動輸送は見られなかった.これは,S. mutans の F 型 H+-ATPase に H+輸送を抑制 する調節機構があることを示しているのかもしれない. 【文献】 1. Sturr,M.G.and Marquis,R.E.(1992) Appl.Environ.Microbiol.58,2287-2291. 29 B-01 タンパク質アセチル化の網羅的同定および機能推定 ○ 岡西広樹 1,金光 1,増井良治 1,2,倉光成紀 1,2 1 阪大・院理・生物科学,2 理研・播磨研 【目的】 翻訳後修飾の一つであるタンパク質リシン残基のアセチル化(Ac-Lys)は,真核 生物において重要な機能を果たしているが,最近になって原核生物においても Ac-Lys の存 在が知られるようになり,Lys のアセチル化は多くの生物に共通で基本的な生命現象であ ることがわかってきた.そこで,高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8 をモデル生物として, アセチル化が細胞全体にどのような役割を果たしているのかを理解したいと考えた.そこ でまず,高度好熱菌の Ac-Lys の網羅的解析を行い,次にアセチル化タンパク質を機能分類 することによって,タンパク質のアセチル化が生体内のどのような機能に影響を及ぼして いるのかを調べた. 【方法】 まず,アセチル化したウシ血清アルブミンを抗原として,Ac-Lys を認識するウ サギ抗体を作製した.この抗体を利用して,トリプシン消化した T. thermophilus HB8 のタ ンパク質から,Ac-Lys を持つペプチドを濃縮した.そのペプチド混合物をナノ液体クロマ トグラフィー(nano-LC)で分離し,オンラインで四重極飛行時間型(Q-TOF)質量分析装 置(MS)を用いて,各ペプチドの Ac-Lys を同定した(一例を図1に示す). 【結果】 Ac-Lys 認識抗体を用いた免疫沈降と質量分析計によるアミノ酸配列解析によっ て,127 種類のアセチル化タンパク質を同定した.これらタンパク質の機能分類をするこ とによって,アセチル化は代謝や翻訳システムに関わるタンパク質に多いことがわかった. 【考察】 興味深いことに,127 種類のアセチル化タンパク質の中には GroEL のように 12 箇所もの Ac-Lys を持つものも含まれていた.アセチル化の有無による単純な制御だけでな く,これらの Lys 残基のアセチル化の度合いや組み合わせがタンパク質の機能に複雑な影 響を及ぼしている可能性も考えられる.同定できた Ac-Lys を持つタンパク質群を機能分類 したところ,Ac-Lys は代謝に関わるタンパク質に多く見られたが,特に解糖系においては 5 種類,TCA 回路においては 9 種類の酵素がアセチル化を受けていた(図2). 図2. アセチル化タンパク質の例 図1. 質量分析(MS/MS)による ペプチドのアセチル化 Lys 同定例. 解糖系・TCA 回路のアセチル化タンパク質を 灰色で示す. 30 B-02 シアノバクテリア時計タンパク質 KaiC の動態解析 ○大山克明,寺内一姫 立命館大・生命科学 【目的】シアノバクテリアは概日リズムが内在するもっとも単純な生物であり,3 つの時 計タンパク質 KaiA,KaiB,KaiC が生物時計の中心的な働きを担っている.3 つの Kai タン パク質と ATP を混合することで,KaiC のリン酸化型と脱リン酸化型が 24 時間周期で往来 するという生物時計再構成系が構築される 1).時計の中核である KaiC は ATP 依存的に六量 体を形成する.KaiC がその機能を発揮するには KaiA および KaiB との相互作用が不可欠で あり, KaiA は KaiC のリン酸化を促進し,KaiB は KaiA の反応を阻害する. KaiA,KaiB, KaiC の反応によって揺らぐ周期を規則正しく 24 時間に保っている.しかしながら,この 揺らぎを引き起こすメカニズムについてはまだ未解決のことが多く残されている. 本研究 は,3 つの時計タンパク質の相互作用解析により KaiC が 24 時間周期で振動する分子機構 を解明することを目的としている. 【方法】シアノバクテリア Synechococcus elongatus PCC7942 由来の KaiA,KaiB,KaiC を大 腸菌において大量発現させ,アフィニティー精製を行った.また,KaiC の 2 つのリン酸化 部位(S431,T432)をアスパラギン酸とグルタミン酸に置換したリン酸化模倣型 KaiC (KaiC-DE)とアラニンに置換した脱リン酸化模倣型 KaiC (KaiC-AA)を作製した.精製した 各 Kai タンパク質を用いて生物時計再構成条件下において反応させ,Blue Native PAGE (BN-PAGE)を用いて,各タンパク質の動態を解析した. 【結果】野生型 KaiC に KaiA を添加すると 24 時間後にはほとんどの六量体が単量体になり, KaiC-DE では,KaiA を添加しなくても 約 1 時間後に六量体が単量体になることを見出し た.これに対し,KaiC-AA は同じ条件下で六量体を保ったままだった.次に,KaiA を反応 させ野生型 KaiC を単量体化した後 KaiB を添加したところ,KaiABC 複合体が形成され, KaiC の単量体は減少した. 【考察】以上の結果から,KaiC はリン酸化状態が高くなると六量体から単量体へと変化し, そこに KaiB が相互作用することで KaiC が六量体に再構築されると考えられる.これまで の知見 2)と考え併せることで,次のような概日リズム生成モデルを考察した.脱リン酸化 状態の KaiC に対して KaiA が相互作用し,KaiC はリン酸化する.リン酸基が付加されると KaiC は六量体から単量体へと変化し,その後,KaiB がリン酸化した KaiC 単量体へ相互作 用し KaiA を不活性化するとともに,KaiC は六量体化して KaiABC 複合体が形成される.そ の後,KaiA が KaiC から離れ,KaiC は脱リン酸化状態へと回帰する.このサイクルの繰り 返しによって 3 つの時計タンパク質は 24 時間周期のリズムを刻んでいると考えられるが, いつ KaiB が KaiC から離れているのか,六量体と単量体の KaiC はそれぞれ同じようにリ ン酸化されているのか等不明な点は多い.今後はこれらの点を明らかにするために,KaiC への KaiA や KaiB の相互作用などの詳細な解析を行う予定である. 【文献】 1. Nakajima, M., et al (2005) Science 308, 414-415 2. Kageyama, H., et al (2006) Mol Cell 23, 161-171 31 B-03 子嚢菌類 Mariannaea elegans 由来の新奇スフィンゴ糖脂質の構造解析 ◯谷 泰史, 中村 香里, 沢 良太, 西尾 匡 1, 齋藤 茂樹, 伊藤 將弘 1, 糸乗 前 2, 三原 久明 立命館大・生命科学・生物工, 1 立命館大・生命科学・生命情報, 2 滋賀大・教育・化学 【目的】 スフィンゴ糖脂質は, 親水性の糖鎖部分と疎水性の脂質部分から構成されてい る.糸状菌に存在するスフィンゴ糖脂質としては, 一般に, 脂質部分がセラミド構造を有 する中性スフィンゴ糖脂質(セレブロシド:グルコシルセラミドやガラクトシルセラミド) と脂質部分がフィトセラミド構造を有する酸性スフィンゴ糖脂質(イノシトールリン酸セ ラミドが基本骨格)が知られてきた.しかし, 近年, Mucor 属糸状菌を含む接合菌類 1) や 子嚢菌類 Hirsutella rhossilliensis2) には, 酸性スフィンゴ糖脂質が存在せず, その代わりに フィトセラミド構造を有する長鎖中性スフィンゴ糖脂質が存在することが示された.それ ら長鎖中性スフィンゴ糖脂質は特異なガラ系列構造を有し, 酸性スフィンゴ糖脂質の機能 を代替する可能性が示唆されているが, 詳細な生理機能の解明には至っていない.本研究 では, バッカクキン科 H. rhossilliensis の近縁菌が有する長鎖中性スフィンゴ糖脂質の構造 解析を行うとともに, その生理的役割の解明を目的とした. 【方法】冬虫夏草等の寄生菌として知られるバッカクキン科の糸状菌 Simplicillum lamellicola, Pochonia suchlasporia, Nectria gracilipes, Mariannaea elegans から抽出した糖脂質を TLC 分 析した.その TLC 分析の結果より得られた目新しい糖脂質を陰イオン交換樹脂と Iatro beads によるカラムクロマトグラフィーにより分別単離し, MALDI-TOF/MS, GC, GC/MS, NMR を用いて糖脂質の構造決定を行った.また,イノシトールリン酸セラミド合成酵素の阻害 剤である Aureobasidin A (AbA) による糸状菌の生育阻害を指標として,酸性スフィンゴ糖 脂質の必須性を調べた. 【結果】 4 種の糸状菌から抽出した糖脂質を TLC 分析した結果,S. lamellicola と P. suchlasporia はセレブロシドのみを有するが, 他2種の糸状菌はセレブロシドに加えて複数 の糖脂質を持つことを見出した.これら複数の糖脂質を有する糸状菌の内, M. elegans の 糖脂質構造解析を行った結果,本菌の中性糖脂質には,フィトセラミド構造を有する2種 の中性スフィンゴ糖脂質とグルコシルセラミドが存在することを見出した.その糖脂質構 造は,従来から明らかになっている長鎖中性スフィンゴ糖脂質の基本骨格である Galβ1-6Galβ1-Cer と新奇な 2 糖構造を有する Glc1-6Gal1-Cer であることが明らかとなっ た.また, 本菌は AbA により生育阻害を受けたことから, 本菌の生育にとってイノシト ールリン酸セラミドを骨格とする酸性スフィンゴ糖脂質は必須であると考えられた. 【考察】 今までフィトセラミド構造を有する長鎖中性スフィンゴ糖脂質を持つ糸状菌に は酸性スフィンゴ糖脂質が存在しないことが知られていた.本研究の M. elegans は, 長鎖 中性スフィンゴ糖脂質と酸性スフィンゴ糖脂質の両方を有する糸状菌として初めての例で ある. 【文献】 1. Aoki, K., Uchiyama, R., Yamauch, S., Katayama, T., Itonori, S., Sugita, M., Hada, N., Hada, J., Taked a, T., Kumagai, H., Yamamoto, K. (2004) J. Biol. Chem. 279, 32028-32034 2. Tani, Y., Funatsu, T., Ashida, H., Ito, M., Itonori, S., Sugita, M., and Yamamoto, K. (2009) Glycobiology 20, 433–441 32 B-04 共生細菌 Lactobacillus, Staphylococcus, Streptococcus 属脂質の細菌属特異的分子種構成と 糖脂質の抗原性 ○中佐昌紀,山崎健太郎,岩森由里子,岩森正男 (近畿大・理工・生命) 【目的】 ヒト体内には多くの細菌が共生し,感染防御などヒトの健康維持に大切な役割を果たして いる.ヒトをはじめとする動物消化管に共生するグラム陽性細菌 L. johnsonii は糖脂質に対 する受容体を介して動物消化管に結合すること,逆に動物免疫システムは細菌表面の糖脂 質を認識して細菌の侵入を防いでいる事を明らかにした 1, 2).体内の異なる環境に生息する 細菌の細胞膜の特徴から共生の仕組みを明らかにするために,消化管の Lactobacillus reuteri (LR), 皮膚の Staphylococcus epidermidis (SE),口腔の Streptococcus salivalis (SS)の脂質の分子 種構成を調べ,同時に各細菌をウサギに免疫して得た抗血清が認識する糖脂質の免疫原性 を調べた. 【方法】 グラム陽性細菌:L. johnsonii (LJ, JCM 1022), LR (JCM 1112), SE (JCM 2414), SS (JCM 5707) は理化学研究所バイオリソースセンターより購入した.培養培地として,LJ と LR は MRS ブロス,SE は Tryptic Soy ブロス,SS は Heart infusion ブロスを用いた.抗細菌抗血清:各 細菌 15mg をフロイント完全アジュバントとともにウサギに免疫して作製した.脂質分析: TLC による脂質分析,GC-MS による脂肪酸・糖組成の分析,FABMS と NMR,完全メチル 化と糖分解酵素による糖鎖構造の解析は常法に従って行った 3). 【結果と考察】 細菌脂質:LR,SE,SS はいずれもホスファチジルグリセロール (PG),カルジオリピン (CL), 2 糖グリセロ型糖脂質 (DH-DG)を主要成分としていた.DH-DG の糖鎖構造は全く異なって おり,LR は Galα1-2Glcα1-3’DG,SE は Glcβ1-6Glcβ1-3’DG,SS は Glcα1-2Glcα1-3’DG であっ た.また,LR には,Galα1-6 結合で糖鎖伸長した 3 糖,4 糖糖脂質が含まれていた. 脂質の分子種:リン脂質と糖脂質のジグリセリド部分の分子種構成は類似しており,大幅 なリモデリングは起こっていないことが分かった.しかし,脂肪酸組成は各細菌間で全く 異なっていた.LR の主要分子種は 16:0-cyclopropane19:0,SE は anteiso15:0-anteiso17:0,SS は 16:0-18:1 であり,それぞれの生育環境に適応する構造を持っていた. 抗血清の認識抗原:細菌に対する抗血清は各細菌の糖脂質を認識抗原としていた.抗 LJ 抗 血清は LR の DH-DG,3 糖,4 糖糖脂質,抗 SE 抗血清は SE の DH-DG と特異的に反応した が,抗 SS 抗血清は SS の DH-DG と強く反応すると同時に LR と SE の DH-DG とも約 1/5 の強さで交叉反応した.生息場所の異なる細菌は各細菌特異的な脂質構造と抗原糖脂質を 持ち体内環境に適応している事が明らかになった. 【文献】 1. Iwamori M. et al (2009) J Biochem 146, 185-191 2. Iwamori M. et al (2011) Glycoconj J 28, 21-30 3. Iwamori M. et al (2011) J Biochem 150, 515-523 33 B-05 低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 のエイコサペンタエン酸欠損が 外膜タンパク質に及ぼす影響 ○杉浦 美和,朴 貞河,代 先祝,川本 純,江崎 信芳,栗原 達夫 京大化研 【目的】低温域や深海など極限環境に生育するある種の海洋性細菌は,高度不飽和脂肪酸 であるエイコサペンタエン酸(EPA)を生産する.南極海水より単離された低温菌 Shewanella livingstonensis Ac10 は,低温誘導的に EPA 含有リン脂質を生産する.本菌の EPA 生合成遺 伝子を破壊した EPA 欠損株は,低温での生育能力が低下した.さらに,EPA の欠損によっ て顕著に生産量が減少するタンパク質として,外膜タンパク質 Omp417 が同定された.Omp417 は三量体を形成する 18 回膜貫通型のポーリンタンパク質と予測され,野生株において主要 な外膜タンパク質である. このことから EPA と Omp417 との相互作用の存在が示唆された. 本 研究では,外膜タンパク質 Omp417 の発現における EPA 欠損の作用機構の解明を目的とし た.Omp417 にはトリプトファン (Trp) が 7 残基存在する. Trp が親水的な環境から疎水的 な環境に移行すると,その最大蛍光波長は長波長側から短波長側へブルーシフトする.ま た,その蛍光強度は Trp 残基周辺の pH によって影響される.また,Omp417 は β-sheet を 形成すると予測される.β-sheet を形成するタンパク質の CD スペクトルは,218 nm 付近に 負の極小を持つことが知られている.本研究では,Omp417 のフォールディング過程にお ける EPA 含有リン脂質の影響を解析するために Trp 蛍光ダイナミクスと CD スペクトルを 解析した.また,リアルタイム PCR を用いて,omp417 に対する EPA 欠損の転写レベルで の影響を調べた. 【方法】Omp417 のフォールディングにおける EPA 含有リン脂質の影響を解析するために, 本タンパク質の in vitro 再構成実験を行った.Omp417 の過剰発現用ベクターを構築し, Omp417 を封入体の形で発現させ,尿素を用いて可溶化した.sn-1 位にパルミトレイン酸, sn-2 位に EPA を 含むリン脂質と,パルミトレイン酸のみをアシル鎖とする EPA 非含有リ ン脂質を用いてリポソームを作製した.リポソームと混合した Omp417 の Trp 蛍光の経時 的な測定と, CD スペクトルの測定を行った.野生株と EPA 欠損株における omp417 の転写 量を,リアルタイム PCR を用いて比較解析した. 【結果】合成したリン脂質より作製したリポソームを用いた実験では,CD スペクトル, Trp 蛍光いずれにおいても EPA 含有リン脂質の有無による有意な差は観察されなかった. リアルタイム PCR を用いた野生株と EPA 欠損株における omp417 の転写量の比較解析では, EPA 欠損株において omp417 の転写量が顕著に減少していた. 【考察】以上の結果から,Omp417 の 2 次構造形成と 膜における Trp 残基周辺の疎水性, および pH 環境におよぼす EPA の影響は小さいことが示唆された.また,EPA の欠損は omp417 の転写を抑制することがわかった.このことから,S. livingstonensis Ac10 には EPA の欠損 によって Omp417 の生産量を発現レベルで制御する機構が存在することが示された. 34 B-06 エイコサペンタエン酸含有リン脂質の生理機能解析を目的としたアミド型リン脂質の合成 ○上野 源次郎,佐藤 翔,川本 純,江崎 信芳,栗原 達夫 京大化研 【目的】 高度不飽和脂肪酸(PUFA)は原核生物から真核生物にわたる種々の生物に広く 見いだされており,様々な生理現象に関与する多機能性脂質として近年注目を集めている. 南極海水より単離された低温適応細菌 Shewanella livingstonensis Ac10 は PUFA の一種であ るエイコサペンタエン酸(EPA)を sn-2 位にもつリン脂質を低温誘導的に生成する.EPA 生合成遺伝子を破壊して EPA を欠損させると低温では生育速度の著しい低下や菌体の形態 異常がみられる.EPA 含有リン脂質を外部から添加することで,生育速度の回復や形態異 常の抑制が見られたことから,本菌の低温での生育に EPA が重要な生理機能を担うことが 示されているが,その詳細は明らかでない.sn-2 位にエーテル結合を介して EPA を持ち, 極性頭部が蛍光標識された EPA 含有リン脂質を用い,局在性を解析した結果,細胞分裂サ イトへの局在が見いだされた.しかし,エーテル型 EPA 含有リン脂質は EPA 欠損株の生 育を相補できなかったことから,天然の EPA 含有リン脂質の生理機能を代替できないこと が示された.エステル結合よりもエーテル結合の方が疎水性の高いことがその一因である 可能性が考えられたことから,エーテル結合に比べて親水的で,かつ細胞内ホスホリパー ゼによって加水分解されないと考えられるアミド結合を介して sn-2 位に EPA を持つリン 脂質を合成し,EPA 欠損株の生育におよぼす影響を解析した. 【方法】 sn-1 位にエステル結合を介してオレイン酸を,sn-2 位にアミド結合を介して EPA を持つリン脂質(アミド型リン脂質)を合成した.これを添加した液体培地を用いて,野 生株及び EPA 欠損株を 4℃で培養し,生育速度と菌体の形態への影響及び ESI-MS による リン脂質組成を解析した.