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日本語とフランス語における緩和語法 (2)

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日本語とフランス語における緩和語法 (2)
Kobe University Repository : Kernel
Title
日本語とフランス語における緩和語法(2)(Comment
peut-on baisser le ton? 2 : effet d'attenuation en
japonais et en francais)
Author(s)
林, 博司
Citation
国際文化学研究 : 神戸大学大学院国際文化学研究科
紀要,33:39*-60*
Issue date
2009-12
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81002088
Create Date: 2017-04-01
39
日本語とフランス語における緩和語法
(2)
林 博 司
(承前)
4.フランス語の場合
日本語と同様、フランス語にも語気緩和のための方策はいろいろあるが、や
はり日本語と同じく、動詞活用のような文法的手段と副詞(的表現)を用いる
手段というように大きく二つのケースに分けることができる。
(52)−Vous désirez, Madame ?
YOU WANT, MADAME(何かご用でしょうか)
−Je voulais un renseignement.
I WANT-IMP A IMFORMATION
(ちょっとお尋ねしたいのですが)
(石野(1997))
(53)Je voudrais vous demander un petit service.
I WANT-COND YOU ASK A SMALL SERVICE
(ちょっとあなたにお願いがあるのですが)
(渡邊(2007))
(54)Je n’
arrive pas à croire qu’
il puisse être la cause d’
un accident de
voiture.
I NOT-ARRIVE TO BELIEVE THAT HE CAN BE THE CAUSE
OF A ACCIDENT OF CAR
(彼が交通事故を起こすなんてちょっと考えられない)(表現)
( 5 2 ) は “ v o u l o i r ”( 望 む ) と い う 動 詞 の 半 過 去 形 で 、「 丁 寧 の 半 過 去 」
(imparfait de politesse)と呼ばれる用法である(11)。(53)は“vouloir”を条件
法現在の形においたもので、やはり語気緩和の用法である(12)。(54)は動詞
“arriver à ∼”(∼するに至る)の否定形で、(53)と同様慣習化している面が
40
あるが、“arriver à croire que ∼”が「努力してやっと que 以下のことを信
じるに至った」と命題内容の断定を緩和しているのに加えて、それを否定に置
くことにより「努力しても信じることができない」と更なる断定の緩和を行っ
ている(13)。以上三つは動詞活用、否定などの文法的操作による表現だったが、
以下の例は副詞又は副詞的表現、或いは形容詞による語気緩和である。
(55)A −Tu es prête?
YOU ARE READY? (用意できた?)
B −Je ferme juste les fenêtres. (Leeman(2004))
I CLOSE JUST THE WINDOWS(ちょっと窓を閉めるから)
(56)Va donc voir un peu ce qui se passe.
GO THEN SEE A LITTLE WHAT HAPPENS(何が起こったかち
ょっと見に行ってごらんよ)
(現代語法)
(57)J’
ai quelque chose à te dire.
I HAVE SOMETHING TO TELL YOU(君にちょっと話がある)
(表現)
(58)Sitôt que je serai arrivé, j’
essaierai de régler ce petit problème.
AS SOON AS I WILL-HAVE ARRIVED, I WILL-TRY TO SETTLE
THIS SMALL PROBLEM(着いたらすぐに私はこのちょっとした問
題を片づけようと思う)(現代語法)
(59)À mon avis, Jule s’
est fait teindre en blond.
AT MY OPINION, JULE HAS HIS HAIR DYED BLONDE
(どうやらジュールは髪の毛を金髪に染めているようだ)
(Coltier & Dendale(2004)
)
(60)Donne un coup de balai, la chambre est trop sale.
GIVE A STROKE OF BRUSH, THE ROOM IS TOO DIRTY
(ちょっと掃いてよ、部屋があまりに汚すぎるから)
(現代語法)
(55)は、“juste”を用いることにより、「窓を閉める」行為が短時間で終了す
ることを述べ、相手に負担が少ない(少し待つだけで済む)ことを告げている。
41
(56)の“un peu”は、後で述べるように、「ちょっと」と最も良く対応する
表現で、ここでは相手の行為の負担量が少ないことを述べて押しつけ度を緩和
し、丁寧な表現になっている。(57),(58)は「ぼかし」による語気緩和であ
る。(57)では相手に言いたいことをわざと表現せずに、
「大したことではない
から聞いてよ」と述べており、(58)では「大した問題ではない」と言って、
自分の行為を小さく表現して丁寧さを出している。
(59)では、「以下はあくま
で私の意見ですが」と述べて、断定を避ける効果を出している(14)。(60)の
“un coup de ∼”は程度よりもむしろ時間的な少量、即ち素早さを表しており、
「さっとでいいから」という意味合いで相手の負担量の少なさを述べている。
以上見たように、様々な語気緩和の手段があるが、そのうち日本語の「ちょ
っと」に対応するのは、その元々の意味と語気緩和の表現効果から見て、“un
peu (de)”だと思われる。
5.「ちょっと」と“un peu”
5-1.
「ちょっと」と“un peu”の共通点
5-1-1「もともと」の意味
どちらも量の少なさ、程度の小ささを表すことをその基本的意味として持っ
ており、それが一種の意味拡張のプロセスを経て語気緩和のモダリティを表す
用法へ発展したと考えられる。従って、純然たる少量・低程度の用法と緩和モ
ダリティの用法の区別が曖昧な文も多く見られる。次の(61)
、(62)は少量・
低程度の用法である。
(61)Il vaudrait mieux accrocher ce tableau un petit peu plus haut.
