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第5章 再生資材のマーケティング戦略
第5章 再生資材のマーケティング戦略 第1節 総 則 §1 マーケティングの必要性 下水汚泥の有効利用を推進するため、売れる製品、流通経路に乗せられる製品、リサイクル製 品として社会に受け入れられる製品にするため、有効利用製品を開発する段階でマーケティング 戦略を検討することが望ましい。 【解説】 下水汚泥の有効利用は、し尿などの利用から含めると古代からあるもので、その方法は社会の変化 とともに大きく変わってきた。特に日本では、産業構造が大きく変化した 20 世紀後半には、し尿処理 や下水処理方法が急速に変化し、今まで主な有効利用先であった農業もグリーン革命によって化学肥 料が多量に使われるようになり、し尿系汚泥の利用は減少した。しかし、一方では環境破壊や天然資 源の枯渇等により、大量生産、大量消費、大量廃棄の一方通行的社会が行き詰まりを見せている。そ のため、棄てる文化から循環利用の文化へと大きく社会が変化せざるを得なくなっている。 このような変化の中で、下水汚泥の有効利用も大きく変化してきている。図5-1は現在までに開 発されてきた下水汚泥有効利用方法と、その製品である この図で木の幹で示した部分は下水汚泥の処理に伴う汚泥の形態を示す。また、枝で示した部分は有 効利用するための処理方法を示す。円形で囲った木の実の部分は有効利用製品を示す。また、太線は 既に実用化された製品、細線はまだ研究段階を示す。 枝の部分の技術開発が先行しているものの、製品の販売方法や流通経路の開発に十分な検討がなさ れなくて、製品を市場に乗せることが困難なケースも出てきている。 この章では、現状の有効利用に関する物流や販売に対する課題について、マーケティングの概念を 導入することにより、低コストで安定した製品を供給するとともに、「売れる製品」「流通経路に乗せら れる製品」「リサイクル製品として社会に受け入れられる製品」にするための技術開発手法のあり方、 市 場の動向調査方法、事業として成立させるための仕組みの組立て方等について取り上げている。 -249- -250- §2 マーケティングの理論・考え方 有効利用製品を販売するためには需要者の欲求を満足させることが必要であり、そのために、 商品の機能や品質、価格、流通方法、販売促進策等を改善する必要がある。 幅広い分野や領域における技術開発が進み、経済や社会が発展、成熟すると、競合する事業者 が増えて競争社会になっていく。競争上必要となってきた経営戦略のひとつとしてマーケティン グ戦略は重要である。 【解説】 下水汚泥の処理処分は、使用料により賄われていることからしても、安全で経済的に減量化、有効 利用することが求められる。しかし、汚泥を有効利用しようとすると、その製品の受け入れ市場の状 況を考慮する必要が生じてきた。下水道事業の進展とともにその量が増加し、民間の製品を含めた一 般市場へ拡大するに至り、一部で摩擦を生じるまでになった。 また、対照的に下水道事業で大量に有効利用製品を生産したが、数年すると流通しなくなったり、 時代遅れとなったりして消費者から敬遠されるケースが出てきた。下水道事業は公の事業であること から、率先して下水汚泥の有効利用促進を求められる一方、市場の動向についても敏感に把握するこ とが行政にも求められる。 そこで、これらの問題に対応するため、市場原理に基づいたマーケティング手法を使って、一般市 場にも通用する製品開発のあり方や、販売・流通方法のあり方についても取り上げている。一般的に、 事業活動とは商品やサービスを販売することで、販売により事業活動の源(利益)を得ている。マー ケティングとは「いかに販売するか」を科学的に考えることである。販売するには需要者の欲求を満 足させる必要があり、そのために、商品の機能や品質、価格、流通方法、販売促進策等を改善するこ とがマーケティングである。また、マーケティングをすることによって、自身(事業者)や社会(消 費者)に満足を与えることができる(図5-2) 。 社会の成熟 有効利用の推進 自由競争 マーケティング 需要の成熟 民間との競合 の必要性 ユーザーニーズ 社会貢献 図5-2 マーケティングの概図 -251- 需要創造 図5-3はマーケティングを、市場経済や社会の発展段階別に示したものである。 下水汚泥の建設資材化を行う場合、まずは技術開発の中心が「いかに効率的に作るか」に重点がお かれており、次に「その製品が売れるかどうか」の検討を行う場合が多い。