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科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会 特定胚及びヒトES細胞等

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科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会 特定胚及びヒトES細胞等
科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会
特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会(第58回)
ヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会(第4回)
議事録
1. 日時
平成20年7月29日(火)15:00~17:43
2. 場所
中央合同庁舎第7号館東館 3階1特別会議室
3. 出席者
(委 員)豊島主査、麻生委員、石原委員、市川委員、小倉委員、高坂委員
河野委員、齋藤委員、知野委員、恒松委員、中内委員、西川委員
町野委員
(事務局)永井安全対策官、高橋室長補佐、野島専門官
4. 議事
(1) ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成に係る検討について
(ヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会 閉会)
(2) 鳥取大学 使用計画「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確立と分子
機構の解明」の審査について
(3) 鳥取大学 使用計画「ヒト胚性幹(ES)細胞の多能性維持機構の解明と心
筋細胞への分化」の審査について
(4) 東京大学医学部附属病院 使用計画「ES細胞由来造血幹細胞による造血の
再生」の変更申請の審査について
(5) ヒトES細胞の使用計画の変更申請に係る書面審査の結果について
(6) ヒトES細胞の使用計画の変更の届出について
(7) その他
5. 閉会
配付資料
【ヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会】
資料4-1
特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会(第57回)
ヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会(第3回)議事録(案)
資料4-2
ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用に係る主な論点について-社
会的妥当性に関する事項-(検討のためのたたき台)
資料4-3-1
「幹細胞に由来する生殖細胞研究がなぜ必要か」
<石原理 埼玉医科大学教授>
資料4-3-2
「iPSからの生殖子誘導実験の規制に関する意見」
<西川伸一 (独)理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副
センター長>
資料4-3-3
「iPS細胞を用いた生殖細胞研究の医学的有用性」
<中内啓光 東京大学医科学研究所教授>
参考資料4-1
ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用に係る検討のための主な
論点(検討のためのたたき台)
参考資料4-2
進
ヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用作業部会における検討の
め方について
【特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会】
資料58-1
鳥取大学 使用計画
「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確立と
分子機構の解明」の概要
資料58-2
鳥取大学 使用計画「ヒト胚性幹(ES)細胞の多能性維持機構の解明
と心筋細胞への分化」の概要
資料58-3
東京大学医学部附属病院 使用計画「ES細胞由来造血幹細胞による造
血の再生」の変更申請について
資料58-4
ヒトES細胞の使用計画の変更に係る書面審査の結果について
資料58-5
ヒトES細胞の使用計画の変更の届出について
【机 上 資 料】
○審査資料
・鳥取大学 使用計画「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確立と分子機構の解明」
審査58-1① 使用計画申請資料
審査58-1② 論点整理票
・鳥取大学 使用計画「ヒト胚性幹(ES)細胞の多能性維持機構の解明と心筋細胞への分
化」
審査58-2① 使用計画申請資料
審査58-2② 論点整理票
-2-
・東京大学医学部附属病院 使用計画「ES細胞由来造血幹細胞による造血の再生」
審査58-3① 使用計画申請資料
審査58-3② 論点整理票
6. 議事
【豊島主査】
それでは、定刻となりましたので、
「第58回特定胚及びヒトES細胞等研
究専門委員会」を開催させていただきたいと存じます。
前半のヒトES細胞等からの生殖細胞の作成に係る検討につきましては、第4回ヒトE
S細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会と合同の委員会とさせていただきます。
また、休憩を挟んで後半は、特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会になります。
本日は、お忙しいところ、また暑いところ、ご出席いただきまして、どうもありがとう
ございます。
まず、事務局に人事異動がございましたので、簡単にご紹介をお願いいたします。
【永井安全対策官】
私、7月1日付で生命倫理・安全対策室の安全対策官に着任いたし
ました永井と申します。よろしくお願いいたします。
以上でございます。
【豊島主査】
どうぞよろしくお願いします。
それでは、事務局から配付資料の確認をお願いします。
【野島専門官】
それでは、事務局から配付資料の確認をさせていただきます。
まず、本日は、位田委員、金森委員、須田委員、祖父江委員、高木委員から、ご欠席と
いうご連絡をいただいております。なお、中内委員からは、別の会議が前にございまして、
少々おくれるというご連絡をいただいております。西川委員は、ご連絡をいただいており
ませんので、間もなくお見えになるかと思います。
議事次第をごらんください。本日の議事でございますが、先ほど豊島主査からお話があ
りましたように、前半はヒトES細胞等からの生殖細胞の作成・利用作業部会との合同委
員会としております。審議事項は、
(1)の1つだけでございまして、ヒトES細胞等から
の生殖細胞の作成に係る検討についてでございます。休憩を挟んで、後半は特定胚及びヒ
トES細胞等研究専門委員会でございますが、本日は、
(2)
(3)の新規の使用計画の審
査が2件と、それから(4)の変更申請の審査が1件ございます。
それから、本日は、生殖細胞作成・利用作業部会は、本日3人の委員からヒアリングを
いただくことになっております。若干時間が遅くなるかと思います、その分、ES細胞の
-3-
ほうが20分ぐらい遅れて開催と言うことになるかと思います。
次に、1枚めくっていただきまして、配付資料でございますが、お手元の配付資料のほ
うをご確認ください。まず、資料4-1といたしまして、特定胚及びヒトES細胞等研究
専門委員会とヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会の、前回の議事録の案で
ございます。
次に、資料4-2といたしまして、本日の論点でございますけれども、ヒトES細胞等
からの生殖細胞の作成・利用に係る主な論点についてということで、今回は社会的妥当性
に関する事項でございます。
次に、資料4-3-1でございます。本日ご講演いただきます石原委員のご講演資料、
「幹細胞に由来する生殖細胞研究がなぜ重要か」という資料でございます。次に、資料4
-3-2といたしまして、
西川委員のご講演資料、
「iPSからの生殖子誘導実験の規制に
関する意見」
。次に、資料4-3-3といたしまして、中内委員のご講演資料、
「iPS細
胞を用いた生殖細胞研究の医学的有用性」でございます。
次に、参考資料4-1といたしまして、本作業部会での検討のための主な論点と、参考
資料4-2といたしまして、検討の進め方をおつけしております。
以上が、作業部会の資料でございます。
次に、特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会の資料でございますが、資料58-1
といたしまして、鳥取大学使用計画「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確立と分
子機構の解明」の概要でございます。
次に、資料58-2といたしまして、鳥取大学使用計画「ヒト胚性幹(ES)細胞の多
能性維持機構の解明と心筋細胞への分化」の概要でございます。
次に、資料58-3といたしまして、東京大学医学部附属病院使用計画「ES細胞由来
造血幹細胞による造血の再生」の変更申請についてでございます。
次に、資料58-4でございます。ヒトES細胞の使用計画の変更に係る書面審査の結
果についてでございます。
最後が、資料58-5といたしまして、ヒトES細胞使用計画の変更の届出についてで
ございます。
このほかに、委員の先生方には、机上の資料といたしまして、本日の審査資料が袋の中
に入ってございます。そのほかに、冊子といたしまして、グレーの冊子、これは生殖細胞
の作業部会で使う冊子でございます。そのほかに、ピンクのファイルとブルーのファイル
-4-
は、ヒトES細胞の専門委員会のほうで使いますQ&Aを綴ってございます。
資料をご確認の上、不備なところがございましたら、事務局までお知らせいただきたい
と思います。
以上でございます。
【豊島主査】
ありがとうございます。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、資料4-1で前回専門委員会及び作業部会の議事録(案)をお配りいたして
おりますが、これは各委員からのご意見をいただいて修正しております。ご確認いただい
て、問題がなければ、承認ということにさせていただきたいと存じます。
それでは、本日の議題に入りたいと存じます。議題(1)ですが、本作業部会では、ヒ
トES細胞等から生殖細胞を作成することを認めるか否かについて考え方を取りまとめる
ために、生命倫理上の問題点と科学的合理性及び社会的妥当性とを総合的に勘案して検討
を進めております。本日は、社会的妥当性に関する検討について、生殖補助医療など医療
に関して期待するところについては、石原委員、市川委員から、生殖細胞の分化の研究な
ど生物学的な成果として期待するところについては西川委員及び中内委員から、ご意見を
伺うことにしております。
まず、本日の論点について確認いただきたいと思いますので、事務局から簡単にご説明
をお願いします。
【野島専門官】
それでは、事務局から論点について簡単にご説明させていただきます。
資料4-2をごらんください。本日は3人の委員の先生からご意見をいただくことになっ
ておりますので時間が若干押しますので、論点については簡単にご説明させていただきた
いと思います。
本日は、社会的妥当性について論点を挙げさせていただいております。まず1番といた
しまして、ヒトES細胞等から生殖細胞を作成する研究(ヒト胚の作成を伴わないもの)
についてでございます。考え方といたしまして、四角の中に入ってございますが、作成さ
れた生殖細胞を用いて個体の産生を行うことが、社会に対して大きな影響を与え、秩序を
乱しかねないという観点から、現行のヒトES指針では、ヒトES細胞から生殖細胞の作
成について禁止されているものでございます。
これを前提にいたしまして、まず①といたしまして、ヒト胚の作成を伴う研究を行わな
いことを前提とした場合、生命倫理上の問題があるとすれば、それはどのような場合かと
いうことが、論点となるかと思います。
-5-
次に、②といたしまして、このような生命倫理上の問題を考えましてヒト胚の作成を伴
う研究を行わないことを前提とした場合に、社会的妥当性があると言えるのはどのような
場合かということで、本日ご意見を賜ります、生殖補助医療、あるいはその他の医療から
期待される成果、それから、生殖細胞の分化の過程の研究を行う上で期待される成果、海
外での研究や規制の状況はどうかということについて、
ご意見をいただきたいと思います。
次に、③といたしまして、ヒトES細胞等から生殖細胞を作成することを検討するに当
たって、出自の違いによりどのような相違があるかということで、ヒトES細胞、ヒトi
PS細胞、ヒト組織幹細胞という出自の違いによって、それぞれどのような社会的妥当性
があるかということが分けられるかと思います。まず、ヒトES細胞は正常な発生・分化
の過程をとるということが妥当性にあるかと思いますし、iPSとか組織幹細胞について
は、提供者の遺伝情報が保持されて、提供者の治療等に用いられるというような妥当性が
あるかと思われます。
このようなことを念頭に置きまして、次のページでございますが、論点を挙げさせてい
ただきましたのが、不妊治療において期待される成果であるとか、発生など基礎研究にお
いて期待される成果、それから、がん等の研究に対して期待される成果であるとか、配偶
子の高齢化の研究に対して期待される成果などが考えられるかと思っております。その他
にもいろいろなご意見があれば、賜りたいと存じております。
次に、2番目でございますけれども、作成した生殖細胞からヒト胚を作成する研究につ
いてでございますが、この研究については、まず、ヒトES細胞等から生殖細胞を作成す
ることが認められた場合に改めて検討することとしたいと思っておりますが、前回、先生
方にご意見をいただいた中では、大量の配偶子がつくれることによって人工的に大量の胚
が作成されるようなことから受精胚に対する考え方が今までと違ってくるのではないかと
か、それから、生物学的な根拠として、男性が精子を、女性が卵子を持つということを侵
害するようなことがあり得るのではないかというような、生命倫理上の問題があるという
ふうな論点も挙げられたかと存じます。それを考慮した上で社会的妥当性があるというの
はどういう場合かということで、今回、論点として挙げさせていただいたのが、先ほどと
同じでございますが、研究目的でヒト胚を作成することについて社会的妥当性があるのは
どういう場合かということで、不妊治療において期待される成果であるとか、発生など基
礎研究において期待される成果であるとか、がんの研究等に対して期待される成果である
とか、配偶子の高齢化の研究に対して期待される成果などということが考えられるかと思
-6-
います。
以上のことを論点として頭に置いていただきまして、3人の先生方からのご講演を賜り
たいと思っております。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。何かご質問ございますでしょうか。