また,エステル結合を介して sn-1 位と sn-2 位にそれぞれオレイ ン酸と EPA を持つ天然型のホスファチジルエタノールアミン(OEPE)を EPA 欠損株に投 与し,同様の実験を行った. 【結果】 アミド型リン脂質を投与した野生株と OEPE を投与した EPA 欠損株の生育と形 態は正常であったが,アミド型リン脂質の添加は EPA 欠損株の生育と形態に影響しないこ とがわかった.ESI-MS によるリン脂質組成の解析により,時間の経過とともにアミド型リ ン脂質のシグナルが減少し,sn-1 位のエステル結合が加水分解されたリゾリン脂質のシグ ナルが増加することが見いだされた. 【考察】 ESI-MS によるリン脂質組成の解析から,sn-2 位のアミド結合は菌体のホスホリ パーゼでは加水分解されないことが示された.sn-2 位から EPA が遊離できないアミド型リ ン脂質の投与では EPA 欠損株の生育と形態に影響しなかったことから,本菌における EPA の機能発現には,EPA 含有リン脂質の細胞分裂サイトへの局在後,菌体のホスホリパーゼ 活性による sn-2 位からの EPA の遊離が重要であることが示唆された. 35 B-08 タンパク質凝集を抑制するペプチドナノファイバーの開発 ○土屋喬比古・福原早百合・西垣辰星・和久友則・功刀滋・田中直毅 京工繊大院 生体分子工学専攻 【緒言】変性タンパク質が形成する,β-sheet が規則的に積み重 なった不溶性の線維状凝集物はアミロイド線維と呼ばれ,ア ルツハイマー病などの神経変性疾患との関連が指摘されてい る.現在, タンパク質凝集抑制によるアルツハイマー病の根本 的な治療法として治療薬開発が進められており,我々は,熱水 晶体に存在する熱ショックタンパク質αA-Crystallinの基質結合 部位 FVIFLDVKHFSPEDLTVK (αAC(71-88) ) を用いる研究を 1 μm 行ってきた 1).その中で, αAC(71-88) が自身でアミロイド線維 を形成し,分子シャペロン機能が向上することを確認した.そ Figure 1. TEM image of firefly luciferase aggregates formed in こで,このペプチドナノファイバーがタンパク質凝集を抑制す the presence of αAC (71-88) る機構を解明し,その知見を用いてアルツハイマー病を抑制す fiblil at 37oC. るペプチドの設計を試みた. 【実験】線維やタンパク質のゼータ電位は顕微鏡電気泳動法 を用いて測定した.また,線維表面の疎水性は ANS 蛍光試薬を 用いて評価した.アルコールデヒドロゲナーゼ (ADH),ルシフ ェラーゼの熱凝集に対するαAC(71-88) 線維の影響は濁度測定, 透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いて解析を行った.一方,Aβ及び タウタンパク質に対しての線維の影響はチオフラビン T (ThT) による蛍光測定及び TEM によって評価した. Figure 2. ζ-potential of amyloid fibrils with increasing 【結果】αAC(71-88) ナノファイバーは ADH 及びルシフェラー concentration of ADH. ゼのような酸性タンパク質の熱凝集に伴う濁度上昇を抑制し ○, αAC (71-88) amyloid; た.さらに TEM 画像よりαAC(71-88) ナノファイバーはその表 ●, Aβ (25-35) amyloid 面に微小なタンパク質凝集体を結合させることが示唆された (Figure 1).一方,アルツハイマー病原因タンパク質であるアミロ イドβの細胞毒性フラグメント Aβ(25-35) の線維はこれらのタンパク質の凝集を促進した. そこで線維のシャペロン様機能を明らかにするため,顕微鏡電気泳動法を用いて各々のナノ ファイバーのゼータ電位を測定し,タンパク質とナノファイバーとの相互作用を解析した. その結果,αAC(71-88) 線維表面は負に帯電していることが分かった.一方,Aβ(25-35) 線維 は,非常に低い正のゼータ電位を示し,ADH 濃度の増加に伴い表面電荷が減少することが分 かった (Figure 2). 【考察】シャペロン様機能を有するペプチドナノファイバーは同電荷を持つタンパク質と 疎水性相互作用により凝集を抑制することが示唆された.一方,線維とタンパク質が静電的 引力によって相互作用することで,ナノファイバーのコロイド安定性が失われ凝集を促進す ることが示唆された.以上の結果をふまえて,アルツハイマー病の原因蛋白質である Aβ及び タウの凝集を抑制するαAC(71-88) の変異体の設計に成功した. 【文献】 1) Tanaka N. Biochemistry 47, 2961 (2008). 36 B-09 β-sheet ペプチドの自己組織化による抗原担持ナノファイバーの作製と細胞取り込み ○川端一史, 北川雄一, 和久友則, 功刀 滋, 田中直毅 京工繊大院 生体分子工学専攻 【目的】薬物や抗原をターゲット細胞に効率的に送達 antigen hydrophilic sequence part するデリバリーシステムの構築を目的として,高分子 beta‐sheet ナノ粒子やリポソームなどの球状キャリアの開発が活 self‐assembly 発に進められてきた.近年,キャリアの形態は①体内 動態,②細胞による取り込み,③細胞内での局在など antigen‐loaded peptide nanofiber に影響を与える重要な因子であることが明らかとされ, 球状のみならず異方性形態を持つナノ構造体が DDSキ Figure 1. Schematic illustration of preparation of antigen-loaded peptide ャリアとして注目されている.しかし,その報告例は nanofibers. 少なく,形態とキャリア機能との相関に関する知見は まだ十分に蓄積されていない.我々は,異方性キャリアとして β-sheet ペプチドの自己組 織化により形成するペプチドナノファイバーに着目し,これをキャリアに用いた抗原デリ バリーシステムの開発に取り組んでいる.β-sheet ペプチドナノファイバーは会合体構造 が明確であり,ビルディングブロックの分子設計によりキャリア構造を制御することがで きる.従って,構造とキャリア機能との相関を調査することで異方性形態に由来する新た な機能が見出されることが期待される. 【方法】β-OVA-TAT と β-OVA-(EG)12 ペプ Table 1. Peptides used in this study チド (Table 1) を固相法により合成し,逆相 FVIFLDGSGSIINFEKL-RKKRRQRRRC β-OVA-TAT HPLC により精製した.このペプチドを PBS β-OVA-(EG)12 FVIFLDGSGSIINFEKL-oligo(EG)12 (pH7.4) 中,60oC で 24 時間加熱し,ナノフ ァイバーを形成させた.このナノファイバーを透過型電子顕微鏡 (TEM) ,原子間力顕微 鏡 (AFM) を用いて観察し,構造を推定した.また,蛍光ラベル化したペプチドで調製し たナノファイバー共存下で RAW264 (マウス由来マクロファージ細胞) 細胞を 3 時間,37oC と 4oC で培養し,共焦点レーザー顕微鏡 (CLSM) によりナノファイバーの取り込みを観 察した. 【結果】ナノ会合体のビルディングブロックとして,β-sheet 配列 (FVIFLD) にモデル 抗原配列 (OVA,257SIINFEKL264) と親水性配列 (TAT,49RKKRRQRRR57,もしくはオリゴ エチレングリコール, oligo EG) を導入したペプチドを設計,合成した.このペプチドの水 中での自己組織化を利用して,抗原ペプチドを担持させたナノファイバーを作製した.得 られたナノファイバーの構造を解析したところ,線維幅は 5.8 ± 0.8 nm,線維高さは 4.0 ± 0.7 nm とそれぞれ見積もられ,FT-IR,XRD より β-sheet 構造が認められた.次に,ナノフ ァイバーを RAW264 に取り込ませ,CLSM 観察によってその取り込み機構を調査した.球 状ナノキャリアの細胞取り込みは通常エンドサイトーシス機構であり,この機構による取 り込みは低温下で顕著に抑制されることが知られているが,β-OVA-(EG)12 ナノファイバー の細胞による取り込みは 4oC においても認められた. 【考察】構造解析の結果から,得られたペプチドナノファイバーは Figure 1 のような構造 を持つことが示唆された.また,細胞取り込み実験から,通常の球状ナノキャリアとは異 なり,非エンドサイトーシス機構で取り込まれていることが示唆された. 37 B-10 アグレソーム形成における Sav1 の新たな機能 ○酒井伸也 1,藤原葉子 2,白木孝 1,輿水崇鏡 2,柴田克志 1 1 姫路獨協大・薬,2 自治医科大・医 【目的】細胞内凝集体(アグレソーム)形成は多くの神経変性疾患の病態に関与しており, ストレスなどに対する重要な生理的反応の一つと考えられている.一方,一連のショウジ ョウバエを用いた研究より見出された癌抑制関連因子(Salvador homolog 1)は,アダプタ ータンパク質としてタンパク質キナーゼである Warts,Hippo 等と複合体を形成し,細胞増 殖・アポトーシスなどに重要な役割を担うと考えられている.われわれは,共免疫沈降法, 質量分析法などの手法を用いて,アグレソーム形成における Sav1 の細胞生理機能を解明す る目的で研究を行っている. 【方法と結果】本研究では,Sav1 を過剰発現させた哺乳動物細胞を用いて共免疫沈降を行 い,Sav1 と相互作用するアグレソーム関連分子を同定した.FLAG および HA タグを付加 した Sav1 タンパク質を HEK293 細胞で過剰発現させた.その細胞抽出液を 2 種類のタグ特 異的抗体で連続して免疫沈降し,Sav1 を構成成分とするタンパク質複合体を精製した.そ の結果,いくつか特異的に沈降したタンパク質が確認された.共沈したタンパク質のうち 70 kDa のタンパク質について解析が進んでおり,ペプチドマスフィンガープリント法によ り分析した結果,HSP70 が該当分子と推定された.抗 HSP70 抗体によるウェスタンブロッ トを行い,共沈したタンパク質が HSP70 であることを免疫化学的に確認した.さらに,GFP を付加した Sav1 タンパク質を HEK293 細胞で過剰発現させ,免疫蛍光染色法を行った.プ ロテアソーム阻害剤 MG132で処置した細胞では,GFP-Sav1 がアグレソームに集積し,Hsp70, CHIP およびユビキチン化タンパク質と高頻度で共局在していた. 【考察】プロテオミクス解析により,分子シャペロンである Hsp70 が Sav1 の新規結合蛋白 である事を見出した.また,Sav1 がストレスなどで誘導されるアグレソームに集積する事 を明らかにした.これらの結果は,Sav1 がアグレソーム形成系においてこれまで知られて いない重要な役割を担っていることを示唆している. 38 B-11 免疫グロブリン軽鎖キメラ体のアミロイド形成能とフォールディング ○小林祐大 1,田代裕己 2,池田京平 2,阿部哲之 2,浜田大三 1 1 神戸大・院医, 2 神戸大・医 【目的】免疫グロブリンは重鎖と軽鎖からなり,その可変領域の配列多様性により様々な 外来因子を認識することができる.一方,免疫グロブリンを産生する形質細胞の異常によ り,軽鎖のみが大量に分泌されることがある.このように,大量に分泌されても,組織沈 着を示さない軽鎖も存在するが,アミロイド線維沈着を起こすことで AL アミロイドーシ スを引き起こす軽鎖もある.これらの軽鎖の違いは,抗体軽鎖可変領域(VL)におけるアミ ノ酸配列の違いに起因すると考えられるが,その詳細なメカニズムは明らかでない. このような軽鎖の特性の違いを明らかにするために,本研究では,多発性骨髄腫により大 量分泌されるが臓器沈着を示さない κ 軽鎖 REI と AL アミロイドーシスに関与する κ 軽鎖 BRE,あるいは,これらのキメラ変異体や部位特異的変異体の VL における構造揺らぎとア ミロイド凝集性の相関について下記の研究を行った. 【方法】大腸菌で発現し,各種カラムクロマトグラフィーにより精製した VL に対し,円偏 光二色性,蛍光分光スペクトルを用いて,天然構造の熱力学的安定性,フォールディング ・アンフォールディング速度,アミロイド凝集速度について,比較した.さらには,REI, BRE VL のキメラ変異体を作製,精製し同様の実験を行った. 【結果】蛍光スペクトルを用いた速度論的解析により,BRE VL のフォールディング速度は REI VL よりも遅くなっており,逆にアンフォールディング速度が速くなっていること,す なわち BRE VL の天然状態は,REI VL よりも不安定化していることが明らかになった.こ のことは,円偏光二色性スペクトルを用いた熱変性実験によっても確認された.また,生 理条件下に近い,中性 pH,37℃において,BRE VL は完全に変性しており,この条件下に おいてアミロイド線維を形成した.一方で,REI VL は同じ条件下では,形成が確認されな かった.さらには,キメラ変異体に対する同様な解析から,N 末端側の数残基の違いが, BRE のアミロイド線維形成を促進する一つの要因であることが示唆された. 【考察】本研究の結果,BRE と REI のアミロイド線維形成能に関する違いは,主に N 末端 周辺の変異による天然構造の不安定化,フォールディング・アンフォールディングの速度 の変化によることが示唆された.このような変化は,溶媒中に疎水性残基を露出し,他分 子間の相互作用を引き起こす役割を果たすと考えられる. 今後,VL のアミロイド線維形成反応のより詳細な機構を解明するには,アミノ酸配列中の どの領域が,このような分子間相互作用に重要であるのかについて,解析する必要がある.一 方,BRE VL と同様な天然状態の不安定化を与える,アミノ酸変異の組み合わせは,他にも 多数存在すると考えられる.故に,他の VL バリアントに対する同様な解析を網羅的に行う ことは,重要であると考えられる. 39 B-12 L,M 両錐体視物質遺伝子を持つ先天色覚異常 - エキソン 3 の塩基多型ハプロタイプが スプライシングのパターンに影響する 1 ○上山久雄 ,村木早苗 2,山出新一 2,田邉詔子 3,扇田久和 1 1 滋賀医大・生化・分子生物,2 滋賀医大・眼科,3 視覚研究所 【目的】色覚は網膜に存在する 3 種類の錐体(L,M,S)が担っている.L と M の錐体視 物質遺伝子は塩基配列がよく似ており,かつ同じ染色体(X 染色体)上に並んで存在する ため不等交差を起こしやすく,これが先天色覚異常の原因であると考えられてきた.しか しわれわれはこれまで 692 例の日本人先天色覚異常を調べ,78 例(11.3%)が L,M 両方 の遺伝子を持っていることを明らかにした.本研究の目的は不等交差では説明できない先 天色覚異常の原因を探ることである.L,M の両遺伝子を持つ 1 型(=L 錐体が欠失)2 色 覚の 5 例における L 遺伝子を解析した結果,2 例はミスセンス変異(Pro231Leu,Pro187Leu) を持っており,視物質の発現実験によっていずれの変異によっても再構成視物質の機能が 損なわれることを確認した 1), 2).また,1 例は Tyr194stop のナンセンス変異を持っていた. 今回は残る 2 例(A376 と A642)の L 遺伝子を解析した. 【方法】ゲノム DNA を鋳型にして L 遺伝子全体(約 14kb)を特異的に PCR 増幅し, pFLAG-CMV-5a ベクターにクローニング(図 1)し,HEK293 細胞にトランスフェクション 後,抽出した mRNA をノーザンブロットと RT-PCR で解析した.また,L 視物質の cDNA (pFLAG-CMV-5a ベクター中)の一部を L 遺伝子に置き換えたミニジーン(図 2)を作製 し,HEK293 細胞にトランスフェクションしスプライシングを解析した. CMV プロモーター 1 2 3 4 5 6 HindⅢ FLAG 配列 CMV プロモーター 12 3 AflⅡ 456 FLAG 配列 図 1 遺伝子発現プラスミド 図 2 ミニジーン 【結果】 (ⅰ)A376 の L 遺伝子を HEK293 細胞で発現させノーザンブロットで解析したと ころ,全長よりもやや短い mRNA だけが検出された. RT-PCR 産物を解析し,エキソン 3 (169 塩基)を欠失したものであることが分かった.(ⅱ)ミニジーンを用いた解析では, A376 と A642 由来の 2 クローンにおいてのみ,エキソン 3 欠失の RT-PCR 産物だけが認め られた. (ⅲ)全長の RT-PCR 産物だけが得られたミニジーン(N)と,A642 由来のミニジー ンとの間でイントロンの交換を行い,エキソン 3 欠失を起こす原因領域を, HindⅢと Afl Ⅱサイト間(279 塩基対(図 2))に絞りこむことができた.(ⅳ)この領域の塩基配列は A376 と A642 の間では完全に同一であり,これらと N との間にはエキソン 3 内の既知の多 型の違いがあるだけであった(表).塩基置換を導入してさらに調べたところ,A376 や A642 が持つハプロタイプの場合だけエキソン 3 が完全に欠失することが分かった. N A376 A642 151 agA agG agG 153 Atg Ctg Ctg コドン 155 171 gtC GtG gtG AtT gtG AtT 178 Atc Gtc Gtc 180 Tct Gct Gct 【考察】以上のことより,エキソン 3 の塩基多型の特殊なハプロタイプがスプライシング に影響しエキソン 3 を完全にスキップさせ,早期翻訳停止による L 遺伝子の非発現により L 錐体を欠失する色覚異常を起こしているものと推定された. 【文献】 1. Ueyama H., Tanabe, S. et al. (2004) Vision Res. 44, 2241-2252. 2. 上山久雄,村木早苗ら (2011) 第 84 回日本生化学会大会,3P-550. 40 B-13 変異型 SOD1 に対する新規 SOD1 モノクローナル抗体の反応性 ○野口隆弘 ,藤原範子 2,鴨田信子 2,北野隆之 2,武内悠希 2,吉原大作 2,崎山晴彦 2, 江口裕信 2,鈴木敬一郎 2 1 関西学院大学・院理工・生命科学,2 兵庫医科大学・生化学 1 【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンが選択的に障害される致死性の神 経変性疾患である.Cu/Zn-スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の遺伝子変異が家族性 ALS の原因となることが明らかになっているが,その発症機構は未だ解明されておらず, 有効な治療法も見つかっていない.ALS を引き起こす変異 SOD1 は不安定で凝集化しやす いことが報告されているが,変異 SOD1 と野性型 SOD1 とでは,どの部分の構造がどのよ うに異なるのかという基本的な疑問は未解決のままである.これまでループ VI を認識する モノクローナル抗体(mAb)が変異 SOD1 の種類によって反応性が異なることを報告して きた 1).つまり,mAb を使うことで変異 SOD1 の微小な構造の違いを検出でき,免疫療法 の開発にもつながる可能性がある.そこで,新たに mAb を作製し,その特性を検討した. 【方法】野生型及び変異型 SOD1 タンパクの作製:GST を融合させた野生型(WT)及び変異 型(A4V,G37R,H46R,G93A,C111S,I113T)のヒト SOD1 を大腸菌で発現させ,グル タチオンカラムで精製した. mAb の精製:2 種類のハイブリドーマクローン(9D3,18B25)の培養上清を Ab-capcher に て精製した. 