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睡眠時間及び睡眠の質と精神的健康度との関連性
睡眠時間及び睡眠の質と精神的健康度との関連性 ○松原昭 1・津田彰 2・矢島潤平 3・岡村尚昌 4・三原健吾 1 (1 久留米大学大学院心理学研究科・2 久留米大学文学部・3 別府大学文学部・4 久留米大学高次脳疾患研究所) キーワード:睡眠時間,睡眠の質,GHQ-28 Relationship between sleeping time, sleep quality and mental health Akira MATSUBARA1, Akira TSUDA2,Jumpei YAJIMA3,Hisayoshi OKAMURA4,Kengo MIHARA1 1 ( Graduate School of Psychology, Kurume Univ., 2Department of Psychology, Kurume Univ., 3Department of Human Studies, Beppu Univ., 4 Cognitive and Molecular Research Institute of Brain Disease, Kurume Univ.) Key Words: Sleeping time, Sleep quality, GHQ-28 目 的 近年,生活習慣の変化に伴い睡眠時間が減少し,睡眠障害が 増加していることが多くの研究で報告されている(Okamura et al., 2010)。それに伴い,睡眠習慣の乱れと生活習慣病の発症とが密 接に関連していることが明らかにされた。(菅ら, 2011)。さらに, 習慣的に適時間睡眠(6~8 時間)よりも短い又は長い睡眠時間の 個人ほど心身のストレスを強く自覚していることが明らかにされて いる。しかしながら,睡眠時間にのみに注目した先行研究が多く, 睡眠の質と心身の健康との関連性を検討した研究は少ない。荒 井ら(2006)は,睡眠の質が日常生活における心理的適応や身体 活動と関連していることを報告した。これらの知見から,睡眠習慣 の乱れが心身の健康に及ぼす影響を明らかにするためには,睡 眠時間と睡眠の質の両面から検討することが求められる。 そこで本研究では,睡眠時間が 5 時間以下の参加者を短時間 睡眠群,6~7 時間を適切睡眠時間群,8 時間以上を長時間睡眠 時間群と操作的に定義し,ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)日本 語版による睡眠の質と習慣的睡眠時間の長さを同時に評価する ことで,睡眠習慣の乱れと心身のストレス反応との関連性を明らか にする。 考 察 本研究の結果から,睡眠時間の長さによって PSQI 得点と GHQ-28 得点との関連性が異なることが示された。すなわち,短時 間睡眠群は他の 2 群に比較して,より睡眠の質が悪く,その睡眠 の質の悪さと GHQ-28 によって評価される精神的健康度の低さと に関連が認められた。これらの知見は睡眠時間が短すぎる学生 は,身体的不調や疲労,抑うつ気分が強いことを示しており,習慣 的な短時間睡眠が最も心身のストレスの自覚や健康状態の悪化 と関連することが明らかとなった。 長時間睡眠群において PSQI 得点と GHQ-28 得点とに関連が認 められなかった理由として,他の 2 群に比較して極端に人数が少 なかったことや,大学生特有の生活習慣の乱れがそのまま睡眠時 間に反映されたことが考えられる。 さらに,自己報告による睡眠時間の長さと睡眠の質とに関連が 認められたことから,自己報告による睡眠時間が学生の心身の健 康状態や睡眠習慣の乱れを反映する有用な指標となりうることが 示唆された。 短時間睡眠群 * 9 適切時間睡眠群 8 長時間睡眠群 7 PSQI 方 法 研究参加者 参加の同意が得られた健康な大学生 125 名(男性 56 名,女性 69 名,年齢 21±4.9)を対象に調査し,短時間睡眠群(5 時間以下 の睡眠)50 名,適切睡眠時間群(6~7 時間睡眠)を 53 名と長時間 睡眠群(8 時間以上の睡眠)19 名にそれぞれ抽出した。 手続き 大学の講義時に,一斉に睡眠時間調査票,日本語版 PSQI 及 び,GHQ-28 への回答を求めた。 質問紙 PSQI 日本語版は主観的な睡眠の質を評価するための 18 項目 から構成される自記式質問票である。睡眠の質,睡眠時間,入眠 時間,睡眠効率,睡眠困難,睡眠導入剤の使用,日中の眠気な どによる日常生活への支障といった 7 つの要素から成る。回答を それぞれ 0~3 点でスコア化し,合計スコア(0~21 点)を算出・評価 し,得点が高いほど睡眠が障害されていると判断する(土井ら, 1998)。 精神健康調査票(GHQ-28)は,最近 1 週間の精神的健康度を 測定する質問紙である。「身体的症状」「不安と不眠」「社会的活 動障害」「うつ傾向」の 4 つの下位尺度で,28 項目から構成されて おり,4 段階の自己評定尺度である。各下位尺度とも 7 点満点で 評価する(中川ら, 1985)。 結 果 睡眠時間を独立変数,PSQI の得点を従属変数とした一要因分 散分析を行った。その結果,PSQI の得点において,群の主効果 が認められ(F(2, 107)=4.17, p<.05),短時間睡眠群は適切睡 眠時間群に比較して有意に高値であった。さらに,PSQI 得点と睡 眠時間との間に有意な負の相関が認められた(r=-.657, p<.05)。 GHQ-28 の 4 下位尺度と PSQI 得点とのピアソンの相関係数を求 めたところ,短時間睡眠群においては,PSQI 得点と身体的症状 得点(r=.533, p<.05),不安と不眠得点(r=.534, p<.05),社会的 活動障害得点(r=.265, p<.10)そしてうつ症状得点(r=.518, p<.05)とに有意な相関が得られた。一方,適切時間睡眠群では, PSQI 得点と不安と不眠得点(r=.455, p<.05),社会的活動障害 得点(r=.386, p<.05)との間に有意な相関がみられた。長時間睡 眠群においては PSQI と GHQ-28 の 4 下位尺度では有意な相関 は得られなかった。 6 5 得 点4 3 2 1 0 短時間睡眠群 図 適切時間睡眠群 各群の PSQI 得点 長時間睡眠群