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高齢者大学の社会還元活動実態調査から

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高齢者大学の社会還元活動実態調査から
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8
1―
高齢者のボランティア活動(参加・継続意向)に影響を与える要因*
−高齢者大学の社会還元活動実態調査から−
望
李
包
Ⅰ.はじめに
月
七
政
重*
元**
敏**
Ⅱ.高齢者大学への期待とその役割
本研究は、H 県 K 市のある高齢者大学の、在
現在世界の人口はアフリカを除き、全体的に高
学生・卒業生による社会還元活動(ボランティア
齢化してゆく傾向にある(WHO,1998)が、日
活動)への支援事業の効果測定と、シニア学生の
本はその中でも最も速く高齢社会に入っている。
ボランティア活動への参加促進要因を探索するこ
日本社会の様相は戦後から、産業化、都市化、核
とを目的とする。多くの高齢者大学が地域への社
家族化、女性の社会参加、少子化、長寿化といっ
会還元活動を視野に入れているものの、その実際
た目まぐるしい変化をしてきている。こうした中
の効果測定をした研究は今までにあまりない。そ
で、高齢者人口とその人口割合は増え、同時に、
こで本研究では、高齢者大学の社会還元活動への
高齢者の単身世帯や高齢者世帯が増えてきてい
支援事業の啓蒙効果を明らかにし、高齢者大学が
る。
重要な役割を果たす可能性があるかを検討する。
このような高齢者の九割が健康であると言われ
また、ボランティア活動への参加は生活満足度の
ているが、一方で、現在の多くの高齢者は仕事を
向上に寄与するのか、ボランティア活動の継続意
離れてからの第二の人生を、社会の中でどう生き
向に影響をあたえる要因は何か、どのようなボラ
るかというビジョンを明確に持ちにくいのではな
ンティア領域にこれからの開拓分野があるか、な
いだろうか。なぜなら、まず、高齢者達は産業化
どを検討する。
を担ってきた世代であるため、現役時代には仕事
まず、「生きがい」を軸とした先行研究から、
に没頭し、仕事以外でのアイデンティティーや趣
ボランティア活動における高齢者大学と高齢者の
味を特に持ってきてないことが多いと考えられる
「生きがい」につながる要因やその役割について
からである。また、社会変動に伴う人々のライフ
検討する。次に、今回の調査の方法と結果から、
スタイルや価値観の変化、そして職住分離、産業
高齢者大学のボランティア活動支援事業の効果度
・都市化による地域社会内での交流の希薄化によ
と、高齢者のボランティア活動の参加・継続に影
り、家庭や地域社会における高齢者の決められた
響する要因を探索する。最後に、高齢者が望むボ
役割や仕事は昔ほど特にない。「イエ」や「ムラ」
ランティア活動・運営条件から、高齢者にとって
というより「個人」の志向で生きる方向に向かっ
活動しやすいボランティア活動の課題と展望を述
ているとも言える。これらのことから、自由であ
べる。
るものの、そのビジョンやネットワークが無い
と、自らの老後生活の在り方(モデル)を考えに
くく、かつ実現・行動しにくいと言えるのではな
いだろうか。つまり、離職後の現代の高齢者は、
キーワード:高齢者大学、シニアボランティア、生活満足、ボランティア継続意図
*
関西学院大学大学院社会学研究科博士課程前期課程
**
関西学院大学大学院社会学研究科博士課程後期課程
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社 会 学 部 紀 要 第9
1号
充実した老後生活のビジョンを個人的にも地域社
おけるさまざまな満足感の総和や相乗の結果とし
会の中でも明確に描きにくいということが言える
て生まれてくるものであると考えられている」
、
のではないだろうか。
としている。
このような社会背景の中で、個人が自らの生き
生きがいは健康とも大きく関連している。たと
がいともなる趣味や活動を広げやすくするという
えば、世界保健機構(WHO)は、健康を次のよ
意味で、高齢者大学は個人と地域活動を結びつけ
うに定義している。
やすくするという大きな「つなぎ」の役割を担え
る可能性があると考えられる。なぜなら、高齢者
「健康とは、肉体的・精神的および社会的に良
大学でシニア学生はある一定の時間と所属組織に
好な状態にあり、単に疾病または病弱が存在しな
属する安心感・所属感の上で、授業プログラムや
いことではない」(WHO 憲章より)
仲間との活動、情報により趣味の幅を広げられた
り、またはそういった中で、様々な地域や社会で
ここから、健康は身体的健康だけではなく、精
の中で新たな活動を興し、仕事外のアイデンティ
神的・社会的な健康も同様に重要であることがわ
ティーを見いだす可能性があるからだ。これらの
かる。また、
「生きがい」は精神的・社会的健康
活動を高齢者大学が支援すれば、今まで地域活動
にとどまらず、実際に身体的健康にとっても良い
に接してこなかったシニア学生も、次第に地域へ
影響が出ることが実証的研究で明らかになってい
ネットワークを広げて参加していきやすくなる可
る。近藤(1993)は老年期痴呆と生きがいとの関
能性がある。一方で、このような高齢者の社会参
連性の研究の中で、
「若いときからの精神・社会
加活動で、弱体化した地域社会が支えられること
的不活発、運動・体動不活発などが痴呆化の要因
や、健康維持が広く医療費削減にもつながること
となる」ことを指摘している。一方で、健康が生
等から、高齢者の健康維持と社会参加は、高齢者
きがいに影響しているという調査(森下と植中、
自身のみならず、社会全体にも多分に有益である
1998)もある。
と言えよう。
「生きがい」には様々な要因が影響している。
Ⅲ.高齢者大学とボランティア:高齢者
の生きがいへの効果
主なものとして、活動、健康、活動レベル、諸グ
ループへの参加、経済状況、性格傾向(浅野、
1992)が挙げられる。そして、豊かな社会関係の
