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第20回代数学若手研究会 報告集

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第20回代数学若手研究会 報告集
20th Conference on Algebra for Young
Researchers in Japan
Proceedings
Nagoya University, Japan
March 18–20, 2015
20th Conference on Algebra for Young Researchers in Japan
Dates
March 18 (Wed)–March 20 (Fri), 2015
Place
Room 509, Mathematics Building, Graduate School of Mathematics
Higashiyama Campus, Nagoya University
Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya-shi, Aichi-ken, 464-8602, Japan
Organizers
Ryo Kanda
Takahide Adachi
Yuya Mizuno
Ryo Takahashi
(Nagoya
(Nagoya
(Nagoya
(Nagoya
University)
University)
University)
University)
Edited by Ryo Kanda
June 28, 2015
2
Contents
Program
4
Yasuhiro Ishitsuka (Kyoto University)
Theta characteristics on hypersurfaces and tuples of symmetric matrices
6
Ayako Itaba (Tokyo University of Science)
On the decomposition of the Hochschild cohomology group of a monomial
algebra satisfying a separability condition
16
Ryo Kanda (Nagoya University)
Minimal atoms and minimal molecules in Grothendieck categories
22
Tamio Koyama (The University of Tokyo)
Fisher 積分の消去イデアル
27
Yoshiteru Kurosawa
(National Institute of Technology, Numazu College)
普遍推移性をもつ既約成分が二個の概均質ベクトル空間の具体例について
31
Yasuaki Miyazaki (Shinshu University)
Symmetric design の p-rank と coherent configuration の standard module
について
44
Yasuhiro Momose (Shinshu University)
擬スキーモイドの引き戻しについて
48
Yasuaki Ogawa (Nagoya University)
Generalized complexes associated with repetitive categories
51
Maiko Ono (Okayama University)
導来圏における Matlis dual と Grothendieck dual
57
Kazuki Shibata (Rikkyo University)
切断イデアルに対応する半群環の strongly Koszul 性について
62
Taiki Shibata (University of Tsukuba)
Steinberg’s tensor product theorem for Chevalley supergroups
67
Kenichi Shimizu (Nagoya University)
The Serre functor for a representation of a finite tensor category
79
Ryo Tabata (Hiroshima University)
Immanants の極限挙動
93
3
Program
March 18 (Wed)
13:00–13:05
Opening
13:05–13:45
Kenichi Shimizu (Nagoya University)
The Serre functor for a representation of a finite tensor category
13:55–14:35
Ayako Itaba (Tokyo University of Science)
On the decomposition of the Hochschild cohomology group of a
monomial algebra satisfying a separability condition
15:00–15:40
Yuta Kimura (Nagoya University)
Tilting objects in stable categories of preprojective algebras
15:50–16:30
Hirotaka Koga (Tokyo Denki University)
Rings derived equivalent to Z
16:55–17:35
Maiko Ono (Okayama University)
導来圏における Matlis dual と Dualizing dual
17:45–18:25
Tatsuki Kuwagaki (The University of Tokyo)
A noncommutative approach to Landau-Ginzburg B-brane
categories
March 19 (Thu)
10:00–10:40
Yasuhiro Ishitsuka (Kyoto University)
Theta characteristics on hypersurfaces and tuples of symmetric
matrices
10:50–11:30
Kazuki Shibata (Rikkyo University)
切断イデアルに対応する半群環の strongly Koszul 性について
Lunch Break
13:00–13:40
Satoshi Takagi (Osaka City University)
Polytopes, as algebras
13:50–14:30
Shohei Izawa (Tohoku University)
代数系の圏構造の分解を通じた代数系の分類の試み
4
15:00–15:40
Ryo Tabata (Hiroshima University)
Immanants の極限挙動
15:50–16:30
Yasuaki Miyazaki (Shinshu University)
Symmetric design の p-rank と coherent configuration の standard
module について
16:40–17:20
Yasuhiro Momose (Shinshu University)
擬スキーモイドの引き戻しについて
18:00–
Dinner
March 20 (Fri)
10:00–10:40
Ryo Kanda (Nagoya University)
Minimal atoms and minimal molecules in Grothendieck categories
10:50–11:30
Takuma Hirashima (Nagoya University)
類数が 5 で割れる 2 次体について
Lunch Break
13:00–13:40
Tamio Koyama (The University of Tokyo)
The Annihilating ideal of the Haar measure on the Special
Orthogonal Groups
13:50–14:30
Yoshiteru Kurosawa (National Institute of Technology, Numazu
College)
普遍推移性をもつ既約成分が二個の概均質ベクトル空間の具体例に
ついて
15:00–15:40
Taiki Shibata (University of Tsukuba)
Steinberg’s tensor product theorem for Chevalley supergroups
15:50–16:30
Yasuaki Ogawa (Nagoya University)
Generalized complexes associated with repetitive categories
5
Theta characteristics on hypersurfaces and tuples of
symmetric matrices
石塚裕大 ∗ (京都大学理学研究科)
June 6, 2015
本稿は第 20 回若手代数学研究会における筆者の講演を基にして、筆者の学位論文 ([11])
の結果についてまとめたものである。
1
序
筆者が研究する数論的不変式論は、代数群の表現の軌道がもつ代数幾何学的な解釈を見
出し、それによって代数幾何学的な対象のふるまいを表現論的・不変式論的立場から調べ
ていく分野である。
これまでに構成された軌道の解釈の代表例を二つ挙げる。数論的不変式論の提唱者の一
人でもある Manjul Bhargava による高次合成則である ([5])。高次合成則はいくつかの表
現の軌道を代数構造として解釈する。その一例を紹介しよう。基礎となる可換環 R と正整
数 n ≤ 5 をそれぞれ固定する。可換な R-代数であって R-加群としては n 次自由加群とな
るものを R 上の n 次環 1 と呼ぶことにする。高次合成則の一つの主張は、R 上の n 次環の
同型類を、少し付加構造を加えることで、代数群の線形表現の軌道として解釈できるとい
うものである。この対応の応用として、
「数の幾何」と呼ばれる解析数論の手法と結びつけ
ることにより、与えられた判別式以下の 5 次体の個数の近似公式が導出されている ([6])。
別の目覚ましい結果は、楕円曲線の Selmer 群と呼ばれる群の元を軌道で解釈すること
で、有理数体 Q 上で定義された楕円曲線の Mordell–Weil 群の「平均階数」の上界を導出し
たことである ([7] など)。これ以前に知られていたのは一般 Riemann 予想や BSD 予想を仮
定した上での結果のみであっただけに、これらの予想を全く仮定しないで得られたこの結
果は、数論幾何の研究者に大きな衝撃を与えた。後に Bhargava は Gross と数論的不変式
論を提唱し、超楕円曲線の Jacobi 多様体の Mordell–Weil 群へと結果を拡張した ([3, 4])。
現在は種数 3 の平面曲線の Jacobi 多様体への拡張や、基礎となる代数体を一般の代数体
に拡張が試みられている。
∗
1
[email protected]
たとえば有理数体 Q の 5 次拡大の整数環は Z 上の 5 次環である。
1
6
翻って自分の興味はというと、これらの結果に用いられた軌道と幾何的対象の対応を拡
張することにある。たとえば基礎となる体を環に変えてみたり、表現に現れるベクトル空
間の次元を増やしてみたり、あるいは幾何的対象側でちょっとした変化を加えてみた場合
に、対応を一般化することや、対応する軌道・幾何的対象の変化を観察することを目的と
している。そうした対応の一般化により、より体系的な幾何的な対象の理解を得ることで、
個々の対象についての有機的な理解を得ることが目標である。この目標が達成された暁に
は、より様々な対象の平均的なふるまいなどへの応用も期待できる。
今回紹介する対応は、学位論文 ([11]) で証明した三つ以上の対称行列の組と超曲面上の
theta characteristic (および付加構造) との対応である。複素数体上で超曲面が滑らかな平
面曲線である場合においてはこの対応はよく知られているが ([1])、今回は基礎体の性質に
まったく依存せず、超曲面も非常に一般的であるというのが特徴である。証明には theta
characteristic (の射影空間の押し出し) について、Grothendieck 双対性という幾何的な道
具と極小射影分解という環論的な道具を用いている。これは [2] で行われた議論を精密化
したものとも解釈できる。ただし現在のところ、対応の有機的なつながりを理解するため
に必要な解釈の函手性などについては十分な成果が得られていない。今後は証明手法が適
用できる範囲を拡張するなどして、有機的な理解へ向け研究を進めるつもりである。
この原稿では、theta characteristic の定義と数論的な難しさを復習し、表現を定義した
後に主定理について述べる。そのあと証明の主なギミックを解説することにする。
2
Theta characteristics
この章では表題の theta characteristic とは何かを、まず滑らかな代数曲線の場合、続
いて被約な超曲面の場合について説明する。参考文献としては、[8, Chapter 5] を挙げて
おく。[8, Chapter 5] はいくつかの曲線の theta characteristic の具体的な取扱いを中心と
しており、theta function との関係も簡単に述べられている。より幾何的な事項のまとめ
は、たとえば [9] が取り扱っている。
2.1
滑らかな代数曲線における定義
k を体とし、C を k 上の滑らかな射影代数曲線とする。C の標準束を ωC とおく。これ
は k 上定義された直線束である。
定義 1. 滑らかな代数曲線 C 上の theta characteristic 2 とは、C 上の直線束 L で自分
自身との二回テンソル L⊗2 が ωC と k 上で同型になるもののことである。
非常に素朴な定義であるが、先ほどの ωC と違って、こちらは k 上で定義された theta
characteristic があるとは限らない。いくつかの例を見てみよう。
2
この用語についての標準的な和訳はないようなので、今回は英語で書かせていただく。
2
7
例 2. C ⊂ P2 を二次曲線とする。標準束 ωC は射影平面の自己言及束 OP2 (−1) の制限
OC (−1) となり、これは確かに k 上定義される。
C に k-有理点があれば、C は k 上で P1k と同型であるから、ωC ∼
= OP1 (−2) となり 3 、
OP1 (−1) が theta characteristic となる。
しかし C に k-有理点がないと、k 上では theta characteristic が存在しない。逆も確
かめられ、C の k-有理点の存在と k 上定義された theta characteristic の存在が同値であ
るとわかる。
∼ OC
例 3. C が種数 1 の曲線である場合はまた違った意味で微妙である。標準束は ωC =
となって自明直線束であるから、結局この場合の theta characteristic は二回テンソルする
と自明になる直線束 L のことである。
C が平面三次曲線であるとき、この L の同型類はちょうど Jac(C)[2](k) の各元に対応す
る 4 。Jac(C)[2](k) は常に OC の定める点を含む。実際 OC は明らかに theta characteristic
である。Jac(C)[2](k) は高々4 元の集合なので、最大で残り 3 つ (標数 2 なら高々残り 1 つ)
であることもわかる。
C を種数 g の滑らかな代数曲線とする。C 上の theta characteristic の同型類は、あって
も高々22g 個である。実際 k を閉体としてよい。閉体上では、標数が 2 でなければちょう
ど 22g 個あり、標数が 2 でないと 2g 個以下であることが知られている。
この theta characteristic は比較的次数が低い直線束であるため、Riemann–Roch の定理を
用いても次数だけから大域切断の次元を求めることができない。実際、theta characteristic
はすべて次数が等しいが、種数 1 の場合でも自明な theta characteristic OC だけが大域切
断を持ち、それ以外は大域切断を持たないということからもわかる。そこで次のような定
義をする。
定義 4. 滑らかな代数曲線 C 上の theta characteristic のうち、0 でない大域切断が存在し
ないものを非効果的 non-effective な theta characteristic と呼ぶ。存在するものは効果的
effective という。
それぞれの場合についていくつか知られている結果を述べておこう。複素数体上では、
必ず非効果的な theta charactetistic が存在する。また g を C の種数としたとき、この同
型類は高々2g−1 (2g + 1) 個であることが証明される。このことを具体例を通じて確かめて
みる。
例 5. たとえば C が平面三次曲線の場合、自明な OC 以外の theta characteristic はすべて
非効果的である。種数 g は 1 であるから、2g−1 (2g + 1) = 3 であり、先ほど述べた通り非
効果的な theta characteristic は高々3 個であるとわかる。
3
4
この OP1 (−1) と、先述の OC (−1) とは全く異なる直線束である。紛らわしいがご容赦されたい。
種数 1 の滑らかな代数曲線 C が奇数次の k-有理的な因子類を持つなら同様である。
3
8
例 6. 種数 3 の代数曲線 C は、超楕円曲線か、平面四次曲線である。平面四次曲線の場合、
効果的な theta characteristic は二箇所で C と接する双接線、ないし四重に接する直線と
対応する。これは閉体上で 28 本ある。
一方で非効果的な theta characteristic は biscribed triangle と呼ばれる構造に対応する
ことがわかっている ([12])。これらは標数 2 でない閉体上で、36 = 23−1 (23 + 1) 個あるこ
とが知られている。両方の個数の和が 28 + 36 = 64 = 22×3 となることにも注意されたい。
超楕円曲線や平面四次曲線の場合などの theta characteristics のより詳しい記述などは
[8] を参照されたい。また大域切断の空間が 2 次元以上であるような theta characteristic
の同型類については知られていないことも多いが、それは他の文献を参照していただくこ
とにしよう。
今回の主役は、非効果的な theta characteristic である。その前に、この概念を射影空間
上の被約な超曲面に一般化しておこう。
2.2
超曲面上の theta characteristic
超曲面上の theta characteristic を導入する前に、記号をいくつか導入しておこう。これ
らはすべて連接層の複体のなす導来圏の言葉で記述される。今回は擬同型といえば、複体
の quasi-isomorphism のこととする。
n を 1 以上の整数、m を 2 以上の整数とする。この m は射影空間 Pm
k の次元として用い
m
m
ることにする。S ⊂ Pk を幾何的に被約な超曲面とし、ι : S ,→ Pk を閉埋め込みとする。
m
S の次数を n + 1 としておこう。さらに Pm
k の構造射を g : Pk → Spec(k) で表す。
Spec(k) 上の双対化複体 ω k を OSpec(k) ととる。さらに Pm
k , S の双対化複体 ω Pm , ω S を、
!
!
!
順に g ω k および ι ω Pm = (gι) ω k で定めておく。標準層 ωPm , ωS との関係は、
ω Pm ∼
= ωPm [m],
ωS ∼
= ωS [m − 1]
で表され、標準層を適当にシフトしたものが双対化層になっている。ここで ωPm ∼
= OPm (−m−
1), ωS ∼
= OS (−m − n) に注意して、擬同型
∼
c : ω S −→ OS (−m − n)[m − 1]
を一つ固定しておく。
定義 7. 幾何的に被約な超曲面 ι : S ,→ Pm
k 上の theta characteristic とは、次のような
S 上の連接層 M のことである。
• ι∗ M は Pm
k 上の、算術的 Cohen–Macaulay (arithmetically Cohen–Macaulay, ACM)
な連接層である。
• M は次元 m − 1 の純な連接層である。
4
9
• S の各生成点 η について、lengthOS,η Mη = 1 である。
• 擬同型
∼
λ : M −→ M∨ := RH omS (M(2 − m), ω S )
が存在する。
また M とこの擬同型 λ の組 (M, λ) を、ここでは単にペア pair と呼ぶことにしよう。
∼
二つのペア (M, λ) と (M′ , λ′ ) が同値であるとは、同型 ρ : M −→ M′ である定数 u ∈ k ×
について tρ ◦ λ′ ◦ ρ = uλ となることと定義する (ここで tρ は、ρ が (M′ )∨ と M∨ との間
に誘導する同型である)。
この条件のうち最初の三つ目までは見慣れない条件が並んでいるが、ここでは定義に立
ち入らない。大雑把にとらえると、滑らかな代数曲線でいうところの「直線束」の条件を、
コホモロジー的に類似が成立するような範囲で変形したものである。実際、滑らかな平面
代数曲線の場合においては、上の定義は先立つ定義と一致する。
注 8. S が幾何的に連結、特に S が滑らかな平面曲線の時には、すべての擬同型 λ は定数
倍で一致する。したがって、ペアの同値類は M の同型類と一致する。
注 9. 実は代数曲線の場合と対照的に、超曲面では閉体上でも theta charactetistic が存在
するとは限らない。たとえば滑らかな次数 4 以上の 3 次元超曲面は theta charactetistic を
持たないのである。従って以降の対応では、S としてかなり限定されたクラスが扱われて
いると考えてよい。
次に非効果的であることの定義をしよう。これは代数曲線の場合とまったく同様である。
定義 10. 幾何的に被約な超曲面 S 上の theta characteristic のうち、0 でない大域切断が
存在しないものを非効果的 non-effective な theta characteristic と呼ぶ。存在するものは
効果的 effective という。ペア (M, λ) が非効果的とは、対応する theta characteristic が
非効果的であることとする。
3
対称行列式表示と主定理
いよいよ軌道との対応について記述しよう。まずは表現を定義し、主定理を述べ、その
あと少々の応用を述べる。前節と同様、超曲面 S を取るごとに、擬同型
∼
c : ω S −→ OS (−m − n)[m − 1]
を一つ固定しておくことにする。
5
10
3.1
表現の定義と主定理
本稿で扱う表現を定義しよう。n + 1 次正方行列の空間を k n+1 ⊗ k n+1 と同一視する。こ
こには転置 σ が作用しており、対称行列の空間 Sym2 k n+1 は σ の不変部分空間と同一視で
きる。すると対称行列の m + 1 個組の空間は k m+1 ⊗ Sym2 k n+1 と同一視される。ここに
は k × がテンソルの第一成分に、GLn+1 (k) がテンソルの第二成分に作用している。具体
的には、P ∈ GLn+1 (k) と M ∈ Sym2 k n+1 について
P · M := tP M P
である。二つの作用は可換であるから、結局 k × × GLn+1 (k) の表現と思える。まとめる
と、これから取り扱う表現は、表現空間が k m+1 ⊗ Sym2 k n+1 であり、群は k × × GLn+1 (k)
である。この表現、あるいは表現空間を W とおく。
表現 W には様々な相対不変式 relative invariant 5 がある。M ∈ W を m + 1 個の対称
行列 (M0 , M1 , . . . , Mm ) だと思うこともできるが、同時に不定元 X0 , X1 , . . . , Xm を掛けて
M = X0 M0 + X1 M1 + · · · + Xm Mm
のように考えることもできる。この見方では、M は X0 , X1 , . . . , Xm の k-係数線形形式を
成分とした、n + 1 次正方行列だとみなしていることになる。
すると det(M ) は X0 , X1 , . . . , Xm の k-係数斉次式で、0 でなければ n + 1 次式である。
さらにこの式 det(M ) は、a ∈ k × と P ∈ GLn+1 (k) の作用について
det(atP M P ) = an+1 det(P )2 det(M )
となり、定数倍でしか変化しない。したがって det(M ) の各係数は表現 W の相対不変式
である。
さて、W の元 M について、(det(M ) = 0) で定義される Pm
k 中の超曲面を SM とおく。
det(M ) は定数倍を除いて軌道により定まっているから、SM は表現 W の軌道にしかよら
ないデータである。では逆に、与えられた超曲面 S ⊂ Pm
k について、SM = S となる M
は存在するであろうか? これが対称行列式表示の問題である。
定義 11. 超曲面 S ⊂ Pm
k の対称行列式表示とは、表現 W の軌道で、SM = S となるもの
を指す。
この言葉を使って主定理を述べると、次のようになる。
定理 12 ([11]). k を体、S ⊂ Pm
k を幾何的に被約な超曲面とする。するとこのとき、次の
二つの集合の間に標準的な全単射が存在する。
5
• S の対称行列式表示全体のなす集合。
群の作用が定数倍で現れるような表現空間上の関数のことを指す。たとえば 2 次正方行列全体のなす空
間に左右から GL2 (k) が作用しているとき、2 次正方行列の行列式は定数倍で変化する。
6
11
• S 上の非効果的なペア (M, λ) の同値類全体のなす集合。
序の言葉で述べると、この定理は対称行列式表示は表現の軌道であり、それらが非効果
的なペアの同値類として幾何的に解釈されることを主張している。
注 13. この対応は、固定した擬同型擬同型
∼
c : ω S −→ OS (−m − n)[m − 1]
の取り方に依存する。
特に注 8 から、次の系が導かれる。
定理 14 ([2, 10]). k を体、C を k 上の滑らかな平面曲線とする。するとこのとき、次の二
つの集合の間に標準的な全単射が存在する。
• C の対称行列式表示全体のなす集合。
• C 上の非効果的な theta characteristic M の同型類全体のなす集合。
注 15 (前史). 序でも述べた通り、この結果は限定された条件において、たびたび再発見
されている。たとえば [1] では標数 2 以外の閉体で高々通常二重点を持つ平面曲線の場合
を、[2] では標数 2 以外の体で滑らかな平面曲線・曲面の場合などを、[10] では標数がある
程度大きい滑らかな平面曲線の場合を扱っている。
[1] は Prym 多様体との関連が記述され、[10] は特に数論的不変式論の観点から考察がな
されている。そして今回の結果は、[2] の手法を用いて [2] や [10] の結果を精密化したもの
だと言い表すことができる。
3.2
定理の証明について
我々の定理は全単射を作るものであるから、それぞれの集合からもう一方への集合への
写像の構成を行い、それが逆写像になっていることを示す必要がある。しかしここでは詳
細を [11] に譲り、写像の構成のアイデアを伝えるにとどめよう。
非効果的なペア (M, λ) を取る。このとき、M が非効果的であることと、theta characteristic に課したはじめの三つの条件から、射影空間への押し出し ι∗ M について次の定理
が成立する。
定理 16. ι∗ M は次のような局所自由分解を持つ。
0
/
n
⊕
i=0
OPm (−2)
M
/
n
⊕
i=0
OPm (−1)
p
/ ι∗ M
/0
(1)
しかもこの射影分解は、函手 Γ∗ で k[X0 , X1 , . . . , Xm ] 上の次数付き加群の言葉に置き換え
ると、極小射影分解になっている。
7
12
ここで定理中に現れた言葉のいくつかを説明しておく。まず函手 Γ∗ は次のように定義
される:
⊕
Γ∗ (F) =
H 0 (Pm , F(n)) .
n∈Z
この加群には自然に Z-次数付き加群の構造が入る。関数層について適用した Γ∗ (OPm ) は
m + 1 変数多項式環 k[X0 , X1 , . . . , Xm ] に同型であり、各 Xi を次数 1 として次数付き環に
なる。すると各連接層 F について Γ∗ (F) は次数付き k[X0 , X1 , . . . , Xm ]-加群の構造が入っ
ている。
次数付き環 R = k[X0 , X1 , . . . , Xm ] は、極大な次数付きイデアル mR := (X0 , X1 , . . . , Xm )
を持ち、剰余体は基礎体 k と同型である。この条件の下で、各有限生成次数付き R-加群
H には、次数付き射影加群による射影分解
0
/ Pr
dr
/ Pr−1
dr−1
d1
/ ...
/ P0
d0
/ P−1 := H
/0
で、各 i について di (Pi ) ⊂ mR Pi−1 を満たすものが存在し、しかも同型を除いて一意的で
ある。これを次数付き R-加群 H の極小射影分解という。
複体 (1) のうちの M は、X0 , X1 , . . . , Xm の k-係数線形形式を成分とした n + 1 次正方行
列だと思えることに注意しよう。以下では複体 (1) に現れる局所自由分解の基底を適切に
固定することで、M の行列表示を対称行列に取り直すことができるということを示そう。
いま H 0 (Pm , ι∗ M(1)) の基底を取ると、これは準同型
n
⊕
i=0
OPm (−1) −→ ι∗ M
をとることに同値である。従って p が固定される。少し不器用な言い方ではあるが、中央
⊕
の ni=0 OPm (−1) の基底を固定した、と言うことにしよう。
⊕
次は ni=0 OPm (−2) の基底を固定しよう。まず擬同型 λ の存在から、複体
RH omS (M(2 − m), ω S )
は層
H omS (M(2 − m), ωS )
として表現される。複体 (1) に函手
D : H 7→ RH omPm (H(2 − m), ω Pm [1])
を用い、固定した擬同型 c や Grothendieck 双対などを用いて整理すれば
0
/
n
⊕
i=0
OPm (−2)
tM
/
n
⊕
i=0
OPm (−1)
/ ι∗ H omS (M(2 − m), ωS )
8
13
/0
(2)
という短完全列ができる (tM は M の転置行列)。
実はこの短完全列は最後の層 H omS (M(2 − m), ωS ) の局所自由分解を与えていることが
わかる。さらに λ は同型 M ∼
= H omS (M(2 − m), ωS ) を誘導する。すると H 0 (Pm , ι∗ M(1))
の基底から
H 0 (Pm , ι∗ H omS (M(2 − m), ωS ))
⊕
の基底が定まり、複体 (2) の ni=0 OPm (−1) の基底が定まることになる。固定した擬同型
⊕
⊕
c は複体 (2) の ni=0 OPm (−1) と、複体 (1) の ni=0 OPm (−2) の間の同型
n
⊕
i=0
OPm (−1) ∼
=D
n
⊕
i=0
OPm (−2)
⊕
を誘導するので、めでたく複体 (1) の ni=0 OPm (−2) の基底が得られたことになる。こう
して取った基底で M を表示すると、M は対称な行列になっていることが確かめられるの
である。
H 0 (Pm , ι∗ M(1)) の基底の取り換えは M を変化させるが、もとの M と同じ軌道の対称
行列になっていることがわかる。さらに M の軌道は S の対称行列式表示になっているこ
とも確かめられる。したがって、S 上の非効果的なペアから S の対称行列式表示への写像
を与えることができた。
逆の構成についても簡単に述べる。対称行列式表示を与える軌道の代表元 M をとり、M
を用いて単射
n
n
⊕
⊕
M:
OPm (−2) −→
OPm (−1)
i=0
i=0
を作る。この余核が ι∗ M とみなせることがわかり、また M の対称性から λ の存在がわか
るのである。
References
[1] A. Beauville. Variétés de Prym et jacobiennes intermédiaires. Ann. Sci. École Norm.
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9
14
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rings. Ann. of Math., Vol. 159, pp. 1329-1360, 2004: Higher composition laws IV:
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[12] S. Mukai. Plane quartics and Fano threefolds of genus twelve. Kyoto University.
RIMS, 2003.
10
15
ON THE DECOMPOSITION OF THE HOCHSCHILD COHOMOLOGY
GROUP OF A MONOMIAL ALGEBRA SATISFYING A SEPARABILITY
CONDITION
AYAKO ITABA
Abstract. This report is based on [IFS]. In this report, we consider the finite connected
(1)
(2)
(1)
quiver Q having two subquivers Q(1) and Q(2) with Q = Q(1) ∪ Q(2) = (Q0 ∪ Q0 , Q1 ∪
(2)
Q1 ). Suppose that Q(i) is not a subquiver of Q(j) where {i, j} = {1, 2}. For a monomial
algebra Λ = kQ/I obtained by the quiver Q, when the set AP (n) (n ≥ 0) of overlaps
constructed inductively by linking generators of I satisfies a certain separability condition,
we propose the method so that we construct a minimal projective resolution of Λ as a right
Λe -module and calculate the Hochschild cohomology group of Λ.
1. Introduction
First of all, we recall the definition of Hochschild cohomology. For a finite-dimensional
algebra A over a field k, the Hochschild cohomology groups HHn (A) of A is defined by
HHn (A) := ExtnAe (A, A) (n ≥ 0),
where Ae :=Aop ⊗k A is the enveloping algebra of A. Note that there is a natural one to
one correspondence between the family of A-A-bimodules and that of right Ae -modules.
Moreover, the Hochschild cohomology rings HH∗ (A) of A is the graded algebra defined by
!
HH∗ (A) := Ext∗Ae (A, A) =
ExtiAe (A, A)
i≥0
with the Yoneda product.
The low-dimensional Hochschild cohomology groups are described as follows:
• HH0 (A) = Z(A) is the center of A.
• HH1 (A) is the space of derivations modulo the inner derivations. A derivation is a
k-linear map f : A → A such that f (ab) = af (b)+f (a)b for all a, b ∈ A. A derivation
f : A → A is an inner derivation if there is some x ∈ A such that f (a) = ax − xa
for all a ∈ A.
• HH2 (A) measures the infinitesimal deformations of the algebra A.
One important property of Hochschild cohomology is its invariance under Morita equivalence, stable equivalence of Morita type and derived equivalence.
Let k be an algebraically closed field and Q a finite connected quiver. Then kQ denotes the
path algebra of Q over k in this paper. Let I be an admissible ideal of kQ. If I is generated
by a finite number of paths in Q, then I is called a monomial ideal and Λ := kQ/I a
monomial algebra. For a finite-dimensional monomial algebra Λ = kQ/I, using a certain
set AP (n) of overlaps constructed inductively by linking generators of I, Bardzell gave a
minimal projective Λe -resolution (P• , φ• ) of Λ in [B] (so called Bardzell’s resolution). By
using Bardzell’s resolution, the Hochschild cohomology of monomial algebras are studied in
the following papers [GS], [GSS], [FS], etc.
16
In this report, for a finite-dimensional monomial algebra Λ, we propose a method so that
we calculate the Hochschild cohomology groups of Λ under some conditions. Let Q be a
finite connected quiver and Q(i) (i = 1, 2) a subquiver of Q such that Q = Q(1) ∪ Q(2) =
(1)
(2)
(1)
(2)
(Q0 ∪Q0 , Q1 ∪Q1 ). Let I (1) = ⟨X⟩ (resp. I (2) = ⟨Y ⟩) be a monomial ideal of kQ(1) (resp.
kQ(2) ) for X (resp. Y ) a set of paths of kQ(1) (resp. kQ(2) ) and I = ⟨X, Y ⟩ a monomial
ideal of kQ. We assume that I and I (i) (i = 1, 2) are admissible ideals. Then we define
Λ = kQ/I, Λ(1) = kQ(1) /I (1) and Λ(2) = kQ(2) /I (2) . Hence Λ and Λ(i) are finite-dimensional
monomial algebras for i = 1, 2. For the monomial algebra Λ, under a separability condition
(1)
(2)
(i.e. Q1 ∩ Q1 = ∅), we investigate the minimal projective Λe -module resolution of Λ given
by Bardzell ([B]). Moreover, under an additional condition, we show that, for n ≥ 2, the
Hochschild cohomology group HHn (Λ) of Λ is isomorphic to the direct sum of the Hochschild
cohomology groups HHn (Λ(1) ) and HHn (Λ(2) ).
Throughout this report, for all arrows a of Q, we denote the origin of a by o(a) and the
terminus of a by t(a). Also, for simplicity, we denote ⊗k by ⊗.
2. The set AP (n) of overlaps and Bardzell’s resolution
In this section, following [B] and [GS], we will summarize the definition of the set AP (n)
(n ≥ 0) of overlaps.
Definition 2.1. A path q ∈ kQ overlaps a path p ∈ kQ with overlap pu if there exist u,
v such that pu = vq and 1 ≤ l(u) ≤ l(q), where l(x) denotes the length of a path x ∈ kQ.
Note that we allow l(x) = 0 here.
A path q properly overlaps a path p with overlap pu if q overlaps p and l(v) ≥ 1.
Let Λ = kQ/I be a finite-dimensional monomial algebra where I = ⟨ρ⟩ has a minimal set
of generators ρ of paths of length at least 2.
Definition 2.2. For n = 0, 1, 2, we set
• AP (0) := Q0 =(the set of all vertices of Q);
• AP (1) := Q1 =(the set of all arrows of Q);
• AP (2) := ρ.
For n ≥ 3, we define the set AP (n) of all overlaps Rn formed in the following way: We say
that R2 ∈ AP (2) maximally overlaps Rn−1 ∈ AP (n − 1) with overlap Rn = Rn−1 u if
(1) Rn−1 = Rn−2 p for some path p and Rn−2 ∈ AP (n − 2);
(2) R2 overlap p with overlap pu;