IT HAD BETTER HANG THIS PICTURE A LITTLE HIGHER
(その絵はもうちょっと上に掛けた方がいい)(表現)
(62)Si tu cours un peu plut vite, tu y arriveras.
IF YOU RUN A LITTLE FASTER, YOU TO-IT ARRIVE
(もうちょっと速く走れば(凧は)上がるぞ)
(SHINCHAN 5)
また、次の(63)
、(64)は緩和モダリティの用法である。
42
on dit.
(63)Ecoute donc un peu ce que l’
LISTEN TO THEN A LITTLE WHAT ONE SAYS
(15)
(ちょっと人の言うことも聞きなさいよ)
(石野(1997))
(64)Daniel, montre-moi un peu ce que tu as fait.
DANIEL, SHOW ME A LITTLE WHAT YOU HAVE DONE
(ダニエル、君がしたことをちょっと私に見せてくれ給え)(現代語
法)
(63)、(64)は相手の行為の量を低く見積もって相手の負担を小さく表現し、
命令の強さを緩和して相手に対する配慮を表している。
それに対して次の(65)、
(66)は「文字通り」少量・低程度を表しているとも、緩和によって断定を避
けて“lui”や靴屋の店員(或いは靴をプレゼントしてくれた人)に配慮して
いる、とも解釈できる。
(65)Ce problème me semble un peu difficile pour lui.
THIS PROBLEM TO-ME SEEMS A LITTLE DIFFICULT FOR
HIM
(この問題は彼にはちょっと難しいようだ)(表現)
(66)Ces souliers sont un peu justes pour moi.
THESE SHOES ARE A LITTLE SMALL FOR ME
(この靴は私にはちょっときつい)(現代語法)
どの解釈になるかは、聞き手がこの発話「状況」をどのような「情況」として
(16)
。
意味づけるかにかかっている
5-1-2 程度性
“un peu”も「ちょっと」も、もともと量・程度を表す副詞なので、その
修飾対象は程度性を持つものに限られるというのは当然といえば当然であろ
う。従って、程度性を持たない語句とは共起できない。
(67)*C’
est un peu correct.
THAT IS A LITTLE CORRECT
(68)*それはちょっと正しい。
43
(69)*Ce travail est un peu terminé.
THIS WORK IS A LITTLE FINISHED
(70)*この仕事はちょっと終わりました。
次の(71)と(72)は両方ともOKだが、インフォーマントの一人によると
(71)の方がより自然である。
(71)Je vais essayer un peu de leur téléphoner.
I AM GOING TO TRY A LITTLE TO TO-THEM CALL
(72)Je vais essayer de leur téléphoner un peu.
((71),(72)とも、私は彼らにちょっと電話をかけてきます)
その理由は、“un peu”は“téléphoner”(電話をかける)より“essayer”(試
みる)の方にかかるから、というものであった。これは、“téléphoner”は程
度性を持たない表現であるのに対して“essayer”は程度性を持つ表現である
ことに起因すると考えられる。ただ、命題が修飾の対象になっている場合は、
「ちょっと」はこの制約から外れる。例(73)を見てみよう。
(73)ちょっとタバコを買ってきます。
「タバコを買う」という行為には程度性は無いにも拘わらず(73)はOKであ
る。一方これに対応すると思われるフランス語は不適格である。
(17)
(74a)*Je vais acheter des cigarettes un peu.
I AM GOING TO BUY SOME CIGARETTES
(74b)*Un peu je vais acheter des cigarettes.
但し、
(74b)の不適格性については、注(15)で少し触れたように、
“un peu”
は原則的に文頭の位置に来ることができない、というもっと大きな制約による
ものと考えられる。というのも、次の例が示すように、程度性があって“un
peu”と共起できるものも“un peu”が文頭に前置されると不適格になるから
である。
(75a)Je parle le français un peu.
I SPEAK FRENCH A LITTLE
(僕はフランス語をちょっと話します)
44
(75b)*/?? Un peu je parle le français.
(76a)Elle m’
aime un peu.
SHE ME LOVES A LITTLE
(彼女は僕のことをちょっと愛している)
(18)
(76b)*/? Un peu elle m’
aime.
ともあれ、修飾対象が命題全体以外の場合は両者とも修飾対象に「程度性」を
必要とする、という共通性が見られるが、修飾対象が命題全体の場合は「ちょ
っと」の方が“un peu”よりも制約が緩い、と言える。
5-1-3「数量」の「数」に対する制約
今まで“un peu”も「ちょっと」も少量・低程度を表す表現だと述べてき
たがもう少し正確に言うと、「量」は更に数と量に分かれる。そして朝倉
(1981)、石野(1997)によると“un peu”は量の少なさを表すことはできる
が数の少なさを表すことはできない。
(77)Il a bu un peu de vin.
