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分からないことがあるのは楽しいことだ - Science Window(科学技術

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分からないことがあるのは楽しいことだ - Science Window(科学技術
水の案内人からのメッセージ
分からないことがあるのは楽しいことだ
国際基督教大学教授 吉野輝雄
知れば知るほど不思議さが分かる
今、私は、水について考えることがとても大事であると心底分かっているつもりです。
でも、始めからそうだったわけではないのです。水について、知れば知るほど楽しく、大
事であることが体験的に分かって来たのです。
それは今年 (2010 年 ) の 3 月まで勤務していた大学(国際基督教大学)の一般教育科目で、
「水を通して自然と人間について考える」という講義を 20 年以上続けて来た中で、目を開
かされたのです。どこが大事なのかを説明するには 25 回の講義をする必要がある、と言っ
たら大げさになりますが、それでも語り尽くせないのが実感です。講義で使用した資料を
私のウェブサイトに公開していますので、興味のある方はここを開いていただきたいと思
います。
http://subsite.icu.ac.jp/people/yoshino/waterstage.html
この講義でのエッセンスを述べてみましょう。水は私たちのごく身近にあって、ありき
たりの物質だと考えている人があるかも知れませんが、とんでもありません。水ほど、こ
の自然界で不思議な性質を持った物質はないといってもいいくらいです。水なしでは、こ
の豊かな地球環境は成り立ちません。生物も生きていけません。社会の活動もストップし
てしまいます。大げさに聞こえるかも知れませんが、決して大げさではなく、私だけでな
く科学者たちが知識、言葉を尽くしても語り尽くせないほど、水は偉大な存在なのです。
自然と自分が結ばれてくる
ありふれた水のどこが、そんなに偉大なのでしょうか? いくつか挙げてみましょう。
1. 水について考えていくと、自然のワンダー(成り立ちと仕組みの不思議さと、偉大さ)
に目覚めさせられる。
2. 水を通して自然の仕組みを見ると、生命の起源、生命活動の基本、命の大切さが分かっ
てくる。
3.「水の大循環」と呼ばれる水の流れを見ると、人間活動の実態が鏡に映し出されるよう
に見えてくる。
水の案内人からのメッセージ
分からないことがあるのは楽しいことだ
国際基督教大学教授 吉野輝雄
4. 水を通して環境問題を考えると、問題の深刻さ、自分との関わり、解決への姿勢が明ら
かになってくる。
5. 水とのつき合い方に人間の未来がかかっていることが分かる。
6. 水は、自然~人間~社会~世界~地球~宇宙を結ぶ糸のようなものである。水の挙動は
人間社会の動きに似ている。
このように、水について実際に考えていくと「自分」「人間」「自然」について愛しい思
いが生まれてきます。皆さんもぜひ水について考え、水の働きに思いをめぐらせていただ
きたいと思います。
川で遊んだ幼少期
「理科を学ぶうえで大切なことは何ですか」と聞かれて、まずは自然と触れ合う体験だ
と言いたいです。
私は埼玉県浦和の三室という里山で幼少時代を過ごしました。そこには見沼代用水とい
う川が流れていて、村の友達と一緒に泳いだものです。その近くには田んぼが広がり、周
囲を流れる小川にはドジョウやフナがいました。林や草やぶにいるカブトムシやホタルや
チョウを捕まえ、クワやグミの実を見つけると取って食べたものです。いつもポケットに
入れていた肥後守というナイフで笹竹を切ってきては、豆鉄砲や紙鉄砲を作って遊びまし
た。
四季折々、いくらでも遊ぶ材料があって、飽きることがありませんでした。自然があふ
れたよい遊び場であり、心や感性を育ててくれたと思います。当時は意識していませんで
したが、自然の不思議、恵み、そして、時には、川の流れに足をとられて溺れそうになっ
た時など、怖さも教えてくれる偉大な教師に囲まれていたのです。
そのような体験から、私は、今の子どもたちにも自然の中に出て行って、自然と触れる
時間をたくさん持ってほしいと思います。特に、近くの川に行って遊ぶことを勧めたいと
思っています。今では、川で泳ぐことは難しくなっていると思いますが、近くに行って岸
辺を歩き、川の流れを見て、河原に生えている草が太陽光を浴びてたくましく生きている
姿を目に焼き付けてほしいのです。
水の案内人からのメッセージ
分からないことがあるのは楽しいことだ
国際基督教大学教授 吉野輝雄
直に自然に学ぶ体験を
私は、大学生には、彼らが幼少期に近くを流れていた川との思い出を書かせ、今の川を
自分の目で見てレポートさせていますが、どの学生にとっても、幼少期の近くの川の存在
は、無言の偉大な教師となっていることがレポートから読み取れます。
自然はまだまだ残っています。昔と比べると確かに変化してしまいましたが、川は流れ、
岸辺には草花が生えています。虫もいます。都会の中の公園にも自然があり、山や海に出
かければ大自然に触れることができます。ガイドブックなしでも、自然は何かを教えてく
れるはずです。
教科書に書いてあることを覚えるよりも、自然から直に学んでほしいと思います。教科
書は自然そのものではありません。自然を知るためのガイドブックです。ガイドブックだ
