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くも膜下出血と脳動脈瘤 - 船橋市立医療センター
疾患別説明書:くも膜下出血と脳動脈瘤(SAH-47) 船橋市立医療センター脳神経外科(2002 年 7 月 10 日作成) 1) くも膜下出血の原因 くも膜下出血とは:「くも膜の下(くも膜の内側)と脳表の間に生じる出血」 くも膜下出血の原因:脳動脈瘤破裂(約 85 %)、脳動静脈奇形(5 %)、原因不明 (10 %) 脳動脈瘤とは:脳動脈が瘤状または紡錘状に拡大したもの 先天的に血管の分岐部などに壁が脆弱な部分があり、その部分に動脈硬化、高血圧、血行力学的 要素が加わって脳動脈瘤が発生すると考えられている。二親等以内にくも膜下出血の家族歴があ る場合には、脳動脈瘤の頻度は高くなる。高血圧と喫煙を伴うと、15 倍動脈瘤ができやすい(喫 煙だけで 3 倍)。その他:解離性、細菌性、外傷性、動脈硬化性、家族性の動脈瘤 体部 鶏冠 壁内血栓 頸部 (neck) 壁内血栓 親動脈 嚢状動脈瘤 解離性動脈瘤 紡錘状動脈瘤 2)くも膜下出血の症状 □① 今までに経験したことのない激しい頭痛、嘔気、嘔吐 □② 意識障害、巣症状(片麻痺などの運動障害、言語障害) □③ 突然死(不整脈など) ※くも膜下出血を起こす前に、脳神経を圧迫して発症することがある。(10~15%) 来院時すでに重症な患者が 1/3 (死亡 10%、瀕死 23%) 3)くも膜下出血の発生頻度と年齢 くも膜下出血の発症:20 人/10 万人/年。 高齢者になるとその数倍になる。 脳動脈瘤の発生頻度:1.2~11.6 人/100 人。 徐々に高齢者に多くなってきている(当院 のデータ:1980 年代後半には 40∼50 歳代に ピークがあったが、1990 年代後半には 50∼ 60 歳代になってきている。)。 % 1990 年代後半 1990 年代前半 30 1980 年代後半 20 10 0 0 -1- 10 20 30 40 50 60 70 80 90 4)くも膜下出血の診断・検査と脳動脈瘤の部位 くも膜下出血の診断は CT で行う。CT ではっきり しないときは腰椎穿刺を行うこともある。脳動脈 瘤の診断は、3-D CT, MRA, 脳血管撮影(DSA)な どで行う。 くも膜下出血 ① ③ ② CT 脳動脈瘤は脳底部特にウィリス動脈輪前半部の血管分岐部に発生する。血管別では内頸動脈に 38%、前大脳動脈に 36%、中大脳動脈に 21%、椎骨脳底動脈に 5.5%生じる。特に3大好発部位 は①前交通動脈瘤 30%、②内頸動脈後交通動脈分岐部 25%、③中大脳動脈分岐部 13%である。 5)くも膜下出血の経過、死因 くも膜下出血が1回生じると再出血、脳血管攣縮、脳浮腫などが生じ、状態は悪化する。保存的治 療のみの場合、死亡率は 70~80%となる。くも膜下出血による死因の 1/2 は初回出血および再出血に よる頭蓋内圧亢進であり、これがくも膜下出血による直接死である。脳血管攣縮による広範な脳梗塞 も死因の約 30%を占める。 脳内血腫 3% 初回出血 再出血 水頭症 1% その他 出血による頭蓋内圧亢進 脳血管攣縮、脳浮腫 初回出血 28% その他 再出血 25% 脳血管攣縮 29% くも膜下出血の死因 6)第 1 回目の破裂後に生じる病態 (1)再破裂:脳動脈瘤破裂の 31~78%に再破裂が % 生じる。重症例、出血が多い例は再破裂しやすい。 20 初回出血からの累積再破裂率 初回破裂からの累積再破裂率を右図に示す。再破裂 は 24 時間以内に 4.1%、14 日以内に 19% 10 死亡率は 1 回目の破裂(初回)で 10~15%、 2 回目の破裂(再破裂)で 40~50% -2- 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 12 14 日 (2) 脳圧亢進、脳腫脹:発症より3∼4日目がピー クで 7~10 日継続。