よろしゅうございますでしょうか。
それでは、まず石原委員に、
「幹細胞に由来する生殖細胞研究がなぜ重要か」という題で
ご講演をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
【石原委員】
石原でございます。本日は、お話をさせていただく機会をいただきまして、
ほんとうにありがとうございます。
本日は、
「幹細胞に由来する生殖細胞研究がなぜ重要か」
という題でお話をさせていただ
きます。15分程度で終わる予定でございます。
まず、
幹細胞応用研究の分け方でありますが、
少し違う分け方をさせていただきました。
先ほど来お話がございましたように、胚をつくる場合、あるいはつくらない場合というの
が、配偶子をつくる研究について、今、問題となっているわけでございますが、ES、あ
るいはiPSその他、すべて幹細胞応用研究を2つに分けることが可能であろうという考
え方ができると思います。1つは、最終的に生体、人間に、人体に移植することを目的と
するもの。そしてもう1つは、最終的につくられたものを移植しない、この2つの結果、
あるいは最終的な経緯というのが想定されるわけであります。
最終的に生体に移植するものとしましては、
もちろんしばしば言われておりますように、
移植臓器や組織の不足を補うため、それをつくることが目的である。皮膚、あるいは骨と
か軟骨などが広く研究されているわけでございますし、一方、こうした臓器・組織ではな
くて、細胞レベルのものとしましては、血球、特に赤血球などですね。あるいは、膵臓、
膵の細胞、β細胞や、肝臓、心筋などが行われていることは、知られております。
一方、臓器・組織・細胞を移植しない応用方法として想定されるものが幾つかありまし
て、今、各国で行われているものの1つは、可能性があるものとして、さまざまな創薬研
究などにおける薬理試験や毒性試験をインビトロで行うことを可能にするものをつくる。
あるいは、もう1つは、さまざまな疾患を生体外、インビトロで疾患モデル細胞のような
ものをつくり、その治療法を開発する目的で利用できるのではないかと、このようなこと
が考えられているようであります。
-7-
今、配偶子のことを考えるわけでございますが、さまざまな幹細胞から配偶子の作成を
考えるときに、ヒトの配偶子ということで、その特殊性をまずご理解いただく必要がある
と思います。先日、河野先生のほうからお話を伺いまして、マウスなどの実験動物により
かなりの部分が再現可能であるということを伺ったわけでございますが、ヒトと実験動物
の著しく異なる部分というのは、ワンジェネレーションが非常に長い。25年から、最近
では、平均初産年齢は30歳になってきております。ほぼ30年がワンジェネレーション
とお考えいただいてよろしいと思います。
そして、卵子と精子、すなわち男性と女性において配偶子形成がかなり異なっておりま
す。胎芽期にどちらも原始生殖細胞がございまして、これは体細胞と生殖細胞が分離しま
して、そもそもなぜ生殖細胞と体細胞が異なる細胞として生ずるかはわからないわけでご
ざいますが、男性におきましては、この生殖細胞はそのままの状態で思春期まで十数年休
止しているわけでございます。そして、思春期以降、内因性のゴナドトロピンの分泌が始
まって、初めて分化・成熟を始めるということになっております。
一方、女性の原始生殖細胞は、胎生期に既に成熟が始まりまして、第一減数分裂の途中
で胎児期まで行って、とまっているという状況が続きます。そして、やはり十数年間、場
合によっては50歳近くまで排卵がある場合には四、五十年休止期間があって、その後に
再度、成熟・分化が再開するという仕組みになっております。この過程でご承知のように
減数分裂が生じて、すべての染色体数などが半分になりますのが生殖細胞に由来する配偶
子の特性でございますが、そのあたりのメカニズムというのも、このように極めて長い過
程の中で進行するものでございます。
したがいまして、動物とちょっと違いますのは、このような極めて長い時間のかかる成
熟・分化につきまして、これを再現するようなことを行うのは非常に難しいわけでござい
ます。また、このような成熟・分化がすべて体内で行っております。これを体外で再現す
るという作業が現在は非常に難しく、その結果、特に卵子につきましては、未熟な卵子の
体外培養、あるいは体外成熟によって成熟卵子を得るということが、ヒトにおきましては
極めて難しいわけでございます。
さて、ES細胞に由来する配偶子研究、このことにつきましては既にお話を伺っており
ますので何度も繰り返しませんですが、少し復習をいたしますと、ES細胞由来の細胞か
らどんなものがつくられているかというと、1つは、Oocyte-like cellsということで、卵
子様のものが既につくられております。また、精子につきましては、完全な成熟精子では
-8-
ございませんが、卵子に顕微授精を行うことによって、マウスにおいては既に子供がとれ
ているということが報告されております。さらに、Primordial germ cellsからEmbryonic
germ cellsを形成することも可能であるということが報告されております。
まず、お話をわかりやすくするために、男性配偶子、精子についてお話しいたします。
精子につきましては、卵子よりも研究が進んでいる部分がございます。これは、細胞の構
造が簡単で小さいということがもちろんあると思いますが、事によると最初に申し上げま
した成熟・分化の過程が卵子と精子でかなり異なるということが関係している可能性もご
ざいます。
これは、2008年7月、今月の初めにヨーロッパ・ヒト生殖会議で行われました発表
のときに出されましたスライドを日本語にしたものでございますが、私、これのすべてを
把握しているわけではございませんですが、男性配偶子をつくるための戦略として、いろ
いろな細胞をプレカーサーとして用いる可能性があるということが報告されております。
例えば、今お話し申し上げましたES細胞だけではなくて、体性幹細胞であるとか、生殖
幹細胞、その他、iPSをはじめとする体細胞遺伝子改変細胞。腫瘍細胞からというのは、
現在どういうところまで行っているのかについては、ちょっと私は掌握しておりません。
現時点では、今申し上げましたように、ES細胞から卵子をつくる可能性というもの、
ES細胞から精子をつくる可能性、そして、精巣幹細胞や骨髄血液幹細胞など、その他の
体性の幹細胞から配偶子を作成する可能性、そして、iPSのような体細胞から配偶子を
作成する可能性、この4つが想定されるわけでありますが、ESから卵子をつくるものに
つきましては、もしこれができれば、後ほど申し上げますが、体細胞クローニングに用い
るための卵子がないわけでございますので、そのソースとして非常に将来性が期待されて
いるわけでありますが、現実には、先ほど申しましたようにOocyte-like cellsはできてい
ますが、実際にこの機能がどうかということについては、不明でございます。精子につき
ましては、今申し上げたように、非常に近い将来、かなり進歩がある可能性があるとされ
ております。
基礎医学研究・生物学はこの後お話があるかと思いますが、これは私どもの臨床の目か
ら見た可能性、こうしたことがわかるといいなと思われていることを含めてまとめさせて
いただきますが、まず、先ほども少し申し上げましたが、研究に用いる配偶子の入手問題
というのが、多分解決されます。これはおそらく一番大きな要因だと思います。
そして、不妊症のメカニズムの研究を可能とする可能性があります。不妊症のメカニズ
-9-
ム研究の中で、特に現在、非常にそのメカニズムは不明点が多く、しかも治療が困難であ
ります早発卵巣不全、これは、通常50歳ぐらいまで卵巣に卵子が残っていて月経がある
わけでありますが、
例えば25歳、
あるいは30歳程度でなくなってしまう方があります。
そういう原因不明の卵巣機能低下のメカニズムを解明する可能性があります。また、精子
形成異常や成熟障害、特にMaturation arrestなどの解明ができるかもしれません。そして、
受精障害のメカニズム、これは、卵子の異常による、あるいは精子の異常による受精障害
がありますが、これらの解明が可能となる可能性があります。
ほかのものにつきましては、先ほど申し上げましたものでございますが、生殖細胞と体
細胞の違い、この分化、差異の形成メカニズムの研究。また、配偶子、精子や卵子の発生・
分化についての研究というのが可能になり、特に減数分裂のメカニズムについては、イン
ビトロでこうした検討をすることが可能になると思われます。また、しばしば行われてお
りますエピジェネティクスの研究につきましても、インビトロでのマチュレーションがわ
かることによって、研究の対象となってくると思われます。授精能獲得メカニズムにつき
ましては、先ほど申し上げました。さらには、生殖細胞由来の悪性腫瘍がございますが、
こうした悪性腫瘍の発生メカニズムの研究につながる可能性があると思われます。
今ここに挙げましたのは、最初に申し上げました最終的に生体に移植しないものに含ま
れているものでございます。
一方、最終的に生体に移植するものとして、おそらく私が本日お話をするように要請さ
れました理由は、不妊治療に用いる配偶子がどうかということをおそらく想定されて私が
お話しする機会をちょうだいしたのだと思いますが、実際、不妊治療において配偶子が得
られない男女の治療に、体細胞の由来配偶子ができれば、それが治療に用いられる可能性
はございます。また、今、提供卵子や精子が非常に不足しているわけでございますが、こ
うしたものがつくられれば、この解決につながる可能性はもちろんあるわけでございます
が、現実には、技術的にかなり困難で、当分、こうしたことはおそらくあり得ないのでは
ないかというのが、我々の正直な印象でございます。
また、もう一つは、生殖細胞レベルにおける疾患などに対する遺伝子治療が可能であれ
ば、現在行われている着床前診断、胚をつくりまして、その胚の1割球をとりまして、そ
の遺伝的背景を精査した上で移植するかどうかを決めるというような着床前診断と比べま
して、倫理的な問題が小さい可能性があるのではないか。胚を作成する必要はないわけで
ございますので、そういう話があり得ると思います。ただ、こちらも同様に技術的にはか
-10-
なり困難で、現実問題として、すぐに利用されるということはないと思います。
もう一つ、最終的に生体に移植しないものの利用として、先ほど申し上げました薬剤な
どの薬理・毒性試験、あるいは多能性幹細胞の新しい供給源の可能性、そして、疾患特異
的幹細胞樹立の可能性ということがあります。この3番目のことにつきまして、少しこの
後お話をしたいと思います。
それ以前に、まず倫理的課題を挙げておきますが、先日来さまざまなお話を伺っており
ますが、やはり最大のポイントは安全性であると思われます。異常胎仔が生まれるという
報告がございます。ただ、不妊治療への利用というのは、いずれにしても不可能であろう
と考えております。
「胚の地位」
、あるいは「子の福祉」という議論については本日省略さ
せていただきますが、もう一つつけ加えさせていただきますと、インフォームド・コンセ
ントの問題がございます。提供配偶子を用いた場合には提供者の同意が必要なわけであり
ますが、ES細胞その他、幹細胞由来の配偶子であれば、この同意というのがほんとうに
必要なのかどうかというところを議論する必要が出てくる可能性がございます。また、こ
れは胚ですが、胚にしても、動物実験に使われる動物も同意ができないわけでありますの
で、そのロジックでいきますと、同意が不要な可能性もあるかと思われます。
そしてもう一つは、ESとiPS、さらにはほかの由来もあるかと思いますが、これま
でさまざまなところで議論されてまいりましたのは、ESとiPS、その他の由来にかか
わらず、再生医療に用いるための幹細胞という形で議論がされてきたわけでありますが、
今回、配偶子をつくる、あるいはほかのものもございますが、さまざまな他の利用がある
ということで、もう一度改めて、ESとiPS、あるいはほかの由来ということを考える
きっかけが出てきたというふうに感じております。つまり、さまざまなジェネオロジーが
異なる配偶子によって胚が作成されるわけでありますが、それらを一括して考えていいの
か、あるいは由来するものが違う場合には違うように考えるべきなのかということを議論
する必要があると思います。
1つだけ、きょうお話をさせていただきますのは、疾患特異的ヒト幹細胞樹立の話でご
ざいます。これはやはり先日のESHREのときにロンドンのStephen Mingerから話を聞
いたものをここにお示しさせていただきますが、従来、疾患特異的ヒト幹細胞というのを
つくるためにはどういうことが可能性があったかといいますと、第一に、着床前診断時に
何らかの疾患のある胚細胞の提供を受けて、そこから幹細胞を樹立するということが可能
でありますが、これは当然のことながら、PGD、先ほど申し上げましたような着床前診
-11-
断と連結をする必要がございます。疾患特異遺伝子を胚細胞へ導入するということが試み
られていますが、これはつい最近できたという話が日本で報道されましたが、これは非常
に困難なものだと思われます。3番目は、体細胞クローニングでございますが、韓国の事
例をご承知のように、黄先生ですら失敗して、今のところ成功はしていないんだと思いま
す。4番目としてあり得るのが、これは今イギリスで行われている研究でありますが、動
物の卵子は非常に入手しやすいということで、牛の卵子に患者由来の体細胞クローニング
をしているわけでございます。ただし、これは日本では特定胚指針によるヒト性融合胚と
いうものになるわけでありますので、日本ではすぐにできるわけではございませんですけ
れども、実現可能性は非常に高いというふうに、Stephen Mingerは話しておりました。
ちょっと復習ですが、ヒト性融合胚というのは、この分類ではどこに入るかといいます
と、この場所に入ります。これは、当面の間、やらない、やってはいけないということに、
現在なっているわけでございます。表は、後ほどごらんいただければ結構です。
英国におけますヒト胚研究のことをちょっと振り返ってみたいと思いますが、1990
年にHFEAがつくられまして、すべての生殖医療とヒト胚研究を統括しておるわけでご
ざいますが、HFEAによるライセンスというのは、当初は生殖医療と不妊治療関連に限
定されていたわけでございますが、その後に、これらに含まれない研究、ここにあります
ように、例えば、ヒト発生メカニズムの解明研究、疾患メカニズムの解明研究というのを
追加しておりまして、これは非常に賢い追加であったんだと、今日になりますと私は感じ
るわけでございますが、ヒトES細胞の樹立の許可につきましては、先ほどのStephen
Minger & Peter Braudのグループに2002年に与えられまして、幾つかの条件がござい
ますが、現在、13グループがこの利用研究をしております。ヒト卵子を用いるTherpeutic
cloningは別ライセンスが必要で、2グループがやっておりますが、Reproductive cloning
は現在禁止されているわけでございます。その一覧は、7月初めに私がHFEAのウェブ
サイトから拾ったものでございますので、時間があれば後でごらんいただきたいと思いま