各 SOD1 タンパクとの反応性:直接吸着 ELISA 法で SOD1 タンパクの検出を行った. mAb のエピトープマッピング:GST を融合させた deletion mutant SOD1(1~30,1~60,1~ 90,1~120,1~153 アミノ酸残基)を作製し,ウェスタンブロット及び直接吸着 ELISA 法 で 9D3 及び 18B25 の認識部位の推定を行った. 【結果】9D3 は,直接吸着 ELISA 法では野性型 SOD1 にも変異 SOD1 にも同程度に反応し たが,コーティング時の SOD1 濃度が低い場合は WT よりも G93A に対して強く反応し た.18B25 は H46R に対して弱い反応性をもつという特性を有していた.また,ELISA プ レートに吸着させるバッファーの pH を変化させると各 SOD1 に対する反応性も変化した. SOD1 モノクローナル抗体のエピトープマッピングでは,9D3 は 1~120 アミノ酸残基と 全長の SOD1 に,18B25 は全長の SOD1 のみに,強く反応した. 【考察】9D3 のエピトープ部位は 90~120 アミノ酸残基内に予想されることと G93A に強 く反応することに関連性があると考えられる.18B25 は,全長の SOD1 にしか反応しない こと,ウェスタンブロット法では全く SOD1 を認識しないこと,の 2 点から SOD1 の立体 構造を認識していると考えられ,変異 SOD1 の微小構造の解析に利用できると期待される. 【文献】Fujiwara N. et al.: Different immunoreactivity against monoclonal antibodies between wild-type and mutant copper/zinc superoxide dismutase linked to amyotrophic lateral sclerosis. J. Biol. Chem. 280, 5061-5070 (2005) 41 B-14 オボアルブミンのポリマー化 張 娟,○恩田真紀 大阪府大・理・生物 【目的】卵白の主要成分であるオボアルブミンは,構造上セルピン・スーパーファミリー (serpin : serine protease inhibitor superfamily) に属するが,セリンプロテアーゼを阻害する機 能を持たない.その理由は,オボアルブミンの Arg339(他のセルピンでは Thr/Ser が保存) が,阻害活性の発現に必要な反応中心ループ(RCL)の挿入を妨げるからである.セルピ ンにはポリマーを形成しやすい性質があり,これが生体内に蓄積すると認知症(ニューロ ,血栓症(アンチトロンビン)などを引き起 セルピン),肝硬変(α1-アンチトリプシン) こす.近年,セルピンのポリマー化機構が X 線結晶構造解析により明らかにされ,これに よると,セルピンのポリマーは Folding 中間体から形成され,その構造はβ-ストランドが domain-swapping した RCL 挿入型である.本研究では,バルキーな Arg339 により RCL 挿入 型構造が取れないオボアルブミンがポリマーを形成するかどうかを調べた. 【方法と結果】オボアルブミンは卵白から精製して得た.変異体は大腸菌系で調製した. まず, 「セルピンのポリマーは Folding 中間体から形成される」という点に着目し,オボア ルブミンが Unfolding 中間体を形成する条件を尿素濃度勾配ゲル電気泳動で調べた.その結 果,尿素濃度 3-4 M 付近で Unfolding 中間体が生じることが分かった.この結果に基づき, オボアルブミンを 4 M 尿素, 45 oC, pH 8.0 の条件下でインキュベーションし,これを Native-PAGE で調べたところ,典型的なセルピン・ポリマーの泳動パターンとよく似たポ リマーを形成することが分かった.得られたポリマーをゲルろ過で精製し,その構造を円 二色性や蛍光分析で調べたところ,代表的な病原性ポリマーであるニューロセルピンのポ リマーとよく似た特徴を持つことが明らかとなった.そこで,domain-swapping によりポリ マーの伸長が起こっているかどうかを確認するため,オボアルブミンの Cys 変異体を調製 し,S-S 架橋形成の解析を行った.その結果,一部のポリマーでは C-末端領域が swapping していることが明らかとなった. 【考察】セルピンは Native 型よりも RCL 挿入型の方が熱安定で,「Native 型がエネルギー 的に最安定ではない,アンフィンセンのドグマに反する蛋白質」としてよく知られている. 現在 X線結晶構造解析により構造が明らかとなっているセルピンのポリマーはいずれも RCL 挿入型で,セルピンのポリマー化反応は Native 型からより安定な構造への転移反応と言え る.今回, RCL 挿入型構造が取れないオボアルブミンがポリマーを形成することが明らか となったが,このことは,セルピンには RCL 挿入型以外に, Native 型よりも熱安定な構造 が存在することを示唆している. 42 B-15 網膜における血管新生に関連する遺伝子の網羅的発現解析 ○足立博子 1, 丸山悠子 2, 米田一仁 2, 丸山和一 2, 木下茂 2, 中野正和 1, 田代啓 1 1 京都府立医科大・院医・ゲノム医科学,2 視覚再生外科学 【目的】血管新生は既存の血管から新しく血管が形成される生理現象であり,発生初期や 創傷治癒時などに観察される.生体の恒常性維持には血管新生の調節が必須であり,異常 な血管新生は多くの疾患に関連している. 胎生期のマウスの網膜には血管系が存在せず生後構築されることから,出生前後のマウ スの網膜では生理的な血管新生に関連する様々な遺伝子の発現が変動していることが知ら れている. 本研究では,出生前後のマウスの網膜を経時的に採取し,マイクロアレイにより遺伝子 の発現を網羅的に解析することによって,血管新生に関連する既知の遺伝子の発現変動を 捉えると共に,未知の遺伝子発現ネットワークを同定することを試みた. 【方法】すべての動物実験は本学動物実験委員会の承認の下,動物実験倫理規定に従って 行った.妊娠 18 日のマウス(C57BL/6)の胎児および出生 12 時間以内の 0 日齢(P0)から 4 日齢(P4)までのマウスから網膜を経時的に採取した.摘出した網膜は直ちに RNA STAT-60 (TEL- TEST, INC.) 中でホモジナイズし,total RNA の抽出を行った.次に total RNA か ら SuperScriptIII First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen)を用いて 1st strand の cDNA 合成を行った.マイクロアレイに供する試料を決定する予備検討として,RT-PCR 法 により VEGF-A,TGF-β2,β-actin の発現を半定量的に解析した.最後に,RT-PCR の結果 から選択した 3 つのタイムポイントの total RNA から Amino Allyl MessageAmp II aRNA Amplification kit(ABI)を用いてアミノアリル aRNA を合成し,マイクロアレイ(3D-Gene, 東レ)による網羅的遺伝子発現解析を行った. 【結果】 胎児(E18, n = 9)および妊娠 19 日で出生したマウスの生後 11 時間(P0,n = 6), 23 時間(P1, n = 4),41 時間(P2, n = 4),67 時間(P3, n = 5),85 時間(P4, n = 5)経過し た網膜を,合計 6 点採取した.なお,1 匹(2 眼)分の網膜をプールして 1 サンプルとした. 全サンプルの total RNA の平均収量は 3.7±1.6 μg であった. VEGF-A および TGF-β2 の遺伝子発現を RT-PCR 法によって半定量的に検討した結果, VEGF-A については E18 から P4 の間での発現変動は検出されなかった.一方,TGF-β2 で は,E18 から P0 の間で発現が上昇し,P1 から P4 の間で発現が低下していることが示唆さ れた.この結果から,TGF-β2 の発現変動が顕著に認められた,E18,P0,P4 でマイクロア レイ実験を実施し,特に E18 から P0 にかけて発現が変動する遺伝子群に着目しリスト化し た. 【考察】網羅的な遺伝子発現解析の結果から,TGF-β2 をはじめとする血管新生に関連する 様々な遺伝子の発現が検出された.今後は,これらの遺伝子群をパスウェイ解析により統 合的に解析していきたいと考えている. 【文献】 1. Ray F. Gariano et al. Nature, 438: 960-966, 2005 2. Franco M. Recchia et al. Inves. Ophthalmol. Vis. Sci., 51: 1098-1105, 2010 3. Deepa Murai et al. Inves. Ophthalmol. Vis. Sci., 52: 2930-2937, 2011 43 B-16 繊維芽細胞から心筋細胞への変換に影響を与えるクロマチン制御因子の探索 ○蘆田勇平 1, 砂留一範 1, 日下部杜央 1, 西田栄介 1 1 京大・院生命科学 【目的】転写因子を強制発現させることで繊維芽細胞などの細胞を ES 細胞, 神経細胞や心 筋細胞 1)など異なる細胞へと変換できることが報告されている. しかしそれらの報告では 変換の効率は低い. その理由として, 遺伝子発現の変化に必要なクロマチンの構造変換が 効率よく起こっていない可能性が考えられる. そこで異なる細胞への変換の際にクロマチ ンの構造変換に関わる因子を探索しその作用機構を調べることで, メカニズムの理解を深 め, 効率改善につなげたい. 【方法】クロマチン構造を制御する因子としては,クロマチン構造を変換する活性が知ら れている SWI/SNF 型の複合体(BAF, NuRD, ISWI, CHD)のサブユニットや,ヒストンアセ チル化, 脱アセチル化, メチル化, 脱メチル化修飾酵素, ポリコーム遺伝子群の中から合 わせて暫定的に 78 遺伝子を選んだ. レトロウイルスベクターに上の各クロマチン制御因子 を挿入したものをそれぞれ作成した. 心筋細胞への変換に必要な 3 因子(Tbx5, GATA4, Mef2c)のウイルスと同時に各クロマチン制御因子のウイルスをマウスの尾の繊維芽細胞に 感染させた. 感染一週間後に心筋細胞特異的に発現する ACTC1, cTNT に対する qRT-PCR によって効率への影響を調べた. 【結果】現在までに 44 のクロマチン制御因子をクローニングした. 25 の因子について実験 を行い, そのうち, Cbx4 が ACTC1 の発現は強く抑えるが, cTNT の発現には影響を与えな いことが分かった. 【考察】Cbx4 は特定の遺伝子座に結合し, その領域の転写を持続的に抑制するポリコーム 遺伝子群複合体 PRC1 のサブユニットとして知られている. Cbx4 の ACTC1 と cTNT への影 響の違いは, 心筋細胞への変換の際に, 各遺伝子座で異なるエピジェネティクスの変化が 関わる可能性を示唆する. 今後, 他のクロマチン制御因子についても調べるとともに Cbx4 が心筋細胞への変換をブロックしている因子なのか, また Cbx4 が直接 ACTC1 を抑制する のかを調べる必要がある. 【文献】 1. Ieda, M., Fu, J., Delgado-Olguin, P., Vedantham, V., Yohei, K., Bruneau, B., Strivastava, D. (2010) Cell 142, 375-386 44 C-01 Kallmann 症候群原因遺伝子産物の Anosmin-1 は RGMa の成長円錐崩壊作用を阻害する ○竹内祥人 1,清水昭男 2,岡本沙矢香 2,瀬尾美鈴 1, 2 1 京産大・工・生物工,2 京産大・総合生命科学・生命システム 【目的】Kallmann 症候群とは,性腺機能低下と嗅覚異常を伴う中枢神経系におけるヒトの 先天性遺伝性疾患である.これらの症状は原因遺伝子の1つである KAL-1 の変異により引 き起こされる.KAL-1 は X 染色体上に位置しており,100kDa 分泌糖タンパク質 Anosmin-1 をコードしている.発症頻度は男性で 1/8000 人,女性で 1/40000 人である.性腺機能低下 はゴナドトロピン放出ホルモンの合成低下,嗅覚異常は嗅球や嗅神経の形成不全が原因と されている.私たちは,以前の研究で Anosmin-1 が成長円錐の形成を促進することを報告 した.しかしそのメカニズムはまだ未解明である.Anosmin-1 のメカニズムを明らかにす るために Anosmin-1 と相同性の高いタンパク質を検索し,Neogenin という膜貫通型レセプ ターの Fibronectin TypeⅢ repeat region がアミノ酸配列で約 20%の相同性があることを発見 した.Neogenin は反発誘導分子である RGMa のレセプターとして知られており,RGMa は Neogenin と相互作用することで成長円錐崩壊の作用を誘導していることと,発生初期から 中枢神経系に発現していることが報告されている. 本研究では,Anosmin-1 が RGMa の可溶型レセプターとして作用することで,Neogenin と の結合を阻害し成長円錐の形成を促進しているのではないかという仮説を立て検証するた めに実験を行った. 【方法】FGFR1 を過剰発現させた PC12(PC12-FGFR1)細胞を 12-well Plate に播種し,FGF2 を 1~10 ng/ml 加えて 2 日間培養し,神経突起を伸長させた.そこに Anosmin-1 を 5~50 ng/ml あるいは,RGMa を 50~200 ng/ml,Anosmin-1 50 ng/ml と RGMa 200 ng/ml を同時に添加し, 成長円錐を位相差顕微鏡(IPlab)で撮影し成長円錐の面積を Image J で解析した. アクチンフィラメントを共焦点顕微鏡で撮影する場合は,poly-D-lysine でコーティングし たカバーグラス上に PC12-FGFR1 細胞を播種し,上記と同様の操作あるいは,RGMa 200ng/ml と可溶型 Neogenin 100 ng/ml を同時に添加後,免疫蛍光染色した. Rac1,Cdc42,RhoA の活性化,または不活性化を pulldown 法を用いて調べた.100mm dish に PC12-FGFR1 細胞を播種し,FGF2 10ng/ml を加えて 2 日培養し,神経突起を伸長させ, そこに RGMa 200 ng/ml を経時的に添加しタンパク質を回収をした. 【結果】神経突起を伸長させた PC12-FGFR1 細胞に Anosmin-1 を加えると,コントロール (100%)と比べて成長円錐の面積が 150%以上広がっていた.これ結果から Anosmin-1 は 成長円錐の形成を促進することがわかった.同様に RGMa を加えると成長円錐の面積はコ ントロールの 70%に崩壊した.しかし,RGMa と可溶型 Neogenin を同時に加えると成長円 錐は崩壊しなかった.この結果より RGMa は Neogenin を介して成長円錐崩壊を誘導してい ることがわかった.同様に Anosmin-1 と RGMa を同時に加えると成長円錐は崩壊しなかっ た.この結果より,Anosmin-1 は RGMa-Neogenin による成長円錐崩壊の作用を阻害するこ とがわかった.神経突起を伸長させた PC12-FGFR1 細胞に RGMa を加えると 15 分,30 分 で Rac1 を不活性化することがわかった. 【考察】正常型 Anosmin-1 は,RGMa-Neogenin による Rac1 の不活性化を阻害し,成長円錐 崩壊の作用を抑制する特異的な Inhibitor になる可能性が示唆された.Kallmann 症候群患者 の変異型 Anosmin-1 は,RGMa-Neogenin による成長円錐崩壊を阻害できない可能性が示唆 された. 45 C-02 緑茶カテキンによる TRPA1及び TRPV1の活性化 ○黒木 麻湖 1, 河合 靖 1, 長友克広 2, 久保 義弘 3, 齊藤 修 1 1 長浜バイオ大・院・動物分子生物, 2 弘前大学・院・統合機能生理, 3 生理研・神経機能素子 【目的】哺乳類が感じる味覚には, 5基本味以外に主に感覚神経が感じる味覚として辛味・渋味な どがある. 辛味の感知には, 主に capsaicinにより活性化される TRPファミリーの TRPV1が関与して いると考えられているが, 渋味についてはどのような仕組みで渋味の感覚が起こるのか詳細は殆ど 明らかにされていない. これに対し, 我々は昨年, 腸内で味覚センサーとして機能する腸内内分泌 細胞の培養細胞株 STC-1が渋味物質の茶カテキンに反応して細胞内 Ca2+濃度が上昇することを発見 した. この STC-1細胞のカテキン応答の特異性・薬理学的性質等を詳しく検討した結果, そのカテ キン応答を担う実体はTRPA1であることを見出した 1). 更にTRPA1同様, 感覚神経に発現するTRPV1 もカテキン応答性があることを見出し, 動物は TRPA1と TRPV1をセンサーとして用いてカテキン などの渋味を感じていると考えられた. そこで本研究では, どのようなカテキンがこれらのTRPチャ ネルを活性化するのか, また実際の感覚神経がカテキンに応答するのか検討した. 【方法】マウスあるいはヒトの TRPA1と TRPV1を HEK293T細胞に発現させ, Ca2+imagingにより各 種カテキンへの応答を解析した. また, マウスの後根神経節(DRG)を単離・培養し, Ca2+imagingに より各種カテキンへの応答を解析した. 【結果】マウス及びヒトの TRPA1 と TRPV1はいずれも溶解後 2時間以上経過した茶カテキン類に よってのみ活性化され, この反応は予めVitamin Cを添加しておくと抑えられた. TRPA1については, マウスとヒトで茶カテキンに対する感度, 4種の茶カテキン(EC・ECG・EGC・EGCG)に対する応答 性が異なっていた. 一方 TRPV1については, マウスとヒトで茶カテキンに対する反応はほとんど変 わらなかった. マウス DRG由来の培養感覚神経は, 実際に溶解後 3 時間経過した茶カテキン EGCG によって活性化された. 【考察】以上の結果から, 動物は感覚神経にある TRPA1 と TRPV1をセンサーとして緑茶の渋味成 分の酸化重合したカテキン類を感知していることが示唆された. 【文献】1) Kurogi, M., Miyashita, M., Emoto, Y., Kubo, Y., Saitoh, O. (2012). Green Tea Polyphenol Epigallocatechin Gallate Activates TRPA1 in an Intestinal Enteroendocrine Cell Line, STC-1. Chem. Senses, 37, 2:167-177 46 C-03 生姜と乾姜に含まれる一酸化窒素産生抑制成分の構造活性相関 ○加納麻奈 1,小海智弘 2, 吉開会美 1,松尾洋孝 2,池谷幸信 2,西澤幹雄 1 1 立命館大・生命科学・生命医科 医化学,2 立命館大・薬学・生薬学 【目的】ショウガ(Zingiber officinale Roscoe)はショウガ科の多年生草本で,世界各地で栽 培されている.ショウガは食品として薬味や臭み消しとして用いられるのみならず,生薬 である「生姜(ショウキョウ)」及び「乾姜(カンキョウ)」として,大建中湯などの多く の漢方薬(漢方処方)に使われている.生姜はショウガの根茎を乾燥したものであり,乾 姜はショウガの根茎を湯通しして (修治),乾燥したものである.生姜には辛味物質の gingerol が,乾姜には shogaol が多く含まれている.生姜と乾姜には抗炎症作用があるといわれてい るので,本研究では生姜と乾姜に含まれる gingerol 類と shogaol 類について,炎症メディエ ーターである一酸化窒素(NO)産生誘導への影響を調べ,構造活性相関を明らかにした. 