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家畜福祉セミナーin 八雲 - 一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会

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家畜福祉セミナーin 八雲 - 一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会
「家畜福祉セミナーin 八雲」メモ(15 年 8 月 29~30 日)
〔松木洋一さん講演要旨〕
20 世紀の集約畜産を反省し「5つの自由」踏まえて改革
21 世紀になって、欧米など畜産先進国は工場的な畜産
からの転換をめざし、新しいシステムの開発に取り組んで
います。その基本コンセプトが「ファーム アニマルウェ
ルフェア(Farm Animal Welfare)」です。日本では「家
畜福祉」と訳されますが、人間の社会保障と混同されやす
く、聞き慣れないものです。
そこで僕は、説明の仕方を変えようと考えました。英語
の「ウェルフェア」は福祉と訳されていますが、語源的意味は「満たされて(Wel)、生き
ている(fare)
」です。ヨーロッパの人たちと話すと、我々が考えるような社会保障的な福
祉の概念よりも、
「満たされて生きている状態」と受け止めています。
アニマルウェルフェア(AW)畜産とは、最終的な死を迎えるまで、ストレスから自由
で、行動要求を満たされた健康的な状態で家畜を飼育するシステムのこと。さらに人間も、
飼育過程のなかで家畜から癒しを受け、満ち足りた状態で共に生きること、と受け止める
といいでしょう。
世界のアニマルウェルフェア畜産の原則は、
「5つの自由」に依拠しています。それは次
のような、家畜にとって自由な飼育方法です。
①飢えと渇きからの自由(健康と活力のために必要な新鮮な水と飼料の給与)
②不快からの自由(畜舎や快適な休息場など適切な飼育環境の整備)
③痛み、傷、病気からの自由(予防・救急医療や救急処置)
④正常行動の発現の自由(十分な空間、適切な施設、同種の仲間の存在)
⑤恐怖や悲しみからの自由(心理的な苦しみを避ける飼育環境の確保と適切な待遇)
僕は最近、関東などの農業者と、
「癒しを受ける側面を考えると『5つの自由』にもう一
つ加えるべきではないか」と話し合っています。人間側が動物から癒しを受ける、という
関係性も考えたほうがいい。こうした原則に基づいて今、世界で畜産革命が起きています。
アニマルウェルフェア畜産を実現するには、20 世紀の反省が必要です。
ヨーロッパでは、近代農法による農業活動のなかで、環境汚染を引き起こし、食の安全
を脅かし、生態系を破壊し、動物を虐待してきた--という4つの問題が起きたことを反
省しています。そして、効率性や生産性を追求するために、多数の家畜の自由を閉じ込め
たことを省み、
「5つの自由」で復活させようとしているのです。
日本の場合、欧米で確立された工場的畜産システムを素直に導入してしまった。そのこ
との反省が足りないので、21 世紀の畜産革命の路線になかなか乗れない状況があります。
家畜は感受性ある生命存在 雄子豚の去勢廃止も日程に
EU(欧州連合)では 2007 年、加盟国
の憲法ともいえるリスボン条約の第 13 条
において、家畜は単なる農産物ではなく、
「感受性のある生命存在である」と明文化
されました。すべての法律は条約に従わな
くてはなりません。この家畜福祉条項に基
づいて、法令や政策が次々に整備されてき
ました。
EUは、99 年のWTO交渉から家畜福祉
補助政策を主張しています。しかし、アメ
リカの反対などで受け入れられなかったの
で、
「自分たちでやってしまおう」と多国間
協定や家畜福祉食品の表示ラベルを作った
りした。(家畜福祉を進めることで生じる)
コストに対する補助金制度はすでに実現し
ています。
そうしたなか、採卵鶏の従来型バタリー
ケージ飼育は 12 年1月をもって禁止されました。妊娠豚用のストール飼育も、13 年1月
以降は受胎後4週間以降、分娩予定日1週間までの期間、全面禁止されています。
とても興味深いのは、かなりラジカルに動き始めていることです。
オランダとドイツ、デンマークは最近、
「家畜福祉宣言」を行ない、今年7月にはこの3
カ国とスウェーデンがEU委員会に対し、
「豚保護指令」の改正を勧告しました。
「全農場
で豚の断尾を禁止する法令の導入」「飼育面積の拡大」「スノコ床の改善」などを求めてい
ます。
もう一つ大きいのは、10 年のブリュッセル宣言で、
「すべての雄子豚の去勢を 18 年まで
に廃止する」と採択したことです。現実には、EU全体では 12 年現在、80%ほどの雄子豚
が去勢されています。その理由の第1は、去勢しない雄の豚肉には不快な臭いがあり、市
場が受け入れてこなかったからです。
しかし近年は、市場関係者や消費者への調査で非去勢豚肉への偏見が少なくなったこと
や、飼料給与の変更、肥育期間の短縮などで、その汚名は弱まっています。去勢を廃止す