(3) there is no element of AP (2) which overlaps p with overlap being a proper prefix of pu.
In short, overlaps are constructed by linking generators of an admissible monomial ideal
I. A sequence of those generators of I is called the associated sequence of paths ([GHZ]).
For a monomial algebra Λ = kQ/I, by using the set AP (n), Bardzell determined a minimal
projective Λe -resolution (P• , φ• ) of Λ in [B].
17
Definition 2.3. Let (P• , φ• ) be the minimal projective Λe - resolution of Λ in [B]. Then,
for n ≥ 0, we set
"
Pn =
Λo(Rn ) ⊗ t(Rn )Λ.
Rn ∈AP (n)
From [B], if R2n+1 ∈ AP (2n + 1), then there uniquely exist Rj2n , Rk2n ∈ AP (2n) and some
paths aj , bk such that R2n+1 = Rj2n aj = bk Rk2n .
For even degree elements R2n ∈ AP (2n), there exist r ≥ 1, Rl2n−1 ∈ AP (2n − 1) and
paths pl , ql for l = 1, 2, . . . , r such that R2n = p1 R12n−1 q1 = · · · = pr Rr2n−1 qr .
Definition 2.4. The map φ2n+1 : P2n+1 −→ P2n is given as follows. If R2n+1 = Rj2n aj
= bk Rk2n ∈ AP (2n + 1), then
o(R2n+1 ) ⊗ t(R2n+1 ) +−→ o(Rj2n ) ⊗ aj − bk ⊗ t(Rk2n ).
The map φ2n : P2n −→ P2n−1 is given as follows. If R2n = p1 R12n−1 q1 = · · · = pr Rr2n−1 qr ,
then
r
#
o(R2n ) ⊗ t(R2n ) +−→
p l ⊗ ql .
l=1
The following result is the main theorem in [B].
Bardzell’s Theorem ([B, Theorem 4.1]) Let Q be a finite quiver, and suppose that Λ =
kQ/I is a monomial algebra with an admissible ideal I. Then the sequence
φn+1
φn
φ2
φ1
π
· · · → Pn+1 −→ Pn −→ · · · −→ P1 −→ P0 −→ Λ → 0
is a minimal projective resolution of Λ as a right Λe -module, where π is the multiplication
map.
3. The decomposition of Hochschild cohomology groups
Before stating main theorem, we recall our setting.
• Q = Q(1) ∪ Q(2) ,
• I (1) = ⟨X⟩ be a monomial ideal generated by X a set of paths of kQ(1) ,
• I (2) = ⟨Y ⟩ a monomial ideal generated by Y a set of paths of kQ(2) ,
• I = ⟨X, Y ⟩ a monomial ideal of kQ,
• Λ = kQ/I, Λ(1) = kQ(1) /I (1) , Λ(2) = kQ(2) /I (2) : finite-dimensional algebras,
• AP (2) := X ∪ Y , AP (1) (2) := X, AP (2) (2) := Y .
Then, as in the definition of AP (n) of overlaps, we define AP (1) (n), AP (2) (n). Moreover,
we define projective Λe -modules as follows:
"
Pn(1) =
Λo(Rn ) ⊗ t(Rn )Λ,
Rn ∈AP (1) (n)
Pn(2) =
"
Rn ∈AP (2) (n)
Pn =
"
Rn ∈AP (n)
Λo(Rn ) ⊗ t(Rn )Λ,
Λo(Rn ) ⊗ t(Rn )Λ.
To prove our main result, we need the following lemma. As mentioned in Introduction,
we consider the separability condition AP (1) (1) ∩ AP (2) (1) = ∅.
18
Lemma 3.1. ([IFS, Lemma 3.1]) Let i ∈ {1, 2}. If we assume AP (1) (1) ∩ AP (2) (1) = ∅,
then we have the following:
(a) For all n ≥ 1, AP (n) = AP (1) (n) ∪ AP (2) (n).
(b) For all n ≥ 1, AP (1) (n) ∩ AP (2) (n) = ∅.
(c) Let n ≥ 1 and pn ∈ AP (n). Then Rn is a path of kQ(i) if and only if Rn ∈ AP (i) (n).
By Bardzell’s Theorem and Lemma 3.1, we have the following proposition.
(1)
(2)
φ1
π
Proposition 3.2. ([IFS, Proposition 3.2]) If the condition Q1 ∩ Q1 = ∅ holds, then, in
the following minimal projective resolution of Λ:
φn+1
φn
φ3
φ2
· · · → Pn+1 −→ Pn −→ Pn−1 → · · · −→ P2 −→ P1 −→ P0 −→ Λ −→ 0,
(1)
(2)
(1)
(2)
for any n ≥ 1, Pn is isomorphic to Pn ⊕ Pn as right Λe -modules and φn+1 = φn+1 ⊕ φn+1 ,
(i)
(i)
(i)
where φn+1 : Pn+1 → Pn (i = 1, 2) is the restriction of φn+1 .
Remark 3.1. For i = 1, 2, bk ∈ Λ(i) o(Rk2n ), aj ∈ t(Rj2n )Λ(i) , pl ∈ Λ(i) o(Rj2n+1 ) and
$
(i)
ql ∈ t(Rl2n+1 )Λ(i) actually hold. So, for n ≥ 1, φn+1 sends Rn+1 ∈AP (i) (n+1) Λ(i) o(Rn+1 )⊗
$
$
t(Rn+1 )Λ(i) to Rn ∈AP (i) (n) Λ(i) o(Rn ) ⊗t(Rn )Λ(i) (not just to Rn ∈AP (n) Λo(Rn ) ⊗ t(Rn )Λ).
$
(i)
Therefore, ( Rn ∈AP (i) (n) Λ(i) o(Rn ) ⊗ t(Rn )Λ(i) ; φn+1 )n≥1 is exactly a part of degree n ≥ 1 for
the minimal projective resolution of Λ(i) (i = 1, 2).
The following theorem is our main result.
(1)
(2)
Theorem 3.3. ([IFS, Theorem 3.3]) If the condition Q1 ∩ Q1 = ∅ holds and, for each
i = 1, 2, o(Rn )Λt(Rn ) = o(Rn )Λ(i) t(Rn ) holds for any n ≥ 1 and any Rn ∈ AP (i) (n), then
we have the direct sum decomposition of Hochschild cohomology groups
HHn (Λ) ∼
= HHn (Λ(1) ) ⊕ HHn (Λ(2) )
for any n ≥ 2.
Remark 3.2. For n = 0, 1, the above equation fails in general (see Example 4.2 for the
case n = 1).
(1)
(2)
(1)
(2)
If Q0 ∩ Q0 = {v0 } and v0 Λv0 = kv0 , then we have Q1 ∩ Q1 = ∅. Also, by Lemma
3.1 and Theorem 3.3, we have the following corollary.
(1)
(2)
Corollary 3.4. ([IFS, Corollary 3.4]) In the case Q0 ∩ Q0 = {v0 } and v0 Λv0 = kv0 , we
have the direct sum decomposition of the Hochschild cohomology groups
HHn (Λ) ∼
= HHn (Λ(1) ) ⊕ HHn (Λ(2) )
for any n ≥ 2.
Remark 3.3. Hence, for a finite dimensional monomial algebra obtained by linking some
quivers bound by monomial relations successively, we can also decompose the Hochschild
cohomology groups as in Corollary 3.4.
19
4. Examples
In this section, we give two examples of monomial algebras satisfying the condition
AP (1) (1) ∩ AP (2) (1) = ∅.
Example 4.1. Let Q be a quiver
bound by
I =⟨a1 a2 · · · am , a2 a3 · · · am+1 , . . . , an a1 · · · a−n+m+1 ,
b1 b2 · · · bm′ , b2 b3 · · · bm′ +1 , . . . , bn′ b1 · · · b−n′ +m′ +1 ⟩
for any integers m, m′ ≥ 2 with m ≤ n and m′ ≤ n′ . We set the algebra Λ = kQ/I. Let
Q(1) be the subquiver of Q bound by I (1) = ⟨a1 a2 · · · am , a2 a3 · · · am+1 , . . . , an a1 · · · a−n+m+1 ⟩
and Q(2) be the subquiver of Q bound by I (2) = ⟨b1 b2 · · · bm′ , b2 b3 · · · bm′ +1 , . . . , bn′ b1
(1)
(1)
(1)
(2)
· · · b−n′ +m′ +1 ⟩, where Q0 ∩ Q0 = {v0 } and Q1 ∩ Q1 = ∅. We set Λ(i) = kQ(i) /I (i)
Q(1) :
Q(2) :
for i = 1, 2. Then the condition of Corollary 3.4 is satisfied. Applying Corollary 3.4,
we obtain the direct sum decomposition of the Hochschild cohomology groups HHn (Λ) ∼
=
HHn (Λ(1) ) ⊕ HHn (Λ(2) ) for any n ≥ 2. Also, since Λ(i) (i = 1, 2) is a self-injective Nakayama
algebra, we know the dimension of HHn (Λ(i) ) from [EH, Propositions 4.4, 5.3] for i = 1, 2,
and so we have the dimension of HHn (Λ) by the decomposition above.
Example 4.2. Let Q be a quiver
20
bound by I = ⟨a1 a2 , a2 a3 , a3 a4 , a4 a1 , b1 b2 , b2 b3 , b3 b4 , b4 b1 ⟩. We set the algebra Λ = kQ/I. Let
Q(1) be the subquiver of Q bound by I (1) = ⟨a1 a2 , a2 a3 , a3 a4 , a4 a1 ⟩ and Q(2) be the subquiver
(1)
(1)
(1)
(2)
of Q bound by I (2) = ⟨b1 b2 , b2 b3 , b3 b4 , b4 b1 ⟩, where Q0 ∩ Q0 = {v0 , v1 } and Q1 ∩ Q1 = ∅.
We set Λ(i) = kQ(i) /I (i) for i = 1, 2. Then AP (1) (1) ∩ AP (2) (1) = ∅ holds and for each i =
1, 2, o(Rn )Λt(Rn ) = o(Rn )Λ(i) t(Rn ) holds for any n ≥ 1 and any Rn ∈ AP (i) (n). Applying
Theorem 3.3, we obtain the direct sum decomposition of the Hochschild cohomology groups
HHn (Λ) ∼
= HHn (Λ(1) ) ⊕ HHn (Λ(2) ) for any n ≥ 2.
Q(1) :
Q(2) :
On the other hand, by direct computations, we have dimk HH1 (Λ) = 3 and dimk HH1 (Λ(i) ) =
1 (i = 1, 2). Hence the above decomposition does not hold for n = 1.
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[GS] E. L. Green and N. Snashall, The Hochschild cohomology ring modulo nilpotence of a stacked monomial
algebra, Colloq. Math. 105 (2006), no. 2, 233–258.
[GSS] E. L. Green, N. Snashall and Ø. Solberg, The Hochschild cohomology ring modulo nilpotence of a
monomial algebra, J. Algebra Appl. 5 (2006), no. 2, 153–192.
[IFS] A. Itaba, T. Furuya and K. Sanada, On the decomposition of the Hochschild cohomology group of a
monomial algebra satisfying a separability condition, Comm. Algebra 43 (2015), no. 6, 2282–2292.
(Ayako Itaba) Department of Mathematics, Tokyo University of Science, Kagurazaka 1-3,
Shinjuku, Tokyo 162-8601, Japan
E-mail address: [email protected]
21
MINIMAL ATOMS AND MINIMAL MOLECULES IN GROTHENDIECK
CATEGORIES
RYO KANDA
Abstract. For a one-sided noetherian ring, Gabriel constructed two maps between the isomorphism classes of indecomposable injective modules and the two-sided prime ideals. In this
paper, we give a categorical reformulation of these maps using the notion of Grothendieck category. Gabriel’s maps become maps between the atom spectrum and the molecule spectrum
in our setting, and these two spectra have structures of partially ordered sets. The main result
in this paper shows that the two maps induce a bijection between the minimal elements of the
atom spectrum and those of the molecule spectrum.
1. Introduction
For a one-sided noetherian ring, Gabriel [Gab62] described the relationship between indecomposable injective modules and two-sided prime ideals as follows.
Theorem 1.1 ([Gab62]). Let Λ be a right noetherian ring. Then we have two maps
{ indecomposable injective right Λ-modules } ϕ
{ two-sided prime ideals of Λ }
∼
=
ψ
characterized by the following properties.
(1) For each indecomposable injective right Λ-module I, the only associated (two-sided) prime
of I is ϕ(I).
(2) For each two-sided prime ideal P of Λ, the injective envelope E(Λ/P ) of the right Λmodule Λ/P is the direct sum of finite number of copies of the indecomposable injective
Λ-module ψ(P ).
Moreover, the composite ϕψ is the identity map.
If the ring is commutative, then these maps are bijective ([Mat58, Proposition 3.1]). In general,
these maps are far from being bijective as the following example shows.
Example 1.2. The ring Λ := Chx, yi/(xy − yx − 1) is a simple domain which is left and right
noetherian. The only two-sided prime ideal of Λ is 0, while there exist infinitely many isomorphism
classes of indecomposable injective right Λ-modules.
In this paper, we generalize Theorem 1.1 to a certain class of Grothendieck categories as maps
between the atom spectrum and the molecule spectrum of a Grothendieck category. Moreover,
by using naturally defined partial orders on these spectra, we establish a bijection between the
minimal elements of the atom spectrum and those of the molecule spectrum. This result would
have been unknown even in the case of the category Mod Λ of right modules over a right noetherian
ring Λ.
2010 Mathematics Subject Classification. 18E15 (Primary), 16D90, 13C60 (Secondary).
Key words and phrases. Grothendieck category; atom spectrum; molecule spectrum; prime ideal; indecomposable injective object.
This is not in final form. The detailed version will be submitted for publication elsewhere.
The author is a Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science. This work is supported by
Grant-in-Aid for JSPS Fellows 25·249.
22
2. Atom spectrum
Throughout this paper, let A be a Grothendieck category. In this section, we recall the
definition of the atom spectrum of A and related notions.
The atom spectrum is defined by using monoform objects and an equivalence relation between
them.
Definition 2.1.
(1) A nonzero object H in A is called monoform if for each nonzero subobject L of H, no
nonzero subobject of H is isomorphic to a subobject of H/L.
(2) For monoform objects H1 and H2 in A, we say that H1 is atom-equivalent to H2 if there
exists a nonzero subobject of H1 which is isomorphic to a subobject of H2 .
For a commutative ring R, all monoform objects in Mod R can be described in the following
sense.
Proposition 2.2 ([Sto72, p. 626]). Let R be a commutative ring. Then a nonzero object H in
Mod R is monoform if and only if there exist p ∈ Spec R and a monomorphism H → k(p) in
Mod R, where k(p) = Rp /pRp .
The atom equivalence is in fact an equivalence relation between the monoform objects in A.
Definition 2.3. The atom spectrum ASpec A of A is the quotient set of the set of monoform
objects in A by the atom equivalence. Each element of ASpec A is called an atom in A. For each
monoform object H in A, the equivalence class of H is denoted by H.
The notion of atoms was originally introduced by Storrer [Sto72] for module categories and
generalized to arbitrary abelian categories in [Kan12].
The next result shows that the atom spectrum of a Grothendieck category is a generalization
of the prime spectrum of a commutative ring.
Proposition 2.4 ([Sto72, p. 631]). Let R be a commutative ring. Then the map Spec R →
ASpec(Mod R) given by p 7→ R/p is bijective.
We can also generalize the notions of associated primes and support.
Definition 2.5. Let M be an object in A.
(1) Define the subset AAss M of ASpec A by
AAss M = { α ∈ ASpec A | α = H for some monoform subobject H of M }.
We call each element of AAss M an associated atom of M .
(2) Define the subset ASupp M of ASpec A by
ASupp M = { α ∈ ASpec A | α = H for some monoform subquotient H of M }.
We call it the atom support of M .
Proposition 2.6. Let R be a commutative ring, and let M be an R-module. Then the bijection
Spec R → ASpec(Mod R) in Proposition 2.4 induces bijections Ass M → AAss M and Supp M →
ASupp M .
We introduce a partial order on the atom spectrum, which plays an crucial role in this paper.
Definition 2.7. For α, β ∈ ASpec A, we write α ≤ β if β ∈ ASupp H holds for each monoform
object H in A with H = α.
The partial order on the atom spectrum is a generalization of the inclusion relation between
prime ideals of a commutative ring.
Proposition 2.8. Let R be a commutative ring. Then the bijection Spec R → ASpec(Mod R)
in Proposition 2.4 is an isomorphism between the partially ordered sets (Spec R, ⊂) and
(ASpec(Mod R), ≤).
23
We can generalize Matlis’ correspondence in commutative ring theory.
Theorem 2.9. Let A be a locally noetherian Grothendieck category. Then we have a bijection
{ indecomposable injective objects in A }
∼
ASpec A −
→
∼
=
given by H 7→ E(H).
Note that for a right noetherian ring Λ, the category Mod Λ of right Λ-modules is a locally
noetherian Grothendieck category, and hence Theorem 2.9 can be applied to Mod Λ.
For a locally noetherian Grothendieck category A, the localizing subcategories of A can be
classified by using certain subsets of ASpec A. See [Kan12] for the detail.
3. Molecule spectrum
In this section, we introduce a new spectrum of a Grothendieck category, which we call the
molecule spectrum. It is a generalization of the set of two-sided prime ideals of a ring. The
definition uses the notion of closed subcategory.
Definition 3.1.
(1) A full subcategory C of A is called closed if C is closed under subobjects, quotient objects,
arbitrary direct sums, and arbitrary direct products.
(2) Let C and D be closed subcategories of A. Denote by C ∗ D the full subcategory of A
consisting of all objects M in A such that there exists an exact sequence
with L ∈ C and N ∈ D.
0→L→M →N →0
L
Q For each family of objects {Mi }i∈I in A, we have the canonical monomorphism i∈I Mi →
i∈I Mi since A is a Grothendieck category. Therefore the closedness under arbitrary direct
sums can be dropped from the definition of closed subcategory.
The following well-known result shows that closed subcategories of a Grothendieck category
is a generalization of two-sided ideals of a ring.
Proposition 3.2. Let Λ be a ring.
(1) We have a poset isomorphism
∼
({ two-sided ideals of Λ }, ⊂) −
→ ({ closed subcategories of Mod Λ }, ⊃)
given by I 7→ Mod(Λ/I), where Mod(Λ/I) is identified with the full subcategory
{ M ∈ Mod Λ | M I = 0 }
of Mod Λ.
(2) Let I and J be two-sided ideals of Λ. Then we have
Λ
Λ
Λ
= Mod ∗ Mod
IJ
J
I
as a full subcategory of Mod Λ, that is, the isomorphism in (1) induces an isomorphism
∼
({ two-sided ideals of Λ }, ·) −
→ ({ closed subcategories of Mod Λ }, ∗)
Mod
of monoids.
(3) Let M be a right Λ-module. Then the two-sided ideal AnnΛ (M ) corresponds to the smallest closed subcategory hM iclosed of A containing M by the isomorphism in (1).
We can generalize the notion of two-sided prime ideals of a ring to a Grothendieck category.
Definition 3.3. A nonzero closed subcategory P of A is called prime if for each closed subcategories C and D satisfying P ⊂ C ∗ D, we have P ⊂ C or P ⊂ D.
24
Proposition 3.4. Let Λ be a ring. Then the isomorphism in Proposition 3.2 (1) induces a poset
isomorphism
∼
({ two-sided prime ideals of Λ }, ⊂) −
→ ({ prime closed subcategories of Mod Λ }, ⊃).
Although the set of prime closed subcategories can be used as the definition of the molecule
spectrum, we use the notion of prime object instead, in order to clarify the similarity between
the atom spectrum and the molecule spectrum.
Definition 3.5.
(1) A nonzero object H in A is called prime if for each nonzero subobject L of H, it holds
that hLiclosed = hHiclosed .
(2) For prime objects H1 and H2 in A, we say that H1 is molecule-equivalent to H2 if
hH1 iclosed = hH2 iclosed .
Definition 3.6. The molecule spectrum MSpec A of A is the quotient set of the set of prime
objects in A by the molecule equivalence. Each element of MSpec A is called a molecule in A.
e
For each prime object H in A, the equivalence class of H is denoted by H.
The following result shows that the molecule spectrum is also regarded as a generalization of
the set of two-sided prime ideals of a ring. Although we assume the existence of a noetherian
generator, this result can be also shown for the category Mod Λ of right modules over an arbitrary
ring Λ by using classical ring-theoretic argument.
Proposition 3.7. Let A be a Grothendieck category with a noetherian generator. Then we have
a bijection
∼
MSpec A −
→ { prime closed subcategories of A }
e 7→ hHi
e ∈ MSpec A, the prime closed subcategory hHi
given by H
.
For
each
ρ = H
closed
closed
corresponding to ρ is denoted by hρiclosed .
MSpec A has a partial order induced from the set of prime closed subcategories.
Definition 3.8. Let A be a Grothendieck category with a noetherian generator. For ρ, σ ∈
MSpec A, we write ρ ≤ σ if hρiclosed ⊃ hσiclosed holds.
The partial order on MSpec A can be also defined for Mod Λ, where Λ is an arbitrary ring,
and we can show the following proposition.
Proposition 3.9. Let Λ be a ring. Then we have a poset isomorphism
∼
({ two-sided prime ideals of Λ }, ⊂) −
→ (MSpec Λ, ≤)
g.
given by P 7→ Λ/P
4. Atom-molecule correspondence
Let A be a Grothendieck category having a noetherian generator and satisfying the Ab4*
condition, that is, direct product preserves exactness. For a right noetherian ring Λ, the category
Mod Λ satisfies this assumption.
Denote by AMin A (resp. MMin A) the set of minimal elements of ASpec A (resp. MSpec A).
As shown in [Kan13, Proposition 4.7], the set AMin A is not empty unless the Grothendieck
category is zero. The following theorem is our main result.
Theorem 4.1.
(1) We have a surjective poset homomorphism
ϕ : ASpec A → MSpec A
e where H is taken to be a prime monoform object in A.
given by H 7→ H,
(2) The map ϕ induces a poset isomorphism
∼
AMin A −
→ MMin A.
25
(3) There exists an injective poset homomorphism
ψ : MSpec A → ASpec A
satisfying the following properties.
(a) The composite ϕψ is the identity map on MSpec A.
(b) For each ρ, σ ∈ MSpec A, we have ρ ≤ σ if and only if ψ(ρ) ≤ ψ(σ).
(c) ψ is the left adjoint of ϕ in the category of partially ordered sets.
5. Acknowledgement
The author would like to express his deep gratitude to Osamu Iyama for his elaborated guidance. The author thanks S. Paul Smith for his valuable comments.
References
[Gab62] P. Gabriel, Des catégories abéliennes, Bull. Soc. Math. France 90 (1962), 323–448.
[Kan12] R. Kanda, Classifying Serre subcategories via atom spectrum, Adv. Math. 231 (2012), no. 3–4, 1572–
1588.
[Kan13] R. Kanda, Specialization orders on atom spectra of Grothendieck categories, J. Pure Appl. Algebra, to
appear; arXiv:1308.3928v2, 39 pp.
[Mat58] E. Matlis, Injective modules over Noetherian rings, Pacific J. Math. 8 (1958), 511–528.
[Sto72] H. H. Storrer, On Goldman’s primary decomposition, Lectures on rings and modules (Tulane Univ.
Ring and Operator Theory Year, 1970–1971, Vol. I), pp. 617–661, Lecture Notes in Math., Vol. 246,
Springer-Verlag, Berlin-Heidelberg-New York, 1972.
Graduate School of Mathematics, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya-shi, Aichi-ken,
464-8602, Japan
E-mail address: [email protected]
26
Fisher 積分の消去イデアル
小山 民雄
1
特殊直交群上の Fisher 積分
特殊直交群上の Fisher 積分とは, n 次の特殊直交群 SOn 上の積分
" n
$
!
#
f (x) :=
exp
xij yij µ(dy) (x = (xij ), y = (yij ))
SOn
i,j=1
によって定義される実数上の n × n 行列 x を変数とする函数である. ここで, µ は SOn
