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セラミックロータリ工具を用いたインコネル718 の高速切削加工(PDF
46 あいち産業科学技術総合センター 研究報告 2015 研 究 ノート セラミックロータリ工 具 を用いたインコネル 718 の高 速 切 削加 工 河 田 圭 一 * 1、 児 玉 英 也 * 1 High Speed Cutting of Inconel 718 with Ceramic Rotary Cutting Tool Keiichi KAWATA *1 and Hideya KODAMA * 1 Industrial Research Center * 1 イ ン コ ネ ル 718 な ど の ニ ッ ケ ル 基 耐 熱 合 金 を 対 象 と し た 切 削 工 程 で は 、高 能 率・高 寿 命 化 を 実 現 で き る 加工技術のニーズが非常に高い。そこで、本研究では切削加工の 高能率 ・高寿命化を目標に、セラミック ロ ー タ リ 工 具 を 用 い た 加 工 実 験 を 実 施 し 、 工 具 寿 命 の 検 討 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 ① ド ラ イ 加 工 、 MQL、 OoW に 比 べ 、ソ リ ュ ブ ル 系 水 溶 性 切 削 油 剤 を 用 い た 場 合 に 最 も 工 具 摩 耗 の 進 行 が 低 減 す る 、② 工 具 の す く い 角 が -35°の 場 合 、 加 工 中 に 火 花 が 発 生 す る と と も に 、 工 具 摩 耗 は 大 き く な る こ と が 分 か っ た 。 な い ド ラ イ 加 工 、 極 微 量 潤 滑 法 (Minimum Quantity 1.はじめに 航空機エンジン部品の材料として使用されているイ Lubrication、以下 MQL)、油膜付き水滴法(Oil on Water ンコネル 718 などのニッケル基耐熱合金は、難削材とし droplet、以下 OoW)、ソリュブル系水溶性切削油剤の 4 て知られている。近年、航空機産業においても厳しい生 種類を実施し、工具摩耗を比較した。 産性の向上が求められており、工具の長寿命化や加工能 率の向上が要望されている。そこで、これらの課題を解 工具回転方向 チャック ロータリ切削工具 決するため、本研究ではこれまでロータリ切削工具によ る旋削加工を実施し、セラミック工具を用いた加工能率 向上や長寿命化の可能性について検討してきた 1) 。昨年 15° 度に引き続き、本年度においてもセラミックロータリ工 被削材 具による旋削実験を実施し、切削油剤や工具形状が工具 被削材回転方向 寿命に与える影響について調べた。 図1 加工模式図 2.実験方法 実験は、既報 1) 同様、複合加工機(オークマ㈱ MULTUS B300)を用いて行った。図1に加工模式図を 示す。ロータリ切削工具による加工では、一般的な旋削 3° 加工と異なり、円筒形の工具を同時に回転させている。 (a) このため、非切削時間が生じ、工具が冷却され工具寿命 の延長が期待できる。本実験で用いた加工条件を表1に 示す。工具材種には窒化けい素系のセラミック SX9(日 20° (b) 工具 B 工具 A 図2 ロータリ工具断面 表1 加工条件 被削材 インコネル 718(HRC45) 工具 材種:SX9(日本特殊陶業㈱) 形状:φ10mm 円筒 すくい角:3°、-20° 逃げ角:0° ていないので、被削材中心から 15°上方へ加工点をオフ 切削速度 300m/min セットすることにより、工具の逃げ面が被削材と干渉し 切込み 0.5mm 送り 0.4mm/rev 工具周速 5m/min 切削油剤 MQL(植物油 50mL/h) OoW(植物油 50mL/h、水 20mL/min) ソリュブル系水溶性(希釈濃度 6.5%) 本特殊陶業㈱)を用いた。工具研削盤を用いて丸棒から すくい面を形成し、工具とした。工具には逃げ角を設け ないようにした。工具のすくい角の影響を調べるため、 図2に示すような 2 種類の工具を作製した。加工点をオ フセットしているため、すくい角は-12°と-35°の負角 となる。また、油剤の影響を調べるため、油剤を使用し * 1 産業技術センター 自動車・機械技術室 47 具 A に比べ、逃げ面摩耗は大きくなった。加工中、工具 3.実験結果及び考察 B では加工点から火花が発生しており、非常に高温にな 3.1 油剤の影響 各油剤における工具逃げ面摩耗幅の変化を図3に示 っていることが予想される。このため摩耗の進行も速く す。実験には工具 A を用いた。初期摩耗には油剤による なったと推測される。図6に示した各工具における切り 大きな違いは見られなかった。しかし、切削距離が進む くず形態を見ると、工具 B では、細かく分断されるとと につれ、ドライ加工、OoW および MQL では急激に摩耗 もに櫛状の切りくずになっており、正常な加工が行われ が進行し、切削距離 150m 程度で加工不能となった。一 ていないと思われる。 方、水溶性油剤では切削距離に比例して摩耗が進行し、 切削距離 450m 付近で工具の一部に比較的大きな欠損が 生じたため加工を終了した。水溶性油剤以外で急激に摩 耗が進行した原因を調べるため、切削距離 50m 付近のす くい面をマイクロスコープにより観察した。その結果を 図4に示す。ドライ加工および OoW では水溶性油剤に 比べ、刃先への被削材の凝着が多く見られ、このことが 摩耗の進行を速めたと考えられる。また、MQL では刃 逃げ面摩耗幅 [μm] 他の油剤に比べ摩耗の進行は緩やかであった。しかし、 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 工具A 工具B 0 先への凝着は比較的見られなかったが、小さな刃先の欠 100 200 図5 500 切削速度の影響 水溶性 ドライ OOW OoW MQL 140 逃げ面摩耗幅 [μm] 400 切削距離 [m] 損が観察され、摩耗が速く進行した一因と考えられる。 160 300 120 100 80 60 10mm 40 20 (a) 0 0 200 400 切削距離 [m] 図3 600 工具 A 図6 (b) 工具 B 各工具における切りくず形態 4.結び 各油剤の工具逃げ面摩耗 セラミックロータリ工具を用いてインコネル 718 の切 削実験を実施した結果、以下のことが分かった。 (1) ドライ加工、MQL、OoW に比べ、ソリュブル系水 凝着 (a) 1mm ドライ加工 凝着 (b) OoW 溶性切削油剤を用いた場合に最も工具摩耗の進行 が低減した。 (2) 切削工具のすくい角が-35°の場合、加工点から火花 が発生し、工具摩耗は大きくなった。 付記 欠け (c) 凝着 MQL 図4 (d) 水溶性 すくい面の観察結果 本研究は、平成 26 年度「知の拠点あいち」重点研究 プロジェクト「低環境負荷型次世代ナノ・マイクロ加工 技術の開発」の研究成果の一部である。 文献 3.2 すくい角の影響 すくい角が工具摩耗に及ぼす影響を調べた結果を図 5に示す。油剤には水溶性油剤を用いた。工具 B では工 1)河田,児玉:あいち産業科学技術総合センター研究報 告書,3,26(2014)