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たばこ値上げのインパクト
みずほ日本経済インサイト Japan 2010/09/30 たばこ値上げのインパクト みずほ総合研究所 経済調査部 エコノミスト 松本 惇(03-3591-1414) [email protected] ~ 10 月のたばこ販売は 9 割減の可能性も ~ ○ 10 月からたばこ価格は 40%程度上昇。その前後で駆け込みと反動減が生じて個人消費や生産 に影響を及ぼす見込み ○ 試算では 10 月のたばこ販売は前月比 9 割減となる可能性も。10~12 月期のSNA個人消費 を 0.4%Pt 程度押し下げるとみられる 注目が集まるたばこ値上げの 影響 10 月 1 日からたばこの価格が大幅に引き上げられる。一本あたり 3.5 円のたばこ税増 税に加え、原材料価格の上昇分なども上乗せされ、一箱あたりの値上げ幅はおよそ 100 円に達する。国内で販売されているほとんどの銘柄が現在の価格より 40%程度引き上げ られることになる。こうした状況を受け、消費者サイドでは値上げ前に買い溜めをする動き が出ている。一方、生産者側では駆け込み消費に対応した増産の動きがみられる。 過去を振り返ると、消費税率の引き上げ(1997 年 4 月)、たばこ税引き上げ(1998 年 11 月、2003 年 7 月、2006 年 7 月)の際には、値上げ直前に駆け込み需要、直後には駆け込 み需要による押し上げ効果の剥落と価格上昇に伴う大幅な需要減が生じている(図表 1、 2)。価格上昇によって需要が減少するのは、それをきっかけに禁煙する人や喫煙本数を 減らす人がいるためと考えられる。今回は過去の事例と比べても値上げ幅が格段に大き いため、駆け込み需要の規模やその後の減少幅も大きくなることが予想されている。 本稿では、今回のたばこ値上げが個人消費や生産に及ぼす影響について考える。 図表1 たばこ値上げ局面の比較 たばこ販売価格 (前月比) 図表2 実質たばこ消費 (前月比) 180 1997年4月 2.4% ▲17.6% 1998年12月 7.8% ▲53.0% 2003年7月 8.2% ▲63.8% 2006年7月 9.1% ▲61.3% 2010年10月 約40% - 160 実質たばこ消費の推移 (2000年=100) 98年11月/12月 03年6月/7月 06年6月/7月 140 120 100 80 60 (注)1.販売価格は消費者物価(たばこ)ベース。 2.実質消費は名目消費を消費者物価でデフレートしたもの。 3.実質消費はみずほ総合研究所による季節調整値。 (資料) 総務省「家計調査報告」、「消費者物価指数」 40 97年3月/4月 20 0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 (資料) 総務省「家計調査報告」 値上げにより駆け込み需要と 反動減が生じる見込み まず、個人消費に対するインパクトをみていこう。今回のたばこ値上げは、駆け込み需 要による押し上げ(9 月)というプラスの影響と、駆け込み需要による押し上げ効果の剥落 と値上がりによる需要減(10 月)というマイナスの影響を及ぼす。本稿では所得変数と価 格変数に加え、過去の値上げ局面に対応したダミー変数を用いて消費関数を推計し、定 量的にプラスとマイナスの影響について考えることにした。 図表 3 の推計結果をみると、過去 4 回の値上げ局面ではいずれも駆け込み需要が発 生していた。今回の駆け込み需要の大きさを厳密に推測することは難しいが、推計結果 は値上げ幅が大きくなるほど、駆け込みの規模も大きくなることを示唆している。1998 年、 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料 は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものでは ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2003 年、2006 年の値上げ時(値上げ幅は 7~9%)は、40~60%程度の駆け込みが生じ ていた(駆け込みダミーの係数値×100(%)が駆け込み需要の大きさになる)。今回の値 上げ幅は当時より格段に大きく、駆け込み需要の大きさも当時を上回る可能性が高い。 ここでは、駆け込み需要の大きさが過去の 2 倍程度(100%の駆け込み、以下ケースA)、 駆け込み需要の大きさが過去並み(50%の駆け込み、以下ケースB)であった場合の二 つのケースを想定する。 10 月のたばこ消費は 9 割減の 可能性あり ケースAとケースBにおける 10 月の落ち込みの度合いを求めよう。落ち込みの度合い を考える際には、①9 月の駆け込み需要による押し上げ効果の剥落、②値上がりによる需 要減、の二つに分けて考える必要がある。 まず、①については、駆け込み需要による押し上げ効果が剥落してたばこ消費が駆け 込み前の水準(8 月の水準)まで戻るとすれば、その大きさはケースAで▲50%程度、ケ ースBでは▲30%程度となる。