すが、このような研究が現在されているわけでございます。
本日のお題であります幹細胞由来の配偶子研究に社会的妥当性があるかということであ
りますが、先ほど来申し上げておりますように、生殖系列細胞の成熟・分化機構の解明と
いうのは、方法論的に、あるいは時間的に不可能であったわけでございますが、これらの
研究を可能にする可能性があるわけです。そして、これは最終的には、生物学だけではな
くて、生殖医療に不妊のメカニズムの解明ということで多大な寄与があり得ると思われま
-12-
す。一方、先ほども少しご紹介いたしました疾患特異的なヒト幹細胞樹立、あるいは薬理
試験や毒性試験への応用をはじめ、広範な臨床医学領域における研究の可能性があると思
われます。そして、この幹細胞由来配偶子を用いるという最大のメリットは、特定の個人
に由来する配偶子を用いる同様な研究よりも、可能になれば入手が容易であろうというこ
とだけではなくて、入手と利用自体に倫理的な課題がむしろ少ない可能性があるのではな
いかというふうに思われます。
問題点としましては、これはいつも言われるわけでありますが、ESはじめ、このよう
な幹細胞由来配偶子によって出生した児を想定すると、非常に問題が出てまいります。た
だ、そうであるとしても、仮に精子や卵子が得られない場合に本人の体細胞由来の配偶子
を用いる治療はどうなのかという話が出てくるわけでございますが、現時点でこれについ
て結論を急ぐ必要はないと、私は感じております。すなわち、先ほど遺伝子改変の話もあ
りましたですが、配偶子レベルにおける遺伝子改変は世代を超えますので、この問題につ
いても非常に問題が大きいわけでございますが、今直ちに結論を急ぐ必要は、僕はないと
思います。これはつけ足しでございますが、クローン規制法というのがあるということが
一つ大きな前提でございますので、これとの整合性というのをやはり考える必要があるわ
けでありますが、これは何を禁じているかというと、移植を禁じているのでありまして、
つくることを禁じているのではないと理解しております。
以上、幹細胞由来配偶子研究をまとめさせていただきますが、不妊治療に用いるヒト配
偶子を入手するという観点に立ちますと、
この道のりは非常に遠いと思われます。
ただし、
不妊メカニズムの解明など生殖医学上の意義が大きく、さまざまな臨床医学の発展につな
がる可能性があります。また、この後お話を伺えることと思いますが、生物学や基礎科学
に寄与する可能性がございます。先ほど少し申し上げましたが、出自が違う配偶子の利用
について、個別化したガイドラインなり、個別化した議論というのを行うという合理性が
あるのではないかというふうに感じております。
以上でございます。
【豊島主査】
ただいまのご講演につきまして何か、
直接のご質問ございますでしょうか。
もし直接のご質問がございませんようでしたら、続きまして市川委員に、石原委員のご
講演に補足するご意見ございましたら、お願いいたしたいと存じます。
【市川委員】
特に補足することはないんですけれども、石原先生もおっしゃられたよう
に、私は泌尿器科で精子のほうを研究するということになるわけなんですが、動物の場合
-13-
は別としても、ヒトの研究をする場合、非常に臨床検体を得るのが難しいということが問
題となっています。造精機能障害の患者さん、無精子症の患者さんでも、いろんな遺伝的
なことは調べられるんですが、実際、精巣組織をとってきて直接調べるということは、非
常にその精巣も小さいということや、そこに生殖細胞が存在しないことがほとんどである
ということで、どこにその原因があるか、なかなか直接研究できないということになりま
す。社会的妥当性といいますとどうしても、もし生殖細胞ができてしまったらそれはどう
するんだというようなところに話が発展してしまうと思うんですけれども、それ以前の問
題でも、研究する内容はかなりたくさんあります。実際、現在、臨床検体が得られないと
いうことで十分な研究がヒトにおいてできていないというのが現状ですので、そういった
研究をするという意味で非常に妥当性があるというふうに考えております。
以上です。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
それでは、ただいまのご意見につきまして、もし特段のご意見ございましたら。よろし
ゅうございますでしょうか。
それでは、
引き続きまして西川委員に、
「iPSからの生殖子誘導実験の規制に関する意
見」というのをお聞かせいただきたいと存じます。よろしくお願いします。
【西川委員】
1枚めくっていただきまして、早速、スペルが間違っていますが、iPS
からガメート分化、配偶子分化誘導実験の目的をちょっと考えますと、1つは、先ほど石
原先生が述べられたように、生殖補助医療に直接使うということ。あとは、生殖細胞発生
メカニズムそのものがあるんじゃないかということと、それから、生殖細胞の発生メカニ
ズムの延長に発生異常というのがあるんじゃないかと思っています。1番目にペケをして
いるのは、基本的にはこれ、もちろん法律では規定されていないんですが、特定胚と同じ
ですから、議論が必要であるということと同時に、今、動物でも、ES細胞からつくられ
てきた配偶子による生体というのは異常があるということはわかっていますから、基本的
には危険な技術であるというふうに考えています。しかし、2、3に関しては、やっても
いいのではないか。
iPSが何をもたらしたかといいますと、Somatic cellsと生殖系列というものは全く分
離した存在ですね。Fertilizationを経てSomatic cellsに行くという道はあるんですが、
基本的には、これをiPSがイコライズしたというか、対称化したのではないか。すなわ
ち、Somatic cellsとGerm cellsを行ったり来たりできる時代が多分来るだろうということ
-14-
になったと思う。
じゃあ今はどうなのかということで、議論しなければならないのは、これはいろいろ書
いてありますけど、卵子の問題に関してはそれほど議論をしなくてもいいのではないか。
先ほど石原先生がおっしゃったように、大変複雑なプロセスがあって、もちろん精子もそ
うなんですが、Hans Scholerが卵子をつくれたという話をしていますが、先ほど話があり
ましたように、大変複雑なプロセスである。ですから、研究するのはもちろん問題ないん
ですが、心配する、すなわち、配偶子をつくって、だれかが間違って生殖補助医療のため
に直接使うというような研究を心配して議論をするという意味で言うと、卵子は今のとこ
ろ、あまり議論をしなくてもいいのではないかなと思っています。
それがまとめとして、現状認識ですが、試験管内で作成した配偶子、ですから、今言っ
た理由で現時点では主に精子を用いて作成した受精卵は、原理的には特定胚と考えていい
のではないか。ですから、当然、原理的にも、もちろん今のところ罰則の対象ではないん
ですが、同じように扱っていいだろうと思っています。現状では、実験動物でも試験管内
誘導の精子を使う場合、正常胚が得られる確率が低いということで、これを母体に戻すと
いうこと自体、極めて危険な問題である。しかし、これは予測ですが、精子形成について
は、ほぼ正常の細胞が誘導されてくる可能性は高い。特にICSIで使えるものがつくら
れてくる可能性は、かなり高い可能性があると思っています。ですから、もし議論を続け
るとしたら、精子について、ほんとうに生殖補助医療に使っていいのかどうかということ
は、議論をしていっていいのではないか。
しかしながら、2、3に関しては、少なくともiPSのように出自に問題のない細胞で
あれば、由来細胞の胎内への移植禁止を指針で明示しておけば、基本的にはあとは何を研
究してもいいのではないか。さらに、それ自身、試験管内での受精実験ということもいい
のではないかなというふうに思っております。
次のページをめくっていただきますと、生殖細胞の発生過程を研究する場合に、現在は
ES細胞とiPS細胞が、唯一のというのはちょっと言い過ぎですけれども、材料ではな
いか。先ほどおっしゃったように、もちろん、精巣から、あるいは胎児からとってくると
いうことはあり得るんですが、かなり困難であるという認識をされているわけですから、
多分難しいだろう。
一方、マウスでは大変、生殖細胞系列の分化というのが進んでいます。例えば、私の研
究所の斎藤さんたちは、生殖細胞系列がどうしてできるかという運命決定に関してかなり
-15-
精緻な実験をして、
彼らの研究を見ていますと、
まだ論文にはなっていませんが、
100%、
しかも正常の生殖系列への分化を遂げた細胞をつくってくるということは、それほど難し
くない。
もちろんそれは配偶子ではないわけですが、
こういう研究はどんどん進んでいる。
一方、人間の研究で、次のページをめくっていただきますと、例えば精子形成において
も、遺伝的な異常としてさまざまな場所の異常はあるわけですが、細胞そのものの異常も
含めていろんな遺伝子がもう知られておるということで、実際に、今までの研究を全部ま
とめますと、決して精子や生殖細胞発生の研究だけではなくて、例えば、もちろん不妊の
研究にも役に立ちますし、それからもう一つ重要なのは、腫瘍発生などの理解に大きな材
料を提供するのではないかと思っています。
次は、順番が逆になりましたけれども、どこに、どういうサイトにそれぞれの遺伝子が
かかわっているかというのは、
このぐらいのレベルではわかっているわけです。
ですから、
結局、遺伝子はわかっておっても、実際にそれぞれの遺伝子がヒトの細胞でどのように機
能しているかということに関しては、やはり生きた細胞や個体を用いたメカニズムの研究
は必須ですが、モデル動物を使って個体で研究する以外は、多分、ヒトでは個体を用いる
研究というのはなかなか難しいですから、そういう意味で、iPSやES細胞を使うこと
によって、生きたヒトの材料を使ってモデルマウスやモデル動物を使った実験と対応させ
ていくということは、大変重要だろうと思います。
不妊であるとか、いろんな形でお話をされると思ったので、じゃあどんな研究が可能か
と、僕自身が多分一番おもしろいかなと思ったのは、この段階では減数分裂というものが
ありますから、減数分裂というのは普通の分裂と違って、ダブルストランドブレイといい
ますか、いわゆる染色体に放射線を当てたのと同じような切れ目が入るんですね。そうい
う極めて危険なプロセスを経て、しかし私たちは情報の交換をするわけですが、その異常
として、皆さんご存じのように、トリソミーというものが起こってきたり、いろんなこと
が起こってきます。多くの場合、それがうまくいかないと先ほどお話があったように実際
には細胞は死んでしまうわけですが、しかし、例えば、なぜ18番とか、16番とか、2
1番のトリソミーは、ダウン症候群を含めて女性の配偶子の形成過程で起こってくること
が多いのかとか、一方、性染色体のトリソミーは逆に男性の場合に多いのかというような
ことも全くわかりません。しかし、それは大変おもしろいと思うんですね。逆に、どうし
て21番目、16番目、18番目が多いのか。あるいは、僕はきっちり覚えていないです
が、例えば16番と21番目は第一減数分裂のときに多くて、18番は第二減数分裂のと
-16-
きに多いとか、今までそういうことが知られているんだけど、どうしてそういうことが起
こるのかというのは全くわからない。実際に、これは決して遺伝の異常ではなくて、年を
とられた女性が妊娠するとそういうことが多いというのは、当然、減数分裂過程で、先ほ
どおっしゃったように長い期間、途中でとまって、スピンドルとか、そういうようなもの
をじっと置いておかなければならないというような問題があるんだろうと思うんですが、
こういう過程は研究できるとは思わなかったわけですが、それが研究できるようになると
いうことで、ダウン症候群、トリソミーなんかがもし高齢出産でも防げるようなチャンス
があれば、これは大変大きな進歩だろうと思います。
まとめに入りますけれども、ES細胞を用いた研究については、僕は欠席しておりまし
たが、出自の問題があるということがやはり議論されていることで、しかも、そこの委員
会で、基本的に出自の問題として、その延長でこれを生殖子の研究に使えないということ
を決めてしまったわけですので、これに関しては今後まだ議論が必要かもしれませんけれ
ども、しかし、iPSに関しては、ここの問題はありませんので、学問的に重要な課題の
研究をヒト細胞を用いて自由に行う可能性を開いているものであるというふうに思ってい
ます。最終的に、今、要するに医学的な意味ということが強調されていますけれども、疾
患理解や治療に結びつかなくても、重要な問題がたくさんあるというふうに思っておりま
す。ですから、先ほど言った正常発生の研究に使えるということが一番大きいかなと。
じゃあ問題はないのかということですが、多分、1つ議論をしておいたらいいと思うの
は、配偶子の機能の研究ということになると、機能そのものは、受精ができる、あるいは、
受精後、胚発生が可能であるということが最終的な機能のチェックになりますから、こう
いう問題に関して、基本的にはヒトでは禁止になる可能性が高い。したがって、研究内容
が限定されるという問題は多分あるだろうなというふうに理解しておりますが、ここはぜ
ひ議論をしていってほしい。
ですから、最終結論としては、iPSについては、まず配偶子を含む生殖細胞の誘導実
験は認める。条件としては、当然のことながら、ヒト、動物を問わず、子宮に戻さない。
動物を用いた媒精実験も許可。目的、方法についてのディスクロージャーを徹底すればよ
いのではないかというのが、私の意見です。
以上です。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
何かご質問ございますでしょうか。
-17-
【小倉委員】
一番最後のページで「動物を用いた媒精実験も許可」というのがあるんで
すが、これは本来で言えばヒトとの交雑になるので禁止になります。おそらく市川先生と
石原先生はご存じだと思うんですが、例えば何時間かで固定をしてしまうのであれば研究
に用いて良いという条件で倫理委員会では通っているところが多いと思うんですが、どう
なんでしょうか。
【西川委員】
実際に特定胚研究のときにかなり議論をして、ハムスターの卵子を使った
媒精実験というのは基本的には禁止しない。特定胚に当たるかもしれない、胚のクリエー
ションに当たるかもしれないけれども、そこに関しては問題がないということで、よいと
いう形で特定胚研究で議論をしたので、そこは全然問題はないのではないかというふうに
理解しているということです。
【小倉委員】
それは培養期間を限定することにはなっていないのですか。
【西川委員】
もちろん、戻さないということです。その後さらにディベロップさせるか
どうかですか。
【小倉委員】
【西川委員】
はい。
そこは議論をしていく必要があるのではないかというのが、
私の考えです。
【小倉委員】
わかりました。
【豊島主査】
よろしゅうございますでしょうか。
それでは、続きまして中内委員に話題提供をお願いしたいと思います。よろしくお願い
します。
【中内委員】
それでは、引き続きまして、私なりの考えをご説明したいと思います。「i
PS細胞を用いた生殖細胞研究の医学的有用性」というタイトルです。
私自身の基本的な考え方は、先日、須田委員がおっしゃっておりましたように、科学研