【方法】生姜と乾姜から辛味成分(gingerol 類と shogaol 類)を精製した.コラゲナーゼ灌 流法を用いて Wistar ラットから初代培養肝細胞を調製し,一晩培養した.培地に辛味成分 と IL-1β (1 nM)を同時添加し,37℃,5%二酸化炭素の条件下で 8 時間培養した.Griess 法 によって NO 産生量を測定し,各成分の 50%阻害濃度(IC50)を求め,各成分の IC50 を比 較することにより活性を比較した. 【結果】生姜と乾姜から,炭素鎖の長さと置換基が異なる gingerol 類と shogaol 類を精製し た.実験に用いたすべての shogaol と gingerol の誘導体が,NO 産生を抑制した. Shogaol 類では炭素鎖が長くなると,NO産生抑制活性が低くなり,IC50 が高くなった.Gingerol 類でも,炭素鎖が長くなると,NO 産生抑制活性が低くなった.さらに側鎖の二重結合を OCH3 基,OH 基,H 基に変えると,NO 産生抑制活性が低くなった.結果を総合すると, 側鎖にケトン基と二重結合を持つ 6-shogaol(図 1)が,全誘導体中で最も活性が高かった. 図 1. 6-Shogaol の構造式 【考察】生姜と乾姜から精製した gingerol 類と shogaol 類の中では,6-shogaol が最も NO 産 生の抑制活性が強かった.一般に,炭素鎖の長さ,置換基,および炭素鎖中の二重結合は, 疎水性を変えて膜透過性に影響する.各種誘導体の IC50 を比較した結果をあわせると, 6-shogaol の NO 産生抑制活性の強さは,側鎖の炭素鎖の長さとケトン基と二重結合による と考えられた.炎症性腸疾患に使用される大建中湯に乾姜が配合されているのは,乾姜に 多く含まれる 6-shogaol の強い NO 産生抑制活性によって説明ができる可能性がある. 47 C-04 後根神経節細胞における機械刺激感受性 Ca2+流入機構の解明 ○松山純一,芦高恵美子 大工大・院工・生体医工 【目的】体性感覚や内臓感覚情報の受容と伝播を司る一次求心性線維の終末には様々な刺 激を受容する受容体が存在しており,熱,化学刺激を受容するいくつかの受容体分子は同 定されているが,機械刺激を受容する分子実態については未だ明らかにされていない.本 研究では,後根神経節(DRG)細胞における機械刺激に対する Ca2+流入機構を調べた. 【方法】4 週齢のマウスから DRG を採取し,コラーゲナーゼ処理により得られた細胞をラ ニミンと poly-D-lysine 処理したガラスボトムディッシュとストレッチチャンバーに播種し た.初代培養した DRG 細胞に fura2-AM を付加した後,低浸透圧刺激(50% dilution of Ca2+ measuring buffer with 3mM CaCl2)と伸展刺激(伸展率 15%)による細胞内 Ca2+濃度([Ca2+]i)変化 を Ca2+顕微鏡を用いて測定した. 【結果】約 54%の細胞で低浸透圧液の灌流刺激により[Ca2+]i が約 1.7 倍上昇した.非特異的 TRP チャネル阻害剤 ruthenium red(RR)の存在下でも 40%の細胞において低浸透圧刺激によ る[Ca2+]i 上昇が確認された. Ca2+キレート剤である EGTA の存在下では低浸透圧刺激を加 えた場合には[Ca2+]i の上昇は確認されなかった.伸展刺激においても約 1.7 倍の上昇が認め られ,RR の存在下では約 13%の細胞が上昇した. 【考察】低浸透圧や伸展による機械刺激によ り細胞内 Ca2+濃度が上昇したことにより, DRG 細胞には機械刺激感受性分子が存在す ることが明らかになった.RR,EGTA によ る[Ca2+]i 変化の結果から,TRP チャネルとは 異なる,細胞外からの Ca2+流入機構をもつ 分子である可能性が示唆された. 図 1.低浸透圧刺激による[Ca2+]i の変化 表 1.低浸透圧,伸展刺激で応答した細胞の割合 (# mean±SEM,**p<0.01) 48 C-05 アピゲニンよる AMPK 活性化を介した脂肪細胞の分化抑制 ○小野 真冬,天野 富美夫,藤森 功 (大阪薬科大・薬・生体防御学) 【目的】肥満は多くの生活習慣病発症の起因となっており,その予防は重要な課題である.肥 満の原因となる脂肪細胞の成熟化は,ホルモンや環境要因など多くの因子により制御され ている.本研究では,フラボノイドの一種であるアピゲニンに注目し,脂肪細胞の分化制 御におけるアピゲニンの機能について解析した. 【方法】まず,マウス前駆脂肪細胞 3T3-L1 細胞におけるアピゲニンの毒性評価を行った.脂 肪細胞の分化抑制効果を明らかにするために,Oil Red O 染色およびトルグリセリド測定に より脂肪滴蓄積量を,リアルタイム PCR およびウェスタンブロット解析により分化誘導時 に発現変動するタンパク質のレベルを調べた.また,脂肪分解経路への影響について各種 中性脂肪分解酵素の遺伝子発現解析を行った.さらに,アピゲニンによる脂肪細胞分化抑 制機構を調べるために,AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のリン酸化レベルを解析 した. 【結果および考察】アピゲニンは 10 µM までは細胞毒性を示さず,濃度依存的に 3T3-L1 細胞の分化の進展を抑制し,細胞内の脂肪滴蓄積および分化制御に関与する遺伝子群の発 現レベルを低下させた.また,中性脂肪分解酵素遺伝子の発現を抑制し,遊離グリセロー ルレベルも有意に低下した.さらに,アピゲニンは AMPK をリン酸化することにより,脂 肪細胞の分化を抑制することがわかった.以上のことから,アピゲニンは脂肪細胞の分化 を抑制し,糖尿病やメタボリックシンドロームなどの予防・改善効果が期待できる. 【参考文献】 Ono, M. and Fujimori, K. (2011) J. Agric. Food Chem. 59: 13346-13352. 49 C-06 ケルセチンは神経細胞におけるアポトーシス誘導を抑制する ○末松那実子,天野富美夫,藤森功 大阪薬科大・薬・生体防御学 【目的】活性酸素種(ROS)は神経細胞にアポトーシスを誘導するなど,様々な神経変性 疾患に関係する.フラボノイドの 1 つであるケルセチンは抗酸化活性を含む様々な生理学 的特性を有している.本研究では,ヒト神経芽細胞腫由来 SH-SY5Y 細胞における過酸化水 素水(H2O2)誘導アポトーシスに対するケルセチンの保護効果を検討した. 【方法】ヒト SH-SY5Y 細胞におけるケルセチンの毒性と H2O2 誘導の細胞死に対するケル セチンの保護効果を検討するために細胞毒性試験,LDH 定量を行った.また GSH 定量に より,H2O2 処理による ROS の産生を調べた.アポトーシスは DNA 断片化,ウエスタンブ ロット解析による活性化 Caspase-3,-9 の検出,ルシフェラーゼアッセイによる Caspase3/7 活性を測定し,リアルタイム PCR およびウエスタンブロット解析によりアポトーシス関連 タンパク質の発現を検討した. 【結果】ヒト SH-SY5Y 細胞にケルセチンを添加し,24 時間後の細胞毒性および LDH 放出 量を測定したところ,100 µM までは毒性を示さなかった.H2O2 添加により細胞生存率は約 38%まで減少したが,ケルセチン 100 µM 添加により細胞生存率は約 67%まで回復し,ま たケルセチンの濃度依存性も認められた.また細胞内 GSHレベルは H2O2 添加により約 42% まで減少し,ケルセチン添加により GSH レベルは H2O2 添加時と比べ約 1.4 倍増加したこ とから,ROS の産生は H2O2 により誘導され,その産生はケルセチンにより抑制されること が示唆された.さらにケルセチンを H2O2 添加前に 3 時間の前処理したところ,H2O2 添加 と同時にケルセチンを加えたときと同様の結果が得られた.これらのことから,ケルセチ ンは細胞内に取り込まれ,ROS 産生を抑制していることが示唆された.ケルセチンはアポ トーシスの特徴である DNA断片化と,それに続いて起こる Caspase-3,-9活性および Caspase3/7 の活性化を抑制した.さらにアポトーシス促進遺伝子である Bax の発現を抑制し,一方ア ポトーシス抑制遺伝子である Bcl-2 の発現を増加させた. 【考察】以上の結果は,ケルセチンが SH-SY5Y 細胞において ROS 産生を抑制することに より H2O2 誘導アポトーシスを抑制することを示唆している.ケルセチンは,酸化ストレス やアポトーシスによって引き起こされる神経変性疾患の予防のために有用であると考えら れた.1 【文献】 1 Suematsu et al. Neurosci. Lett. 504: 223-227 (2011) 50 C-07 サルモネラ(Salmonella Weltevreden)の接着・付着制御による食中毒統御 ○北村香南子,藤森功,天野富美夫 大阪薬大・生体防御学 【目的】食中毒の起因菌であるサルモネラの一種に東南アジアや沖縄県のような熱帯・亜 熱帯地域から特徴的に分離されるサルモネラ・ヴェルテブレーデン(Salmonella Weltevreden; 以下 SW と略)がある.世界的にはサルモネラ食中毒に占める SW の割合は少なく,重症例 もほとんど報告されていないため,SW に対する研究はほとんど行われていなかった.し かし,今後地球温暖化による気候の変化によって菌の分布に変動が起こり,サルモネラ食 中毒の原因菌種が変化する可能性があり,SW による食中毒の制御方法を解明することは 必要であると思われる.そこで,菌に汚染された食器や調理器具等を介する食品汚染を防 ぐため,SW が器具に付着する条件を検討した. 【方法】食品加工の過程を恒温条件下と低蔵条件下に分けて考え,それぞれ 37℃,および 氷冷下においてステンレススチール(SS)とプラスチック(PL)への SW の付着を 4 時間の培養 によって行った.付着した菌を洗剤(0.1%Triton-X)によって洗い落として回収し,回収され た生菌数を計測した.菌の培養としては,菌の増殖に及ぼす栄養条件の影響を検討するた め,LB 培地(富栄養)と M9 培地(貧栄養)を用いた.また SW は輸入エビなどからの分離例が 多く報告されているため,殻の主成分であるキチンを介した菌の付着についても検討した. 【結果】SW の付着は PL より SS の方が少なかった.さらにキチン存在下においては,恒 温条件(37℃)では特に SS に対する SW の付着が多くなったが,低蔵条件ではこの増加は見 られなかった.一方,PL への付着に対する温度の影響はなかった.また SS への付着は栄 養の少ない条件で培養した方が多く付着した. 【考察】以上の結果から,SW はプラスチックよりもステンレスに付着しやすいと考えら れる.またキチンが存在すると,恒温条件下では SS への SW の付着が多くなるが,これは キチンにより SS 上に菌の付着する足場が形成されたためと考えられる.またその足場は, 菌の増殖が起こる場合(恒温条件),または栄養が少なく菌にストレスがかかっている時に, より多く形成されると考えられる.今後,SW の付着に関わる菌の構造について明らかに したい. 【文献】 1. Amano, F., Saito, N., Hara-Kudo, Y., and Kumagai, S. Bacterial Adherence & Biofilm. 24 (2010) 93-98. 2. Amano, F., Kitamura, K., Fujimori, K., and Saito, N. Bacterial Adherence & Biofilm. 25 (2011) in press. 51 C-08 Hsp105βによる Hsp70 の発現誘導に及ぼす Nmi の影響 ○齊藤洋平,山岸伸行,畑山 巧 京都薬大・生化学 【目的】Hsp105βは 42℃の持続加温時に発現するストレスタンパク質であり,核に局在し Hsp70 を発現誘導する 1, 2) .これまでに我々は酵母 two-hybrid screening により Hsp105β結合 タンパク質として N-myc, Stat 結合タンパク質 N-myc interactor (Nmi) を同定しており,今回, Hsp105βによる Hsp70 の発現誘導に及ぼす Nmi の影響を検討した. 【結果】まず,Nmi の hsp70 プロモーター活性に及ぼす影響をルシフェラーゼレポーター ジーンアッセイにより検討したところ, Nmi は Hsp105βによる hsp70 プロモーターの活性 化を有意に増強した.さらに,種々の hsp70 プロモーター領域を連結したレポータープラ スミドを用いた検討により,この活性化には hsp70 プロモーター領域 (-218~-193) が必須 であることを明らかにした.また,Hsp105βの C 末端側α-helix 領域 (aa 642-662) は hsp70 遺 伝子の転写促進に必須であるが,in vitro pull-down 法により Nmi が Hsp105βおよび Hsp105β のα-helix 領域 (aa 564-814) と結合すること,さらに,免疫沈降法により細胞内における Nmi と Hsp105βとの結合性を明らかにした. 【考察】以上の結果,Nmi は Hsp105βと相互作用し,Hsp105βによる Hsp70 の発現誘導を促 進することが明らかとなった.これまでに我々は hsp70 プロモーター領域 (-218~-193) に サイトカインシグナル伝達系転写因子 Stat3 が結合することを報告しており 2) ,Nmi が Stat3 を介して Hsp70 の発現誘導を促進する可能性も考えられた. 【文献】 1. Saito, Y., Yamagishi, N., Hatayama, T. (2009) J. Biochem. 145, 185-191 2. Yamagishi, N., Fujii, H., Saito, Y., Hatayama, T. (2009) FEBS J., 276, 5870-5880 52 C-09 粥状動脈硬化症において IVA 型ホスホリパーゼ A2 はマクロファージの極性化に関与する ○金井志帆,高杉美千子,井上亜樹,石原慶一,秋葉 聡 京都薬大・病態生化学分野 【目的】粥状動脈硬化症は,泡沫化したマクロファージ (Mφ) が蓄積する初期病変から, マトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) などのタンパク質分解酵素の分泌によりプラー クが脆弱化する後期病変へと進展する.病変の進展に伴い Mφ では MMP-9 の産生が増大 するが,我々は,その産生を IVA 型ホスホリパーゼ A2 (IVA-PLA2) が促進させることを 先駆的に明らかにしている 1).現在,Mφ はその性質や発現している表面抗原のパターンに よって M1 および M2 と称される 2 つのサブタイプに大別される.動脈硬化症では M2 型 Mφ が泡沫化しやすく,MCP-1 などのケモカインを発現することで初期病変の形成に関与する.ま た,M2 型 Mφ は後期病変の進展に関わる MMP-9 を発現するという報告があることから, IVA-PLA2 が M2 型 Mφ を調節している可能性が示唆されるが,その詳細は未だ明らかでは ない.そこで,M2 型 Mφ の調節に IVA-PLA2 が関与している可能性を明らかにするため, IVA-PLA2 欠損 (KO) マウスの腹腔内 Mφ を用いて M1 型および M2 型 Mφ のマーカー遺 伝子の発現量を測定し,野生型マウスと比較検討した. 【方法】まず,IVA-PLA2 が動脈硬化巣の初期病変形成に関与している可能性を調べるため に,野生型 (WT) および KO マウスに動脈硬化誘発性の食餌を 24 週間与え,病巣好発部 位である大動脈基部に蓄積した脂質を Oil Red O 染色により検出した.また,血清中の脂質 を HPLC により組成別に測定し,血液中の脂質組成の変動が病巣形成に関与している可能 性について検討した.さらに,WT および KO マウスの腹腔内から単離培養したマクロフ ァージを IFNγ (20 ng/mL) / LPS (1 µg/mL) 刺激により M1 型 Mφ へ,または IL-4 (20 ng/mL) 刺激により M2 型 Mφ へ極性化を誘導した.その後,M1 マーカー (IL-1β,IL-6,TNFα) お よび M2 マーカー (MRC1,Arg1,Fizz1)の mRNA 発現量を測定した. 【結果】動脈硬化誘発性の食餌を与えた KO マウスでは,Oil Red O で染色された面積が WT マウスに比べて小さく,病巣形成が顕著に抑制されていた.一方,これらのマウスの 血清中の脂質は,両マウス間で違いはみられなかった.これらのことから,KO マウスでは 血液中の脂質組成の変化が是正されていないにも関わらず,病巣形成の軽減がみられたた め,IVA-PLA2 が直接的に動脈硬化巣の形成に関与している可能性が示唆された.また,こ の原因として初期病変の形成を担う細胞応答に起因すると推察した. Mφ を M2 型に極性化すると,KO マウスでは M2 マーカーの発現,特に MRC1 の発現量 の増加が WT マウスの半分であった.一方,M1 型へ極性化したときの M1 マーカーである IL-1β,IL-6 の発現量の増加は,WT と KO マウスの両者で同程度であった.また,単球走 化性因子である MCP-1 の発現量の増加は,M2 型へ極性化させた KO マウス由来 Mφ で WT マウス由来 Mφ に比べ減少していた.この結果から,KO マウスでの病巣形成の軽減は,Mφ が M2 型へ極性化しにくいため MCP-1 や MMP-9 の発現が減少することに起因している可 能性が示唆された. 【考察】以上の結果から,IVA-PLA2 は,粥状動脈硬化症において,Mφ の M2 型への極性 化を担うことで,病巣形成に関与する可能性が示唆された. 【文献】 1. Ii H., Hontani N., Toshida I., Oka M., Sato T., Akiba S. (2008) Biol. Pharm. Bull. 53 C-10 嗅覚によって油を感知する機構の解明 ○宮崎尚也 1,高橋弘雄 1,吉原誠一 1,坪井昭夫 1 1 奈良医大・先端研・脳神経システム 【目的】マウスは嗅覚を用いて匂いの快・不快を判断し,周囲の状況に対して適切に行動 している.小早川らにより,マウスは不快な匂いである天敵臭に忌避反応を示すことが見 出され,活性化される脳内の神経回路も報告されている 1).しかしながら,マウスにとっ て快適な匂いがどのようにして感知され,誘引反応を引き起こすのか?という点に関して は,これまでほとんど研究されていない.我々は最近,マウスに様々な種類の匂いを提示 する過程で,油の匂いやその構成成分の匂いが,マウスに対して誘引的に作用することを 見出した.そこで本研究では,マウスが嗅覚によって油を感知する機構を解析した. 【方法】従来の匂いの嗜好性を判定する実験では,ろ紙に匂いを染み込ませてマウスに提 示し,それを嗅いだ時間の長さにより,匂いの快・不快を判断する方法が行われていた. しかしながら,この方法では,マウスがろ紙を舐めてしまうため,味覚の関与を否定する ことができない.そこで我々は,味覚の影響を排除するために,匂い物質を穴の空いたチュー ブに入れて提示するという,新たな匂いの嗜好性テストを確立した. 【結果】我々が開発した匂 いの嗜好性テストを用いて 解析したところ,ピーナッ ツ油の匂いがマウスに誘引 的に作用することが見出さ れた(図1) .また,植物油 の主成分であるトリアシル グリセロールの構成物質を 検討したところ,オレイン 酸などの不飽和長鎖脂肪酸 が,マウスに対して誘引的 に作用することが分かった. さらに,絶飲絶食下では通 常の状態と比較して,油の匂いを嗅いでいる時間が有意に長くなった.しかし,亜鉛イオ ンを投与して嗅細胞を死滅させると,絶飲絶食下であっても油の匂いによる誘引効果が見 られなくなった.