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Readings in Social Science I・II

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Readings in Social Science I・II
Readings in Social Science Ⅰ・Ⅱ
榎本 安吾
1.クラス活動の概要
Readings in Social Science Ⅰ・Ⅱは、日本の社会(多くは日本の社会問題)に関する新聞
記事を題材にし、新聞記事の読み・発表・討論を通じて日本語の運用能力を鍛えるとともに、
日本社会の理解を深めることを目的とし、学生の主体性を重要視したクラス活動を行っている。
クラスの運営方法は、学生の主体性を最大限に発揮できるように、毎回いわゆるゼミ形式で行
っている。毎回、発表者(1名)は課題として一週間前にクラスメートに配布しておいた新聞
記事とそれを元に自作した問題シート(新聞記事の語彙リストと記事の大切なポイントを扱っ
た読解問題や討論の元になる問いが書かれたもの)を用いて、簡単に記事の概要を説明し、他
の学生たちと質疑応答を重ねる形で日本社会の問題点を明確にし、他の外国の状況との比較も
交えながら自分たちの意見や考えを自由に述べ、最後に発表者がまとめを行う。
クラスでの活動は、新聞記事を正確に読んでいくことを主な活動とはしておらず、むしろ正
確な読みの活動を前提に、学生たちが自分の意見を積極的に発言したり、討論するのが主な活
動である。
教師の役割は、学生たちが活発に意見交換できるように補助をすることである。クラスの一
週間前に、教師は発表者が選んだ新聞記事の妥当性(日本社会の問題を扱っているか、議論の
テーマとなり得るかなど)を判断し、問題シート(語彙リストの訂正や問題の妥当性のチェッ
ク)に訂正を加える。クラスでは日本の社会問題の歴史的な背景や新聞記事を補足する情報を
説明したり、進行役である発表者が討論の筋道を見失いそうになるなどしたときに、発表者を
補助し討論が正常に行われるようにする。日本語の面では、学生たちが記事を読み間違えたり、
わかりにくいところがあった場合に説明したり、典型的な言葉の使い方を教えたりする。また、
記事構成を確認させたりする。新聞記事の読み方に関しては、コースの最初の授業を使って解
説している。
尚、クラスの性格上、小テストや定期試験はなく、コースの最後に A4 サイズ3ページぐらい
のレポートの提出を義務づけている。評価は出席・授業参加(40%)発表(20%)期末レポー
ト(40%)を基準にしている。読解力を培うコースであることを考慮すれば、今後は単語や表
現の小テストを加えるとより一層の読解力の土台が気づかれると思われるので検討していると
ころである。
2.扱ってきたテーマ
これまでクラスで扱ってきた主なテーマは、派遣労働問題、経済格差問題、輸入検疫問題、
ストレス社会の問題、教育問題(子供の教育、学校裏サイト問題)
、環境問題(自動車の排気ガ
ス問題、ごみリサイクル問題)
、高齢化社会問題、子育て問題などである。
どのテーマの社会問題も例え母語であっても基礎的な知識や問題意識がなければ議論に参加
できないものばかりであるが、学生達の興味関心に沿ったテーマであり、学生達の社会問題に
対する意識の高さを反映している。
3.対象者
対象者は、新聞記事を読むというクラス活動の基本が可能な学生に限られる。すなわち、秋
学期は IJ600(上級)IJ500(中上級)の学生を対象にし、春学期は IJ700(上級)IJ600(準上
級)の学生を対象にしている。
また、履修者は年度によって増減があるが、平均5名前後である。
尚、基本的には聴講は認めていない。クラスではどの参加者も同じ責任感と主体性が求めら
れ、隔てなく議論や討論を行えるような環境にしておきたいからである。
4.学習者の反応
学生達は自分の興味のある記事を使って発表することから、当然クラス活動に対して大変積
極的であり、非常に主体的に取り組んでいる。前述したとおり扱うテーマは今現在日本人が関
心を持っている日本社会の大問題であり、これらの問題に外国語であろうとも真正面から理解
し自分なりの意見を述べようとする学生達の姿勢は、日本語力の優劣にかかわらず、すばらし
いと言える。
学生からの評価にも、
「日本社会についての理解が深まった」
「新聞記事に慣れ、楽に読める
ようになった」など毎年好意的なコメントが多く見られる。毎週授業に参加するために社会問
題を扱った難しい新聞記事をしっかりと自宅で読み、自分なりの考えや意見を準備し、母国で
の同様の問題に関する情報を調べるという予習をこなし、クラスで議論するという密度の濃い
活動を定期的に行うことでが、学生のコメントに見られるような日本語力の養成にはっきりと
繋がっている。
5.クラスの課題
履修者が日本の社会問題に関する新聞記事が読めることが大前提であるので、学生のレベル
がこれに達していないときに、日本の社会問題について討論する活動から、より基本的な記事
を正確に読むという活動に比重を変えなければならない点と、日本の社会問題を中心に扱って
いるので、この分野に知的な関心を持たない学生を取り込みにくい、つまり履修人数を増やし
にくいという点であろう。これに関しては学生に意見も聞きながら、変えていくべきところは
変えていきたいと考えている。
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