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地域民主主義への新たな挑戦
eデモクラシー ICTサービスによる豊かな社会の実現を目指して 住民参加 協 働 特 集 地域民主主義への新たな挑戦 ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用し た新たな地域づくりへの挑戦.住民参加や協働が盛んになってきた現在,そ の ぐ ち はるやす 野口 晴康 の社会環境の変化の中で主要な役割を果たしていく地方行政職員,地方議員, NTTデータ NPO関係者の意識調査の結果を紹介します. eデモクラシー 2001年1月に日本の国家 IT戦略で ある e-Japan戦略が策定されました. そこでは,5年後に世界最先端のIT Japan戦略Ⅱ」では,行政サービスに 計画の策定に住民が参加し,白紙の 関する項目で国民の参画が明確にう 段階から素案づくりを行う例も増えて たわれました. きています.一方で,2002年4月に 小泉内閣が発足し,同年6月に閣議 eデモクラシーの現状 決定された「経済財政運営と構造改 国家になるという目標が設定され,施 近年,「行政への市民参加」や「協 革に関する基本方針 2002」 ,いわゆる 策の1つである電子政府の構築は昨年 働」という言葉が脚光を浴びていま 「三位一体の改革」によって,中央集 度までに完成することがうたわれてい す.また都市計画マスタープランや環 権型から地方分権型社会への社会シ ました. 境基本計画をはじめとする,各種基本 ステムの改革は,徐々にではあります e-Japan戦略は,行政の効率化と 行政サービスの向上に主眼を置いて策 定されています.しかし,行政と市民 がネットワークで結ばれ,行政情報が 官庁や自治体のホームページ上で簡単 に入手できるようになれば,電子政府 立法府 行政府 司法府 議会 議員 政党 中央官庁 自治体執行部 法曹 マスコミ は単に行政窓口やバックオフィスの情 報化にとどまらず,行政と市民の交流 が始まります.そうなると,行政サー ビスの顧客としての市民ではなく,国 家や自治体を構成する主体として,そ ・議員との対話 ・議会の公開 ・陳情,請願 ・政策決定 プロセス開示 ・行政情報開示 ・市民参加 ・住民投票 ・司法情報公開 ・司法参加(参審制等) れらの経営の担い手としての市民の姿 が浮かび上がってくるのです. NT Tデータ システム科学研究所で 市民 ・ネットワークコミュニティ形成 ・討議型民主主義論 ・情報リテラシー NPO,NGO は,このように電子政府を通じて,つ まり「e」を活用して,市民が行政, 基盤的要素(ディジタルデバイド,表現の自由,情報通信技術の革新など) 政治に参加することをeデモクラシー と呼んで研究を続けてきました(図 図1 eデモクラシーの構図 1 ). そして, 昨 年 公 表 された「 e - NTT技術ジャーナル 2004.7 55 ICTサービスによる豊かな社会の実現を目指して 90万以上 96.0 50万以上90万未満 100.0 30万以上50万未満 100.0 20万以上30万未満 人 口 規 模 4.0 81.8 10万以上20万未満 18.2 89.5 5万以上10万未満 10.5 68.3 2万以上5万未満 31.7 53.9 46.1 59.6 1万以上2万未満 40.4 34.3 5千以上1万未満 64.7 29.0 2千以上5千未満 71.0 5.9 2千未満 0 1.0 94.1 10 20 30 40 50 割合 60 70 80 90 100(%) 総回答者数453 協働事例あり 協働事例なし 無回答・無効 図2 人口規模別協働の有無 が,いよいよ核心となる地方自治体へ の税財源の移譲へと歩を進めてきてい ます. 行政―意欲的な協働への取り組み まず,行政職員に対する調査結果 このような急速な社会の変化に伴っ て,地方自治にかかわる各アクターの から紹介していきます. 住民参加や協働の事例については, 働の有無を尋ねてみると,もっとも多 いのは「政策の立案(58.2%)」です が,「課題の発見(49.8%)」や「政 策・事業の実行(55.7%)」について も大きな差はありません. これらの動きに対して,自治体職員 意識が協働へ向けて大きく変化してき 全体の51.9%で「事例がある」とこた ているのがeデモクラシーの現状です. えており,自治体規模が大きいほど, の意識を尋ねた結果,自治体職員が ここでは,昨年9月∼10月にかけ 事例のある自治体は多く,人口規模 住民参加にもっとも期待することは, て,NT Tデータ システム科学研究所 30万人以上の自治体においては無回 主 に「 地 域 の活 性 化 につながる と杏林大学岩崎研究室が共同で行っ 答を除くとすべての自治体で事例があ (45.9%)」「地域社会へのきめ細かい た「情報化社会における地方自治のあ ります(図2).