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ガーナにおける土地契約と森林:アシャンティ州の事例 志賀 薫
ガーナにおける土地契約と森林:アシャンティ州の事例 ○志賀 薫,増田美砂,本田 薫(筑波大生命環境) エリン K. ダマヤンティ(ボゴール農大環境研究センター) 背景および目的 影響を与えるのは②と③である.過去 1 年に②を行って いた世帯は 26,③は 29 世帯あった.③のうち 15 世帯は すでにヤミイェンチェ契約が結ばれている土地の又小作 としてアドゥヤニフォを行っていた. 1980 年に国土の 45.2%と報告されているガーナの森 林の多くは,境界線が画定した林地(forest reserve)の外 に分布している(Forestry Division, 1980).今日でも,保 護区を含む林地面積は国土の 16.5%にすぎず,森林減 表 作物別にみた契約 少の 70%は林地の外で生じている(Forestry Commission, 小作側からみた 作物 名称 提供 獲得 2005; 2008). 除 草 ・ 収 収穫物(立地条件により 林地外の土地は一般に,南部で Stool,北部で Skin と ケアテイカー 穫 1/2 または 1/3) 総称される伝統的首長に帰属し,直接的には首長制に カカオ 手 付 け 成林した土地・木を折半 連なる血縁集団,家族あるいは個人が保有している.土 金・伐開・ 折半までの収穫物 地制度については,カカオベルト南部に位置する西部州 ヤミイェンチェ 植 え 付 成林した木の折半 オイルパ を事例とした高根(1996; 1999)に詳細な分析があり,土 け・保育 折半までの収穫物 地を獲得する手段のひとつとして,ヤミイェンチェというカ ーム 畑作物 アドゥヤニフォ 伐開+α 収穫物 カオ園の造成・分割契約があげられている.ヤミイェンチ コメ - 定額 収穫物 ェでは,契約終了後に地主と契約者との間で土地が折 半される.そこでこのヤミイェンチェをはじめとする土地契 地主が,たとえ無償でも土地をアドゥヤニフォに供する 約の中に森林や樹木がどう位置づけられるのかを明らか 最大の動機は,伐開作業の肩代わりにあると考えられた. にするとともに,植林の可能性について検討したい. アドゥヤニフォの条件は,無償からカカオのタウンヤ型植 栽まで幅があった.無償で提供した地主は,跡地にカカ 方法 オを植える予定であると回答した.ヤミイェンチェ契約者 アシャンティ州の州都クマシから北西 54km に位置する が同様に又小作を認める理由も二次林の伐開の肩代わ 南アハフォ・アノ郡の B 村を対象に,2008 年 8 月~9 月 りにあり,加えて契約数の 80%は跡地のカカオ植栽義務 および 2009 年 9 月に悉皆調査を行った.集計の際には, を伴っていた. 食事をともにする範囲を世帯,主たる家計の担い手を世 帯主とした.B 村はカカオベルトの北部に位置し,2009 年 2. 植林に対する意向と土地制度 の調査時には,61 世帯,257 人が居住していた.調査項 61 世帯の世帯主に植林に対する意向を尋ねたところ, 目は家族構成,土地所有,土地利用および植栽に対す 21 人しか関心を示さなかった.アサンテ/移民,土地所 る意向である. 有の有無,およびヤミイェンチェの有無でカイ二乗検定を 行ったところ,いずれも関係が認められなかった.ヤミイェ 結果 ンチェは土地を獲得するための重要な手段であり,植林 1. B 村における土地契約 の動機として最も多かった「収入」および「環境改善」のた アシャンティ州の大半は,アサンテ人の頂点に位置す めに植えたいという回答のそれぞれ 62%と 50%がヤミイ るアサンテヘネ(王)に帰属する.その下にオマンヘネ ェンチェ契約者であったが,反面,植林しない動機の (パラマウントチーフ)とオヘネ(チーフ)がおり,末端のオ 48%を占めた「土地がない」という回答の 47%もヤミイェ ディクロ(サブチーフ)が村長の役割を果たしている. ンチェ契約者であった. 世帯主の出自は,アサンテが 22 人(36%),他地域か B 村の土地契約は,換金作物としてのカカオとコメ,ま らの移民が 39 人(64%),うち土地を保有していたのはア た自給用の畑作物を中心に発達してきた.多年生作物と サンテの 9 人(15%)のみであった.このような移民との混 して近年オイルパームやオレンジも普及し始めているが, 住は,B 村に限らず広く見られる現象である. カカオ型契約をひな型としている.自給用作物もまたカカ B 村における基本的な土地契約形態としては,①ケア オと深く結びついており,収益性がそれを上回らない限り, テイカー,②ヤミイェンチェ,③アドゥヤニフォ,および④ 植栽のインセンティヴは働かないと考えられる. 定額小作があげられる.①は収穫可能なカカオ農園に適 用され,②,③は放棄されたカカオ園や二次林( ンフォフ 本研究は,科学研究費補助金特別推進研究(課題:19002001,代表: ォ),④は低地(ウラ)に適用されていた(表).特に森林に 若月利之)の一環として行った.