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EVバイクの将来性に関する調査研究
電動バイクと早朝の音環境に関する調査研究 機械制御システム学科 社会的相互行為システム研究室 1. 研 究 の 目 的 と 方 法 早朝の音環境の良化について 各自動車メ ーカーの企業努力により,車やバイクの排 気音はかつてに比べ,格段に小さくなって きた.しかし,車やバイクが静かになった 現在でも,排気音による音環境の問題は残 っている.たとえば,早朝の新聞配達のバ イクの音が気になっている人も少なくない. 低炭素社会の実現について 各自動車メー カーは,厳しい規制の下で低排出ガス化に 努め,現在の車やバイクの排出ガスに含ま れる二酸化炭素や窒素酸化物は,以前に比 べてはるかに減少しているが,ゼロになっ たわけではない.しかし,それらをゼロに する電動バイクのような環境対応車も今日 では存在する. 以上 2 点の背景より,調査の目的は,第 一に電動バイクでの早朝の新聞配達による 住環境の静音効果を検証すること,第二に 環境対応車に対する地域住民の意識明らか にすることにある. 2. 調 査 ・ 実 験 の 概 要 調 査 方 法 と 調 査 期 間 平 成 23 年 8 月 23 日 ~9 月 4 日の期間に大宮キャンパス近隣の 310 世 帯 (調 査 地 区 の 詳 細 は 調 査 地 区 マ ッ プ を 参 照 )に ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 っ た . 実 証 実 験 の 方 法 と 期 間 平 成 23 年 8 月 16 日 ~ 31 日 の 期 間 に , 電 動 バ イ ク (HONDA EV-neo)4 台 を 新 聞 販 売 店 に 貸 与 し , 早 朝 の 新聞配達を電動バイクで行うというもので あ る . (実 験 車 両 の 詳 細 は 図 1 を 参 照 ) 電動バイクの特徴 電動バイクは電気モー ターを原動力とするため,二酸化炭素等の 排出量がゼロかつ,排気音もなく,静粛性 に 優 れ て い る (図 1). 図 1. 電 動 バ イ ク の 優 位 性 3. 早 朝 の 音 環 境 に 関 す る 質 問 実 験 前 (ガ ソ リ ン 車 で の 配 達 時 )で ア ン ケ ートの質問「これまでに,あなたやご家族 の方が,早朝の新聞配達のバイクの音が気 に な っ た こ と が あ り ま す か .」で は ,地 域 住 民 の 方 々 の 46%が , 「 気 に な る 」も し く は「 ど ちらかといえば気になる」という結果であ っ た (図 3 上 ). また,バイクの音によって起こされたこ Q08321 岡村 龍 指導教員 武藤 正義 と の あ る 住 民(「 あ る 」も し く は「 と き ど き あ る 」 と 答 え た 方 ) は , 全 体 の 49%と 約 半 数 近 く い る こ と が 分 か っ た (図 2 上 ). ここで,静粛性に優れる電動バイクで早 朝の新聞配達を行った時に上記と同じ質問 をしたところ,バイクの音が「気になる」 もしくは「どちらかといえば気になる」と 答 え た 住 民 は ,全 体 の 5%に ま で 減 少 し (図 3 下 ),バ イ ク の 音 に よ っ て 起 こ さ れ た こ と の あ る 住 民 は ,実 験 前 で 半 数 近 く だ っ た の が , 実 験 中 で は 3%に ま で 減 少 し た (図 2 下 ). 実験前 49% 51% ある 実験中 3% 97% 0% 50% ない 100% 図 2. 意 識 の 実 験 前 後 比 較 実験前 46% 54% 実験中 5% 95% 0% 50% 気になる 気にならない 100% 図 3. 