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彩絵仏像幡修理にいたる経過―特集に寄せて

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彩絵仏像幡修理にいたる経過―特集に寄せて
彩絵仏像幡修理にいたる経過 ― 特集に寄せて
杉
本
一
樹
南倉1
55彩絵仏像幡は、絹地に仏像を描いた幡で、正倉院では唯一の作例であり、本格的な絹
本絵画として貴重である。描かれた図像は密教系のものとも言われ、宝物の中でも異彩を放っ
ているが、その製作事情、例えば描かれた時期や描き手など製作にまつわる背景、現在に至る
までの修理を含めた伝来過程など、多くの謎に包まれている。
このような特色ある宝物であるため、そこに見られたフォクシングの発生は瑕疵として惜し
まれるところであり、その除去を主目的とする修理の可否は、かねてより検討されてきたとこ
ろであった。その可能性をさぐる第1段階として、平成9年度に幡脚の部分を本体から取り外
して、状況を詳細に観察したところ、幸いにもフォクシングの及ぶのは主として修理の際に後
に付加された裏打絹の部分であることがわかり、実際に裏打絹とオリジナルの絹との分離に成
功した(施工
春鳳堂)
。その後、所内で脚について事後の経過観察・調査を続けるのと並行し
て、専門家の意見を聞きつつ全体にわたって検討を重ねたところ、過去の修理に加えた裏打絹
が、宝物のオリジナルな部分に悪影響を与えていることが明らかになった。すなわち、フォク
シングを招く原因となっていることに加えて、その素材の固さによって、本体絵の具層が負荷
を受ける要因となっていたのである。そして、結論としては、高度な技術をもつ専門の修復技
術者の手に委ねれば、修理は可能との見通しが得られたのであった。
そこで、絵画・書跡を中心とする文化財修理の分野で多くの実績をもち、同時に、正倉院宝
物のようにさまざまな彩色を施した古代の作例に通暁している工房として、京都の岡墨光堂を
修理技術者として選定し、フォクシングの除去と絵の具の剥落止めを目的とする本格的な修理
を実施することになった。かつて正倉院事務所が実施した鳥毛立女屏風修理や、現在進行中の
伎楽面修理事業と同様、所内に作業場所を設定して作業を進めることとした。
修理工程は、大きく2段階に分けた。まず、初年度(平成15年度)は、幡身本体を対象とし
て修理を行った。着手に先立っては、正倉院・岡墨光堂双方の立ち会いのもとで、古代の染織
品の修理に習熟した当所の修補専門技官が幡の解体を行い、部品の状態で岡墨光堂に引き渡さ
れて、修理が開始した。この工程が完了してのち、平成16年度は1年間の経過観察期間をおき、
同1
7年度に第2年度の工程に入った。
第2年度目は本体以外の、幡頭縁、幡身左右縁、坪界に修理を加えた。幡脚も裏打ちをし直
して、全体を組み立てて、修理前と同様の姿に戻す作業を行った。
なお、修理中及びその前後にあたる平成15年から18年にかけて、幡の構造や、絵絹などの平
絹の織り、あるいは彩色技法、彩色顔料、墨書銘など全般にわたって、当所の研究職員によっ
て細部にわたる調査が行われ、この幡を研究する上での多くの知見が得られた。
(1)
また、これとは別に、奈良国立博物館の絵画専門の学芸員に協力を仰ぎ、仏教絵画作品とし
ての、あるいは美術工芸品としての彩絵仏像幡について、図像・様式・技法・材料などの観点
からの調査をお願いした。
本号では、修理完成を機に、特集として、彩絵仏像幡の修理報告書と資料、関連調査の成果
を掲載することとした。奈良国立博物館の調査からは、梶谷亮治氏が代表として玉稿をお寄せ
下さった。これらを通じて、多くの方々に最新の成果を知っていただき、彩絵仏像幡に関する
研究がいっそう進展することを期待したい。
南倉1
5
5 彩絵仏像幡
左:表(修理前)
右:裏(修理前)
(2)
南倉155 彩絵仏像幡
表(修理後)
南倉1
5
5 同左
(3)
裏(修理後)
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