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フランスの研究教育システムについて

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フランスの研究教育システムについて
V ︿世界の大学紀行V
フランスの研究教育システムについて
吉 田
ですが、小生が一九九〇年度在外研究を行った所は大学
事、受入先と言っても小生用の部屋も机も何もない事、
ミナーがある時は行きましたが︶、文献が殆ど置いてない
セミナーは余りに専門的過ぎる事︵自然科学史関係のセ
ですが、余り行きませんでした。その理由は、数学史の
アパートを借りていて、近いので通うには便利だったの
ではないので、テーマから少し外れますが、フランスの
行っても殆ど誰にも会えない事です。そもそも、ドンブ
﹁世界の大学紀行﹂というテーマで書けという事なの
滞在地はフランスのパリでしたが、受入先はCNRS
研究教育機関について書く事にします。
︵国立科学研究センター︶のUPR21︵研究単位21︶で、ル教授はナント市︵大西洋の港町︶の大学教授であり、
週2日、セミナーのある時だけパリに来るという状態で
も兼ねているという形で、フランスに独特のシステムと
す。つまり、大学教授でありながら、CNRSの研究員
そこにはドンブル教授がいて、科学史の研究を行ってい
ます。彼は数学史が専門で、週一回数学史のセミナーを
テムになったかというと、原因は幾つか考えられます。
育システムを複雑にしている原因です。何故こんなシス
他の教育ポストを兼ねており、それがフランスの研究教
思われます。全員ではないが、かなりの人がCNRSと
開いています。この研究所はパリー6区︵パリの西部︶に
ありましたが、普通想像されるようにCNRSの建物の
の数部屋を間借りしているという状態でした。現在はパ
一角を占めているなどというものではなく、病院の4階
リー3区のトルビアックに引越しましたが。小生は15区に
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晃
先ず、フランスでは、大学というものがもっぱら教育機
いうより、﹁論文を準備する﹂といった感じです。構成と
たさなければなりませんが。よって、﹁大学院に入る﹂と
しては、昔は学士の後、修士、第三期博士︵アメリカの
関として位置付けられ、研究は二次的なものでしかない
事でしょう。そこで、研究だけに専念できるセンターが
士、博士だけになりました。
翫nに相当︶、国家博士︵日本のかっての文学博士に相
が続きます。かと言って、フランスは組合が強いですか
以前小生が博士号を取ったのはCNRSではなく、E
HESS︵社会科学高等研究院︶で、場所としてはコイ
レセンターです。EHESSは大学ではなく、言ってみ
当?︶の三段階だったのですが、今は簡略化されて、修
ら、人減らしもできない。そこであみ出されたのがポス
れば大学院大学みたいなもので、キャンパスなどはあり
のです。これが成功を収めたのですが、その後は資金難
は増えますが、二倍にはなりませんので、教育省にとっ
われていましたが。︶ポストを二つ兼ねても、給料は若干
ません。一応建物はありますが。科学史はコイレセンタ
欲しいという事で、一九四一年にCNRSの創立を見た
ては節約になります。更に教育省が強調するようになっ
ーで主に行われていました。しかし、センターとは名ば
NRSの研究員も、研究だけでなく、積極的に教育活動
兼研究室という悪環境でした。現在は、植物園内の建物
かりで、古い建物の二階の一室だけで、図書室兼ゼミ室
トの兼職。︵もっとも兼職は既に19世紀からひんぱんに行
たのは、研究と教育の両立。つまり、兼職していないC
も行うよう奨励しています。もっとも、大学院レベルで
に移転して、より広く、ましになっています。しかし建
は、区別は存在していなく、CNRSでも積極的に修士、
博士を育てています。小生の受入先のUPR21は、科学 物自体は古くてきたないですが。さて、このコイレセン
フランスにおいては、日本のようにはっきりした﹁大
わけではないので、外部から教えに来ているといった形
なかったです。つまり、コイレセンターにポストがある
ません。所長は、当時タトン教授で、CNRSの研究員
でもありましたが、EHESSに直接属しているのでは
ターとEHESS、CNRSとの関係が余りはっきりし
学院﹂という形はありません。建物もないし、特別な大
史における修士、博士論文準備の学生受入れ機関でもあ
学院入試というものもありません。勿論、資格基準は満
るのです。
一99一
る時しか顔を見せません。研究はもっぱら他の図書館︵主
です。学生の方も毎日来るわけではなく、セミナーがあ
けでなく、請求も端末でできるようになって欲しいと思
も、ここ迄来たのですから、日本の図書館でも、検索だ
います。とに角、遅れていると言われていたフランスで
︵助教授・自然科学概論専攻︶
います。
に国立図書館︶でやっています。
小生も、在外研究中、余りCNRSとかコイレセンタ
ー︵特にタトン教授は定年退職してしまった事から︶に
フランス学士院内︶の記録保管所や国立図書館で研究し
は行かず、もっぱら、科学アカデミー︵セーヌ河沿いの
ていました。前者は、現在学士院内の建物の6階に移転
し、より広く明るくなりました。国立図書館は、相変ら
ず薄暗いですが、やっとコンピュータを導入し、今迄手
式となり、本を手にする迄の時間がスピードアップされ
書きで閲覧図書を請求していたのが、端末に打ち込む方
ました。問題は、コンピュータの速度が余り速くないた
の方がカードの書き込みとしては速い事、図書請求番号
め︵恐らく容量に余り十分余裕を持たせてない︶、手書き
の場合、問題が生じる事です。なお、ミッテラン大統領
を詳しく打ち込まないと拒否されるため、何巻本もの本
の肝入りでTGB︵巨大図書館︶が建設中で、一九九五
そこに使われる筈のコンピュータ・ソフトが今の所不完
年の完成を目指しています。しかし、うわさによると、
全で、建物だけできても本が入らないだろうと言われて
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