これらの結果から,マウスの嗅覚系には油センサーが存在し,油に対す る誘引作用に関与することが明らかになった. 【考察】マウスは,グリセリンに対して全く誘引されないことから,油の匂いに対する誘 引作用は,主にトリアシルグリセロール中の不飽和長鎖脂肪酸によることが示唆される. またマウスは,短鎖脂肪酸であるヘプタン酸などに誘引されないことや,オレイン酸とオ レイルアルコールの間で誘引効果に差が見られないことから,不飽和長鎖脂肪酸に含まれ る長い炭素鎖構造が誘引的に作用するのに重要であると考えられる.現在,マウスが油の 匂いを嗅いだ後に,脳内で活性化される領域を同定するために,神経活動のマーカー分子 を用いて解析している. 【文献】 1. Kobayakawa et al., Nature 450: 503–508 (2007). 54 C-11 膵癌由来上皮細胞株 BxPC3 における小胞体ストレスとインテグリン ○井内陽子,池田豊,井原義人 和歌山県立医大・医学部・生化 【目的】小胞体ストレスおよび unfolded protein response (UPR) は糖尿病や脳神経疾患など 種々の病態に関与することが知られている.さらに近年,小胞体ストレスが上皮細胞に対 して,上皮間葉系細胞転換 (EMT) の誘因となるという複数の報告がなされ,癌の悪性化 や線維症にも関与する可能性が示されてきた.そこで今回,ヒト膵臓癌由来の上皮細胞株 BxPC3 細胞を用いて,小胞体ストレスが上皮細胞に与える影響について検討をおこなった. 【方法】小胞体ストレスは,小胞体 Ca2+-ATPase の阻害剤である thapsigargin 処理によって 誘導した.UPR の進行は XBP-1 のスプライシングの誘導を RT-PCR 法で,小胞体シャペロ ンタンパク質の発現増加および eukaryotic initiation factor 2a (eIF2a) のリン酸化を Western Blotting 法で確認した.EMT については,E-cadherin (E-cad) をはじめとする上皮細胞マー カーとビンキュリンをはじめとする間葉系細胞マーカーの発現変化を Western Blotting 法を 用いて検討した.一部のマーカーについては RT-PCR 法を用いて mRNA レベルの確認も行 った.さらにタンパク質発現の細胞内局在変化の観察には,免疫蛍光抗体法を用いた.ま たタンパク質相互作用の検討には免疫沈降法を利用した. 【結果】BxPC3 細胞の thapsigargin 処理によって,UPR にともなう XBP-1 のスプライシン グと eIF2a のリン酸化,さらに BiP・カルネキシン等のシャペロンタンパク質の発現増加が 認められた.また細胞の分散や伸展が観察されたため,形態変化と E-cad やインテグリン の発現やアクチン線維の変化との関連についての検討を行った.その結果,EMT にともな って観察されるインテグリン a5 の発現上昇が顕著に認められたが,focal adhesion に関与す るビンキュリンの発現上昇や stress fiber の形成はおこっておらず,E-cad の減少も明らかで なかった.またインテグリン a5 の発現上昇に,mRNA の増加はともなわなかった.そこで BxPC3 細胞が発現するインテグリンの発現変化をさらに検討したところ,インテグリン a5 に加え a3 の発現上昇が確認された.一方でこれらとヘテロダイマーを形成するインテグリ ン b1 の発現量には大きな変化が認められなかった.インテグリン a5 や a3 分子は小胞体へ の蓄積が観察され,カルレティキュリンとの相互作用が上昇していた.これらのインテグ リンで観察される変化の一部は N-グリカン合成阻害剤による小胞体ストレス誘導剤 tunicamycin 処理によっても引き起こされた. 【考察】以上の結果より,BxPC3 細胞は小胞体ストレスによって UPR を経て EMT マーカ ー分子の限定的な変化を起こしたが,これらの変化は特定のインテグリン分子が小胞体内 に貯留することにより引き起こされることが示された.この変化にはカルレティキュリン との相互作用の増強がともなった.またこの相互作用は N-グリカン合成阻害剤 tunicamycin 処理によっても引き起こされるため,少なくとも一部はカルレティキュリンとインテグリ ン分子間のペプチド相互作用によることが示唆された. 55 C-12 HDAC 活性の阻害は脂肪酸合成を抑制し,脂肪滴の蓄積を低下させる ○柚山美希,天野富美夫,藤森功 大阪薬科大・薬・生体防御学 【目的】エピゲノム修飾は,肥満や肥満を起因とした生活習慣病の発症において重要であ ることが知られている.HDAC 阻害剤により,脂肪細胞の分化が抑制されることが報告さ れているが,その抑制機構についてはほとんどわかっていない.本研究では,HDAC 阻害 剤であるバルプロ酸(VPA)とトリコスタチン A(TSA)を用いて,脂肪細胞の分化抑制 機構を解析した. 【方法】マウス前駆脂肪細胞 3T3-L1 細胞を VPA 存在下で処理し分化誘導した後,Oil Red O 染色と細胞内トリグリセリドレベルを測定し,脂肪滴蓄積量を調べた.同様に,定量的 PCR 法と Western blot 解析により脂肪細胞分化マーカーの発現レベルを測定した.一方,脂肪分 解系酵素遺伝子の発現レベルを調べるとともに,遊離グリセロール測定を行った.また, 脂肪酸合成酵素(FAS)の発現レベルを測定した.さらに,バルプロ酸の誘導体で HDAC 阻害作用がないバルプロミド(VPM)を用いて,脂肪滴蓄積と HDAC 活性との関連を調べ た. 【結果】VPA 存在下で脂肪細胞を分化誘導すると,細胞内の脂肪滴蓄積が抑制された.一 方で,HDAC 阻害作用のない VPM 存在下で同様に分化誘導しても,細胞内の脂肪滴蓄積は 抑制されなかった.次に,脂肪細胞分化マーカー遺伝子(PPARγ,SCD,C/EBPα)の発現 レベルを調べたところ,VPA 添加によりいずれも低下していた.また,脂肪分解系酵素遺 伝子(ATGL,HSL,MGL)の発現は上昇していたが,脂肪酸の分解によるグリセロール 遊離は増加しなかった.次に,脂肪酸の合成について調べたところ,VPA あるいは TSA 添 加により FAS の発現は抑制されており,FAS の生成物であるパルミチン酸と,VPA あるい は TSA を同時添加すると,細胞内の脂肪滴蓄積量は増加した. 【考察】VPA による脂肪滴蓄積の抑制は,HDAC 活性の阻害によることが示唆された. 脂肪分解系酵素遺伝子の発現は VPA 添加により上昇していたが,脂肪酸分解によるグリセ ロール遊離は増加しなかったこと,また HDAC 阻害剤により FAS の発現が抑制されたこと から,HDAC 阻害剤により脂肪酸合成が低下した結果,脂肪細胞の分化が抑制(脂肪滴蓄 積量の低下)されることが示唆された. 56 C-13 ラット小腸上皮細胞 IEC-6 における lansoprazole による HO-1 発現誘導分子機構の検討 ○依田有紀子 1),中川孝俊 2),原田智 1),梅垣英次 1),樋口和秀 1),朝日通雄 2) 1) 大阪医科大学医学部 第2内科,2)大阪医科大学医学部 薬理学教室 【目的】インドメタシン(IM)などの非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)は,胃のみなら ず小腸においても粘膜傷害を惹起することが知られているが,その病態や障害に対する治 療法・予防法については未だ明らかでない点が多い.我々は胃・十二指腸潰瘍に使用され ている酸分泌抑制剤(PPI)の中に IM 起因性小腸粘膜傷害を予防できる薬剤がないか以前 より網羅的にスクリーニングを行ってきた.IM 起因性小腸傷害は酸がその病態発生に関与 していないにも関わらず,PPI の中には傷害を抑制する薬剤が存在する.我々はラットにお けるインドメタシン起因性小腸傷害に対して,代表的な PPI である lansoprazole によりスト レス応答蛋白の1つであるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)が誘導され,抗炎症作用が発揮さ れることを報告してきた.今回,我々はラット正常小腸上皮細胞 IEC-6 を用いてこの lansoprazole で誘導される HO-1 の発現分子機構について検討を行った. 【方法】IEC-6 を用いて lansoprazole 単独,IM 単独,lansoprazole+IM の刺激による HO-1 の発現を real-time PCR 及び western blotting で確認した.また,これらの薬物が IEC-6 の細 胞増殖能に及ぼす効果を MTT 法により検討した.加えて炎症反応に関与する転写因子, NFκB の関与についても検討を行った. 【結果】(1)200 μM IM により IEC-6 の増殖は有意に抑制され,その抑制は lansoprazole により解除された.(2)lansoprazole は 12 時間をピークに HO-1 発現を誘導した.(3)IM は 6 時間をピークに HO-1 発現を誘導した.(4)lansoprazole+indomethacin の刺激は 12 時間 をピークに相乗的に HO-1 発現を誘導した.(5)IKK-2 inhibitor を前投与することにより IM の傷害が抑制された. 【考察】IEC-6 においても lansoprazole は IM によって引き起こされる増殖抑制を防御し, 同時に,HO-1 発現を誘導することが確認された.また,lansoprazole で誘導される HO-1 発 現の機序と indomethacin で誘導される HO-1 発現の機序は異なっており,IM 起因性小腸粘 膜傷害には NFκB の活性化が関与している可能性が示唆された. 57 C-14 リンパ球における活性化依存的なシアル酸分子種変化による免疫系の制御 ○内藤 裕子,村田 恵祐,小堤 保則,竹松 弘 京大・院生命・システム機能学 【目的】シアル酸は,細胞表面を覆う糖鎖の末端に位置し,様々な分子間認識に関与する. 生体内に主に存在するシアル酸分子種は N-アセチルノイラミン酸 (Neu5Ac) とその誘導体, N-グリコリルノイラミン酸 (Neu5Gc) である.我々は,以前に,B 細胞が活性化すると主 要シアル酸分子種が Neu5Gc から Neu5Ac へと変化し,抑制性制御因子である CD22 のリガ ンドが失われることを明らかにした (文献 1).さらに,T 細胞においても,活性化に伴い Neu5Gc から Neu5Ac へと主要シアル酸分子種が変化することを明らかにしてきた(図). 本研究では,この B,T 細胞に共通する活性化依存的なシアル酸分子種変化が,それぞ れの細胞の活性化を制御するだけでなく,T 細胞-B 細胞相互作用という体液性免疫必須の プロセスの制御にも関わるのではないかと考え,以下の実験を行った. 【方法】T 細胞における Neu5Gc の機能を解明するため,野生型マウスおよび Neu5Gc 欠損 マウスの脾臓 T 細胞を抗 CD3 抗体と抗 CD28 抗体,もしくはコンカナバリン A で刺激し, 活性化マーカーの発現と細胞増殖を調べた.また,シアル酸分子種の発現変化が T 細胞-B 細胞相互作用に与える影響について検討するため,野生型マウスおよび Neu5Gc 欠損マウ スの T,B 細胞を各組み合わせで混ぜ,その結合をフローサイトメトリーで検出した. 【結果】野生型マウスの T 細胞と比較し,Neu5Gc 欠損マウスの T 細胞では,刺激後の活性 化マーカー (CD25,CD69) の発現増加が見られた.また,Neu5Gc 欠損マウスの T 細胞で 細胞増殖が亢進していた.さらに,シアル酸含有糖鎖が T 細胞と他の細胞との結合に関与 する可能性を考え,シアル酸分子種の違いが T 細胞-B 細胞相互作用に与える影響を検討し たところ,野生型 (非活性化リンパ球型シアル酸) T 細胞と Neu5Gc 欠損 (活性化リンパ球 型シアル酸) B 細胞との組み合わせの時に,他の組み合わせではあまり検出されなかった T 細胞-B 細胞間の結合が大きく増加した. 【考察】以上の結果より,Neu5Gc 含有糖鎖は T 細胞の活性化を負に制御することが示され た.また,活性化 T 細胞における Neu5Gc の発現抑制は,抗原特異性に依存しない T 細胞 -B 細胞相互作用を抑制することが示唆された.つまり,T 細胞における活性化依存的な Neu5Gc から Neu5Ac へのシアル酸分子種の変化は,T 細胞の活性化だけでなく,リンパ球 間の相互作用にも影響を与え,免疫系の制御に関わっていると考えられる. 図. T 細胞活性化時のシアル酸含有糖鎖の発現 変化. 細胞分裂の回数を検出するため CFSE で標識し た野生型マウスの T 細胞を,抗 CD3 抗体および 抗 CD28 抗体で刺激した.48 時間後に細胞を回 収し,シアル酸含有糖鎖を構造特異的に認識す るプローブで染色して,フローサイトメトリー により検出した. 【文献】1. Naito, Y., Takematsu, H., Koyama, S., Miyake, S., Yamamoto, H., Fujinawa, R., Sugai, M., Okuno, Y., Tsujimoto, G., Yamaji, T., Hashimoto, Y., Itohara, S., Kawasaki, T., Suzuki, A., Kozutsumi, Y. (2007) Mol. Cell. Biol. 27(8), 3008–3022 58 C-15 コンドロイチン硫酸の硫酸化パターンによる神経可塑性の制御 ○宮田真路 1,2,小松由紀夫 3,吉村由美子 4,多屋長治 5,北川裕之 1,2 1 神戸薬大・生化,2 神戸大・G-COE,3 名大・医,4 生理研・神経分化,5 都臨床研・実験動物 【目的】コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)は,コアタンパク質にコンドロイ チン硫酸(CS)鎖が一本以上共有結合した構造をもつ,脳の主要な細胞外マトリックス成 分である.CSPG は脳の発生に伴いパルブアルブミン発現抑制性神経細胞(PV 細胞)の周 囲に濃縮し,ペリニューロナルネット(PNN)と呼ばれる特殊な細胞外マトリックスを形成 する.成体脳にコンドロイチナーゼ ABC を注入し,PNN を除去すると視覚野の可塑性が回 復することから,CS 鎖は可塑性を阻害する物理的障壁であると認識されている.CS 鎖を構 成する N-アセチルガラクトサミン (GalNAc) 残基の 4 位および 6位が硫酸化されることで,4 硫酸化 CS および 6 硫酸化 CS が合成されるが,可塑性における CS 硫酸化修飾の意義は不明 であった.以前我々は,脳の発生に伴い CS の硫酸化パターンが大きく変動すること 1),また 特定の硫酸化パターンをもつ CS 鎖によって神経突起伸長が制御されることを示している 2) .そこで我々は,CS鎖の硫酸化パターンによって,可塑性が調節されるのではないかと考え た. 【方法】上述した作業仮説を検証するため,6 硫酸化 CS の合成を担うコンドロイチン 6-O硫酸基転移酵素(C6ST-1)を過剰発現するトランスジェニック(TG)マウスを作成し,生 化学的および免疫組織学的解析によって,CS 硫酸化が PNN の形成と PV 細胞の成熟に与え る影響を検討した.また,電気生理学的手法を用いて,視覚野における眼優位性可塑性と PV 細胞の発火特性を解析した. 【結果】CS 鎖の硫酸化パターンの変動を解析した結果,野生型マウスの脳では 6 硫酸化 CS が発生に伴い減少するのに対し,4 硫酸化 CS は増加することが分かった.C6ST-1 TG マウス の脳では,野生型と比べ 6 硫酸化 CS が増加し,4 硫酸化 CS が減少しており,成体でも未熟な 硫酸化パターンを維持していた.また,C6ST-1 TGマウスは,成体でも眼優位性可塑性を維持 していた.成体の野生型マウスでは,ほとんどの PV 細胞が古典的な PNN のマーカーである Wisteria floribunda agglutinin (WFA)レクチン陽性の PNN によって覆われるが,C6ST-1 TG マ ウスでは,WFA 陽性の PNN 数が減少していた.正常な PNN の形成は,PV 細胞の成熟に必要な Otx2 ホメオタンパク質の蓄積に必要であり,C6ST-1 TG マウスの PV 細胞は,未熟な電気生 理学的性質を示すことが分かった.さらに,PNN の形成は PV 細胞自身が合成する CS 鎖の硫 酸化パターンによって制御されることが明らかとなった 3). 【考察】これまで CS 鎖は,神経突起伸長に対する物理的障壁となることで,非特異的に可 塑性を阻害すると考えられてきた.一方我々の研究により,生後の CS 鎖の硫酸化パターン が変化することで PNN の形成が調節されることが分かった.また,PNN は Otx2 の取り込み を介して PV 細胞の機能を調節し,それにより視覚野の可塑性を制御していることが明らか となった.以上のことから,脳において CS 鎖は単なる物理的障壁として存在しているので はなく,硫酸化パターンによってその機能が厳密に制御されていることが示された. 【文献】 1. Kitagawa, H., Tsutsumi, K., Tone, Y. Sugahara, K. (1997) J. Biol. Chem. 272, 31377–31381 2. Mikami, T., Yasunaga, D. Kitagawa, H. (2009) J. Biol. Chem. 284, 4494–4499 3. Miyata, S., Komatsu, Y., Yoshimura, Y., Taya, C., Kitagawa, H. (2012) Nat. Neurosci. 15, 414-422 59 C-16 日本人型シスチン尿症を発症させるアミノ酸トランスポーター変異体の機能解析 ○河本泰治 1,2, 永森收志 2, Pattama Wiriyasermkul2,金井好克 2 1 阪大・医,2 阪大院・医・生体システム薬理 【目的】 シスチン尿症は,シスチンを腎尿細管から再吸収するトランスポーターb0,+AT の機能不 全によりシスチンが多発性結石を形成し,重篤な腎機能障害に陥る常染色体劣性の疾患で ある.日本人患者の約8割が共通の変異である P482L 変異を保持している.一般的に,ト ランスポーターの C 末端領域は輸送機能に影響を与えることはなく,むしろタンパク質の 細胞膜における発現に影響する.しかし,P482L 変異はトランスポーターの C 末端の変異 であるにもかかわらず b0,+AT の輸送機能を著しく低下させている.さらに培養細胞系にお いて,P482L 変異体は,野生型と同様に膜に発現するが,輸送機能を喪失していることが 示されている. そこで,なぜ P482L 変異が b0,+AT の機能消失を起こす原因を明らかにするため,疾患モ デルマウスとして P482L 変異体ノックインマウスを作成した. 【方法】 はじめに,作成した P482L 変異マウスの表現系を見るため,24 時間尿を採取し,尿中の アミノ酸を定量解析した.次に,P482L 変異マウスの腎臓刷子縁膜(Brush Border Membrane Vesicle, BBMV)をとり,ウェスタンブロット法により,P482L 変異体のタンパク質発現量 を野生型 b0,+AT の発現量と比較した.さらに,P482L 変異マウスの腎臓切片を作成し,免 疫染色法により野生型および P482L 変異体の局在を比較した.最後に,14C-シスチンを用 いて P482L 変異マウスおよび野生型 BBMV の基質輸送活性と基質結合活性を測定した. 【結果】 尿中のアミノ酸定量解析の結果,P482L 変異マウスはシスチン尿症様症状を示している ことがわかった.一方,ウェスタンブロットの結果,変異型 b0,+AT は刷子縁膜上に野生型 とほぼ等量発現しており,免疫染色においても P482L 変異体は野生型と同様に,頂端膜上 に局在することがわかった.