けを覚えて、テストで良い点数を取っても自然との関係は深まりません。
理科の先生もガイドブックを利用して、自分の興味のある自然や現象に子供たちを案内
し、連れ出すことが大事ではないでしょうか。先生がおもしろいと思うテーマを持ってい
れば、そこから自然について学ぶ姿勢が育つと思います。
分からないことがたくさんある
理科を学んだり、科学的に考えていくうえで、若い人たちに伝えたいことは何かと問わ
れれば、「分からないことがあるから、科学の営みがあるのです」と言いたいです。
つまり「この自然界には、まだ分からないことがどれだけあるのか分からない」という
基本的立場を認識したいと思います。分からないことがあると思うと、知的好奇心、知的
欲求が湧きあがり、自分も未知の自然に向かい合う道に進んでみようという希望が出てく
るのです。
科学するということは、分からないことに切り込むために、これまで未知の研究課題に
取り組んだ先輩科学者たちの歩みをしっかりと理解し、論理的思考の訓練を積み、新たな
考え方を打ち出し、利用可能であれば時代の先端技術を屈指して研究するということです。
これが科学者なのです。
一言でまとめると、「分からないことがあるのは楽しいことだ」と言える人間であって
ほしいと思います。
水の案内人からのメッセージ
分からないことがあるのは楽しいことだ
国際基督教大学教授 吉野輝雄
“なぜ”と考え続けること
科学に対するセンスを養うには、どんなことが大切か。その根本は何といっても好奇心。
「もっと知りたい」「なぜ」という思い、つまり知的な感性を大事にすることです。さらに
誰も答えてくれなくても、つぶされず、考え続けること。それが人間らしいことなのだと、
信じ続ける人間であってほしいと思います。パスカルも「人間は考える葦である」と言っ
ています。
では、具体的にどのようにしたらいいでしょうか。以下に4つの点を挙げてみました。
1)自然の変化にいつも興味や好奇心を持ち、“なぜ”と考え続ける。
自然は尽きぬ不思議さ、未知なるものを抱えた教師だから、好奇心を向ける最高の相手
です。
2)教科書に書いてあることを知っただけで満足せず、そこにとどまらないで1つでも2
つでも自然の材料を使って自分の手で何かを作ったり、自分の目で観察し、できれば実
験をして確かめる。そうすると、教科書に書いてある通りでなかったり、書いてある通
りにいかなかったりする。ほとんどの場合、そうなる。そこで教科書を疑ったり、自分
の非力を嘆かない。次の行動に移る。先生に質問する、本や internet で調べる。そこ
で納得いけばよいが、100%納得いかなくてもよい。数パーセント、または数十パーセ
ントの疑問が残ったら、頭の隅に貯めておこう。それが大人になって、例えば科学者の
道に進んだ時に開花するかも知れないのです。
3)同じようなことに興味を持っている仲間と議論する。
他の人と議論すると、同じものを見ていても自分とは全く違う考え、感じ方をしている
ことに気づくはずです。そこで自分の考えの狭さやとらわれていた枠が破れ、もっと自
由になり、考えている世界が広がり、豊かに思えてくるはずです。自分と同じようなこ
とに興味を持ち、自分の考えを聞いてくれて、意見を言ってくれる人に出会えたことに
喜びを感じ、ありがたいと思える。これが人間らしい科学者ではないでしょうか。
4)自分がじっくり考えた意見を、相手も真剣に受け止め考えてくれたうえで、意見がぶ
つかる。これが良い意味での議論であり、ここで全く新しい考えが生まれることがよく
あります。これが、科学することの喜びであり、センスを磨く道なのです。
水の案内人からのメッセージ
分からないことがあるのは楽しいことだ
国際基督教大学教授 吉野輝雄
理科を教える先生が伝えてほしいこと
学校で、理科を教える先生は、「自然を知ることはおもしろい、自然は不思議に満ちて
いて分からないことばかりだ」という思いを生徒や児童に伝えていただきたいと思います。
そこで大事なことを挙げますと、
1)先生自身が「知りたかったことが分かった」という知的体験を伝える。つまり、先生
もなかなか理解できなかった、まだ疑問が残っているのだということも含めて語ること
で、先生も自然の前にはちっぽけな存在であることを示すことになります。
2)教科書に書いてある自然がすべてであるかのように、先生が自然を小さくまとめてし
まわないことです。分かった事だけが教科書に書かれているのですから。
3)同時に、教科書に書かれている事が分かるまでには、多くの人の知的営みと時間がかかっ
ていることを語る。つまり、自然現象に関心を向け、それをよく見て、考え、議論し、
仮説を立て、実験・観察をして、やっと確かだと分かったこと、つまり証明されたこと
が教科書に書かれている。それらは、人類の知的財産なのだという敬意を持って伝えて
いただきたい。
4)
『サイエンス・ウィンドウ』は、科学的興味を引き出す教材として活用されている先生
方も多いと聞きます。自然界のさまざまな現象や事実にどうアプローチするか。一つの
参考にしてはどうでしょうか。
学校での理科は、とりあえず受験のためということも多いと思いますが、自然科学は未
来に続く営みであるということを忘れないで、理科の楽しさを伝えていただきたいと思い
ます。
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