創 出 や 自 己 存 在 感 が 満 喫 で き る 条 件(吉 澤、
1.高齢者の「生きがい」を支える要因
1993)も重要である。例えば、スポーツ活動で
高齢者大学通学やボランティア活動を広く社会
は、そこで得られる社交関係の保持が「生きが
参加の活動と捉えると、一体何が彼らの通学や参
い」意識を維持し、活動に伴う積極的・主体的・
加への動機になり、かつ「生きがい」にどうつな
肯定的態度などの条件が「生きがい」意識を増強
がっているだろうか。以下、このことを「生きが
する働きをするという結果(杉山ら、1986)は、
い」を共通項に、先行研究から考察していく。
活動とその社会関係の効果が「生きがい」を促進
まず、生きがいとは何であろうか。「生きがい」
する影響を与えていると言える。また、日常生活
は、主観的幸福感・主観的ウェルビイング(sub-
の基本的ニーズが充足されていることに加え、都
well-being)、生 活 満 足 感(life
satisfac-
市部では、将来の自分の介護予定者が、家族外の
tion)、幸 福 感(happiness)、自 己 効 力 感(self-
人であっても決定している人ほど、現在の趣味や
efficacy)、モラール(morale)などともといわれ
社会参加活動の幅が広く、生きがいの持続が行わ
る。杉山(1993)によれば、「主観的幸福感」と
れやすい状況にあった(菊池、1993)ということ
は、「日常生活のさまざまな事柄に対して、心理
から、現状だけでなく、さらに将来の不安を減ら
的健康の高い対応ができ、自己を幸福であると認
すことが、現在の生きがいを感じられる状況へと
知している主観的な感情を指すものであり、かつ
つながっているとも考えられよう。また、一人で
高齢者の生活の質(QOL)に関係し、日常生活に
する活動でもそうでなくても、その活動に楽しみ
jective
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を見出しているほど「生きがい」にプラスに影響
いると考えられるが、その主体的に決めたスケ
している(横山、1987)ことは、活動への主体性
ジュール管理は、生活満足度と強い関連性がある
とそこから得られる充実感がより生きがい感を高
ことが分かっている。Kimberly & Margie(2001)
めると考えられる。さらに、活動への潜在的欲求
の研究では、未来に対して計画することは生活満
と実際の活動量との差が小さいほど生きがいを感
足度と関係し、さらに年齢が高齢になるに従い計
じやすい(横山、1989;森下と植中、1998)こと
画を立てる頻度は減るものの、計画と生活満足度
から、客観的にその活動量のみで人の満足度は測
との関連性はより強くなる、ということがわかっ
れないことがわかる。
ている。具体的には、教育、収入、社会的サポー
このような先行研究で明らかになった様々な生
ト、予見性、経験に対する意識と開放性が、未来
きがいへの影響要因をふまえ、高齢者大学とボラ
計画と積極的な関連性があり、一方で、神経質あ
ンティア活動のそれぞれが、どのような点で高齢
るいは愛想の良い性格の人や、ストレスの多い出
者の生きがいを支え、働きかけることができるか
来事との間には、計画性は消極的な関連性があっ
を以下にまとめる。
た。このように、計画を立てて、自らの生活を
「管理している」という管理への信念が、生活満
2.高齢者の「生きがい」と高齢者大学の魅力
高齢者大学がどのような点で高齢者の生きがい
足度に関連しているといえる。
2.3
健康管理
を支えることができるかを、次の6点にまとめて
高齢者大学に通うことは、高齢者にとって、日
みた。1学習効果、2スケジュール管理、3健康
常的な自己健康管理の一環にもなると考えられ
管理、4ソーシャルサポートネットワーク、5安
る。ここでいう健康管理とは、規則正しい生活を
定感、6情報源、である。以下にそれぞれについ
営んだり、体を適当に動かしたり、人間関係を保
て述べていく。
つ、食事管理をするといったことである。森下と
2.1
植中(1998)の調査により、自覚された健康感が
学習効果
まず、日本人の「生きがい」に「学習」が有効
高い人は、日常的健康管理を行っている人が多
となりやすく、その「学習活動」はどの国でも
く、また、日常的健康管理を行っている人は健康
「健康維持」に強く関連してい る こ と が 実 証 さ
感が高いという結果が得られた。そして、生きが
れ、かつ、それは高年になるほどはっきり表れて
い感の高さと日常的健康管理との間にも相関関係
いることがわかっている。これは、1997年に国立
が見られた。よって、高齢者大学への通学は、健
教育会館社会教育研究所が行った日本、韓国、ア
康管理の一環となって健康と生きがいへとつなが
メリカ、イギリス、ドイツ、スウェーデンの高齢
る可能性があると考えられる。
者(60−79歳)および行政機関等を対象とした
2.4
ソーシャル・サポート・ネットワーク
「高齢者の学習・社会活動とその支援の実態等に
高齢者の生きがいにとって大きな効果を持つ要
ついての国際比較調査によって明らかにされた
因として、愛情、受容を満たしてくれる情緒的サ
(国立教育会館
社会教育研究所,2000)。
ポートの高低(杉山、1993;山本ら、1989)があ
また、香川(1999)は、生涯学習が「生きがい
り、さらにその重要な社会的サポートは主に、情
創造のための社会づくり」をリードするとし、そ
愛(愛情)、肯定(尊重)、援助を受けられる情緒
れは「学習によって人々は意識を変え、時代に適
的・手段的サポートである(杉山、1
993)。Kee-
応し、生きがいを追及することになる」としてい
Lee & Iris(2001)の 研 究 で も、家 族 か ら の サ
る。これらのことから、高齢者大学での「学習」
ポートに対する満足感が、高齢者にとって何より
は、高齢者の生きがいと健康に大きく寄与すると
もうつを軽減させることと関係していることを明
考えられる。
らかにした。また高齢期は人生の中でも孤独感を
2.2
感じやすい時期であり、特に人や社会とのつなが
