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2015A3-06 - 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
光パラメトリックチャープパルス増幅システムにおけるアイドラー光 パルス圧縮技術の開発 赤羽 温,山川 考一 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 (〒619-0215 京都府木津川市梅美台 8-1-7) 低炭素化社会を実現するため高機能ものづ くりの技術開発が急がれており、その中でもフ ェムト秒レーザー加工は、他の方法では不可能 な付加価値の高いレーザー加工が可能として 注目されており、その研究開発が世界各国で精 力的に進められている [1]。しかしながら、フ ェムト秒レーザー加工の実用化に向けての最 大の問題点はその光源自身にある。つまり、理 科学用として開発されたものにわずかな改良 を施した市販レーザーが大部分を占めており、 実用にはほど遠い製品を研究レベルに使用し ているのが現状である。また、こうしたフェム ト秒レーザーの発生には、増幅段でのパルス強 度増大による増幅媒質のダメージを避けるた め発振器からのフェムト秒光パルスを回折格 子対やプリズム対などの回折光学素子を用い たパルス伸張器で伸張させたのちに増幅し、再 び回折光学素子を用いたパルス圧縮器によっ て再圧縮されるチャープパルス増幅(CPA)技 術が採用されている [2]。これらのパルス伸張、 圧縮に用いる光学素子は高価で繊細であり、ま た高精度の調整が必要なため取り扱いが困難 であると共に機械的強度が低い。 一方、近年開発の進展が著しいファイバーレ ーザーは小型で軽量、冷却用のチラーが不要、 さらに高安定・高信頼、高ビーム品質、低消費 図 1 : パルス伸張/圧縮用ガラスブロック. 電力であるなど、数々の優れた特徴を有してい る [3]。しかしながら、高出力フェムト秒パル スの発生には CPA 技術の適用が不可欠であり、 上述した欠点が伴うためファイバーレーザー の優れた特性を生かし切れていない。また、得 られる最短パルス幅も 800 fs 程度が限界であり、 レーザー加工の実用化を目指した高出力フェ ムト秒レーザーは現在のところ存在しない。 このような目的のため、パルス伸張および圧 縮に同一のガラスブロックのみを用いてアイ ドラー光をパルス圧縮する非常に簡便な構成 の光パラメトリックチャープパルス増幅 (OPCPA)技術を開発している [4]。 パルス伸張・圧縮素子として縦 50 mm、横 44 mm、高さ 10mm の S-TIH11 ガラスブロック(屈 折率 1.76)を作成した。(図 1, 2 参照)本ガラ スブロックでは入射光の 13 回の内部反射によ り 491 mm の内部光路長を実現可能である。モ ードロック発振器から出力された中心波長 1020 nm、パルス幅 50 fs(FWHM:半値全幅) の極短パルスレーザー光をビームスプリッタ ーで二つに分け、一つをポンプ光源である低温 冷却 Yb:YLF レーザー[5, 6]の種光として、もう 一方を光パラメトリックチャープパルス増幅 (OPCPA)のシグナル光として用いている。 Yb:YLF レーザーからのパルス幅 5.2 ps の出力 図 2 :完全モノリシック型パルス伸張・圧縮用ガ ラスブロック. 光は第二高調波(510 nm)に波長変換された後 に直径 0.9 mm 程度にコリメートされ、0.7 mJ エネルギーのポンプ光がパラメトリック増幅 器である BBO 結晶(タイプ-I、厚さ 7 mm)に 入射する。 OPCPA のシグナル光は前述のガラスブロッ クに入射し、媒質伝搬による正の群速度分散に より正にチャープすると共にパルス伸張され る。媒質の実透過距離から推定されるガラスブ ロック出射後のパルス幅は 2.3 ps である。パル ることができる。 以上、完全モノリシック型の堅牢で扱いやす いガラスブロックをパルス伸長および圧縮に 用いることにより、サブ 100 fs パルスのアイド ラー光を得ることに成功した。この手法を用い ることで、レーザー加工現場の様な厳しい環境 でも使用に耐えうるシンプルで堅牢、高効率な 実用的フェムト秒レーザーが利用可能となり、 我が国のものづくり技術の底上げ、国際競争力 の強化が期待できる。 1.0 OPA Spectra Normalized Intensity Normalized Intensity 1.0 0.8 0.6 Signal Idler 0.4 0.2 0.0 960 0.8 1000 1020 1040 0.4 0.2 1060 Wavelength (nm) 図 3 :光パラメトリック増幅スペクトル.シグナ ル光(赤線)、アイドラー光(青線). ス伸張後のシグナル光は前述の BBO 結晶に入 射してポンプ光と重ね合わされ、増幅される。 増幅時のシグナル光及びアイドラー光のスペ クトルは図 3 に示す通りである。 このとき得られた増幅利得は 3x104 であり、 出 力 エ ネ ル ギ ー と し て 60 µJ が 得 ら れ た 。 OPCPA 時に発生した負チャープのアイドラー 光はスキャニング自己相関計測から〜2 ps のパ ルス幅を有していることがわった。アイドラー 光は球面ミラーによりコリメートされた後、図 1のガラスブロックに再入射され、正の群速度 分散によりパルス圧縮される。パルス圧縮後の アイドラー光の単一ショット自己相関計測の 結果を図 4 に示す。 自己相関幅は 116 fs(FWHM)であり、パル ス幅 86.5 fs に相当する。なお、このパルス幅は フーリエ変換限界パルス幅 75.4 fs に比べて多 少長いが、これは図 3 に見られる OPCPA 時の シグナル光とアイドラー光との中心波長のシ フトによるものであると考えられる。今回、ガ ラスブロックの入出射面には無反射コートを 施さなかったため、レーザー光のガラスブロッ ク透過率は 82.4%であった。今後、ガラスブロ ック入出射面に無反射コートを施すことによ り、パルス伸張及び圧縮時の光損失を皆無にす AC width (FWHM) 116.2 fs -> Pulse duration 86.5 fs (FWHM) 0.6 0.0 980 Single-Shot Autocorrelation (OPA Idler) -400 -200 0 200 400 Delay (fs) 図 4 :ガラスブロックによってパルス圧縮された アイドラー光の自己相関波形.パルス幅は 86.5fs. 謝辞 本研究を行うにあたり議論及び貴重なコメ ントを頂いた大阪大学レーザーエネルギー学 研究センター河仲準二准教授、宮永憲明教授に 深く感謝の意を表します。 参考文献 [1] X. Liu, D. Du, and G. Mourou: IEEE J. Quantum Electron., Vol. 33, No. 10, pp. 1706-1716 (1997). [2] G. Mourou and C. P. J. Barty: Science, Vol. 264, pp. 917-924 (1994). [3] L. Shah, Z. Liu, I. Hartl, G. Imeshev, G. C. Cho and M. E. Fermann: Opt. Express, Vol. 13, No. 12, pp. 4717-4722 (2005). [4] Y. Akahane, K. Ogawa, K. Tsuji, M. Aoyama, and K. Yamakawa, Applied Physics Express, vol. 2, pp. 072503-1-072503-3 (2009). [5] J. Kawanaka, K. Yamakawa, H. Nishioka and K. Ueda: Opt. Lett. vol. 28 p.2121 (2003). [6] K. Yamakawa, M. Aoyama, Y. Akahane, K. Ogawa, K. Tsuji, A. Sugiyama, T. Harimoto, J. Kawanaka, H. Nishioka and M. Fujita: Opt. Express, vol. 15, p.5108 (2007).