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東南アジアにおける特許出願戦略 ~シンガポール・タイを中心に

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東南アジアにおける特許出願戦略 ~シンガポール・タイを中心に
東南アジアにおける特許出願戦略
~シンガポール・タイを中心に、マレーシア・ベトナム・インドネシア・フィリピンに及ぶ~
2015.12.17
爽亜国際特許事務所
弁理士 守田賢一
∗ 目次
∗ 1.東南アジアの概要
∗
(1)地理的位置
(2)各国GDP
(3)各国加入条約
(4)各国特許出願統計
(5)特許裁判統計(タイ)
2.各国特許制度の比較
(1)特許の種類
(2)出願手続き
(3)新規性
(4)新規性喪失の例外
(5)出願公開
(6)審査請求
(7)実体審査
3.特許出願戦略
(1)日本での審査結果を取得しておく
(2)PPHを使用する
(3)ASPECを使用する
(4) 問題
4.全体の出願戦略
(1)早期権利化・早期権利行使を狙いたい
(2)あくまで技術思想を保護したい
(3)長期にわたって技術保護を図りたい
(4)重要案件についてはタイではCIPITCまでの争い
を視野に入れてお く
1.東南アジアの概要
(1)地理的位置
(2)各国GDP
シンガポールは日本と同程度
(3)各国加入条約
(a)パリ条約
ミャンマー非加入
(b)PCT(特許協力条約)
カンボジア・ミャンマー非加入
(4)各国特許出願統計(WIPO資料)
米国
日本
中国
シンガポール
マレーシア
タイ
インドネシア
フィリピン
ベトナム
(5)特許裁判統計( Rouse
比較
Bangkok 提供)
日本 2010年代 特許侵害訴訟 200件
タイ民事訴訟
タイ刑事訴訟
2.各国特許制度の比較
特許庁 新興国等知財情報データバンク 国別地域別情報
https://www.globalipdb.jpo.go.jp/country/
キーワードを入れて検索
(1)特許の種類
(a) タイ
*特許 (出願日から20年)
*小特許(出願日から6年 最大10年まで延長可)
・小特許の保護対象は特許と同じ
・実質無審査
・登録要件は産業上の利用可能性と新規性のみ(進歩性の
要件無し
(b) シンガポール
*特許
*小特許制度は無い
(c) インドネシア
*特許(出願日から20年)
*小特許(出願日から10年)
・実体審査あり(出願日から6カ月以内に審査請求)
・保護対象は製品・装置に限られる
・出願日から3か月以内に公開
・登録要件は産業上の利用可能性と新規性のみ(進歩性
の要件無し)
(d) ベトナム
*特許(出願日から20年)
*実用新案(出願日から10年)
・実体審査有り(出願日(優先日)から36カ月以内に審査請
求)
・登録要件は産業上の利用可能性と新規性のみ(進歩性の
要件無し)
(e) フィリピン
*特許(出願日から20年)
*実用新案(出願日から7年)
・無審査
・登録要件は産業上の利用可能性と新規性のみ(進歩性の
要件無し)
(f) マレーシア
∗ *特許(2001年8月1日以降の特許出願に対して付与された
特許 出願日から20年)
*実用新案(出願日から10年 最大20年まで延長可)
・特許法で保護
・方法も保護対象
・登録要件は産業上の利用可能性と新規性のみ(進歩性の
要件無し)
(2)出願手続
(a)出願言語
(i) タイ
・日本語他の外国語出願可能 出願から90日以内にタイ語
翻訳
(ii) シンガポール
・英語
(iii) インドネシア
・英語による出願可能 出願から30日以内にインドネシア語
翻訳
(iv) ベトナム
・ベトナム語で出願
(v) マレーシア
・マレー語or 英語
(vi) フィリピン
・フィリピン語or英語
(b)出願期限
(i) パリ条約による優先権主張出願
(ii) PCTによる国内移行
タイ・シンガポール・マレーシア・フィリピン 30ケ月
インドネシア・ベトナム 31ケ月
*シンガポール・インドネシアは延長可
(c)保護対象
全ての国(タイ インドネシア マレーシア フィリピン シン
ガポール ベトナム)
・コンピュータプログラム、人間・動物の病気の診断・治療
法は保護対象ではない
(3)新規性
シンガポール・インドネシア・ベトナム・マレーシア・フィリピン
・刊行物、公知・公用とも世界主義
タイ
・刊行物は世界主義、公知・公用はタイ国内での周知
(4)新規性喪失の例外
(a) タイ