スケジュール管理
シニア学生は卒業まで、高齢者大学の授業等の
予定を、日々のスケジュールに大きく取り入れて
りにおいて孤独を感じやすい(落合、1
999)とい
う。
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これらのことから、高齢期には社会的な人との
時に、社会システムによる支援は「生きがい」を
つながりが重要であることと、さらに、情緒的サ
得るのに必要な要因になる(シニアプラン開発機
ポートが高齢者の生きがいに結びつくということ
構、1996)ので、高齢者大学はそのような支援が
がわかる。つまり、高齢者大学での仲間作りは生
できる可能性があると考えられる。
きがいに結びつくと言えよう。高齢者大学で得ら
れる友人は同時代を担ってきた同世代であること
3.高齢者の「生きがい」とボランティアの魅力
や地域も近いことからも、仲間になりやすいと考
では、ボランティア活動をすることは、高齢者
えられる。高齢者大学では授業以外にも、学生の
の生きがいにどのような効果を期待できるであろ
主体的な運営による、趣味や健康のためのクラブ
うか。ボランティアは、高齢者大学の特徴と同様
活動や、イベント行事などもあり、交流を深めあ
に「所属組織」としても考えられる為、先に述べ
う活動をしている。また、それまで従事してきた
た6点に加え、さらに「活動」という視点から次
仕事関係以外の人と友達になることは、仕事を離
の3点の要素があると考えられる。1活動への主
れ、個人として改めて生きていく際の切り替えに
体性・自己実現、2人や地域の役に立つというや
もつながると考えられる。
りがい、3地域のソーシャルネットワークづく
2.5
り、である。以下それぞれについて述べる。
安定(所属)感
高齢者大学に属することで、学生は所属による
3.1
活動への主体性・自己実現
安 定 感 を 得 る こ と が で き る だ ろ う。Maslow
ボランティアは「活動」であるため、目的・仕
(1970)は、「人間欲求の階層説」の中で、人間の
事・役割が明確である。その点で、自分のする活
基本的欲求として、生命維持の生理的な欲求を基
動に対する人からの承認があり、また、主体的に
礎として、安全または心理的な安定欲求、愛と所
取り組み、目標をもち、創造をしていくことは、
属の欲求、社会的な承認欲求と順に持っており、
自己実現や達成の満足感に繋がるだろう。日本人
それらは欠乏動機に基づいているが、頂点には、
的生きがいは、働くことの喜び、創造することの
成長動機に基づいた自己実現の欲求を持っている
喜び、他人を生かすことのできる喜びにある(福
とした。仕事から離れた地域とも交流の薄い高齢
智、1990)という。また神谷(1966)の挙げた生
者達にとって、高齢者大学という所属の場は、基
きがい感を感じる具体的な三つの状況;自分の行
本的欲求の所属欲求に合致し、安定感が得られや
動が未来に向かって開かれていると感じられる場
すいのではないだろうか。その足場を組むこと
合・自発的行動である場合・何かを成し遂げつつ
で、さらに高齢者が自己実現に向けて活動をしや
ある状況にある場合、と照らし合わせても、主体
すくできると言えるだろう。
的な活動が生きがいに大きく影響すると考えられ
2.6
る。また主体的活動を、積極的にエネルギーを発
情報源(地域社会へのボランティア)
高齢者大学の学生同士のネットワークにより、
散させる対象があること、と捉えれば、杉山ら
高齢者大学外での活動、つまり地域活動やボラン
(1990)の挙げたストレスコーピングにもつなが
ティア活動、趣味活動にたいする情報が比較的得
ると考えられる。
やすくなるといえる。また、高齢者大学の中に
3.2
は、卒業生が集まってボランティア活動のグルー
人や地域の役に立つというやりがい(役
割意識)
プを形成しているところもある。このように、高
ボランティア活動を通じて、人や地域社会等か
齢者大学に通うことで、卒業時あるいは在学時に
ら自分の力を求められたり、かつ自分の能力を発
おいても、学生が次の活動の場を得やすいという
揮し、貢献できる機会があると、役割意識に結び
ことが言えるであろう。
つき、仕事のやりがいを感じることにつながるだ
以上のように、これら高齢者大学で得られると
ろう。内藤(1997)は人や組織からの尊敬と、必
考えられる6項目の特徴は、いずれも高齢者の
要されているという評価の自覚があれば、人や組
「生きがい」と関連すると言えよう。自らの「生
織のために目標達成のために働くことができる、
きがい」が何かに気づき、獲得しようと努力する
としている。男性は、目標達成などの個人の事柄
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に嬉しさを感じやすいが、女性は、人に喜ばれた
回収した。卒業生については、全卒
・役に立ったという他者との関係に嬉しさを感じ
業生(約2100名)を卒業生名簿の中
やすい(掛川、1992)という調査結果がある。阿
から1,
000人を無作為に抽出し、調
部(1993)は、高齢者の地域 で の「生 き が い 対
査票を郵送した。回収は平成13年7
策」は、リクレーションではなく、高齢者が社会
月12日∼7月30日に行われた。632
的役割を自ら見出し、その責任を自らが担う社会
名から回答を得、回収率は63.
2%で
参加が望ましいと述べているように、主体的な人
あった。卒業生と在学生から 合 計
との関わりが役割意識へ結びつくのではないだろ
1,
448名から回答を得、性別にみる
うか。
と 男 性 が930名(64.
2%)、女 性 が
3.3
地域のソーシャルネットワークづくり
440名(30.
4%)、不
阿部(1993)は、高齢者にとって地域社会は他
世代とは異なり、大変重要な生活の場であると指
が78名
68.
68歳(SD=5.
26)であった。
摘する。孤独や社会的孤立を防ぐのに、人間関係
質問項目:本研究で使用した調査票は、次のよ
の拡充と社会参加が大きな役割を果たすため、そ
の地域社会の連帯性が緊急課題であるとしてい
明
(5.