起 こ さ れ た 頻 度 の 比 較 4. エ リ ア 別 の 音 環 境 比 較 どのエリアで音が聞こえやすく,またそ のエリアの静音効果がどの程度のものかを 分析するため, 「 密 集 」, 「 交 差 点 有 り 」, 「交 差 点 無 し 」,「 奥 」 の 4 つ の エ リ ア に 分 け て 分析を行った. 「これまでに,あなたやご家族の方が, 早朝の新聞配達のバイクの音が気になった こ と が あ り ま す か .」と い う 質 問 に 対 す る 回 答 を エ リ ア ご と に 集 計 し た .実 験 前 (ガ ソ リ ン 車 で の 配 達 時 )で は ,音 を 気 に し て い る 住 民 が 一 番 多 い エ リ ア は 密 集 (57%),ま た 最 も 少 な い エ リ ア は 奥 (37%)で あ っ た .ま た ,実 験 中 (電 動 バ イ ク で の 配 達 時 )で も 同 じ 分 析 を行ったところ,音が聞こえやすいエリア は 密 集 (7%)と 交 差 点 な し (5%)で あ り , ど ち ら も 10%を 切 る 数 値 と な っ た . ま た , 実 験 前で音が聞こえやすかったエリアほど,音 を気にしている住民の割合の減少幅が大き い 傾 向 が あ る こ と が 分 か っ た (密 集 :50 ポ イ ン ト , 交 差 点 有 り :55 ポ イ ン ト , 交 差 点 無 し :46 ポ イ ン ト , 37 ポ イ ン ト ) (図 4). 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 57% 55% 51% 37% 7% 密集 0% 5% 0% 交差点有り 交差点無し 実験前 奥 実験中 図 4. 音 が 気 に な っ て い る 住 民 の 割 合 し か し ,音 を 気 に し て い る 住 民 が ゼ ロ に な っ た 訳 で は な か っ た .そ こ で ,実 験 中 (電 動 バ イ ク で の 配 達 時 )に 音 を 気 に し て い る 住民の特徴を把握するための分析を行った. 分析方法は,実験中で音が気になっている 住 民 と そ う で な い 住 民 の 7 つ の 質 問 項 目 (就 寝階数,就寝部屋の音環境,就寝時間・起 床 時 間 , 年 齢 , 性 別 , 職 業 )の 回 答 結 果 を ク ロス集計し,それぞれの特徴を比較すると いうものである. クロス集計を行ったところ,関連性が見 られる項目はほとんど無かった.原因は, 音が気になっている住民の割合が音を気に していない住民に比べて格段に少なかった こ と に あ る と 考 え ら れ る .し か し , 「就寝時 刻・起床時刻」に関しては,唯一関連性が ありそうな結果であった.表 1 より,音を 気にしている住民は,音を気にしていない 住民に比べ就寝時刻はあまり変わらないも のの,起床時刻はやや早い時刻であること が分かった.それゆえに,睡眠時間も約 1 時 間 弱 短 い こ と も 分 か っ た (表 1). 表 1. 就 寝 時 間 ・ 起 床 時 間 の 比 較 平均就寝時刻 平均起床時刻 平均睡眠時間 音を気にして いる住民 23 時 30 分 5 時 36 分 6 時間 6 分 音を気にしていな い住民 23 時 18 分 6 時 12 分 6 時間 54 分 5. 電 動 バ イ ク に 対 す る 住 民 の 意 識 電動バイクを新聞販売店以外にも普及さ せることで,低炭素社会の実現への近道に な る と 考 え た .そ こ で , 「電動バイクを所有 してみたい」と考えている住民の特徴を把 握するための分析を行った. 第一に「電動バイクを所有してみたいと 思 い ま す か .」に 対 し , 「してみたいと思う」 もしくは「すこししてみたいと思う」と答 えた住民のみを抽出したところ,全体の 22% で あ っ た . 今 日 の バ イ ク 所 有 希 望 率 が 11.8%, 所 有 率 が 13.3% で あ る こ と と 比 較 す る と ,電 動 バ イ ク を 所 有 し て み た い と 考 え ている住民はかなり多いといえる. 