Comments
Description
Transcript
赤外線画像モニターに基づくエンドミル加工における
論 文 赤外線画像モニターに基づくエンドミル加工における加工能率の向上 新堂正俊*1,児玉紘幸*2,廣垣俊樹*3,青山栄一*3 Improvement of the Process Efficiency for End-mill Processes by an Infrared Imagery Masatoshi Shindou, Hiroyuki KODAMA, Toshiki HIROGAKI and Eiichi AOYAMA 本研究では,現場で比較的容易に加工状態を診断する手法として,赤外線サーモグラフィーの画像の分析によ るエンドミル加工時の工具温度のモニタリング手法に取り組んだ.主な工作物としてステンレス鋼の中でも難削材に 分類される耐熱鋼 SUS310 を対象とし,工具の熱容量の違い,クーラント条件の違いとしてドライ加工および MQL 加工の比較,単位時間当たりの切削除去能率の違いと加工時のエンドミル工具温度の関係を考察した.また画像 から精度の高い工具温度を推定するために,エンドミル工具表面の放射率の特性と画像診断時の設定方法につ いても検討した.その結果,赤外線サーモグラフィー画像情報を活用することで,加工能率の向上策が見いだせる ことが判明した. Key words : end-milling, infrared imagery, tool temperature, stainless steel, material removal rate, monitoring 1.緒 言 切削点に近い箇所の温度が計測できる長所があるが,や 近年,切削工具用の素材や工具にセラミックス質の薄 はり現場で容易に導入できるレベルには達していないよ 膜をコートする技術の発展により,加工の現場において うである.したがって,加工技術の開発現場で容易に切 難削材の除去加工に関する技術開発にニーズが増大して 削温度をモニターして,改善の指針を得るための手法の きている.したがって,耐熱鋼などに対する除去加工の 開発が求められている. 技術開発が益々重要になるものと考えられる.除去加工 そこで著者らは,赤外線サーモグラフィを用いた赤外 の中でも切削加工においては,一般に難削性を評価する 線画像による加工現象の診断手法を提案し,マイクロド 指標として,①切削力,②切削温度,③被削材の延性, リル加工においてドリル工具の温度 5)および工作物の穴 1) ④切り屑処理性などが重要とされている .そのため切削 周辺の温度6)を解明して,加工条件の設定に有効な手段に 加工の研究開発の現場では,指標になる物理量として加 なることを示した.本報では提案手法のエンドミル加工 工中の切削力や切削温度を手掛かりにして加工条件や方 の状態診断への応用を試みる.その最初の段階としてエン 法を探索する場合が多い.切削力のセンシングに関して ドミル工具表面の放射率の特性,工具の直径の違いによる は,従来はひずみゲージ式ロードセルなどを応用した場 熱容量の差,加工時のクーラント条件の違いによる影響, 合が多く,検出感度,応答性などに多くの課題が残って さらに単位時間当たりの除去能率(Material Removal いた.しかしながら,近年は圧電式のセンサーの普及に Rate:MRR)との関係を調べ,加工能率の向上のための指 より,比較的容易に十分な検出感度および応答性を確保 針を検討したので結果を報告する. したセンシングとその評価が可能になってきた. 一方で,切削温度のセンシングに関しては熱電対を用 いる従来からの手法が主であり,メーカの研究開発の現 2.実験条件および装置 2.1 エンドミル加工条件および工作物 場で容易に評価することが難しい状況にある.さらに赤 使用した工作機械は,たて型マシニングセンタ(主軸テー 外線センサーを用いた切削温度の計測技術としては,あ パ BT-30 番/最高回転数 20,000rpm)で,その主軸にスプリン る測定面の1点に着目して二色放射温度計や放射温度計 グコレットタイプのホルダーにてエンドミルを保持した.エンドミ を用いた工具逃げ面の計測例 2)-4) などが提案されており, ル工具(OSG 社製 WXL-EMS)は,4 枚刃,ねじれ角 30°, TiAlN コートを用いた.