4%)で あ っ た。平 均 年 齢 は
うな質問群から構成されている。
①
高齢者大学での学生生活と生活全般について
の質問項目
る。ま た、Kee―Lee & Iris(2001)の 研 究 で も、
ソーシャルサポートは、ストレスに対抗するため
1)高齢者大学に入学・卒業したことによって
の重要な要素であることが明らかにされている。
もたらされた生活の変化について(複数回答:
よって、活動から得られるであろう地域のネット
MLC)、2)健康に対する自己評価(「とても良
ワークは、高齢者にとって大きな意味を持つと考
い」∼「とても良くない」の5件法で評定)、3)
えられる。
経済状態に対する自己評価(「とても良い」∼
以上の点より、ボランティアには高齢者大学で
「とても悪い」の5件法で評定)、4)現在の生活
見られた効果に加え、仕事の達成・承認や、地域
満足度(「とても満足している」∼「とても不満
とのつながりが出てくることが考えられる。また
である」の5件法で評定)
、5)ボランティア活
男性が地域社会活動で地域への貢献にやりがいを
動への参加の有無(‘いいえ’と回答したもの
感じる一方、女性は友人作りに充実感を得る傾向
は、以下の II.に回答、‘はい’と回答したもの
にあるという男女差は(小河、19
94)興味深く、
は III.に回答)。
さらに活動者は非活動者に比べて異世代間交流の
②
ボランティア活動に参加していない者への質
問項目
機会が約1.
5倍もあることも(小河、1994)見逃
せない点である。
1)今後、ボランティア活動に参加したいか否
か、2)ボランティア活動できない事由について
Ⅳ.調査研究
(MLC)、3)ボランティア活動への参加に必要な
条件(MLC)、4)参加してみたいボランティア
活 動 の 分 野(MLC)、5)余 暇 の 過 ご し 方
1.調査方法
本研究では、次の2つの調査から得たデータを
(MLC)。
③
ボランティア活動に参加している者への質問
項目
用いた。
調査1
1)ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 へ の 参 加 の き っ か け
調査対象:H 県 K 市のある高齢者大学の在学
(MLC)、2)ボランティア活動への参加動機につ
生・卒業生(以下、シニア学生とす
いて(MLC)、3)ボランティア活動に参加して
る)を対象にアンケート調査を実施
良かったと感じる場面について(MLC)、4)ボ
した。在学生については、816名に
ランティア活動の領域、5)一ヶ月間の活動参加
講義終了時に一斉に調査票を配布、
日数、6)参加時期、7)ボランティア活動への
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参加に対する家族の協力姿勢に対する評価(
「と
ている。本研究では、調査1のボラ
ても協力的」∼「とても非協力的」の5件法で評
ンティア活動に関する質問項目と比
定)、8)活動形態(個人活動、グループによる
較するために、主として7)社会参
活動、行政によって組織された活動等)
、9)ボ
加状況の項目から得たデータを使用
ランテ ィ ア 活 動 に お け る 立 場 に つ い て(メ ン
した。
バ ー、リ ー ダ ー、役 員、発 足 人)、10)ボ ラ ン
ティア活動場所への交通手段、11)交通費支給の
2.結果と考察
形態について、12)ボランティア活動充実に必要
2.1
と 思 わ れ る 条 件 に つ い て(MLC)、13)ボ ラ ン
ティア 活 動 の 継 続 意向(「と て も 強 く 思 う」∼
「全く思わない」の5件法で評定)。
④
基本属性に関する質問項目
K 市高齢者大学の「ボランティア活動へ
の参加促進事業」の効果
まず、「ボランティア活動への参加促進事業」
の効果の程を知るために、調査1では、シニア学
生に現在、ボランティア活動に参加しているか否
1)性別、2)居住区、3)家族構成、4)高
かを尋ねたところ、
「はい」:7
74名(53.
5%)、
齢者大学における受講しているコース(受講コー
「い い え」626名(43.
2%)、無 回 答:4
8名
スは「福祉文化コース」、「国際交流・協力コー
(3.
3%)であった。調査2では残念ながら、ボラ
ス」、「生活環境コース」、「総合芸術コース」
)を
ンティア活動への参加の有無を尋ねる質問項目は
尋ねている。
ないが、「高齢者や障害者などの社会福祉に関す
る活動」に参加している者は266名(3.
1%)、「自
調査2
治会や町内会の活動」に参加している者は8
95名
調査対象:H 県 K 市内に居住する満65歳以上
(10.
4%)であった。広義の意味での社会活動1)
の高齢者を対象にアンケート調査を
については「何も参加していない」と回答してい
実施した。住民基本台帳及び外国人
る者が4313名(50.
0%)であった。シニア学生の
登録台帳から12,
396名を無作為に抽
ボランティア活動への参加比率は半数を超え、K
出し、調査票を郵送した。回収は平
市高齢者のそれと比べて全く対照的である。よっ
成12年9月4日∼9月18日におこな
て、高齢者大学の「ボランティア活動への参加促
われた。8,
632名から回答を得、回
進事業」にかなりの効果があると考えても差し支
収率は6
9.
6%であった。性別をみる
えないと言える。
と、男性が3,
500名(40.
5%)、女性
次に、調査1では、ボランティア活動への参加
が5,
018名(58.
1%)で あ っ た。平
意向について、現在、ボランティア活動に参加し
均 年 齢 は73.59歳(SD=6.
73)で
ていないシニア学生に、
「今後、ボランティア活
あった。
動に参加したいと思いますか」と尋ねたところ、
質問項目:本調査は H 県 K 市の市民福祉調査
「は い」:378名(60.
4%)、「い い え」:186名
委員会が独自に行った調査であり、
(29.
7%)、無回答:62名(9.
9%)であった。調
調査票は主に、1)基本属性、2)
査2でも同様に、ボランティア活動への参加意向
家 族 の状 況、3)住 ま い の 状 況、
について、
「あなたは、今後、上記のようなボラ
4)収入の状況、5)健康づくり・
ンティア活動に参加したいと思われますか」と尋
生活習慣等、6)介護の状況、7)
ね た と こ ろ、「非 常 に 参 加 し た い」:945名
社会参加の状況と意向、8)生活・
(10.