第二に,電動バイクを所有してみたいと 思 っ て い る 住 民 の 職 業 の う ち を ,割 合 の 高 か っ た も の は , 自 営 業 者 (36%)で あ っ た . た だし,職業全体と比較した場合,自営業自 体 は 5%で あ っ た . ここで,職業で一番多かった自営業者の 特徴を把握するため,自営業者のプロフィ ー ル を 集 計 し た . そ の 結 果 ,60 代 の 男 性 3 名 ,50 代 の 男 性 1 名 ,40 代 の 男 性 1 名 と い う 結果になった 6. ま と め 第一に,早朝の音環境の変化に関する項 目 で は ,単 純 集 計 に よ り 実 験 前 の 回 答 者 の 2 人に 1 人が音を気にしていたのが,実験中 で は 20 人 に 1 人 に な っ た こ と が 明 ら か に な っ た .ま た エ リ ア 別 で の 分 析 で は ,「 エ リ ア に よ っ て 音 環 境 に 大 き な 差 が あ る こ と 」, 「全てのエリアで大きな静音効果がみられ た こ と 」 ,「 音 が 聞 こ え や す い エ リ ア 程 , 大 きな静音効果がある」の三つが明らかにな っ た . し た が っ て ,電 動 バ イ ク で 早 朝 の 新 聞 配 達 を 行 う こ と で ,早 朝 の 音 環 境 が 大 幅 に 改善することが実証できた. しかし,第二に実験中にバイクの音が気 になっていた住民がゼロになったわけでは な か っ た .そ こ で ,実 験 中 で 音 を 気 に し て い る住民とそうでない住民の特徴を比較した ところ,音を気にしている住民の方が平均 睡眠時間に 1 時間弱短いことが明らかにな っ た . こ の 結 果 よ り ,就 寝 時 刻 が 遅 い 故 に 眠 り が 浅 く ,電 動 バ イ ク の モ ー タ ー の 音 の よ う な 小 さ な 音 で も 起 き て し ま う 他 ,電 動 バ イ ク に 興 味 が あ り ,走 行 し て い る 場 面 を 見 る た め 早 く 起 き て い る ,等 の 理 由 が 推 察 で きる. 第 三 に ,環 境 対 応 車 に 関 す る 項 目 で は ,電 動バイクを所有してみたいと考えている住 民 は 回 答 者 全 体 の 22%で あ り ,今 日 の バ イ ク 所有希望率の約 2 倍であることが分かった. ま た ,電 動 バ イ ク の 所 有 を 希 望 し て い る 住 民 の 典 型 的 な 特 徴 は ,60 代 男 性 の 自 営 業 者 で あ る こ と も 明 ら か に な っ た .こ の 結 果 よ り ,「 今 回 の 実 験 に よ り 音 環 境 が 住 民 の 予 想 以 上 に 良 化 し た こ と に よ り ,電 動 バ イ ク の ような環境対応車への関心が深まった」こ と が 推 測 で き る .以 上 よ り ,電 動 バ イ ク に は 多くの住民に肯定的に受け入れられたとい え る が ,今 後 の 課 題 と し て ,第 一 に 歩 行 者 に 接 近 し た 場 合 ,バ イ ク が 近 づ い て い る こ と を 歩 行 者 に 知 ら せ る 機 能 を 搭 載 す る (例 : 「 エ ン ジ ン 音 に 似 た 音 を 発 生 で き る 」 ,「 蛍 光 色 の ラ イ ト が 点 灯 す る 」等 ),第 二 に 実 用 面 を 強 化 す る (例:航 続 距 離 を 長 く す る ,充 電 時 間 を 短 く す る 等 )が 考 え ら れ る . 7.参 考 文 献 [1]本 田 技 研 工 業 HP http://www.honda.co.jp/motor/ [2]日 経 BP 2008 日 経 ト レ ン デ ィ「 オ ー ト バ イ の 所 有 率 は 13% ,非 所 有 者 の イ メ ー ジ は「 危 な い ・ 不 便」