工具直径は 6mm および 10mm である. *1 ㈱山本金属製作所:〒547-0034 大阪市平野区背戸口2丁目4-7 Yamamoto Metal Technos Co., Ltd. *2 同志社大学大学院生:〒610-0394 京都府京田辺市多々羅都谷1-3 Doshisha University *3 同志社大学理工学部:〒610-0394 京都府京田辺市多々羅都谷1-3 Doshisha University 工具直径に対する工具の突き出し長さの比は 3 とした. 工作物は材質 JIS・SUS310 鋼(寸法 100×100×50mm)とし, マシニングセンタのテーブルに設置した.工作物の1辺を1パ スとして,実験における工具中心の切削長は 100mm/パスで ある.ステンレスの中でも,SUS310 はニッケルが 20%程度含ま れるため,耐熱鋼であるニッケル基合金に近くエンドミル加工 における難削材の一種と考えられる.クーラントは,加工後の (上視図) 切り屑の再巻き込みを防ぐために圧縮空気を吹き付けるドラ イエアー法,環境対応技術として着目されている切削点に最 θ=150° 小限の植物油を供給する MQL 法(潤滑油;ブルーベ LB-1 工作物 供給量 6cc/h)を用いた.主な加工条件を表1に示す.現場 ω における条件を標準とし,工具カタログにデータマイニングを θ 適用する手法 7)で算出される条件(表中の Mined 条件)も用い た.用いた条件を表 1 に示す. エンドミル 表1 エンドミル加工条件 Mined 標準 切削速度(m/min) 82 45 送り量(mm/tooth) 0.04 0.05 軸方向切り込み(mm) 8 12 径方向切り込み(mm) 0.6 0.6 MRR (cm3/min) 3.3 3.4 1500 mm サーモグラフィ エンドミル 工作物 2.2 サーモグラフィによる赤外線熱画像の取得方法 図 1 は,エンドミル加工プロセスを赤外線サーモグラフィで モニターするための配置図である.実験時はドアを閉め,カ バーの隙間から画像を取得するようにして安全性に配慮して いる.エンドミル加工の側面切削(X-Y 平面内でダウンカット サーモグラフィ 時)を対象とした.使用したマシニングセンタは X 軸,Y 軸テー ブル移動型であるので,X-Y 平面内の運動による加工にお 図1 赤外線画像の取得のための配置図 いて,エンドミル工具は回転のみで移動していない.赤外線 画像は工作物の進行方向の法線に対して 150°方向から赤 外線サーモグラフィで撮影した.撮影の鉛直方向(Z 方向)の 高さは,エンドミルと同一(真横)とした.撮影に使用したサー モグラフィは NEC Avio 赤外線テクノロジー社製 H2640 で,温 度分解能は 0.03℃,2 次元マイクロボロメータ 640×480 画素, 検出波長 8~13μm,最小空間分解能 0.18mm である.エンド ミルから 1.5m の撮影距離における空間分解能は 0.9mm 程度 で,15 枚/s の連写にて1パス加工を記録した. 左辺は単位長さ当たりの単位時間の熱エネルギの変化で, 右辺は単位長さ当たりの表面からの伝熱量である.エンドミル 加工は断続切削であるが,刃数が 4 枚と多く,またエネルギ ー的な非定常伝熱の現象に比べて十分にエンドミル回転数 が高いので全周のモデルである程度近似できるものと考えら れる. 式(1)の微分方程式を解き,初期条件として,t=0 で T= T0 と すると,左辺を無次元温度として 3.エネルギー的非定常熱伝導のモデル 物体の伝熱問題の中でも,熱電対などの応答性を解析す る場合など対象物体の内部における温度分布は無視できる もの(物体内部の非定常性は無視)として考える問題は熱エ ネルギー的非定常伝熱のモデルである.小さな球や細い円 柱が流体の中に入り,流体から加熱または冷却される場合な どである 8). ここで無限長の円柱について考える.その密度をρ,比熱 を C,外部との熱伝達率をα,円柱の初期温度を T0,急激な 変化を想定してステップ応答における外部ステップ温度 Ts と する. T Ts 4α exp( t) T 0 Ts ρCd (2) と表される.したがって,Tm=ρCd/4αとすると, T=Ts+(T0-Ts)exp(-t/Tm) (3) となる.ここで Tm は一次遅れ系の時定数で,この場合は工具 直径 d,すなわち熱容量に比例する関係にある. 4.実験結果および考察 4.1 エンドミル工具表面の放射率の設定方法 ρC ( πd dT )( )=π dλ(Ts - T ) 4 dt (1) 工具の表面の放射率εの設定が,モニター温度の精度に 大きな影響を与える.放射率は,対象物の組成,表面性状 (表面粗さなど),温度に影響される.