究というのは本来、人間の知的好奇心に基づくものであって、役に立つとか、立たないと
か、そういうことに関係なく、基本的にその活動に制限は加えるべきではないというふう
に考えます。ただし、科学研究の結果が社会生活に大きな混乱をもたらす場合には、何ら
かの制限が当然必要になるわけです。しかし、科学研究の発展というのは予想できない場
合がありますし、将来を予想して制限するというのは避けるべきであって、それを実際に
制限することも非常に難しいと考えます。したがいまして、私は、デフォルトというのは
基本的に研究の自由は保証されるべきであって、何らかの制限が加わる場合も、それは最
小限の制限であるべきだというふうに考えております。
-18-
ES細胞、iPS細胞ですけれども、ES細胞の特徴というのは、ここにありますよう
に、受精卵から胚盤胞に来て、この胚盤胞を壊してES細胞をつくるわけですので、ここ
で、人間に行くか、ES細胞に行くか、
「or」の関係で、どちらかしかとれない。そのた
めに、あまり話題になっていませんけれども、今、例えば日本にある3株のES細胞はほ
んとうに正常な人間を代表しているES細胞かというのは、生まれてないわけですので、
よくわからないわけです。そういった問題があるわけですので、非常にわずかな数のES
細胞でいろいろな研究をするということにも問題がありますし、原理的にほんとうに健常
人のES細胞かということを示すことは非常に難しいという状況があると思います。
これに対して、現在、話題になっているといいますか、iPS細胞とか、あるいは核移
植ES細胞というのは、成体のゲノムを使ってつくるわけですので、少なくとも、患者、
あるいは健常人を問わず、生まれてきたヒト由来であるということは、確実というふうに
考えられます。
そして、iPS細胞、ES細胞、組織幹細胞の特徴を表にしたものですけれども、ES
細胞の特徴は、試験管内でほぼ無限にふやせるということと、非常に幅広い分化能を持っ
ているということがあると思います。これは患者さんからとれる組織幹細胞とは非常に違
うわけですけれども、ここでiPSが登場して、ES細胞の特徴を持ちつつ、なおかつ患
者さんからとれるというところが、そして倫理的問題もないというところが、非常にすば
らしいところだと考えられるわけです。
まとめますと、iPS細胞はES細胞同様に無限に培養できる。したがいまして、世界
中の科学者に普遍的な材料を提供できるということは、非常に大きなメリットだと思いま
す。また、高い分化能を持っていますので、患者さんからとった場合でも、いろいろな組
織にも分化させ得る可能性があります。また、もちろん遺伝子導入とか相同組換えもでき
ますので実験医学的なアプローチもできるわけで、そういった意味でiPS細胞は非常に
有用性が高いと思います。
例えば、先ほど西川先生から卵子の話がありましたけれども、精子形成を一つの例にと
って、その役割を考えてみますと、左側は実際の精管の中で、一番外側にあるのが精子の
幹細胞で、だんだん成熟していくに従って内側のほうに行って、最終的に精子の格好をし
たものが管内に出ていく。こういったプロセスになっていますが、取り出してみれば、非
常に複雑な発生のプロセスの過程があるわけです。そして、このプロセスのどこか1カ所
に異常があってもそれ以降に進めませんので、生殖可能な精子は産生されないと、理論的
-19-
に考えられます。さらに、このプロセスの中でどこかに異常を持つ人が男性の不妊患者の
中にはおそらくいると、確率の問題で予想されます。これはちょうど我々の生理学的な研
究が遺伝子を破壊したノックアウトマウスの出現によって非常に進歩したように、こうい
った患者さんを探すということは、
「天然の実験」とよく言われるんですけれども、非常に
重要な症例になるわけです。そういった症例をきちんと集めていけば、このプロセスを理
解する上で非常に有用な材料を提供してくれる。そういうことが考えられます。また、こ
ういったプロセスがわかってきますと、もしこの段階に異常がある人がいた場合は、その
治療法を見出すという上でも非常に有用な材料になり得るわけです。
これは精子のある段階における分化過程を見ただけですけれども、これが例えば卵子と
結合する過程、あるいは卵子自体の発生過程等、そういったすべてのプロセスについて同
じようなことが言えますので、
不妊症の症例に関してiPS細胞という無限に増える材料を得
るということは、非常に重要だと思います。
まとめてみますと、iPS細胞は、健常人、患者、それぞれから樹立することができる。
そして、iPS細胞は、ES細胞同様、一たん樹立されると無限にふやすことができる。
したがいまして、世界中の研究者に恒久的で普遍的な研究材料を提供することができる。
また、不妊患者からiPSを樹立した場合は、試験管内で配偶子形成を再現することによ
って、不妊の原因を明らかにする。あるいは、新しい治療法を見出すための材料としても
非常に有用である。また、最近話題になっています環境因子の影響とか薬剤の影響、そう
いった生殖細胞研究というのは人類の生存に影響を与え得る重要な研究だと考えられます
ので、そういった点で、iPS細胞を用いれば、倫理的な問題を最小限にして、なおかつ
再現性の高い研究が可能になると考えます。
結論ですけれども、生殖細胞研究は、医学生物学だけでなくて、環境問題、創薬・安全
性試験などにも応用可能な極めて重要な研究領域と考えられ、iPS細胞を利用した配偶
子の分化誘導実験は認められるべきと考えます。ただし、配偶子誘導の実験を行う際は、
機関内倫理審査委員会による承認など、研究内容に関する科学的合理性と透明性の維持が
不可欠だと思います。また、何をやってはいけないかということですが、最低限、現在の
倫理感覚で多くの人がアグリーする、個体形成、子宮への移植というのは不可とする。そ
して、治療に関してですけれども、配偶子を直接的に細胞として治療に使うということで
すけれども、それは今後議論が必要なわけですが、配偶子がほんとうに誘導可能となった
場合、その時点でもう一度、安全性など、臨床の可能性について国レベルの判断を仰げば
-20-
いいのではないかというふうに考えます。
以上です。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。それでは、ご質問いかがでございましょ
うか。かなり突っ込んだ話が出てきたというふうに思うんですが。
きょうの委員の方々の話というのは、基本的には、個体形成は禁止した上で、研究はで
きるだけ大幅に認めたほうがいいのではないかと、一括して言ってしまいますと、それに
近いようなお話じゃなかったかなというふうに思いますが。
実は、思ったよりも、きょう担当の委員の先生方、話をうまく短く切り詰めていただき
ましたので、議論をする時間はちゃんとございますので。
【中内委員】
石原先生と市川先生、教えていただきたいんですが、ここ20年ぐらいの
間に人工授精の技術が非常に進んで、今、50人に1人の子供がそういったことで生まれ
ているということですけれども、この間の技術的な向上というのはやはり実験的な研究に
負うところが多いと思うんですが、不妊クリニックなどでは、実際に患者さんの精子なり
卵子なりを授精させるという基礎的な検討というのは、治療目的とはいってもやっている
わけですね。そこら辺は、現実はどうなんでしょう。
【石原委員】
生殖医療が始まった一つのエポックメーキングな出来事というのは、19
78年にLouis Brownがイギリスで生まれた世界で初めての体外受精、これは人工授精では
ございませんので、体外受精による児が生まれたということがございます。それから本年
で30年が経過いたしました。その30年間の間に、もちろんさまざまなメカニズムの解
明、特にヒトにおける受精現象がどういう過程をたどって正常の場合にはいくかというこ
とについての知識は非常に増加したというふうに言うことができると思います。ただし、
その後、1992年から行われるようになっておりますICSIと呼ばれる顕微授精であ
りますが、これは精子を丸ごとそのまま顕微鏡的に卵子内に打ち込んで、それでも授精が
起こってくるということが臨床的には明確になっておりまして、今、体外受精の数よりも
顕微授精のほうが件数としては多くなっておりますし、世界的には、南米、あるいは中東
などでは、90%以上の周期が顕微授精によって行われているという現状がございます。
ただ、それでもなおかつICSIによる授精メカニズムの詳細というのは、わかっており
ません。すなわち、生殖医療においては患者さんの求めている治療を提供して結果を得る
ということがどうしても優先されて、その背景にあります基礎的な検討というのが必ずし
も十分に行われていないということがございます。
-21-
なぜそうなるかというと、
これがきょう私がお話をさしあげました理由でございますが、
基礎的な検討をするためには精子と卵子が必要なわけでありますが、それを提供していた
だくことはできないわけです。基本的には、おいでになる患者さんは、ご自身の治療の目
的でおいでになる。先ほど来出ております幹細胞に由来する配偶子というのが得られるよ
うになれば、初めてそのような研究が倫理的な大きな問題を考えずに行うことができるで
あろう。従来であれば、治療を求めている人の配偶子を治療以外に流用して研究をしてな
い限り、研究はできなかったわけでございます。私ども、患者さんにお願いをして一部を
分けていただいてということをもちろんやってきたわけでございますが、最もよいものを
使うわけにはいかないわけですね。つまり、使える配偶子というのは、残念ながら治療に
用いてもうまくいかないであろう、必ずしも正常とは言いがたいような配偶子を用いての
研究のみが行われてきたという経緯がございまして、そういう意味できょう申し上げまし
たような研究面への貢献が大きく考えられるのではないかという発表をさせていただいた
次第でございます。
以上です。
【中内委員】
ポイントは、先ほど西川先生がおっしゃっていたように、受精をさせると
いうことが許されるかどうかということになると思うんですが、もし不妊治療の現場で治
療目的とはいってもそういった受精が許される場合、iPSとか、研究用でそういった受
精をさせるということが許されるのか、それとも許されないのか。そこら辺が私にはよく
わからないところがあるんですけれども、そこはどういうふうに皆さん考えられるんでし
ょう。
【西川委員】
胚発生までやらないと、最終的にはわからない。しかも、その胚自体の正
常性というか、そういうものまでほんとうは機能の中に含まれているということ自体、ガ
メートの研究の一番難しい点なんですね。ですから、そこの最後の点に関しては、媒精実
験も含めていいと思うんですけど、やっぱりもう少し議論していったらよくて、今、一足
飛びに、
それ自身が問題になるだろうかという話はあまり現実味がないのではないかなと、
僕自身は思うんです。ただ、現実味がないから何も議論をしなくていいというのではなく
て、やはり積極的に、どういう可能性があってこういう実験をする必要があるのか。例え
ば、ICSIができて、しかし胚を戻すことが不可能な場合に、例えば、分裂しても14
日までインビトロで培養していいとしても、その完全性というか、バリデーションという
ものをどうやってやるのかというのは、技術的にだれもまだわからないところだから、そ
-22-
ういうことがきちっとできるようになった時点時点で議論していくしかないかなと、僕は
思っています。
あと、さっきの質問で言うと、フォックスさんという人が書かれた『セル・オブ・ザ・
セルズ』という本があって、そこで、どうしてヒトのES細胞の樹立に、2つグループが
あったわけですけれども、両方ともイスラエルがかかわっているのか、それからシンガポ
ールが大きな役割をしたのかというのが書かれていて、今、石原先生がおっしゃったよう
に、モンソさんという方がたくさんの卵を使っていろんな研究をされているんですね。僕
も石原先生にお伺いしたいぐらいですが、例えば、ICSIも含めて、試験管内での人工
授精後、その方はファロピアンチューブの細胞を使ってブラストシストまで持っていけば
もっと確率が上がるというような仕事をされているんですが、基本的にはそういうものは
ほとんど生殖補助医療のところには、はっきり言うと定着していないですね。しているん
ですか。
【石原委員】
今、現実には、移植胚数を減少するという方向に向かって、日本産科婦人
科学会は本年4月から、体外受精、あるいは顕微授精においての治療周期におきまして、
移植する胚は基本的に1個にするということになったわけでありますが、移植胚数を減ら
すことが可能になった一つの要因は、体外において長期間の培養が可能になりまして、従
来、2日目、3日目程度で移植しておりましたのが、今は、胚盤胞と言われる5日目、6
日目の段階で戻すことも可能になっています。
その体外培養の環境をよくするために当初行われましたのが、例えば共培養ですね。先
ほどお話が出ておりました卵管の細胞を培養した、その上で胚を培養するとよりうまくい
くんじゃないかとか、さまざまなことが行われたわけでございますが、今はそれは全然使
われておりませんが、培養液の改良によりまして胚自体の要求する栄養その他の条件がわ
かりましたので、あるいは機器等の進歩によりまして胚盤胞へ到達する確率がふえて、そ
の結果、1胚移植、単一胚移植で良好な成績が得られる。もう一つは、凍結技術が向上し
たために、一度に卵を戻さずに、残したものを凍結しておいて、別の周期で戻すことによ
って妊娠が期待できる。そうした幾つかのことがこの30年間に進歩したわけでございま
すが、そのいずれも基礎的な検討が十分されているのかといいますと、正直なところ、こ
れは、やってみたらうまくいったというところから始まって、小さな改良を重ねてきたと
いう、典型的な臨床医学の進歩のあり方の経路をたどってきたことでございます。
【豊島主査】
今のいろいろなご議論を聞いていますと、基本的には研究そのものは解禁
-23-
するべきだという基調、きょうの話では全部そういうことだと思うんですが、その一つの
行き着く先として、インビトロ授精まではするという方向だと、それで胎内に戻してはい
けないという方向だと、例えばどういう規制・議論が必要かということとか、そういうこ
とまで含めて、かなり重たい問題が後々残ってきますね。例えば、とりあえず分化の研究、
例えば不妊症の途中までのことがある程度わかるかもしれないということも含めて、ある
いは発生の問題としても非常に重要なポイントがわかるかもしれないという希望も入れて、
分化の研究はしてもいいけれども受精はいけないとなると、かなりある程度は、気楽にと
れと言ったらおかしいんですけれども、
研究自体の前進というのは認めやすい。
けれども、
受精が構わないということになると、少しいろんな規制が必要かもしれないと。もしそう
なったらどういう規制が言われるかということになると、
クローンのときの話を考えると、
かえって不妊症医療の現場では研究しにくくなるんじゃないかと。
【石原委員】
一つご参考になると思われますのは、ヒト胚研究をどこまで認めるかとい
う議論が世界中で行われているわけでありますが、例えば受精後14日間は認めるとか、
一定の基準を認めて受精後の胚の研究を認めているところが多いわけですね。それとの整
合性を考えますと、ESあるいはiPSについて受精を認めないという規制というのは、