石野(1997))
HE DRANK A LITTLE OF WINE
(78)*Il a un peu d’
amis.(石野(1997))
HE HAS A LITTLE OF FRIENDS
そして「ちょっと」も同様に量は表せても数は表すことは難しいようである。
(77') 彼はワインをちょっと飲んだ。
(78')*彼はちょっとの友達をもっている/*彼にはちょっとの友達がいる。
次節で述べるように、フランス語には“un peu”の他に、やはり少量・低程
度を表す表現として“peu”があり、これには数に対する制約は見られない。
(79)Il a bu peu de vin.
HE DRANK LITTLE OF WINE(彼は殆どワインを飲まなかった)
(80) Il a peu d’
amis.
HE HAS LITTLE OF FRIENDS(彼には殆ど友達がいない)
日本語には“peu”に当たる対応表現は無い。
45
5-1-4「かなり」の意味
“un peu”も「ちょっと」も本来の少量・低程度の用法の他にコンテクス
トによってはむしろ多量・高程度を表す用法もある。
(81)はっきり言って、これはちょっとすごいんとちゃう?(林(2007))
(82)きょう決めないといけないんですか。ちょっと重要なことですのでも
っと時間が欲しい。(林(2007))
林(2007)で述べたように、この「ちょっと」は断定を緩和する役割を果たし
ているが、
「ちょっと」自身に「かなり」の意味があるというより、
「ちょっと」
の低程度という基本的意味を利用して断定を避けることを通じて、聞き手に
「あなたに配慮しています」ということを認識させ、その結果話し手の本意は
「かなりすごい」、「かなり重要だ」ということを聞き手に伝える、いわば「語
用論」的意味が利用されている、と考えられる。それに対してフランス語では、
次節で取り上げるように、“un peu”と“peu”の対立があり、“un peu”自身
(19)
に「肯定的な方向付け」
があり、その結果「かなり」の意味が出てきている
と考えることができる。例は次の通りである。
(83)Il a un peu compris.(石野(1997))
HE A LITTLE UNDERSTOOD(彼はかなり理解している)
(84)Il a peu compris.(石野(1997))
HE LITTLE UNDERSTOOD(彼は殆ど理解していない)
(83)の“un peu”は(83')への肯定的方向付け、(84)の“peu”は(84')
への否定的方向付けを持っている。
(83')Il a compris.
HE UNDERSTOOD (彼は理解した)
(84')Il n’
a pas compris.
HE NOT-UNDERSTOOD
(彼は理解しなかった)
5-2.
「ちょっと」と“un peu”の相違点
5-2-1“un peu”と“peu”
既に何回か触れたように、フランス語には“un peu”の他に“peu”という
46
要素があり、この両者の対立関係が“un peu”の性格を規定している。その
結果、「ちょっと」とは異なる特徴を持つことになる。まず、前節で述べたよ
うに、“un peu”には“peu”の持つ否定的方向付けに対して肯定的方向付け
がある。従って次のような関係が想定できる (石野(1997) による)
。
(83)Il a un peu compris.
→ (83') Il a compris.(肯定方向)
(84)Il a peu compris.
→ (84') Il n’
a pas compris.(否定方向)
「緩和」の観点から言うと、「“un peu”は肯定の方向を緩和しており、“peu”
は否定の方向を緩和している」(石野(1997))ということになる。この肯定的
方向性が極端まで進むと、感嘆文という限定された情況ではあるが、次の例の
ように「かなり」どころか「大変」という強めの意味を持つようになる。
(85)Tu est sûr?
− Un peu!(DFC)
YOU ARE SURE?
− A LITTLE! (確かか? −もちろんだよ)
そして、これも前節で触れたが、「かなり」の意味になるのもこの肯定的方向
性が語彙的意味として含まれているせいである。Petit Robert や Robert
Méthodique という辞書には次のような語義が載っている。
(86)dans une mesure faible mais non négligeable
(弱くはあるが無視できない程度)
「ちょっと」にはこのような語彙的意味は無く、ただ少量・低程度の意味だけ
なので、「かなり」の意味は発話情況によって生じる。
(87)今日の試験はちょっと難しかった。でも大したことはないよ。(林
(2007)
)
(88)今日の試験はちょっと難しかった。これはやばい。(林(2007))
(87) は難しかった程度が低いことを述べており、(88) は難しかった程度が
高い(かなり難しかった)ことを述べているが、両者とも後半の情報が無けれ
ばどちらの解釈になるのか分からない。
“un peu”と“peu”の対立から出てくるもう一つの「ちょっと」との違い