しかしながら,対象物の 超硬エンドミル(ノンコート) ε=0.28 400 実験用 ε=0.43 TiAlNSi コートエンドミル ε=0.32 10mm 図 2 エンドミルの放射率の測定結果 最高温度 ℃ TiAlN coating D6mm,S2400rpm,Dry 350 300 D10mm,S1450rpm,Dry 250 200 D6mm,S2400rpm,MQL 150 100 D10mm,S1450rpm,MQL 50 工作物 :SUS310 工具直径 :φ10 切削速度:45m/min 送り量 :0.05mm/tooth 軸方向切り込み:20mm 径方向切り込み: 1mm クーラント: dry 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 時間 s 図 4 エンドミルの最高温度と時間の関係 って,極微量でも潤滑油を供給してその皮膜を工具表面に形 成させるような加工法を対象にする場合,その潤滑油皮膜の エンドミル 影響も考慮した放射率の設定が必要であることがわかった. 加工面からの反射像 最高温度点 4.2 熱画像と工具の温度 撮影した熱画像の例を図 3 に示す.1パスの加工の終了間 近の画像で,切り屑の飛散を含め,エンドミル工具および工 作物面の情報も同時に取得可能であることがわかる.しかし 図 3 エンドミル加工時の赤外線熱画像の例 ながら,それぞれの放射率が異なるため,単純に画像から同 時にそれぞれの温度解析をすることは難しい.特に加工面は 相変態や酸化膜の生成などがなければ,加熱雰囲気中に対 光沢面になるために表面の放射率が低く,そのままの熱画像 象物(エンドミル工具)を保持して校正した値で十分な場合が では十分な S/N 比を達成することはできない可能性が高い. 多い.そこで本報では 80℃に加熱して校正した放射率を採 すなわち,図中においても昇温したエンドミルからの高い赤 用する. 外線エネルギーが,光沢の加工面に反射している様子がわ 図 2 に,ノンコート超硬合金のエンドミル,実験に使用した かる.光沢面の放射率が極めて低い(一般に 0.2 以下)ことを エンドミル,難削材用に市販されている TiAlNSi コートのエン 考慮すると,当該部のほとんどはエンドミルの反射像に起因 ドミルの放射率を示す.超硬合金の表面は銀白色で極めて する熱画像である可能性が高い.逆に,加工面に写るエンド 低い放射率であることがわかる.一方,AlTiN や TiAlNSi コー ミルの反射像や加工面自体,切り屑などにおいても,それぞ トはグレー色に近く,その表面の放射率が高いこともわかる. れの放射率の変化を考慮しながら評価を遂行すればそれら 表面の放射率が低いと,取得した熱画像に外乱となる撮影環 に関する多くの情報が取得できることもわかる.しかしながら, 境の周辺からの反射赤外線エネルギーの割合が高くなり,物 本報においてはエンドミルの温度の方に着目して考察を遂行 体の真の温度の換算精度が下がる(S/N 比の確保が難しい). する. したがって表面の放射率が高い方が,赤外線サーモグラフィ 4.3 エンドミルの最高温度について による温度計測に適している.近年,工具メーカの工具コート 図 4 は1パス加工中のエンドミルの最高温度の変化を示す. 技術の進歩は目覚ましく,それらのコート面はグレー系の色を 工具直径を変化させた場合およびクーラントの条件をドライお 示している場合が多い.したがって,最新の工具において本 よび MQL にした場合を合わせて示してある.どの場合も,加 手法の適用が容易である可能性が高いこともわかる. 工開始時は室温(20℃)であるが,加工が進むにつれて温度 次に,金属面等に鉱物性の潤滑油を薄く塗布だけで,表面 が上昇し,ある値で熱平衡に達して収束値を示すことがわか の放射率が高くなることが判明している 9).そこで MQL 時を想 る.すなわち,最高温度は一次遅れ系に近いモデルで表され 定して,2.1 節の植物性の潤滑油をエンドミルに薄く塗布する ることが予想される. と,超硬合金,AlTiN,TiAlNSi コート面はそれぞれ放射率ε 工具直径の違いの影響をみると,ドライの場合も MQL の場 =0.6,0.8,0.6 になった.すなわち,放射率の向上は 0.3~0.4 合も,工具直径が小さな 6mm が 10mm より高い温度を示して 程度あり,無視できないレベルであることがわかった.したが いることがわかる.