活性測定の結果,P482L 変異体は輸送機能を失っていたが, 野生型と同様に基質結合能を保持していることがわかった. 【考察】 in vivo において P482L 変異体が膜に移行しているにも関わらず,輸送機能を失っている ことが示された.一方で P482L 変異体にシスチンが結合することから,P482L 変異はトラ ンスポーターの基質結合部位には影響を及ぼさないが,基質輸送に必要な構造変化を妨げ ていると示唆される.今後,このモデルマウスを用いて,なぜ C 末端の P482L 変異が b0,+AT の輸送機能消失を引き起こすのか,そのメカニズムの詳細を明らかにしていく予定である. 【文献】 Shigeta, et al. Kidney Int 2006. 1198-1206 60 D-01 DNA-binding Proteins as the Adaptor for Locating Functional Proteins on DNA Nanostructure ○Tien Anh Ngo1,Eiji Nakata1,2, Takashi Morii1,2 1 Graduate School of Energy Science, Kyoto University, Kyoto, Japan 2 Institute of Advanced Energy, Kyoto University, Kyoto, Japan 【目的】DNA, well known as the predominant material for storage of genetic information in biology, has also been shown to be potentially useful as scaffolds for constructing nanomaterials with programmable shape and size1). The DNA nanoarchitectures, such as DNA origami, provide new functional properties to realize application in sensing, catalysis, and device fabrication. To developt an airtificial protein network system on DNA nanoarchitecture, the DNA-binding proteins such as Zing finger protein (ZFP)2) and leucine zipper protein (LZP) were focused as the adaptor for locating functional protein. 【方法】Atomic force microscopy (AFM) and gel electrophorese experiment were conducted to confirm the specific binding of ZFP and LZP fused proteins toward the ZFP binding sites and LZP binding sites on DNA origami. 【結果】The rectangular DNA origami structure that has five addressable cavities (100 nm X 96 nm) was designed as the template for locating functional molecules. ZFP and LZP were confirmed as the adaptors for locating functional protein on DNA origami scaffolds. Fig.1. ZFP as an adaptor for locating fluoresence protein on DNA origami 【考察】Briefly, we have demonstrated that DNA-binding proteins such as ZFPs or LZP are convenient and site-selective adaptors for targeting specific locations within DNA-origami structures. The results lead us new insight on application to construct protein network to realize the desired function . 【文献】 1. Rothemund, P. W. (2006) Nature, 440, 297-302 2. Nakata, E. Liew, F. F. Uwatoko, C. Kiyonaka, S. Mori, Y. Katsuda, Y. Endo, M, Sugiyama, H. Morii, T. (2012) Angew. Chem. Int. Ed, 51, 2421-2424 61 D-02 無細胞タンパク質発現系を用いた架橋性アンチセンス核酸の機能評価 ○杉原悠太,長江悠子,山吉麻子,村上章,小堀哲生 京工繊大院・工芸科学・生体分子工学 【目的】ヒトの全遺伝子配列の情報を基に様々な疾患に関する研究が行われ,遺伝子の突 然変異と疾患の関係が明らかになってきた.そこで,その様な遺伝子変異が原因となる疾 患の治療を目的とした遺伝子発現制御法の開発が重要な課題となってきている.これまで に,標的 mRNA と配列特異的に結合し,mRNA からタンパク質への翻訳を阻害するアンチ センス核酸の開発が行われてきた.その中で,架橋性アンチセンス核酸は標的核酸塩基と 共有結合を形成して,翻訳阻害効果を高めたアンチセンス核酸として注目されている.し かし架橋性アンチセンス核酸は,その反応性の大きさから非特異的な反応が起こってしま う可能性がある.そこで我々は,架橋性アンチセンス核酸の共有結合形成を光で制御する ことを目指し,アルデヒド基を 2-ニトロベンジルアセタール基で保護した 2-クロロヘキサ ナール誘導体をアンチセンス核酸の 5’末端に導入した光応答性架橋型核酸(PCA-ODN)の 開発・評価を行ってきた.PCA-ODN は 1 分間の UV 光照射(365 nm, 400 mW/cm2)により活 性化され,生理的条件下で 24 h 架橋反応させることにより,標的部にアデニンを含むオリ ゴ核酸と 49 %の効率で架橋する性質を持つ 1).本研究では,PCA-ODN が mRNA からタン パク質への翻訳過程をどれほど阻害できるのかを調べるために無細胞系での評価を行った. 【方法】無細胞転写系によって得たホタルルシフェラーゼをコードする mRNA(Fluc mRNA) と PCA-ODN を 37 ℃,1 h でアニーリングした.その後,1 分間の UV 光照射(365 nm, 400 mW/cm2)で PCA を脱保護し,37 ℃,24 h 架橋反応させた.無細胞タンパク質発現系として Rabbit Reticulocyte Lysate System(Promega 社)を用いて 30 ℃,90 分で翻訳を行い,発現させ たルシフェラーゼの量をルシフェラーゼアッセイによって測定した. 【結果と考察】アンチセンス核酸の濃度を変化させ た際のルシフェラーゼアッセイの結果を Figure 1 に 示した.縦軸は発光量を表す.AS-ODN は架橋性部 位を持たないアンチセンス核酸である.Fluc mRNA に AS-ODN または PCA-ODNを加えた系はどちらも, アンチセンス核酸の濃度を大きくするにつれ発光量 が低下した.これはアンチセンス核酸の濃度を大き くすることで,アンチセンス核酸が Fluc mRNA と Figure 1. Antisense study using cell-free より多く結合したためと考えられる.また,AS-ODN translation assay と PCA-ODN を比較すると,1~10 nM では PCA-ODN AS-ODN:Fluc mRNA + AS-ODN, を加えた系は AS-ODN を加えた系よりも発光量が低 PCA-ODN:Fluc mRNA + PCA-ODN All samples were irradiated with UV(at 365 nm 下した.このことは,PCA-ODN と Fluc mRNA との and 400 mW/cm2) for 1 min. 間で架橋が起こり,不可逆的な二重鎖形成が達成さ れたためであると考えられる.100 nM~1 µM では両者に差は見られない.これは,アンチ センス核酸の濃度が大きく架橋の効果が見られないほど多くの AS-ODN が Fluc mRNA と二 重鎖を組んでいるからと考えられる.これらの結果から,PCA-ODN は,通常のアンチセン ス核酸と比較してより効果的に翻訳を阻害することができるアンチセンス核酸であること が示唆された. 【文献】 1. unpublished data 62 D-03 RNA–ペプチド複合体を基本骨格とした蛍光性バイオセンサーの合理的設計法の開発 ○田村友樹,劉 芳芳,仲野 瞬,中田栄司,森井 孝 京大・エネ研 【目的】 三次元構造が決定されている安定な Rev ペプチド–RRE RNA 複合体には,段階的に機能 を付加することができる. RRE RNA のループ部分にランダムな配列を導入して調製した ライブラリーに対し,インビトロセレクションを行うことで特定の基質に結合するリボヌ クレオペプチド(RNP)リセプターを獲得できる 1.また,RNP リセプターのペプチドサブユ ニットに蛍光分子を導入することで,基質結合に伴う RNA の構造変化を反映して蛍光強度 が変化する蛍光性バイオセンサーを作製することができる 2.この RNPセンサーの構造は, 基質結合モジュールとレポーターモジュールに分割して捉えることができる.本研究では, 既存の RNAアプタマーを利用した合理的な蛍光性バイオセンサーのモジュール設計法を検 討した. 図1.Rev-RRE RNA 複合体の段階的機能化 【方法】 RNP センサーを①リセプターモジュール②レポーターモジュールの2つの構成要素に分 割し,それぞれモジュールが蛍光性バイオセンサーの機能に及ぼす効果を評価した.まず, ATP に対するインビトロセレクションから得られた RNP リセプターの中で,ATP の結合に 伴い RNA 構造が変化する RNP リセプターと変化しない RNP リセプターを用いた蛍光性 RNP を作製し,蛍光変化とリセプターモジュールの構造変化の相関を蛍光タイトレーショ ンと二次構造解析により評価した.次に,既知の RNA アプタマーをリセプターモジュール として用いた蛍光性 RNP を構築し,蛍光センサーのモジュール設計法の一般性について評 価した.また,レポーターモジュールに関しては,環境応答性を有する様々な蛍光分子を 修飾した Rev ペプチドを用いて作製した蛍光性 RNP のセンサー機能について評価した. 【結果】 作製した蛍光性 RNP のうち,リセプターモジュールの構造変化を伴わない RNP では, ATP 結合に伴う顕著な蛍光変化は確認されなかった.一方で,構造変化が誘起される蛍光 性 RNP では,ATP 結合に伴い顕著な蛍光変化が確認され,蛍光センサーとして機能した. 次に,既知の RNA アプタマーから構造変化が誘起されるものを選び,蛍光性 RNP を構築 したところ,基質結合に伴う蛍光変化が確認された.さらに,レポーターモジュールとし て励起波長および蛍光波長が異なる蛍光色素を修飾した Rev ペプチドを用いても,蛍光性 バイオセンサーが構築できることが明らかとなった 3. 【考察】 以上の結果から,RNP を基本構造とした蛍光性バイオセンサーの設計に有用な知見が得 られた.リセプターモジュールには,基質結合に伴う構造変化が誘起される既知の RNA ア プタマーを用い,レポーターモジュールには,その構造変化を検知可能な種々の環境応答 性蛍光色素を用いることで,合理的に蛍光性バイオセンサーを構築できる. 【文献】 1) Morii, T. et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 4617. 2) Hagihara, M. et al., J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 12932. 3) Nakano, S. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2011, 21, 4503. 63 D-04 光架橋性核酸素子を用いた RISC 機能制御法の開発 ○松山洋平・山吉麻子・小堀哲生・村上 章 京工繊大院・工芸科学・生体分子工学 【目的】 昨今,microRNA (miRNA) や,small interfering RNA (siRNA) な どの 21 塩基程度の機能性 non-coding RNA (ncRNA) がヒトの遺 伝子発現の大部分を制御していることが明らかとなった.miRNA は,その発現・機能異常がさまざまな疾患に関与していることが 確認されており,このような知見から,miRNA を標的とした治 療薬の開発が注目されている.miRNA は Argonaute タンパク質を 主要構成因子とする,RISC (RNA-induced silencing complex) を Figure 1 2'-O-psoralen 形成することによって,初めてその機能を発揮することが報告さ -conjugated adenosine (Aps) れている.我々は,アデノシン糖環 2’位に光応答性分子ソラレンを持つ 2'-O-psoralen-conjugated adenosine (Aps) を,オリゴ核酸鎖中に持つ光架橋性アンチセンス 核酸 (Ps-oligo) 1)を用いて,RISC の機能を効率的に抑制することにより,miRNA の持つ 遺伝子発現抑制機能を光によって,時空間的に制御する手法の確立を目指した. 【方法】 RISC 機能阻害効果の評価を行う実 Table 1 Sequences of antisense oligonucleotides 験系として,ルシフェラーゼ発現系 Region 1 Region 2 Region 3* 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 Luc-sir-830 及び,その mRNA をノックダウン 5'- a u u g a a u c u u a u a g u c u u g c a - 3' guide strand U A U C A G A A C G U -5’ Ps-AS-1 3’- U A Aps C U U A G A A する siRNA (Luc-sir-830)を用いる系 Ps-AS-2 3’- U A A C U U A G A Aps U A U C A G A A C G U -5’ Ps-AS-3 3’- U A A C U U A G A A U A U C A G A Aps C G U -5’ を構築した.光架橋性アンチセンス AS oligo 3’- U A A C U U A G A A U A U C A G A A C G U -5’ Control oligo 3’- U U A U G G A G U C A A U G U U A A A U A -5’ 核酸鎖中への Aps の導入位置は, AGCU : 2’-OMe RNA, agcu: 2’-OH RNA, Aps: Psoralen-conjugated adenosine Argonaute タンパク中の二重鎖の X *: Structures was not decided by X-ray crystallography in this reagion. 線構造解析の結果 2)を考慮して決定した (Table 1). 2) Relative luminescence intensity (Firefly / Renilla) 【結果と考察】 120 120 (A) (B) HeLa 細胞に Luc-sir-830 を導入 100 AS oligo Ps-AS-1 Ps-AS-2 100 したところ,Luc-sir-830 導入前の Ps-AS-3 control oligo 80 80 細胞と比較して,ルシフェラーゼ 60 60 活性が約 5%に減少した.この細 40 40 胞にアンチセンス核酸を導入し, 20 20 UV 光照射を行ったところ, 0 0 0 5 10 15 20 Ps-AS-1~3 を導入した場合に,UV 0 5 10 15 20 [Antisense oligonucleotides] [Antisense oligonucleotides] (nM) 光非照射時と比較して,ルシフェ ラーゼ活性が顕著に回復すること Figure 2 Inhibitory effects of Ps-oligos on RISC activity A):Without UV irradiation. (B):With UV irradiation (365 nm, 960 mJ/cm2). が明らかとなった (Figure 2).こ (Transfection condiion: [Luc-sir-830] = 20 nM, [Antisense oligo] = 0~20 nM, の結果より,アンチセンス核酸と pGL4.13 = 25 ng/well, pGL4.73 = 62.5 ng/well RISC ガイド鎖との架橋反応が, RISC 機能阻害効果の向上に寄与する可能性が示された.発表では,UV 光照射条件下にお ける,Ps-oligo の RISC 機能阻害機構の作用機序についての解析も併せて報告する. 【文献】 1. Higuchi, M., et al., Bioorg. Med. Chem., 2009, 17, 475-83. 2. Patel DJ, et al., Nature, 2009, 461, 921-967. 64 D-05 迅速・簡便な白血球精製法(LeukoCatchTM)の開発 ○岡本 歩, 鳥形康輔, 野島 博 阪大・微研・分子遺伝 【目的】 末梢血中から赤血球を除去し, 白血球のみを迅速・簡便に採取することは, 臨床現場におけ る診断だけでなく,基礎・臨床研究においても非常に価値がある. しかしながら, 現状では時 間と手間のかかる遠心操作を省くことのできる方法はない. そこで本研究は, 末梢血中から 精製された白血球を取得する迅速・簡便な方法の開発を目的とする. 【方法】 我々は, 末梢血中の赤血球を除去し, 白血球を迅速・簡便に採取できる独自の器具を開発し, LeukoCatchTM と命名した. LeukoCatchTM は, Pall 社製のフィルターを複数枚固定した構造を している. プランジャーの上下動によりフィルターに末梢血を通過させることで白血球のみ を捕獲し, その後細胞溶解用バッファーを吸引して捕獲された白血球を溶解し, 白血球全タ ンパク質抽出液を得る. 効果的な捕獲率を調べるため, 細胞や末梢血を用いて, フィルター 枚数やプランジャーの上下動数の検討を行った. また大量のヘモグロビンが邪魔をして困難 であった白血球由来のタンパク質をウエスタンブロット解析によって確認した. さらに細胞 培養液で溶出した白血球の増殖能力と表面抗原の活性を FACS によって解析した. 【結果】 LeukoCatchTM システムを用いることで, 初心者でも僅か 3 分間で簡便に末梢血(2mL)から 全白血球を調整できた. 実際にヒト末梢血に対してフィルター5枚, 5 回の捕獲処理で 90%以 上の赤血球由来のヘモグロビンが除去でき, 白血球由来のタンパク質がウエスタンブロット 解析によって検出可能となった. また細胞培養液で溶出することにより, 増殖能力と刺激応 答能力を持った白血球の取得が可能となった. さらに, 血液を予め溶血してから LeukoCatchTM システムを用いることで, より精製された機能的な白血球を取得できることを明らかにした. 