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政策の執行を確実なものにするために - Nomura Research Institute
◇◇ 政策の執行を確実なものにするために ◇◇ 国政選挙が終わり、新しい政権の動きが連日報道されている。 識者によれば、議院内閣制は議会の多数派が行政府の長を輩出するため、議会と行政府の双方を コントロールする大きな権限行使が可能とされる。これは議会と大統領が別の選挙で選ばれ相互に 分立する大統領制よりも強いとも言われる。しかし、実際には政権与党といえども行政府を動かす のは容易ではない。特に、マニフェストにより短期に一定の成果を挙げる必要のある政治に対し、 行政府は様々な経緯やステークホルダーを面前に抱え、また、詳細な法制度に縛られているため、 何かと動きが遅くなりやすい立場にある。政権の方針が非連続に変わる昨今、政治が迅速かつ確実 に行政を動かして行くことは、これまで以上に重要かつ難しくなっているのではないだろうか。 このような中、特に注目したいのが、政治が行政をコントロールするための判断材料(情報)を 収集する「レポートライン(業務情報の収集・報告の経路)」の設計である。これまでのところ、 行政業務の実態に関する詳細情報は基本的に当該省庁から上げられる仕組みになっている。当然、 これに政治家自身の経験知や、周囲の参謀の意見が加えられるが、時々のテーマにあわせて必要十 分な質・量を確保することは容易ではない。政権が短期間で入れ替わるようになると、この傾向は より顕著になろう。 欧米の場合、政策判断を行うトップの周辺に、意思決定をサポートするための様々な情報収集・ 提供機関が存在する。第三者委員会や政策参謀、監査部門などに数十人単位で新規の専任スタッフ が集められることも多く、さらに調査・情報収集のために多額の予算が計上されることも少なくな い。すなわち、統制対象である省庁からの正規の報告とは別に、政治家の耳・目として情報収集を 行う仕組みが様々な形で準備されるのである。これらは、ある意味で二重投資でもあるが、政策判 断の精度と速度を高め、執行を確実なものにするためには必要な措置ともいえよう。 政治主導で判断し、かつ執行を迅速・確実なものにするためには、抽象的な政治のリクエストを そのまま官庁に「投げる」のではなく、複数のレポートラインを駆使し、政治家自らが問題・課題 を的確に理解し、現場が納得し、確実に動くための方針を具体的に示すことが重要である。レポー トラインの確保に十分な人材や予算が投入され、政策判断と執行の乖離を未然に防ぐことが、政治 主導を成功させる鍵の一つとなるのではないだろうか。 平成 21 年 9 月 編集担当 NRI パブリックマネジメントレビュー September 2009 vol.74 -1- 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。 Copyright© 2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 川越 慶太