表 1 に示すように,本実験は工具直径に関 次に,クーラント条件の違いをみると,MQL を用いた場合に 加工開始 加工終了 おいて工具直径が 6mm の場合で 360℃から 220℃,工具直 径が 10mm の場合で 250℃から 130℃に最高温度の収束値が 蓄熱により昇温 低下している.エンドミル表面の薄い潤滑皮膜により摩擦係 一定温度に収束 数が低減し,加工時の発熱量が抑えられているものと考えら れる.放射温度計を用いた工具逃げ面の計測結果でも, MQL により 100℃程度の温度の低下が示されており 4),妥当 なレベルであると考えられる.また本工作物のエンドミル加工 においては,ドライ加工に比べ MQL を用いると工具の寿命が 220℃ エンドミル (可視画像) 300℃ 330℃ 赤外線画像 非常に伸びることが経験されているが,工具の温度が大きく 下がることが大きな要因であることも判明した. 工具温度の上昇は,工具の母材の硬さ低下やコート皮膜の 酸化反応の原因となる.その結果,工具の寿命の低下する場 図 5 エンドミルの表面温度の変化(ドライ,直径 6mm) 合が多い.サーモグラフィによる熱画像からの最高温度は切 削点の温度を直接測定するものではないが,切削点における 工具への入熱量の評価は可能と考えられる.また一方,工具 の熱容量の差による温度の変化も十分にモニター可能である こともわかる.すなわち同じ切削速度であっても,工具の直径 やその他の形状の違いにより切削温度が変化するが,そのよ うな場合についても評価が可能であることがわかる. 4.4 エンドミルの温度分布の変化について 図 5 および図 6 は,図 4 に示す中で,直径 6mm でクーラン ト条件がドライの場合のエンドミルの温度の変化を示す.図 5 には可視画像によるエンドミルの像,および最高温度とその 位置も合わせて示す.図 6 には,それぞれの時間における温 度とさらに熱平衡に達して最高温度が収束した状態における 温度分布も合わせて示す. 図 6 エンドミルの表面温度の分布の変化 (ドライ,直径 6mm) 図 5 より,工具の切れ刃と工作物が接する加工点はエンドミ ルの右下であり,その付近で相対的に高い温度を示し,最高 温度を示す位置はほぼ一定であることがわかる.軸方向切り 込みが 12mm(工具直径の 2 倍)であるが,エンドミル下面から 9mm 程度までの温度上昇が大きく,また軸方向への温度勾 配は小さいことがわかる.逆に 9mm 付近より上部では,熱流 速がエンドミルシャンク部を伝わり,ホルダーコレットからホル ダー側に熱拡散して,軸方向に温度勾配が大きいことがわか る.シャンク側への熱拡散を利用して温度を低下させる手法 が考えられるが,基本的に軸方向切り込みを小さくすることに なる.軸方向切り込みは加工能率に影響するため,両者のバ ランスが難しいこともわかる. 図 6 より,最高温度を示す点を含み底面に沿った方向の温 度分布をみると,エンドミルの右側面から 1mm 程度中心に向 かった付近で最高温度を示していることがわかる.また加工の 図 7 エンドミルの表面温度の分布の変化 進行により温度が上昇するが,その温度分布はほぼ一定であ (MQL,直径 6mm) ることもわかる.エンドミルの底面から 9mm 程度までは軸方向 の温度勾配も小さいことを考慮すると,この付近は蓄熱作用 係なく切削速度を基準にして加工条件を設定している.また により昇温していることがわかる. 送り量,軸方向および径方向も同様の値に設定している.す 図 7 は,クーラント条件が MQL の場合におけるエンドミル表 なわち,加工時の発熱量は工具直径に関わらずほぼ一定に 面の温度分布の変化(図 6 と同様のエンドミル表面位置にお なると考えられる.したがって,この場合の工具直径の違いに ける)である.図 6 および図 7 を比較すると,最高温度の絶対 よる最高温度の差は,主に工具の熱容量の違いに起因する 値は異なるが,最高温度を示す位置は一致しており,また横 ものと考えられる. 軸に対する温度分布もほぼ同じ傾向にある.したがって,熱 収支は異なるが,ドライも MQL も同様のモデルで扱えるものと 5 考えられる. 4 温度 T0 を 20℃(室温),温度 Ts を収束温度として,その温度 4.5 エネルギー的非定常熱伝導のモデルによる考察 時定数 s Tm は一次遅れ系の時定数であるので,式(3)において初期 上昇の 63%および 87%に達するまでの時間が Tm および 2 Tm ドライ を表す.その関係を図 4 より調べると,モデルのそれぞれの時 3 定数が求まる. 