ちょっといかがなものかと思います。やはり同様な一定の基準を認めて、どこまでであれ
ば、iPSあるいはESに由来する配偶子を用いた受精とその初期発生の研究を認めるか
という、そういう議論をしていただけるとありがたいんじゃないかと思います。
【豊島主査】
いかがでございましょうか。
【中内委員】
私が先ほど石原先生に質問したのはそういう観点で、iPSだと受精しち
ゃいけなくて、不妊治療だと受精させていいというのは、何となく科学的合理性に欠ける
なというのが私の印象なんですけれども、一つの方法として、私、先ほど申し上げました
ように、何でも規制するというわけではなくて、とりあえず皆さんがコンセンサスとして
納得できるのは、個体形成をしない、あるいは子宮に戻さないということだと思うんです
けれども、それ以外の受精に関しては、現時点でそれに耐えるような精子形成ができない
わけですので、できない技術のことを規制してもしようがないと思いますので、ほんとう
に規制すべきことは子宮に戻すということであって、それ以外のことはケース・バイ・ケ
ースでその時点で判断する。それまでは、議論を続けていく、あるいは技術の進歩を見て
いくというのがリーズナブルなんじゃないかというふうに、私は思います。
【豊島主査】
どうぞ。
-24-
【町野委員】
受精を認めるかどうかという話ですけれども、基本的には、これはだめだ
ということから世界の生命倫理のほうは発しているわけですね。つまり、個体を発生させ
る目的で受精させるというのは生殖補助医療の範囲で、これは認められるだろうと。しか
し、そうではなくて、実験目的でヒトの生命をつくって、それを滅するということはタブ
ーであるというのは、一番最初のスタートであったわけですね。したがって、内閣府の生
命倫理専門調査会の報告書というのも、どの範囲でこれを認めるか。イギリスの後を追っ
て生殖補助医療と難病についてというぐあいに広げてきた、その段階なんですね。それを
受けまして、現在、文科省と厚労省との間の合同の検討会で生殖補助医療とヒト胚研究に
対するそれは、今のように研究目的でヒト受精胚をつくることはどのような方法で許され
て、どのような研究は許されるかという議論をしているわけですから、基本的にそちらの
ほうとの関係でこれは議論されなきゃいけない問題だろうと思います。
もう一つの問題は、存在する受精胚ですね。例えば、余剰胚だとか、そういうものがそ
うなんですけれども、それをどのような研究目的で使うかというのとは、かなりレベルが
違う話なんですね。もともと研究目的で人間の生命をつくっていいかというところから話
が始まっているわけですから、その点はかなり違うということだと思います。
【豊島主査】
どうぞ。
【小倉委員】
サイエンスの意義として、受精をするかどうかと考えた場合、石原先生の
おっしゃっている不妊治療の現場での受精の実験というのと、今回の受精の実験というの
は、大きく意味が違うと思うのです。不妊治療で受精をさせる場合は、当然、精子と卵子
というアイデンティティーが完全に決まっているわけで、それから受精を始めるわけです
が、おそらく我々が今回話しているものは、ほんとうにこれは卵子なのか、ほんとうにこ
れは精子なのかと、そこからスタートしています。今回の場合、受精をさせる受精もどき
のようなもので受精卵もどきのものをつくって、ほんとうにこれは科学的に意味があるの
かという、そういうところからおそらく議論をスタートする必要があるのではないかと思
います。例えば受精の実験でも、精子でなくても、卵子にDNAを入れて活性化をしてし
まえば発生してしまうわけで、そういうかなり生殖工学が発生している時点で受精卵をつ
くるということはどういう意味があるかということをきちんと考える必要があるかなと思
います。
【西川委員】
今、町野先生のおっしゃった問題に関して言うと、少なくともクローン研
究のときに、はっきり言うと再生医学に関して意味がある場合は、これをほんとうの正常
-25-
胚と言うか、少なくとも特定胚をつくってよいという議論はなされたわけですね。ですか
ら、さらに、出自だけじゃなくて、方向性にもっと研究が――ただの研究という意味ので
すね。入っていっていいのかどうかという部分になるわけですね。ですから、構造は結構
複雑で、1つはドネーションをいただくという重みと、それから、その重みをリフレクト
してくれるのは一つのインフォームド・コンセントのとり方とかいう形になるわけですか
ら、それに関して方向性を明確にするという方向である程度の許可が得られているわけで
すね。
一方、今回は、もちろんインフォームド・コンセントはあるんですが、体細胞であると
いうところで、最初の重みが若干減っていた中で、そのバランスで将来の方向性をやって
いいのか。僕はやっぱり、新しい胚をつくるということに関しては規制のもとではあり得
るんだろうというふうには思っていて、ですから、最終的には、今おっしゃったように目
的が限定されるのかどうかという、最後に書いたそこだろうと思うんですね。胚のクリエ
ーション自体に。
【中内委員】
町野先生のおっしゃることは非常に重要なポイントだと思うんですけれど
も、実験で使うというと遊びでつくっているようなイメージがありますけど、決してそう
ではなくて、私が石原先生に先ほどからお尋ねしているのは何かというと、不妊治療を目
的とした不妊治療研究であっても、先ほどの培養条件の改良の過程でたくさんの胚がむだ
になっているわけですね。それも実験だと、私は考えるんです。基礎的な検討なんですね。
そういうふうに考えると、私が言っている研究・実験と、不妊治療で行われている実験と
いうのを区別することが、
基本的にはみんな不妊治療を目指してやっているわけですので、
そういった意味では先生がおっしゃられるほど明確に区別できるようなものではないんじ
ゃないかというふうに思うんですが、どうでしょうか。
【町野委員】
おっしゃることはよくわかりますけれども、やはり人間の生命というのは
その人そのもののために存在しなきゃいけないというのが基本なんですね。ですから、そ
の中でどれだけ認めるかという話が次に出てきて、少し広げ始めたと。おそらく目的の点
について少し問題があるんじゃないかと西川先生は言われるけれども、内閣府の認めた目
的の中には、これは入っているだろうと思います。ただ、次の問題は、つくり方について、
そういうことまで想定してなかったんですね、内閣府のときは。ほんとうに精子と卵子そ
のものを持ってきてやるということしかやっていなかったですから、そこまで考慮してな
かったんですけれども、しかし、これも認めていいかという話に次になるだろうという話
-26-
だろうと思います。
そのときに、先ほどから出自の問題というのはかなり重大だということを皆さん言われ
るんだけれども、こちらのほうについて、生といいますか、もともとある精子と卵子をも
らってきて受精胚をつくるのと、iPS細胞から、あるいはES細胞から誘導された配偶
子を使うのと、私はその両者の間に差がないと思うんですけれども、その点が、一番最初
のところで再び出てきた、ヒトES細胞から生殖細胞をつくることについてと、それから
iPS細胞からつくることについて、出自で差があるんじゃないかと、倫理的に差がある
んじゃないかということを言われたんですけれども、私は、その点は差はないんじゃない
かと思います。出自の問題というのは、直接の影響はないだろうと思います。それはちょ
うど中絶胎児からの幹細胞の樹立について、これは中絶胎児だからだめなんだという議論
というのはかなり多くの人が思ったわけですけれども、私は、その問題はかなり違うだろ
うと思います。その点は、もう一回議論をしなきゃいけない問題だろうと思いますけれど
も。
【西川委員】
研究する側からの感触を申し上げているという感じですね。実際に自分自
身が行いたいと思っているような研究自体をどのような形でディスクローズして、特に皆
さんと議論をした上で進めるかといったときに、一番大きな問題は、ドナーの方が重くち
ゃんとおられるということが多分出自の問題であって、
胎児の利用であるとか、
それから、
本質的な内容、例えばポテンシャルであるとか、そういうようなものに違いがあるかとい
う意味ではないと。ですから、要するに私たちが材料をつくるときに、基本的には社会と
いうものの一つのあり方を反映して人間の場合は材料を得るわけですから、それ自身の中
に出自の違いはかなり大きく反映されるだろうなと思います。
もう一つ、町野先生の話に関して言うと、僕は議論をしていくべきなんだろうと思うん
ですが、今の段階では議論だけでいいので、動物で明らかにICSIで正常胚ができたと
いうような実験結果が出てこない段階では、今のところ、胚をつくるという部分に関して
は、僕は禁止しておいてもいいというふうに思います。例えば、卵子自体を動物から持っ
てきたとしても、それ自身、意味のあることは今のところないですから。ただし、議論は
やっておかないと、少なくとも精子に関してはかなりのスピードで研究が進んでいきます
から、いずれの会かわかりませんが、そういうことをちゃんとやっていくということが大
事かなという2点。
【豊島主査】
今、町野先生のおっしゃった問題というのはかなり重く考えなきゃいけな
-27-
いので、基本線として、新しい生命の母体をつくるということ自体、研究目的であっては
ならないということに関して、やはりもう少し時間を置いて考えなきゃいけないんじゃな
いかなと。
もう一つの問題としては、今まで不妊症治療ではそれをかなりのところまで、部分的に
は研究的にも許してきた。それとの矛盾点をどういうふうに説明するかというのは、非常
に重たい問題なんですね。これは、例えばこの場で議論していくということよりは、この
場から、こういう問題点がどういうふうにあるから、それを、不妊症治療専門に議論の場
に持ち出してやっておられるところで、どう考えて、どういうふうに進めるつもりですか
ということに関して、考え方を示して欲しいという提案をこちらから出すということはあ
り得るかと思うんですが。ここの今までのやり方からいうと、受精というのは一応次の段
階として置いておいて、それまでの発生を研究上は進めてもいいかどうかということを先
に検討したほうが物事が進みやすいし、トラブルが少ないような気がするんですが、やは
り最後まで徹底的に議論してからのほうがいいというお考えが皆さんの中に多ければ、そ
れは別問題なんですけれども。
【野島専門官】
1つ、事務局からよろしいですか。
今の点につきまして、総合科学技術会議の意見ということで、先ほど私がご説明した資
料の7ページのヒト受精胚の取扱いの検討というところで、研究目的のヒト受精胚の作
成・利用についてというものの考え方を抜粋してございます。そこで、ヒト受精胚の研究
目的での作成・利用は、ヒト受精胚を損なう取扱いを前提としており、認められないが、
基本原則における例外の条件を満たす場合も考えられ、この場合には容認し得るとされて
おりまして、この場合、容認したといたしましても、その取扱い期間を原始線条の形成前
までに限定すべきというようになってございます。そして、個々の事例の容認の可否につ
いては個別に検討する必要があるということで、現在考えられておりますのは、ここに掲
げております、ア、イ、ウ、エでございます。
まず、アといたしまして、生殖補助医療研究目的での作成・利用ということで、生殖補
助医療研究は、体外受精の成功率の向上であるとか、生殖補助医療技術の向上に貢献して
いるということで、今後とも生殖補助医療技術の安全確保に必要と考えられるということ
から、容認し得るということです。
それから、イといたしまして、先天性の難病に関する研究目的での作成・利用というこ
とで、これにつきましては、ヒト受精胚の作成・利用を伴う研究を行う具体的必要性がま
-28-
だ確認できないと。だけども、容認し得る余地はあるということで、今後、研究が発展す
ることを期待して、将来に改めて検討すると。
ウといたしまして、ヒトES細胞の樹立のための作成・利用ということで、これについ
ては、ヒトES細胞を用いた研究は期待される成果が大きいですけれども、十分に科学的
合理性があり、社会的妥当性がありますが、新たにヒト受精胚を作成して、そして、それ
からヒトES細胞を樹立する必要性は現時点では確認できないとされていいます。ヒトE
S細胞の樹立については余剰胚を使うということになっています。
その他の研究といたしまして、これが該当するかどうかはわかりませんけれども、ヒト
受精胚の作成・利用を認めざるを得ない事例は現在では確認できなかったけれども、将来
的に新たな研究目的が生じた際には、基本原則にのっとり、その容認の可否を検討すべき
であるというところが、今の総合科学技術会議の考え方だということでございます。
【豊島主査】
どうぞ。
【石原委員】
1点だけつけ加えさせていただきますが、町野先生はよくご存じですが、
別の委員会での審議のことをここで申し上げることが妥当かどうかはわかりませんですが、
生殖補助医療研究目的のお話で、現在、当然のことながら、卵子、あるいは精子などの配
偶子の提供を受けないと研究ができないわけでございますが、その委員会では、とりあえ
ずボランティアからの卵子提供というのは認めないということで、ほぼ結論が出ておりま
して、不妊治療、特に体外受精、顕微授精の治療を受ける患者さんからその卵子の一部を
分けていただくというような方向に今向かっているわけでございますが、現実的にそうし
た形で良好な十分な数の配偶子が得られる可能性というのは非常に低いだろうというふう
に、私は感じておるわけでございます。
そうした中で、先ほど原始線条ができるまで、これはいろいろな基準があると思います
が、一定の期間を置いてビトロで受精現象を見て、そして初期発生を観察するということ
をこのような胚細胞由来の配偶子を用いた研究においても行うことを容認していただかな
いと、なかなか難しい。どこまで認めるかというのはまた別の議論だと思いますが、配偶
子をつくることは認めるけれども受精は認めないということでありましては、何のために
認めているのかわからないという気がいたしますので、そのところをぜひよろしくお願い
したいと思います。
【豊島主査】
いかがでございましょうか。
【西川委員】
先ほど野島さんがおっしゃった話のエッセンスは、特定胚指針とか、そう
-29-
いうようなものの精神に基づいていると思うんですが、基本的に日本のやり方というか、
法制の重要なポイントであり、また、いろいろ批判される部分というのは、ボトムアップ
で物を考えましょうと。1つ1つケースをリストして、それがどういうものにかなってい
るのかどうかということを考えていって、すべて包括的にやらないという方向性で考えて
いるんじゃないかと、僕は思うんです。それ自身は包括的でないということで常に批判さ
れてきたわけですが、新しい受精胚のあり方というのがさまざまにあるという状況になっ
てきたときに、僕は、それ自身が生きてくるときかなと思っています。ですから、1つ1
つのケースについて、
先ほど町野先生がおっしゃったような部分について常に考えていく。
ただ、1つ考えておかなければならないのは、動物のほうより先に人間のほうが進まな
いと僕は言いませんが、動物の実験というのは結構進んでいるわけですから、そこで生ま
れてくる可能性も横目で見ながらという部分をさらに日本の方針の中にちょっと足して考
えておくと、大体リーズナブルなタイムスケールで物事が考えられる。先ほど町野先生や