9%)、「機会があれば参加したい」:2
318名
近 隣 関 係 等、9)施 策 認 知 度 等、
(26.
9%)、「あ ま り 参 加 し た く な い」:2
351名
10)介護保険関連、11)施策全般に
(27.
2%)、「参加したくない」:120名(1.
4%)、
ついて尋ねる質問項目から構成され
そ の 他:792名(9.
2%)、無 回 答:2
106名
1)学習や教養を高めるための活動、スポーツ・レクリエーション活動、自治会や町内会の活動、高齢者や障害者
などの社会福祉に関する活動、老人クラブ活動、健康づくりに関する活動を含む。
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表1
グループ×参加意向クロス集計及び χ2 検定の結果
グループ
参加意向
合計
参加したい
参加したくない
K 市民
2
4
7
1(3
7.
9%)
4
0
5
5(6
2.
1%)
6
5
2
6
シニア学生
3
9
4(6
7.
5%)
1
9
0(3
2.
5%)
5
8
4
合計
2
8
6
5(4
0.
3%)
4
2
4
5(5
9.
7%)
7
1
1
0
χ =1
9
5.
2
4
2
表2
df=1
p<.
0
0
1
グループ×参加意向クロス集計及び χ2 検定の結果
グループ
参加意向
合計
参加したい
参加したくない
K 市民
1
8
6
6(4
3.
5%)
2
4
2
3(5
6.
5%)
4
2
8
9
シニア学生
2
2
3(6
5.
8%)
1
1
6(3
4.
2%)
3
3
9
合計
2
0
8
9(4
5.
1%)
2
5
3
9(5
4.
9%)
4
6
2
8
2.
9
5
χ2=6
df=1
p<.
0
0
1
(12.
8%)であった。シニア学生と K 市高齢者と
うために、有効ケースを65歳∼74歳の回答者に限
では、ボランティア活動への参加意向が同等であ
定した。6
5歳∼74歳の K 市民とシニア学生のそ
るかを検討するために、χ2検定を行った。便宜
れぞれの年齢の平均の差=0.
0085は有意ではない
上、調査1では、「はい」と回答しているケース
(t 値=.
06,df=4626,p=.
96)。65歳∼74歳の回
を「参加したい」、「いいえ」と回答しているケー
答者について、K 市民とシニア学生のボランティ
スを「参加したくない」に置き換えた。なお、無
ア活動への参加意向が互いに独立している否かを
回答をは除外した。調査2については、
「非常に
確かめるために χ2検定を行った。2×2のクロ
参加したい」、「機会があれば参加したい」と回答
ス集計表と χ2検定の結果を表2に示した。K 市
しているケースを「参加したい」に、「あまり参
民では、
「参加した い」:1
866名(43.
5%)、「参
加したくない」、「参加したくない」と回答してい
加したくない」:2423名(56.
5%)であったのに
るケースを「参加したくない」に置き換えた。2
対 し、シ ニ ア 学 生 で は「参 加 し た い」:223名
×2のクロス集計表と
χ2検定の結果を、表1に
(65.
8%)、「参加したくな い」:1
16名(34.
2%)
示 し た。K 市 民 で は、「参 加 し た い」:2
471名
と、シニア学生のほうがより高い割合でボラン
(37.
9%)、
「参加したくない」:4055名(62.
1%)
ティア活動に参加したいという意向を持っている
となったのに対し、シニア学生では「参加した
ことが明らかになった。また、独立性の検定の結
い」:394名(6
7.
5%)、「参加したくない」:190
95(df=1,p<.
001)を得、年齢の
果、χ2=62.
名(32.
5%)と、シニア学生のほうがより高い割
影響をコントロールしてもなお、K 市民とシニア
合でボランティア活動に参加したいという意向を
学生のボランティア活動への参加意向は有意に異
持っていることがわかった。また、χ2検定の結
なっていることが明らかになった。
24(df=1,p<.
001)を得、K市民
果、χ2=195.
以上の結果から、高齢者大学の「ボランティア
とシニア学生のボランティア活動への参加意向は
活動への参加促進事業」によって、シニア学生の
互いに有意に独立していることが明らかになっ
ボランティア活動への参加意向が促進されている
た。
と考えられる。なお、紙数の制約のため詳細につ
次に、加齢によるボランティア活動への参加意
いて述べないが、性別によるボランティア活動へ
向に対する影響を取り除き、再度同様の検定を行
876,df=
の参加意向については、K 市民(χ2=.
―1
8
8―
社 会 学 部 紀 要 第9
1号
表3
ボランティア活動への参加を妨げる要因
要因
度数(%)
経済的負担(交通費等の)が大きい(n=597)
5
5(9.
2)
体力的負担が大きい(n=597)
2
1
8
(3
6.
5)
家のこと(家事・介護等)で忙しい(n=597)
1
1
3
(1
8.
9)
活動場所が遠い(n=597)
4
9(8.
2)
ボランティア活動に関する情報が得られない(n=597)
1
6
9
(2
8.
3)
仲間がいない(n=597)
9
1
(1
5.
2)
仕事(就業)が忙しくて時間がない(n=597)
3
8(6.
4)
趣味など仕事以外のことで忙しくて時間がない(n=596)
表4
2
0
7
(3
4.
7)
性別によるボランティア活動への参加を妨げる要因
男性
度数(%)
女性
度数(%)
χ2(df)
4
1(9.
6)
1
1(7.
5)
.
5
6
4
(1)
1
3
5
(3
1.
6)
7
0
(4
7.
9)
***
1
2.
6
3(1)
3.家のこと(家事・介護等)で忙しい
6
0
(1
4.
1)
4
9
(3
3.
6)
***
2
6.
8
9(1)
4.活動場所が遠い
3
6(8.
4)
1
2(8.
2)
0.
0
1(1)
1
3
5
(3
1.
6)
3
0
(2
0.
5)
*
6.
5
0(1)
6.仲間がいない
7
8
(1
8.
3)
1
0(6.
8)
7.仕事(就業)が忙しくて時間がない
3
2(7.