時定数を調べた結果を図 8 に示す.図より,クーラント別に 2 みれば工具直径 d に比例して時定数が増大する傾向にあり, MQL 理論式と一致する.その一方で,クーラント条件がドライの場 合と MQL の場合で絶対値が異なっている.その理由は,エン 1 ドミル表面の薄い潤滑皮膜に起因するものと考えられる.すな 0 わち,潤滑被膜の有無によりエンドミル表面と大気中との強制 0 2 4 6 8 10 対流熱伝達の違いが生じることや,被膜に蓄熱作用がある 12 9) ことなどが複雑に影響していると考えられる.しかしながら,ク 工具直径 mm ーラント条件(エンドミルの表面状態)が同一ならば,時定数 は工具直径 d に比例することがわかる. 図 8 工具直径と時定数の関係 図 9 は,式(3)を用いてエンドミルの最高温度を予想した結 果である.時定数の関係は,クーラント条件別に適用する必 400 要があることが判明したので,ドライ加工の場合のみに適用し た例を示す.図 8 における時定数の平均値を用い,それぞれ 最高温度 ℃ 350 D6mm,S2400rpm,Dry 300 Tm は 2s,3.7s とした.図 4 のドライ加工の場合のデータと比 250 較すると,両者は良く一致することがわかる.したがって,工 200 具直径の違いによる工具の蓄熱および昇温の差をモデルに より説明できることがわかった.すなわち,切削速度,送り量, D10mm,S1450rpm,Dry 150 軸方向切り込み,径方向切り込みが同じであっても,工具直 100 径(工具形状)の違いによる熱容量の差で工具の温度が異な 50 ることがわかった.したがって,そのような場合には工具寿命 0 も変化することが予想され,切削条件の決定に際しては,工 0 2 4 6 8 10 時間 12 14 16 18 20 s 具の温度のモニターが重要になることもわかった. 4.6 単位時間当たりの切削体積と温度の関係 図 9 エンドミルの最高温度の予想値と時間の関係 切削加工条件の設定において,切削速度の設定が極めて 重要な因子である.そこで表1の条件において,切り込みおよ 最高温度 ℃ 切削条件の違いによる温度差 MQLの温度抑制効果 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 び送り量は一定にして,それぞれ切削速度(主軸回転数)を 1/2 および 2 倍にした場合のエンドミルの最高温度をモニター した.一方,現場においては単位時間当たりの除去体積 (Material Removal Rate:MRR)が加工能率の重要な因子 標準 (Dry) Mined (Dry) Mined (MQL) 曲線が交差する点の前後では より優位な条件を選択すること が重要 2.0 4.0 MRR cm 6.0 直径が 6mm の場合の結果を図 10 に示す. 図 10 より,MRR が増大すれば温度が上昇する傾向にある 標準 (MQL) 0.0 である.そこで,モニター温度と MRR の関係を調べた.工具 8.0 3/min ことがわかる.しかしながらクーラント条件別でみると,ドライの 場合は MRR が小さい場合には表 1 の Mined 条件で温度が 低いが,MRR が大きくなると Mined 条件が次第に標準条件 の温度に近くなることがわかる.MQL の場合も,MRR が小さ い場合は Mined 条件で温度が若干低いが,MRR が大きくな ると逆に標準条件より高い温度を示すことがわかる. また MRR が同一であっても温度が異なることがわかる.したがっ て,モニター温度を参考にしながら MRR を考慮すれば,加 工能率と工具寿命の両者の向上を目指すような条件の探索 図 10 単位時間当たりの切削体積 MRR と温度の関係 ができる可能性があることがわかる.以上より,本手法は加工 条件の設定において有効であるものと考えられる. 6.参考文献 1) 5.