また住民参加を制度 対応につながる(34.3%)」という理 り方」と題した調査結果を簡単に紹介 によって担保している自治体もこの傾 由で,無回答であった0.9%を除くと しながら,実際のeデモクラシーに関 向は91.5%と非常に強くなっています. すべてが「積極的に進めていくべきだ」 する各アクターの意識について触れて 住民参加や協働の分野は多岐にわ いきます. なお,調査対象は47都道府県を含 む全国 978自治体(回収率46.3%), たっており,その中でももっとも多い のは「まちづくり」で,84.8%という 結果になっています. 「徐々に進めていくべきだ」と回答し ています. 一方で,住民参加には「職員の意 識不足(57.0%) 」「コーディネーター 地方議員1 296名(同18.0%),まち 自治体の政策サイクルを「課題の発 等の人材不足(56.5%)」や「住民の づくりを主たる活動範囲としている 見」「政策の立案」「政策・事業の実 意欲・能力の不足(49.4%)」という NPO455団体(同 31.9%)です. 行」「政策の評価」の4つに分けて協 課題も残っており,行政は「十分な情 56 NTT技術ジャーナル 2004.7 特 集 報公開(69.1%)」「行政と住民,住 民 相 互 の情 報 共 有 の“ 場 ” の提 供 ( 6 4 . 0 % )」 や「 住 民 の意 見 の収 集 63.1 いつでも情報発信できる (58.9%)」といった,行政と市民の 双方向性がある 43.6 コミュニケーションの促進を果たすべ コストが低い 43.6 きだと考えています. また一方で,実際のコミュニケーショ ンの現状は,「とても進んでいる」「や や進んでいる」との回答を合わせても 38.3 違った層にアピールできる 32.9 数多くの人に発信できる 31.5 多くの情報が発信できる 約半数で,進まない理由としては,主 その他 に「職員の意識が不足している」「対 0 応できる人材が不足している」といっ 2.7 10 20 30 40 50 60 70 (%) 総回答者数149/複数選択 た理由が多くなっていますが,小規模 図3 議員活動にインターネットを活用する利点 自治体では, 「住民が必要としてない」 との理由も相対的に多くなっており, 自治体の規模によって傾向の違いが出 ション手段に比べて,「いつでも情報 地方議員は議会を活発な政策審議 ています. 発信ができる(63.1%)」や「双方向 の場にしていきたいと考えている一方 コミュニケーションにおける ICT活 性がある(43.6%)」「コストが低い で,議員自身が住民の意思を「代表 用の状況は「情報公開」や「情報収 (43.6%)」という点をメリットとして しにくくなっている(37.2%)」「代表 集」に活用している自治体が多くなっ いるようです(図3).一方で,活用 していない(8.7%)」と考えており, ている一方で,「情報交換」について されない理由としては「技術的に困難 93.1%の議員が議会を住民にとって は旧来の方法で行っている自治体が大 である(48.8%)」ことが多く挙げら 身近なものにしていきたいと回答して 半を占めています.ネットワークコミュ れています. います. ニティには,「地域社会の情報が共有 また議員活動へのインターネットの 「情報発信を徹底」して,「議会の できる(35.8%)」や「市民にとって 活用については,自治体の規模が大き 透明性の向上や住民理解」を深めて 満足度の高いサービスが提供できる くなるほど利用傾向が高く,また年齢 いくことが重要だとの意見もみられて (21.6%)」といった期待がある反面 の若い議員に多く用いられているとい います. で,「インフラの未整備の問題」「セ う結果が出ています. NPO―市民参加の推進者へ向けて キュリティやプライバシの問 題 」 や 議員・議会の役割として,住民か 「ディジタルデバイドの問題」には懸念 ら期待されている役割は「行政に対す 最後に,市民セクターの代表としての る要求の代弁」が43.4%となってお NP Oに対する調査結果を紹介します. を抱いているようです. 議会―政策の立案・審議のプロとして り,「政策の作成(23.5%)」と回答 NPOと行政とのかかわりについて, した議員よりも多くなっていますが, 実 績 としては「 有 償 の業 務 委 託 自身が本来重要だと考える役割におい (36.1%)」がもっとも多いですが,今 ては,「 政 策 の作 成 ( 3 6 . 