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雪氷資源活用のための大規模スノーマウンド被覆材の実験と解析 Study
雪氷資源活用のための大規模スノーマウンド被覆材の実験と解析 Study on sheet covered snow mound for snow-and-ice resource utilization 長田 勉 (国策建設) 正会員 学生会員○牧野 孝男(北海道大学) 正会員 小野 孝之(国策建設) 衛藤 武志(小川テック) 正会員 佐藤 貴季(北海道大学)* 濱田 靖弘(北海道大学) 橋本 良明(国策建設) 正会員 山田 則行(新菱冷熱工業) 窪田 英樹(北海道大学) *現:ドーコン Tsutomu NAGATA*2 Takao MAKINO*1 Takaki SATOH*1 *1 *2 Yasuhiro HAMADA Takayuki ONO Yoshiaki HASHIMOTO*2 *3 *1 TAKESHI ETO Hideki KUBOTA Noriyuki YAMADA*4 *1 Hokkaido University *2 KOKUSAKU Kensetu Corporation Ltd. *3 OGAWATEC Co., Ltd. *4Shinryo Co., Ltd. Synopsis: If snow and ice can be kept and utilized as cooling sources for space cooling and food storage, they will have possibility of energy conservation and CO2 reduction. This paper shows results on field experiments on snow melting characteristics of various sheet covered snow mounds and compared thermal insulation performance. はじめに 近年,積雪寒冷地を中心として冷房負荷などのコス 用することにより,更なる雪氷冷熱の有効利用が期待 される(図-1). ト削減対策として雪を資源として活用する動きが見 本論文では,雪山を冷熱源として利用する場合に必 られ 1),2),雪氷がもつ冷熱エネルギーの存在が見直さ 要となるスノーマウンド被覆材の実験と解析を行っ れている.また, 2002 年には,雪氷冷熱エネルギーが たものである.まず,露天型スノーマウンド,及び各 新エネルギーに認定されており,現在国内に雪氷冷熱 種被覆材の実証実験と解析,融解実績について述べ, 利用施設は約 130 件あり,化石燃料の代替エネルギ 次に,それぞれの被覆材の融解特性の比較を行う. ーとして環境負荷が低い雪氷冷熱エネルギーを有効 利用することで CO2 排出量の削減に貢献できると考 えられる. 1.露天型スノーマウンド1) 本方式は雪堆積場などをそのまま利用することを 積雪寒冷地において除排雪には多大な労力と費用 想定したものである.2006~2008 年度に融解特性の が投入されているが,雪堆積場や雪山を雪氷冷熱の賦 実験を行った.本実験施設は旭川市内に所在する許容 存先ととらえ,農作物・氷の貯蔵,周辺施設への冷熱 雪量が約 40 万m3 の実際の雪堆積場(図-2)を利用し 供給源,大規模・高冷房負荷施設への冷熱源として利 ており,南東‐北西方向に約 160m,南西‐北東方向 に約 120 m の規模となっている. 図-1 スノーマウンド冷熱利用の概念図 図-2 露天型スノーマウンドの外観 上段 下段 6 損失長(m) 5 4 3 2 1 0 6/15 6/20 6/25 6/30 7/5 7/10 7/15 7/20 7/25 図-3 実測損失長(2006 年) No,0 No,30 No,55 図-6 防水遮光被覆材の外観(防水遮光シート) 7000 No,167 6000 6 5000 3 残雪量 [m ] 7 5 4 4000 3000 3 2000 2 1000 1 0 4/20 0 3月31日 4月15日 4月30日 5月15日 5月30日 6月14日 6月29日 6/20 7/20 8/20 9/20 12 10 400000 2008 2007 損失長さ(m) 350000 10/20 図-7 残雪量推移 図-4 実測損失長(2007 年) 