は、修飾対象が形容詞の時、“un peu”の場合修飾対象との共起に意味的制約
がある、という現象である。即ち、朝倉(1981, 2002)によれば“un peu”は
47
「否定的意味」を持つ形容詞と共に用いられ、“peu”は「肯定的意味」を持つ
(20)
形容詞と共に用いられる
。
(89)Il est {un peu /*peu} bête.(朝倉(1981)
)
HE IS {A LITTLE / *LITTLE} FOOL
(彼はちょっと馬鹿だ/彼はそれほど馬鹿ではない)
(90)Il est {*un peu/peu} intelligent. (朝倉(1981)
)
HE IS {*A LITTLE/ LITTLE} INTELLIGENT
(彼はちょっと賢い/彼はそれほど賢くはない)
他方、上の(89),(90)の訳から分かるように、「ちょっと」にはそういう制
約は一切無い。そのかわり、林(2007)で述べたように、日本語には「ちょっ
と」と「少し」の使い分けがあり、その使い分けは量・程度の副詞としての用
法とモダリティの副詞としての用法に関係している。即ち、量・程度の副詞か
らモダリティの副詞へと意味の拡張が進むほど「ちょっと」は「少し」と言い
換えることが困難になり、「咎め」、「注意喚起」になると言い換えは完全に不
可能になる(詳しくは林(2007)を見ていただきたい)。他方“un peu”には
少量・低程度という基本的意味の「漂白化」(ブリーチング)は見られず、従
って「咎め」、「注意喚起」のような用法は無い。先ほどの「方向性」の議論も
併せて考えると、“un peu”は“peu”との対立という緊張関係のもとで細か
く規定された語彙的意味をあくまで保持し、「ちょっと」は、語彙的意味は大
まかでその分解釈はコンテクストに依存している、というイメージを描くこと
ができる。この差が両者のカバーする用法の多様性の差に繋がっていると考え
ることができよう。
5-2-2 用法の多様性の差
“un peu”は「ちょっと」に比べるとその用法の種類がかなり限定されて
いる。読者の利便のため、以下に林(2007)で述べた「ちょっと」の用法のリ
ストを挙げる(例文は各項目について一つだけ挙げた)
。
A 量・程度(そこに巡査が茶を持ってきたので、話はちょっととぎれた。)
B 属性表現の緩和
48
B-1
肯定的意味表現(ちょっといいレストランを見つけた。)
B-2
否定的意味表現(ちょっと弱っているんです。)
C 遂行困難な行為・動作(最近ちょっと寝られない。)
D 話し手の行為・動作、能力の極小的提示
D-1
話し手の動作・行為(ちょっとたばこを買ってくるよ。)
D-2
話し手の能力(私にはフランス語がちょっと分かります。)
E 聞き手の行為・動作の極小的提示 (ちょっと手伝ってくれ。)
F 咎め((無理矢理乗り込もうとする人に)ちょっと!)
G 注意喚起(ちょっとすみませーん、つめてもらえますか。)
以上のA∼Gの用法のうち“un peu”が対応しているのは、モダリティの機
能が見られないAを除いて(5-1-1 節で述べた、「曖昧」なものはモダリティ機
能があるとしてAには入れない)、B-2とEが圧倒的に多い(21)。反対に、全然
見られないのはB-1、C、F、Gである。FとGの用法が“un peu”に見られ
ないのは前節の議論と関係する。即ち、“un peu”はあくまで少量・低程度と
いう基本的意味を保持するのに対して、「ちょっと」は基本的意味の「漂白化」
を通じた意味拡張が起こった結果(22)、これらの用法に関して違いが出てきてい
る、と考えられる。B-1が見られないのは5-2-1節で述べたように、“un peu”
と“peu”の棲み分けによる。次にCについてであるが、「遂行困難な行為・
動作」は一般的に否定の形で表されることが多い。更に否定は文法的否定と語
彙的否定に分けることができるが、語彙的否定は「否定的意味表現」としてB
のカテゴリー(B-2)が対応するので、Cでは文法的否定が問題になる(多く
の場合、「∼できない」という形になる)。ところが“un peu”は否定文との
相性が極めて悪い。
(91a)J’
ai pu dormir un peu.
I COULD SLEEP A LITTLE (僕はちょっと寝られた)
(91b)*/?? Je n’
ai pas pu dormir un peu.
I NOT-COULD SLEEP A LITTLE
(91)はCカテゴリーの例であるが、それ以外の用法でも“un peu”は否定文
49
とは共起できない。次の(92)はDのカテゴリーで、
(93)はAである。
(92a)Je comprends le français un peu.
I UNDERSTAND FRENCH A LITTLE(僕はフランス語がちょっ
と分かる)
(92b)*/?? Je ne comprends pas le français un peu.
I NOT-UNDERSTAND FRENCH A LITTLE
(93a)Je le connais un peu.
I HIM KNOW A LITTLE(僕は彼をちょっと知っている)
(93b)*/?? Je ne le connais pas un peu.