上の Haar 測度である. この函数は特殊直交群上に定義される Fisher 分布の正規化定数
として得られ, この性質を知ることは, Fisher 分布の定める統計モデルを研究する上で
重要である. 実際, [3] では Fisher 積分の満たす線形微分方程式系の研究を行い, その結
果を Fisher 分布を用いた最尤法の数値計算 (ホロノミック勾配法) に応用した.
2
消去イデアル
文献 [3] に置いて, Fisher 積分 f (x) は, 以下の微分作用素によって消去されることが示
された.
n
#
(xki ∂xkj − xkj ∂xki ) (1 ≤ i < j ≤ n),
(1)
k=1
δij −
n
#
∂xki ∂xkj
k=1
(1 ≤ i ≤ j ≤ n),
1 − det(∂xij ).
(2)
(3)
ここで, ∂xij = ∂/∂xij であり, det(∂xij ) は第 (i, j) 成分が ∂xij である行列の行列式を表す.
実は,Fisher 積分を消去する微分作用素は本質的にこれらで尽くされる.すなわち,
次の定理が成り立つ [1]:
Theorem 1 多項式係数の微分作用素環 Dx = C⟨xij , ∂xij |1 ≤ i, j ≤ n⟩ において微分作
用素 (1), (2), (3) は, Fisher 積分 f (x) の消去イデアル Ann(f ) := {P ∈ Dx |P • f = 0}
を生成する.
さらに,この定理を示す過程で, SOn 上の Haar 測度 µ から
!
%
&
⟨g, ϕ⟩ =
ϕ(x)µ(dx)
ϕ ∈ C0∞ (Rn×n )
SOn
27
によって定まる Rn×n 上の Schwartz 超関数 g の消去イデアルが
n
#
(xki ∂xkj − xkj ∂xki ) (1 ≤ i < j ≤ n),
(4)
k=1
δij −
n
#
xki xkj
k=1
(1 ≤ i ≤ j ≤ n),
(5)
1 − det x
(6)
によって生成され, さらに Dx の極大な左イデアルとなることを示した.
3
対角の場合
統計学への応用上は,x が対角行列 diag(x1 , . . . , xn ) の場合の Fisher 積分
" n
$
!
#
f (x1 , . . . , xn ) =
exp
xi yii µ(dy)
SOn
i=1
が満たす微分方程式系がより重要となる.文献 [3] において,n = 3 の場合に,べき級
数展開を用いることにより,微分作用素
(x2i − x2j )∂xi ∂xj − (xj ∂xi − xi ∂xj ) − (x2i − x2j )∂xk
(7)
が Fisher 積分 f (x1 , x2 , x3 ) を消去することが示された.但し,(i, j, k) = (1, 2, 3), (2, 3, 1),
(3, 1, 2) である.
ここでは,これらの微分作用素 (7) を導出する新しい方法を与え,微分作用素 (7)
が小行列式に関するヤコビの公式に関係していることを説明する [1].ここでヤコビの
公式とは,可逆な n × n 行列 A と,要素の個数が等しい2つの集合 I, J ⊂ {1, . . . , n}
に対して成り立つ関係式
[A−1 ]I,J = det A−1 [A]I ′ ,J ′ .
(8)
のことを言う.但し,[A]I,J は集合 I, J に対応する A の小行列式で,I ′ = {1, . . . , n} − I,
J ′ = {1, . . . , n} − J である.
まず,一般の n について,Haar 測度 µ が定める超函数を消去する微分作用素として,
n
#
k=1
(xki ∂xkj − xkj ∂xki ),
n
#
k=1
(xik ∂xjk − xjk ∂xik ) (1 ≤ i < j ≤ n)
'n
が得られる.ここから,被積分関数 exp ( i=1 xi yii ) µ(dy) は,微分作用素
pij :=
n
#
k=1
p̃ij :=
n
#
k=1
(yki ∂ykj − ykj ∂yki ) − yji xj + yij xi
(1 ≤ i < j ≤ n),
(9)
(yik ∂yjk − yjk ∂yik ) − yij xj + yji xi
(1 ≤ i < j ≤ n),
(10)
qi := ∂xi − yii
(1 ≤ i ≤ n).
(11)
により,超函数として消去されることが分かる.ところで,
( ) ('n
) (
)( )
(y
∂
−
y
∂
)
pij
x
−x
yij
ki
y
kj
y
i
j
kj
ki
= 'k=1
+
n
p̃ij
(y
∂
−
y
∂
)
−x
x
yji
jk yik
j
i
k=1 ik yjk
28
が成り立つことに注意すると,ベクトル
(
)( )
1
xi x j
pij
2
2
p̃ij
xi − x j xj x i
の各成分は,
1
yij + 2
xi − x2j
1
yji + 2
xi − x2j
"
"
$
n
n
#
#
xi
(yki ∂ykj − ykj ∂yki ) + xj
(yik ∂yjk − yjk ∂yik ) ,
xj
k=1
n
#
k=1
k=1
(yki ∂ykj − ykj ∂yki ) + xi
n
#
k=1
(yik ∂yjk − yjk ∂yik )
$
(12)
(13)
'n
と書けることが分かる.しかも,これらの微分作用素は,被積分関数 exp ( i=1 xi yii ) µ(dy)
を消去する.
ここから,n = 3 の場合について考える.ヤコビの公式に置いて,n = 3, I = J = 1, 2,
I ′ = J ′ = 3 の場合を考えると,任意の特殊直交行列 A = (aij )3i,j=1 は,関係式
a11 a22 − a12 a21 = a33
を満たすことが分かる.そこから,多項式
y11 y22 − y12 y21 − y33
(14)
'n
が被積分関数 exp ( i=1 xi yii ) µ(dy) を消去することが言える.多項式 (14) を微分作用
素 (11) で簡約すると,
∂x1 ∂x2 − y12 y21 − ∂x3
を得る.y12 y21 を微分作用素 (13) で簡約すると,
"
$
3
3
#
#
y12
− 2
x2
(yk1 ∂yk2 − yk2 ∂yk1 ) + x1
(y1k ∂y2k − y2k ∂y1k )
x1 − x22
k=1
k=1
となるが,y12 を右側に移動すると,これは
"
$
3
3
#
#
1
x2 y11 − x1 y22
− 2
x2
(yk1 ∂yk2 − yk2 ∂yk1 ) + x1
(y1k ∂y2k − y2k ∂y1k ) y12 +
2
x1 − x2
x21 − x22
k=1
k=1
と書ける.再び,(11) で簡約して,
"
$
3
3
#
#
1
x2 ∂x1 − x1 ∂x2
− 2
x2
(yk1 ∂yk2 − yk2 ∂yk1 ) + x1
(y1k ∂y2k − y2k ∂y1k ) y12 +
2
x1 − x2
x21 − x22
k=1
k=1
を得る.Fisher 積分を消去する微分作用素を得るためには,被積分関数を消去する微
分作用素から,左側に ∂y を含む項を消去すれば良い.したがって,Fisher 積分を消去
する微分作用素として
∂x1 ∂x2 −
x21
1
(x2 ∂x1 − x1 ∂x2 ) − ∂x3
− x22
が得られる.式 (7) の他の微分作用素も同様にして得られる.
29
References
[1] T. Koyama. The annihilating ideal of the fisher integral. http://arxiv.org/abs/
1503.05261, 2015.
[2] H. Nakayama, K. Nishiyama, M. Noro, K. Ohara, T. Sei, N. Takayama, A. Takemura , Holonomic Gradient Descent and its Application to Fisher-Bingham Integral, Advances in Applied Mathematics 47:639–658, 2011.
[3] T. Sei, H. Shibata, A .Takemura, K. Ohara, N. Takayama. Properties and applications of Fisher distribution on the rotation group, Journal of Multivariate Analysis,
116:440–455, 2013.
30
普遍推移性をもつ既約成分が二個の
概均質ベクトル空間の具体例について
黒澤 恵光∗
(沼津工業高等専門学校 教養科)
はじめに
1
本稿は, 第 20 回代数学若手研究集会の講演内容をまとめたものである. 以下,
GL(n) の部分代数群 H に対し, n 次元アファイン空間 Aff n における H の自然表
現を Λ1 で表す. 有理表現 ρ に対し, ρ の反傾表現を ρ∗ で表す. ρ または ρ∗ を, ρ(∗)
で表す. また, ⊕ と が同時に現れるとき, ⊕ の代わりに + を使う.
Ω を標数 0 の代数的閉体とする. Vi = {F (u, v) = x1 ui + x2 ui−1 v + · · · + xi+1 v i |
x1 , x2 , . . . , xi+1 ∈ Ω} (i ≥ 1) を 2 変数 i 次斉次多項式全体からなる Ω 上の i + 1
次元ベクトル空間とする. SL(2) の Vi における既約有理表現 iΛ1 を, A ∈ SL(2),
F (u, v) ∈ Vi に対して, iΛ1 (A)F (u, v) = F ((u, v)A) で定める.
G̃ を GL(n) の連結 reductive Q-split 部分代数群で, 自然表現が既約であるもの
とする. j を非負整数とし, (SL(2) × GL(l) × G̃, (j + 1)Λ1 Λ1 Λ1 ) は正則 trivial
PV と裏返し同値であるとする (See 例 2.2, 定義 3.2 and 定義 3.3). このとき, [Ka,
Theorem 3.22] により,
e Λ1 Λ1 Λ1 1 + 1 1 Λ(∗)
T := (SL(2) × GL((j + 1)l) × GL((j + 2)l) × G,
1 Λ1 )
は二個の基本相対不変式を持つ正則 PV になることが知られている. 本稿の目的は,
T に関する次の二つの定理を証明することである:
∗
[email protected]
31
定理 1.1. T は普遍推移性をもつ PV である (See 定義 2.1).
(∗)
定理 1.2. T の generic isotropy subgroup の表現 Λ1 Λ1 Λ1 1 + 1 1 Λ1 Λ1
による像は連結半単純である (See 定義 2.1).
この二つの定理と [KK, Theorem 1.8] より, T に付随する加法的アデール・ゼー
タ関数と乗法的アデール・ゼータ関数は定数倍を除いて一致することがわかる. よっ
て, この PV に対して, 岩澤・Tate の理論の一般化が展開できる (See [K2]).
2
普遍推移性をもつ PV
この節では, 普遍推移性をもつ PV の定義とその判定方法について述べる.
定義 2.1 (cf. Introduction in [R]). 連結な Q-split 線形代数群 G̃ が, Q 上定義さ
れた ρ により, n 次元アファイン空間 V = Aff(n) に線形的かつ有理的に作用して
いるとする. G := ρ(G̃) とおく. Zariski-open な G-軌道 O が存在するとき, 三つ
組 (G̃, ρ, V ) を概均質ベクトル空間 (PV) という. v ∈ O を generic point といい,
G̃v = {g̃ ∈ G̃ | ρ(g̃)v = v} を generic isotropy subgroup という. 任意の標数 0
の体 k に対し, O(k) が一つの G(k)-軌道であるとき, (G̃, ρ, V ) を普遍推移性をもつ
PV (universally transitive PV) という. 表現空間 V が明らかなとき, (G̃, ρ, V )
を (G̃, ρ) と書く.
例 2.2. H を GL(n) の連結 reductive Q-split 部分代数群, m を正の整数とし, m ≥ n
を満たすとする. このとき, (GL(m) × H, Λ1 Λ1 ) は PV になる. 本稿では, この PV
を trivial PV という. trivial PV は普遍推移性をもつ PV である. さらに, trivial
PV が正則になるためには, m = n になることが必要十分である.
命題 2.3 (cf. Proposition 1.4 in [R]). 次の条件 (1), (2), (3), (4) を満たすならば,
(G̃, ρ1 ⊕ ρ2 , V1 ⊕ V2 ) は普遍推移性をもつ PV である.
(1) (G̃, ρ1 , V1 ) は普遍推移性をもつ PV である.
(2) (G̃ξ1 , ρ2 |G̃ξ , V2 ) は普遍推移性をもつ PV である. ここで, ξ1 は (G̃, ρ1 , V1 ) の
1
ある Q 有理的な generic point である.
32
(3) 任意の標数 0 の体 k に対し, 射影 (ρ1 ⊕ ρ2 )(G̃)(k) → ρ1 (G̃)(k) は全射である.
(4) 任意の標数 0 の体 k に対し, 射影 (ρ1 ⊕ ρ2 )(G̃ξ1 )(k) → ρ2 (G̃ξ1 )(k) は全射で
ある.
証明. (G̃, ρ1 , V1 ) (resp. (G̃ξ1 , ρ2 |G̃ξ , V2 )) の開軌道を O1 (resp. O′2 ) とし, k を標
1
数 0 の体とする. ξ2 ∈ O′2 (k) をとってきて固定する. [K1, Proposition 7.52] より,
(G̃, ρ1 ⊕ ρ2 , V1 ⊕ V2 ) は PV であり, その開軌道を O とする. (x1 , x2 ) ∈ O(k) を任
意にとってくる. x1 , ξ1 ∈ O1 (k) なので, (1) と (3) より, ある g̃ ∈ G̃ が存在して
(ρ1 ⊕ ρ2 )(g̃) ∈ (ρ1 ⊕ ρ2 )(G̃)(k) かつ ρ1 (g̃)x1 = ξ1 を満たす. ρ2 (g̃)x2 , ξ2 ∈ O′2 (k) なの
で, (2) と (4) より, ある h̃ ∈ G̃ξ1 が存在して (ρ1 ⊕ ρ2 )(h̃) ∈ (ρ1 ⊕ ρ2 )(G̃ξ1 )(k) かつ
ρ2 (h̃)ρ2 (g̃)x2 = ξ2 を満たす. したがって (ρ1 ⊕ ρ2 )(h̃g̃)(x1 , x2 ) = (ξ1 , ξ2 ) となるので,
主張を得る.
補題 2.4. k を体とする. A ∈ Mm (k), B ∈ Mn (k) に対して, 次の (1), (2) は同値で
ある.
(1) 任意の X ∈ Mm,n (k) に対して, AX = XB が成り立つ.
(2) ある λ ∈ k が存在して A = λIm , B = λIn を満たす.
証明. 明らか.
補題 2.5 (cf. Proof of Proposition 3.1 in [I]). k を標数 0 の体とする. G (resp.
H) を k 上定義された GLn (resp. GLm ) の部分代数群とし, (GL1 )In ⊂ G (resp.
(GL1 )Im ⊂ H) を満たすとする. 代数群 G×H の M (n, m) における表現 ρi (i = 1, 2)
を ρ1 (g, h)x = gxth, ρ2 (g, h)x = gxh−1 for (g, h) ∈ G × H, x ∈ M (n, m) と定める.
このとき, ρi (G × H)(k) = ρi (G(k) × H(k)) (i = 1, 2) が成り立つ.
ρi
証明. {1} → (Ker ρi )(k̄) → G(k̄) × H(k̄) −
→ (Im ρi )(k̄) → {1} は Gal(k̄/k)-群の
exact sequence である (k̄ は k の代数的閉包). よって pointed set の exact sequence
G(k) × H(k) → (Im ρi )(k) → H 1 (Gal(k̄/k), (Ker ρi )(k̄)) を得る. 補題 2.4 より,
(Ker ρ1 )(k̄) = {(λIn , λ−1 Im ) | λ ∈ GL1 (k̄)} ∼
= GL1 (k̄), (Ker ρ2 )(k̄) = {(λIn , λIm ) |
λ ∈ GL1 (k̄)} ∼
= GL1 (k̄) を得る. H 1 (Gal(k̄/k), GL1 (k̄)) = {1} より, 主張を得る.
33
命題 2.6. G1 (resp. G2 ) を Q 上定義された GLl (resp. GLm ) の部分代数群とし,
(GL1 )Il ⊂ G1 (resp. (GL1 )Im ⊂ G2 ) を満たすとする. このとき, 次の条件 (1), (2)
(∗)
を満たすならば, (G1 × GLn × G2 , Λ1 Λ1 1 + 1 Λ1 Λ1 ) は普遍推移性をもつ
PV である.
(1) (G1 × GLn , Λ1 Λ1 ) は普遍推移性をもつ PV である.
(∗)
(2) (H × G2 , Λ1 Λ1 ) は普遍推移性をもつ PV である. ここで H は
(G1 × GLn , Λ1 Λ1 ) のある Q 有理的な generic point における generic isotropy
subgroup の GLn -part である.
証明. k を標数 0 の体とする. 補題 2.5 より, (Λ1 Λ1 (G1 × GLn ))(k) = Λ1 (∗)
Λ1 (G1 (k) × GLn (k)) を得る. (GL1 )In ⊂ H であるので, 補題 2.5 より, (Λ1 (∗)
Λ1 (H × G2 ))(k) = Λ1 Λ1 (H(k) × G2 (k)) を得る. 命題 2.3 より, 主張を得る.
3
裏返し変換
この節では, 全て標数 0 の代数的閉体 Ω 上で考える. また, n 次元ベクトル空間
を V (n) で表す.
定義 3.1 (cf. Theorem 7.3 in [K1]). ρ : G → GL(V ) を m 次元ベクトル空間 V に
おける線形代数群 G の有理表現, 正の整数 n を m > n を満たすものとする. こ
のとき, 三つ組 C1 := (G × GL(n), ρ Λ1 , V ⊗ V (n)) が PV であることと, 三つ組
C2 := (G × GL(m − n), ρ∗ Λ1 , V ∗ ⊗ V (m − n)) が PV であることは, 同値である.
C1 (resp. C2 ) を C2 (resp. C1 ) の裏返し変換であるといい, C1 ∼ C2 と書く.
定義 3.2 (cf. p. 226 in [K1]). 二つの三つ組 (G, ρ, V ) と (G′ , ρ′ , V ′ ) が裏返し同値で
あるとは, ある三つ組の列 T1 , . . . , Tn が存在して, T1 = (G, ρ, V ), Tn = (G′ , ρ′ , V ′ ),
Ti ∼ Ti+1 (1 ≤ i ≤ n − 1) を満たすことである. つまり, (G, ρ, V ) から有限回の裏返
し変換によって, (G′ , ρ′ , V ′ ) が得られるということである.
定義 3.3 (cf. Definition 7.39 in [K1]). 二つの三つ組 (Gi , ρi , Vi ) (i = 1, 2) が同型であ
るとは, ある代数群の同型 σ : ρ1 (G1 ) → ρ2 (G2 ) とあるベクトル空間の同型 τ : V1 →
V2 が存在して, τ (ρ1 (g1 )v1 ) = σ(ρ1 (g1 ))τ (v1 ) for g1 ∈ G1 and v1 ∈ V1 を満たすことで
34
ある. このとき, (G1 , ρ1 , V1 ) ∼
= (G2 , ρ2 , V2 ) と書く. 本稿では, 同型な三つ組を同一視
する. 例えば, (GL(n), Λ1 , V (n)) ∼
= (SL(n) × GL(1), Λ1 Λ1 , V (n) ⊗ V (1)). さらに,
ρ : G → GL(V ) が reductive 代数群 G の有理表現ならば, (G, ρ, V ) ∼
= (G, ρ∗ , V ∗ )
(See [K1, Proposition 7.40]).
例 3.4. T1 := (SO(4)×GL(1), Λ1 Λ1 ), T2 := (SO(4)×GL(3)×GL(11), Λ1 Λ1 Λ1 )
とおく. このとき, T1 と T2 は裏返し同値である. 実際,
T1 ∼ (SO(4) × GL(3), Λ∗1 Λ1 )
∼
= (SO(4) × GL(3) × GL(1), Λ1 Λ1 Λ1 )
∼ (SO(4) × GL(3) × GL(11), Λ∗1 Λ∗1 Λ1 )
∼
= T2
となる.
さて, 裏返し変換における generic isotropy subgroup の関係について述べる.
命題 3.5. ρ : G → GL(V ) を m 次元ベクトル空間 V における線形代数群 G の有理
表現, 正の整数 n を m > n を満たすものとする. P = (G×GL(n), ρΛ1 , V ⊗V (n))
を PV とする. P に対して表現空間を V ⊕
· · ⊕} V と同一視したとき, ρ Λ1 は (ρ | ·{z
n
Λ1 )(g, A)(v1 , . . . , vn ) = (ρ(g)v1 , . . . , ρ(g)vn )tA for (g, A) ∈ G×GL(n), v1 , . . . , vn ∈ V
で与えられる. このとき, 次の (1), (2), (3), (4) が成り立つ.
(0)
(0)
(1) v0 = (v1 , . . . , vn ) を P の generic point とし, そこにおける P の generic
(0)
(0)
isotropy subgroup (G × GL(n))v0 の G-part を H とする. このとき, {v1 , . . . , vn }
は一次独立であり, H のある有理表現 ϕ : H → GL(n) が存在して (G × GL(n))v0 =
{(h, ϕ(h)) ∈ G × GL(n) | h ∈ H} を満たす.
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(2) {f1 , . . . , fm−n } を ⟨v1 , . . . , vn ⟩⊥ = {f ∈ V ∗ | f (v) = 0 for all v ∈ ⟨v1 , . . . , vn ⟩}
(0)
(0)
(0)
(0)
のベクトル空間としての基底とする. ここで ⟨v1 , . . . , vn ⟩ は v1 , . . . , vn
(0)
によ
(0)
って張られる V の n 次元部分空間を表す. このとき, f0 := (f1 , . . . , fm−n ) ∈
V∗⊕
· · ⊕} V ∗ は P の裏返し変換 (G × GL(m − n), ρ∗ Λ1 , V ∗ ⊗ V (m − n)) の
| ·{z
m−n
35
generic point になり, さらに H のある有理表現 ψ : H → GL(m − n) が存在して
(G × GL(m − n))f0 = {(h, ψ(h)) ∈ G × GL(m − n) | h ∈ H} を満たす.
(3) ρ Λ1 ((G × GL(n))v0 ) ∼
= ρ∗ Λ1 ((G × GL(m − n))f0 ) as algebraic groups.
(4) H が reductive ならば, ρ|H = ϕ∗ ⊕ ψ.
証明. (1) を示す. W := {(v1 , . . . , vn ) ∈ V ⊕
· · ⊕} V | {v1 , . . . , vn } は一次独立 } と
| ·{z
n
おく. W は V ⊕
· · ⊕} V の空でない開集合であり, G × GL(n) は ρ Λ1 により
| ·{z
n
W に作用する. O を P の開軌道とする. V ⊕
· · ⊕} V は既約より, O ∩ W ̸= ∅ と
| ·{z
n
(0)
(0)
なる. よって, O ⊂ W を得る. {v1 , . . . , vn } は一次独立より, h ∈ H に対して
(0)
(0)
(0)
(0)
(ρ(h)v1 , . . . , ρ(h)vn )tA = (v1 , . . . , vn ) を満たす A ∈ GL(n) は唯一つ存在する.
(0)
(0)
(0)
(0)
よって写像 ϕ : H → GL(n) を (ρ(h)v1 , . . . , ρ(h)vn )tϕ(h) = (v1 , . . . , vn ) (h ∈ H)
と定めることができる. ϕ が H の有理表現になることを示す. h1 , h2 ∈ H に対して
(0)
(ρ(h1 h2 )v1 , . . . , ρ(h1 h2 )vn(0) )t (ϕ(h1 )ϕ(h2 ))
(0)
= (ρ(h1 )ρ(h2 )v1 , . . . , ρ(h1 )ρ(h2 )vn(0) )t ϕ(h2 )t ϕ(h1 )
(0)
= (ρ(h1 )v1 , . . . , ρ(h1 )vn(0) )t ϕ(h1 )
(0)
= (v1 , . . . , vn(0) )
(0)
(0)
(0)
(0)
より, ϕ(h1 h2 ) = ϕ(h1 )ϕ(h2 ) を得る. (ρ(h)v1 , . . . , ρ(h)vn ) = (v1 , . . . , vn )t ϕ(h)−1
(h ∈ H) かつ ρ|H は H の有理表現より, ϕ が H の有理表現になることがわかる.
以上より (1) が示せた.
(2) を示す. f0 における isotropy subgroup (G × GL(m − n))f0 の G-part を K と
(0)
(0)
(0)
(0)
する. h ∈ H をとってくる. (ρ∗ (h)fj )(vi ) = fj (ρ(h−1 )vi ) = 0 (1 ≤ i ≤ n, 1 ≤
(0)
(0)
(0)
(0)
j ≤ m − n) より, {ρ∗ (h)f1 , . . . , ρ∗ (h)fm−n } は ⟨v1 , . . . , vn ⟩⊥ の基底になる. よっ
(0)
(0)
(0)
(0)
て, ある B ∈ GL(m−n) が存在して (ρ∗ (h)f1 , . . . , ρ∗ (h)fm−n )t B = (f1 , . . . , fm−n )
を満すので, h ∈ K. よって H ⊂ K となる. ここで, {v ∈ V | f (v) = 0 for all f ∈
(0)
(0)
(0)
(0)
⟨v1 , . . . , vn ⟩⊥ } = ⟨v1 , . . . , vn ⟩ に注意する. 同様にして, K ⊂ H となる. 以上
(0)
(0)
より K = H を得る. {f1 , . . . , fm−n } は一次独立なので, (1) の証明と同様にし
て, H のある有理表現 ψ : H → GL(m − n) が存在して (G × GL(m − n))f0 =
36
{(h, ψ(h)) ∈ G × GL(m − n) | h ∈ H} を満たす. dim(G × GL(m − n))f0 = dim H =
dim(G × GL(m − n)) − dim(V ∗ ⊗ V (m − n)) より, f0 は generic point になること
がわかる (See [K1, Proposition 2.2]).
(3) を示す. (G × GL(n))v0 の表現 ρ Λ1 |(G×GL(n))v0 を σ := ρ Λ1 |(G×GL(n))v0
とおく. また, L := {(h, ϕ(h)) ∈ G × GL(n) | h ∈ H, ある λ ∈ Ω× が存在して
ρ(h) = λ IdV } とおく. 補題 2.4 より, Ker σ ⊂ L となる. (h, ϕ(h)) ∈ L をとってく
(0)
(0)
(0)
(0)
る. (λv1 , . . . , λvn )t (λ−1 In ) = (v1 , . . . , vn ) より, ϕ(h) = λ−1 In を得る. よって
(h, ϕ(h)) ∈ Ker σ より, L ⊂ Ker σ となる. 以上より, Ker σ = L を得る. 同様にし
て, (G × GL(m − n))f0 の表現 ρ∗ Λ1 |(G×GL(m−n))f0 を τ := ρ∗ Λ1 |(G×GL(m−n))f0
とおいたとき, Ker τ = {(h, ψ(h)) ∈ G × GL(m − n) | h ∈ H, ある µ ∈ Ω× が存在
して ρ∗ (h) = µ IdV ∗ } が成り立つ. ここで, g ∈ G に対して, ある λ ∈ Ω× が存在し
て ρ(g) = λ IdV を満たすことと, ある µ ∈ Ω× が存在して ρ∗ (g) = µ IdV ∗ を満た
すことは同値であることに注意する. 以上より, 代数群の同型 Φ : (G × GL(n))v0 ∋
(h, ϕ(h)) 7→ (h, ψ(h)) ∈ (G × GL(m − n))f0 において, Φ(Ker σ) = Ker τ が成り立
つことがわかる. したがって, ρ Λ1 ((G × GL(n))v ) ∼
= (G × GL(n))v / Ker σ ∼
=
0
0
(G × GL(m − n))f0 / Ker τ ∼
= ρ∗ Λ1 ((G × GL(m − n))f0 ) を得る.
(4) を示す.
ρ|H : H → GL(V ) は H の有理表現より, m − n 個の V の
(0)
(0)
ある元 vn+1 , . . . , vm と H のある有理表現 π : H → GL(m − n) が存在して,
(0)
(0)
(0)
(0)
{v1 , . . . , vm } は V のベクトル空間としての基底となり, (ρ(h)v1 , . . . , ρ(h)vm ) =
(0)
(0)
(v1 , . . . , vm )
を
(
t
ϕ(h)−1
O
O
π(h)
(0)
(0)
{w1 , . . . , wm }
)
(0)
(0)
(h ∈ H) を満たす. {v1 , . . . , vm } の双対基底
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
とする. {wn+1 , . . . , wm } は ⟨v1 , . . . , vn ⟩⊥ の基底より, ある
(0)
(0)
P ∈ GL(m − n) が存在して (wn+1 , . . . , wm ) = (f1 , . . . , fm−n )P を満たす. h ∈ H
(0)
(0)
(0)
(0)
に対して, (ρ∗ (h)wn+1 , . . . , ρ∗ (h)wm ) = (wn+1 , . . . , wm )t π(h)−1 より,
(0)
(0)
(ρ∗ (h)f1 , . . . , ρ∗ (h)fm−n )t (t P −1 π(h)t P )
(0)
(0)
= (ρ∗ (h)f1 , . . . , ρ∗ (h)fm−n )(P t π(h)P −1 )
(0)
(0) t
)( π(h)P −1 )
= (ρ∗ (h)wn+1 , . . . , ρ∗ (h)wm
(0)
(0)
)P −1
= (wn+1 , . . . , wm
(0)
(0)
= (f1 , . . . , fm−n )
37
となるので, t P −1 π(h)t P = ψ(h) を得る. ψ ∼
= π より, 主張を得る.
4
generic isotropy subgroup の計算
この節では, 全て標数 0 の代数的閉体 Ω 上で考える. T の左側の既約成分 (SL(2)×
GL((j + 1)l) × GL((j + 2)l), Λ1 Λ1 Λ1 ) は, 正則 trivial PV (SL(2) × GL(l) ×
GL(2l), Λ1 Λ1 Λ1 ) から j 回裏返し変換を行って得られるものである. この節
の目標は, T の左側の既約成分のある Q 有理的な generic point における generic
isotropy subgroup の明示的な形を計算することである.
定義 4.1. Vi = {F (u, v) = x1 ui + x2 ui−1 v + · · · + xi+1 v i | x1 , x2 , . . . , xi+1 ∈ Ω}
(i ≥ 1) を 2 変数 i 次斉次多項式全体からなる Ω 上の i + 1 次元ベクトル空間と
(
)
a b
する. SL(2) の Vi における既約有理表現 iΛ1 (i ≥ 1) は, A =
∈ SL(2),
c d
F (u, v) ∈ Vi に対して, iΛ1 (A)F (u, v) = F ((u, v)A) = F (au + cv, bu + dv) で与えら
れる. A ∈ SL(2) に対して, 線形変換 iΛ1 (A) : Vi → Vi の {ui , ui−1 v, . . . , v i } に関す
る表現行列を ρi (A) で表す.
補題 4.2. SL(2) の既約有理表現 iΛ1 (i ≥ 1) と Λ1 に対して, iΛ1 と Λ1 のテンソ
ル積表現 iΛ1 ⊗ Λ1 は次の様に二つの既約表現の直和に分解する.
{
2Λ1 ⊕ 1
(i = 1)
iΛ1 ⊗ Λ1 =
(i + 1)Λ1 ⊕ (i − 1)Λ1 (i ≥ 2)
証明. ウェイト (weight) を計算することにより, 主張を得る.
命題 4.3. PV (GL((j + 2)l) × GL((j + 1)l) × SL(2), Λ1 Λ1 Λ1 ) に対して, ある Q
有理的な generic point が存在して, その点における generic isotropy subgroup は
Gj := {(σj+1 (A, B), t σj (A, B)−1 , A) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)}
で与えられる. ここで σi : SL(2) × GL(l) → GL((i + 1)l) は Q 上定義された
SL(2) × GL(l) の有理表現で, SL(2) の表現 iΛ1 と GL(l) の表現 Λ1 に対して,
38
σi ∼
= iΛ1 Λ1 が成り立つ. ただし, σ0 (A, B) = B である. さらに, 代数群の同型
SL(2) × GL(l) ∋ (A, B) 7→ (σj+1 (A, B), t σj (A, B)−1 , A) ∈ Gj が存在する.
証明. j に関する数学的帰納法で示す. (GL(2l) × SL(2) × GL(l), Λ1 Λ1 Λ1 ) に
対して表現空間を V0 := M (2l, 2) ⊕ · · · ⊕ M (2l, 2) と同一視したとき, (C, A, B) ∈
|
{z
}
l
GL(2l) × SL(2) × GL(l), (X1 , . . . , Xl ) ∈ V0 に対して Λ1 Λ1 Λ1 は
Λ1 Λ1 Λ1 (C, A, B)(X1 , . . . , Xl ) = (CX1 t A, . . . , CXl t A)t B
(0)
(0)
(0)
(0)
で与えられる. このとき, (X1 | · · · |Xl ) = I2l となる (X1 , . . . , Xl ) は Q 有理的
な generic point になり, その点における generic isotropy subgroup は
{(t A−1 ⊗ B, A, t B −1 ) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)}
となる. [S, Exercises 5.3.5 (1)] より, この群は SL(2) × GL(l) と代数群として同
(0)
型になるので, j = 0 のとき成立する. {Y ∈ M (2l, 2)(Q) | tr t X1 Y = · · · =
(0)
(1)
(1)
tr t Xl Y = 0} は Q 上 3l 次元であり, {Y1 , . . . , Y3l } をその基底とする. このと
(1)
(1)
(1)
き, ある Z1 , . . . , Zl
(1)
(1)
(1)
∈ M (2l, 2)(Q) が存在して {Y1 , . . . , Y3l , Z1 , . . . , Zl } は
(1)
(1)
(1)
(1)
M (2l, 2)(Q) の基底になる. {Y1 , . . . , Y3l , Z1 , . . . , Zl } は M (2l, 2) の基底にな
(1)
(1)
(0)
(0)
(0)
るので, {Y1 , . . . , Y3l } は ⟨X1 , . . . , Xl ⟩⊥ = {Y ∈ M (2l, 2) | tr t X1 Y = · · · =
(0)
(1)
(1)
tr t Xl Y = 0} の基底になる. 命題 3.5 より, (Y1 , . . . , Y3l ) は (GL(2l) × SL(2) ×
GL(3l), Λ∗1 Λ∗1 Λ1 ) の Q 有理的な generic point になる. SL(2) × GL(l) の表現
M (2l, 2) ∋ Y 7→ (A ⊗ t B −1 )Y A−1 ∈ M (2l, 2) ((A, B) ∈ SL(2) × GL(l))
(1)
(1)
(1)
(1)
に対して, {Y1 , . . . , Y3l , Z1 , . . . , Zl } に関する行列表現は Q 上定義される. よっ
て, SL(2) × GL(l) の表現
(0)
(0)
(0)
(0)
⟨X1 , . . . , Xl ⟩⊥ ∋ Y 7→ (A ⊗ t B −1 )Y A−1 ∈ ⟨X1 , . . . , Xl ⟩⊥
(1)
(1)
((A, B) ∈ SL(2) × GL(l)) に対して, {Y1 , . . . , Y3l } に関する行列表現 τ1 は Q 上
(1)
(1)
定義される. 以上より, (GL(2l) × SL(2) × GL(3l), Λ∗1 Λ∗1 Λ1 ) の (Y1 , . . . , Y3l )
における generic isotropy subgroup は
{(t A−1 ⊗ B, A, t τ1 (A, B)−1 ) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)}
39
となる. 命題 3.5 と補題 4.2 より, τ1 ∼
= 2Λ1 Λ1 となる. したがって, j = 1 のとき
成立する. ここで [Ku, Lemma 2.21] に注意する. 同様にして, j のとき成立すると
仮定すると, j + 1 のときも成立することがわかる.
注意 4.4. [B, Corollary 1.4] より, 命題 4.3 における Gj は Q 上定義された線形代
数群である. [B, Lemma 21.18] より, 命題 4.3 における代数群の同型は Q 同型であ
る. したがって, 命題 4.3 における Gj は Q-split である.
補題 4.5. k を標数 0 の体とする. G, G′ を GLn の連結 reductive k-split 部分代数
群とする. このとき, ある h ∈ GLn が存在して G′ = hGh−1 を満たすならば, ある
h1 ∈ GLn (k) が存在して G′ = h1 Gh−1
1 を満たす.
証明. [I, §1 (p. 266)] より, 主張を得る.
命題 4.6. PV (GL((j + 2)l) × GL((j + 1)l) × SL(2), Λ1 Λ1 Λ1 ) に対して, ある Q
有理的な generic point が存在して, その点における generic isotropy subgroup は
{(ρj+1 (A) ⊗ B, ρj (A) ⊗ t B −1 , A) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)}
で与えられる (See 定義 4.1). ただし, ρ0 (A) = 1 ∈ GL(1) である.
証明. G′j := {(ρj+1 (A) ⊗ B, ρj (A) ⊗ t B −1 , A) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)} とおく. 注意
4.4 より, 命題 4.3 における Gj と G′j は連結 reductive Q-split 部分代数群である. Gj
と G′j を GL(2j+3)l+2 の部分代数群とみなしたとき, ある h ∈ GL(2j+3)l+2 が存在して
G′j = hGj h−1 を満たす. 補題 4.5 とシューア (Schur) の補題より, ある (g1 , g2 , g3 ) ∈
GL(j+2)l (Q) × GL(j+1)l (Q) × SL2 (Q) が存在して G′j = (g1 , g2 , g3 ) · Gj · (g1−1 , g2−1 , g3−1 )
を満たす. [K1, p. 24] より, 主張を得る.
5
定理 1.1 の証明
裏返し変換において, 普遍推移性は不変である ([I, Proposition 3.1]). T の左側の
既約成分は正則 trivial PV と裏返し同値であるので, 普遍推移性をもつ PV である
(See 例 2.2 and 定義 3.2). T において, (GL1 )In ⊂ G̃ と仮定しても, 一般性を失わ
ない. 命題 2.6 と命題 4.6 より, 主張を得る.
40
6
定理 1.2 の証明
(∗)
Λ1 = Λ1 となる T に対して証明する. 命題 4.6 より, (SL(2) × GL((j + 1)l) ×
GL((j + 2)l), Λ1 Λ1 Λ1 ) のある Q 有理的な generic point における generic
isotropy subgroup は {(A, ρj (A) ⊗ t B −1 , ρj+1 (A) ⊗ B) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)} で
ある. ここで, G1 := {(A, ρj (A) ⊗ t B −1 , ρj+1 (A) ⊗ B) | A ∈ SL(2), B ∈ GL(l)} × G̃,
G2 := SL(2) × GL(l) × G̃ とおく. このとき, 代数群の同型 Φ : G2 ∋ (A, B, g̃) 7→
(A, ρj (A) ⊗ t B −1 , ρj+1 (A) ⊗ B, g̃) ∈ G1 が存在する.
三つ組 M ((j + 2)l, n) ∋ X 7→ (ρj+1 (A) ⊗ B)X t g̃ ∈ M ((j + 2)l, n) ((A, B, g̃) ∈ G2 )
は (SL(2) × GL(l) × G̃, (j + 1)Λ1 Λ1 Λ1 ) である. よって PV であり, その generic
point を X0 ∈ M ((j + 2)l, n) とする. (G1 )X0 := {(A, ρj (A) ⊗ t B −1 , ρj+1 (A) ⊗ B, g̃) ∈
G1 | (ρj+1 (A) ⊗ B)X0 t g̃ = X0 }, (G2 )X0 := {(A, B, g̃) ∈ G2 | (ρj+1 (A) ⊗ B)X0 t g̃ =
X0 } とおいたとき, Φ によりこの二つの群は同型である. ここで, (G1 )X0 (resp.
(G2 )X0 ) は T (resp. (SL(2) × GL(l) × G̃, ρj+1 Λ1 Λ1 )) の generic isotropy
subgroup であることに注意する.
(G1 )X0 (resp. (G2 )X0 ) の表現 (Λ1 Λ1 Λ1 1 + 1 1 Λ1 Λ1 )|(G1 )X0 (resp.
ρj+1 Λ1 Λ1 |(G2 )X0 ) を τ1 (resp. τ2 ) とおく.
Φ(Ker τ2 ) = Ker τ1
が成立することを示す. Φ(Ker τ2 ) ⊃ Ker τ1 は明らかである. (A, B, g̃) ∈ Ker τ2 を
とってくる. 補題 2.4 より, ある λ ∈ GL(1) が存在して ρj+1 (A) = λIj+2 を満たす.
(
)
a b
A=
と書いたとき, ρj+1 (A) の (1, j + 2) 成分 (resp. (j + 2, 1) 成分) は
c d
bj+1 (resp. cj+1 ) より, b = c = 0, d = a−1 を得る. よって,


