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日本の電車のアナウンスについての社会学的考察 A Sociological Study
社会科教育専攻 日本の電車のアナウンスについての社会学的考察 A Sociological Study on Train Announcements in Japan コース 社会学 キーワード(和文) 電車 アナウンス 国民性 学生氏名 伊野達亮 指導教員 串田秀也 民営化 サービス Keyword (英文) ( train ) ( announcement ) ( national character ) ( privatization ) ( service ) 本論文の目的は、日本の電車のアナウンスのうるささの社会的背景を明らかにすることである。日 本の電車のアナウンスがうるさいという指摘が外国人やメディアからあり、それは日本人の親切心に 由来するなどと述べられている。本研究では、これらの感想や推測が十分な根拠のあるものなのかど うかを、以下の点を実証的に解明することを通じて考察する。第一に、日本の電車のアナウンスは事 実として、諸外国より「うるさい」のかどうかを明らかにすること。第二に、日本の電車のアナウン スの「うるささ」はいつの時代にも同じだったのか、それとも変化してきているのかを明らかにする こと。そして第三に、日本の電車のアナウンスの「うるささ」は日本人の国民性と国鉄民営化に伴う サービス向上と、どちらの考え方によってよりうまく説明できるのかを明らかにすること、である。 国鉄民営化に伴って経営のあり方や顧客へのサービスがどのように変化したのか、また、実際に電 車のアナウンスの量や内容が増えているのかどうかをインタビューと実際のアナウンスデータより明 らかにした。その結果、インタビューからは、ハード面での発展、乗務員(鉄道会社)と乗客の関係 の変化、そして、アナウンス内容や放送数の増加があったことが判明した。民営化を機に、障害者を 含む利用者が快適に過ごせるような設備投資がなされたり、鉄道会社が顧客からの要望を集めるよう になったので、乗客が不満や要望を直接鉄道会社に求めることが容易になったりしたことに加え、ア ナウンスの際の言葉遣いや放送する内容が丁寧になったことで放送量が著しく増加したのである。 そして、民営化以降のサービス向上や顧客第一の方針によって、どの程度車内アナウンスが増加し ているのかを実際のアナウンスデータを使って分析した結果、日本のアナウンスは海外のアナウンス よりも量が多く内容も多様であり、それも比較的近年の間に増加したことが判明した。これは、アナ ウンスが健常者だけでなく障害者に対するアピール手段としても利用されているからである。民営化 以降のアナウンス増加はサービス向上のアピールであると共に、電車を利用する際の顧客からの要望 を反映したポイント、つまり、クレーム対策なのである。 本稿では結局、以下の点を実証的に明らかにした。第一に、現在の日本の電車のアナウンスは、実 際に諸外国よりも量が多く内容も多様性に富んでいる。留学生の「うるさい」という感想は、客観的 データによって裏付けられるものである。第二に、しかしながら、この事実を日本人の国民性によっ てすべて説明できると考えることはできない。なぜなら、国鉄民営化に伴って電車のアナウンスは量 が増えており、内容も多様化しているからである。 以上、本稿は、現在の日本の電車アナウンスの「うるささ」が、国鉄民営化によるサービス向上の 結果によるものである、という議論に対して実証的な裏づけを提供した。