I NOT-HIM-KNOW A LITTLE
この原因として5-1-2 節で議論した「程度性」が関わっているように思える。
即ち、“un peu”は程度性のあるものしか修飾対象にできないが、一般的に否
定文は程度性を持たない。「眠る」ことは程度性を持つが(少し眠る、よく眠
る等)「眠らない」ことには、よほど特殊なコンテクストを考えない限り、程
(23)
度性を感じることはできない(*[少し[眠らない]]、*[よく[眠らない]]
)。
同様に、「フランス語を理解する」、「彼を知っている」ことは程度性を持つが、
「フランス語を理解しない」、「彼を知らない」ことには程度性は感じられない。
Dについては注意が必要である。話し手の行為・動作を小さく提示する時、
“un peu”が使えるものと使えないものがある。次の(94)はOKだが(95)
は不適格である。
(94) Je vais essayer un peu de leur téléphoner. (=(71))
(95)*Je vais acheter des cigarettes un peu. (=(74a))
これも程度性が関わっているようだ。“essayer”(試みる)には程度性がある
が“acheter”(買う)には程度性が無い。「ちょっと」にはこういう制約はな
い。
(94')ちょっと彼らに電話をかけてきます。
(95')ちょっとタバコを買ってきます。
この点について面白いのは、
“un peu”と「ちょっと」で差がない(94)、
(94')
50
では「ちょっと」を文中においても解釈の違いは出てこないが、両者で差があ
る(95),(95')では「ちょっと」の位置によって解釈に違いが出てくる、と
いう事実である。
(94")彼らにちょっと電話をかけてきます。
(95")タバコをちょっと買ってきます。
(94')と(94")の間には大きな解釈の違いは無いが、(95')と(95")の間には
解釈の違いがある。(95')は「タバコを買う」という話し手の行為・動作を大
したことではない、と相手に提示しているのに対して、(95")は「タバコの数
量」が少ない、という解釈が出てくる。この違いは「ちょっと」を「少し」で
置き換えるとはっきりしてくる。
(96)?? 少しタバコを買ってきます。
(97) タバコを少し買ってきます。
(96)は「話し手の行為・動作の極小的提示」というモダリティ用法としては
使えないし、タバコの数量の少なさというAのカテゴリーの用法としてもかな
り不自然である。(97)はタバコの数量の少なさ、という解釈しかできない。
ところで次のような例はA∼Gのどのカテゴリーに入れればいいだろうか。
(98)Ça m’
embête un peu.(朝倉(2002) )
THAT ME BOTHERS A LITTLE(ちょっとうんざりするよ)
(99)・・・on trouve des flacons magiques, comme le Château Cheval Blanc
ou le Château Ausone qui font un petit peu rêver les Français et
puis les étrangers, ・・・
ONE FINDS FLASK MAGIC, AS THE CHÂTEAU CHEVAL
BLANC OR THE CHÂTEAU AUSONE WHICH MAKE A LITTLE
DREAM THE FRENCH AND THEN THE STRANGERS・・・
(そこにはシャトーシュバルブランやシャトーオゾンヌのようなフラ
ンス人や外国人をちょっと夢見心地にさせる魔法のフラスコがありま
す)
(Champs-Elysée(fév. 2000)
)
51
(98)はある状況に対する話者の評価を述べたもので、
「うんざり」の程度を低
く見積もることにより一方的な断定を避けている。(99)はワインで有名なシ
ャトーの持つ(フランス人や外国人に夢を見させるという)「使役力」の程度
を低く見積もることによりやはり断定を避け、相手に対する配慮を見せている。
これらのモダリティ用法は上記B∼Gのどれにも当てはまらない。しかし話者
の評価、判断を緩和した形で相手に差し出すという点ではBが一番近い。そこ
で林(2007)を修正してカテゴリーBを次のように規定したい。
(100)B:話者の評価・判断の緩和
B-1:属性についての判断の緩和 B-1-1:肯定的意味表現
B-1-2:否定的意味表現
B-2:状況についての判断の緩和
5-2-3 語順とスコープ
“un peu”と「ちょっと」の統語的違いについては、否定文との共起可能
性の他にもう一つ大きな違いが観察される。それは語順についてのもので、今
まで何回か触れてきたように、“un peu”は語頭の位置に来ることができない
のに対して「ちょっと」にはそういう制約は無い。
(101a) Ce problème me semble un peu difficile pour lui.(=(65)
)
(101b)*Un peu ce problème me semble difficile pour lui.
(101c) この問題は彼にはちょっと難しいようだ。
(101d) ちょっとこの問題は彼には難しいようだ。
(102a) Il le craint un peu.(石野(1997))
HE IT IS AFRAID OF A LITTLE
(102b)*Un peu il le craint.
(102c) 彼はそのことをちょっとおそれている。
(102d) ちょっと彼はそのことをおそれている。
(103a) Je suis un peu en retard.
(103b)*/?? Un peu je suis en retard.
(103c) 私はちょっと遅れている。
52
(103d) ちょっと私は遅れている。
(104a) Va donc voir un peu ce qui se passe.(=(56)
)
(104b)*Un peu va donc voir ce qui se passe.