aj+1
0 ...
0

(
) 

 0 aj−1 . . .
0
a 0


= λIj+2
ρj+1
= .
..
.. 
...
−1
.


0 a
.
.
.


−j−1
0
0 ... a
より, a = ±1 となるので, A = ±I2 を得る. j + 1 が偶数の場合を考える. このと
き, ρj+1 (±I2 ) = Ij+2 , λ = 1 となる. 補題 2.4 より, ある µ ∈ GL(1) が存在して
41
(A, B, g̃) = (±I2 , µIl , µ−1 In ) となる. よって,
(A, ρj (A) ⊗ t B −1 , ρj+1 (A) ⊗ B, g̃) = (±I2 , ±µ−1 I(j+1)l , µI(j+2)l , µ−1 In )
となる (複号同順). したがって, Φ(A, B, g̃) ∈ Ker τ1 より, Φ(Ker τ2 ) ⊂ Ker τ1 とな
る. j + 1 が奇数の場合も同様にして, Φ(Ker τ2 ) ⊂ Ker τ1 を示すことができる. 以上
より, Φ(Ker τ2 ) = Ker τ1 が示せた.
代数群の同型 (G2 )X0 ∋ (A, B, g̃) 7→ Φ(A, B, g̃) ∈ (G1 )X0 と Φ(Ker τ2 ) = Ker τ1
より,
τ2 ((G2 )X0 ) ∼
= (G2 )X0 / Ker τ2 ∼
= (G1 )X0 / Ker τ1 ∼
= τ1 ((G1 )X0 )
を得る. ここで, 正則 trivial PV の generic isotropy subgroup の表現による像は
連結半単純であることに注意する. (SL(2) × GL(l) × G̃, ρj+1 Λ1 Λ1 ) は正則
trivial PV と裏返し同値なので, 命題 3.5 より, τ2 ((G2 )X0 ) は連結半単純である.
(∗)
よって, τ1 ((G1 )X0 ) も連結半単純であるので, Λ1 = Λ1 となる T に対して証明でき
(∗)
た. Λ1 = Λ∗1 となる T に対しても同様に証明できる. したがって, 主張を得る.
参考文献
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Springer-Verlag (1991).
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finite number of orbits, J. Algebra 370 (2012), 361-386.
[S] T. A. Springer, Linear Algebraic Groups, Second Edition, Modern Birkhäuser
Classics.
43
Symmetric design の p-rank と
coherent configuration の standard module について
宮崎泰明 (信州大学大学院総合工学系研究科)
1 序文
一般に,同じパラメータをもつデザインであっても incidence matrix の標数 p の体上の rank
(p-rank)は等しいとは限らない.また,同じパラメータをもつデザイン D1 , D2 が与えられたと
き,ある p においてそれらの incidence matrix の p-rank が異なるなら D1 と D2 は非同型である.
このことから,incidence matrix の p-rank はデザインの同型判定に有用であることがわかる.
ブロック数と点の個数が等しいデザインのことを symmetric design と呼ぶが,今回はこの
symmetric design のみを扱うこととする.Symmetric design からはタイプ (2, 2; 2) の coherent
configuration を構成することができる (Higman[2]).Coherent configuration からは隣接代数と
呼ばれる代数が自然に定義されるが,この隣接代数の standard module の構造を調べることで,
どのようなときに p-rank に違いが現れる可能性があるのかが見えてくる.また非常に難しいこ
とではあるが,standard module の構造を完全に決定することができれば,incidence matrix の
p-rank 以上の情報が得られると期待される.
2 2-デザインおよび coherent configuration の定義
この節では,2-デザイン及び coherent configuration の定義を確認し, Symmetric design か
らはどのようにして coherent configuration を構成することができるかということについて紹介
する.
定義 1. P, B を有限集合とし,F を P × B の部分集合とする.
次の条件を満たすとき,(P, B, F ) を 2-(υ, k, λ) デザインという.
(1) |P | = υ
(2) 任意の b ∈ B に対して,♯{p ∈ P |(p, b) ∈ F } = k
(3) 任意の異なる 2 点 p, q ∈ P に対して,♯{b ∈ B|(p, b), (q, b) ∈ F } = λ
1
44
2-(υ, k, λ) デザイン (P, B, F ) が与えられたとき,N を行と列をそれぞれ P と B で添字付けし
た行列で
{
(N )pb =
1 if (p, b) ∈ F
0 if (p, b) ∈
/F
と定める.これを incidence matrix という.N が正方行列であるとき,このデザインは sym-
metric であるという.
次に,隣接行列と呼ばれる行列を定義した上で,coherent configuration を定義する.
定義 2. X を有限集合とする.s ⊂ X × X に対して,σs ∈ M atX (C) を
{
(σs )xy =
if (x, y) ∈ s
if (x, y) ∈
/s
1
0
と定め,これを s の隣接行列という.
定義 3. X を有限集合,S を X × X の分割とする.次の条件を満たすとき,(X, S) を coherent
configuration という.
(1) S の部分集合 {11 , · · · , 1r } があって,
r
∑
σ1i = IX ,
i=1
(2) s ∈ S に対して,t σs = σs∗ となる s∗ ∈ S がある,
(3) s, t ∈ S に対して,非負整数 pust があって,σs σt =
∑
pust σu
u∈S
(X, S) を coherent configuration, K を体とする.このとき
KS =
⊕
s∈S
Kσs
(
⊂ M atX (K)
)
と定め,これを隣接代数という.
次に,symmetric design から coherent configuration を構成する.
(X1 , X2 , F ) を symmetric (υ, k, λ)-design とし,N を incidence matrix とする.
s1 = {(x, x) | x ∈ X1 }, s2 = X1 × X1 − s1 ,
s3 = {(x, x) | x ∈ X2 }, s4 = X2 × X2 − s3 ,
s5 = F, s6 = X1 × X2 − F,
s7 = s∗5 , s8 = s∗6 , (s∗ = {(y, x) | (x, y) ∈ s})
とし,X = X1 ∪ X2 , S = {s1 , s2 , · · · , s8 } とおく.
2
45
このとき
∑8
i=1
σsi = J (J は全成分 1 の行列) であるから,S は X × X の分割である.
また,σs1 + σs3 = I であり,s∗s1 = ss1 , s∗s2 = ss1 , s∗s3 = ss3 , s∗s4 = ss4 , s∗s5 = ss7 , s∗s6 = ss8
となっている.
さらに,隣接行列の積については次のようになる.ただし,σi = σsi である.
σ1
σ2
σ1
σ1
σ2
σ7
σ7
σ8
σ8
σ3
σ4
σ3
σ3
σ4
σ5
σ5
σ6
σ6
σ2
σ2
(υ − 1)σ1
+(υ − 2)σ2
(k − 1)σ7
+kσ8
(υ − k)σ7
+(υ − k − 1)σ8
σ5
σ5
(k − 1)σ5
+kσ6
kσ3
+λσ4
(k − λ)σ4
σ4
σ4
(υ − 1)σ3
+(υ − 2)σ4
(k − 1)σ5
+kσ6
(υ − k)σ5
+(υ − k − 1)σ6
σ7
σ7
(k − 1)σ7
+kσ8
kσ1
+λσ2
(k − λ)σ2
σ6
σ6
(υ − k)σ5
+(υ − k − 1)σ6
(k − λ)σ4
(υ − k)σ3
+(υ − 2k + λ)σ4
σ8
σ8
(υ − k)σ7
+(υ − k − 1)σ8
(k − λ)σ2
(υ − k)σ1
+(υ − 2k + λ)σ2
以上から,(X, S) は coherent configuration であることがわかる.
3 計算結果
この節では,(υ, k, λ)-デザイン ( (υ, k, λ) ≡ (1, 0, 0) (mod 2) ) から得られる coherent config-
uration についての計算結果を紹介していく.
(X, S) を (υ, k, λ)-デザインから得られる coherent configuration とする.
このとき,(X, S) の隣接代数の指標表は次で与えられる.
s1
1
1
χ1
χ2
s2
υ−1
−1
s3
1
1
s4
υ−1
−1
multiplicity
1
υ−1
次に,F を標数 2 の体とする.F 上の指標表は次のようになる.
φ1
φ2
φ3
s1
1
1
0
s2
0
1
0
s3
1
0
1
s4
0
0
1
multiplicity
1
υ−1
υ−1
これらから,decomposition matrix と cartan matrix は次のようになることがわかる.
D=
(
1 0
0 1

)
1
0
t

, C = DD = 0
1
0
3
46
0
1
1

0
1
1
ここで,φ1 , φ2 , φ3 に対応する既約加群を A, B, C とすると,それぞれの射影被覆は
[ ]
[ ]
B
C
P (A) = A, P (B) =
, P (C) =
C
B
となる.
ここで,
eB = σ2 , eC = σ4 , α = σ5 , β = σ7
とおき,
α
Q:
β
としたとき,隣接代数 F S に対して
FS ∼
= M2 (F ) ⊕ F Q/(αβ, βα)
となることがわかる.
以上のことから,standard module F X の構造は次のようになる.
[ ]
[ ]
B
C
∼
⊕b
⊕ c[B] ⊕ d[C]
F X = [A] ⊕ a
C
B
ここで,a は元のデザインの incidence matrix の p-rank の値と等しい.つまり,今回の結果で
は standard module F X の構造を調べることで得られる情報は incidence matrix の p-rank を調
べることで得られる情報と同じものであることがわかった.
参考文献
[1] Noboru Hamada. On the p-rank of the incidence matrix of a balanced or partially balanced
incomplete block design and its applications to error correcting codes. Hiroshima Math.
J., Vol. 3, pp. 153–226, 1973.
[2] D. G. Higman. Coherent algebras. Linear Algebra Appl., Vol. 93, pp. 209–239, 1987.
4
47
擬スキーモイドの引き戻しについて
百瀬 康弘
(信州大学大学院 総合工学系研究科)∗
1. 導入
擬スキーモイドとは, 代数的組合せ論の研究対象であるアソシエーションスキームを小
圏を用いて一般化したものであり Kuribayashi–Matsuo [1] によって導入された. さら
に, [1] では擬スキーモイドの間の射を定め擬スキーモイドの圏という枠組みを定義し
ている. 擬スキーモイドの定義およびその間の射は以下の通りである.
定義 1. C を小圏, S を射全体の集合の分割とする. (C, S) が擬スキーモイドとは, 任意
の σ, τ, µ ∈ S と f, g ∈ µ に対して集合として
{(u, v) ∈ σ × τ | u ◦ v = f } ∼
= {(u, v) ∈ σ × τ | u ◦ v = g}
となるときをいう.
定義 2. (C, S) と (D, U ) を擬スキーモイド, F : C → D を関手とする. S の元 σ に対し
て F (σ) ⊂ σ ′ となる U の元 σ ′ が存在するとき F を (C, S) から (D, U ) への射という.
アソシエーションスキームを擬スキーモイドへ一般化した目的の一つとして小圏の
(
)
ホモトピー論の適用が挙げられる. 小圏 C に対して C, { { f } }f ∈mor(C) は擬スキーモ
イドである. この意味で小圏の圏は擬スキーモイドの圏へ埋め込まれる. このことから
小圏のホモトピー論を利用して擬スキーモイドの圏上でもホモトピー論を議論できな
いか疑問に挙がる. しかしながら, 擬スキーモイドの圏は完備な圏ですらない. それは,
直積や終対象は存在するものの, 引き戻しが存在するとは限らないのが原因である. 小
圏の圏には引き戻しは必ず存在するので, この小圏の引き戻しを用い, 擬スキーモイド
の圏に条件を与えることによって完備な擬スキーモイドの圏の構成を目指す. より詳
細に述べると本稿では, 擬スキーモイドとその間の射に対して情報を付加し再定義する
ことによって, 与えられた擬スキーモイドの射の組に対して引き戻しを構成出来たこと
を述べる.
2. 定義
ここでは, 導入で現れた引き戻しを述べる. また, 擬スキーモイドとその間の射を再定
義する.
定義 3. M を圏, f1 : A1 → B と f2 : A2 → B を M の射とする. (X, p1 , p2 ) が射の組
(f1 , f2 ) に対する引き戻しとは, p1 : X → A1 , p2 : X → A2 が M の射であり以下を満た
すときをいう.
1. f1 ◦ p1 = f2 ◦ p2 が成り立つ.
2. f1 ◦ g1 = f2 ◦ g2 となる射 g1 : C → A1 と g2 : C → A2 に対して, g1 = p1 ◦ g かつ
g2 = p2 ◦ g を満たすような射 g : C → X が一意的に存在する.
∗
e-mail: [email protected]
48
C
g1
g
$
X
g2
p1
/ A1
f2
p2
A2
f1
/B
小圏の圏での引き戻しは以下のように構成される.
例 4. 関手 F1 : C1 → D, F2 : C2 → D に対して, 引き戻し C1
圏である.
(
• ob C1
×
(F1 ,F2 )
(
• mor C1
×
C2
(F1 ,F2 )
)
C2
×
(F1 ,F2 )
C2 は以下のような小
= { (c1 , c2 ) ∈ ob(C1 ) × ob(C2 ) F1 (c1 ) = F2 (c2 ) }.
)
= {(c1 , c2 ) ∈ mor(C1 ) × mor(C2 )|F1 (c1 ) = F2 (c2 )}.
C1
×
(F1 ,F2 )
C2
p1
/ C1
p2
F1
ここで i = 1, 2 に対して, pi : C1
C2
×
(F1 ,F2 )
F2
/D
C2 → Ci は第 i 成分を射影する関手である.
以下が主定理で用いる擬スキーモイド及びその間の射の定義である.
定義 5. (C, S, φ) が擬スキーモイドとは, C が小圏, S が射全体の集合の分割であり,
f
S の元 σ, τ と C の射 f に対して Pστ
= { (u, v) ∈ σ × τ u ◦ v = f } としたとき φ =
{ (στ f g)
}
f
(στ f g)
g
φ
: Pστ → Pστ φ
は全単射 σ,τ,µ∈S, f,g∈µ であるときをいう.
つまり, [1] の意味での擬スキーモイドの定義に現れる全単射を 1 つ固定するという条
件を加えている.
定義 6. (C, S, φ), (D, U, ψ) を擬スキーモイドとする. F が (C, S, φ) から (D, U, ψ) への
擬スキーモイドの射とは以下を満たすときをいう.
1. F は C から D への関手.
2. S の元 σ に対して, F (σ) ⊂ σ ′ となる U の元 σ ′ が存在する.
3. S の元 σ, τ , µ と µ の元 f , g に対して以下は可換.
φ(στ f g)
g
f
−−−−−−−−→ Pστ
Pστ


F ×F
F ×F
y
y
F (f )
ψ (σ
′ τ ′ F (f )F (g))
F (g)
Pσ′ τ ′ −−−−−−−−→ Pσ′ τ ′
これは, [1] の意味での擬スキーモイドの間の射であって, 固定された全単射に関して
自然であるという条件である.
49
3. 主定理
以下で, 与えられた 2 つの擬スキーモイドの間の射に対する引き戻しを具体的に述べる.
定理 7. F1 : (C1 , S1 , φ1 ) → (D, U, ψ), F2 : (C2 , S2 , φ2 ) → (D, U, ψ) を擬スキーモイドの
射とする. また,
{
}
S1 × S2 = (σ1 × σ2 ) ∩ mor(C1 × C2 ) σ1 ∈ S1 , σ2 ∈ S2 ,
(F1 ,F2 )
φ1
×
(F1 ,F2 )
(F1 ,F2 )
φ2 =
とする. このとき,
る引き戻しである.



((
(φ1 × φ2 )
C1
×
(F1 ,F2 )
f
Pστ
C2 , S 1
σ, τ, µ ∈ S1
g
f
→ Pστ
: Pστ
×
(F1 ,F2 )
S2 , φ 1
f, g ∈ µ
×
(F1 ,F2 )
)
×
(F1 ,F2 )
)