このときに販売方法や流 通の方法について検討が行われる。 しかし、製品が飽きられたり費用効果が薄れた場合、次のステップへの移行が遅れることが多い。 発展段階3は、我々が今後取り組まなければならない課題といえる。 また、その次の課題として、できた製品が本当に社会に貢献する製品であるかどうか、その事業自 体が地球環境問題や人類に貢献しているかどうかの事業評価も重要な課題といえる。 発展段階1 成 果 【生産主体】 ・生産方式の改善 いかに効率的に作るか ・大量生産方式 (再資源化) 発展段階2 【販売主体】 いかに効率的に売るか (利用促進) 発展段階3 克服すべき課題 ・販売不振 (供給過剰) ・競合激化 成 果 克服すべき課題 ・販売方法の検討 ・生産、営業 (営業の検討) ・対費用効果 ・流通業者の選択 ・新製品開発 成 果 克服すべき課題 【消費者主体】 ・消費者ニーズの把握 ・安全性 売るための手段 ・製品の改良 ・社会性 ・流通販売の変更 ・成熟市場 (事業展開) 発展段階4 成 果 【社会主体】 ・倫理性、社会貢献 役に立つ製品提供 ・環境の改善と保全 (事業評価) ・CO2削減 図5-3 マーケティングの発展段階 -252- 克服すべき課題 ・社会と企業の調和 (経済性と社会性) ・商品の社会的価値 §3 マーケティングの分類 マーケティングには、生産者としてのマーケティングと流通業者としてのマーケティングがあ る。マーケティングを実施するとき、両者を分けて実施する必要がある。 【解説】 マーケティングは誰が行うかによってその視点や考え方が異なる。様々な分類方法があるが、実施 する主体により分類するとわかりやすい。マーケティングを実施する主体が、商品の生産者(提供者) であるのか、これらと消費者の間に入る流通業者であるのかによって考え方が変わってくる。下水汚 泥の建設資材化ではこの両者のマーケティングを行う必要がある。 表5―1 主体別マーケティングの差異 マーケティングの視点 生産者のマーケティング 流通業者のマーケティング 提供商品 ・商品づくり ・顧客満足商品の選定、生産 ・商品の提供 ・生産者への情報提供 ・顧客満足商品の選定、仕入 提供価格 ・最適価格の設定 ・最適価格の設定 顧客が入手可能な 体制づくり 販売促進、 販売支援 ・最適販売経路の設定 ・流通業者、小売業者の選定 ・最適広告、宣伝 ・営業活動、アフターサービス ・販売店探索、選定 ・最適広告、宣伝、アフターサービス ・店づくり、陳列方法、接客姿勢 §4 マーケティングの手法 マーケティングを実施するに当たっては、 「マーケティングの4P」といわれる4つの視点か ら施策を実施するとわかりやすい。また、その4つの施策をミックスさせることで相乗効果が得 られるよう考えることが望まれる。 【解説】 -253- ①Product(製品開発) 提供する商品 社会環境 社会性、倫理性、 提供製品の使用価値 ②Price(価格設定) 対価の妥当性 顧 客 満 足 ③Place(流通方法) 物流、販売先 ④Promotion(販売促進) 広告、宣伝、販売支援、 営業活動、アフターサービス 生産者(提供者)の制約 資源、参入動機、 法的制約等 図5-4 マーケティングの4P §5 マーケティングの計画 マーケティングの4Pの視点から施策を計画、実施するに当たっては、販売ターゲットの設定 と施策の再検討(PDCAサイクル)が望まれる。 【解説】 図5-5は販売ターゲットの例を示す。商品の使用者(販売ターゲット)を明確にし、彼らの使用 状況や購入状況等を検討することで、より有効な施策を検討、実施することができる。 また、実行した施策をきちんと評価、反省したうえで次の施策を実施することで、より有効性の高 い施策を実行することを心がけることが望ましい。 供給する商品の利用者像(販売ターゲット)を明示し、どんな要望や使用方法、購入方法があるの かなど、「マーケティングの4P」の視点から検討する必要がある。 下水汚泥の建設資材化では、ターゲットは、一般消費者(住民)なのか、建設会社なのか、売りた い製品は社会性を重視するのか量販性を重視するのか、売るものは原料なのか製品なのかなどを明確 にした上で「マーケティングの4P」の視点から検討する必要がある。 -254- (社会性) 安全性と 環境問題等 経済性のある商品 社会貢献性のある商品 (建設会社) (一般消費者) 経済性と 流行している商品 需要の高い商品 使いやすい商品 (量販性) 図5-5 販売ターゲットの設定例 図5-6は、施策の再検討を繰り返し行うPDCAサイクルである。 計画(P)を立てたら実行(D)する。