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第1章 めっきについて

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第1章 めっきについて
第1章
めっきについて
第 1 章 めっきについて
1.2 日本でのめっき技術の発展
ち、粉末にした金に水銀を加えて、金と水銀の合金(アマルガム)を作製する。
1.1 めっきとは何か
このアマルガムは室温で液体状態になっている。この液体は大仏など被加工体
に塗ることができる。その後、松明の炎で表面を炙る(加熱する)と水銀が蒸
金属または非金属の表面を金属の薄い皮膜で密着被覆する技術を「めっき」
発し、金のみが析出し金めっきが完成するという焼付けめっきという手法がと
という。例としては文房具、アクセサリー、自動車部品、自転車などの防錆・
られた。この時代から、上述の電解めっき法が発明される 19 世紀までは、例
防蝕のためにめっきされた部品があげられる。これらは非常に多く、工業製品
えば、刀の飾り具や簪(かんざし)などへの金めっき法・銀めっき法を用いた
にはなくてはならない技術である。近年では機能性も重要視されるようになっ
装飾は、大仏と同様の方法で行われてきた。
ており、製品を製作するうえでの重点技術とされ、各種電子部品、特に携帯電
上述のように、金を水銀と混ぜて、液体化するため、金がその黄金の光沢を
話、コンピューター基板、端子類、太陽電池の部品などの電子工業分野にも広
失い、一旦は、金に見えなくなることから、この方法を「滅金」と古代人は表
く応用されている。
記した。時代が下がるにつれて、金を表面に塗布することからの当て字といわ
めっきの方法には大きく 4 種類があげられる。電解めっき(電気めっき)
、
れている「鍍金」(ときん、めっき)と呼ばれるようになった。現代では鍍金
化学めっき、溶融めっき、無電解めっきである。めっきの定義を振り返ってみ
の「鍍」の字が漢字制限で使用不可となったため、「めっき」と呼ばれている。
ると、薄い金属で密着被覆する技術であるので、蒸着やスパッタ、CVD(化
なお、上述のように、めっきはあくまで日本語であるため、外来語に使用され
学気相成長)
、溶射などの通常の乾式製膜技術全般もめっきの一種である。溶
る、カタカナ表記よりはひらがな表記のほうが学術的には正しいといわれてい
けた金属中に製品を浸漬してその金属で被覆する溶融めっきで有名なものとし
る。本書でも、「めっき」と表示する。
ては、溶けた亜鉛で被覆するトタン、溶けたすずで被覆するブリキがあげられ
世界史で見れば、ボルタの電池として有名なボルタが電池を発明した 18 世
る。
紀末から電気化学という技術分野の研究が始まり、19 世紀初頭に、まず銅と
本書では、しかし、一般的にめっきとはというときに使用される電解めっき
銀の電解めっき技術が確立した。これを受けて、幕末の 1830∼40 年にイギリ
法を中心に解説する。なお、ニッケルめっきの部分で第 4 の無電解めっきにも
スと交易していた島津斉彬(薩摩藩藩主、有名な篤姫の父親)が日本で初めて
簡単に触れる。
電気めっきを導入し、島津家の鎧、兜に応用したと伝えられる。
ただ、実際には、明治以降に金・銀・銅めっきが行われるようになり、それ
以降、ニッケルや亜鉛、黄銅めっきが開発された。特に、第二次世界大戦以降
1.2 日本でのめっき技術の発展
の技術の進歩は目覚しく、各種光沢剤による光沢めっきの進歩、高能率浴の開
発、設備の大型化・自動化が行われてきている。また、無電解めっきが発明さ
古代日本における最大事業の一つとして、奈良・東大寺の大仏の作製があげ
れたのも戦後である。
られよう。周知のとおり、本大仏は金めっきがなされている。この大仏には現
在の電解めっきとは全く異なる以下の方法で、金めっきがなされた。すなわ
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009
第 1 章 めっきについて
1.3 電解めっきの基本
i
カソード
アノード
陰極
陽極
M+
めっき浴
(めっきする金属の塩)
図 1 1 電解めっきの原理
電気めっきの原理を図 1 1 に示す。
電気めっきの定義は、めっきしようとする金属あるいは不溶性金属をアノー
ド(陽極)として、その金属塩を電解液として陰極の品物に金属を析出させる
方法となっている。すなわち、陽極では金属の溶解(電子を遊離する酸化反
応)が生じ、陰極では金属の析出(電子を固定する還元反応)をおこさせて、
金属の被膜をつくる技術である。
電気めっきを支配している要因は当然ながら、陽極金属をイオン化するため
に必要なめっき浴の電圧と電流密度である。 また、 浴温度、 撹拌の有無、
pH、めっき液の電導度、浴の組成である。これらが複雑に絡み合って、目的
のめっき膜を形成するのが、電気めっきの基本である。
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