S2 

φ2 , p1 , p2 は (F1 , F2 ) に対す
この擬スキーモイドの引き戻しの基礎圏は小圏の引き戻しなので次の命題が成り立
つ. 以下では, 本稿の意味での擬スキーモイドの圏を q ASmd, 小圏の圏を Cat とかく.
命題 8. K を
• 小圏 C に対して, K(C) = (C, {{f }}f ∈mor(C) , φ),
• 関手 F に対して, K(F ) = F
とすると K : Cat → q ASmd は関手であり, 引き戻しを保つ.
また, G を群としたとき G の作用をもつ小圏を G-圏と呼び, 昨年の代数学若手研究会
で G-圏に対して擬スキーモイドを構成したがこれも本稿の意味での擬スキーモイドと
なっている. このことを次の命題で述べる. 以下では, G-圏の圏を G-Cat とかく.
命題 9. α を
• G-圏 C に対して, α(C) = (C, mor(C)/G, φ),
• 関手 F に対して, K(F ) = F
とすると α : G- Cat → q ASmd は関手であり, 引き戻しを保つ.
但し, Gu, Gv, Gw ∈ mor(C)/G と g1 u, g2 u ∈ Gu に対して, φ(Gv
である.
Gw
g1 u g2 u)
=
g2 g1−1
(−)
参考文献
[1] K. Kuribayashi and K. Matsuo. Association schemoids and their categories. to appear
in Applied Categorical Structures, preprint (2013). arXiv:1304.6883 math. CT.
[2] Saunders Mac Lane. Categories for the working mathematician, volume 5 of Graduate
Texts in Mathematics. Springer-Verlag, New York, second edition, 1998.
50
Generalized complexes associated with repetitive categories
小川 泰朗 ∗
名古屋大学大学院 多元数理科学研究科
概 要
複体とは 2-微分を有する次数付き対象のことで,数学の幅広い分野で応用されている.
“ 2-微分 ”である
ことはどれほど本質的なのだろうか?拙稿ではこの問に対する1つの解答を与える.即ち,反復圏 (repetitive
category) を通じて構成される一般化された複体についても“ 良い ”ホモロジー群や導来圏が定義できるこ
とを示し,これらと通常の導来圏との関係について述べる.
1
N -複体の導来圏
先ずは選考結果 [IKM] について概観する.つまり,2-微分の替わりに N -微分を有する N -複体を定義し,
通常の 2-複体同様,ホモロジー群や導来圏が定義できることを述べる.さらに 2-複体の導来圏と N -複体の
導来圏の関係について述べる.
定義 1.1. 体 k 上の有限次元代数 R に対して加群圏 ModR を考える.また N ≥ 2 とする.
(i) 加群圏 ModR における N -複体 X とは,対象と射の列
di−1
di
· · · → X i−1 −−−→ X i −→ X i+1 → · · ·
で,全ての i について di−N +1 · · · di+1 di = 0 を満たすものを言う.N -複体の間の射 f : X → Y とは,
R 準同型の組 {f i : X i → Y i }i∈Z で各微分 di と可換なものを言う.N -複体の圏を CN (R) と表す.
i
(ii) 正数 r > N および i ∈ Z に対して,ホモロジー群 H(r)
(X) を以下で定義する.
i
H(r)
(X) := Ker(di+r−1··· di )/ Im(di−1 · · · di−r ).
2-複体の場合同様,N -複体の間の射にも null-homotopic が定義でき,これに誘導されるホモロジー群の間
の射は 0 になる.
定義 1.2. N -複体の間の射 f : X → Y が null-homotopic であるとは,各 i ごとに準同型 si : X i → Y i−N +1
が存在し,
fi =
N
−1
!
j=1
+j i+j−1 i+j−2
di−1
· · · di−N
s
dX
· · · di
Y
Y
となることを言う.
命題 1.3. N -複体の間の射 f : X → Y が null-homotopic であれば,これに誘導されるホモロジー群の間の
i
射 H(r)
(f ) は,全ての i, r で 0 になる.
2-複体の場合同様,null-homotopic な射の全体はイデアル I をなし,N -複体のホモトピー圏が定義できる.
∗ [email protected]
51
定義 1.4. N -複体のホモトピー圏 KN (R) とは,N -複体を対象とし,任意の N -複体 X, Y に対し射空間を
HomKN (R) (X, Y ) := HomCN (R) (X, Y )/I(X, Y )
により定義したものである.
2-複体の圏 C(R) における射が null-homotopic であるとは,ある特別な対象(relative-projective な対象)
を経由することと同値である.N -複体の圏 CN (R) においても同様の特徴付けが可能である.CN (R) におけ
"
る relative-projective な対象 P とは次の形をした対象 Pi の直和 i∈I Pi と同型であるものを言う.
Pi = (· · · → 0 → Qi = Qi = · · · = Qi → 0 → · · · )
#
$%
&
N 個
ここで,各 Qi は R 加群である(射影的でなくても良い!).
続いて,2-複体の場合を真似て N -複体の導来圏を定義する.
定義 1.5.
i
(i) N -複体 X が acyclic であるとは,各 i, r で H(r)
(X) = 0 となることを言う.acyclic な N -
複体全体からなる部分ホモトピー圏を KφN (R) と書く.
(ii) N -複体の導来圏 DN (R) をホモトピー圏 KN (R) の KφN (R) による Verdier 商で定義する.
DN (R) := KN (R)/KφN (R).
環 R に対して,通常の導来圏 D(R) と N -複体の導来圏 DN (R) の関係を調べるのは自然なことであろう.
次の結果が知られている.
定理 1.6. [IKM] 次の三角同値が存在する.
ここで,TN −1 (R) は上三角行列環
'
R
0
DN (R) ≃ D(TN −1 (R)).
(
··· R
.
. . . である.
. .
R
この定理は環 R の N -導来圏 DN (R) が,環を取り換えることで通常の導来圏として実現できることを意味
する.
2
Â-複体の導来圏
本節では,N -複体をさらに一般化するための道具として反復圏 (repetitive category) を導入する.その動
機付けの説明をするために,先ずは N -複体の圏を以下のように捉え直す.
次の有向グラフと関係式を考える.
d
d
d
··· → • −
→•−
→•−
→ • → · · · , dN = 0
(1)
直観的な説明ではあるが,この有向グラフの点 • に R 加群,矢印 → に R 準同型を,関係式 dN = 0 を満
たすように貼り付けると N -複体が出来る.精確には,有向グラフ (1) に誘導される前加法的 k-線型圏 N
に対して,N から ModR への反変関手全体からなる圏を Funk (N op , ModR) を考える.このとき,圏同値
Funk (N op , ModR) ≃ CN (R) を得る.
(1) のような “良い” 有向グラフを作るための道具が反復代数である.
52
定義 2.1. [Hap, HW] 標準 k 双対を D := Homk (−, k) を表す.有限次元 k 代数 A に対して,その反復代数
 とは,ベクトル空間
'
( '
(
)
)
 :=
A ⊕
DA
i∈Z
i∈Z
に以下で積を定めたものである.ベクトル空間 Â の元 (ai , ϕi )i∈Z , (bi , ψi )i∈Z に対し,
(ai , ϕi )i∈Z · (bi , ψi )i∈Z := (ai bi , ai+1 ψi + ϕi bi )i∈Z
と定める.
注 2.2. 反復代数 Â の定義は,次のように考えておくと分かり良い.つまり,無限行列
⎛
⎜
⎜
⎜
⎜
 = ⎜
⎜
⎜
⎜
⎝
..
..
.
.
A
0
DA
A DA
A
0
⎞
⎟
⎟
⎟
⎟
⎟
⎟
.. ⎟
. ⎟
⎠
..
.
に自然な積を定めたものである.
例 2.3. 反復代数 Â の構造を表す有向グラフの例を見てみる.
(i) 体 k の反復代数 k̂ の有向グラフは,
d
d
d
··· → • −
→•−
→•−
→ • → · · · , d2 = 0
で与えられる.この有向グラフに R 加群及び R 準同型を張り付けて得られるのは,通常の 2-複体であ
る.従って,圏同値 Funk (k̂ op , ModR) ≃ C(R) を得る.
⎛
⎞
k ··· k
⎜
. ⎟
..
(ii) 上三角行列環 A = ⎜
. .. ⎟
⎝
⎠ の反復代数 Â の有向グラフは,
k
0
d
d
d
··· → • −
→•−
→•−
→ • → · · · , dN = 0
で与えられる.つまり,圏同値 Funk (Âop , ModR) ≃ CN (R) を得る.
⎛
⎞
k k 0
⎜
⎟
(iii) 行列環 A = ⎝ 0 k k ⎠ の反復代数 Â を表す有向グラフは,
0
···
0
k
❴ ❴ ❴ ❴ ❴•❴ ❴ ❴ ❴ ❴ ❴•❴ ❴ ❴ ❴ ❴ ❴•
•❴
❅❅
" ❅ ∗
" ❅
"
❅❅αn−1
⑧⑧ ❅❅❅βn−1
⑧⑧ ❅❅❅αn+1
⑧⑧
⑧
⑧
⑧
❅❅
❅❅
❅❅
⑧
⑧
⑧
❅! ⑧⑧⑧ βn−1
❅! ⑧⑧⑧ α∗n
❅! ⑧⑧⑧ βn+1
❴ ❴ ❴ ❴ ❴•
• ❴ ❴ ❴ ❴ ❴ ❴" • ❴
∗
⑧" ❅❅❅
⑧ ❅❅❅
⑧" ❅❅❅
∗
βn−2
βn
⑧
⑧
α
n
❅❅
❅❅
❅❅
⑧
⑧
⑧⑧
⑧
⑧
⑧
❅❅ ⑧⑧
∗
⑧
βn ❅❅
⑧⑧ α∗n+1 ❅❅!
⑧❴⑧ ❴ ❴αn−1
!
⑧
!
⑧
❴ ❴ ❴•❴ ❴ ❴ ❴ ❴ ❴•❴ ❴ ❴ ❴ ❴ ❴•
•
···
∗ ∗
及び関係式 βn αn = 0, αn
βn−1 = 0, αn+1 αn∗ = βn∗ βn により与えられる.
以上の例から分かるように反復代数が与えられれば,それを表現する有向グラフが得られる.雑に言うと,
この有向グラフに R 加群と R 準同型を貼り付けたものが Â-複体である.
53
定義 2.4.
(i) 反復代数 Â とその直交原始冪等元の完全系 {ei }i∈Z に対して,反復圏(repetitive category)
とは,対象を {ei }i∈Z ,射空間を Hom(ei , ej ) := ej Âei で定義したものである.この k-線型圏を Â で
表す.
(ii) 反復圏 Â に対して,Funk (Âop , ModR) を Â-複体の圏といい CÂ (R) で表す.
注 2.5.
(i) Â-複体の圏 CÂ (R) は,直交原始冪等元の完全系の取り方によらず,圏同値を除いて一意的に
決まる.
(ii) 反復圏  は自己入射的である.つまり,Mod はフロベニウスなアーベル圏となる.
第1,2節同様,Â-複体に対しても null-homotopic 射を定義する.N -複体の場合は,実際に図式を使っ
て null-homnotopic を定義することができた.しかし Â-複体の場合は,その形は A の取り方によって様々で
ある.図式を使って定義することはできない.そこで利用するのが,relative-projective な対象を経由すると
いう条件である.
定義 2.6.
(i) 射影的な右 Â 加群 P 及び R 加群 Z に対して,P ⊗k Z を次の方法で CÂ (R) の対象と見做
す.圏 CÂ (R) の対象とは Â から ModR への関手であるから,
−⊗ Z
P
P ⊗k Z : Â −
→ Modk −−−k−→ ModR.
と考えればよい.P ⊗k Z の形で書ける CÂ (R) の対象を relative-projective と言う.
(ii) 圏 CÂ (R) の射 f : X → Y が null-homotopic であるとは,f がある relative-projective な対象を経由
することを言う.つまり,ある P ⊗k Z が存在し,
X
f1
# P ⊗k Z
f2
#$ Y
f
と分解できることを言う.
例 2.7. 例 2.3 の場合の relative-projective な対象 P ⊗k Z の形を見てみよう.
(i) A = k の場合は,Â-複体は通常の 2-複体に他ならない.実際,relative-projective な対象は,
P ⊗k Z = (· · · → 0 → Z = Z → 0 → · · · )
となる.
(ii) A = TN −1 (k) の場合は,Â-複体は N -複体であった.実際,
P ⊗k Z = (· · · → 0 → Z
# =Z=
$%· · · = Z& → 0 → · · · )
N 個
となる.
⎛
k
⎜
(iii) A = ⎝ 0
0
···
k
k
0
⎞
0
⎟
k ⎠ の場合は,直既約射影的 Â 加群 P の取り方で,次のいずれかの形になる.
k
0❁
0
Z
0
❁❁ &&" ❅❅❅ ⑦⑦⑦⑦ ❃❃❃ ✂✂'
& ⑦⑦
% &
! ✂
0
Z
0
✂' ❃❃❃ ⑦⑦⑦⑦ ❅❅❅❅ &&" ❁❁❁
✂
⑦
!
✂
%
⑦
& &
0
Z
0
0
···
54
···
0❁
0
Z
0
❁❁ ✂✂' ❃❃❃ ⑦⑦⑦⑦ ❅❅❅❅❅❅ &&"
! ⑦⑦
&
% ✂
0
Z
Z
✂' ❁❁❁ &&" ❅❅❅❅❅❅ ⑦⑦⑦⑦ ❃❃❃
✂
⑦
✂
% &
⑦
!
0
0
Z
0
···
null-homotopic 射全体はイデアル I を成す.Â-複体のホモトピー圏 KÂ (R) とは CÂ (R) をイデアル I で
割ったもの,つまり射空間を
HomKÂ (R) (X, Y ) := HomCÂ (R) (X, Y )/I(X, Y )
としたものである.
Â-導来圏を定義するには,ホモロジー群と擬同型を定義する必要がある.しかしやはり Â-複体は形がはっ
きりと分からないため Ker α/ Im β の形で定義することは出来ない.そこで,2-複体 X のホモロジー群 H i (X)
がホモトピー圏上の射空間 HomK(R) (R, Σi X) と同型であることに着目する.
定義 2.8.
(i) Â 加群 A 及び R 加群 R に対して,Â-複体 A ⊗k R を考える.このとき Â-複体 X の(i 次)
ホモロジー群を,
i
HÂ
(X) := HomK(R) (A ⊗k R, Σi X)
で定める.ここで Σ は KÂ (R) の懸垂である.
i
(ii) Â-複体 X が acyclic であるとは,各 i, r で HÂ
(X) = 0 となることを言う.acyclic な N -複体全体から
φ
なる部分ホモトピー圏を KÂ (R) と書く.
(iii) Â-複体の導来圏 D (R) をホモトピー圏 K (R) の Kφ (R) による Verdier 商で定義する.
D (R) := K (R)/Kφ (R).
例 2.9.
(i) A = k の場合,Â-複体は通常の複体に他ならず,上で定義した Â-複体としてのホモロジー群
は通常のそれと同型である.
i
HÂ
(X) ∼
= H i (X)
(ii) A = TN −1 (k) の場合,Â-複体は N -複体に他ならないが,Â-複体のホモロジー群と N -複体のホモロ
ジー群は一致しない.しかし,以下の関係等が確認でき,
0
HÂ
(X) ∼
=
)
0
H(r)
(X)
1≤r≤N −1
i
i
各 i で HÂ
(X) = 0 となることと,各 i, r で H(r)
(X) = 0 となることの同値性が分かる.つまり三角同
値 DÂ (R) ≃ DN (R) を得る.
最後に主結果として,Â-導来圏 DÂ (R) も環 R を取り換えることで通常の導来圏として,実現できること
を述べる.
定理 2.10. 三角同値 DÂ (R) ≃ D(A ⊗k R) が存在する.
∼
例 2.11. 上の圏同値 F : DÂ (R) −
→ D(A ⊗k R) による具体的な対象の対応例を挙げておく.例 2.3(iii) 同様,
⎛
⎞
k k 0
⎜
⎟
A = ⎝ 0 k k ⎠ の場合を考える.
0
0
k
55
Â-導来圏 DÂ (R)
導来圏 D(A ⊗k R)
0✿
0
.0
✉, 0 ❈❈❈
⑥+ ❍❍❍❍
✿✿
)
✉✉✉
❈* ☎☎☎
( ⑥⑥⑥
⊕2
0 0 ❅❅ ( 01 ) ✇R
1 ❍❍❍( 01 00 ) ⑤2 0 ✾✾
✆
✇
❍❅!
✾/
⑤⑤
✇✇
✆✆
⊕2
0
R
R
0
···
···
···
0❀
0
X
0
⑥⑥ ❃❃❃ ✄✄.
❀❀ &&' ❆❆❆
& ⑥⑥⑥⑥
( &
% ✄
0
X
0
✄. ❃❃❃ ⑥⑥⑥⑥⑥ ❆❆❆❆ &&' ❀❀❀
✄
%
⑥
✄
(
& &
0
X
0
0
0❃
❃❃
%
X
⑥ ❅❅❅α
⑥⑥⑥⑥⑥
&
Y
'&X ❆❆α
⑦⑦
⑦
❆
&
⑦
⑦
& ⑦
&
0
Y
Z
0
⑧" ❂❂
✄.
⑧⑧β ❂% ✄✄
❄❄❄
'0❀
❄! ✁✁✁ ❀❀(
0
0
···
#0
# A ⊗k R
#0
# ···
···
#0
#X
#0
# ···
0Z
1
···
···
···
···
#0
#
0X
00
0 00
0 00
1
α#
X
0Y
00
0 00
0 00
1
β
#
00
0 00
0 00
#0
参考文献
[Hap] D. Happel, Triangulated categories in the representation theory of finite-dimensional algebras, London Mathematical Society Lecture Note Series, 119. Cambridge University Press, Cambridge, 1988.
[HW] D. Hughes, J. Waschbüsch, Trivial extensions of tilted algebras, Proc. Amer. Math. Soc. 112 (1991),
no. 3, 641–648.
[IKM] O. Iyama, K. Kato, J. Miyachi, Derived categories of N -complexes, preprint arXiv:1309.6039.
[Kra] H. Krause, Derived categories, resolutions, and Brown representability, Interactions between homotopy theory and algebra 101–139, Contemp. Math., 436, Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2007.
56
# ···
導来圏における Matlis dual と Grothendieck dual
岡山大学大学院 自然科学研究科 小野舞子 ∗
概要
1
本稿の内容は,吉野雄二先生との共同研究に基づくものである.
剰余体 k の入射包絡の双対 HomR (−, ER (k)) を Matlis dual と呼ばれる.一方で,
正準加群 ωR での双対 HomR (−, ωR ) は maximal Cohen-Macaulay 加群の理論におい
てが大切な役割を担っている.これらの双対に対して,条件つきではあるが,導来
圏で自然な同型を得ることができ,そのうえ一般化となる定理を導くことができた.
さらに,圏論的な視点から Auslander-Reiten duality の一般化ができた.以上のこ
とをまとめて報告する.
準備
2
以下,(R, m) を剰余体 k をもつ d 次元の可換 Noether 局所環とし,ModR を R 加群
のなす圏とする.また,D+ (ModR)(resp.,D− (ModR)) は ModR からなる左に (resp.,
右に) 有界な鎖複体全体のなす導来圏とする.
2.1
CM 環,CM 加群,MCM 加群,Supp の次元
定義 2.1. M ̸= 0 を有限生成 R 加群とする.dimR M = depthR M が成り立つと
き,M を Cohen-Macaulay(CM) 加群という.環 R が R 加群として,CM 加群となる
とき,R を Cohen-Macaulay(CM) 環という.また,有限生成 R 加群 M が dim R =
depthR M を満たすとき,maximal Cohen-Macaulay(MCM) 加群であるという.こ
こで,depthR M は,M 正則列の長さの最大値を表す.
定義 2.2. M ∈ ModR とする.dim R/p ≥ n となる素イデアル p に対して,Mp = 0
であるとき,dim SuppM ≤ n − 1 と定義する.
∗
[email protected]
1
57
2.2
dializing complex
定義 2.3. IR が dualizing complex であるとは次を満たすときをいう.
1. IR は入射加群からなる有界な複体である.
2. IR のコホモロジーは全て有限生成である.
3. 自然な写像 R → RHomR (IR , IR ) は同型である.
さらに,dualizing complex IR が normalized dualizing complex であるとは,i < 0 で
は I i = 0 であり,H0 (IR ) ̸= 0 を満たすときにいう.
例 2.4.
1. R を Gorenstein 環とする.
0
! E 0 (R)
!R
! E 1 (R)
! ···
! E d (R)
! ···
!0
を R の極小入射分解とする.ここで各 E i (R) は次のような形で表される.
!
E i (R) ∼
ER (R/p)µi (p,R) .
=
p∈SpecR
ここで,ER (R/p) は R/p の入射包絡を表す.µi (p, R) = dimk(p) ExtiRp (k(p), Rp )
で与えられる.
このとき,鎖複体
0
! E 0 (R)
! E 1 (R)
! E d (R)
! ···
!0
! ···
は R の normalized dualizing complex である.ただし,0 次を E 0 (R) として
いる.
2. R が CM 環で正準加群 ωR をもつとする.このとき,ωR の極小入射分解は R
の dualizing complex である.
定理 2.5 ([3]Corollary 1.4.). R が dualizing complex をもつことと,R が有限次元
Gorenstein 環の準同型像であることは必要十分である.
2.3
truncation
定義 2.6. X を鎖複体とする.整数 n に対して,τ >n (X) を以下のように定め,X の
truncation とよぶ.
dn
dn+1
τ >n (X) : · · · → 0 → Kerdn → X n −→ X n+1 −−−→ · · ·
ここで,Kerdn は n − 1 次にあるとする.
2
58
syzygy と transpose
2.4
定義 2.7. M を R 加群とする.
di−1
d
d
2
1
0 → N → Fi−1 −−→ Fi−2 · · · −
→
F1 −
→
F0 → M → 0
を M の極小射影分解とする.このとき,N を M の i-th syzygy と呼び,N = Ωi (M )
と表す.ただし,Ω0 (M ) = M と定める.
さらに,Coker(HomR (d1 , R)) を M の transpose といい,Tr(M ) とかく.
2.5
stable homomorphisms
定義 2.8. M, N を有限生成 R 加群とする.P(N, M ) を N から M への準同型写像のう
ち,自由加群を経由するような写像からなる集合とする.P(N, M ) は HomR (N, M )
の部分 R 加群となる.このとき,
HomR (N, M ) = HomR (N, M )/P(N, M ).
また、EndR (M ) を HomR (M, M ) と表す.
補題 2.9 ([4]Lemma 3.9.). M, N を有限生成 R 加群とする.このとき,次の EndR (N )×
EndR (M ) 加群の同型を得る.
HomR (N, M ) ∼
= TorR
1 (Tr(N ), M )
3
主結果
以下,R は normalized dualizing complex IR を持つとする.また,X ∈ D(ModR)
に対して,X ∨ = RHomR (X, ER (k))(Matlis dual),X † = RHomR (X, IR )(Grothendieck
dual) と表す.
定理 3.1. Y ∈ D− (ModR) に対して,i < 0 のとき dim SuppH i (Y ) ≤ 0 であるとす
る.このとき,
∼
τ >0 (Y ∨ ) −−→ τ >0 (Y † [d])
nat
+
は D (ModR) で自然な同型を与える.
定理 3.1 をより一般的な形を示すことができた.
3
59
定理 3.2. Y ∈ D − (ModR) に対して,i < 0 のとき dim SuppH i (Y ) ≤ 1 とする.こ
のとき,次の完全列を得られる.
HomR (H −1 (Y ), IRd−1 ) −−−→
HomR (H −2 (Y ), IRd−1 ) −−−→
HomR (H −i (Y ), IRd−1 ) −−−→
HomR (H −i−1 (Y ), IRd−1 ) −−−→
H 1 (Y ∨ )
−−−→ H d+1 (Y † ) −−−→
H 2 (Y ∨ )
−−−→ H d+2 (Y † ) −−−→
···············
H i (Y ∨ )
−−−→ H d+i (Y † ) −−−→
H i+1 (Y ∨ )
−−−→ H d+i+1 (Y † ) −−−→
······
さらに,定理 3.1 から,導来圏を使った方法で Auslander-Reiten duality と呼ばれ
る次の定理に証明を与えことができ,その上,Auslander-Reiten duality の一般化を
得ることができた.
定理 3.3. [4, Lemma 3.10(Auslander)] R は CM 環であり,正準加群 ωR をもつよう
な環とする.M, N を MCM R 加群とする.さらに,M 又は N は punctured spectrum
で free とする.
(すなわち,極大イデアルでない素イデアル p に対して,Mp は自由
Rp 加群であるとする.
)このとき,次の同型が成り立つ.
ExtdR (HomR (N, M ), ωR ) ∼
= Ext1R (M, τ N )
ここで,τ N = HomR (Ωd (Tr(N )), ωR ) である.
以下の仮定のもとで定理 3.2 を適用すると,次のような長完全列が得られる.
定理 3.4. M, N を MCM R 加群とする.dim R/p ≥ 2 なる素イデアル p での局所化
Mp が自由 Rp 加群であるとき,次の完全列を得る.
HomR (HomR (N, M ), IRd−1 ) −→ HomR (N, M )∨ −→ Ext1R (M, τ N ) −→
HomR (HomR (N, Ω(M )), IRd−1 ) −→ HomR (N, Ω(M ))∨ −→ Ext2R (M, τ N ) −→
······
参考文献
[1] R.HARTSHORNE, Residues and Duality, Springer Lecture Notes in Mathematics, no.20(1966)
4
60
[2] W.BRUNS and J.HERZOG, Cohen-Macaulay rings, revised edition, Cambridge
Studies in Advanced Mathematics 39, Cambridge University Press,Cambridge
(1998)
[3] T.KAWASAKI, On arithmetic Macaulayfication of Noetherian rings, Trans.
Amer.Math.Soc.354(2002),123-149
[4] Y.YOSHINO, Cohen-Macaulay modules over Cohen-Macaulay rings, London
Mathematical Society Lecture Note Series, 146, Cambridge University Press,
Cambridge(1990)
5
61
切断イデアルに対応する半群環の STRONGLY KOSZUL 性について
柴田 和樹 (立教大学大学院理学研究科)
1. Introduction
G = (V (G), E(G)) を有限単純連結グラフとし, V (G) = {1, . . . , n} を G の頂点集
合, E(G) を G の辺集合とする. このとき, V (G) の 2 つの部分集合 A, B (A ∩ B = ∅,
A ∪ B = V (G)) に対し, (0, 1)-ベクトル δA|B (G) ∈ Z|E(G)| を次のように定義する:
{
1 if |A ∩ {i, j}| = 1,
δA|B (G)ij =
0 otherwise.
ここで, ij ∈ E(G) とする. また,
{(
)
(
)}
δA1 |B1 (G)
δAN |BN (G)
XG =
,...,
1
1
(N = 2n−1 )
とおく. 必要に応じて, XG を (|E(G)| + 1) × N 行列と同一視する. 次に K を体とし,
多項式環 K[q], K[s, T ] をそれぞれ
K[q] = K[qA1 |B1 , . . . , qAN |BN ]
K[s, T ] = K[s, tij | ij ∈ E(G)]
と定める. このとき, 環準同型写像 πG を
πG : K[q] → K[s, T ],
qAl |Bl 7→ s ·
∏
tij
|Al ∩{i,j}|=1
ij∈E(G)
と定義する. この πG の核を G の切断イデアルといい, IG と表す. また, RG = K[q]/IG
とおく. この IG , RG の環論的性質が以下のようにグラフの言葉で表現されている.
Theorem 1.1 ([1]). 切断イデアル IG が 2 次生成であることの必要十分条件は, G が
K4 -minor をもたないことである.
Theorem 1.2 ([8]). 半群環 RG が compressed [9](i.e., IG の任意の逆辞書式順序に
関するイニシャルイデアルがスクエアフリー ) であることの必要十分条件は, G は
K5 -minor をもたず, G のすべての誘導サイクルの長さは 4 以下となることである.
グレブナー基底については, Nagel-Petrović [6] によって, ring graph の場合におい
て IG が 2 次グレブナー基底をもつことが知られている. しかし, IG がいつ 2 次グレ
ブナー基底を持つのかどうかは自明なもの, ring graph 以外では知られていない.
他方, strongly Kosuzl 代数は Herzog-Hibi-Restuccia [2] によって導入された概念
であり, Koszul 代数よりも強いものとなっている. 一般に, 半群環 R とその定義イデ
62
アル I に対し,
I は 2 次グレブナー基底をもつ, or R は strongly Koszul
⇓
R は Koszul
⇓
I は 2 次生成
が成り立つことは知られている. また, Matsuda-Ohsugi [5] により, 以下の結果が知
られている.
Theorem 1.3 ([5]). 任意のスクエアフリーな strongly Koszul 半群環は compressed
である.
しかし, R が strongly Koszul であるとき, I が 2 次グレブナー基底をもつかどうか
は知られていない.
Conjecture 1.4. 半群環 R とその定義イデアル I に対し, R が strongly Koszul なら
ば, I は 2 次グレブナー基底をもつ.
Conjecture 1.4 は edge ring [3], stable set polytope に付随する半群環 [4] の場合は
正しいことが証明されている.
2. Clique sums and strongly Koszul algebras
この報告集では, 半群環に関する同値条件を strongly Koszul 代数の定義として紹
介する.
R を u1 , . . . , un で生成される半群環とし, deg(ui ) = 1(1 ≤ i ≤ n) とする. このと
き, R が strongly Koszul であるとは以下の条件を満たすときにいう.
• 任意の i ̸= j に対し, (ui ) ∩ (uj ) は 2 次生成である.
Proposition 2.1. P, R を半群環とし, Q を P, R のテンソル積, または, Segre 積と
する. このとき, Q が strongly Koszul であることの必要十分条件は, P , R がともに
strongly Koszul となることである.
次にグラフの操作について紹介する. ここでは図を使って説明する. 有限グラフ
G とその辺 e に対し, G/e を G の e での contraction, G \ e を G の e での deletion と
定義する (see Figures 1-3).
Figure 1. G
Figure 2. G/e
Figure 3. G \ e
また, グラフ G とその部分グラフ H に対し,
“i, j ∈ V (H), ij ∈ E(G) ならば, ij ∈ E(H)”
を満たすとき, H を G の induced subgraph といい, H = G[V (H)] と表す.
63
Proposition 2.2. G を有限単純連結グラフとし, RG は strongly Koszul であるとす
る. このとき
(1) H1 が G の誘導部分グラフならば, RH1 は strongly Koszul である.
(2) H2 が G の辺の contraction によって得られるならば, RH2 は strongly Koszul
である.
G1 = (V1 , E1 ), G2 = (V2 , E2 ) を有限単純連結グラフとし, V1 ∩V2 が G1 , G2 の clique
(i.e., G1 [V1 ∩ V2 ], G2 [V1 ∩ V2 ] が完全グラフ) となっているとし, |V1 ∩ V2 | = k + 1 を
満たすとする. このとき, G1 #k G2 = (V1 ∪ V2 , E1 ∪ E2 ) を G1 , G2 の clique sum, あ
るいは, k-sum という.
Proposition 2.3 ([8]). 切断イデアル IG1 , IG2 が 2 次生成 (resp. 2 次グレブナー基
底をもつ ) ならば, IG1 #k G2 も 2 次生成 (resp. 2 次グレブナー基底をもつ ).
グラフ G1 , G2 は G1 #k G2 の induced subgraph であるので,
(♮)
RG1 #k G2 が strongly Koszul ⇒ RG1 , RG2 はともに strongly Koszul
が成り立つことはすぐにわかる. しかし, (♮) の逆は成り立つか?という疑問が残る.
Proposition 2.4. 半群環 RG1 , RG2 が strongly Koszul ならば, RG1 #0 G2 も strongly
Koszul となる.
実際, RG1 #0 G2 は RG1 , RG2 の Segre 積となっているので, Proposition 2.4 が成り立
つことはすぐにわかる. しかし, 1-sum については, (♮) の逆が成り立たないような例
が存在する.
Kn を n 点完全グラフ, Cn を n 点サイクル, Kl1 ,...,lm を完全 m-部グラフとする.
Example 2.5. 3 つのグラフをそれぞれ G1 = K3 #1 K3 (= K4 \ e), G2 = C4 #1 K3 ,
G3 = (K4 \ e)#1 K3 とおく (Figures 4-6). 半群環 RK3 , RC4 , RG1 はすべて strongly
Koszul となる. しかし, RG2 , RG3 は strongly Koszul ではない.
Figure 4. K3 #1 K3
Figure 5. C4 #1 K3
Figure 6. (K4 \ e)#1 K3
3. Gröbner bases for IG
この節では, グラフ G が (K4 , C5 )-minor を持たない場合においての IG のグレブ
ナー基底を求める. そのため, 以下の 2 つの補題を紹介する.
Lemma 3.1. G が 2-連結グラフでないならば, G = G1 #0 · · · #0 Gs となる G の 2-連
結成分 G1 , . . . , Gs が存在する.
64
Lemma 3.2. G を有限単純 2-連結グラフとする. このとき, 以下は同値である:
• G は (K4 , C5 )-minor をもたない,
• G は K3 , K1,1,n−2 , K2,n−2 (n ≥ 4) のいずれかである.
グラフが 2-連結でない場合, Lemma 3.1 より 2-連結成分に分けることができるので,
グラフが 2-連結の場合, 即ち, K2 , K3 , K1,1,n−2 , K2,n−2 (n ≥ 4) について調べれば良い.
始めに, IK2 = IK3 = {0} であり, K1,1,n−2 = K3 #1 · · · #1 K3 なので Proposition 2.3
より IK1,1,n−2 は 2 次グレブナー基底をもつことはわかる. よって, IK2,n−2 についての
み調べれば良い.
< を変数順序 qA|B < qC|D (min{A|B} < min{C|D}) 満たす K[q] 上の逆辞書式順
序とする. このとき, 次が成り立つ.
Theorem 3.3 ([7]). 切断イデアル IK2,n−2 の < に関するグレブナー基底は以下の二
項式全体からなる:
qA|B qE|F − q∅|{1,...,n} q{1,2}|{3,...,n}
(1 ∈ A, 2 ∈ B),
qA|B qC|D − qA∩B|C∪D qA∪B|C∩D (1 ∈ A ∩ C, 2 ∈ B ∩ D, A ̸⊂ C, C ̸⊂ A),
qA|B qC|D − qA∩B|C∪D qA∪B|C∩D
(1, 2 ∈ A ∩ C, A ̸⊂ C, C ̸⊂ A).
ここで, E = (B ∪ {1}) \ {2}, F = (A ∪ {2}) \ {1} とする. 更に, 各二項式の < に関
するイニシャル単項式は先頭の単項式となる.
以上より, 次の結果が従う.
Corollary 3.4. 有限単純連結グラフ G が (K4 , C5 )-minor をもたないならば, IG は
2 次グレブナー基底をもつ.
4. Strong Koszulness of RG
この節では, RG が strongly Koszul となるための必要十分条件をグラフの言葉で
表す.
始めに, RK2 , RK3 は多項式環と同型である. また,








