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スポーツパフォーマンス系
スポーツパフォーマンス系 よ たに けん ご 氏 名 與 谷 謙 吾 助教 主な研究テーマ □筋電図反応時間およびMEP潜時を用いた反応課題における時間分析の検討 平成21年度の研究内容とその成果 に、①の時間は①-a:光知覚から運動野に 素早い反応が要求されるスポーツ・武道 至るまでの脳内の処理時間(Visual-motor 競技では、1/100秒の時間差が勝敗へと影 related time:VMRT)と、①-b:運動野 響するため、常に「敏捷性」や「巧緻性」 から筋に指令を伝えるまでの神経伝導時間 といった能力の向上が求められます。そこ (MEP latency:MEPL)に分けることが で、これらの能力を客観的に把握する上で、 できます。そこで、私たちは健康な成人男 反応時間を計測することは重要であり、今 性8名(本学に在籍する学生)を対象に、 後の反応時間短縮を目指したトレーニング これらの時間要素を筋電図および経頭蓋磁 の方向性を捉える上でも必要不可欠な指標 気刺激装置を用いて計測、並びに算出し、 となります。従って、私たちは光刺激を合 TTTの中でどの要素がどの程度の割合を 図に素早く反応して打撃する反応課題を設 占めているのかを調査しました。また、今 定し、その時の反応時間の計測を以下のよ 後TTTを短縮する上で、どの要素をトレー うに行いました。 ニング(改善)すれば効率が良いのかを統 〔研究の内容〕 光刺激から打撃に至るまでの身体の全反 応 時 間(Total task time:TTT) の 経 過 計的手法を用いて検討しました。 〔研究の成果〕 1)TTTの平均は363.8±31.2㍉秒(0.363 は、神経系、筋系、動作系の時間要素に区 ±0.0312秒)でした。そのうち①PMT、 分することができ、①光刺激から筋に指令 ②MT、 ③ATの 時 間 は181.1±31.4 ㍉ が伝わるまでの時間(神経系:pre-motor 秒、47.3±19.0 ㍉ 秒、133.0±12.8 ㍉ 秒 time:PMT) と ② 指 令 を 受 け た 筋 が 収 であり、TTT全体におけるこれらの要 縮 す る ま で の 時 間( 筋 系:Motor time: 素の割合は約5:2:3で、神経系の割 MT)、そして③最終的に筋が収縮して関 合が多いということが観察されました 節が動き、課題を終了するまで時間(動作 ( 図 1)。 さ ら に、PMTの う ち、 ①-a: 系:Action time:AT)を含みます。さら VMRTと ①-b:MEPLに お い て は169.8 ±31.4㍉秒、13.8±1.4㍉秒であり、ま られるポイントであることを意味しま た、PMT全体の割合に置き換えると約 す。 9:1となり、神経系の中でも脳内の処 理時間(VMRT)が最も多くを占めて TTT (䊚䊥⑽) いることが示唆されました(図1)。 500 400 300 r=0.91 P<0.01 200 100 100 150 200 250 300 VMRT (䊚䊥⑽) 図2 全反応時間(TTT)と視覚-運動関連時 間(VMRT:脳内の処理時間)の相関関 係 図1 身体における全反応時間(TTT)を100% とした際の各時間要素の時間比率 これからの研究の展望 本研究の結果を踏まえ、更なる反応時間 2) 次に、今後のTTTの改善に対する要 短縮を目指す上で、脳の処理時間をいかに 素を検討するために、相関分析、並び 短縮させるかが今後の課題になるというこ に重回帰分析を行いました。その結果、 とが示唆されました。脳においては、トレー TTTとその時間要素(VMRT,MEPL, ニングによって様々な変化を示す(血流動 MT,AT) に お け る 相 関 関 係 で は、 体や活動領域が変化する)ことが報告され TTTとVMRTとの間のみに高い相関関 ており、それは、時間的な因子においても 係が見られ、統計的にも有意に高い値を 例外ではないと思います。そのため、これ 示しました(図2)。また、TTTその時 からの研究の展望は、脳に焦点を当てたト 間要素との間で重回帰分析を行い、標 レーニングを考案し、トレーニング実施に 準偏回帰係数を求め、目的変量(TTT) よってどのように反応時間が変化するのか に 対 す る 説 明 変 量(VMRT,MEPL, を調査していこうと考えております。最後 MT,AT)の影響度を検討したところ、 に、本研究に参加していただいた被験者に VMRTが約0.97と最も大きい傾向が観 おいては、既に長年のトレーニングを積ん 察されました。 できた競技選手であり、筋力トレーニング つまり、これらの分析結果は、VMRT 等に対する反応時間短縮への効果が飽和状 がTTTの遅速を左右する重要な要素で 態にあるといった推察を含め、これらの結 あり、今後、トレーニングの介入が求め 果は、その被験者の特性に依存したもので あることを考慮しなければいけません。し かし、本実験の測定は非競技者(一般人) に対しても応用が可能であるため、この先 の研究活動においては、前者の展望に加え、 非競技者の測定も行い、両者の違いを調査 し、そして、その結果を基に非競技者への 反応時間短縮プログラムの作成も行ないた いと考えております。