(104c) 何が起こったかちょっと見に行ってごらんよ。
(104d) ちょっと何が起こったか見に行ってごらんよ。
(101)は B-1、(102)はB-2、(103)はD、(104)はEに属するが全て“un
peu”を文頭に置くと不適格になるが「ちょっと」の場合は適格である。これ
は何を意味しているのであろうか。ここで浮かび上がってくるのはスコープの
問題である。スコープとは今まで「修飾の対象」と言ってきたものに相当する。
原則的に、ある要素とそのスコープに入る要素はできるだけ近くに置かれる。
従って、5-1-2 節で見たように、(72)より(71)の方がより好まれる(それぞ
れ(105),(106)として以下に再掲)。
(105)Je vais essayer de leur téléphoner un peu.(=(72))
(106)Je vais essayer un peu de leur téléphoner.(=(71)
)
日本語でも事情は同じで、(101)∼(104)では(c)文の方が(d)文より自
然であると感じられる。ただ、フランス語と違うのは、(c),(d)の両方とも
適格だということである。そうすると文頭の位置に来る要素(24)のスコープと
は何であろうか。それは命題(25)全体であると考えられる。つまり、文頭の
“un peu”や「ちょっと」は以下の文全体を修飾対象とするのである。そして、
“un peu”が文頭に来ることができないということは、“un peu”は命題全体
をスコープに取れない、ということを意味する。“un peu”は命題の一部しか
スコープに取ることができない。それに対して「ちょっと」は命題全体をスコ
ープに取ることができる。上の(101)∼(104)では「ちょっと」のスコープ
の違いは適格さの範囲内でどちらがより自然かという違いであったが、既に前
節で触れたように、次の例では解釈の違いが出てくる。
(107)ちょっとタバコを買ってきます。(=(95'))
(108) タバコをちょっと買ってきます。(=(95"))
(107)は「タバコを買う」という命題全体をスコープに取るのでこの行為全体
53
に対して「大したことではない」というモダリティ(話者の評価)の網をかぶ
せる。この場合、少量・低程度という基本的意味はかなり「漂白化」されてい
る。それに対して(108)では二つのスコープが可能である。一つは「タバコ」
でもう一つは「買う」である。前者の場合は数量による限定が可能なので(即
ち程度性を持っているので)少量・低程度の解釈がなされ、「少しのタバコを
買いに行く」という解釈になる。そしてこの場合、例文(95)∼(97)に関し
て議論したように、「ちょっと」は「少し」と置き換えることができる。後者
では「買う」に程度性が無いため少量・低程度という基本的意味での限定がで
きず、意味の「漂白」によって拡張された解釈が適用され、
「「買う」という行
為は大したことではない」という解釈になって、結果的に(107)と同じにな
る。この場合は「少し」との置き換えはできない(「少し」と「ちょっと」の
関係については林(2007)を参照していただきたい)。しかし自然さという観
点では(107)より劣る、という差は出てくる。このように動詞がスコープに
なっている場合、自然さの差はあるものの、結果的に命題全体がスコープにな
る場合と同じ解釈を持つことが多い。そして、インフォーマントによる差はあ
るが、“un peu”の場合もこれによく似たケースがある。それは以下のような
ケースである。
(109a) Elle m’
aime un peu.(=(76a)
)
(109b)*/? Un peu elle m’
aime.(=(76b))
(110a) Ca m’
embête un peu.(=(98))
(110b)*/? Un peu ça m’
embête.
(109)も(110)も“un peu”のスコープは動詞(“aimer”(愛する)、
“embêter”(うんざりさせる))、或いは述部(動詞+直接目的語(“me”(私
を))である。“un peu”が文頭にあるにも拘わらず(109b),(110b)に対し
て「*」ではなく「?」の判定を下したインフォーマントがいた。これは他に
スコープに入りうる程度性を持つ要素が文中にないため、実質的に文全体をス
コープに取る場合と同じことになるためだと思われる。このインフォーマント
にとっても、文中にスコープに入りうる要素があるもの(26)は適格性が低下す
54
る。
(111a) Il parle un peu le français.(≒(75a))
(111b)*/?? Un peu il parle le français.(≒(75b))
(112a) Je suis un peu en retard.(=(103a)
)
(112b)*/?? Un peu je suis en retard.(=(103b)
)
件のインフォーマントは(111b)と(112b)に対して「??」の判断を下し
ている。もう一人のインフォーマントは“un peu”が文頭に前置されている
ものについては一貫して「*」の判断を下している。インフォーマントの数を
増やしても、不適格性の程度の判断の差こそあれ、この構文は適格ではないと
いう点では一致すると思われる。
6. 結論
本稿では、林(2007)の結果に基づいて、「ちょっと」と比較・対照するこ
とにより“un peu”の特質を探ってきた。今までの結果をまとめると以下の
ようになる。
<「ちょっと」と“un peu”の共通点>
①どちらも「少量・低程度」という基本的意味を持つ副詞であり、その意味を
利用して語気緩和のモダリティを表す用法を発展させてきた。但し、「ちょっ
と」の方は更に発展の度合いを強めて「少量・低程度」の意味が無くなってい
るケースもある。
②当然のことながら、どちらも程度性を持つ語句と共起する(本稿では、この
ような「ちょっと」と“un peu”の修飾の対象となる語句を「スコープ」と
名づけた)。但し、この場合も、
「ちょっと」の方が更に一歩を踏み出していて、
命題全体をスコープとして取る場合は程度性を必要としない。
③どちらも量の少なさを表すことができるが、数の少なさを表すことはできな
い。
55
④どちらも少量・低程度の他にむしろ「かなり」の意味を表すこともできる。
但しその理由は異なっていて、“un peu”の場合は語彙的意味に「肯定的な方
向付け」が組み込まれているため量・程度が大きくなる素地があるのに対して、