・政府後援又は公認の博覧会での展示 博覧会開催初日
から12月以内に出願すれば、展示の日に出願したものと
みなされる(出願日の遡及)。
・意に反して開示された場合、国際的博覧会あるいは公的
博覧会での展示は12か月内に出願すれば新規性を喪失
しなかったとみなされる。
(b) シンガポール
・博覧会出品に加えて、学会発表や意に反して公知に
なった場合 12ヶ月以内に出願
(c) インドネシア
・博覧会出品に加えて、実験・研究・開発目的や意に反し
て公知になった場合 6ヶ月以内に出願 意に反する場
合は12ヶ月以内に出願
(d) べトナム
・博覧会出品に加えて、実験・研究・開発目的や意に反し
て公知になった場合 6ヶ月以内に出願
(e) マレーシア
∗ ・出願人の行為により公知になった場合 意に反して公知に
なった場合 12ヶ月以内に出願
(f) フィリピン
・出願人の行為 意に反する公知 一定の場合の知財庁によ
る公報掲載 12か月以内に出願
(5)出願公開
シンガポール・インドネシア・マレーシア・フィリピン
・出願日(優先日)から18カ月で公開
タイ
・不定 規定されていない
・2015年7月現在 PCT出願は出願日から20カ月 パ
リ出願は出願日から31か月
・publication feeを払った後 6か月後くらいに
・公開から90日間異議申立て可能
ベトナム
・出願日(優先日)から19カ月又は出願受領決定(方式
審査後)から2カ月のいずれか遅い方で公開
(6)審査請求
(a) タイ
・原則として出願公開日から5年以内
(b) シンガポール
・通常実体審査は出願日(優先日)から36ケ月以内
・修正実体審査は出願日(優先日)から54ケ月以内
(c) インドネシア
・出願日から36カ月以内
(d)ベトナム
・出願日(優先日)から42カ月以内
(e) マレーシア
・パリルート 原則出願日から2年以内 5年まで延長可
・PCTルート 原則国際出願日から4年以内 5年まで延
長可
(f) フィリピン
・公開日から6ヶ月以内
(7)実体審査
∗ (a) タイ
・審査官は審査結果、調査結果を受けとるまで審査を開始
しない
・関連外国出願の審査結果を提出
*特許庁を通してオーストラリア特許庁のsearchを依頼
(関連外国出願がない、あるいは原出願の審査結果が
良くない場合)
コストが高い novelty search 20〜30万円 3〜5年
(2005年)
*特許庁を通してタイのしかるべき機関(大学等)での
searchを依頼
コストは安いが、信頼性がない
(b) シンガポール
∗
∗
・改正法が2014年2月14日に施行
・改正特許法の下で出願人が利用可能な審査手続は、以下の4つ
(i)通常実体審査
・ 調査とその後の審査
出願日(優先日)から13ヵ月以内に調査を請求し、調査報告書に基
づいて出願日(優先日)から36ヵ月以内に審査請求を行う。
・ 調査及び審査
出願日(優先日)から36ヵ月以内に調査及び審査の請求を
行う。
・ 対応する出願、対応する国際出願、関連する国内段階の出願の
調査報告書を基礎とした審査
出願日(優先日)から36ヵ月以内に審査請求を行う
(ii) 修正実体審査
・ 対応する出願、対応する国際出願、関連する国内段階の出願の最
終審査結果を基礎とした補充審査
出願日(優先日)から54ヵ月以内に補充審査の請求を行う。
(c) インドネシア
・審査請求から36カ月以内又は公開期間の満了日から36カ月以内に審査結
果
・優先権主張を伴う特許出願では対応外国出願における調査報告を提出す
る
(d) ベトナム
・公開日から12か月以内又は公開後の審査請求から12カ月以
内に審査を行う
・他国の対応特許出願の審査結果や登録事実を提出できる
(任意)
(e) マレーシア
・通常審査請求と修正実体審査請求
(f) フィリピン
・外国での先行技術文献、審査結果を自発的に提出可 審査官
は拒絶理由通知によって提出を求めること可
3.特許出願戦略
(1)日本での審査結果を取得しておく
・現状ではいずれの国 も十分な審査能力があるとは言え
ない。
・一方、日本の審査レベルは非常に高くかつ早い
・特に早期審査によれば3か月以内にファーストアクション
を得ることが可能。
・日本の審査結果は、欧米と並んで尊重されている。
・審査請求料について特に中小企業には軽減処置がある
・アクションやその応答が日本語で行える 翻訳不要 費
用が安い
*その後にパリルートによる各国出願あるいはPCT出願し各
国へ国内移行
*各国の修正実体審査(MSE)を利用する
例 ベトナムでのMSEの提出書類
∗