資材化事業において、ここまでは行われることが多い。し かし、次の施策を行うためには、確認(C)をして施策を評価し、2策目を同じにするか変更するか の対策(A)を変更するしないに係らず、定期的に行うことが重要である。 これらが行われることによりマーケティングの手法が完成する。 Plan Plan Plan (計画) (計画) (計画) Action Do Action Do Action Do (対策) (実行) (対策) (実行) (対策) (実行) Check Check Check (確認) (確認) (確認) (1策目) (2策目) (3策目) 図5-6 施策の再検討(PDCAサイクル) <計画は調査・技術開発、実行は事業化、確認は事業評価・見直し、対策は事業・施策変更と読み替 えられる> -255- §6 行政の商品づくり 下水道事業管理者が負うべきリサイクル社会への貢献として、下水汚泥の有効利用を率先して 実施することが求められている。また、開発した製品や原料についても社会で広く利用が可能な ものであり、安全性も保障が求められている。行政の商品づくりはこのような観点から展開され るべきである。 【解説】 下水汚泥の有効利用は、商品作りの考え方、商品のあり方について、使用価値があることに加え、 社会性や倫理性を有している必要性がある。 使用価値とは、 使用されることで価値を持つことである。 消費者が使用したいと思うような商品、必要と感じている商品、欲しいと思う商品が使用価値のある 商品である。このように商品として使用価値のあることを「商品性がある」という。 このように、商品をつくりだし、それをいかに販売するかが、マーケティングの基本的な考え方で ある。 (1)商品づくりの考え方 1)使用価値に基づくこと 国民が使用したいと思うような商品、必要と感じる商品をつくる。 2)社会性、倫理性をもつこと マーケティングの発展段階4の、社会主体のマーケティングに基づいた、社会的価値のある商 品をつくる。 3)法律上等の各種制約をクリアすること 法律など各種の制約の有無を検討することが求められる。 (2)商品のあり方 1)地域使用商品 自治体の周辺の多くの住民が使用する商品、その効用を享受できるような商品をつくる。 2)コストと使用価値 一般的に企業は出資者である株主への配当(利益分配)を組織目的とするため、場合によって は使用価値よりもコストを重視する場合がある。しかし、行政は納税者(国民)への良好な社会 環境を提供することが組織目的として重視されるため、どちらかを選択せざるを得ない場合には、 コストよりも使用価値を重視した方がよい。 3)流行商品よりスタンダードな商品 商品のライフサイクルが短い流行性のある商品ではなく、ライフサイクルが長いスタンダード な商品づくりが望まれる。ライフサイクルが長い商品ほど、より多くの国民がその商品の使用価 値を享受でき、生産期間が長いほど技術改革等によるコスト低下が進みやすい。利用価値を高め るための改良がより進められるからである。 -256- §7 下水汚泥利用製品のマーケティングの進め方 下水汚泥利用製品のマーケティングを行うとき、その製品の範囲、マーケティングの進め方、 利用量の推計と見通し、利用量の考え方を検討しておくことが望ましい。 【解説】 (1)利用量の推計と見通し 利用量に基づいた設備投資を実施するためには、正確な年間利用量と将来の推移を推計すること が大切である。また、息の長い商品づくりのために、将来的に利用量の増加が期待される商品であ ることが望まれる。利用量が掌握できたら、その利用量に合わせた生産計画や販売計画をたてるこ とで、より正確な投資規模を掌握することができる。 (2)利用量の考え方 利用量は固定的利用と流動的利用に分けて考えることができる。 将来の利用量を見通す場合には、将来の固定的利用量の変動要因を見極め、流動的利用が将来ど の程度固定化するかを見極める。 ③販売計画 ②生産計画 ①利用量の推計 図5-7 利用量の考え方 また、固定的利用量の拡大や流動的利用の固定化を促すような商品開発や価格設定、流通方法、 販売促進を実施することで、その商品の利用量の安定や増加を目指す姿勢が望まれる。 下水汚泥製品の場合、供給する原料の質や量をコントロールすることが難しいため、流行等に左 右されにくい固定的利用量の高い製品であることが望ましい。 ①固定的利用量 拡大 ①固定的利用量 固定化 ②流動的利用量 ②流動的利用量 ①商品開発 ②価格設定 ②流通方法 ③販売促進 マーケティングの4P 図5-8 有効利用量の概念図 -257-