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枝肉形質に関する育種価評価結果を用いた 黒毛和種種雄牛産

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枝肉形質に関する育種価評価結果を用いた 黒毛和種種雄牛産
〔島根畜技セ研報 44:13 ~ 15(2016)〕
【研究ノート】
枝肉形質に関する育種価評価結果を用いた
黒毛和種種雄牛産肉能力に関する経済効果推定の試み
遠 藤 治 藤 原 和 隆 桑 原 賢 治 森 脇 秀 俊1) 来 間 正 展
はじめに
まず、枝肉形質と枝肉単価との関連を調査した。
2012 年8月から 2013 年7月の間に、株式会社島根
黒毛和種の産肉能力に関する遺伝的能力評価手
県食肉公社に出荷され、全国農業協同組合連合会
法 と し て、 ア ニ マ ル モ デ ル BLUP に よ る 育 種 価
島根県本部が販売した枝肉記録のうち、瑕疵のな
(BV)推定法が確立し、本県においても年2回の
BV 評価を実施、公表している。BV は種畜選抜や、 かった黒毛和種去勢肥育牛の記録 1,019 頭を用い、
枝肉6形質を独立変数として枝肉単価との関係に
繁殖雌牛に対する交配種雄牛選定の指標として活
ついて重回帰分析を行った(表1)。枝肉単価に対
用され、一定の成果を得ている。また、コマーシャ
して有意な変動因はバラの厚さ、推定歩留および
ルでの活用として、産肉能力の高い肥育素牛を導
入するうえでの参考として用いられているものの、 脂肪交雑基準値であり、中でも、脂肪交雑基準値
が最も大きな効果を持つことが示された。
実際にどれだけの経済効果をもたらしているかは
明らかになっていない。
次に、脂肪交雑基準値と枝肉単価との関連を分析
一方、乳用牛においては、種雄牛の乳量、乳質
した。1次回帰と2次回帰の当てはめを行った結果、
の泌乳能力 BV を利用して推定した経済効果を乳
1次回帰は式:枝肉単価= 256.35 ×脂肪交雑基準値
代効果として表示し、交配する種雄牛の選定に利
+ 1325.15(p <0.001、R2=0.6121)
、 2 次 回 帰 は 式:
1、2)
用されている
枝肉単価= 63.416 ×脂肪交雑基準値 ^2 + 1533.303
。黒毛和種においても、BV をも
とに種雄牛の産肉能力を経済効果として表示でき (p <0.001、R2=0.5052)となり、R2 値の高かった1次
れば、それを用いた交配種雄牛の選定や繁殖雌牛
回帰式を枝肉単価の推定式として用いることとした。
の保留・導入が実施され、県内黒毛和種の改良や
以上の結果を踏まえ、以下の式により、BV から
生産者の売上げ向上が期待される。
期待される枝肉価格を推定した。
そこで、今回、種雄牛の産肉能力BV から経済効果
平均枝肉価格=
を金額として算定する方法を検討したので紹介する。
(A+B)×{1325.15+256.35×(C+D)}
期待枝肉価格=
種雄牛の BV を用いた枝肉価格の推定方法
{A+(B+E)÷2}×{1325.15+256.35×
枝肉価格は、枝肉重量に枝肉単価を乗じて算出
(C+(D+F))÷2}
される。BV を用いて枝肉価格を推定する場合、枝
A:基準年における枝肉重量の全平均
肉重量の期待値は枝肉重量 BV から直接的に算定
B:島根県内供用中雌牛の枝肉重量 BV 平均
することが可能である。しかしながら、枝肉単価
C:基準年における脂肪交雑基準値の全平均
を枝肉形質に関する BV から推定する方法は確立
D:島根県内供用中雌牛の脂肪交雑 BV 平均
されていない。そこで、枝肉6形質の BV から枝
E:種雄牛の枝肉重量 BV
肉単価を推定することとした。
F:種雄牛の脂肪交雑基準値 BV
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1)前職
- 13 -
島根県畜産技術センター研究報告 第 44 号(2016)
種雄牛の BV による経済効果の評価
実際に、種雄牛の BV を用い、前項の推定式によっ
て期待される枝肉価格を推定し、
経済効果を評価した。
BV データは、アニマルモデルに基づく島根県枝
肉成績育種価評価結果(第 35 報)3)を用いた(表2、
表3および表4)。産肉能力の経済効果は、種雄牛
BV から産子の枝肉価格を推定し、枝肉価格の全平
均からの差額(総合評価)として推計した。
その結果、総合評価の最大は 109,866 円、最小
は-133,806 円であり、243,672 円の枝肉価格差が
生じることが明らかとなった(表5)。また、総合
評価上位 15 頭の種雄牛の枝肉重量 BV および脂肪
交雑 BV のσ値を算出した結果(表6)、脂肪交雑
BV の低い種雄牛であっても枝肉重量 BV を加味し
た総合評価は上位の種雄牛が存在し、脂肪交雑 BV
が低くても経済性の観点から高評価できる種雄牛
をピックアップ可能であることが示された。
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遠藤 治・藤原和隆・桑原賢治・森脇秀俊・来間正展:枝肉形質に関する育種価評価結果を用いた黒毛和種種雄牛産肉能力に関する経済効果推定の試み
まとめ
繁殖雌牛へ交配する種雄牛の選定に際して、脂
肪交雑 BV が高い種雄牛に人気が集まり利用され
る傾向が指摘4) されている。この総合評価を交配
種雄牛の選定や繁殖雌牛の保留・導入の際、指標
の一つとして用いることで、種雄牛選択の幅が広
がり、より経済性の高い子牛を生産することがで
きると考える。
ただし、枝肉単価は社会的情勢により変化する
ことが指摘5、6)されており、推定枝肉単価の算出
にあたっては、評価に際して直近の枝肉市場成績
を用いるか、あるいは継続的に収集した枝肉市場
成績を用いることが重要であると思われる。
参 考 文 献
1) 一 般 社 団 法 人 家 畜 改 良 事 業 団. 種 雄 牛 案 内
2014 - 2 月.(2014).
2)一般社団法人ジェネティクス北海道.Dairy
Sire Directory 2014.2.(2014).
3)島根県畜産技術センター.アニマルモデルに
基づく島根県枝肉成績育種価評価結果について
(第 35 報).(2014).
4)公益社団法人全国和牛登録協会.和牛.273:
7-29(2015).
5)松本道夫ら.褐毛和種の枝肉形質に関する経済
的価値の年次変化.日畜会報,
66: 456-461(1995)
.
6)広岡博之ら.利益に基づく褐毛和種の選抜法
の検討.日畜会報,67: 886-892(1996).
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