「ちょっと」は文脈による「語用論」的意味が利用されている。
<「ちょっと」と“un peu”の相違点>
⑤“un peu”には“peu”という対立要素があり、その対立関係の中で意味、
用法が規定されるのに対して「ちょっと」には対立要素は無い。実はこの違い
が最も基本的なもので、他の相違点は全てここから出てくる、と筆者は考えて
いる。“un peu”が「肯定的な方向付け」を持っているのも“peu”との関係
においてであり、「ちょっと」が少量・低程度の基本的意味を失って程度性の
ない命題全体をスコープとして取ることができるのも、“peu”に相当するよ
うな要素が無く、その分語彙的規定が緩やかになっているためだと考えられる。
また、林(2007)で分類された「ちょっと」の用法の中で「肯定的意味表現の
属性についての判断」に当たる用法が“un peu”には見られないのも“peu”
との対立によるものである。
⑥「ちょっと」と比べて“un peu”の用法はかなり限定されている。先ほど
⑤で述べたものの他に「咎め」、「注意喚起」の用法が見られないのも“un
peu”があくまで少量・低程度という基本的意味を保持するのに対して、「ち
ょっと」は容易に意味の「漂白」(ブリーチング)を受けてこの基本的意味を
失っているからだと言える。そして「漂白作用」が「ちょっと」に対して作用
するのは、その語彙的意味が“un peu”に比べて緩やかであることが原因だ
と考えられる。
⑦“un peu”は統語的否定(ne ∼ pas による否定)と共起しにくいのに対し
て「ちょっと」にはそういう制約はない。これも“un peu”の基本的意味保
持の性質によるものだと考えられる。即ち、“un peu”はそのスコープに必ず
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程度性を持つ要素を要求するが、一般的に否定文には程度性が感じられないの
で共起しにくいと思われる(27)。
⑧「ちょっと」は文頭の位置に来れるのに対して“un peu”はその位置には
来れない。この事実は、「ちょっと」は命題全体をスコープに取れるのに対し
て“un peu”はそれができない、ということを意味している。更に「ちょっ
と」は程度性の無い命題もスコープに取ることができ、もはや少量・低程度と
いう基本的意味は全く持たず、「咎め」、「注意喚起」という用法に繋がってい
く。
この⑧のスコープの問題は類型論の問題に繋がっていく可能性がある。
即ち、
「ちょっと」は、「あんた」と同様(Hayashi(2006))、もともとは命題内に位
置し命題内の要素をスコープとして取っていたのが、意味の拡張の結果、命題
外に位置し命題全体をスコープに取るようになった訳で、「コト」をスコープ
に取るという日本語の類型論的特徴を備えていると考えられるのである(「あ
んた」に関しては、日本語では命題外に位置し、いわゆる文修飾の副詞として
命題全体をスコープに取るが、フランス語の対応物である拡大与格はあくまで
命題内での「項」のステイタスを維持する)。益岡(2008)は「叙述類型」と
いう概念を導入し、唐沢・管(2008)はそれに基づいて日本語と英語の叙述類
型論を展開している。この観点からフランス語の類型論的特徴を明らかにする
ことが可能で(28)、本稿の「ちょっと」と“un peu”の比較・対照的記述がそ
の一端となるのではないかと思う。しかしこれは今後の課題である。
注
(11)「丁寧の半過去」は更に、「語調緩和の半過去」(imparfait d’
atténuation)と
「接客の半過去」(imparfait forain)に分けられる。これらは日本語の「ご注文は
以上でよろしかったでしょうか」という表現との類似性が我々の興味を引く。本
稿では詳しく検討する余裕は無いので、興味のある方は渡邊(2007)を参照して
57
いただきたい。
(12)半過去と条件法現在の使い分けについては渡邊(2007)、Haillet(2004)、
Anscombre(2004)を参照していただきたい。また、“je voudrais”の形は固定し
てしまっていて、この形を使って当たり前で、もし使わず直説法現在の“je veux”
を使うと丁寧さを欠くことになってしまう。宇佐美(2002)の言う「無標のポラ
イトネス」に相当する。
(13)否定にはもう一つ“litote”「曲言法」と呼ばれる用法がある。これは肯定の代
わりに否定を用いて却って印象を強める言い方で、次の (ii)のような表現である。
(i)Il est intelligent. (彼は賢い)
(ii)Il n’
est pas bête. (彼は馬鹿じゃない)
本稿ではこの用法は扱わない。興味のある方は Lilti(2004)を参照していただき
たい。
(14)もちろん、1人称の他に3人称(“à son avis”)も可能である。また、“à mon
avis”の他に、“selon moi”,“pour moi”も用いられる。この三者の用法の違いに
ついては Coltier & Dendale(2004)を参照していただきたい。
(15)この日本語は実は正確にフランス語に対応していない。後で見るように、「ち
ょっと」は文中と文頭に現れることが可能で、位置によって意味が違う。結論を
先取りすると、文頭の「ちょっと」は命題全体をスコープとするのに対して、文
中の「ちょっと」は命題の一部をスコープに取る。“un peu”は文頭には来れず、
そのスコープは命題の一部である。(63)に即して言えば、“un peu”のスコープ
は“ce que l’
on dit”で、正確には次の(i)が対応する。
(i)人の言うこともちょっとは聞きなさいよ。
文頭・文中の位置とスコープ、解釈の違いの問題は次の5−2節で詳しく取り上
げる。
(16)深谷・田中(1996)の用語による。尤も、深谷・田中(1996)の「コトバの<
意味づけ論>」によれば、「もともと」の意味などは存在せず、少量・低程度は
《意味に帰属する共有の秩序性》の現れ、ということになるだろう。
(17)インフォーマントの一人は{OK, ?, ??, *}の4段階のうち「?」の判定を下し
58
たが、これは“un peu”の修飾対象を命題ではなく“cigarette”と解釈したため
だと思われる。
(18)二人のインフォーマントで判断が分かれた。この理由については 5-2-3 節で考
える。
(19)石野(1997)による。
(20)ここで「肯定的(positif)」、「否定的(négatif)」というのは、話し手の主観的