一方、推計結果によると、たばこ消費の価格弾性値は▲ 0.96 であり、1%の値上がりによってたばこ消費はおよそ 1%減少する計算となる。今回の 値上げ幅がおよそ 40%であることを踏まえれば、②については 40%程度の落ち込みにな るとみられる。したがって、10 月のたばこ消費の落ち込みは、ケースAの場合は▲90% 程度(①の要因で▲50%、②の要因で▲40%)、ケースBの場合が▲70%程度(①の要 因で▲30%、②の要因で▲40%)と、いずれのケースにおいても過去 4 回の局面をはる かに上回る急激な減少になると試算される。 たばこ要因で 10~12 月期の 以上みてきた 9 月の駆け込み需要、10 月の落ち込み度合いを踏まえて四半期ベース SNA消費は最大 0.4%Pt押し に換算すると、ケースAにおいて、たばこ消費は 7~9 月期に約 30%増加し、10~12 月期 下げ におよそ 45%減少すると予想される。この場合、たばこ消費がSNAベースの個人消費 に占めるウェイトが 0.8%弱(※)であるため、個人消費全体では 7~9 月期に 0.3%Pt 押 し上げられる(図表 4)。しかし、10~12 月期に 0.4%Pt 程度押し下げられるとみられる。 たばこ値上げが消費に与える影響は、ネットでみればダメージの方が大きい。一方、ケ ースBにおいては、たばこ消費は7~9 月期に約 20%増加(SNA個人消費に対する寄与 度+0.1%Pt)し、10~12 月期に約 30%減少する計算となる(同寄与度▲0.2%Pt)。 (※)国民経済計算確報「家計の目的別最終消費支出の構成」によると、基準年(2000 年)時点で、 たばこ・アルコール飲料のウェイトは約 3.5%である。このウェイトを同年の家計調査報告における酒 類とたばこの金額で按分し、SNAベースでのたばこ消費のウェイトとした。 図表3 たばこ消費関数の推計結果 係数 雇用者所得 標準誤差 t検定統計量 0.44 0.46 0.95 ▲ 0.96 0.13 ▲ 7.36 * D(97年3月=1) 0.06 0.03 2.36 * D(98年11月=1) 0.46 0.02 27.30 * D(03年6月=1) 0.57 0.01 51.22 * D(06年6月=1) 0.43 0.02 25.19 * 定数項 9.37 2.54 3.69 * 価格 図表4 推計期間: 1995年1月~2010年7月 自由度修正済み決定係数: 0.684 (注)1.被説明変数は実質たばこ消費。ダミー以外は全て対数値。 2.雇用者所得=雇用者数×実質賃金。販売価格は消費者物価(たばこ) 3.*は有意水準5%で係数が有意にゼロと異なることを示す。 (資料) 総務省資料などからみずほ総合研究所推計。 たばこ値上げによる実質消費への影響 ケースA (駆け込み需要が過去の2倍) たばこ消費 (前期比%) 9月 10月 7~9月期 10~12月期 SNA消費へ の寄与(%Pt) ケースB (過去並みの駆け込み需要) たばこ消費 (前期比%) SNA消費へ の寄与(%Pt) 100 ― 50 ー ▲ 90 ー ▲ 70 ー 33 0.26 17 0.13 ▲ 45 ▲ 0.35 ▲ 30 ▲ 0.24 (資料) みずほ総合研究所作成 たばこ値上げは生産にも影響 最後に、生産への影響を考えよう。たばこの生産がたばこ消費と全く同じパスを辿ると仮 定すると、9 月のたばこ生産は前月比+100%(ケースAの場合。ケースBの場合は前月 比+50%)となる。この場合、たばこの鉱工業生産指数に占めるウェイトは 45.7/10000 であるため、同月の鉱工業生産指数がおよそ+0.5%Pt(ケース B の場合は+0.2%Pt) 押し上げられる計算になる。ただし、報道によれば、9 月のたばこ生産は例年の 2 倍程度 になっている模様であり、これは前月比+60%の増産に相当する。たばこ生産は今年の 5 月以降 7 月まで、月平均で 20%近く増加してきた。たばこメーカーは、駆け込み需要を見 越して在庫をストックしておいたとみられ、9 月の生産は消費ほどには増えなかった可能 性が高い。 一方、10 月のたばこ生産については、ケースAの場合で 90%の減産となる(ケースB の場合は 70%の減産)。この場合、鉱工業生産指数は 0.4%Pt(ケースBでは 0.3%Pt) 押し下げられると試算される。 以上のように、個人消費と鉱工業生産は 10 月からのたばこ値上げによって、7~9 月期 に押し上げられるものの、10~12 月期には 7~9 月期の押し上げ分以上の押し下げ要因 となる。みずほ総合研究所では、エコカー補助金終了の影響で 10~12 月期のSNAベー スの個人消費が 1.2%Pt 程度(詳細は、2010 年 9 月 8 日発刊のみずほ日本経済インサイ ト「エコカー補助金終了のインパクト」をご参照)、鉱工業生産も 1~2%Pt 程度押し下げら れると予測している。9 月 29 日に発表された日銀短観(9 月調査)では、足元の景況感は 改善していたものの、企業の先行きに対する見方は慎重化していた。今回のたばこ値上 げの影響はエコカー補助金終了によるダメージと比べれば相対的に小さいとみられるが、 10~12 月期の景気悪化の一因として認識しておく必要があろう。■