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安心・安全の心理学

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安心・安全の心理学
安心・安全の心理学
大阪大学大学院基礎工学研究科
上出寛子
本日のトピック
 安心感の研究
 ・・・リスク認知の研究
1.  リスク認知の要素
2.  リスク認知のプロセス
3.  リスク認知と信頼と安心
2013/12/21
2
安心・安全の語源は,
 「安全とは所期の目的を達成してなおかつ別に害毒の伴わないこと」
  安全:見通しが立つという事前評価で使われる
確率的な可能性
 危険が生じないと思われる確率
1. 
2. 
前例に関する科学的根拠に基づいてたてられる予測的判断
それらに対する主観的,経験的判断
1.定量化可能
2.定量化困難
頻度が低いデータからの予測の限界
リスク=発生確率×影響の大きさ
客観的な損害期待額の算出
心理的→リスク認知研究
評価の内容・要素
評価する際の認知プロセス
安全性
安心感
2013/12/21
3
リスクの語源は?
 フランス語risque
­ 
­ 
­ 
­ 
­ 
←イタリア語risco, rischio
←これらの名詞を生んだ動詞risicare, rischiare:「危険に飛び込む」
←ラテン語risicareに由来か?
:「断崖に挟まれた狭隘な水路を何とかうまく操船して抜ける」
←ギリシャ語rhiza:「断崖」の派生?
 リスク・・・受動的危険というよりむしろ自ら選択して挑む危険
­  管理,統制可能な個々人の責任による具体的危険
­  「ロボットを購入するにはリスクが伴う」「新しい研究には時にリスクがある」→ありえる
­  「富士山にはいつか噴火するリスクが伴う」「生物には死ぬリスクがある」→変
­  人間の意図的行為に伴う
­  人工物に関連することが多い
 なぜ危険を意図的に選択するのか?
­  可能的利益があると考えられるから
­  Benefitとのバランス
2013/12/21
4
リスク認知 概論
 専門的なリスク評価
 リスク= 発生確率× 影響の大きさ (損害期待額)
 ターゲットとする被害の種類:エンドポイント
­  「肺がんになる」→エンドポイント
喫煙者の何%が肺がんになり,それが非喫煙者とどれくらい違うのかを比較
­  「ロボットに支配される」→エンドポイント
ロボットと暮らす人の何%がロボットに支配されており,それがロボットと暮らさな
い人とどれくらい違うのかを比較
­  影響の大きさが極端に大きすぎるとリスク評価事態が無視される
小惑星が地球に衝突するリスク評価をしても対策がないので評価に対するインセン
ティブがなくなる
2013/12/21
5
リスク認知の要素
 リスクの専門的な定量評価はある程度可能
­  でもロボットを購入して不幸になる確率が60%だったとして,ではロボットを40%だ
け購入するというのはむり
 専門的な定量評価があったとして,結局,買うか買わないか,取り組
みに参加するかしないかという判断は主観的(心理的)に行われる
­  タバコによる肺がんのリスクの方がたぶんずっと大きいのに,それに対しては寛容で,
ロボットと人間の共存に関しては病的に拒絶する人がいたりする
因子
一般の人のリスク評価:そのリスクの性質についての評価
恐ろしさ
Dread risk
そのリスクは:
コントロールは可能か,世界的惨事となりうるか,致死的なものか,不
平等にふりかかるか,将来世代への影響は高そうか,削減することは難
しいか,増大しつつあるか,非自発的にさらされるか
未知性
Unknown
risk
そのリスクは:
観察できないものか,さらされている人にもわからないか,遅れて影響
が現れるか,新しいものか,科学的にもよくわかっているか
2013/12/21
6
フッ素添加
サッカリン
塩素消毒
コールタール毛染め
電界
制がん剤
電子レンジ
窒素肥料
観察不可能
対象者に未知
即時がゆっくり
新しい
科学的に未知
DNA技術
海面温度
放射性廃棄物
カフェイン
アスピリン
ワクチン
スケートボード
自動車の排気ガス
水銀
化石燃料
喫煙(病気)
科学的に大きなリスク
ではない場合でも,
新規な技術は
一般的にリスクが
過大視される
核反応事故
核兵器投下
核戦争
神経ガス事故
含鉛ペイント
超高層ビルの火事
統制可能で不安がない
致命的でなく公平的
将来への影響もない
簡単に削減可能
銃
ダイナマイト
採掘事故
自転車
電線(ショック)
ボート遊び
滑降スキー
2013/12/21
自動車事故
お酒の事故
花火大会
統制不可で不安
壊滅的で不均等
将来への影響大
簡単に削減できない
観察可能
対象者に既知
即時効果
昔からある
科学的に既知
7
ロボットの場合は?