0
1
0 1
0 1
0 1
Y

Y Y 
Y Y 
O Y 
Y







XK1,1,n−2 = 
Y 1n−2,2n−2 − Y  → Y −Y  → Y O  → Y O 
1
1
1 1
1 1
1 0
∼
⊗K RK
であり, RK
は RK の (n − 2) 個の Segre 積
より RK
= RK
1,1,n−2
1,n−2
1,n−2
1,n−2
3
となっているので, RK2 , RK3 , R1,1,n−2 が strongly Koszul となるのはすぐにわかる.
ここで, Y は XK1,n−2 の 1 行目から (n − 2) 行目で構成される部分行列とし, 1n−2,2n−2
を成分がすべて 1 の (n − 2) × 2n−2 行列とする. 従って, RK2,n−2 について調べれば
良い.
Proposition 4.1 ([7]). 半群環 RK2,n−2 は strongly Koszul である.
最後に必要十分条件を述べるために以下の補題を紹介する.
Lemma 4.2. G を K4 -minor を持たない有限単純 2-連結グラフとする. このとき, G
が C5 -minor をもつならば, G の contraction のみの操作によって G は C5 , C4 #1 K3 ,
(K4 \ e)#1 K3 のいずれかとなる.
65
Theorem 4.3 ([7]). 半群環 RG が strongly Koszul であるための必要十分条件は, G
が (K4 , C5 )-minor をもたないことである.
Proof. 始めに G が (K4 , C5 )-minor を持たないとする. このとき, Lemma 3.1, Lemma 3.2
より RK2 , RK3 , RK1,1,n−2 , RK2,n−2 について調べれば良いが, いずれも strongly Koszul
となる. よって Proposition 2.4 より RG は stronlgy Koszul となる.
逆に G が K4 -minor を持つとすると Theorem 1.1 より, IG は 2 次生成ではない.
特に, RG は strongly Koszul ではない. G は K4 -minor を持たないとする. このと
き, G が C5 -minor を持つならば Lemma 4.2 より, G の contraction の操作によって,
C5 , C4 #1 K3 , (K4 \ e)#1 K3 のいずれかとなる. ここで, Example 2.5 より, RC4 #1 K3 ,
R(K4 \e)#1 K3 はいずれも strongly Koszul ではない. また, RC5 は Theorem 1.2, Theorem 1.3 より compressed, 特に strongly Koszul ではない. よって, Proposition 2.2 よ
り RG は strongly Koszul ではない.
□
以上より, 以下の 2 つが直ちに従う.
Corollary 4.4. 半群環 RG が strongly Koszul ならば, 切断イデアル IG は 2 次グレ
ブナー基底をもつ.
Corollary 4.5. 半群環 RG が strongly Koszul ならば, RG\e も strongly Koszul と
なる.
References
[1] A. Engström, Cut ideals of K4 -minor free graphs are generated by quadrics, Michigan Math.
J., 60 (2011), no. 3, 705-714.
[2] J. Herzog, T. Hibi and G. Restuccia, Strongly Koszul algebras, Math. Scand., 86 (2000),
161-178.
[3] T. Hibi, K. Matsuda and H. Ohsugi, Strongly Koszul edge rings, Acta Mathematica Vietnamica, in press.
[4] K. Matsuda, Strong Koszulness of toric rings associated with stable set polytopes of trivially
perfect graphs, J. Algebra Appl., 13 (2014), 1350138 [11 pages].
[5] K. Matsuda and H. Ohsugi, Reverse lexicographic Gröbner bases and strongly Koszul toric
rings, Math. Scand., to appear.
[6] U. Nagel and S. Petrović, Properties of cut ideals associated to ring graphs, J. Commutative
Algebra, 1 (2009), no. 3, 547-565.
[7] K. Shibata, Strong Koszulness of the toric ring associated to a cut ideal, Comment. Math.
Univ. St. Pauli, to appear.
[8] B. Sturmfels and S. Sullivant, Toric geometry of cuts and splits, Michigan Math. J., 57 (2008),
689-709.
[9] S. Sullivant, Compressed polytopes and statistical disclosure limitation, Tohoku Math. J., 58
(2006), 433-445.
Kazuki Shibata, Department of Mathematics, Faculty of Science, Rikkyo University, Toshima-ku, Tokyo 171-8501, Japan.
E-mail address: [email protected]
66
Steinberg’s tensor product theorem for Chevalley
supergroups
柴田 大樹∗ (筑波大学 数理物質科学研究科)
概要
正標数のシュヴァレー群(簡約代数群)の既約表現の様子を知る一つの手がかりとし
てスタインバーグのテンソル積定理と呼ばれるものがある.本研究はこれがシュヴァ
レー・スーパー群に対しても同様に成立することを示した.
1 はじめに
シュヴァレーは,複素数体上の半単純リー代数から,今日ではシュヴァレー群と呼ばれて
いる Z 上の代数群を構成した.シュヴァレー群 G の代数閉体 k 上での既約表現はいわゆ
る G の支配的ウェイト全体と一対一に対応する.この事実は k の標数 p が正であるときも
成り立つが,支配的ウェイトに対応する既約表現の構造は p = 0 の場合と比較して複雑であ
る.シュヴァレー群の正標数における既約表現の構造を知るための有力な手がかりとしてス
タインバーグによる『テンソル積定理』がある.これは次のような主張である:
Thorem 1.1 ( 例えば [4, Part II, 3.17] 参照.). シュヴァレー群 G のウェイト λ を λ =
λ0 + pλ1 + · · · + pr λr と “p-進展開” したとき,ウェイト λ に対応する既約 G-加群 L(λ)
は次の様にテンソル積分解する:
L(λ) ∼
= L(λ0 ) ⊗ L(λ1 )[1] ⊗ · · · ⊗ L(λr )[r] .
ここで (−)[r] は r-フロベニウス射で作用を捻ったものである.
これは乱暴に言うと,より簡単な既約 G-加群 L(λ0 ) さえわかれば,既約加群がわかった気
になれるという結果である.
さて,代数群はその座標環の言葉で完全に記述することができるが,その座標環を『スー
パー化』
(= Z2 -次数化)して得られる概念はスーパー代数群と呼ばれている.近年 [3] にお
∗
[email protected]
本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費 (課題番号:26・2022) の助成を受けて行われたものです.
1
67
いてシュヴァレーの方法を直接的に拡張する形で『シュヴァレー・スーパー群』が構成され
た.一般にスーパー代数群 G に対してその偶部分 Gev が定義されるが,シュヴァレー・
スーパー群の偶部分は通常のシュヴァレー群となっていることに注意しておく.増岡との
共同研究 [8] の結果を用いるとシュヴァレー・スーパー群の既約表現も,ある条件をみたす
ウェイト全体と一対一に対応することが分かる.しかしこれもまた通常のシュヴァレー群の
場合と同様に,正標数の場合には,与えられたウェイトに対応する既約表現の構造を調べる
のは難しい.そこで正標数の表現論研究の手がかりとして,シュヴァレー・スーパー群に対
するテンソル積定理を得た.この定理自体は具体的なスーパー群に対しては個別に知られて
いたことだが,本研究はそれらの統一的かつ一般的な証明を与えたことになる.とくに例外
型のスーパー群も含んでいることに注意したい.
2 代数群とスーパー代数群
以降,k を基礎体とし,k-ベクトル空間や k-代数などは単にベクトル空間や代数という.
また添え字 ⊗k を ⊗ のように略す.
2.1 定義と例
可換代数のなす圏から群の圏への表現可能な群関手 G をアフィン群スキームという.す
なわちある可換代数 C が存在し,任意の可換代数 R に対して G(R) = Algk (C, R) となる
表示を持つような群関手である.ここで Algk (C, R) は C から R への代数射全体を表す.
G には群構造が入っているので,表現する可換代数 C には可換ホップ代数の構造が入る.
この C を O(G) とかく.逆に可換ホップ代数 C が与えられてたとき,Algk (C, −) はホッ
プ代数の余積 ∆ : C → C ⊗ C ,余単位 ε : C → k,アンチポード S : C → C を用いること
で,群演算,群構造が入り群関手となる.
このような対応で,アフィン群スキームの圏と可換ホップ代数の圏は反圏同型である.特
に C が有限生成代数のとき対応する G をアフィン代数群スキーム,簡単に代数群というの
である.
Example 2.1. 可換代数 R に対して,次の群を考える:
!"
#$
%
a b $$
SL2 (R) =
a, b, c, d ∈ R, ad − bc = 1 .
c d $
これは先述の意味で k[A, B, C, D]/(AD − BC − 1) で表現される代数群である.群構
造から誘導されるホップ代数構造は明示的に書き下すと,∆(A) = A ⊗ A + B ⊗ C,
∆(B) = A ⊗ B + B ⊗ D, ∆(C) = C ⊗ A + D ⊗ C, ∆(D) = C ⊗ B + D ⊗ D, ε(A) = 1,
ε(B) = 0, ε(C) = 0, ε(D) = 1, S(A) = D, S(B) = −B, S(C) = −C, S(D) = A で与え
2
68
られる.
本題のスーパーとは Z2 (= {0, 1})-graded と同義語であり,Z2 -graded ベクトル空間
V = V0 ⊕ V1 のことを単にスーパー・ベクトル空間という.このとき言葉遣いとして V0 を
偶部,V1 を奇部といい,元 v ∈ V が斉次,すなわち v ∈ Vi (i = 0, 1) のときに |v| := i と
かきこれを v のパリティーという.
スーパー・ベクトル空間 V, W に対して,次のようなスーパー対称性と呼ばれるものを考
える:
V ⊗ W −→ W ⊗ V ;
&
−w ⊗ v,
v⊗w −
' →
w ⊗ v,
if v ∈ V1 , w ∈ W1 ,
otherwise.
するとスーパー・ベクトル空間全体は自然なテンソル積とこのスーパー対称性により対称テ
ンソル圏をなす.この対称テンソル圏の中の代数,リー代数,ホップ代数などの対象をそれ
ぞれスーパー代数,スーパー・リー代数,スーパー・ホップ代数などというのである.
Example 2.2. 例えば,スーパー代数 A がスーパー・ホップ代数であるとは,スーパー代
数射(Z2 -grading を保つ代数射)
∆ : A → A ⊗ A,
ε : A→k
によって (A, ∆, ε) が余代数の公理の図式:
A
∆
"
A⊗A
∆
!
id ⊗∆
! A⊗A
A "
"""
!!
!
!
"""
!
!
!
""
∆
!
!
"
"
!
!!
"
A ⊗ k # ∆⊗ε A ⊗ A ε⊗∆ ! k ⊗ A,
∆⊗id
"
! A ⊗ A ⊗ A,
をみたしており,いわゆるアンチポード S : A → A をもつものである.また a, b ∈ A に対
して ab = (−1)|a||b| ba が成立するとき A はスーパー可換であるという.簡単のため |a| な
どは a が斉次であるとして表記している.
Remark 2.1. ここで ∆ は特に乗法的であるので,余積を
'
∆(a) =
a1 ⊗ a2
(a ∈ A)
と表記(Heynemann-Sweedler 記法)するとき,
∆(ab) =
をみたしていることに注意.
'
(−1)|a2 | |b1 | a1 b1 ⊗ a2 b2
我々は関手的見地に立った研究をしているので,スーパー化,スーパー対応物の定義もご
く自然に自動的に行なえるという利点がある.すなわち先述のような非スーパーの場合と同
3
69
様にして,(有限生成)スーパー可換ホップ代数によって表現される,スーパー可換代数の
圏から群の圏への群関手をスーパー(代数)群というのである.
Remark 2.2. もちろん “幾何学的” な代数多様体の概念(いわゆる環付空間)をスーパー
版にしたものも考えられるのだが,我々は GL や SL などといった(アフィン的な)対象の
研究に主眼を置いており,これはホップ代数的アプローチで十分事足りているので,本稿で
はそれは扱わない.
この場合も非スーパーのときと同様に次の反圏同型がある:
反同型
(スーパー群)
G
∼
=
(スーパー可換ホップ代数)
'−→
O(G)
'−→
SAlgk (A, −)
A.
ここでスーパー可換代数 R に対して A から R へのスーパー代数射全体を SAlgk (A, R) と
かいている.
重要なこととして,スーパー群 G の中には最大の通常のアフィン群が含まれている.こ
れを Gev とかき G の制限部ということにする.これは具体的には対応するホップ代数の
言葉でいうと,次のような表示をもつものである:
O(Gev ) = A/(A1 ).
ここで,(A1 ) は A1 の生成する A のイデアルである.
Example 2.3 (一般線型スーパー群). スーパー可換代数 R を成分とするブロック行列
X :=
"
X1
X3
X2
X4
#
∈ Matm+n (R)
について,すぐわかるように X が可逆 ⇔ X1 と X4 が可逆であるので,
GL(m|n)(R) := { X ∈ Matm+n (R) | det(X1 ), det(X4 ) ̸= 0 }
とおく.この GL(m|n) は先述の意味でスーパー代数群である.これを一般特殊スー
パー群ということにしよう.定義の仕方からこれのリー・スーパー代数は複素数体上
で Lie(GL(m|n)) = gl(m|n) となっている.また GL(m|n) の制限部は GL(m|n)ev ∼
=
GLm × GLn という形をしている.
対応するスーパー可換ホップ代数の形は,スーパー代数として
O(GL(m|n)) ∼
= O(GLm × GLn ) ⊗ ∧(X2 , X3 )
である.ここで ∧(X2 , X3 ) は行列 X2 , X3 の成分たちの生成する k 上の外積代数である.
4
70
ホップ代数構造はブロック行列表示を用いると次のようにかける:
"
X1
∆
X3
"
X1
ε
X3
"
X1
S
X3
"
#
X1 ⊗ X1 + X2 ⊗ X3 X 1 ⊗ X 2 + X 2 ⊗ X 4
=
;
X3 ⊗ X1 + X4 ⊗ X3 X 3 ⊗ X 2 + X 4 ⊗ X 4
# "
#
X2
1 0
=
= (単位行列);
X4
0 1
# "
#
X2
(X1 − X2 X4−1 X3 )−1
−X1−1 X2 S(X4 )
=
X4
−X4−1 X3 S(X1 )
(X1 − X3 X1−1 X2 )−1
X2
X4
#
で与えられる.ここで S(X1 ), S(X4 ) はそれぞれ O(GLm ), O(GLm ) でのアンチポード.
Example 2.4 (特殊線型スーパー群). 元 X ∈ GL(m|n)(R) について.まず次のブロック
行列の計算に注目する:
"
1
X3 X1−1
0
1
#"
X1
0
X2
X4 − X3 X1−1 X2
#
=
"
X1
X3
X2
X4
#
.
このことから素直に両辺の行列式をとれば,det(X1 ) det(X4 − X3 X1−1 X3 ) = det(X) であ
るが,「スーパー対称性を考慮して」少し捻ったような次の Berezinian と呼ばれる次の量
を考える:
Ber(X) := det(X1 ) det(X4 − X3 X1−1 X3 )−1 .
ここで「スーパー対称性を考慮して」という意味は,よく知られているスーパー・トレース
str
"
X1
X3
X2
X4
#
= tr(X1 ) − tr(X4 )
に関して Ber(1 + ϵX) = 1 + ϵ str(X) (ここで ϵ2 = 0 なる不定元) ,Ber(eX ) = estr(X) を
みたしているという意味.
さて各スーパー可換代数 R に対して
SL(m|n)(R) := { X ∈ GL(m|n)(R) | Ber(X) = 1 }
とおけば SL(m|n) は先述の意味でスーパー代数群である.これを線型特殊スーパー群とい
うことにしよう.これのリー・スーパー代数は複素数体上で Lie(SL(m|n)) = sl(m|n) と
なっており,SL(m|n) の制限部は SL(m|n)ev ∼
= Gm × SLm × SLn という形をしている.
ここで Gm は乗法群.
対応するスーパー可換ホップ代数の形は,スーパー代数として
O(SL(m|n)) ∼
= O(Gm × SLm × SLn ) ⊗ ∧(X2 , X3 )
である.ホップ代数構造は先述のものに関係式 Ber(X) = 1 を入れたもので与えられる.
5
71
2.2 Harish-Chandra ペアの理論
スーパー代数群 G が与えられたときに,付随するデータとして次を考える:
(i) G の制限部 Gev .
(ii) G のリー・スーパー代数 Lie(G) の奇部 V := Lie(G)1 .
(iii) 両者の間の関係性としてスーパー・リー代数のブラケットの制限 [ , ] : V × V →
Lie(Gev ) (= Lie(G)0 ).
Harish-Chandra ペアとはこのような二つのデータ(とその間の関係)を,ホップ代数の
言葉で記述しなおしたものである.すなわち構成員としては,有限生成可換ホップ代数 C
とその有限次元 C-余加群 W からなるペア (C, W ) であって,適当な両立条件をみたすも
のである.正式な定義を述べるには記号の準備が必要なので [7] や [8] を見てください.
本研究の主要道具のひとつにしている Harish-Chandra ペアの理論とは,スーパー代数群
G は,その制限部 Gev と有限次元 Gev -表現なす Harish-Chandra ペアですべて情報がコ
ントロールできるというものである.このことをより詳しく言ったのが次の定理である:
Thorem 2.1 ([7, Theorem 29.], [8, Theorem 4.22]). 任 意 の Harish-Chandra ペ ア
(C, W ) に対して有限生成スーパー可換ホップ代数 A(C, W ) が構成できる.これはスー
パー代数としては A(C, W ) ∼
= C ⊗ ∧(W ) なる形をしているようなものである.
さらにこの構成によって Harish-Chandra ペアのなす自然な圏 HCP と有限生成スー
パー可換ホップ代数のなす圏 AHSA が圏同値になる.
A(C, W )
≈
'−→
AHSA
HCP.
(C, W )
2.3 シュヴァレー・スーパー群
複素数体上の古典型と呼ばれるリー・スーパー代数は V.Kac [5] によって既に分類されて
いる.簡単のため古典型リー・スーパー代数 g = g0 ⊕ g1 のカルタン部分スーパー代数 h は
h0 = h をみたすものとする.有限次元忠実 g-スーパー表現が与えられたときに
(i) 偶部 g0 は簡約リー代数であるので,表現の制限と合わせていわゆる ChevalleyDemazure 構成から(広義)シュヴァレー群 G(g0 ) が構成可能.
(ii) 奇部 g1 は adjoint 作用で有限次元 G(g0 )-加群.
(iii) 与えられたブラケットの制限 [ , ] : g1 × g1 → g0 .
6
72
これらの情報から得られるペア (O(G(g0 )), g∗1 ) は Harish-Chandra ペアをなすことが確
かめられる.ここで g∗1 は g1 の k-線形双対.従って Theorem 2.1 の記号で有限生成スー
パー可換ホップ代数 A(O(G(g0 )), g∗1 ) が構成でき,対応するスーパー群関手 G(g) が構成
できる.この G(g) はスーパー代数群であり G(g)ev = G(g0 ) や複素数体上 Lie(G) = g を
みたしている.
近年 [3] は Chevalley-Demazure 構成のスーパー版として,古典型リー・スーパー代数
g = g0 ⊕ g1 とその有限次元忠実スーパー表現からダイレクトにスーパー代数群を構成し
ておりシュヴァレー・スーパー群と名付けている.実は,我々が先ほど構成した G(g) は
彼らが具体的に構成したシュヴァレー・スーパー群に他ならない.ここら辺の事情は [8,
Section 6] に書いてあります.
さらに我々の構成方法はシュヴァレー・スーパー群 G = G(g) の表現の研究に関しても
利点がある.T を Gev の分裂極大トーラスとする.任意に G-スーパー加群 M が与えら
れたとき,自然に誘導される作用で g(= Lie(G))-スーパー加群構造が M 上に入るのと同
じくして,M は hy(G)-スーパー加群とみれる.ここで,hy(G) は G のハイパー・スー
パー代数と呼ばれるものであり具体的には次式で定義される:
hy(G) :=
∞
(
(O(G)/(Ker ε)n )∗ .
n=1
(⊆ O(G)∗ )
これは自然にスーパー余可換ホップ代数の構造を持ち,基礎体 k が標数ゼロならばリー・
スーパー代数のいわゆる普遍包絡環と一致 hy(G) = Uk (Lie(G)) する.
Definition 2.1. hy(G)-スーパー加群 M が hy(G)-T -スーパー加群 であるとは,M 上に
ある T -加群構造が存在して,誘導される hy(T )-加群構造と,与えられた hy(G)-スーパー
加群構造の hy(T ) への制限が一致するときをいう.
この言葉づかいは [4, Part II,1.20] による(ただし非スーパーの場合)
.他方で,局所有限性
の条件込みで integrable ともいわれている(例えばスーパー群に対しては [2, Section 5]
など).さてシュヴァレー・スーパー群の表現に関して次が成立する:
Thorem 2.2 ([8, Corollary 5.10]). G-スーパー加群全体と,局所有限 hy(G)-T -スーパー
加群全体は一対一に対応する.
いま g = Lie(G) の h = Lie(T ) に関するルート系を ∆ = ∆0 ∪ ∆1 とかき,Lie(T )
の基底を {Hi | 1 # i # ℓ},Lie(G) の基底を {Xα , Hi | α ∈ ∆, 1 # i # ℓ} と表示すれば,
7
73
hy(G) は次のような PBW 基底を持つ:
)
α∈∆+
0
Xα(nα )
)
Xγϵγ
γ∈∆+
1
#
ℓ "
)
Hi )
i=1
mi
α∈∆+
0
(n′ )
X−αα
)
γ∈∆+
1
ϵ′
γ
X−γ
,
(0 # nα , mi , n′α , ϵγ , ϵ′γ = 0, 1)
(2.3.1)
ここで正ルート全体 ∆+ には適当な順序が与えられているものとし,
(n )
Xα α
:= Xαnα /nα !
などと書いている.
従って先の定理と合わせると,G-スーパー加群はルート系の言葉を用いてより代数的に
研究することが可能である.そこでこれを使って何かやってみよう,というのが本研究のモ
チベーションのひとつでもある.
3 スタインバーグのテンソル積定理
先ほどに引き続き体 k 上のシュヴァレー・スーパー群を G = G(g) とかく.分裂極大
トーラスを T とかく.スーパーでないときと同様にして,g のルート系 ∆ の言葉を用いる
ことにより G の(標準的)ボレル部分スーパー群 B が定まる.これはいわゆる下三角行列
どもと思っても差し支えない.記号としてウェイト全体を Λ = X(T ) とかき,∆ の “単純
ルート” 全体を S とかく.
3.1 単純スーパー加群の構成
単純スーパー加群の構成は,スーパーでないときの構成方法と実質同じである.
Remark 3.1. 一方で J. Bichon と A. Riche [1] による “dense big cell” の枠組みを用い
れば,ホップ代数的に簡明な構成・記述ができる.詳細はここでは述べないが「ボゾン化の
テクニック」を用いればスーパー化可能,とだけ注意しておく.
各 λ ∈ Λ に対して 1 次元の左 B-スーパー加群 kλ を,スーパー・ベクトル空間としては
k = k ⊕ 0 であり,T は λ を通して作用するものとする.もちろん k = 0 ⊕ k としてもよ
いが,パリティーが変わってるだけなので今回はこれは真剣には考えない.包含 B ⊂ G か
ら引き起こされるスーパーホップ代数の自然な全射 O(G) $ O(B) の像を a とかく.各 λ
に対して次のような右 O(G)-スーパー余加群(= 左 G-スーパー加群)を考える:
Z(λ) := indG
B (kλ ) := { a ∈ O(G) | a1 ⊗ a2 = λ ⊗ a }.
*
+
このとき Z(λ) ̸= 0 であれば L(λ) := socG Z(λ) は単純 G-加群であり,
Λ† := { λ ∈ Λ | Z(λ) ̸= 0 }
8
74
とおくとき,次のような一対一対応がある:
Λ† ←→ Irr(G) ;
λ '−→ L(λ).
ここで Irr(G) は同型を無視した単純 G-スーパー加群の全体.
Remark 3.2. 制限部 Gev の単純 Gev -加群をパラメトライズするを Λ†ev := { λ ∈ Λ |
ev
Zev (λ) := indG
Bev (kλ ) ̸= 0 } とかくとき,よく知られているようにこれはいわゆる支配的
ウェイト全体 { λ ∈ Λ | ∀α ∈ ∆+
0 , ⟨λ, α⟩ % 0 } に一致している.そしてスーパーの単純
G-スーパー加群をパラメトライズしている Λ† との関係は,Λ† = Z2 × Λ†ev であることは
比較的簡単にチェックできる.この Z2 はパリティーの違い,と解釈できる.
以降,基礎体 k は標数正 char k = p > 2 の代数閉体とする.各 r > 0 に対して,いわゆ
るフロベニウス射を
Fr rR : G(R) −→ G(R) ;
g '−→ g p
r
(R : 可換スーパー代数)
とおき r-フロベニウス核を Gr := Ker(Fr r ) とかく.正標数なのでフロベニウス射の像は
Gev (R) に入っていることに注意する.また Br := Gr ∩ B かく.
r
先ほどと同様にして各 λ ∈ Λ に対して Zr (λ) := indG
Br (kλ ) とおく.このとき容易
に分かるように,任意の λ, µ ∈ Λ に対して Zr (λ) = Zr (λ + pr µ) が成立している.こ
こで Lr (λ) := socGr (Zr (λ)) とおけば,これも単純 Gr -スーパー加群であり Lr (λ) =
Lr (λ + pr µ) をみたす.
3.2 主結果
以降,Theorem 2.2 により G-スーパー加群と hy(G)-T -スーパー加群は区別しないこと
にする.次の事実はスーパーでないときと同様の議論で示すことができる.(例えば非スー
パーの場合の [4, Lemma 3.14.] などを参照してください.
)
Lemma 3.1. 各 λ ∈ Λ† について.ウェイト λ の最高ウェイト・ベクトル 0 ̸= vλ ∈ L(λ)
に対して,hy(Gr ).vλ = Lr (λ) が成り立つ.
従ってこの結果より,適当な λ の仮定のもとで hy(Gr ) .vλ が hy(G)-不変であることが
いえたら,これは L(λ) ⊇ hy(Gr ) .vλ (̸= 0) なる部分 G-スーパー加群と分かるので,L(λ)
*
の単純性より resG
Gr L(λ)
+
∼
= Lr (λ) ということが分かる.そこで以降,このような λ の
条件を探すことに集中する.
PBW 基底の具体表示 (2.3.1) の Gr 版を考えると hy(Gr ) .vλ の元はスカラー倍を無視
して次の形をしている:
(n)
ϵ
X−α X−γ
.vλ
+
r
(α ∈ ∆+
0 , 0 # n # p − 1, γ ∈ ∆1 , ϵ = 0, 1).
9
75
(3.2.1)
(n)
ϵ
簡単のため u := X−α X−γ
とおく.任意の x ∈ hy(Gr ) について.x.(u.vλ ) が hy(Gr ) .vλ
に入るかが知りたい.今 Gr ▹ G は正規部分スーパー群なので hy(Gr ) も hy(G) の正規部
分ハイパー・スーパー代数である(スーパーでないときの定義は [11, 1.10.5] を参照してく
ださい)ことに注意すると,符号を無視して
x u = x1 u1 S(x2 ) S(u2 ) u3 x3 = [x1 , u1 ] u2 x2
とみたときに,[x1 , u1 ] ∈ hy(Gr ) であると分かる.さらに,hy(G) は Birkihoff-Witt 型で
(m)
あるから,一般に X±β は
(m)
∆(X±β ) =
'
i+j=m
(i)
(j)
X±β ⊗ X±β
をみたしている(複合同順)
.
従って,結局 ∀x ∈ hy(G) に対して x.(u.vλ ) ∈ hy(Gr ) .vλ であることと,∀x ∈ hy(G)
に対して x .vλ ∈ hy(Gr ) .vλ であることは同値であると分かる.さらに (3.2.1) の形から
(n)
x = X−α with pr # n のときに,x .vλ ∈ hy(Gr ) .vλ をいえばこれは十分.
(n)
一方で,任意の α ∈ ∆ と ⟨λ, α⟩ + 1 # n に対して X−α .vλ = 0 であることは分かって
いる.そこで次のような集合を考える(これは一般的でない記法)
:
Λ<r := { λ ∈ Λ† | ∀α ∈ S, ⟨λ, α⟩ < pr }.
すると定義から λ ∈ Λ<r であれば,
(n)
x = X−α with pr # n
=⇒
x .vλ = 0
と分かるので,次のような結果を得る:
Proposition 3.2. 各 λ ∈ Λ<r について.単純 G-スーパー加群 L(λ) は Gr へ制限して
*
+
もなお単純であり Lr (λ) に同型である.すなわち resG L(λ) ∼
= Lr (λ).
Gr