5)
6(4.
1)
2.
0
1(1)
1
5
7
(3
6.
9)
4
3
(2
9.
5)
2.
6
2(1)
1.経済的負担(交通費等の)が大きい
2.体力的負担が大きい
5.ボランティア活動に関する情報が得られない
8.趣味など仕事以外のことで忙しくて時間がない
***
1
0.
9
1(1)
注)ケース数は1)∼8)は、男性:n=4
2
7、女性:n=1
4
6、H)は、男性:n=4
2
6、女性:n=1
4
6
*
p<.
0
5、***p<.
0
0
1
1,p=.
38)とシニア学生(χ2=1.
82,df=1,
次に、性別と各要因に関連があるかを検討する
p=.
22)の双方ともに同等であるとことが確認
ために、χ2検定を行った。表4にその結果を示し
されたことを付記しておく。
たように、女性は男性に比べて、
「体力的負担」
これらの結果をまとめると、高齢者大学は、学
63,df=1,p<.
001)と「家 の こ と
(χ2=12.
生のボランティア活動への参加意欲を高め、か
89,df=
(家 事・介 護 等)で 忙 し い」(χ2=26.
つ、多くのボランティア人材の輩出に一定の成果
1,p<.
001)に有意に高い回答比率を示してい
を収めていると評価できる。
るのに対し、男性では女性に比べて、「ボラン
2.2
ティア活動に関する情報が得られな い」(χ2=
ボランティア活動参加を妨げる要因
調査1において、現在、ボランティア活動に参
6.
50,df=1,p<.
05)と「仲 間 が い な い」(χ2
加していないシニア学生に、
「ボランティア活動
=10.
91,df=1,p<.
001)に有意に高い回答比
に参加していない、あるいはできない理由は何で
率を示していることが確かめられた。恐らく女性
すか」(MLC)と尋ねたところ、「体力的負担が大
は、日常生活において体力を要する「家事」に代
きい」(36.
5%)、「趣味など仕事以外のことで忙
表されるような活動で手一杯なために、ボラン
しくて時間がない」(34.
7%)、「ボランティア活
ティア活動どころではないと考えているのに対
動に関する情報が得られない」
(28.
3%)の順で
し、男性については、退職以降、物理的制約が少
回答比率が高かった(表3)。
なくなったものの、女性に比べて希薄な(地元地
March 2
0
0
2
―1
8
9―
表5
ウィルコクスンの順位和検定の結果
標本数
平均ランク
順位和
参加群
7
6
6
7
3
7.
2
5
5
6
4
7
3
6
不参加群
6
1
7
6
3
5.
8
2
3
9
2
3
0
0
合計
1
3
8
3
Wilcoxon の W=3
9
2
3
0
0
Z 値=−6.
1
1
p<.
0
0
1
表6
カテゴリカル回帰分析の結果
β
F値
偏相関
部分相関
.
1
0
.
1
9
.
3
8
1
8.
6
0
6
2.
3
0
2
4
3.
6
6
.
1
2
.
2
1
.
3
9
.
1
0
.
1
9
.
3
7
現在の生活満足度(従属変数)
Model: R 2 =.
2
4,Adjusted R 2 =.
2
3,df(3,1
3
6
7)
,
F=1
4
0.
6
0,p<.
0
0
1,n=1
3
7
1
独立変数
1.ボランティア活動への参加の有無
2.健康に対する自己評価
3.経済状態に対する自己評価
域における)ソーシャル・サポート・ネットワー
クがボランティア活動への参加に歯止めをかけて
ことが確認された。
しかしながら、生活満足度は、健康や経済状況
いるのかもしれない。
などの生活領域に対する主観的評価の影響を受け
2.3
ていると考えることは自然であろう。そこで、
ボランティア活動への参加が、生活満足
度に及ぼす影響
「健康に対する自己評価」
、「経済状態に対する自
「ボランティア活動への参加の有無」が「生活
己評価」の影響を取り除いてもなお、「ボラン
満足度」に影響を与えているかを検討した。ボラ
ティア活動への参加の有無」が生活満足に影響を
ンティア活動に参加しているグループ:参加群
与えているかを検討するために、最適尺度法によ
と、現在、ボランティア活動に参加していないグ
る回帰分析(カテゴリカル回帰分析)を行った。
ループ:不参加群のそれぞれに、
「現在の生活満
結果を表6に示した。仮定した関係式について
足度」を尋ねたところ、
「とても満足している」
24、F=140.
60(自由度:df
は、決定係数:R2=.
と「それなりに満足している」を合わせた比率:
(3,1367)、p<.
001)であり生活満足度の説明
満 足 比 率 は、
「参 加」が91.
1%で、「不 参 加」が
に役立つことが確かめられた。標準化係数:Beta
81.
2%であり、満足比率は参加群が不参加群より
は「経済状態に対する自己評価」=.
38が最も高
若干高かった。次に、両群の「現在の生活満足
く、次いで、
「健康に対する自己評 価」=.
19、
度」の評定値の分布をウィルコクスンの順位和検
「ボランティア活動への参加の有無」=.
10であっ
定を用いて比較した結果を表5に示した。ウィル
た。なお、これら3つの独立変数を数量化した際
コクスンの順位和検定結果、順位和は、参加群:
の標準偏回帰係数:β は、「経済状態に対する自
564736、不 参 加 群:392300、Wilcoxon の W=
己評価」:β=.
38(p<.
001)、「健康に対する自
3923
00、Z 値=−6.
11(p<.
001)と な り、両 分
己評価」:β=.
19(p<.
001)、「ボランティア活
布が異なることが明らかになった。よって、参加
動 へ の 参 加 の 有 無」:β=.
10(p<.
001)と な
群は不参加群よりも「現在の生活満足度」が高い
り、全てが有意(p<.
001)であった。この結果
―1
9
0―
社 会 学 部 紀 要 第9
1号
表7
ボランティア活動の継続意向に影響を与える要因
β
要因
性別
d
.
0
4
.