豊島先生がおっしゃった、少なくとも受精させてエンブリオの発生を見るという部分に関
しては、今のところは動物実験も含めてほとんどされたことがないので、あまり気にしな
くてもいいのではないか。議論を続けていくということでいいのではないか。
もう一つ重要なポイントは、先ほど石原先生や豊島先生がおっしゃったように、ここで
一度、議論するプラットフォームが、それぞれの場所ではなくて、かなり生殖補助医療の
受精胚という問題とオーバーラップしてきたので、そういうところでやっていくか、両方
でやるか、別々にやる理由はないのかなというのが、今の認識かなと思っています。
【中内委員】
先ほどの町野先生のご意見にまた戻りますけれども、iPSから誘導した
配偶子を受精させるというのは先ほど野島さんの説明の中のアの生殖補助医療研究目的に
含まれてもいいんじゃないかと私は思いますし、何度も言うように今できてない段階で技
術を禁止するというのは、あまり懸命ではない。議論を続けていって、その技術がほんと
うに近づいてきたときに、あるいは個別に申請があったときに、その時点で、それをやる
べきか、やるべきでないかを判定してもいいのではないかというふうに、私は思います。
【町野委員】
私は別に規制主義者じゃなくて、中内先生の書かれた最初のところと同じ
で、デフォルトはまさに研究の自由だと思うんですね。ただ、日本のやり方というのは、
もうでき上がってしまっていて、ガイドラインで認めない以上はできないということにな
ってしまっていますから、かなり議論の仕方は難しくなっているということは確かだろう
と思うんです。その観点で見ると、私はむしろ、これは、将来といいますか、認める方向
-30-
でいいんじゃないかと、ガイドラインでその趣旨は明示してもいいんじゃないかと思って
います。
ただ、
これは生命倫理専門調査会の報告書について言えることなんですけれども、
1つ1つ穴をあけていくという必要性があったと、そういう議論で来ていますから、原理
的なそれというのはあまりないような書き方なんですね。だから、そのことで少し考えて
おかないと、便宜的にこれは必要だから認めるということにどんどんなっていくというの
は、やはり妥当でないのだろうということだけでございます。
【豊島主査】
実際問題として、認めるなら認める、どういう前提があったときにはここ
まで認められる、それまではここは規制するという形ができ上がっていると、西川先生が
言われるように、ある程度まで来たときに、それが世の中で研究されてきた道として妥当
であるかどうかを判定することによって、次の道が開けるかどうかが決まってくると思う
んですね。でも、そうじゃなくて、一般論としてそのときには考え方を変えてもいいとい
うことであれば、またそれからかなり長い間、道が開けるまでには時間がかかると。だか
ら、全体として、総論としてはどこまでをやるべきかというのと、現時点ではどこまで規
制しておいて、どういう事態が起こったときには進めてもいいと考えるかどうかというふ
うなことも一緒に議論していくかどうかというのも、ここではやはり考えておくべきこと
だというふうに思います。
【西川委員】
まとめてしまうと、実際には、卵子は難しいと思いますから、精子に関し
ては早く議論して、それを受精させて胚発生を見る対象というのは、少なくとも人間でや
る限りは、この前、クローン法案でいろいろ議論された、ボランティアドナーも禁止です
し、基本的にあそこで挙げられてきた対象というのは多分ほとんど利用できないというこ
とであると、現実禁止ですね。ですから、唯一、動物胚を用いた可能性が残っているだけ
です。一方、卵ができてくるというのは動物のほうの研究を横で見ていて、卵も精子も両
方できた場合にいろんな可能性が出てくると思いますから、基本的には、今、直接それを
禁止する理由はほとんどなくて、技術的に可能性がないですから、少なくとも精子だけに
絞って、クローン法案で議論された趣旨に沿うというふうに書けば、それで終わるかなと
いうふうには思っていたんですが。
【豊島主査】
よろしゅうございますでしょうか。きょうはかなりお休みの方もおられま
すし、一応こういう議論が進められてきたということをおまとめいただいて、また改めて
次の議論に移っていくということにしたいと思いますが、そういう方向でよろしゅうござ
いますでしょうか。
-31-
それでは、きょうはいろいろな議論が出ましたけれども、事務局のほうでよろしくお願
いいたします。
それでは、一応ここで休憩に入りまして、後半は審査のほうに入りたいと存じます。ど
うもありがとうございました。
( 休
【豊島主査】
憩 )
それでは、後半を始めさせていただきたいと存じます。
「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確立と分子機構の解明」の審査及び「ヒト
胚性幹細胞の多能性維持機構の解明と心筋細胞への分化」の審査についてということで、
鳥取大学から使用計画が議題(2)と(3)で2件出ております。この2件についての審
査ですが、使用責任者は2人おられますが、機関内倫理審査委員会は両計画とも同じでご
ざいますので、まず初めに汐田先生の使用計画について使用責任者の汐田先生からご説明
いただき、さらに、久留先生の使用計画については久留先生のほうから計画についてご説
明いただき、その後で倫理審査委員会の委員長の井藤先生から2つの審査についてのご説
明をいただくという形で進めさせていただきたいと思いますが、それでよろしゅうござい
ますか。
それでは、おそれいりますが、まず永井対策官のほうから説明をお願いしたいと存じま
す。
【永井安全対策官】
それでは、ご説明させていただきます。
まず1点目でございますけれども、資料58-1に基づきまして、ご説明させていただ
きます。本件は、鳥取大学の使用計画で、「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確
立と分子機構の解明」についてでございます。
まず、1ポツの使用計画でございますけれども、使用機関名、使用機関長、使用責任者
は記載のとおりでございまして、ヒトES細胞の入手先は、京都大学の再生医科学研究所
から3株入手するということでございます。申請受理日は平成20年6月19日でござい
ます。
2番目の使用計画の概要でございますけれども、無限に増殖するES細胞の特質を利用
して、組織幹細胞より安全で効率のよい肝細胞への分化誘導法の確立を目指して、分化の
分子機構を解明するものでございまして、さらに、次の2点についても検討するというこ
とでございます。まず1点目が、分化過程で認めた遺伝子発現の変化を外来性から付与し
た場合も、ヒト間葉系幹細胞と同様に機能性幹細胞への分化が制御できるか否か。もう1
-32-
点は、内因性に認められる遺伝子の発現変化を低分子化合物で誘導するということでござ
います。
3番目に、各委員からちょうだいいたしました意見についてでございます。まず1点目
は使用計画についてです。基本的には合理性が認められる。京都大学再生医科学研究所よ
りES細胞供与の了解を示す文書、これが当初、申請段階では添付されていなかったわけ
でございますけれども、これが示されれば問題ないというコメントをいただいています。
ちなみにこの文書は、後ほど鳥取大学のほうから提出をいただいてございます。また、学
内技術研修の責任者である白吉さんは、ヒトES細胞の取扱いを教えることのできるよう
な資格があるか否か、確認が必要であるというコメントもいただいてございます。添付試
料の研修計画の内容は具体性に欠けている。過去に行われた倫理研修会の中の一部には、
科学的内容のみのものがあるのではないかというようなご指摘もいただいてございます。
2点目に、使用機関の倫理審査委員会の審査についてでございますけれども、よく審議
されている。研究のエンドポイントという言葉は、これは議事録に書いている言葉でござ
いますけれども、本研究計画では研究の達成目標という意味で使っているという理解でよ
いか。また、委員のうち、生命倫理に関する意見を述べられるにふさわしい識見を有する
方は含まれているかどうか。中山委員があたかも研究計画の説明者というような形で発言
されているように見えるけれども、使用計画に関与するということであれば、議決の際に
は同席しないほうがよいのではないかということ。また、議論が簡略ではないか。新規計
画なので、もう少し議論をしたほうがよいのではないかというコメントもいただいてござ
います。また、委員会審議の中では科学的な問題に審議が偏っておって、倫理的な議論が
行われた形跡がほとんどない。使用責任者の倫理意識も最後にただすにとどまっていると
いうようなご指摘もいただいてございます。
また、最後にその他でございますけれども、ES細胞を提供した京大の再生医科学研究
所に鳥取大学の再生医療講座内での分与・使用について承諾を受ける必要がある。これは、
先ほどございましたES細胞供与の了解を示す文書ということと同じことでございます。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
それでは、使用責任者の汐田先生、ご説明をお願いいたします。
【申請者(汐田)
】
鳥取大学の汐田でございます。
それでは、私たちの「ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導法の確立と分子機構の解明」
-33-
の概略を述べさせていただきます。
私たちは、ヒトの間葉系幹細胞から機能性幹細胞への分化誘導に関する研究を行ってま
いりました。その分化誘導の最適条件を見出しまして、さらに、分化過程で Wnt/β-catenin
シグナルが重要であるということを報告してまいりました。また、この Wnt/β-catenin
シグナルを外来性に変動させることによりまして、ヒト間葉系幹細胞から肝細胞への分化
が促進されることも報告しております。また、これらの検討は、現在、マウスES細胞を
用いた検討でも、同様の検討を行っております。ヒト間葉系幹細胞はセルソースとしては
非常にすぐれているわけでありますけれども、1つ問題点としましては、ライフスパンが
非常に難しく、大量調整が困難であるということがございます。その点、ES細胞は無限
に増殖し得るポテンシャルを持っておりますので、それを用いてより効率的な分化誘導法
を確立しようということが今回の目的でありまして、同時に、分化誘導法の確立と、その
分子メカニズムを明らかにすることによりまして、外来性に遺伝子を導入する、あるいは
外来性に低分子化合物を存在下で培養することによりまして、より効率的な分化誘導法を
確立したいということを目的としております。最終的には、インビトロで分化誘導しまし
た機能性幹細胞を免疫抑制マウスに導入しまして、実際に移植用に用いる細胞として効果
があるかということも検討をしたいと思っております。
このヒトES細胞の研究におきましては、専用のクリーンベンチ、インキュベーター及
び細胞保存容器等が備えられた専用の部屋で行う予定でありますし、また、行うに当たり
ましては、鳥取大学のヒトES細胞使用研究倫理委員会の規則に従って検討をしてまいり
たいと思っております。
また、このヒトES細胞から生殖細胞を作成するというようなことはございません。
また、分化させた細胞に関しましては、倫理審査委員会での審査及び学長の承認を受け
た上で使用及び保存する計画にしております。
大体、以上であります。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
質問ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
特にご質問がなければ、次に久留先生の使用計画について、まず事務局から簡単に概要
のご説明をお願いします。
【永井安全対策官】
それでは、ご説明させていただきます。本件は、鳥取大学の「ヒト
胚性幹細胞の多能性維持機構の解明と心筋細胞への分化」に関する申請でございます。
-34-
まず、使用計画でございますけれども、使用責任者は久留教授、ヒトES細胞の入手先
は京大の再生研でございます。申請受理日は、平成20年6月19日に受理してございま
す。
使用計画の概要でございますけれども、テラトカルシノーマ細胞由来未分化性維持因子
のヒトES細胞に対する効果を検証して、ヒトES細胞の未分化性と多能性を制御する分
子基盤の解明及び新規培養法の開発を目指すこと。もう1つは、将来の不整脈に対する再
生医療を見据えて、ヒトES細胞から心臓を構成する細胞(特に心臓ペースメーカー細胞)
への分化誘導系の構築を行うこと。この2点を目的とするということでございます。
各委員からいただいたご意見につきまして、まず1点目、使用計画につきましては、使
用計画は妥当であると。また、セルソーターの取扱い基準の確認が必要であるということ
で、これは後ほど追加資料を鳥取大学からいただいてございます。また、学内技術研修の
責任者である白吉さんは、ヒトES細胞の取扱いを教えることができるかどうか、確認が
必要である。また、添付資料の研修計画の内容はちょっと具体性に欠けているのではない
か。また、過去に行われた倫理研修会の中には、科学的内容のみのものがあるのではない
かというコメントを使用計画についていただいてございます。
また、使用機関の倫理審査委員会でございますけれども、これは同じ委員会でご検討さ
れてございまして、各先生方からいただいているものは先ほどの計画と全く同じコメント
をいただいておりますので、割愛させていただきます。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
それでは、久留先生のほうからご説明をお願いいたします。
【申請者(久留)】
鳥取大学の久留でございます。ただいま安全対策官の方からご指摘
のとおりのヒトES細胞使用計画について、ご審議、よろしくお願いいたしたいと思いま
す。
私たちの研究は2つのパートからなっておりまして、1つは、テラトカルシノーマ細胞
由来の未分化性維持因子のヒトES細胞に対しての効果とその機序を確認すること。そし
てもう1つは、ヒトES細胞から、とりわけ心臓ペースメーカー細胞を含む、心臓を構成
する細胞の分化誘導系を構築することでございます。それぞれを、5分ほどお時間いただ
いて、簡単に説明させていただきたいと思います。
まず、未分化性の維持機構に関してでございますけれども、ES細胞の多分化能と自己
-35-
増殖能で定義される未分化性がどのように維持されているかということについてはまだ
まだ不明な点が多いということでありますけれども、マウスES細胞ではLIF-STA
T系が未分化性の維持に重要でありますが、ヒトES細胞ではその維持機構が不明な点が
多いわけです。私たちは近年、テラトカルシノーマ(奇形がん腫)から分泌される因子が
マウスES細胞の未分化性を維持できるということを明らかにしてまいりまして、この因
子はこれまでの研究から、タンパク質からなる因子と低分子からなる因子の少なくとも2
つの因子が存在することが明らかとなってきました。現在、その実態と機序を明らかにし
ているところなんですけれども、ヒトES細胞の未分化性維持機構はマウスESと異なる
ことからも、私たちが明らかにしたテラトカルシノーマから分泌される因子がヒトES細
胞に関しても作用するかどうか。さらに、マウスES細胞との相違点を明らかにすること
