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104号 - So-net

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104号 - So-net
Kohnan Wind Orchestra
港南吹奏楽団通信 しおかぜ
第104号
発行者 港南吹奏楽団理事長・常任指揮者
玉 谷 敏 弘
2009年12月2日(水)発行
歌劇「カルメン」−第3幕
第3幕は美しい間奏曲で始まります。(『第3幕への間奏曲』)透き通って明るいフルートの音色なのにどこか
もの悲しいメロディーです。燃えさかった炎は静かに消えようとしています。カルメンとホセの恋は終わろうとして
います。
密輸団の連中が「仕事はキツイがもうけはデカイ!」と歌っています。どっちにも関心のないホセ。カルメン恋
しさでイヤイヤやっているホセは完全に浮いています。そんなホセに対してカルメンはイライラしています。
「ママは俺のことまだマジメな男だと思ってる・・・」「だったら国に帰んな,あんたこの仕事向いてないよ!」「も
う一度言ってみろ!」こんなやり取りがずっと続きます。男を「叩き出す」カルメンなのに,ホセとはもつれ合った
ままの状態です。どうも今までの男とは勝手が違っています。真面目で純情な男ほど叩き出すのは難しいもの
です。何しろ浮気をしてくれるわけもないし,向こうは必死で愛しているわけですから「お遊びは終わりよ」と言っ
たところで通じません。ホセも苦しめられながらカルメンから一向に離れられません。恋愛に免疫のなかったホ
セにはもはやカルメン以外何も見えません。それに,彼にはもうすでに帰るところがありません。何もかも捨てて
悪事に手を染めて恋に走って,気がつけば前にも後にも動けなくなっています。
ジプシー女たちがトランプ占いを始めます(『カルタの歌』)。
♪大金持ちよ!こっちは色男!
景気のいい話で盛り上がっている中でカルメンが引くカードは何回やっても「死」。
♪私が最初,次が彼,二人とも死ぬ・・・。
女声三重唱の底の底でカルメンの暗く重たい低音の声で「死」が何度も繰り返されます。でも,カルメンは悲
しんでいません。カードはウソをつかない,私もウソをつかない,死ぬなら死ぬでいいさ,ウソの人生を生きるくら
いなら,という決意なのか。
そこにミカエラが登場します。「ホセを見つける,そしてきっと連れて帰る,あんな魔女なんかに好きにさせな
いわ。でも,本当は怖い・・・」,ミカエラはホセの幼なじみで,真面目で正直で優しいホセを愛しています。その
ホセが脱走して犯罪者になった。これもすべてあの魔女のせい。(『ミカエラのアリア』)
ミカエラの穏やかで慎ましい愛は,カルメンのエロティックで激しく,暴力的な愛よりも色あせて見えてしまう。ホ
セはそんな愛を知ってしまったから,ホセを転落させたのはカルメンではなくホセ自身なのです。
闘牛士エスカミリオが登場します。ここで男声二重唱『私はエスカミリオ』。
♪カルメンが脱走兵と一緒だと聞いたがカルメンの恋は続かない,そろそろ俺のチャンスってわけさ
♪お前,あの女に手を出すと高くつくってこと知ってるのか?
♪結構,いくらだって払うぜ
♪じゃ払ってもらおうか。ナイフで!
ここでのホセ,もう哀れでたまりません。ラブラブの頃ならば,ホセは,「カルメンには俺がいる,お前なんか相
手にしないよ」と笑い飛ばせたはずです。ホセが隊長スニガに飛びかかったのは誇りを傷つけられたからです。
そう,あの頃のホセにはまだ誇りがあったのです。今,彼がエスカミリオにナイフを向けるのは,図星だからで
す,追い詰められたやり場のない怒りからです。エスカミリオは勝手にやって来たわけで,カルメンが彼を呼ん
だわけではありません。ホセの過剰な不安感。彼はここまで落ちぶれました。これはもう地獄です。
ホセがエスカミリオを切りつけたその時,「やめて,ホセ!」,一回目のスケベじじいのスニガ隊長に対するナ
イフ事件ときはカッコよく見えたホセのプッツンも,二回目で相手がスターの闘牛士エスカミリオとなるとカルメン
の反応も違います。余裕たっぷりに,ホセにまで挨拶をして,「ぜひ今度,俺の闘牛を見に来いよ」と去るエスカ
ミリオ。見送るカルメン。隠れていたミカエラが見つかってしまいます。「ホセ,お願いだから一緒に帰って」「放っ
といてくれ,俺はもう落ちるとこまで落ちたんだ」(甘い!君の転落はまだ続く。)カルメンは「帰んな,その方がい
いよ」厄介払いのチャンスととれる言葉ですが,清純なミカエラにホセとはお似合いの様子を見て,ちょっとジェ
ラシーを感じてワザと悪女ぶっているようにも見えます。ホセはまたまた逆上します。「俺とお前の絆は死ぬまで
切れないんだ!」彼はすでにストーカー予備軍です。「ママは死にそうなのよ」,ミカエラの言葉がホセに突き刺
さります。しかしミカエラ,何で最初にそう言わない?ここにミカエラの女の意地を見ます。しかしホセは全く耳を
貸しませんでした。それどころかミカエラの目の前でカルメンへの執着を隠そうともしませんでした。ミカエラはカ
ルメンに完全に負けたのです。そんな傷心のミカエラと一緒に山を去る抜け殻ホセの不気味なセリフ「また会う
ことになる」・・・。仕事再開の密輸団の誰もホセを引き留めません。ホセは完全に役立たずだったようです。そし
て,遠くから響く闘牛士の歌,ここでカルメンは過去を捨てます。「私には新しい恋が待っているんだ・・・」カルメ
ンは真っ直ぐに顔を上げて歩き出します。(次号に続く)
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