出願人は自らの裁量又はベトナム知的財産権庁(NOIP)からの要求
により、外国出願の審査結果、付与された外国特許の写し又は出願人
が外国特許庁から送付された先行技術に関する文書を提出することが
できる。(規則 15.2(b)、通達 01/2007)。
・欠点
*日本国内で登録されて早期に公開されてしまう
*日本国内で改良発明を追加する国内優先権出願ができ
なくなる
(2)PPH(patent prosecution highway)を利用する
各特許庁間の取り決めに基づき、第1庁(先行庁)で特許可能と判断された
発明を有する出願について、出願人の申請により、第2庁(後続庁)におい
て簡易な手続で早期審査が受けられるようにする枠組み
(a)種類
*内容的
(i)PPH
(ii)PCT-PPH
(iii)PPH mottainai
*参加形態
(i)GPPH
(ii)IP5-PPH
(b)日本との間でPPHをやっている国
タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・フィリピン
*ベトナムはPPHできない
*タイはPCT-PPHが無い
(c)提出書類
(i)対応する日本出願に対して日本特許庁から出された(特
許性の実体審査に関連する)すべてのOAの写し、及びその
翻訳文 (SG以外はAIPN,PATENTSCOPEで省略可能)
(ii)日本出願で特許可能と判断された請求項の写し、及びそ
の翻訳文(SG以外はAIPN,PATENTSCOPEで省略可能)
(iii)対応する日本出願のOAにおいて審査官が提示した引用
文献の写し(特許文献の場合は省略可能)
(iv)請求項対応表
タイでのPPH申請出願例(Rouse Bangkok提供)
(3)ASPEC(ASEAN Patent Examination Cooperation)を利用
する
(a)ASPECとは ASEAN域内でのPPH
締結している国 ミャンマーを除くASEAN9か国 登録までに10ヶ月
(b)ASPEC申請する場合の提出書類(英語で良い、AIPNで省略はでき
ない)
(i) ASPEC申請書
(ii)調査報告写し
(iii) 審査報告写し
(iv) 許可されたclaim
ASPEC利用状況(IPOS提供)
(4)問題
(a) ASPECは使えるか(シンガポール出願がある場合のみ有
効?)
・IPOSの資料によると、シンガポールから他のASEAN加
盟国への申請が圧倒的
理由 ・IPOSの調査・審査レベルが高いのでその審査結果は他の
ASEAN加盟国から信頼されている?
・IPOSの書類は英語で報告書が作成されるから翻訳の労力
が軽減される
欠点 ・シンガポール出願をする必要がある
*JP-SGのPPHを使用する場合も英訳文書を提出する
必要がある AIPNによって提出を省略できない
*PCT-PPHであれば、国際調査報告等は英訳されるの
で翻訳の手間は不要だが国際段階の費用がかかる
(b)JPとのPPHがある国(PH,MY,ID,TH)はASPECよりもPPHで出し
た方が良い
理由
・AIPNが利用できるから、実質的にクレーム対応表とその
英訳だけを提出すれば良い
(c)JPとのPPHが無い国(VN等)にはMSE(修正実体審査)で日
本の審査結果を出した方が良いか
理由
・翻訳負担はあるが、シンガポールを経由するより安価
4.全体の出願戦略
(1)早期権利化・早期権利行使を狙いたい
∗
・わかりやすい権利(形状的な小特許、意匠、商標)を取って、刑事事件で
解決する。
(2)あくまで技術思想を保護したい
・小特許の活用
(3)長期にわたって技術保護を図りたい
・特許出願をするしかない
・出願人が能動的に権利取得(審査結果提出、調査結果提出)に動
く必要がある。
(4)重要案件についてはタイではCIPITCまでの争いを視野に入れて
おく
・CIPITCで特許庁のおかしな判断が修正される
・費用はある程度覚悟
・ 民事訴訟のための提出証拠を準備しておく(公証・領事認証)
御静聴ありがとうございました。
Special thanks to;
Rouse & Co. International Bangkok
Rouse & Co. International Jakarta
Tra & Associate Intellectual Property Law Firm Hanoi
Allen & Gledhill LLP Singapore
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