でES細胞の未分化性維持機構の解明につながるということを期待しています。さらに、
この研究から未分化性を損なうことなくヒトES細胞を培養する技術が確立できれば、ヒ
トES細胞を用いた各種分化細胞への分化誘導系の確立にも貢献できるのではないか。と
りわけ、後ほど申します、私たちが注目しているペースメーカー細胞を含む心筋への分化
誘導系の確立にも貢献できるではないかということで、本研究は必要ではないかというぐ
あいに思っています。
次に、ヒトES細胞由来のペースメーカー細胞作成に関してでありますけれども、19
90年から私たちの大学の研究者が心臓ペースメーカー細胞の特性をイオンチャンネル
の観点から世界の先駆けて明らかにしてまいりましたし、2002年にはイオンチャンネ
ルの遺伝子導入による生物学的ペースメーカーという概念を新しく打ち立ててまいりま
した。しかし、不整脈の治療のための再生医療への応用を可能にするような安全かつ機能
的な安定したペースメーカーを得るためには、遺伝子導入ではなくて、幹細胞からの分化
誘導を用いたアプローチが必要と考えました。そこで、マウスES細胞から心筋細胞を分
化誘導しまして、ペースメーカー細胞の細胞膜に特異的に存在するイオンチャンネルを用
いてペースメーカー細胞だけを単離することができるようになりました。この技術を応用
してペースメーカー組織をインビトロで構築しようと計画していますけれども、しかし、
私たちが既に報告していますように、ヒトの心臓から得られた心筋細胞のイオンチャンネ
ル特性はマウスなどの小動物の心筋細胞のイオンチャンネル特性と異なっているという
ことがわかっていますので、そこで、マウスES細胞だけではなくて、ヒトES細胞由来
のペースメーカー細胞を樹立して、これを用いてそのイオンチャンネル特性を含めたペー
-36-
スメーカー細胞の特性を明らかにすることで、初めて人への応用も可能なペースメーカー
組織を作成できるのではないかというぐあいに期待しています。私たちのイオンチャンネ
ルを利用したペースメーカー細胞単離技術を確立するためにもヒトES細胞を用いる必
要性があると考えておりますし、加えて、不整脈に対しての再生医療というものも、将来
のことでありますけれども見据えて、ヒトES細胞からの心臓ペースメーカー細胞組織構
築が必要であるということで、この研究を行おうと考えています。
議事録の11ページから13ページにございますように、本研究ではヒトES細胞を次
の基礎研究に応用していきたいと思います。そのステップとしては、テラトカルシノーマ
から分泌される因子のヒトES細胞に対する効果、そして、テラトカルシノーマから分泌
される因子の精製とヒトES細胞の効果、また、細胞外因子を用いたヒトES細胞の新規
培養法の確立、そして、抗イオンチャンネル抗体を用いたミカイセンヒトES細胞からの
ペースメーカー細胞の単離と、その電気的特性を評価し、最後に、ヒトES細胞由来心臓
ペースメーカー細胞組織の動物モデルへの移植実験を行おうということで、このヒトES
細胞を使用させていただきたいというぐあいに考えています。
使用するヒトES細胞株は、先ほどのお話のとおり、京都大学再生医科学研究所で樹立
された3種類の細胞株を用い、指針第46条及び学内規則にのっとって取り扱ってまいり
ます。ヒトES細胞は、その取扱い環境が整っています鳥取大学の生命機能研究支援セン
ターの遺伝子探索分野を使用しまして、これは添付資料に掲げてありますようなオーソラ
イズした人だけが使える場所を使って、そして、本研究に必須でありますセルソーターの
使用も、追加資料にあるように、他の動物と適切に区別して使用していきたいと思ってい
ます。
最後に、各取扱者が分化細胞が生命の萌芽たるヒト胚を滅失させて樹立したヒトES細
胞に由来する細胞であることを十分に留意して取扱い、万が一、分化細胞の中に未分化細
胞の混入が発見された場合には、指針の厳守に努めて人の尊厳が損なわれないようにし、
これを徹底するために、添付資料3-1から5に掲げてございますような生命倫理の教育
をきちっと受け、また、技術研修も添付文書のとおり行っていきたいと考えています。
以上でございます。よろしくご審議お願いいたします。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
ご質問ございませんでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、倫理審査委員長の井藤先生、よろしくお願いいたします。
-37-
【申請者(井藤)】
鳥取大学の井藤でございます。倫理審査過程について、ご説明させ
ていただきます。
様式4にありますように、倫理委員会は10名の委員で構成されまして、一般の者が2
名、それから、女性委員が2名入っております。加えて、法律の専門家に1名入っていた
だきました。
倫理委員会は、汐田教授の申請に関しては3回、久留教授の申請に関しては4回、それ
ぞれ2時間程度開催しております。その際、初回は、申請者、あるいは研究者に来ていた
だきまして、研究内容を具体的に説明していただきました。2回、3回は、必要であれば
研究者を呼ぶということで審査を継続。最終的には、倫理委員会に申請者に来ていただき
まして、ES細胞の倫理的な問題について問い、さらに、委員それぞれが意見を出し合っ
て、最終的に結論を出したわけでございます。
委員の先生方からは非常に貴重なコメントをいただき、ありがたく思っております。1
つずつ答えさせていただきたいと思います。
研究のエンドポイント、本研究では、研究の達成目標という意味か。これは何度か出て
きたわけでありますが、ちょっと話が前後しますけれども、一般の方が3名いらっしゃい
ましたので、倫理審査を始める前には、ES細胞の倫理的・科学的な問題について、議事
録にはありませんけれども、勉強していただきました。生命の萌芽たるES細胞の取扱い
について留意する点についても、勉強していただきました。一般の者の方が特に気にされ
たのが、臨床に使われるんですかという点を随分聞かれました。それで、今回の2つの倫
理審査に関しても、どこまではっきりさせるのか、そこを明瞭に示してほしいという意見
がございました。両研究とも基礎的な研究にとどまっておりまして、臨床に応用すること
はないと。実際の患者さんに使うことはありませんと。使うための基礎的なデータを整え
たいというふうなことでございました。そういった意味でエンドポイントは使っておりま
す。
それから、委員のうち、生命倫理に関する意見を述べるにふさわしい識者はだれかとい
うことですが、それぞれご意見ありますが、資料4で見ていただいた難波栄二先生は遺伝
カウンセリングの資格を持っていらっしゃる方でございます。あと、浜田章作先生、これ
は法律のご専門でございますが、法律の面からそういった問題をいろいろと教えていただ
きました。
それから、中山委員があたかも研究計画の説明者のように発言しているようだが、使用
-38-
計画に関与する者であれば、議決の際に同席するべきではないと。これは、確かにそうい
うふうな受け取り方をされても仕方ないなというふうに、私も思いました。ただ、このこ
とに関しまして中山委員は、その研究チームには所属しておりません。彼には、研究チー
ムと倫理委員会との連絡役、あるいは倫理委員会の中での書記的な役割を果たしていただ
きましたので、実際に内容を読ませて、語句の問題とか、その内容についていろいろと発
言していただきました。ということで、実際に組織上も、上司である、あるいは同じ教室
に所属しているというわけではございませんので、問題はないのではなかろうかと思って
おります。
議論が簡略過ぎる、あるいは、もう少し議論をしたらどうか、さらに、科学的な内容に
審議が偏っているではないかというふうなご指摘もいただきました。ただ、先ほど申しま
したように、倫理審査を始める前には勉強会を一般の者の委員の方にもしていただいてお
ります。どうしてもES細胞の倫理的な問題になるとこの研究からちょっと離れたところ
での議論が活発になることが多かったものですから、今回は、この研究に関して倫理的な
問題があるかどうか、それに関しては、最後に委員1人ずつに発言を求めました。そして、
それぞれから倫理的にも問題ないでしょうというふうなご意見をいただいております。全
体的に考えて倫理的な問題は乏しい、ほとんどないということで、倫理審査委員会の結論
とさせていただきました。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
どうぞ、ご質問がございましたら。いかがでございましょうか。特にございませんでし
ょうか。
それでは、これで質問は終わりということにさせていただいてよろしゅうございますで
しょうか。
それじゃあ、どうもありがとうございました。
(申請者 退席)
【豊島主査】
それでは、ご意見をお願いいたします。
特にございませんでしょうか。きょうは欠席の先生もおられますが、先生方のご質問の
分は全部お答えになっていたと思います。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、特にコメントなしでお認めということでよろしゅうございますでしょうか。
ありがとうございます。お認めいただいたということにさせていただきたいと存じま
-39-
す。
それでは、次の議題に入らせていただきたいと存じます。
次は議題(4)で、東京大学医学部附属病院使用計画「ES細胞由来造血幹細胞による
造血の再生」についてでございます。
まず、事務局から簡単に概要の説明をお願いいたします。
【永井安全対策官】
ご説明させていただきます。資料58-3でございますけれども、
本件は東京大学医学部附属病院の使用計画「ES細胞由来造血幹細胞による造血の再生」
の変更に係る申請でございます。
まず、使用計画でございますけれども、使用責任者は、今回、使用責任者の変更に関す
るものでございますが、変更後は小川特任准教授でございます。現行の使用計画の概要で
ございますが、造血幹細胞移植や輸血治療への応用を念頭に、ヒトES細胞を造血幹細胞
へ分化誘導して、それを増殖するとともに、さらに成熟血液細胞へ分化させるものでござ
いまして、ES細胞の入手先は、記載のとおりでございます。これまでの経緯でございま
すけれども、平成14年12月に大臣確認を受けているものでございます。
今回の変更申請の概要でございますけれども、まず、申請受理日は平成20年7月17
日でございます。変更内容でございますけれども、まず、使用責任者を小川特任准教授に
変更するというものが1点目でございます。2点目は、使用分担者を1名削除するという
ことでございます。今回の経緯でございますけれども、前の使用責任者の方は2008年
3月に転出されまして、その間、使用責任者が不在となっていたものでございます。なお、
前使用責任者が転出された後は、ヒトES細胞は使用機関の長の監督下にありまして、そ
の使用が停止されているということで、東京大学からご報告をいただいてございます。
各先生方からいただいた意見でございますけれども、本件は専門委員会での審査が必要
であるというような意見が出たので、今回行わせていただいたものでございます。まず1
点目でございますけれども、責任者交代の申請はおくれたけれども、倫理委員会の対応が
よく、その再発防止の方法が確認されているため、問題ない。東京大学においては以前に
も同様の例があったので、再発が防止されなかった状況を教えてほしい。倫理委員会の議
事録及び病院長の説明では、千葉教授の転出後はヒトES細胞を使用していないとのこと
であるが、4カ月間にわたってES細胞を一切使用しない状態はあり得るのか、説明を求
めたい。また、今後、東大において同様の事例があった場合、今回のような対応、すなわ
ち暫定的な管理を事後的に機関の長が引き受けるということでございますけれども、これ
-40-
をもって容認するのかどうか、確認しておく必要があるというコメントをいただいてござ
います。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
それでは、使用責任者の小川先生にご説明をお願いします。
【申請者(小川)】
まず初めに、このたびは使用責任者が不在という状況になってしま
いまして、これに関しては大変責任を感じております。指針の理解が不十分であったとい
うことに起因するものでございまして、これに関して深くおわび申し上げる次第でござい
ます。
ご説明申し上げますと、この研究はそもそも我々の研究室で平成14年12月20日に
一番最初の大臣承認を受けた研究でございますが、その後、平成15年8月末に前々使用
責任者の平井久丸が急逝いたしまして、このときに使用責任者不在の状態が出現いたしま
した。この際に文部科学省にお問い合わせいたしましたところ、使用を直ちに停止して使
用責任者の変更手続をしなさいということを承りましたものですので、その後、これに関
して使用責任者の変更及び使用細胞株の追加などを行った次第でございます。このとき
は、使用責任者の急逝という、我々自身にとっても非常に不可抗力的な、予期せぬ事態で
ありましたものですから、どのように対応したらいいかということで文部科学省にご連絡
した次第でございますけれども、そのときの経緯を我々は少し誤解いたしまして、ESを
使用しないで、それから使用責任者の変更をすればよいのじゃないかというような漠然と
した理解をしておりまして、これは、不理解、非常に間違った理解であったということで
ございます。この研究の経緯に関しましては、その後、千葉滋が使用責任者になりまして、
本年3月15日まで使用責任者の任にございました。
委員の先生方からご質問が出たことに関して説明をするようにということを申しつか
っておりますが、まず第2点及び第4点に関しては、私、使用責任者個人が説明する内容
を超えておりますので、これに関しましては、本学のESの倫理委員会の委員長のほうか
らこちらの委員会あてに書面で返答をお送りいたしました。これでございます。
東京大学において以前にも同様の例があったというのは平井の急逝のことでございま
すが、再発が防止できなかった状況というのは、このときに、我々は使用を停止しておれ
ば、その後、使用責任者の変更をして、それから使用すればよいというふうな誤った理解
をしてしまったということが、一番の問題点であったというふうに認識しております。実
-41-
際、我々が変更届を出して初めて倫理委員会で、これはおかしい、だめであるということ
を言われまして、我々も非常にいたく反省をいたした次第でございます。
第2点でございますが、4カ月にわたってES細胞を一切使用しない状況はあり得るの
かということでございますが、この研究は約2年強に及んでやっている研究でございまし
た。実験自体は平成20年1月中にすべて終了いたしまして、2月から論文の作成に専心
しておりました。と申しますのは、1月末に前任者の千葉が筑波大学に転出するというこ
とがわかりましたので、一旦ここですべての研究成果をまとめるということに専心しよう
ということで、そこでESを用いた実験は停止して、それ以降は使用しておりません。
2月、3月、4月と、この間に第一著者に横山泰久と千葉が筑波大学に転出になりまし
たが、転出の際にいろんな時間をとられまして論文の作成はおくれたんでございますが、
本年5月31日に『Blood』誌に第一稿を投稿いたしました。その後、論文の改訂が要求