0
4
.
0
6
−.
0
6
.
0
6
−.
0
3
.
2
7***
年齢
健康に対する自己評価q
経済状態に対する自己評価q
生活満足度q
活動日数
家族の協力q
動機項目d
自由に使える時間がまとまってあったから
他人や社会のために役に立ちたいと思ったから
自分が活躍できる場が欲しかったから
友人・知人がボランティア活動をしていたから
毎日、何か特別にすることがなかったから
信仰心や信条・信念から
多くの人たちと出会いたいと思ったから
人として社会のために働くことは当然だと考えたから
寂しかったから
周りにボランティアをする人が多くいたから
ボランティア活動を通して生きがいを見つけたいと思ったから
自分が持っている知識や技能を活かす場や機会が欲しかったから
いろんな経験をしたいと思ったから
R2
.
0
5
.
1
3**
.
0
9*
−.
1
1**
.
0
0
3
.
1
.
0
2
.
0
5
−.
2
1***
.
0
6
.
0
6
.
0
1
.
0
3
.
2
6
q:最適尺度法により数量化
d:ダミー変数
*p<.
0
5,**p<.
0
1,***p<.
0
0
1
から、3つの独立変数に限定すれば、
「現在の生
活満足度」に最も影響を与えているのは、
「経済
状態に対する自己評価」であり、
「健康に対する
2.4
ボランティア活動の継続意向に影響を及
ぼす要因
ボランティア活動の継続意向に影響を与えてい
自己評価」、「ボランティア活動への参加の有無」
る要因を探索するために、
「性別」、「年齢」、「健
については、殆ど影響を与えていないことが明ら
康に対する自己評価」、「経済状態に対する自己評
かになった。したがって、
「ボランティア活動へ
価」、「生活満足度」、「一ヶ月間の活動日数」、「家
の参加の有無が生活満足に影響を与えている」と
族の協力姿勢に対する評価」、「ボランティア活動
する仮説は支持されなかった。どうやら、ボラン
への参加動機」を独立変数、
「ボランティア活動
ティア活動への参加よりも、ボランティア活動に
の継続意向」の得点を従属変数として重回帰分析
参加できる状況をもたらす要因が、より大きく生
を施した。その結果を、表7に示した。ボ ラ ン
活満足度に影響を与えているようである。他の年
ティア活動の継続意向に影響を与える要因とし
齢層に比べ、より多くの高齢者ボランティアは高
て、「家 族 の 協 力」(β=.
27,p<.
001)、動 機 項
い社会・経済的地位にあると言われるが(War-
目の「他人や社会のために役に立ちたいと思った
burton and Terry,2000)、今回の結果もそのこと
か ら」(β=.
13,p<.
01)、動 機 項 目 の「自 分 が
を支持していると言えよう。
活 躍 で き る 場 が 欲 し か っ た か ら」(β=.
09,p
<.
05)、動機項目の「友人・知人がボランティア
活動をしていたから」
(β=−.
11,p<.
01)、「寂
March 2
0
0
2
―1
9
1―
しかっ た か ら」
(β=−.
21,p<.
001)が 有 意 で
足を回答していることから、研修の開催、相談窓
あった。
口の設置などを通じて、ボランティア活動に関す
まず、「他人や社会 の た め に 役 に 立 ち た い と
る情報の発信を積極的に取り組むことが求められ
思ったから」が「ボランティア活動の継続意向」
よう。また、「仲間がいない」への回答が女性よ
に有意に影響を与えているという結果は、高齢者
りも多い男性については、女性よりも希薄なソー
は、他の年齢層に比べ社会に対する義務感あるい
シャルサポート・ネットワークの拡充を高齢者大
は倫理的義務感によってボランティア活動参加に
学がどう支援することができるのか、ボランティ
動機付けられるとする先行研究の報告と一致する
ア活動への参加促進も視野に入れつつ今後検討し
(Omoto, et al., 2000; Warburton and Terry,
2000)。
ていく必要があろう。
本研究の結果は、あくまでも某県ある市にある
「自分が活躍できる場が欲しかったから」につ
高齢者大学のシニア学生と同市の高齢者から得た
いては、退職や加齢に伴う社会的役割の縮小によ
データによって得られたものであり、直ちに一般
る無用感を埋め合わせるために、ボランティア活
化できるものではない。今後さらに、異なる地域
動に新たな役割を見出そうとしていることを示唆
や高齢者大学において、研究を行っていく必要が
している。
ある。同時に、日本人の高齢者のボランティア活
「寂しかったから」が「ボランティア活動の継
動への参加の動機付け、継続意向を測定する精緻
続意向」に負の影響を与えているということは、
な尺度の開発が必要であろう。今後、高齢者大学
孤独感がボランティア活動継続の理由なのではな
事業やそのボランティア促進事業等のプログラム
くその逆を意味する。つまり、「友人・知人がボ
やサービスの評価研究がさらに進み、そこから得
ランティア活動をしていたから」が「ボランティ
る知識が、日本の高齢者の「生きがい」や「人生
ア活動の継続意向」に影響を及ぼしていることか
の質」を促進する、より効果のあるプログラムの
らわかるように、ボランティア活動によって既に
開発や改善に反映されていくことを期待したい。
ある程度の人間関係を築き、同時にそれを維持し
ようとしていると理解できる。また、加齢に伴う
役割の縮小や、関係欲求の欠乏状態によってもた
らされるストレスフルな状況に対する、対処行動
のひとつがボランティア活動への参加ならば、そ
れに対する「家族の協力」、つまり家族の理解・
支援は「ボランティア活動の継続意向」に大きく
影響することは容易に理解できる。
V.まとめと今後の課題
本研究の結果から、高齢者大学のボランティア
活動参加への支援事業において取り組まねばなら
ない、基礎的な課題が見えてきたといえる。ま
ず、ボランティア活動への参加を妨げる要因」の
分析の結果、女性については、その多くが体力的
負担のためにボランティアに参加できないと回答
している。このことから今後、
「知識供給型ボラ
ンティア」などのボランティア活動形態の分野を
開発、提案していくことが望まれる。男性につい
ては、その多くが、ボランティアに関する情報不
引用文献
Kee-Lee, C. & Iris, C.(2001)
. Stressful life events and depressive symptoms: Social support and sense of
control as mediators or moderators? International
Journal of Aging and Human Development, 52, 2,
155−171.