300000 残雪量[m3] 5/20 250000 200000 150000 南面 8 北面 6 東面 4 西面 2 天頂 100000 0 4月20日 50000 0 3月15日 5月4日 6月23日 8月12日 10月1日 11月20日 5月20日 6月19日 7月19日 8月18日 図-8 実測損失長 図-5 残雪量推移(2007,2008 年) 雪山の周囲には融解水量を測定するために排水ピッ 図-3,4 に 2006 年度,2007 年度の実測損失長(図 ト部を設け,融解水をハウス内の植物栽培へとカスケ 中凡例は既報参照)を,図-5 に 2007 年度,2008 年 ード利用する.また本実験は雪山による氷ブロック貯 度の残雪量推移を示す. 蔵実験も同時に行っている. 2006 年は 6 月 15 日からの一ヶ月間で約 5 m の損失 図-7,8 に雪山の残雪量,及び損失長の推移を示す. が進んでおり,2007 年度は 3 月 31 日から測定を行 6 月 9 日時点では 3150 m3,天頂の損失長 5.98 m で い,6 月中旬までに約 7 m の損失長となった.2008 あり, 初期体積の約半分となった.6 月 30 日に 950 m3 年度は初期貯雪量約 36 万 m3 であり,11 月中旬に の雪を追加しているが, これは氷ブロックの露出を 400 m3,下旬にはほぼ全てが融解した. 防ぐためである.損失長は 9 月中旬で約 9~11 m で あった. 2.防水遮光被覆材 2) 本方式は雪山をシートで覆い防水・遮光を行ったも 3.空気膜断熱被覆材3) のである.実験は江別市で行った.図-6 に雪山外観 新千歳空港ターミナルビル南のエリアに空気膜断 を示す.高さ 16.4 m,底面 33 m×36 m,雪山総体 熱被覆型スノーマウンドを造成し融解実測評価を行 積量約 6400 m3 のピラミッド形状の雪山を造成した. った.空気膜断熱被覆材の概要を図-9 に,外観を図-10 3000 中敷シート 2 構造バルーン 1 枕バルーン 雪 3 空気層 2500 空気層 雪面 面 2000 体積[m 3] 袋シート 日射反射シート 1500 1000 図-9 空気膜断熱被覆材の概要 500 7/22 8/6 8/21 9/5 7/22 8/6 8/21 9/5 7/7 6/22 6/7 5/23 5/8 4/23 4/8 3/24 0 図-11 残雪量推移 3.0 南東 北東 2.5 北西 損失長[m] 2.0 南西 1.5 1.0 0.5 図-10(a) 空気膜断熱被覆材の外観(2009/4/8) 7/7 6/22 6/7 5/23 5/8 4/8 4/23 3/24 0.0 図-12 実測損失長 2009 年に旭川市の雪堆積場において高性能断熱被 覆材の実験を行った.被覆材の概要を図-13 に,外観 を図-14 に示す.シートはポリエチレン繊維を PE フ ィルムでコーティングしたものであり,表面はホワイ ト,裏面がシルバーとなっている.シートの中には 50 mm の断熱材(発泡材)が入っている.4 m×8 m 図-10(b)空気膜断熱被覆材の外観(2009/6/16) に示す.外装にターポリンシートを,内装に PVC シ ートを使い空気を内部に閉じ込めたもので厚さは約 300 mm である.まず,袋状になったターポリンシー ト内に構造バルーンを入れ,空気層を作り,袋シート 内に中敷シートを挟みこむ.さらに,袋シート下に枕 バルーンを敷き雪面と袋シートの間に空気層を作る. これによって空気層が3つできるため高い断熱効果 が期待できる. 図-11 に雪山の残雪量推移を,図-12 に損失長を示 す.3 月 24 日時点の体積は 2734 m3 であり,6 月 13 日には初期体積の 7 割の 1917 m3 まで融け,実験終 了月の 9 月 5 日には体積は 1154 m3 と初期体積の 4 割以上を保存することができた.また,損失長も 3 月 4 日から 9 月 5 日までで約 1.7~2.6 m と高い断熱 性を示した. 4.高性能断熱被覆材 の大きさを 1 セルとした. 水平面の実測損失長と計算値の比較を図-15 に示す. ここで計算値は図-13 の被覆材熱抵抗,相当外気温度 から熱貫流による融解量予測を行ったものである.比 較的高い再現性が得られていると言える.また,7 月 中旬までの損失長が 0.5m以下と高い断熱性を維持し た. 5.