【考察】 LeukoCatchTM システムを用いることで, ベッドサイドで個々の患者由来の生きた白血球を得 ることができる. これにより癌ペプチド免疫療法や再生医学などへ臨床応用することができ るのではないかと考える. 【文献】 Okuzaki D, Kimura S, Yabuta N, Ohmine T, Nojima H (2011) BMC Clin Pathol 11: 9. 65 D-06 ホルムアルデヒド脱水素酵素を配合ポリマーゲルによるアルデヒド処理技術 ○岸達也,新井智之,多田朋子,和久友則,功刀滋,田中直毅 京工繊大院 生体分子工学専攻 [Methanol] (mM) 【目的】住宅や医療現場に多用されているアルデヒドは癌 やシックハウス症候群の原因物質としてその処理法の開発 が求められている.我々は,Pseudomonas sp.由来ホルムア ルデヒド脱水素酵素(FDH)が補酵素ニコチンアミドアデニ ンジヌクレオチド(NAD+)を消費せずにアルデヒド 2分子を 1 分子の酸とアルコールに変換する dismutation を起こす Scheme 1. Dismutation of (Scheme 1)ことが利用して気相中のアルデヒドを処理する FDH from Pseudomonas sp. converting aldehyde into 方法を開発してきた 1). 本研究では FDH をアルギン酸 (ALG)とポリビニルアルコール(PVA)の混合ゲルビーズに carboxylic acid and alcohol. 固定化することにより,液相中のアルデヒドを処理する方法を開発した.酵素安定性の向 上と繰り返し利用を可能とする持続的なアルデヒド処理技術の構築に成功した. 【方法】100 mM MES 緩衝液(pH6.5)に溶解させた ALG と PVA を 85℃で 45 分間攪拌,混 合して調製したゾル溶液を室温まで溶液を放冷し,FDH(0.45 mg/ml,4.20 U/mg,TOYOBO) を添加し,十分に攪拌を行った.27G(0.4m/m)の注射針を用いて溶液を採取し, Φwt%-CaCl2/2wt%-H3BO3 に滴下,8℃で 1 時間浸漬させた後,10wt%-Na2SO4/1wt%-MgSO4 に移し,8℃で 45 分間浸漬させた 2).次に,バイアル瓶に補酵素の 2 mM NAD+とパラホル ムアルデヒドから加熱分解して得た 50 mM のホルムアルデヒドを準備し,調製したゲルビ ーズを添加し酵素反応を開始させた.ホルムアルデヒドとメタノールの濃度の経時変化を AHMT 法とガスクロマトグラフィ・ヘッドスペース法により定量評価し,酵素反応の解析 を行った. 6 【結果】ホルムアルデヒドが減少すると同時にメタノールが ● 1st 生成した.また,pH6.5 の条件で ALG(1.5wt%,DP=650)と 5 ■ 3rd PVA(10wt%,Mw=6000)を混合して調製したゲルビーズで高 4 ▲ 5th い FDH 活性が示された.繰り返し利用については,アセト 3 アセチル基を導入した PVA を用いることでゲルの強度が増 2 大し,5 回目の利用でも 60.6%の反応性が得られた(Figure 1). 1 【考察】ゲルビーズ存在の酵素反応溶液中にメタノールが生 0 0 1 2 3 4 成していることから,補酵素を消費せずに dismutation によ Figure 1. Time course Time (h) ってアルデヒドが処理された.また,アセトアセチル基は水 concentration of methanol in 和したホルムアルデヒドと架橋を形成することから,酵素反 the reaction medium with ALG-acetoacetylated-PVA 応溶液中のホルムアルデヒドとゲルビーズ中の PVA が架橋 immobilizing FDH. を形成し,網目構造が細かくなり,FDH を安定に保持した と考えられる. 【文献】 1) Tanaka, N. et al., ACS Appl. Mater. Interfaces. 1 228 (2009). 2) Nunes, M. A. P. et al., Appl. Biochem. Biotechnol. 160 2129 (2010). 66 D-07 細胞透過性ペプチドによる抗原タンパク質のナノ粒子化と抗原提示細胞への移送 ○市川将弘, 寺澤希実, 和久友則, 功刀滋, 田中直毅 京工繊大院 生体分子工学専攻 【目的】抗原タンパク質を効率的に抗原提示細胞へと移送する技術は,免疫療法において 必要不可欠なステップである. これまで我々は抗原モデルであるオボアルブミン (OVA) が 熱変性状態において繊維状凝集体を形成する機構を研究してきたが 1) ,最近 OVA は変性 状態でポリカチオンとイオンコンプレックスを形成して, ナノ粒子を形成することが知ら れている 2).抗原提示細胞はナノサイズの粒子状物質を効率的に取り込むことから, 本研究 では OVA をナノ粒子化することにより高い細胞移送性を付与することを試みた. ポリカチ オンとして細胞透過性を示す HIV-1 TAT ペプチド (RKKRRQRRR) を用い 3), OVA のナノ 粒子化を誘導する条件を調査した. 【実験】OVA 200 μg/mL (4.5 μM) に対して 2 倍モル濃度の TAT ペプチドを 0.5 mM リン 酸バッファー (pH 7.5) 中で混合し 80℃で 30 分加熱することでナノ粒子を作製した, そ の形態を透過型電子顕微鏡 (TEM), 動的光散乱 (DLS) および ζ-電位測定により調査し た. またナノ粒子の粒径制御を目的として OVA に対して添加する TAT ペプチドの濃度を 1-4 倍の間で変化させてナノ粒子を作製し, その形態を TEM および DLS によって評価し た. さらにナノ粒子の細胞移送挙動を調査するため, FITC 修飾 OVA を用いてナノ粒子を 作製し, マウス由来マクロファージ様細胞 (RAW264) に 37℃, 5%CO2 条件下で 1 時間取 り込ませた後, フローサイトメトリー (FCM) および共 焦点レーザー顕微鏡 (CLSM) を用いてナノ粒子の細胞移 送効率を調査した. 【結果】TEM による形態観察の結果, ナノ粒子の形成を 確認し, そのサイズは DLS 測定より約 80 nm であること が明らかとなった (Fig. 1), またその表面電荷は ζ 電位測 定より約-25 mV であった. OVA に対して添加する TAT ペプチド濃度を変化させた結果, 50-150 nm 程度での粒径 制御が可能であり, OVA に対して添加する TAT ペプチド の濃度が 3 倍以上で不定形な凝集体を形成しナノ粒子化 しないことが明らかとなった. また FCM 測定および CLSM Fig. 1 TEM image of OVA/TAT 観察の結果, OVA ナノ粒子は OVA 単独の場合と比較して peptide nanoparticle. Prepared at pH7.5 with protein conc. of 200 顕著な細胞移送性を示した (Fig. 2). μg/mL and peptide conc. of 9.04 【考察】ナノ粒子表面は負に帯電しているため OVA ナノ μM, then 30 minute heated. 粒子は TAT ペプチドが粒子内部に取り込まれている可能 性が示唆された. OVA ナノ粒子の細胞移送における TAT ペプチドの役割は現段階では明らかではなく, 今後ナノ 粒子の構造解析によりその機構を調査する. 【文献】 1) Tanaka N. J. Biol. Chem. 286, 5884 (2011). 2) Yu S. et al., Langmuir 22, 2754 (2006). 3) Futaki S. et al., J. Biol. Chem. 84, 5836 (2001). Fig. 2 Cellular up take of OVA nanoparticle or OVA. 67 D-08 好中球の Netosis における Syk の機能の検討 ○川上辰三,大口千穂,波多野亜紀,加地弘明,通山由美 姫路獨協大・薬・生化 【目的】我々は,これまでの研究成果として,チロシンキナーゼ Syk がマクロファージによ る補体を介した食作用において,異物の細胞内への取り込みに必須の役割を担う事を見いだ した 1). 本研究では,好中球における Syk の機能を明らかにするため, 1)補体を介した食 作用と 2)核成分破壊を伴う特殊な細胞死(Netosis)の結果生じる病原菌用の投網,NETs (Neutrophil extracellular traps) 形成について,ミエロペルオキシダーゼ (MPO) の動態に着 目して検討した. 【方法】ヒト白血病細胞株 HL60,および Syk-shRNA を導入することにより Syk の発現を抑 制した Syk-shRNA/HL60 を好中球様に分化して用いた. 補体依存性の食作用をおこなうた め,酒酵母死菌,Zymosan を,ヒト血清中で,37 度 30 分間処理して貪食させた.貪食および MPO により産生された過塩素酸生成量はフローサイトメーターにより定量した.インビト ロに NETs 形成を誘導するため,好中球様に分化した HL60 および Syk-shRNA/HL60 をホル ボールエステル PMA で処理し,その後の核の変化を核膜透過性,および非透過性の核酸染色 蛍光試薬(Sytox)存在下で追跡した. 【結果】補体活性化成分,C3bi でラベルされた Zymosan は,好中球様に分化した HL60 に効 率よく貪食された.貪食後の時間経過とともに,MPOにより生成される過塩素酸陽性の顆粒 が増加して食胞と融合し,融合後さらに活性化することが確認された. Syk の発現を抑制した Syk-shRNA/HL60 では,HL60 と比較して貪食依存性に生成する過塩 素酸が有意に抑制されており,Syk が MPO の活性化に寄与することが示唆された.さらに, 好中球による病原微生物の殺菌に重要な NETs 形成に Syk が関与するかどうか,PMA 依存 性の核の変化について検討した.好中球様に分化した HL60 では,PMA 刺激後 4h で過半数の 細胞において Sytox 陽性の NETs 形成が確認された.そのプロセスを詳細に追跡すると, 1) 刺激直後に過塩素酸含有顆粒が発生して核膜と融合し(5-60 分), 2)その後徐々に核酸の希 薄化がおこって辺縁部位にリング状に分布, 3)核膜および細胞膜が崩壊して網状構造を 形成した.Syk-shRNA/HL60 では,HL60 と比較して過塩素酸含有顆粒の発生,Netosis,共に抑 制されていた. 【考察】以上の結果により,チロシンキナーゼ Syk は補体依存性貪食にともなう MPO の活 性化の上流で機能し,過塩素酸含有顆粒の生成と顆粒が融合した結果上昇する食胞内の過塩 素酸濃度の維持に寄与すること,さらに NETs 形成のプロセスにおいても Syk が重要な役割 を果たしていることが示された. PMA 依存性 Netosis においては,刺激後速やかに核膜に過 塩素酸陽性顆粒が融合し,その後 NETs が形成されたことより,Syk が MPO の活性化を介し て必須の機能を果たしていると考えられる.好中球による生体防御機構において,Syk が活 性酸素の生成を介して多面的に寄与していることが示唆された. 【文献】 1. Shi Y, Tohyama Y, Kadono T, He J, Miah S. M. S, Hazama R, Tanaka C, Tohyama K and Yamamura H. (2006) Blood 107(11), 4554-4562 68 D-09 Hansenula polymorpha Pex14p のリン酸化部位の機能解析 ○田中勝啓, 竹中重雄, 小森雅之 大阪府立大学 生命環境科学域 獣医学類 細胞分子生物学教室 【目的】 メタノール資化性酵母 H. polymorphaではメタノール代謝に係わる主な酵素群がペルオキ シソーム内に局在するため, 炭素源をメタノールにすることで容易にペルオキシソームが誘 導される. ペルオキシソーム膜タンパク質 Pex14p はマトリックスタンパク質のペルオキシ ソームへの移行に関与しており, Δpex14 欠失変異株では, メタノール培地で正常なペルオキ シソーム形成が行われず, 生育することが出来ない. また野生株では培地中の炭素源をメタ ノールからグルコースへ換えることによってペルオキシソームの選択的分解(ペキソファジー) が誘導されることが知られているが, 我々は Pex14p がペキソファジーにも関与しているこ とを明らかにしている 1). さらに我々は Pex14p が in vivo でリン酸化されることも明らかに しており 2), 質量分析によりその部位を Thr248, Ser258 と決定した. 本研究では Pex14p のリン 酸化の機能を解析した. 【方法】 Pex14p リン酸化部位 Thr248, Ser258 を Ala に置換した変異体を作製し,実験に用いた. また, 新 たに Ser258 リン酸化部位を Asp, Glu に置換したリン酸化擬似体を作製した.各 Pex14p 変異体 は分画遠心法によりオルガネラ膜画分とサイトゾル画分に分画し, ウェスタンブロットによっ てその局在を確認した. 変異によるペキソファジーに対する影響はペルオキシソームマトリッ クスタンパク質のアルコールオキシダーゼ(AOX)の分解を指標に解析した. また, 各種スト レス下での生育に対する Pex14p リン酸化の機能を調べるため, リン酸化部位変異体を用い て酸化ストレス(100 mM H2O2), 熱ストレス(50 °C)下における各種変異株の生育能を解析し た. 【結果・考察】 すべての Pex14p リン酸化部位変異体は分画遠心法によりオルガネラ膜画分に回収された ことから, 野生型と同様にペルオキシソームに局在していることが示唆された. また, 各変異 体のペキソファジーへの影響を調べたが, 野生型と大きな差は認められなかった. 酸化ストレス下での生育に各変異体は野生型と差は認められなかった. ことから, Pex14p リン酸化は酸化ストレスには関与していないと考えられる. さらに, 熱ストレス下での生育 への影響を各変異体について調べたところ, T248A変異体は熱ストレスによる生育抑制に抵 抗性を示した. T248A 変異体は Thr248 を Ala に置換することで Thr248 以外のリン酸化部位が 代償的に強度にリン酸化される変異体であり, この熱ストレス抵抗性メカニズムの解析を現 在引き続き検討している. 【文献】 1. Bellu, A.R., Komori, M., van der Klei, I.D., Kiel, J.A., Veenhuis, M. (2001) J. Biol. Chem. 276, 44570-4 2. Komori, M., Kiel, J.A., Veenhuis, M. (1999) FEBS Lett. 457, 397-9 69 D-10 ホスホリパーゼ A2 グループ 7(PLA2G7)の遺伝子多型とマクロファージにおけるアポトー シス誘導との相関 1 1 ○前田利長 ,竹内圭介 ,高嶋直敬 2, 藤吉朗 2,門脇崇 2,三浦克之 2,上島弘嗣 2,扇田 久和 1 1 滋賀医大・分子病態生化, 2 滋賀医大・公衆衛生 【目的】ホスホリパーゼ A2 グループ 7(PLA2G7)は,遺伝子多型により 279 番目のアミ ノ酸のバリン(V)残基がフェニルアラニン(F)残基に変化する (V279F)と,細胞からの 分泌および酵素活性が抑制されることが報告されている.PLA2G7 を産生する細胞の一つ にマクロファージがある.また,血中 PLA2G7 レベルと動脈硬化進展との関連についても いくつか解析されているが,その分子機構については不明な点も多い.そこで今回,PLA2G7 の遺伝子多型がマクロファージの機能に及ぼす影響について,そのアポトーシス誘導性に 着目して検討した. 【方法】我々が行っている大規模臨床研究 ACCESS 研究の参加者 24 名から血液を採取し, PLA2G7 の遺伝子多型(野生型(V/V),ヘテロ変異体型(V/F),ホモ変異体型(F/F))を 解析した.また,バフィコートを用いて血液から単球を集め,顆粒球・マクロファージコ ロニー刺激因子存在下で6日間単球を培養した.このマクロファージを, 10 µg/ml のアセ チル化低密度リポタンパク質(AcLDL),または 10 µg/ml のコレステロールアシル転移酵素 (ACAT)阻害薬の添加の有無により 3 群に分け,さらに 16 時間培養した.これらのマク ロファージについて細胞膜アネキシン V に対する染色を行い,アネキシン V 陽性の細胞は アポトーシスが誘導されているとして計測した. 【結果】アポトーシスが誘導されていたマクロファージの割合は図 1 に示すように,ホモ 変異体型,ヘテロ変異体型,野生型の順で増加していた.AcLDL や ACAT 阻害薬添加の有 無でアポトーシス誘導率に変化は見られなかった. アポトーシス誘導率 (%) 50 p=0.007 p=0.060 p=0.028 40 ホモ変異体型 (F/F) n=8 30 ヘテロ変異体型 (V/F) n=8 誤差範囲は標準偏差を示す 野生型 (V/V) n=8 20 10 誤差範囲は標準偏差を示す 0 - - + - - + AcLDL ACAT 阻害薬 図1.PLA2G7 遺伝子多型とマクロファージのアポトーシス誘導率 【考察】以上の結果より,PLA2G7 の V279F 変異体を持つマクロファージが,アポトーシ スを生じやすくなっていることが明らかとなった.アポトーシスを促進すると考えられた AcLDL 添加や ACAT 阻害薬を添加してもアポトーシス誘導率に大きな変化は見られなかっ た.このことから,マクロファージのアポトーシスが脂質により誘導されたのではなく別 の機構によるものと考えられた.今後,PLA2G7 の V279F 変異体がどのような機序でマク ロファージのアポトーシスを誘導しているのか明らかにしていきたい. 70 D-11 Neuropilin-1 を介する血管内皮増殖因子:VEGF-A のシグナル伝達は, 悪性上皮癌細胞の生存と増殖を促進する ○吉田亜佑美 1,清水昭男 2,3,Michael Klagsbrun2,瀬尾美鈴 1,3 1 京産大・院工・生物工学,2Vascular Biology Program, Children's Hospital Boston, Harvard Medical School,3 京産大・総合生命・生命システム 【目的】血管内皮増殖因子(VEGF-A)は,腫瘍の成長において腫瘍血管新生を誘導する ことにより,癌細胞の増殖と転移を促進することが知られている.我々は,VEGF-A が血 管内皮細胞に対する増殖,遊走の効果を持つだけではなく,オートクリンに癌細胞自身の 増殖,生存を促進することを見いだした.そして,VEGF-A の癌細胞への効果は,チロシ ンキナーゼ活性を有する VEGFR 依存性ではなく,キナーゼを持たないニューロピリン−1 (Neuropilin-1:NRP1)に依存していることを示した.NRP1 は,最初は神経の軸索誘導に 関わるレセプターとして同定されたが,血管内皮細胞や癌細胞に発現していることが報告 された.本研究において,NRP1 の細胞内ドメインに結合することが報告されている GIPC1, RhoGEF である Syx,低分子量 G タンパク質 RhoA が VEGF-A/NRP1 の下流に存在し,癌細 胞の生存/増殖シグナルを伝達している可能性を示唆した. 【方法】転移性のヒト皮膚扁平上皮癌細胞由来の DJM-1 細胞,ヒト前立腺癌細胞株 PC3M 細胞を用いた.DJM-1 細胞,PC3M 細胞における VEGF-A,NRP1,GIPC1,Syx のタンパ ク質発現の抑制は,siRNA を使用した.HUVEC,並びに DJM-1 細胞の遊走能の測定は, transwell migration assay を用いて行った.