された場合には実験をまたしなければいけないということで、前任者の千葉もそのことに
関しては留意しておりまして、使用責任者の変更を可及的速やかにやらなければいけない
ということを理解しておりました。しかし、私の身分が3月31日をもって終了すること
になっていて、その後の私の身分がまだ明確に確定しておりませんでしたものですから、
千葉はそこの時点で決まってからもう一遍出そうというようなことを考えておったんだ
と思いますが、そういうこともありまして、私の身分が固まった5月1日以降に使用責任
者の変更の申請となってしまったという経緯でございます。
したがいまして、2月以降、ESを用いた研究は、我々は研究室ではやられておりませ
ん。また、管理の問題につきましても、盗難等の問題も生じておりません。というような
ことで、4カ月間にわたってESを一切使用しない状況はあり得るのかということに対す
るご説明でございます。
しかし、7月2日にレビューの結果が戻ってまいりまして、ES細胞を用いた追加実験
をしなければいけないという事態が実際には生じてございます。現時点では、その実験を
やるための予備的な実験、これは正常ボランティアから採取した好中球を用いても可能で
ございますので、これを用いた予備実験をしておるところでございまして、もし本委員会
で使用責任者の変更がご承認いただけるようでございましたら、その後速やかに改訂の実
験等を進めていく予定としておりました。ただ、本研究に関する承認がいつ得られるかと
いうことはわかりませんものですから、
『Blood』誌のほうにも場合によってはリバイス期
間の延長を申請する予定というふうにしております。
-42-
以上でよろしゅうございましょうか。
【永井安全対策官】
すみません、ちょっと事務局のほうから、小川先生のところの倫理
審査委員会の委員長がお見えになれないので、いただいた回答について説明させていただ
ければと思います。
本件は、東京大学のバイオサイエンス委員会のヒト生殖・クローン専門委員会の吉田委
員長、倫理委員会の委員長からいただいた回答でございまして、まず、先生方のコメント
の1つとして、東大においては以前にも同様の例があったので、再発が防止されなかった
状況を教えてほしいということにつきましては、次のような回答をいただいてございま
す。
本使用計画は、本使用機関の平井さんを使用責任者として平成14年に大臣確認されて
いると。しかし、平成15年の平井さんの急逝によって、急遽、前使用責任者である千葉
さんに変更が行われたと。この間、使用責任者の空白期間が生じているが、これのことを
指しているのではないかと思われると。ただ、これは不慮の出来事に伴うものでございま
すので、これを再発防止すること自体は難しいでしょうと。しかし、今回のようにあらか
じめ何らかの対処が可能であったにもかかわらず、それを怠った点については、再発しな
いように、使用機関及び倫理審査委員会では、使用責任者に対して周知徹底を図りたいと
いうことでございます。
また、今後同様な急な転勤などによって使用責任者または使用分担者の空白期間が生じ
てしまうことが想定されるけれども、あらかじめ所定の手続等の完了が困難な場合、どの
ような指導・助言が可能であるか、教授願いたいと。これはむしろ文科省に対していただ
いている宿題かと思いますので、確かにこのような不測な事態で急遽間に合わないという
場合も理論上はあり得るかと思いますので、文科省のほうで、どういう運用がいいのかど
うかというのは、ちょっと考えさせていただきたい。また、今後ご相談しながらやってい
きたいなと思ってございます。
もう1つ、今後同様の事例があった場合、今回のような対応をもって容認するかどうか、
確認しておく必要があるというようなコメントをいただいてございまして、これにつきま
しては、当該大学の各部局担当者に対して、もし仮に同様の事例があった場合には速やか
に使用を一時停止するとともに、本委員会、すなわち東大の倫理委員会あてに速やかに報
告するよう周知徹底したいと。また、委員長として、本委員会の判断が下るまでは使用を
一時停止することを次回委員会で諮りたいというご回答をいただいてございます。
-43-
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございます。
ご質問ございますでしょうか。
使用を停止するということは、倫理委員会のほうにも連絡しなかったんですね。
【申請者(小川)
】
【豊島主査】
はい、それはやっておりませんでした。
いかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、審議に入りますので。
(申請者 退席)
【豊島主査】
どうぞ、ご意見。いかがでございましょうか。
これは、今リバイス中の論文のために実験しなきゃいけないという、かなり差し迫った
状況ですね。そういう状況のもとでこういう事態が明らかになってきたということですけ
れども、特にご意見ございませんでしょうか。
【西川委員】
『Blood』は2カ月というデッドラインが設けられますからね、リバイス
の。
【豊島主査】
【野島専門官】
事務局のほうから、特段のご説明ございますか。
事務局のほうから、確認だけさせていただきます。指針上どのようにな
っているかというところだけですけれども、使用計画を変更する場合は、指針第53条2、
使用責任者は、例えば今回のような使用責任者の交代のようなことを変更しようとすると
きは、あらかじめ使用計画変更書を作成して使用機関の長の了承をもとめるものとすると
されておりまして、了承する際には、指針第56条に計画の変更の手続といたしまして、
使用機関の長は、その使用計画の変更を了承するに当たっては、使用計画の変更がこの指
針に適合するかどうか、文部科学大臣の確認を受けるものとするということになっており
ます。このように使用責任者を変更する場合は、あらかじめその手続を踏まなければいけ
ないというのが、現行の指針の中でございます。
以上でございます。
【豊島主査】
ご意見ございませんでしょうか。
それでは、私の感覚を言わせていただきます。実際問題として使用を停止していたこと
でもありますので、現実には大きな問題はなかったんだろうと思います。それともう1つ
は、普通、リバイスの回答期限というのは当然ついてきますので、そこまでにさせてあげ
なければ気の毒であると。全体の問題としても、取り下げになりますし、そういうことも
-44-
含めると、これは認めてあげたいなということが、私の本音でございます。
ただ、前の場合は突然に亡くなられてそういうことがあったので、これはある意味やむ
を得ないということがあるんですが、今度の場合は、全くわからないということはないの
で、最低限、移籍が決まったときに届出をして、きちっと何らかの意味の対処をしていた
だくのが本来だと思いますので、今回はいろいろな状況を勘案して認めるけれども、そう
いうことに関してきっちりやってくださいというコメントつきにさせていただければな
あというふうに思いますが、いかがでございましょうか。
(
「結構です」の声あり)
【豊島主査】
それでよろしゅうございますでしょうか。寛大な措置をありがとうござい
ます。
もう1つは、実際に移籍のときなどは、先方の大学の投票とか、いろんなことがありま
して、あらかじめ手続とるというのも非常に難しい場合もございます。それから、前のよ
うな突然亡くなられた場合というのもありますし、そういうことも含めて考えると、規定
のほうにひょっとしたらちょっと検討する余地があるかもしれないなあということを事
務局のほうでもお考えのようでございます。もしそういうことがありましたら今度の改定
のときにでも言っていただけますように事務局のほうでお考えいただきながら、というこ
とにさせていただきたいと思います。
それでは、今回はコメントつきでお認めいただくということでよろしゅうございますで
しょうか。
どうもありがとうございました。
【永井安全対策官】
事務局のほうから、今回の審査結果につきまして、念のため確認さ
せていただきます。
まず、本計画の使用の変更については、了承いただいたということで理解させていただ
いてございます。その際の留意事項でございますけれども、内容としてはおおむね、使用
責任者の変更を行う場合には、指針の53条1項及び第56条1項、先ほど野島がご説明
申し上げた条文でございますけれども、これに基づいてあらかじめ使用計画変更書を作成
して文科大臣の確認を受けること、といった趣旨の内容の留意事項を付すということで考
えさせていただきたいと思います。
以上でございます。
【豊島主査】
どうします? 事務局のほうでは、今後、ここはコメントをつけるから今
-45-
度からはないと思いますけれども、ほかの大学等で同じようなことがあると、規則上はち
ょっとぐあいの悪いことになるので、Q&Aか何かであらかじめ皆さんがわかるようにし
ておくということにいたしますか。
【永井安全対策官】
そこは検討させていただいて、またご相談させていただければと思
います。
【豊島主査】
はい。
それでは、次の議題に入らせていただきたいと存じます。
次は、議題(5)ですが、ヒトES細胞の使用計画の変更の申請について、書面で審査
を行った結果の報告をさせていただきます。資料58-4にございますように、1件の使
用計画について書面審査を行っております。
事務局から簡単に概要の説明をお願いいたします。
【野島専門官】
それでは、資料58-4、ヒトES細胞の使用計画の変更申請に係る書
面審査の結果についてでございます。先ほどご説明したようにヒトES細胞の指針の第5
6条の、あらかじめヒトES細胞の使用計画の変更については大臣確認をするということ
で、申請のあったヒトES細胞の使用計画について書面による審査を行っていただきまし
たので、その結果について報告いたします。1件だけでございます。
1枚おめくりいただきまして、京都大学大学院医学研究科の使用計画でございまして、
「ヒトES細胞を用いた血管発生・分化機構の解析と血管再生への応用」の変更申請でご
ざいます。使用責任者は中尾教授でございます。当初の大臣確認は平成14年4月26日
に行われております。
今回の申請の概要でございますけれども、申請は平成20年7月9日に出されておりま
して、使用細胞株の追加でございます。これまで中尾先生のところは、京都大学再生医科
学研究所のKhES-1の1つだけ使用しておったのでございますが、今回、KhES-
2とKhES-3を追加するというものでございました。
書面審査の結果でございますけれども、専門委員会の運営規則に基づきまして書面で審
査を行いまして、委員全員からの同意が得られましたので、本使用計画の変更を承認する
ことといたしました。
以上でございます。
【豊島主査】
ありがとうございます。
何かご質問ございますでしょうか。よろしゅうございますか。
-46-
それでは、次の議題に移らせていただきます。議題(6)
、ヒトES細胞の使用計画の変
更について、届出がございました。本委員会で報告を受けることとなっておりますので、
事務局からよろしくお願いいたします。
【野島専門官】
それでは、続きまして、報告でございます。ヒトES細胞の使用計画の
変更の届出についてでございます。これも、ヒトES細胞の指針の56条第4項に基づい
て機関より届出のあったヒトES細胞の使用計画について、5項に基づき報告するという
ものでございます。届出は全部で10件ございます。
せっかくですので1枚ずつ説明しますけれども、2枚めくっていただきまして、最初は
京都大学再生医科学研究所の使用計画でございまして、使用責任者は末盛准教授でござい
ます。当初の大臣確認は平成18年11月14日でございます。変更の届出の概要ですけ
れども、届出の受理日は平成20年6月5日でございます。届出の内容は、研究者を4名
追加して、1名削除するものでございます。次のページも同じことでありまして、3枚目
も同じ末盛准教授から出たものでございます。
次、4枚目でございます。国立国際医療センターの使用計画でございます。
「ヒトES細
胞の無フィーダー、無血清環境を駆使した新しい未分化維持培養法ならびに血液細胞血管
内皮細胞分化制御系の開発」の変更の届出でございます。使用責任者は湯尾明教授でござ
います。当初の大臣確認日は平成17年11月9日でございます。変更届の概要でござい
ますけれども、届出受理日が平成20年6月6日、届出の内容は、使用機関の長の変更で
して、笹月先生から桐野先生にかわったというものでございます。
次めくっていただきまして、国立大学法人熊本大学発生医学研究センターの使用計画で
ございます。
「ヒト胚性幹細胞を用いた肝胆膵の発生分化と再生医学の基礎研究」
の変更の
届出でございます。使用責任者は粂先生でして、変更の届出の概要ですけれども、届出の
申請は平成20年6月12日に受けております。届出の内容は、まず使用機関の長の変更
といたしまして、中尾光善先生から田賀哲也先生に変更するというものでございます。そ
れから、研究者の削除で、1名の研究者を削除するというものでございます。
次めくっていただきまして、
信州大学医学部使用計画でございます。
「ヒトES細胞の心
筋組織への分化誘導法の開発と新しい治療法確立のための基礎的研究」の変更の届出でご
ざいます。使用責任者は佐々木先生でございます。届出の概要ですけれども、届出の内容
は、機関の長の変更でございまして、大橋俊夫先生から久保先生に変更したというもので
ございます。
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次も同じ信州大学の申請でございまして、これも機関の長の変更ということでございま
す。
次ですけれども、首都大学東京大学院人間健康科学研究科からの申請でございます。使
用責任者は井上先生でございます。届出の概要ですけれども、研究者を2名追加して、2
名削除するというものでございます。
次めくっていただきまして、特定非営利活動法人幹細胞創薬研究所の使用計画でござい
ます。使用責任者は天貝先生で、当初の大臣確認は平成18年10月5日に行われており
ます。変更の届出の概要ですけれども、届出受理日は平成20年6月26日、届出の内容
は研究者の1名を削除するというものです。
最後ですけれども、京都大学大学院医学研究科使用計画でございます。使用責任者は高
木先生で、当初の大臣確認は平成17年3月10日でございます。届出の受理日は平成2
0年7月2日でございます。届出の内容は、研究者を1名追加するというものでございま
す。
以上、10件の届出がありましたので、ご紹介いたしました。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
それでは、きょうの議題はこれでおしまいでございますが、その他につきまして何か事
務局からございますでしょうか。
【永井安全対策官】
次回の日程でございますけれども、8月26日(火)に開催を予定
してございます。詳細につきましては、決まり次第お知らせしますので、よろしくお願い
いたします。
以上でございます。
【豊島主査】
どうもありがとうございました。
それでは、きょうの議題は以上で終了ということで。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
-48-
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