1 % )」 と 後 の 希 望 としては「 政 策 提 言 議員活動へのICTの活用について 「行政に対する要求の代弁(36.7%)」 (38.9%)」を行っていきたいとの意向 は,64.5%の議員がインターネットを が,ほぼ同数の結果となっています. がもっとも強いようです.またNPOの 活用しているとこたえています.今後 この傾向は,自治体の規模や議員の 強 みとしては「 組 織 的 な影 響 力 の活用意向についても,7 2 . 5 %が今 年齢によって異なっており,規模が大 (36.1%)」や「活動分野に対する専 よりも積極的に活用していくとしてい きい自治体や年齢が若い議員が,よ 門知識(33.3%)」を挙げています. ます. り「政策の作成」を意識している結果 これらの結果から,NP Oは自らの活 となっています. 動分野で専門的な知識を持ち,組織 次に,地方議員に対する調査結果 を紹介します. インターネットは,他のコミュニケー NTT技術ジャーナル 2004.7 57 ICTサービスによる豊かな社会の実現を目指して 決定権が行政,または議会にあるため, 提言内容が反映されない 38.6 37.2 行政が NPO の意見を聴くことに積極的ではない NPO として規模や実績が足りないため, 提言内容が取り入れられない 35.2 33.8 NPO が市民の意見を代表していると見なされない 22.1 特に限界は感じたことはない 6.9 行政は他の NPO や市民の意見を取り入れている 17.9 その他 無回答 0.0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45(%) 総回答者数145/複数選択 図4 行政とのパートナーシップを進めるうえでの NPO の限界 的な影響力を生かしながら,政策のス き(39.2%)」「より多くの分野で協 ペシャリストとして政策提言を行って 働を行うべきである(38.5%)」との いきたいという意向が伺えます. 意見がみられています. 一方で,市民がNPO等に属せずに, 個人として活動することについては, 地方自治は新たなステージへ 「推進すべきだ(47.2%) 」と「どちら ここでは,地方自治にかかわる各ア ともいえない(48.6%)」が拮抗する クターが,市民参加や協働に対して, 結果となっており,必ずしも手放しで どのような意識を持っているかを紹介 歓迎しているわけではないようです. してきました.結論としては,総体と その理由として,「独り善がりな意見 してポジティブな意見が多く,今後も になる恐れがある(54.8%) 」「不充分 引き続き前向きに進めていく意向を な知識に基づいた意見になる恐れがあ 持っていますが,同時に実現へ向けた る(46.6%)」が挙げられ,個人とし 多くの課題が浮き彫りにされました. て活動する市民への信頼感はまだ醸成 ハード面ではインフラの整備における されていません. 課題,ソフト面では各アクターの意識 しかし,その市民とのかかわり方と の問題とそのアクター間のコミュニケー しては,「参加の場をつくることで サ ションにおける課題がありますが,こ ポートする(33.3%) 」 「対等な立場で れらの課題の中に,IC Tを活用して解 協力する(27.1%)」といった回答が 決できる要素は多いと思われます.本 過半を占め,市民に対する期待も伺え 来の自治の姿を体現するeデモクラ ます. シーの実現へ向けて,我々の研究は続 行政との関係性では,協働を進め るうえでの限界を感じている点も多く (図4),行政の市民参加への取り組 みに対して「満足している」との回答 はわずか9.7%となっており,「政策形 成における市民の役割をより重視すべ 58 NTT技術ジャーナル 2004.7 きます. ■参考文献 (1) “Consensus Community Vol.13,”NTTデー タ システム科学研究所,2003.12. (2) 岩 崎 : “ e デ モ ク ラ シ ー と 行 政 ・ 議 会 ・ NPO, ”一藝社,2004.3. 野口 晴康 ここ数年でeデモクラシーを取り巻く環 境は大きく進展し,我々の研究も一定の成 果を残すことができたと思っています.今 後は,地域経営全体のあり方に枠を広げつ つ研究を進めていきますので,どうぞご期 待ください. ◆問い合わせ先 NTTデータ 技術開発本部 システム科学研究所 TEL 03-3523-8052 FAX 03-3523-6227 E-mail [email protected] URL http://www.riss-net.jp/