評価のプラス、マイナスの他に無標(nonmarqué)、有標(marqué)の区別も含
まれている。無標が肯定的意味で有標が否定的意味である。例えばフランス語に
は「深い」という形容詞は存在するが(“profond”)「浅い」という形容詞は存在
せず“peu profond”と言わねばならない。この場合“profond”が「肯定的意味」
を持つ形容詞、ということになる。日本語では「深い」/「浅い」の二つが存在
するが、対応する名詞は「深さ」の方が普通に用いられ「浅さ」は特殊なコンテ
クストが必要である。
(i)この井戸の{深さ/??浅さ}はどれくらいですか。
この意味では日本語でも「深い」の方が「肯定的意味」を持つ、と言える。
それから、“peu”には音節数という音声的な制約があるが、ここでは取り扱わな
い。
(21)文字通り少量・低程度を表すものを除いた21例の内、Bは12例(57%)、Eは7
例(33%)であった。あとDが2例(D-1 が1例、D-2 が1例)あった。勿論、
母数が少ないので統計学的には全く意味のない数字だし、大規模コーパスで検索
するとDの例はもっと出てくると思われるが、あくまで参考として挙げた。おお
まかな傾向は掴めるかもしれない。
(22)この平行例がフランス語の「拡大与格」(Datif étendu)と日本語の「あんた」
に見られる。詳しくは Hayashi(2006)を参照していただきたい。
(23)[[よく眠ら]ない]ならOKだが、この場合、程度を表す「よく」は「眠る」
に係っており、「眠らない」には係っていない。
(24)勿論、どんな要素でもスコープを持っているという訳ではない。一種の「演算
子」的要素に限られる。
59
(25)ここで「命題」というのは、文を[DICTUM]と[MODUS]に分けた場合の
[DICTUM]に相当するものである。
(26)(111)の場合、“parler le français”(フランス語をしゃべる)の程度性は
“parler”(しゃべる)の他に“le français”(フランス語)にも認められる。即ち、
しゃべれるフランス語の量、或いはフランス語の知識の量などである。
(27)次の (i)には“un peu”の他に“assez”(かなり)のような程度を表す副詞
を付けることができるが、
(ii)に対しては難しいだろう。
(i)Il est bête.(彼は馬鹿だ)
(ii)Il n'est pas intelligent.(彼は賢くない)
(28)青木(1995)、春木(2005)にも、日本語のコト的特徴に対するフランス語の
モノ的特徴について述べられている。
用例出典(引用文献を除く)
表現:島田昌治、林田遼右、ティエリー・トルード『フランス語表現辞典』、朝日出
版社
現代語法:ポール・リーチ他『現代フランス語法辞典』
、大修館書店
Champs-Elysées:“Champs-elysées”,février 2000, Champs-Elysées, Inc.
DFC:Dictionnaire du français contemporain, Larousse
SHINCHAN:SHINCHAN 5, Les éditions j’
ai lu
引用文献
Anscombre, J-C(2004),“L’
imparfait d’
atténuation: quand parler à l’
imparfait, c’
est
faire”,Langue française 142. pp.75-99.
青木三郎(1995),「取り立てと主題―日仏語の対照言語学的研究」、益岡隆志・野田
尚志・沼田善子(編)(1995)『日本語の主題と取り立て』、pp.277-298, くろしお
出版
朝倉季雄(1981)
,『フランス文法ノート』
、白水社
――――(2002)
,『新フランス文法事典』
、白水社
60
Coltier, D & T. Dendale(2004),“La modalisation du discours de soi: éléments de
description sémantique des expressions pour moi, selon moi et à mon avis”,
Langue française 142, pp.41-57.
Haillet, P. P. (2004),“Nature et fonction des répresentations discursives: le cas de
la stratégie de la version bémolisée”,Langue française 142, pp.7-16.
春木仁孝(2005)、
「メトノミーと再帰構文」
、
『フランス語学研究の現在』
、pp.97-113、
白水社
Hayashi, H.(2006)
,““Anta et Chotto”: deux cas de l’
extension de sens−Etude
sémantique et pragmatique−”
, Studia universitatis Babeş-Bolyai Philologia 1,
pp.7-21, Cluj University Press.
林博司(2007),「日本語とフランス語における緩和語法(1)」、『国際文化学研究』
29、pp.53-71、神戸大学国際文化学研究科
深谷昌弘・田中茂範(1996)、『コトバの<意味づけ論>―日常言語の生の営み―』、
紀伊国屋書店
石野好一(1997)
、『フランス語の意味とニュアンス』
、第三書房
唐沢譲・管さやか(2008)、「対人認知の心理過程と言語表現」、益岡隆志(編)『叙
述類型論』、pp.139-160. くろしお出版
Leeman, D.(2004),“L’
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énonciation”, Langue
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益岡隆志(2008)、「叙述類型論に向けて」、益岡隆志(編)『叙述類型論』、pp.3-18.
くろしお出版
宇佐美まゆみ(2002)、「ポライトネス理論の展開」、『言語』2002年1月号∼12月号、
大修館書店
渡邊淳也(2007)、「フランス語の「丁寧の半過去」と日本語の「よろしかったでし
ょうか」型語法」、『フランス語学研究』41号、pp.54-59.
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