足場非依存状態における DJM-1 細胞,PC3M 細胞 の増殖,生存能(コロニー形成能)の評価には,soft agar assay を用いた.NRP1-GIPC1-Syx 間の相互作用は,免疫沈降法によって共沈させ確認した.RhoA の活性化は,Rhotekin-RBDProtein GST Beads(Cytoskelton 社)を用いてプルダウンし,調べた. 【結果】DJM-1 細胞,PC3M 細胞において,VEGF-A は NRP1 を介して足場非依存状態での コロニー形成を促進した.VEGF-A による NRP1 シグナルは,GIPC1 と RhoGEF の一種で ある Syx との複合体形成を促進した.また,VEGF-A は細胞骨格の再編成に関わる低分子 量 Gタンパク質である RhoAを活性化した.VEGF-A による RhoAの活性化は,NRP1,GIPC1, Syx の siRNA で抑制された.さらに,RhoA の活性化を Rho 特異的な阻害剤である C3 exoenzyme によって阻害すると,DJM-1 細胞のコロニー形成は抑制された. 【考察】以上の結果から,VEGF-A は NRP1 を介し GIPC1/Syx 複合体形成を誘導すること で RhoA を活性化し,癌細胞のコロニー形成を促進していることが示唆された.本研究に おける NRP1 を介した VEGF-A のシグナル伝達の解明は,癌治療の新しい戦略として重要 であると考えられる. 71 D-12 解糖系代謝物メチルグリオキサールは TORC2 の活性化因子である ○野村 亘 1,3,河田照雄 1,井上善晴 2 1 京大院・農・食品生物,2 京大院・農・応生科,3 日本学術振興会特別研究員 【目的】Target of rapamycin (TOR)は,酵母からヒトまで保存されたセリン/スレオニン キナーゼである.TOR は異なる 2 つの複合体(TORC1,TORC2)を形成することで,様々 な細胞機能に関与している.酵母において TORC2 は,アクチン細胞骨格系の組織化やスフ ィンゴ脂質代謝に関与するが,哺乳動物ではインスリンや成長因子の刺激に応じて活性化 され,Akt を始めとするいくつかの AGC キナーゼをリン酸化することで,シグナル伝達系 を調節する.しかしながら,酵母では TORC2 の活性化因子はわかっておらず,シグナル伝 達系への関与についても明らかになっていない. これまでに我々は,解糖系代謝物であるメチルグリオキサール(MG)が,出芽酵母のグ ルコーストランスポーターのエンドサイトーシスを促進することを明らかにしているが, MG によるエンドサイトーシスに TORC2 や AGC キナーゼファミリーに属する Pkc1 が必要 であったことから 1),MG が TORC2 の活性化に関与することが期待された.そこで,MG が TORC2 活性に与える影響について,Pkc1 の活性化を指標にして解析を行った. 【結果】これまで,酵母細胞において TORC2 が Pkc1 を基質とするかどうか明らかにされ ていなかったが,今回, in vitro キナーゼアッセイにより,TORC2 は Pkc1 の C 末端領域に ある turn motif,および hydrophobic motif 内の Thr1125,Ser1143 をリン酸化することを明ら かにした.Pkc1 は Mpk1 MAP キナーゼカスケードを活性化するが,MG は Mpk1 のリン酸 化を Pkc1 依存的に促進することを見いだした.この MG による Pkc1 の活性化は,TORC2 の必須構成成分の発現を抑制することにより著しく抑えられた.さらに,Pkc1 の TORC2 リン酸化部位である Thr1125,ならびに Ser1143 の Ala 置換体では,MG による Mpk1 のリ ン酸化は起こらなくなった. また,MG が哺乳類 TORC2(mTORC2)の活性化因子として機能しているかどうかを明 らかにするため,マウスの脂肪細胞ならびに筋芽細胞を用いて,mTORC2 の基質の一つで ある Akt のリン酸化を指標にして解析を行った.その結果,MG は Akt の Ser473 のリン酸 化を促進することを見いだした. 【考察】以上の結果は,酵母 Pkc1 が TORC2 の基質であることを明らかにするとともに, Pkc1 による Mpk1 MAP キナーゼカスケードの活性化が,TORC2 により調節されることを 示している.さらに,MG が酵母ならびに動物細胞において TORC2 の基質のリン酸化を促 進したことから,MG は TORC2 の活性化因子として機能していると考えられた. 【文献】 1. Yoshida, A., Wei, D., Nomura, W., Izawa, S., Inoue, Y. (2012) J. Biol. Chem. 287, 701-711. 72 D-13 高度好熱菌由来 Ser/Thr protein kinase TTHA0138 の機能解析 ○ 飯尾洋太 ,高畑良雄 2,井上真男 1,金光 1,福井健二 3,上利佳弘 3,新海暁男 3, 増井良治 1,3,倉光成紀 1,2,3 1 阪大・院理・生物科学,2 阪大・院生命機能,3 理研・播磨研 1 【目的】蛋白質のリン酸化は真核生物,原核生物を問わず,シグナル伝達という重要な役 割を果たしている.真核生物でよく知られている Ser,Thr,Tyr のリン酸化は,近年原核生 物にも広く存在することが明らかになりつつある.しかし,原核生物において,それらの リン酸化が関与するシステムについてはほとんど明らかになっていない.そこで我々は, 遺伝子数が少なく,よりシンプルなシステムを持つ高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8 をモデル生物として原核生物における蛋白質リン酸化の解析を進めている(図1).すでに nanoLC-MS/MS 分析によって,高度好熱菌細胞において 48 種類のリン酸化蛋白質を同定し た (1) .しかし,どの protein kinase がどの蛋白質をリン酸化するかは不明である.同定し たリン酸化蛋白質のなかには,高度好熱菌が持つ真核生物型の Ser/Thr protein kinase の一つ である TTHA0138 と機能未知蛋白質 TTHA0139 が含 まれていた.両蛋白質の遺伝子は隣接していること から,既知の例と同様,TTHA0139 が TTHA0138 の 基質となる可能性が考えられる.また,アミノ酸配 列解析からは TTHA0139 が DNA 結合蛋白質である 可能性が示唆された.そこで本研究では TTHA0138 をターゲットとして,その細胞内での機能を推定す るためのトランスクリプトーム解析,および精製標 図 1. 高度好熱菌の蛋白質 品を用いた分子レベルでの機能解析を行なった. リン酸化システムの概要 【方法】ttha0138 遺伝子欠損株を作製し,対数増殖期の細胞から抽出した mRNA について, DNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析を行い,野生株の結果と比較した. 次に,TTHA0138, TTHA0139 の精製標品を用いて in vitro での種々の活性を測定した.さら に,ゲルシフト法を用いて TTHA0139 の DNA 結合能,および TTHA0138 によるリン酸化 が TTHA0139 の DNA 結合能に与える影響を検証した. 【結果】DNA マイクロアレイ解析の結果,野生株と比較して ttha0138 欠損株では 478 個の 遺伝子の転写レベルに変化が見られた.転写量が減少していた遺伝子 (223 個) の中には, 翻訳,DNA 複製,解糖系やクエン酸回路などエネルギー生産に関わる遺伝子が多く見られ た.一方,転写量が増加した遺伝子 (255 個) にはストレス応答に関わる遺伝子や DNA 修復 に関わる遺伝子などが見られた.興味深いことに,これらの転写レベルの変化は,野生株 において,定常期の細胞と比べた場合に対数増殖期の細胞が示す傾向と似ていた.また, ttha0138 欠損株では増殖速度の低下が見られた.次に,活性測定の結果,TTHA0138 が TTHA0139 をリン酸化することが分かった.また,TTHA0139 は二本鎖 DNA に結合するが, TTHA0138 によるリン酸化に伴い,DNA 結合能の低下が見られた. 【考察】トランスクリプトーム解析の結果は,ttha0138 の欠損によって細胞の増殖が抑制 された可能性を示している.このことから ttha0138 がコードする protein kinase は細胞増殖 の制御に関わっている可能性が考えられる.また,in vitro での実験結果から,TTHA0138 は TTHA0139 をリン酸化することで,その DNA 結合能を制御すると考えられる.TTHA0139 が持つ DNA 結合能の生物学的な意義はまだ不明だが,ttha0138 の破壊によって ttha0139 の 転写量も減少することから,転写調節因子として働いている可能性も考えられる. 【文献】 1. Takahata, Y., Inoue, M., Kim, K., Iio, Y., Miyamoto M., Masui, R., Ishihama, Y., and Kuramitsu, S. (2012) Proteomics (in press) 73 D-14 Lats2 ノックアウトマウス胎性線維芽細胞のトランスクリプトーム解析 ○鳥形康輔 1,奥崎大介 1,2,藪田紀一 1,2,野島博 1,2 1 阪大・微研・分子遺伝,2 阪大・微研・感染症 DNA チップ開発センター 【目的】Lats2 は NDR ファミリーに属する Ser/Thr キナーゼであり, 臓器サイズを制御する Hippo pathway の構成因子としてがん抑制的に機能する. 我々は Lats2 が細胞周期の制御, と くに有糸分裂を通して DNA損傷チェックポイントと染色体の安定化において重要な役割を 果たすことを見出した 1). Lats2 は細胞増殖関連遺伝子の転写制御をはじめ, その下流のさま ざまなプロセスの制御因子としての機能が想定されている一方で, Lats2 と協働するシグナ ル伝達系の詳細は未だ明らかにされていない. 本研究ではそれら Lats2 関連シグナル伝達経 路の解明を試みた. 【方法】Agilent 社製 Dye-swapped DNA マイクロアレイを用いて Lats2 ノックアウトマウス 胚から樹立した胎性線維芽細胞(MEF)の対数増殖期における mRNA レベルを野生型 MEF と比較した. 同定した発現変動遺伝子(DEG)の機能, pathway, オントロジー解析を Ingenuity Pathway Analysis (Ingenuity System)または NextBio (www.nextbio.com)にて行った. 【結果】Lats2-/- MEF において DEG として 1884 遺伝子(発現上昇: 957, 発現減少: 887)が同定 された. 最も顕著な発現上昇が見られた遺伝子は HOXB2, BVES, SEPP1 (168.5~75.2 倍)であ り, 最も発現が減少した遺伝子は ELAVL2, ALDH1A3, TNN (-266.0~-121.6 倍)であった. 今 回得られた遺伝子発現パターンは“Cellular Movement”, “Cell Death”, “Cellular Assembly and Organization”, “Cellular Growth and Proliferation”など複数の機能オントロジーグループに分類 された. また先行研究において Lats2-/- MEF においてタンパク質レベルで減少が確認されて いる G2/M DNA 損傷チェックポイントに係る M 期キナーゼのひとつ PLK1 遺伝子の転写減 少も確認した. 【考察】今回の解析から, がん抑制遺伝子である p53 の標的遺伝子の有意な発現変動が見ら れた. アポトーシスシグナル伝達経路においては p53の標的であるプロアポトーシス遺伝子 PERP の発現上昇と抗アポトーシス遺伝子 BCL2L1 の発現減少がそれぞれ確認された. また DNA 損傷に対する細胞周期停止に係る p53 標的遺伝子 CCNG1, GADD45D の有意な発現変 動も確認された. p53 は転写レベルでの変動がないことから, p53 はタンパク質レベルで顕著 に活性化していることが示唆された. 以上のことから, Lats2 は p53 シグナルと協調して複数 のプロセスにおいてがん抑制的な機能を発揮していると考えられる. 【文献】Yabuta, N., Okada, N., Ito, A., Hosomi, T., Nishihara, S., Sasayama, Y., Fujimori, A., Okuzaki, D., Zhao, H., Ikawa, M., Okabe, M., Nojima, H. (2007) J. Biol Chem. 282, 19259-71 74 D-15 GAK を標的としたゲフィチニブ・ルテオリンの併用は ヒト前立腺がん細胞株 PC-3 の細胞死を促進する. ○櫻井みなみ 1,尾崎友紀 1,内藤陽子 1,伊藤彰彦 2,薮田紀一 1,野島博 1 1 阪大・微研・分子遺伝,2 近大・医・病理 【目的】前立腺がんはアメリカ人男性のがんによる死因において第二位であり,近年日本 人男性においても罹患率が急上昇している.前立腺がんの治療にはホルモン除去療法が用 いられるが,長期間にわたり治療を行うことで,ホルモン耐性を持ったがんが生じる.ま たこのようながんは悪性度が高い.Cyclin G associated kinase(GAK)は当研究室で発見された セリン/スレオニンリン酸化酵素であり,EGFR 阻害剤として知られるゲフィチニブにより リン酸化能を阻害されることが知られている.最近,AR が GAK と結合すること,また前 立腺がんの組織アレイにより悪性度が高い前立腺がんにおいて GAKの発現が亢進している ことが報告された.本研究では,前立腺がん新規標的因子としての GAK の影響の解明を目 的として解析を行った. 【方法】ヒト前立腺全摘出サンプルを用いて,GAK 及びアンドロゲン受容体(AR)の発現と その局在について免疫組織学的解析を行なった.またキナーゼアッセイにより,GAK を阻 害する薬剤を調べ,ヒト前立腺がん細胞株に投与した後,増殖曲線の作製やウェスタンブ ロット法により薬剤の影響について解析を行った. 【結果】免疫組織学的解析により,高グリーソンスコアのヒト前立腺がんにおいて GAK が 高発現していた(図 A).また GAK は AR とともに核で局在していることを明らかにした. 続いて GAK のキナーゼアッセイを行なったところ,フラボノイドの一種であるルテオリン がゲフィチニブと同程度に GAK のキナーゼ活性を阻害することを明らかにした. そこで私たちは,高悪性度のヒト前立腺がん細胞株 PC-3 にゲフィチニブ,ルテオリンを投 与し,その影響について解析した.ゲフィチニブ,ルテオリンを単剤投与すると 50%程度 細胞死するが,2 剤併用して投与を行うと 90%程まで死細胞率が上昇するという結果が得 られた. 図 A. 前立腺がん組織での GAK の発現におけるカイ二乗検定 図 B. ゲフィチニブ・ルテオリンの投与における PC-3 の増殖曲線 【考察】以上の結果から,GAK はヒト前立腺がんの有用なマーカーになりうること,また ゲフィチニブ・ルテオリンの 2 剤投与は,GAK 陽性の前立腺がん患者をターゲットとした 治療に寄与すると結論した. 75 D-16 Cyclin G1 及び Cyclin G2 と PP2A B'γ の結合様式の解析 ○大野将一 1,内藤陽子1,薮田紀一1,野島博1 1 阪大・微研・分子遺伝 【目的】Cyclin G1(CCNG1)は細胞周期チェックポイント機構の中心的な役割を担ってい る転写因子 p53の標的遺伝子の一つであり,DNA損傷に応答して p53依存的に誘導される. Cyclin G2(CCNG2)は CCNG1 と高い相同性をもち, Cyclin Boxや C末端に ELP (EGF/ErbB-like autophosphorylation) モチーフ(23 アミノ酸)を共通してもっているが,PEST 配列を有し,標 的とする転写因子は p63 であるという点では異なっている.CCNG1 と CCNG2 はタンパク 質脱リン酸化酵素 2A の B’サブユニット(PP2A B’)と結合しそのリクルーター(運搬役)と して脱リン酸化サブユニット(PP2A C) を標的に近接させる役割を担っている CCNG1 はリ クルート先として E3 ユビキチンリガーゼである Mdm2 があげられ,その脱リン酸化を促 進することにより,p53 の機能を負に制御している 1).本研究では CCNG1 及び CCNG2 と PP2A B’複合体の生理的機能の違いや分子制御メカニズムを解析するツールとしての阻害剤 (分子標的薬)あるいは阻害ペプチドを開発することを目的として,それらの結合部位を 決定した. 【方法】CCNG1,CCNG2 及び PP2A B’のγ(実験では最長のγ3 選択スプライシング・ア イソフォームを使った)の切断型変異体を作製し,細胞内で過剰発現させ,免疫沈降を行っ た.同様にして人工的に作製した遺伝子組み換え体 CCNG1/ CCNG2変異体についても in vitro assay で pull down を行うことで結合部位を解析した. 【結果】CCNG1/ CCNG2 の変異体を用いて免疫沈降した結果,PP2A B’γは CCNG1 及び CCNG2 共に ELP モチーフのみで結合していた.Pull down assay の結果からも同様の結果が 得られたため,確かに ELP モチーフのみで直接結合していると結論した.次いで CCNG1 の全長と ELP モチーフと共に PP2A B’γを過剰発現させた細胞で免疫沈降を行なったとこ ろ,ELP モチーフによる CCNG1 と PP2A B’γの結合の阻害が見られた.ELP ペプチドを用 いると一層強力に結合が阻害された.一方,CCNG1 および CCNG2 は PP2A B’γの N 末端 1-151 アミノ酸の領域で結合していた. 【考察】CCNG1 および CCNG2 は PP2A B’γと ELP モチーフで結合しており,CCNG1 に おいて,その EAP モチーフのみを発現させると全長同士の結合が阻害された.CCNG1 は PP2A B’の運搬役として E3 ユビキチンリガーゼである Mdm2 の脱リン酸化を促進し,p53 の分解を負に制御しているので,結合部位の決定は,その結合を阻害する阻害剤の探索に 役立つはずである.特に Mdm2 の過剰発現によって引き起こされる癌の有効な治療薬の開 発を目指した研究に進展させることができるかもしれない. 【文献】 1. Okamoto K, Li H, Jensen MR, Zhanf T, Taya Y, Thorgeirsson SS and Prives C. Cyclin G recruit PP2A to dephosphorylate MDM2. Molecular Cell, vol.9 761-771 (2002) 76 第 59 回日本生化学会近畿支部例会実行委員会 例 会 長: 実行委員: 三上 栗原 梅澤 丸山 高橋 水谷 桝田 増田 文三 達夫 俊明 伸之 延行 公彦 哲也 太郎 (京都大学・農学研究科) (京都大学・化学研究所) (京都大学・生存圏研究所) (京都大学・農学研究科) (京都大学・農学研究科) (京都大学・農学研究科) (京都大学・農学研究科) (京都大学・農学研究科) 第 59 回日本生化学会近畿支部例会要旨集 2012 年 5 月 19 日発行 発 行 者: 第 59 回日本生化学会近畿支部例会長 三上文三 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄 京都大学 農学研究科応用生命科学専攻 応用構造生物学分野内 例会事務局 Tel:0774-38-3734 Fax:0774-38-3735 E-mail:[email protected] 印刷・製本: レイ・プリンティング