Kimberly M. P. & Margie E..L.(2001)
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Future: A life management strategy for increasing
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Maslow, A. H.(1970)Motivation and personality(2nd.
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Omoto, A.M., Snyder, M., Martino, S.C.(2000)
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Psychology 22, 3, 181−197.
Warburton, J. & Terry, D. J. (2000)
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Psychology, 22, 3, 245−257.
World Health Organisation(1998)World Atras of Ageing WHO centre for Health Development Kobe, Japan
―1
9
2―
社 会 学 部 紀 要 第9
1号
浅野 仁(1
9
9
2)高齢者福祉の実証的研究 川島書店
阿部志郎(1
9
9
3)地域社会における高齢者の健康づく
りと生きがい 長寿社会開発センター(編)
高齢者の精神構造的、心理学的、社会学的生きが
いと健康づくりの調査研究報告書! (財)長寿社
会開発センター
小河俊夫(1
9
9
4)高齢者は地域でどう活動するか―趣
味とボランティアのはざまで―
月刊福祉,1
9
9
4.2.9
4−9
7
落合良行(1
9
9
9)孤独な心―淋しい孤独感から明るい
孤独感へ― セレクション社会心理学1
1 サイエ
ンス社
香川正弘・佐藤隆三・伊原正躬・荻生和成(1
9
9
9)生
きがいある長寿社会・学びあう生涯学習―生きが
いづくり支援の現状と展望(序章;香川) ミネル
ヴァ書房
掛川典子(1
9
9
2)高齢者のコミュニケーションと生き
がい 女性文化研究所紀要,9,4
8−5
8
神谷美恵子(1
9
6
6)生きがいについて みすず書房
菊池幸子(1
9
9
3)日本の高齢者の生きがい―生活の質
の実証的研究 人間科学研究 1
4, 文教大学人
間科学部、1
9
9
3.2,4
8−5
5
国立教育会館 社会教育研究所(2
0
0
0)高齢社会と学
習 ぎょうせい.
近藤喜代太郎(1
9
9
3)老人の生きがい 長寿社会開発
セ ン タ ー(編) 高 齢 者 の 精 神 構 造 的、心 理 学
的、社会学的生きがいと健康づくりの調査研究報
告書Ⅱ (財)長寿社会開発センター
シニアプラン開発機構(1
9
9
3)サラリーマンの生きが
い に 関 す る 研 究 会 報 告 労 政 時 報、
3
1
3
4,1
0.8,4
8−5
0
杉山善朗(1
9
9
3)高齢者の生きがい作りに影響する要
因―心身健康と社会的サポートの条件― 長寿社
会開発センター(編) 高齢者の精神構造的、心
理学的、社会学的生きがいと健康づくりの調査研
究報告書Ⅱ (財)長寿社会開発センター
杉 山 善 朗・中 村 浩・斉 藤 和 雄・佐 藤 豪・竹 川 忠 男
(1
9
8
6)高齢者のスポーツ活動と「生きがい」意識
との関連 老年社会科学8,1
6
1−1
7
6
杉山善朗・中村浩・竹川忠男・佐藤豪・川本俊憲・大
友芳恵(1
9
9
0) 施設在園高齢者の生きがい意識
に関連する身体・心理・社会的要因の研究―スト
レス・コーピング様式との関連―老年社会科学、
1
2,1
1
7−1
2
6
内藤英二(1
9
9
7)世界の高齢者文化―家族・住まい・
ケアを通した国際比較 菊池幸子編 太洋社
福智 盛(1
9
9
0)老人大学の MECCA いなみ野学園
誕生と歩み ミネルヴァ書房
森下高治・植中雅子(1
9
9
8) 高齢者の健康意識と生
きがいに関する調査 流通科学大学論集―人文・
自然編―,1
1,1,
山本直示ら(1
9
8
9)高齢者の「幸福感(well−being)
」
と「生きがい」意識を規定する心理・社会的要因
の研究 老年社会科学,1
1,1
3
4−1
5
0.
横山博子(1
9
8
7)主観的幸福感の多次元性と活動の関
係について 社会老年学、2
6,7
6−8
8
横山博子(1
9
8
9)主観的幸福感と活動の関係について
―活動に対する態度の観点から―
老年社会科
学 1
1.1
5
1−1
6
6
吉澤英子(1
9
9
3)高齢者の能力活用と社会参加の方向
性―シニアボランティア活動を通してみた生きが
いと健康― 長寿社会開発センター(編)
高齢者の精神構造的、心理学的、社会学的生きが
いと健康づくりの調査研究報告書! (財)長寿社
会開発センター
March 2
0
0
2
―1
9
3―
Older people and volunteerism
ABSTRACT
This study had four purposes: 1)examining differences in participation in volunteer activities, and volunteer intentions between Japanese senior college students (SCS) including
alumni (n=1448) and older residents (n=8632) in a large city of 1.5 million; 2)examining
whether participation in volunteer activities increases life satisfaction; 3)investigating factors that might prevent participating in volunteer activities; and 4)investigating factors that
affect intent to continue volunteer activities in a sample of senior college students and
alumni. Findings revealed that: significantly more SCS participated in volunteer activities
than older residents; self-reported economic status and self-reported health status demonstrated greater power than volunteer participation in explaining life satisfaction; and intent
to continue volunteer activities was predicted by family support, moral obligation, having
friends in the volunteer activity, desire for a place to take an active part in the community,
and less-loneliness. The significance of these findings for research on volunteerism and aging in Japan, as well as the practical implications of the results for future research are discussed.
Key Words: senior college, older volunteers, life satisfaction, intentions to continue volunteerism
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