 (例)サービスロボット
 →観察可能,開発されている以上科学的に既知(の部分は多い)
 Unknown riskは低い
 →一般の人はほぼ,まだ使っていない
 Dread riskは未知
­  自動車のリスク内容の多様性を参照
­  ロボットによる想定されやすい危害の可能性
­  物理的→ロボット制御不能になって転倒,人間がけが(工学的には統制可能なはず)
­  心理的→ロボットがすごすぎて人間がだめになる(心理的な影響は未知)
­  社会的→ロボットができすぎて人間が失業(法律,保険などの社会制度の必要性)
 リスクを過大視しないための対策(情報提示の仕方や専門家の説明)
 社会にロボットを設置し危害の可能性を知る
2013/12/21
8
リスク認知のプロセス
 一般的な人の情報処理「精緻化見込みモデル」
コミュニケーション
情報処理の動機づけ
は高いか
中心ルート
問題とする内容そのものについてしっ
かり理解し熟考した上で判断
NO
YES
情報処理する能力は
高いか
YES
中心ルートによる
処理
2013/12/21
周辺ルート
問題に関連する周辺的な要素に反応し,
手早く簡単に判断
NO
周辺ルートによる
処理
9
ロボットへの関心と安心
 開放性:新しい経験や知識を追い求める傾向
 Voluntaryな活動であれば同じBenefitでも1000倍はリスクを受容
2013/12/21
10
開放性の低い一般人
 外部依存性の高い社会
­  日曜大工されますか?
­  個々の専門性向上とともに,専門外のことについて知らないことが多い
 各領域の専門家頼り
 一般の人はほとんど周辺ルートで判断するだろう
 専門家に対する信頼が重要
­ 
­ 
­ 
­ 
実際に信頼性が高いかどうかが問題ではない
信頼できそうに思えるかどうかが大事
実際の専門家の信頼性が判断できる位の人ならはじめから中心ルートで判断するはず
ちなみに「信頼の非対称性原理」というのがあります
­  信頼を得るには多くの肯定的事実が必要で,かつ時間が長くかかるのに対し,信頼を失うには否定的事実が
ひとつあれば十分,しかもあっという間
­  顕在化しやすい,インパクト強,一般化されやすい…
2013/12/21
11
信頼できる専門家は誰なのか
 精緻化見込みモデル
­  動機づけも能力.知識もない→信頼できる人の言うことを受容
­  動機づけと能力・知識がある人→信頼できるのでは?
 Hovland et al. (1953) 説得効果の比較
ニューイングランド
生物学・医学雑誌の記事
大衆雑誌の記事
­  専門性:知識,能力
­  公正性:動機づけ,誠実さ
 メッセージの送り手の中立性・利害関係のなさ (パブリシティ)
 一般的な信頼のおはなし
2013/12/21
12
信頼できる専門家は誰なのか
 リスク認知研究
 Kasperson (1986)
­  「能力」「偏りのなさ」「ケアとコミットメント」
­  ( 専門性,公正性,動機づけと類似)
 Johnson (1999) レビュー
­  「能力」「ケア」
 信頼を導くといわれる主な評価要素
リスク管理の能力
リスク管理の姿勢
心理学の用語
能力(Competence)
動機づけ(Motivation)
下位項目
専門知識
専門的技術力
経験,資格
まじめさ コミットメント 熱心さ 公正さ 中立性 客観性 一貫性 正直さ 透明性 誠実性 相手への配慮(ケア) 思いやり
2013/12/21
13
リスクの評価プロセス AGAIN
 でも信頼の規定因である能力や動機づけを判断するのも結構めんどうだ!
 主要価値類似性モデル(SVSモデル)
­  相手の主要な価値が自分と類似しているとき,相手を信頼する
 信頼して主張を受け入れる→周辺ルート
­  基本的に単純に価値の類似性で判断し,そこで類似性が高いと判断されたら,能力や動
機づけも結果的に高いと判断されている
中心ルートによる
処理をする一般人って
ほんとにいないの!?
2013/12/21
14
リスクの評価プロセス AGAIN
信頼との結びつき
強
弱
高関心
グループ
価値類似性
評価
公正さ
評価
能力
評価
低関心
グループ
公正さ
評価
価値類似性
評価
能力
評価
 能力評価がいずれのグループにとっても信頼との関係が低い
 誠実な対応が大切
2013/12/21
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リスク認知と信頼と安心
リスク認知:ロボットによる危険は・・・
専門家の信頼性:企業Aさんは・・・
Unknown risk
科学的には解明されているだろう
高関心
グループ
(安心高め)
価値類似性
Dread risk
ユーザがコントロールできる?
致死的なものになる?
低関心
グループ
公正さ
 関心が高ければセットポイントとしての安心感は高い
­  安全性への知識がすでに既知の可能性
­  安全性が保証されていることが大前提
安全性
リスク情報に対して不安が高まる理由(中谷内, 2006)
1. 
2. 
3. 
メディアの情報提供方法
専門家による表現,専門家同士の対立
個人のとらえ方,認知メカニズム・・・リスク認知研究
 専門家からのメッセージの送り方(公正さ)
安心感
につながると予測
 ロボットとふれあう経験の多さ
2013/12/21
16
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