一般に G-スーパー加群 M に対して,r-フロベニウス射 Fr r : G → Gev で作用を制限
したものを M [r] とかくことにする.もし Gr -作用が自明であれば M は G/Gr -スーパー
加群とみれる.このとき M [−r] := M 上に G-スーパー加群の構造を (M [−r] )[r] = M とな
るように定義可能である.例えば,M の Gr -固定点全体 M Gr について (M Gr )
[−r]
は考え
られる.より一般に M Gr = HomGr (k, M ) であったので,Gr -スーパー加群 N が有限次
元であれば HomGr (N, M ) に対しても ( )[−r] は考えられる.
次はスタインバーグのテンソル積定理の骨子の部分のスーパー版であって,本研究の主結
果である.
Thorem 3.3. 任意の λ ∈ Λ<r と µ ∈ Λ に対して,
L(λ + pr µ) = L(λ) ⊗ Lev (µ)[r]
10
76
が成立する.
Proof. は じ め に ,先 ほ ど の Proposition 3.2 か ら Gr -ス ー パ ー 加 群 と し て の 同 型
*
+
*
+
G
r
∼
resG
L(λ)
L
(λ)
があり,すぐわかるように
res
L(λ
+
p
µ)
⊇ Lr (λ + pr µ) =
=
r
Gr
Gr
Lr (λ) は部分 Gr -スーパー加群であることに注意すると,
*
+
H := HomGr L(λ), L(λ + pr µ) 0 ̸= 0
とわかる.ここで HomGr ( , )0 はパリティーを保つ Gr -スーパー加群射全体の意味.これ
は conjugation 作用で G-スーパー加群である.
すると次は G-スーパー加群射となる:
ϕ : H ⊗ L(λ) −→ L(λ + pr µ) ;
f ⊗ v '−→ f (v).
さらに H ̸= 0 より ϕ ̸= 0 とわかり,単純性からこれは全射.
これが全単射であることをいうために,次元が同じであることを示す.いわゆる Schur の
補題より
*
+
dimk L(λ + pr µ)
*
+
dimk (H) #
dimk L(λ)
*
+
*
+
を得る.従って dimk (H ⊗ L(λ)) = dimk (H) dimk L(λ) # dimk L(λ + pr µ) である
ので,ϕ の全射性からこれは一致.従って次元が等しいので ϕ は全単射と分かった.
あ と は H = Lev (µ)[r] を 示 せ ば よ い .単 純 ス ー パ ー 加 群 は 有 限 次 元 な の で H =
(H [−r] )[r] と書くことができる.従って,H [−r] ∼
= Lev (µ) であればよいのでこれを示
す.同型
H ⊗ L(λ) ∼
= L(λ + pr µ)
から H が単純であることが分かり,従って制限加群の H [−r] は単純 Gev -加群.さらにま
た同型 H ⊗ L(λ) ∼
= L(λ + pr µ) から H の最高ウェイトは pr µ でなくてはならないと分か
るので,ウェイトと単純スーパー加群の対応より,結局 H [−r] ∼
= Lev (µ) と分かり主張は示
された.
帰納法とこの Theorem 3.3 から,スタインバーグのテンソル積定理のスーパー版を得る
ことができる:
Corollary 3.4 (スタインバーグのテンソル積定理). λ ∈ Λ† を λ = λ0 + pλ1 + · · · + pm λm
with λ0 , . . . , λm ∈ Λ<1 と(p-進展開)表示するとき
L(λ) = L(λ0 ) ⊗ L(λ1 )[1] ⊗ · · · ⊗ L(λm )[m]
が成立する.
11
77
この事は,具体的なスーパー代数群に対してはすでに示されていた:[9] で OSP(m|n) の
場合,[6] で GL(m|n) の場合,[2] で Q(n) の場合.今回の設定では GL(m|n), Q(n) は除
外した議論をしているが,若干の修正をすれば本質的に同じ方法で証明が流れる.(ただし
Remark 3.2 のような分解は成り立たない.)本研究ではその統一的かつ一般的な証明を与
えたことになる.とくに例外型のスーパー群も含んでいるのが新しいことだと思う.
参考文献
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A. Riche,
Hopf algebras having a dense big cell,
preprint,
arXiv:1307.3567 [math.RT] (2013)
[2] J. Brundan, A. Kleshchev, Modular representations of the supergroup Q(n), I, J.
Algebra 206 (2003), 64-98.
[3] R. Fioresi, F. Gavarini, Chevalley supergroups, Mem. Amer. Math. Soc., 1014
(2012).
[4] J. C. Jantzen, Representations of algebraic groups, second edition, American Mathematical Society, Providence, RI (2003)
[5] V. G. Kac, Lie superalgebras, Adv. Math. 26 (1977), 8–26.
[6] J. Kujawa, The steinberg tenosr product theorem for GL(m|n), Representations of
algebraic groups, quantum groups, and Lie algebras, Contemp. Math., 413 (2006),
123–132.
[7] A. Masuoka, Harish-Chandra pairs for algebraic affine supergroup schemes over an
arbitrary field, Transform. Groups, 17 (2012), no.4, 1085–1121.
[8] A. Masuoka, T. Shibata, Algebraic supergroups and Harish-Chandra pair over a
commutative ring, preprint, arXiv:1304.0531 [math.RT] (2013).
[9] B. Shu, W. Wang, Modular Representations of the Ortho-Symplectic Supergroups,
Proc. Lond. Math. Soc., (3) 96 (2008), no. 1.
[10] R. Steinberg, Lectures on Chevalley groups, Yale University, New Haven, Conn.,
1968.
[11] M. Takeuchi, Tangent coalgebras and hyperalgebras I, Japan. J. of Math. 42 (1974),
1–143.
12
78
The Serre functor for a representation of a finite tensor category
清水健一
∗
2015 年 6 月 18 日 †
概要
本稿は、2015 年 3 月 18 日から 3 月 20 日にかけて名古屋大学で行われた第 20 回代数学若手研究会にお
ける私の講演 “The Serre functor for a representation of a finite tensor category” の内容に関する報告
集である。当日の講演内容に加え、時間の都合上紹介できなかった結果も含まれている。
一般に、Hom 集合が有限次元ベクトル空間であるような体 k 上の線形圏 M のセール関手とは、M と
N に関して自然な同型 Hom(M, N )∗ ∼
= Hom(N, S(M )) が存在するような M 上の関手 S である。セー
ル関手の定義はリジッドなモノイダル圏 C に対する C-豊穣圏へと容易に一般化できるが、実際にそのよう
な “C-豊穣セール関手” とでも呼ぶべきものの性質を考えることにより、有限的テンソル圏およびその表現
の理論において意味のある結果が得られることを説明する。
1 序
モノイダル圏 (monoidal category) とは、対象の間に結合的かつ単位的な二項演算が定義されているような
圏であり、ある意味でモノイドの一般化と思うことができるようなものである。テンソル圏 (tensor category)
という語の意味するところに明確なコンセンサスがあるわけではないが、たいていの場合には何らかの代数的
対象の表現圏の性質を抽象化するような構造を持つモノイダル圏のことを指してそう言う。
私の研究対象は有限次元ホップ代数の表現論であるが、このような領域においては Etingof-Ostrik [EO04]
によって導入された有限的テンソル圏 (finite tensor category) と呼ばれるクラスのテンソル圏の研究が特に
重要である。有限的テンソル圏の研究におけるひとつの指導原理として、有限次元ホップ代数に関する結果を
有限的テンソル圏へと一般化することがある。これにより、有限次元ホップ代数に関する既存の結果をより深
く理解することができるようになるとともに、その応用範囲を準ホップ代数、弱ホップ代数、部分因子環論、
頂点作用素代数などから生じるようなテンソル圏へと拡大することができるからである。
私の最近の研究も、基本的にはこの指導原理に則っている。局所コンパクト群上のモジュラー関数の概念を
代数的に形式化することで有限次元ホップ代数上のモジュラー関数が定義されるが、私が特に興味を持ってい
るものが Etingof-Nikshych-Ostrik [ENO04] によって導入されたモジュラー関数の圏論的類似物(ここでは
モジュラー対象と呼ぶことにする)である。この概念を用いて、彼らは Radford の対合射四乗公式 [Rad76]
を有限的テンソル圏へと一般化している。また Caenepeel-Militaru-Zhu [CMZ02] による Drinfeld double
を用いたユニモジュラー性(=モジュラー関数の自明性)の特徴づけや、有限次元ホップ代数の拡大のフロベ
ニウス性がモジュラー関数によって記述されるという Fischman-Montgomery-Schneider [FMS97] の結果も
有限的テンソル圏へと一般化できることが明らかになっている。詳しくはプレプリント [Shi14a, Shi14b] を
∗
†
! e-mail:
日本学術振興会特別研究員 (PD) (2015 年 3 月当時)
初稿・2015 年 5 月 30 日
79
[email protected]
参照されたい。
多くの代数系の理論においてそうであるように、テンソル圏が作用するような圏(すなわちテンソル圏の表
現)の研究は、テンソル圏の理論における中心的な話題のひとつである。本稿で主張したいことは、有限的テ
ンソル圏の表現論においてセール関手のある種の一般化を考えることで、上述したような結果に対する統一的
なアプローチを与えることができるということである。一般に Hom 集合が有限次元ベクトル空間であるよう
な体 k 上の線形圏 M に対し、自然同型
HomM (M, N )∗ ∼
= HomM (N, S(M ))
(N, M ∈ M)
(1.1)
が存在するような関手 S : M → M は M のセール関手 (Serre functor) と呼ばれる。今 C を有限的テンソル
圏とし、M を Etingof-Ostrik [EO04] の意味での完全 C-加群圏 (exact C-module category) とする(これは
有限的テンソル圏の非常に良いクラスの表現である)。このとき内部 Hom 関手 HomM : Mop × M → C が
C-作用の右随伴により定義され、M は C-豊穣圏 (enriched category) となり、セール関手の定義式 (1.1) で
HomM を HomM に置き換えることで “C-enriched Serre functor” とでも呼ぶべきものを定義することがで
きる。本稿では、この一般化されたセール関手の基本性質について分かっていることを紹介し、さらに上述の
モジュラー対象に関するいくつかの結果がセール関手の理論の立場から理解できるということを説明する。
謝辞. 第 20 回代数学若手研究会において講演の機会を与えていただいた、研究会の世話人である名古屋大学
の神田遼氏、足立崇英氏、水野有哉氏、高橋亮氏には、この場を借りて御礼申し上げたい。本報告書の内容は、
日本学術振興会特別研究員奨励費 (24・3606) の助成を受けて行われた研究に基づいている。
2 有限的テンソル圏の表現論
2.1 リジッド・モノイダル圏
モノイダル圏 (monoidal category) とは、テンソル積 (tensor product) と呼ばれる関手 ⊗ : C × C → C 、単
位対象 (unit object) と呼ばれる対象
∈ C および自然同型
aX,Y,Z : (X ⊗ Y ) ⊗ Z → X ⊗ (Y ⊗ Z),
lX :
⊗ X → X,
rX : X ⊗
→X
(X, Y, Z ∈ C)
を持つような圏 C であり、五角形公理 (pentagon axiom) および三角形公理 (triangle axiom) と呼ばれる公理
を満たすようなものである。詳しくは Mac Lane [ML98] や Kassel [Kas95] を参照されたい。モノイダル圏
C に対し C rev = (C, ⊗rev , , a−1 , r, l) とおく。ここで ⊗rev は X ⊗rev Y = Y ⊗ X (X, Y ∈ C) で定義される
“reversed” tensor product である。すると C rev はモノイダル圏となる。また、双対圏 C op も自然にモノイダ
ル圏となる。
さて C と D をモノイダル圏とする。C から D へのモノイダル関手 (monoidal functor [ML98, XI.2]) と
は、C から D への関手 F と射 F0 :
→ F ( ) および自然変換 F2 : F (X) ⊗ F (Y ) → F (X ⊗ Y ) (X, Y ∈ C)
の組 (F, F0 , F2 ) で、同型 a, l, r たちと整合的なものである。一般には射 F0 および自然変換 F2 の可逆性は
仮定しない。もしそれらが可逆である場合 (F, F0 , F2 ) は強モノイダル関手 (strong monoidal functor) であ
るという。詳しくは省略するが、モノイダル関手の概念を用いてモノイダル圏からなる 2-圏を定義することが
でき、その 2-圏における同値としてモノイダル同値 (monoidal equivalence) が定義される。なお、モノイダ
ル同値は自動的に強モノイダル関手になる。
任意の C の対象 X, Y, Z に対し (X ⊗ Y ) ⊗ Z = X ⊗ (Y ⊗ Z) および
⊗X =X =X ⊗
が成り立ち、
さらに自然同型 a, l, r がすべて恒等射であるとき、C は厳格 (strict) であると言う。任意のモノイダル圏は
80
ある厳格なモノイダル圏にモノイダル同値であるという事実が知られている (Mac Lane)。そこで、本稿では
すべてのモノイダル圏は厳格であると仮定する。
今 C を(厳格な)モノイダル圏とし、X と Y を C の対象、e : Y ⊗ X →
とc:
→ X ⊗ Y を C の射とす
る。等式 (idX ⊗ e) ◦ (c ⊗ idX ) = idX および (e ⊗ idY ) ◦ (idY ⊗ c) = idY が満たされるとき、(Y, e, c) は X
の左双対対象 (left dual object) であると言い、また (X, e, c) は Y の右双対対象であるとも言う。左双対対象
は存在すれば同型を除いて一意的である。そこで V ∈ C の左双対対象を (V ∗ , ev, coev) などと書く。右双対
対象は ∗ V のように表す。なお、このあたりの用語法および記法は文献によってまちまちであり、我々の意味
での左双対を右双対と呼んでいたり、我々の V ∗ を ∗ V と書いていたりすることもあるので注意されたい。本
稿は [Kas95] の記法及び用語法に従っている。
すべての C の対象が左双対対象を持つとき、C は左リジッド (left rigid) であると言う。C が左リジッドで
あるとき、対応 V '→ V ∗ を強モノイダル関手 (−)∗ : C op → C rev に拡張することができる。このモノイダル関
手を左双対性 (left duality) と呼ぶことにする。次のような自然同型が存在することが知られている:
HomC (X, V ⊗ Y ) ∼
= HomC (V ∗ ⊗ X, Y ),
HomC (X ⊗ V, Y ) ∼
= HomC (X, Y ⊗ V ∗ ).
(2.1)
すべての C の対象が右双対対象を持つとき、C は右リジッドであると言う(これは C rev が左リジッドである
ことと同値である)。上と同様に、C が右リジッドであるとき、対応 V '→ ∗ V は右双対性と呼ばれる強モノイ
ダル関手に拡張することができ、さらに
HomC (X, ∗ V ⊗ Y ) ∼
= HomC (V ⊗ X, Y ),
HomC (X ⊗ ∗ V, Y ) ∼
= HomC (X, Y ⊗ V )
(2.2)
という自然同型も存在する。C が左リジッドかつ右リジッドであるとき、C はリジッドであると言う。このと
き左双対性 (−)∗ と右双対性 ∗ (−) の両方が C 上に定義されるが、実はこれらは(モノイダル関手として)互
いに逆を与える。
体 k 上の有限次元ベクトル空間の圏 V は、リジッド・モノイダル圏の例である。このモノイダル圏 V にお
ける左双対および右双対はともに反変関手 Homk (−, k) で与えられる。この場合には二重双対 (−)∗∗ は恒等
関手と(モノイダル関手として)同型であるが、一般のリジッド・モノイダル圏においてはそのような事は成
り立たない。実際、半単純リー代数 g に付随する量子群 Uq (g) の余表現 *1 の圏には V と V ∗∗ が同型になら
ないような対象が存在する。
2.2 モノイダル圏の表現論
C をモノイダル圏とする。C-加群圏(正確には左 C-加群圏)とは、作用と呼ばれる関手 C × M → M およ
び五角形公理や三角形公理に類似の条件を満たす自然同型
!M ∼
= M,
(X ⊗ Y ) ! M ∼
= X ! (Y ! M )
(M ∈ M, X, Y ∈ C)
(2.3)
を持つ圏 M である。圏 M 上の自己関手の全体 End(M) は(そもそもそれが圏であるかという集合論的な
問題があるが)関手の合成をテンソル積、恒等関手を単位対象とするモノイダル “圏” となる。このことに注
意すると、C-加群圏を強モノイダル関手 C → End(M) を持つような圏 M としても定義できる。
通常の表現論における繋絡作用素に対応する概念が C-加群関手 (C-module functor) である。一般論を見通
しよく展開するためには、まずラックス C-加群関手 (lax C-module functor*2 ) という概念を導入しておくと
*1
*2
表現圏のほうでは自然な同型 V ∼
= V ∗∗ が存在する。
緩 C-加群関手とでも呼ぶべきだろうか?
81
良い。C-加群圏 M と N に対し M から N へのラックス C-加群関手とは関手 F : M → N および自然変換
ξ : X ! F (M ) → F (X ! M ) (X ∈ C, M ∈ M)
(2.4)
の組 (F, ξ) であって、自然同型 (2.3) と整合的なものである。自然変換 ξ が可逆であるとき (F, ξ) は強 C-加
群関手 (strong C-module functor) であるという。実は C がリジッドである場合には、任意のラックス C-加
群関手は強 C-加群関手となる。そこで、そのような場合は、これらの概念を区別せずに単に C-加群関手と呼
ぶことにする。
M から N への余ラックス C-加群関手 (colax C-module functor) とは、関手 F : M → N および射 (2.4)
の向きを逆にした自然変換 ζ : F (X ! M ) → X ! F (M ) の組 (F, ζ) で、ラックス C-加群関手と類似の条件
を満たすようなものである。C-加群圏の双対圏は自然に C op -加群圏となっていることに注意すると、余ラック
ス C-加群関手を Mop から N op へのラックス C op -加群関手として定義することができる。もし C がリジッド
であれば、C op もリジッドである。したがって、そのような場合には、余ラックス C-加群関手 (F, ζ) の構造射
ζ は可逆となり、(F, ζ −1 ) は強 C-加群関手となる。
射の向きが異なるだけの2つの概念を用意したのは、次のような事実があるからである。まず F : M → N
を関手とし、その右随伴 G が存在すると仮定する。このとき F の余ラックス C-加群関手の構造と G の
ラックス C-加群関手の構造とは一対一に対応する。標語的に、ラックス C-加群関手の左随伴は余ラックス
C-加群関手であり、また余ラックス C-加群関手の右随伴はラックス C-加群関手であると言える。したがっ
て、C がリジッドなら、C-加群関手の随伴はまた C-加群関手となるということが言える。ここまでで説明し
た C-加群圏およびその間の関手に関する基本的な事実についての詳細は Douglas-Schommer-Pries-Snyder
[DSS13, DSS14] を参照されたい。
2.3 有限的テンソル圏
以降 k を体とする。体 k 上の有限次元代数(=単位的かつ結合的な多元環)の有限次元表現のなす圏と線形
圏として同値であるような k-線形アーベル圏を、ここでは有限的アーベル圏 (finite abelian category) と呼ぶ
ことにする。次の補題は良く使われるので注意しておく(証明は Eilenberg-Watts の定理と同様)。
補題 2.1. 有限的アーベル圏の間の k-線形関手に対し、それが右随伴を持つこととそれが右完全であることは
同値である。また、それが左随伴を持つことと左完全であることも同値である。
有限的テンソル圏 (finite tensor category [EO04]) とは次の条件を満たすような圏 C である:
(1) C はリジッド・モノイダル圏である。
(2) C は有限的アーベル圏である。
(3) テンソル積 ⊗ : C × C → C は各成分に関して線形である。
∼ k を満たす。
(4) 単位対象 ∈ C は単純対象であり、さらに EndC ( ) =
半単純な有限的テンソル圏はフュージョン圏 [ENO05] と呼ばれており、特に重要なクラスである。
結び目や三次元多様体の不変量を構成する際には、EndC ( ) の要素を係数体の要素とみなす手続きをはさ
むことが多い。そのため、そのような応用を念頭に置く場合には、条件 (4) は重要となる。また、有限的テン
ソル圏の研究において非常に便利な Frobenius-Perron 次元 [ENO05, EO04] も条件 (4) を仮定しなければ定
義できない。一方で、本稿で扱うような純圏論的な側面の強い話においては条件 (4) は必要ではない。そこ
82
で、本稿では条件 (4) を満たさないものも有限的テンソル圏と呼んでしまうことにする(したがって本稿に
おける有限的テンソル圏は Etingof-Ostrik の意味での finite multi-tensor category である)。
さて C を有限的テンソル圏とする。C がリジッドであることから、C のテンソル積が各成分に関して完全関
手であることが従う。実際、自然同型 (2.1) は V ⊗ (−) という C 上の関手の左随伴が V ∗ ⊗ (−) で与えられる
ということを言っており、従って V ⊗ (−) は左完全関手になる。同様に (2.2) より V ⊗ (−) 右完全性が従う。
よって関手 V ⊗ (−) は完全である。同様の議論により (−) ⊗ V の完全性も分かる。
2.4 有限的 C-加群と完全 C-加群圏
さて C が有限的テンソル圏の場合を考える。左 C-加群圏 M が有限的アーベル圏であり、作用 ! が各成分
に関して線形かつ第1成分に関して完全であるとき、M は有限的左 C-加群圏 (finite left C-module category)
であると言う。なお、作用 ! は第2成分に関しても完全である。実際、
HomM (M, V ! N ) ∼
= HomM (V ∗ ! M, N ),
HomM (M, ∗ V ! N ) ∼
= HomM (V ! M, N )
(2.5)
という自然同型が存在し、これを用いると、有限的テンソル圏のテンソル積が各成分に関して完全であること
を示したときと同様にして V ! (−) の完全性を示すことが出来る。
M を有限的 C-加群圏とし、M ∈ M を固定する。補題 2.1 より C から M への関手 (−) ! M は右随伴を
持つことが分かるが、それを Hom(M, −) と書くことにする。すなわち、Hom(M, N ) (N ∈ M) は
HomM (V ! M, N ) ∼
= HomC (V, Hom(M, N ))
(2.6)
で特徴づけられる対象である。随伴関手の一般論より、対応 (M, N ) '→ Hom(M, N ) を関手 Mop × M → C
に拡張することができる。この関手を内部 Hom 関手 (internal Hom functor) と呼ぶ。内部 Hom 関手は通
常の Hom と非常に良く似た振る舞いをする。実際、自然同型 (2.6) を用いて C における射
◦ : Hom(M, N ) ⊗ Hom(L, M ) → Hom(L, M ),
id :
→ Hom(M, M )
(2.7)
を定義でき、さらにこれらが結合律および単位律を満たすことが確かめられる。圏論の専門用語で言えば、M
は C-豊穣圏 (C-enriched category) の構造を持っていると言える。
次の補題は、式 (2.5) と内部 Hom 関手の定義式 (2.6) から容易に得られる。
補題 2.2. Hom(X ! M, Y ! N ) ∼
= Y ⊗ Hom(M, N ) ⊗ X ∗ .
次の簡単な補題は、米田の補題の類似である。
補題 2.3. M, M ′ ∈ M とする。もし N ∈ M に関して自然な同型 Hom(N, M ) ∼
= Hom(N, M ′ ) が存在すれ
ば、M ∼
= M ′ である。また、同様のことが Hom の第1引数と第2引数を入れ替えても言える。
証明. 両辺に HomC ( , −) を適用し、通常の米田の補題を用いる。
Hom(P, −) が完全関手となるような対象 P は射影的であると言われるのであった。そこで Hom(M, −) が
完全関手となるような対象 M ∈ M を C-射影的対象と呼ぶことにする。そのような対象は、C-作用を用いる
ことで以下のように特徴付けられる。
補題 2.4. M ∈ M に対し、次の条件は同値である:
83
(1) M は C-射影的である。
(2) 任意の(通常の意味での)射影的対象 P ∈ C に対し P ! M ∈ M は射影的である。
証明. もし M ∈ M が C-射影的であるとすると、任意の射影的対象 P ∈ C に対し
HomM (P ! M, −) ∼
= HomC (P, Hom(M, −)) = HomC (P, −) ◦ Hom(M, −)
は完全関手の合成として完全関手となる。逆に M が (2) を満たすと仮定する。C は有限的アーベル圏である
から C = A-mod となるような有限次元代数 A があるとしてよい。このとき同型
Hom(M, −) ∼
= HomA (A, Hom(M, −)) ∼
= HomM (A ! M, −)
が得られる。仮定より A ! M は射影的だから、Hom(M, −) は完全関手となる。
任意の M ∈ M が C-射影的であるとき、M は完全 C-加群圏 (exact C-module category [EO04]) であると
いう。完全という形容詞は頻出し、紛らわしいので、私としては “C-半単純” とでも呼びたいところであるが、
ここでは [EO04] に従っておく。完全という形容詞の出所は [EO04] にある次の結果である。
定理 2.5. 完全 C-加群圏の間の任意の k-線形 C-加群関手は完全関手である。
有限的 C-加群圏 M と N に対し RexC (M, N ) で M から N へのの k-線形かつ右完全な C-加群関手の圏
を表す。実はこの圏は有限的アーベル圏である。さらに RexC (M) := RexC (M, M) は C-加群関手の合成を
テンソル積とするモノイダル圏となる。この圏の対象の左(右)双対対象はその左(右)随伴関手に他ならな
い。結果として、RexC (M) が有限的テンソル圏であるための必要十分条件は、任意の F ∈ RexC (M) が完
全関手であることである。よって、上の定理より、次の結果が得られる:
定理 2.6. 完全 C-加群圏 M に対し RexC (M) はまた有限的テンソル圏となる。
なお、有限的テンソル圏の定義に EndC ( ) ∼
= k を含めている場合(我々は含めていない)、この定理の仮定
に C-加群圏 M の『直既約性』を追加する必要がある。
この定理の与える構成は、少なくとも Müger の論文 [Müg03a, Müg03b] にまでさかのぼれる。Müger は
部分因子環論に潜んでいた圏論的な構造を見抜き、テンソル圏の『弱森田同値』という概念を導入することに
よってそれを整理した。そのような文脈において現れるテンソル圏は、C ∗ -構造の存在により自動的に半単純
となる(今日の言葉で言えば C ∗ -フュージョン圏となる)。完全 C-加群圏の概念は、Müger の構成を半単純と
は限らない一般的な状況へと拡張しようとして見出されたのではないかと思える。
3 セール関手とその基本性質
3.1 セール関手の定義
C を体 k 上の有限的テンソル圏、M を有限的 C-加群圏とする。
定義 3.1. S : M → M を関手とする。自然同型 Hom(M, N )∗ ∼
= Hom(N, S(M )) (M, N ∈ M) が存在する
とき S を C-豊穣セール関手 (C-enriched Serre functor) あるいは単にセール関手と呼ぶ。
補題 2.3 より、そのような関手 S : M → M は存在すれば一意的であることがわかる。そこで、以降 C-加
群圏 M の C-豊穣セール関手を S C!M と書く。後に同じ圏に複数のテンソル圏が作用する場合を考えるので
84
“C !” の部分も大事であるが、文脈からそれらが明らかな場合には、下付き添え字は適宜省略される。
例 3.2. V = k-mod を体 k 上の有限次元ベクトル空間のなす有限的テンソル圏とする。A を有限次元代数と
するとき、M = mod-A は有限的 V-加群であり、その内部 Hom 関手は通常の Hom 関手と一致する。M が
V-豊穣セール関手を持つための必要十分条件は A が半単純代数であることであり、その場合にはセール関手
は恒等関手となる。
例 3.3. C が一般の有限的テンソル圏である場合には、半単純ではないような有限的 C-加群圏も C-豊穣セー
ル関手を持ち得る。最も簡単な例が C が C 自身にテンソル積によって作用する場合である。この場合 (2.1) よ