結 言 赤外線サーモグラフィを用いた赤外線画像によるエン 2) ドミル加工現象の診断手法において,工具表面の放射率 3) の特性,工具の直径の違いによる熱容量の差,加工時の クーラント条件の違い,さらに単位時間当たりの除去能 4) 率とモニター温度の関係について考察し,以下の結果を 得た. (1)難削材向けの最新の工具コート面はグレー系の色を示し ている場合が多く,そのような面は表面の放射率が高いた めに本手法の適用が容易な場合が多いと考えられる. (2)クーラント条件が MQL の場合,極微量でも潤滑油を供給し 5) 6) 7) てその皮膜を工具表面に形成すると,表面の放射率が変 化するため,その条件における校正が必要である. (3)同一の加工条件であっても,エンドミルの直径の違いなど 8) により工具の熱容量が変化すると,工具の温度も変化する が,そのような場合についても本手法でその変化を十分に 評価が可能である. (4)エネルギー的非定常熱伝達モデルにより,エンドミル直径 の違いによる工具の蓄熱および昇温の現象をモデル化で きる. (5)モニター温度を参考にしながら MRR を考慮すれば,加工 能率と工具寿命の両者の向上を目指すような条件の探索 ができる可能性があり,本手法は難削材の加工現場におい て加工条件の改善の指針を探索するために有効であると考 えられる. 9) Y.. YAMANE, K. SEKIYA:An Evaluation of Difficulty in Machining Difficult-to-Cut Materials by using Difficult-to-Cut Rating, Journal of JSPE, 70,3 (2004)407(in Japanese). H. NAKAGAWA et al: Effect of Axial Depth of Cut on Tool Life in End-milling , Journal of JSPE,71,2 (2001)273(in Japanese). M. SATO et al: Measurement of Binder-Less cBN Tip Temperature in End-Milling using Thermal Radiation Pyrometer Connected by Rotary Fiber Coupler, Journal of JSPE,71,11 (2005)1437(in Japanese). A. HOSOKAWA et al: Effect of Minimum Quantity Lubrication on Turning Characteristics(Measurement of Tool Flank Temperature in Tuning using Fiber-Coupled Two-Color Pyrometer), Journal of JSPE,74,10 (2008)1080(in Japanese) T. HIROGAKI et al: Monitoring of Micro Drilling of Printed Wiring Boards by Thermography (Drilling Temperature of Printed Wiring Boards Reinforced by Aramid Fiber, Journal of JSMS,53,5 (2004)553(in Japanese) T. HIROGAKI et al: Study on CAM Systems for Printed Wiring Boards(Investigation of Drilling Tool Path Considering PWBs Temperature), Journal of JSPE,74,7 (2008)713(in Japanese) H. KODAMA et al: Knowledge Discovery from End-milling Conditions Decision Methodology Using Data-mining -Proposal of Data-mining Method Using Non-trivial Cutting Tool Parameters-, Journal of the Japan Society for Abrasive Technology, 56, 3(2012)32(in Japanese) M. TAGAWA et al: Improvement of a Two-Thermocouple Probe Technique for Fluctuating Temperature Measurement, Journal of JSME,B64,562(1998)3077(in Japanese) Y. UENISHI et al: Construction of an Estimating System of Gear Noise using Thermography, Journal of JSME,C71,703(2005)1085(in Japanese)