著明な場合、脳ヘルニアで死亡 (3)脳血管攣縮:くも膜下出血発症後におこる遅発性 脳虚血(特に 5~15 日)。脳血管撮影上、約 70%に見ら れ、症状(意識障害、片マヒ、失語など)は 30%に出現 する。 (4)水頭症:くも膜下出血後に 67%で脳室拡大が認 められるが、正常圧水頭症としての症状が認められ、シ ャントの手術が必要となるのは 10∼20%である。 (5)痙攣 脳動脈瘤 (6)脳以外の臓器への影響と症状 脳血管攣縮 ①心臓:不整脈などの心電図異常、心不全など ②肺 :肺炎、肺水腫、肺動脈血栓症 ③消化管:消化管出血 ④腎臓 :腎不全、尿路感染症 ⑤肝臓 :肝機能障害 ⑥電解質異常:低ナトリウム血症 ⑦眼:網膜前出血、硝子体下出血、硝子体出血 水頭症 7)治療 破裂脳動脈瘤の治療=再破裂予防 次の条件から治療方針を決める。 ① 発病前の状態 ② 年齢と全身状態 ③ 脳動脈瘤の部位、形状、数 ● 開 頭 ク リ ッ ピ ン グ 術 : 開頭し動脈瘤 クリッピング トラッピング を露出し、動脈瘤のネックにクリップをか ける。クリッピングが無理な場合には、ト ラッピング、動脈瘤近位部クリッピング、 コーティング、ラッピングなどを行うこと がある。 ● 脳 動 脈 瘤 塞 栓 術:マイクロカテーテル を動脈瘤内まで誘導し、カテーテルを介し 血管内手術 てプラチナコイルなどで瘤内をパッキング コイル塞栓術 する。 -3- <クリッピング術の特徴> (1) 脳動脈瘤の治療法として 30 年来行われている確立された治療法である。 (2) 開頭し脳溝を分けて動脈瘤に到達するため、脳に負担をかけることがある。 →脳腫脹、脳出血(5%以下、特に急性期) (3) 可及的に動脈瘤の neck にクリップをかける。 (4) 治療後の再出血:当院の統計ではクリッピング後 2∼11 年後に再出血:0.5% クリッピング後 2∼15 年後に別の部位に動脈瘤ができ出血:1.4% (5) 動脈瘤の部位により手術の難易度、脳の侵襲度が異なる。 <脳動脈瘤塞栓術の特徴> (1)全身麻酔下に治療を行う。 (2)DSA (Degital Subtraction Angiography) を見ながらマイクロカテーテルを動脈瘤まで誘導する。 開頭せず脳に負担をかけずに動脈瘤まで到達できる。=低侵襲の治療法である。 (3)カテーテル先端より GDC (Guglielmi Detachable Coil) を動脈瘤内に挿入し、動脈瘤を packing する。 (4)カテーテル、ガイドワイヤー、コイル、DSA などの道具の開発改良により発展途上にある治 療法である。 (5)早期離床ができる。 (6)手術に比べて短時間で治療ができる。 (7)治療の問題点 ① 治療中の出血 ② 血栓塞栓症 ③ コイルの圧縮 (①②の発生率;2~3%) (coil compaction;8.3%) (8)治療後の再出血:当院の統計では塞栓術後 7 ヶ月∼4 年後に再出血:1.4% 8)当院におけるくも膜下出血の治療成績 船橋市立医療センターにおけるくも膜下出血の治療成績を示す。手術を行えなかった場合、入院時 の意識レベルが重症・中等症・軽症別の死亡率は、それぞれ 92%、71%、50%であった。それに対 して、血管内手術・クリッピング・脳室ドレナージなど何らかの手術が行えた場合、意識レベルが重 症・中等症・軽症別の死亡率は、それぞれ 32%、25%、7%であった。 重症(GCS:3-8) 手術(‐)/(+) 良好 294/178 不良 死亡 38 /109 良好 24 92 手術(‐) 2 中等症(GCS:9-12) 6 手術(+) 34 不良 軽症(13-15) 67 /694 死亡 良好 45 32 死亡 50 40 71 5 34 不良 10 30 25 81 12 -4- 7