各種被覆材の融解特性 拡張アメダス標準年気象データ(旭川市)を用い, 3 月 1 日から 11 月 30 日までの各種被覆材の融解特性 の比較を行った.露天型スノーマウンド(表面堆積土 厚 2 cm)1),防水遮光被覆材(表面堆積土厚 5 cm) 2) については既報によった.空気膜断熱被覆材は図 -16 のモデルを想定している.Sawdust(Sweden) に関しては,参考文献4),5)の融解実績から推定した ものである.図-17 に各被覆材の融解特性比較の結果 を示す.11 月末までの損失長が露天型で約 22 m,防 1 反射シート (PEフィルムコーティング) 損失長[m] 0.8 発泡断熱材 0.6 実測値 0.4 0.2 計算値 0 6/7 雪 6/12 6/17 6/22 6/27 7/2 7/7 7/12 7/17 7/22 図-15 損失長,実測値比較 外気温 図-13 高性能断熱被覆材の概要 Tout 熱伝達抵抗 Rout 空気層抵抗1 R1 RN 夜間放射 日射 0 .2 I (日射反射シート考慮) シート1(袋シート上) 150mm 密閉空気層1 シート2(中敷シート) 150mm 空気層抵抗2 密閉空気層2 R2 シート3(袋シート下) 長波長ふく射 空気層抵抗3 300mm R3 aSNOW 空気層3 雪の総合日射吸収率 雪 Tsnow = 0℃ 図-16 空気膜断熱被覆材計算モデル 25 高性能断熱シート 空気膜被覆 Sawdust(Sweden) 15 防水遮光シート 10 0 3月 22 まとめ 1) 数十万トン規模の雪山を農作物・氷の貯蔵,周 5月 24 日 6月 14 日 7月 5日 7月 26 日 8月 16 日 9月 6日 9月 27 日 10 月 18 日 11 月 8日 11 月 29 日 れる結果となった. 日 5 3月 1日 長はそれぞれ 2.5 m,1 m と高い融解防止効果を得ら 露天型 4月 12 った.空気膜断熱被覆,及び高性能断熱被覆材の損失 損失長[m] 水遮光被覆材が 12 m であり,Sawdust で 6 m であ 20 日 5月 3日 図-14 高性能断熱被覆材の外観 図-17 各被覆材融解特性の比較 辺施設への冷熱供給源,大規模・高冷房負荷施 6) 各種被覆材の融解特性の比較を行った.11 月 設への冷熱源として利用することにより,更 末までの損失長が露天型約 22 m,防水遮光被 なる雪氷冷熱の有効利用が期待される. 覆材約 12 m,Sawdust で約 6 m であった. 2) 露天型スノーマウンドの融解特性に関する実 空気膜断熱被覆,及び高性能断熱被覆材の損 験を行った.初期雪量 36 万 m3 であり,11 月下旬にはほぼ全てが融解した. 失長はそれぞれ 2.5 m,1 m と高い融解防止効 果を得られる結果となった. 3) 防水遮光被覆材の融解特性に関する実験を行 った.損失長は 9 月中旬時点で約 9~11 m で あった. 4) 新千歳空港ターミナルビル南のエリアに空気 膜断熱被覆型スノーマウンドを造成し融解実 測評価を行った.3つの空気層を利用し高い 断熱効果を狙ったものであり,実測損失長は 1.7~2.6 m であった. 5) 旭川市の雪堆積場において高性能断熱被覆材 の実験を行った.日射反射率の高いシート内 部に発泡性断熱材を入れたものであり,7 月中 旬までの損失長が 0.5m以下と高い断熱性を 維持した.また,計算値との損失長の比較を 行い,比較的高い再現性が得られた. 参考文献 1) 吉添一城ら:露天型スノーマウンドを用いた無動力冷 蔵システムに関する研究,空気調和・衛生工学会北海 道支部第 42 回学術講演会論文集(2008-3),pp195~ 198 2) 吉添一城ら:シート被覆型スノーマウンドを用いた無 動力冷蔵システムに関する研究,空気調和・衛生工学 会北海道支部第 42 回学術講演会論文集(2008-3), pp231~234 3) 国土交通省東京航空局:雪を利用した環境施策, http://www.mlit.go.jp/tokyo_cab/15_cool/01_gaiyou/p df/allv7.pdf 4) Kjell Skogsberg ,Bo Nordell:Seasonal Snow Storage for Cooling Applications(2001),LICENTIATE THESIS 5) Kjell Skogsberg:Seasonal Snow Storage for Space and Process Cooling(2005),DOCTORAL THESIS