り内部 Hom 関手は Hom(X, Y ) = Y ⊗ X ∗ で与えられることが分かる。したがって
Hom(X, Y )∗ = (Y ⊗ X ∗ )∗ ∼
= X ∗∗ ⊗ Y ∗ = Hom(Y, X ∗∗ )
となる。すなわち S C!C (X) = X ∗∗ である。
セール関手がいつ存在するか特徴付けておこう。
定理 3.4. 有限的 C-加群圏 M に対し、次の条件は同値である
(1) M は C-豊穣セール関手を持つ。
(2) M は完全 C-加群圏である。
証明. 双対性と (2.5) を上手く用いると N, M ∈ M, X ∈ C に関して自然な同型
HomC (∗ Hom(M, N ), X) ∼
= HomC (X ∗ , Hom(M, N )) ∼
= HomM (X ∗ ! M, N ) ∼
= HomM (M, X ! N )
を得る。これは M から C への関手 ∗ Hom(−, N ) は (−) ! N の左随伴であることを意味する。随伴関手の一
般論より ∗ Hom(−, N ) は右完全であることがわかる。また、Hom(M, −) は (−) ! M の右随伴として定義さ
れるから、再び随伴関手の一般論より Hom(M, −) が左完全であることが分かる。
今 M が C-豊穣セール関手を持つと仮定する。定義より自然同型 Hom(M, N ) ∼
= ∗ Hom(N, S(M )) が存在
するが、上の議論より、この右辺は N に関して右完全である。したがって Hom(M, −) は右完全関手である。
よって M は完全 C-加群である。
逆に M が完全 C-加群であると仮定する。このとき、定義より Hom(M, −) は完全関手である。したがって
その右随伴関手 RM が存在する。さらに S(M ) = RM ( ) とおく(実際にこの M '→ S(M ) が関手となること
は後でもう少し詳しく述べる)。ここで補題 2.2 などを用いると
HomC (X, Hom(N, S(M )) ∼
= HomM (X ! N, PM ( )) ∼
= HomC (Hom(M, X ! N ), )
∗
∼
∼
= HomC (X ⊗ Hom(M, N ), ) = HomC (Hom(M, N ), X) ∼
= HomC (X, Hom(M, N )∗ )
となる。よってそのようにして定義された S はセール関手となる。
上の証明におけるセール関手 S の構成をもう少し詳しく見てみよう。M を完全 C-加群圏とし、その対象
M を固定し、C から M への関手 VM = (−) ! M を考える。C をテンソル積によって C-加群圏と思うと、
VM は C-加群関手である。さて、定義より Hom(M, −) は VM の右随伴関手である。C-加群関手が随伴に関
して閉じていることと、完全 C-加群圏の間の k-線形 C-加群関手は自動的に完全関手になる(定理 2.5)こと
に注意すると、“米田関手” Y : M → RexC (M, C)op , M '→ Hom(M, −) を得る。セール関手 S は
Y
右随伴
(−)( )
S : M −−−−−→ RexC (M, C)op −−−−−−−→ RexC (C, M) −−−−−−−−→ M
85
(3.1)
と分解される *3 。ただし (−)( ) は “ を代入する” 関手である。
定理 3.5. 完全 C-加群圏のセール関手は圏同値である。
証明. 一般に、C における代数とは対象 A ∈ C と射 m : A ⊗ A → A および u :
→ A の組であって、結合律
と単位律を満たすようなものである(モノイド [ML98, VII.3] とも呼ばれる)。代数 A ∈ C に対し左 A-加群
の圏 A C および右 A-加群の圏 CA が定義され、C の双対性は圏同値
(−)∗ : A C → (CA )op
および
∗
(−) : CA → (A C)op
を誘導する。CA は有限的 C-加群の構造を持ち、さらに任意の有限的 C-加群はこのような形をしているという
ことが知られている [DSS14]。
さて、今 M を完全 C-加群とする。上で述べたことから、ある代数 A ∈ C が存在し M = CA であると仮定
して良い。セール関手 S の分解 (3.1) に現れている3つの射のうち、後ろの2つは圏同値である。よって米田
関手 Y が圏同値であることを示せばよい。Pareigis [Par77a, Par77b, Par78] による Eilenberg-Watts 定理
の一般化から圏同値 RexC (M, C) ≈
関手の表示を比較すると米田関手が
AC
を得るが、この圏同値と [EO04, Example 3.19] の CA の内部 Hom
∗
(−)
Y : M = CA −−−−−−→ (A C)op ≈ RexC (M, C)op
と分解されることが分かる。よって Y は圏同値である。
セール関手が圏同値であることが分かってしまえば、次の結果は容易に得られる:
補題 3.6. 完全 C-加群圏 M の対象 N, M ∈ M に対し、次の自然な同型が存在する
∗
Hom(N, M ) ∼
= Hom(S−1 (M ), N )
3.2 セール関手の基本性質
以下、C を有限的テンソル圏、M を完全 C-加群圏とする。有限的テンソル圏の k-線形かつ完全な強モノイ
ダル関手 F : B → C が与えられたとき、B は F を通じて C に作用する。このようにして得られる B-加群圏
を ⟨F ⟩ M と書くことにする。
定理 3.7. セール関手 S = S C!M は M から ⟨(−)∗∗ ⟩ M への C-加群圏の同値である。ここで (−)∗∗ は C 上の
二重左双対関手である。
証明. 補題 2.2 とセール関手の定義より、N, M ∈ M と X ∈ C に関して自然な同型
∼ (Hom(M, N ) ⊗ X ∗ )∗
Hom(N, S(X ! M )) ∼
= Hom(X ! M, N )∗ =
∼
∼ X ∗∗ ⊗ Hom(N, S(M )) ∼
= X ∗∗ ⊗ Hom(M, N )∗ =
= Hom(N, X ∗∗ ! S(M ))
を得る。補題 2.3 より S(X ! M ) ∼
= X ∗∗ ! S(M ) を得る。主張を示すには、このようにして得られた同型が
ある種の図式を可換にすることを示さなければならないが、それは大変に面倒なので、省略する。
*3
C 自身は完全 C-加群圏である。したがって、定理 2.5 より RexC (M, C) や RexC (C, M) の対象はすべて完全関手である。この
ことから考えると、ここで “Rex” という記号を使うのは少々ミスリーディングである。
86
定理 3.8. M と N を完全 C-加群とし、F : M → N を k-線形な C-加群関手とする。このとき F は右随伴
R と左随伴 L を持つが、それらの間には次の関係がある:
R ◦ SN ∼
= SM ◦ L.
証明. 内部 Hom 関手の定義より M ∈ M, N ∈ N , X ∈ C に関して自然な同型
∼ HomC (F (X ! M ), N )
HomC (X, Hom(F (M ), N )) ∼
= HomC (X ! F (M ), N ) =
∼
∼
= HomC (X ! M, R(N )) = HomC (X, Hom(M, R(N ))
を 得 る 。こ れ よ り 自 然 同 型 Hom(F (M ), N )) ∼
= Hom(M, R(N )) を 得 る 。同 様 の 方 法 に よ り 自 然 同 型
Hom(N, F (M )) ∼
= Hom(L(N ), M )) を得る。これらとセール関手の定義から、自然同型
Hom(M, RS(N )) ∼
= Hom(F (M ), S(N )) ∼
= Hom(N, F (M ))∗ ∼
= Hom(L(N ), M )∗ ∼
= Hom(M, SL(N ))
を得る。補題 2.3 より RS ∼
= SL を得る。
M を完全 C-加群圏とし、E = RexC (M) とおく。このとき E も有限的テンソル圏となるのであった。定
義より E の対象は C 上の自己関手であり、E は自然に M に作用する。Etingof-Ostrik [EO04] によれば M
は完全 E-加群圏となる。したがってセール関手 S E!M を考えることができる。
定理 3.9. S E!M ∼
= (S C!M )−1 .
証明. [EO04, Proposition 3.32] によると、E-加群圏 M の内部 Hom 関手 Hom E!M は
Hom E!M (M, N ) = ∗ Hom(−, M ) ! N
(N, M ∈ M)
で与えられる(右辺の Hom は C-加群圏 M の内部 Hom 関手である)
。左双対の定義より Hom E!M (M, N )∗
は Hom E!M (M, N ) の左随伴関手となるが、それを実際に求めるため、上の式の右辺を
!
"
∗
Hom(−,M )
(−)!N
Hom E!M (M, N ) = M −−−−−−−−−−−→ C −−−−−−−−→ M
と分解する。定理 3.4 の証明より (−) ! N の左随伴は ∗ Hom(−, N ) である。また補題 3.6 は ∗ Hom(−, M )
の左随伴が (−) ! S−1 (M ) であることを意味する(ただし S = S C!M である)。したがって
!
"
∗
Hom(−,N )
(−)!S−1 (M )
Hom E!M (N, S−1 (M )) = M −−−−−−−−−−−→ C −−−−−−−−−−−−→ M
が ∗ Hom(−, M ) ! N の左随伴であることが分かる。よって S E!M = S−1 を得る。
4 セール関手の理論の応用について
4.1 四重双対公式
k を体とする。ベクトル空間のテンソル積は k-双線形写像に関するある種の普遍性を満たすものとして定義
されるのであった。k-線形アーベル圏 A と B に対し、それらのテンソル積 A ! B が各成分に関して k-線形
かつ右完全であるような関手に関してベクトル空間のテンソル積が持つそれと類似の普遍性を持つものとして
定義される。k-線形アーベル圏のテンソル積は一般には存在するとは限らないが、A と B が体 k 上の有限的
87
アーベル圏である場合には、それらのテンソル積は存在し、しかもまた有限的アーベル圏となる。詳しくは
Deligne [Del90] および Franco [Fra13] を参照されたい。
もし C と D が有限的テンソル圏であった場合、それらのテンソル積 C ! D は『成分ごとにテンソル積を
とる』ことによってモノイダル圏となる。このモノイダル圏は一般にはリジッドとならず、したがって有限的
テンソル圏とは限らない *4 。Deligne [Del90] の結果によれば、基礎体 k が完全体ならば C ! D はリジッド
となり、したがって有限的テンソル圏となる。
以降では k は完全体であると仮定しよう。有限的テンソル圏 C に対し、C env = C ! C rev とおく(これは代
数 A に対する enveloping algebra Aenv = A ⊗ Aop の類似物であると考えてよい)
。上で述べたことから C env
は有限的テンソル圏である。第2成分のテンソル積が反転しているため、C env の左双対関手は
(X ! Y )∗ = (X ∗ ) ! (∗ Y ) (X, Y ∈ C)
(4.1)
で与えられることに注意しておく。今 C env の C への作用を
(X ! Y ) ! M = X ⊗ M ⊗ Y
(X, Y, M ∈ C)
で定義する。そう明らかではないが、この作用によって C は完全 C env -加群となる。したがってセール関手を
考えることができるが、前章のセール関手に関する一般論がどのような結論を導くか観察してみよう。簡単の
ため S = S C env !C とおき、さらに D = S( ) ∈ C とおく。すると定理 3.7 と (4.1) より
S(X) = S((X ! ) ! ) ∼
= (X ! )∗∗ ! S( ) ∼
= X ∗∗ ⊗ D,
S(X) = S(( ! X) ! ) ∼
= ( ! X)∗∗ ! S( ) ∼
= D ⊗ ∗∗ X
(4.2)
(4.3)
を得る。さらに S は圏同値であるから、関手 (−) ⊗ D および D ⊗ (−) もまた圏同値であることが分かる。こ
のような条件を満たす対象は可逆対象と呼ばれており、結果的に D ⊗ D ∗ ∼
= D∗ ⊗ D ∼
=
X をX
∗∗
が従う。上の式で
に置き換えて整理すると、次の定理を得る:
定理 4.1 (四重双対公式 [ENO04]). X ∗∗∗∗ ∼
= D ⊗ X ⊗ D∗ .
対象 D は [ENO04] において distinguished invertible object と呼ばれており、有限次元ホップ代数上のモ
ジュラー関数(distinguished grouplike element とも呼ばれる)と対応するものと思ってよい。上の定理は有
限次元ホップ代数の対合射の4乗をモジュラー関数を用いて記述する Radford [Rad76] の著名な結果を圏論
的に一般化している。後述する Fischman らの結果との関係性を見るためには、次のような用語を導入してお
くと便利である:
定義 4.2. αC := D ∗ をモジュラー対象と呼ぶ。
余談ではあるが、モジュラー対象 αC ∈ C 自体は基礎体に特別な仮定を置かなくとも定義でき、さらに上の
定理の類似が成り立つことも知られている。詳しく言えば、一般の場合にもモノイダル関手の射
g : (−)∗∗∗∗ → αC∗ ⊗ (−) ⊗ αC
が存在し、この射が(モノイダル関手の)同型であることと αC が可逆であることが同値となる。モジュラー
対象 αC が可逆であるかどうかは一般には分かっていない(これは私が [Shi14b] で distinguished invertible
*4
C と D がある有限次元半単純代数 A 上の有限次元双加群のなすテンソル圏であるような場合、C ! D は A ⊗ A 上の有限次元双
加群の圏とモノイダル圏として同値となる。基礎体 k が完全体でない場合には A ⊗ A は半単純代数であるとは限らず、このこと
により C ! D がリジッドにならない例が出現する。
88
object という語を用いなかった理由のひとつである)。さらに C env がリジッドであることを仮定すれば αC の
可逆性を示せる。Deligne の結果とあわせれば、基礎体が完全体ならば αC は可逆であることが分かる。詳し
くは [Shi14b] を見よ。
4.2 セール関手の位数について
前節のように、基礎体 k は完全体であると仮定する。C を体 k 上の有限的テンソル圏とする。有限的テン
ソル圏の可逆対象の同型類はテンソル積を演算とする有限群をなし、特にそのような対象はテンソル積に関し
て有限位数である。したがって、四重双対公式を用いることで、C 上の二重双対関手 (−)∗∗ は(同型を除い
て)有限位数のモノイダル関手であることが分かる。その位数を n とおくことにしよう。
今 M を完全 C-加群圏とする。定理 3.7 より T := (S C!M )n は C-加群関手であると思える。一方で M 上
のそのような関手の全体はまた有限的テンソル圏となるのであった(定理 2.6)。関手 T は圏同値、したがっ
てそれは M 上の k-線形 C-加群関手の圏における可逆対象である。よって T は関手の合成に関して有限位数
である。以上をまとめると次の結果を得たことになる。
定理 4.3. セール関手 S C!M は有限位数である。
C = H-mod が有限次元ホップ代数 H の表現圏である場合を考える。このとき、任意の完全 C-加群圏はあ
る H-余加群代数 (H-comodule algebra) の表現圏と同値となっており [AM07]
*5 、さらに完全
C-加群圏 M
のセール関手は対応する H-余加群代数(この場合にはそれはフロベニウス代数となる)の中山自己同型と H
のモジュラー関数を用いて記述することができる。上の定理はそのような自己同型が内部自己同型を法として
有限位数であることを意味しており、有限次元ホップ代数の中山自己同型は有限位数であるという良く知られ
た結果の拡張ないし類似と思うことができる。
4.3 ユニモジュラー性の特徴づけ
一般に、モノイダル圏 C に対しその中心 Z(C) が次のように定義される。この圏の対象は、C の対象 V ∈ C
と自然同型 σX : V ⊗ X → X ⊗ V (X ∈ C) の組 (V, σ) で、任意の X, Y ∈ C に対し
σX⊗Y = (idX ⊗ σY ) ◦ (σX ⊗ idY )
を満たすようなものである。Z(C) の射 f : (V, σ) → (V ′ , σ ′ ) は C の射 f : V → V ′ であって、σ および σ ′ と
整合的なものである。Z(C) は実際には組みひも構造を持つモノイダル圏であり、(V, σ) '→ V によって定義さ
れる忘却関手 U : Z(C) → C は強モノイダル関手となっている。
C は完全 C env -加群となることについてはすでに注意した。定理 2.6 より RexC env (C) は有限的テンソル圏と
なるが、実はモノイダル圏として Z(C) ≈ RexC env (C) である(これは End(A AA ) が A の中心と同型である
という事実の類似である)。特に Z(C) も有限的テンソル圏であるということがわかる [EO04]。さらにこの圏
同値を通じて Z(C) は C に作用するが、その作用は忘却関手 U : Z(C) → C を通じて定義される作用と同じで
あることも確かめられる。以上の状況に定理 3.9 を適用すると、 (4.2) や (4.3) より次の結果が得られる:
定理 4.4. S Z(C)!C (X) ∼
= (αC ⊗ X)∗∗ ∼
=
*5
∗∗
(X ⊗ αC ) (X ∈ C).
ただし H-余加群代数の表現圏が完全 C-加群となるための必要十分条件は良くわかっていないようである。
89
忘却関手 U : Z(C) → C は Z(C)-加群関手となることに注意せよ。モノイダル関手の随伴に関するいくつか
の事実と定理 3.8 を U に適用することで、次の定理が得られる。
定理 4.5. 有限的テンソル圏 C に対し、次の条件は同値である:
(1) C はユニモジュラー、すなわち αC ∼
=
である。
(2) 忘却関手 U : Z(C) → C はフロベニウス関手、すなわちその右随伴と左随伴が関手として同型である。
この定理は [Shi14a] の主結果の一部である。C が有限次元ホップ代数の表現圏である場合、Z(C) は H の
Drinfeld double D(H) の表現圏と思える。Caenepeel-Militaru-Zhu [CMZ02] はホップ代数の拡大 D(H)/H
がフロベニウスであるための必要十分条件は H がユニモジュラーであるということを示しているが、この定
理はその結果を圏論的に一般化するものとなっている。
忘却関手 U : Z(C) → C のフロベニウス性は、有限的テンソル圏の位相不変量への応用において重要であ
る。実際 [Shi14a] では、この定理によるユニモジュラー性の特徴づけに基づいて、石井・増岡 [IM14] による
有限次元ユニモジュラーホップ代数を用いたハンドル体結び目の不変量の構成方法をユニモジュラーな有限的
テンソル圏へと一般化している。また、この定理から Lyubashenko の余エンドホップ代数上の積分とモジュ
ラー対象の関係性も明らかになり、これを用いることで、Hennings-Kauffman-Radford [Hen96, KR95] によ
る有限次元ユニモジュラーリボンホップ代数を用いた三次元多様体の不変量の構成方法をリボン構造を持つよ
うな有限的テンソル圏へと一般化できる。
4.4 有限次元ホップ代数の拡大のフロベニウス性
引き続き基礎体 k は完全体であると仮定する。F : C → D を有限的テンソル圏の間の k-線形かつ完全な強
モノイダル関手とし、R を F の右随伴関手とする。このとき C は有限的 D-加群 M に F を通じて作用する。
M を C-加群圏としてみたときの内部 Hom 関手 Hom C!M を考えよう。作用の定義より
HomC (X, Hom C!M (M, N )) ∼
= HomM (F (X) ! M, N )
∼ HomM (F (X), Hom
=
D!M (M, N ))
∼
= HomM (X, R(Hom D!M (M, N )))
となる。すなわち Hom C!M = R ◦ Hom D!M である。この結果を用いることで、M が完全 C-加群圏とな
るための必要十分条件を調べることができる:
補題 4.6. F と R を上の通り、M を完全 D-加群圏とする。このとき次は同値:
(1) R は完全関手である。
(2) 任意の射影的対象 P ∈ C に対し、F (P ) ∈ D は射影的である。
(3) C-加群圏 ⟨F ⟩ M は完全 C-加群圏である。
次の結果は [Shi14b] の主結果の一部を書き換えたものである。
定理 4.7. F と R は上の通り、L を F の左随伴関手とし、さらに上の補題の条件 (1)–(3) が満たされている
と仮定する。このとき、対象 χF ∈ D および X ∈ D に関して自然な同型 L(X) ∼
= R(µF ⊗ X) が存在する。
このような対象 µF は同型を除いて一意的であり、さらにモジュラー対象を用いて次のように表せる:
µF = αD ⊗ F (αC∗ ).
90
F が有限次元ホップ代数の拡大 A/B に付随する右加群の圏の間の制限関手 resA
B : mod-A → mod-B で
あるとき、対象 µ∗F は Fischman-Montgomery-Schneider [FMS97] の相対モジュラー関数 (relative modular
function) と対応し、定理 4.7 は彼らの A/B のフロベニウス性に関する結果に特殊化される。なお、関手 resA
B
が実際に上の定理の仮定を満たすということは Nichols-Zoeller の定理(あるいはその有限的テンソル圏への
一般化)から従うことであり、決して自明なことではない。
定理 4.8. F : C → D と R は上の定理の通りとする。完全 D-加群 M に C を F を通じて作用させるとき、完
全 C-加群圏 M のセール関手は S C!M (M ) = µF ! S D!M (M ) (M ∈ M) で与えられる。
証明. L を F の左随伴とすると L(X ∗ ) ∼
= R(X)∗ となる。実際、強モノイダル関手は双対を保つから、
HomC (R(V )∗ , X) ∼
= HomC (∗ X, R(V )) ∼
= HomC (F (∗ X), V )
∼ HomC (∗ F (X), V ) ∼
=
= HomC (V ∗ , F (X)) ∼
= HomC (L(V ∗ ), X)
である。以下 “D ! M” は省略する。上の定理と Hom C!M = R ◦ Hom より
Hom C!M (M, N )∗ ∼
= R(Hom(M, N ))∗ ∼
= L(Hom(M, N )∗ )
∼
= R(µF ⊗ Hom(M, N )∗ ) ∼
= R(µF ⊗ Hom(N, S(M )))
∼
= R(Hom(N, µF ! S(M ))) ∼
= Hom C!M (N, µF ! S(M )).
定理 4.7 は、定理 4.8 の M = D の場合と思える。我々は定理 4.8 を導出するために定理 4.7 を用いたが、
そのような方法ではなく、セール関手の一般論から定理 4.8 を直接得ることができれば非常によい。
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92
Immanants の極限挙動
田端 亮
(広島大学大学院理学研究科)∗
1. 定義
n の分割とは, λ1 + λ2 + · · · + λℓ = n かつ λ1 ≥ λ2 ≥ · · · ≥ λℓ ≥ 0 となる整数の列
(λ1 , · · · , λℓ ) である. i 行目に λi 個の箱を並べたものはヤング図形と呼ばれ, 分割との対
応があるので, 区別せずに扱う. n = 3 のときのヤング図形と分割を以下に表す.
(3)
(2, 1)
(1, 1, 1)
この単純なヤング図形であるが, その組合せ論的性質から様々なところで顔を出すこと
が知られており, その中の一つが対称群の表現論である. n 次対称群 Sn の表現とは, 準
同型写像 λ : Sn → GLm (C) のことである. その中で, 既約な表現は n の分割と 1 対 1
に対応するだけでなく, フック長公式や, 分岐則等, ヤング図形によって説明すること
ができる. 本講演の主題である immanant は対称群の表現を背景に持つ. このことを
強調するために, (代数の研究集会で心苦しかったが) 講演ではこのあたりの紹介にも時
間を割いた. その定義を以下に記す.
定義. (正規化された) Immanant とは, n 次対称群 Sn の既約表現 λ に対して定まる n
次正方行列上の関数であり, 行列 A = (aij )1≤i,j≤n に対して, 次で定義される.
dλ (A) =
1 !
tr (λ(σ)) a1σ(1) · · · anσ(n) .
dim λ σ∈S
n
表現のトレースは, 指標と呼ばれる. Immanant は, 行列式 (determinant) の係数の
sgn σ を, 対称群の既約 (正規化) 指標に置き換えたものとも説明できる. λ = (1n ) (す
なわち, λ が交代表現 σ #→ sgn σ) のとき, d(1n ) は determinant であり, λ = (n) (すな
わち, λ が自明表現 σ #→ 1) のとき, d(n) は permanent と呼ばれるものとなる. ここで,
permanent とは, determinant の符号変化を取り除いたものである.
Immanant に関する問題に不等式があり, その中で重要なものが Schur [5] の不等式
と Lieb [2] の permanetal dominance 予想である. 詳細は割愛したが, これらの不等式
のある精密化を考えると, ほとんどの immanant に対し, 対角成分が 1, 非対角成分が
−1/(n − 1) である行列 Yn がその極大値を与えることが予想されるということを, 昨年
の第 19 回代数学若手研究会で講演させていただいた. 今回は, この行列 Yn に着目し,
その immanant の極限挙動について得られた結果と予想を紹介する.
2. 主結果
対角成分が全て 1 の半正値エルミート行列は correlation 行列と呼ばれる. Pierce [4]
は, n ≥ 2 に対し, 行列式が 0 の correlation 行列上, Yn が permanent を最小値を与え
∗
e-mail: [email protected]
93
るという予想を与えた. Frenzen-Fischer [1] は, この問題に関連して,
e
lim per Yn =
n→∞
2
となることを示した. ここでの e は自然対数の底である. この結果から, Yn の他の
immanant はどうなるだろうか, という疑問が湧く.
n → ∞ とするとき, 行列のサイズが大きくなるとともに, immanant にラベル付けさ
れているヤング図形の箱の数も大きくなっていくことに注意する. この状況を記述す
るために, ヤング図形の列
λ(0) ⊂ λ(1) ⊂ λ(2) ⊂ · · · , |λ(n) | = n
を考える.
定理. ℓ を正整数とし, ヤング図形の列 λ(0) ⊂ λ(1) ⊂ λ(2) ⊂ · · · , |λ(n) | = n を考える.
(n)
µ(n) を λ(n) の双対ヤング図形とする. limn→∞ λi /n = bi , b1 > b2 > · · · > bℓ であると
き, 次が成り立つ.
$
ℓ #
"
1
lim dλ(n) (Yn ) =
e.
n→∞
1
+
b
i
i=1
lim dµ(n) (Yn ) =
n→∞
ℓ
"
i=1
(1 − bi ) e.
仮定「b1 > b2 > · · · > bℓ 」については, 等号を許すことが期待される (ちなみに, ヤ
ング図形の定義により, b1 ≥ b2 ≥ · · · ≥ bℓ となるのは当たり前). 長方形 (ℓn ) の場合 (こ
のとき, b1 = b2 = · · · = bℓ ) について得られている結果も紹介した.
定理. ℓ を正整数とするとき, 次が成り立つ.
#
$ℓ
ℓ−1
lim d(ℓn ) (Yℓn ) =
e.
n→∞
ℓ
これらの結果から, Yn の immanant の極限を考えると, Frenzen-Fischer の結果同様,
e が現れることが想像される.
もう一度, 先の定理に戻ろう. ℓ はヤング図形 λ(n) の行の数 (µ(n) の列の数) である.
(n)
limn→∞ λi /n = bi によって, ヤング図形の極限形状が与えられていることを意味する
が, ℓ は有限であるので, その形状はとても薄く見える. ここで, ℓ → ∞ とすることは,
その形状を膨らませるように, 有限だった λ の行 (µ の列) を大きくするという操作にな
るが, このとき次が成り立つ.
$
ℓ #
"
1
lim lim dλ(n) (Yn ) = lim
e = 1.
ℓ→∞ n→∞
ℓ→∞
1 + bi
i=1
lim lim dµ(n) (Yn ) = lim
ℓ→∞ n→∞
ℓ→∞
長方形の場合についてもやはり同様に,
lim lim d(ℓn ) (Yℓn ) = lim
ℓ→∞ n→∞
ℓ→∞
ℓ
"
i=1
#
(1 − bi ) e = 1.
ℓ−1
ℓ
$ℓ
e=1
となることが確かめられるだろう. このように, “ある条件”の下では e がキャンセルさ
れてしまう.
94
3. 予想
ヤング図形の極限形状といえば, Logan-Shepp [3], Vershik-Kerov [6] の与えた Plancherel
測度によるランダムヤング図形がよく知られている. この極限形状は, 箱の数 n に対し
√
て, 1/ n のスケーリングを用いて描かれる. Plancherel 測度とは, 対称群の正則表現
から得られる n 箱のヤング図形全体の集合上に定まる確率測度であり, この下で期待値
%
&
E dλ (Yn ) = 1 であることが容易に確かめられる. しかし, ランダムヤング図形のみな
らず, 前章で調べた大きなヤング図形に対応する immanant は, いずれも 1 という値に
収束することが分かった. この結果を受け, 次の予想を立てている.
予想. ヤング図形の列 λ(0) ⊂ λ(1) ⊂ λ(2) ⊂ · · · , |λ(n) | = n を考える. µ(n) を λ(n) の双対
(n)
(n)
ヤング図形とする. limn→∞ λ1 /n = 0 かつ limn→∞ µ1 /n = 0 ならば,
lim dλ(n) (Yn ) = 1.
n→∞
参考文献
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[6] A. K. Vershik, S. V. Kerov, Asymptotics of the Plancherel measure of the symmetric
group and the limiting form of Young tableaux, Soviet Math. Dokl. 18:527-531 (1977).
95
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