るのは大きな課題ですが、ヨーロッパの人たちは、非去勢のほうが経営的に優位とする科
学的な研究の上に、この問題に対応しています。
直接支払いとブランド化を組み合わせAW食品を振興
アニマルウェルフェア畜産の推進には、付加価値を持った商品として「ウェルフェア・
クオリティ(家畜福祉品質)ブランド」を作り、市場経済のなかで家畜福祉食品を実現し
ていく路線と、直接支払いで補助金を支払うやり方があります。
(後者は)一定の基準を超
える場合、年間5百ユーロ(大家畜1頭あたり)が支払われ、政策助成と市場経済のブラ
ンド化が連動し、家畜福祉を振興していこうとしています。
09 年の共通農業政策(CAP)改革で、外部からの農薬や肥料などの投入禁止が打ち出
されました。ヨーロッパの直接支払いは、自然と共生する農業と家畜福祉の2本柱で動い
ています。ただ、財政難で補助金行政が後退し、家畜福祉直接支払いは減額されているの
が実態です。
市場経済のなかで家畜福祉食品をどう振興していくかについて、04 年から 09 年まで、
オランダのワーゲニンゲン大学が中心になって研究開発をしました。直接支払い政策の財
政負担の限界が見えてきたことを背景に、フードチェーンの開発が主要な方向になってき
たのです。
オランダでは、政府と企業、研究者、農業者が一体となってフードチェーンを開発して
います。07 年に豚の去勢廃止の宣言がなされ、チェーン開発の主体である小売り協会(ス
ーパーマーケット)や食肉の企業、農業者、養豚経営者の組合を中心に業界の人たちが主
導権を持ち、それを政府や動物保護協会が後援するというスタイルです。
ワーゲニンゲン大学を中心にした開発プロジェクトが始まり、そのなかからアニマルウ
ェルフェア食品も含めた新しい概念として、
「持続的食品」という言葉が使われ始めました。
根底には、オーガニック食品は理想的だけれど、消費は頭打ちという現状認識があります。
オランダ政府は「持続的食品」について、①生産から加工までの段階で、法的基準以上
の食品②環境的で、動物福祉と偽装工作をしないなど社会的規範が考慮されている食品-
-と定義づけています。そうした食品を伸ばすために、ラベルを貼って認証していくわけ
です。
独自のAW認証食品マークで販売高が5年間で7倍に
まず、養豚部会とオランダの農業者の組合、動物保護
協会が連携し、農業現場で実行できるものとして「快適
水準原則」を創りました。オーガニック認証のようなき
びしいものではなく、各農場が持っている飼育条件や経
営要素を踏まえ、今後の改善計画を示して認証していく、
という原則に基づいて推進しています。
▲「ベターレーベン」の3つ星マーク
担い手の主体としては、①EUの直接支払い制度 ②オランダのアニマルウェルフェア食
品チェーン産業助成 ③ワーゲニンゲン大学の実務的な研究開発 ④動物保護の市民活動
⑤食品加工流通企業 ⑥有機認証団体 ⑦消費者グループの直売店--を挙げることができ
ます。
今、アニマルウェルフェア食品のブランド化の核になっているのが「ベターレーベン」
の認証マークです。基準によって星の数を
1つから3つまで付け、スーパーの畜産商
品に貼ってあります。ベターレーベン食品
の販売額は、08 年に 6,800 万ユーロでし
たが、13 年には4億 7,300 万ユーロと、
7倍くらいのすごい勢いで増加していま
す。
アニマルウェルフェアのプライベート
ブランド(PB)もある。禁止された鶏の
▲「ロンディール」のAW鶏舎の一例
ケージに代わるものとして、養鶏設備メー
カーが開発した、
「ロンディール」という1カ所3万羽規模の養鶏システムができています。
オランダに2、3カ所しかないのですが、このシステムを日本に売ろうとしている。
ベターレーベンの3つ星は有機畜産が条件です。ロンディールは輸入の配合飼料を与え
ていますが、
「3つ星にしよう」との評価になりました。ロンディールの卵は1個 40 円、
有機卵の値段と同程度です。安売りの卵は1個 18 円くらいなので、1.5倍ほどになりま
す。
地域とつながる小規模飼育や放牧畜産に新たな可能性
オランダの養豚は、日本と違って施設型
が多く、放牧養豚は5農場くらいときわめ
て少ない。しかし、徐々に放牧養豚が始ま
っています。小規模な一貫飼育をして、地
域にある資源で飼料を作り、地域の肉屋や
レストラン、消費者とつながる。25 頭以
上には飼育頭数を増やさない、という経営
方針の農場もあります。
こうしたことを見ていると、アニマル
ウェルフェア畜産には2つの道があると考えられます。
▲北海道の放牧養豚(せたな町で)
一つは、スーパー主導型のチェーンです。ロンディールのような、数万羽単位の鶏舎を
持った生産に基づいて、スーパーのチェーンと結合する--これが主流でしょう。
もう一つは、小規模飼育と放牧型のアニマルウェルフェア畜産です。地元の中小企業や
消費者グループの直売店とつながり、家畜のふれあい体験や音楽会などで交流をしながら、
牧場内の生物多様性の保全といった新しい価値を見つけていく。単なる物の売買ではない、
未来の価値に対する投資や交流という新しいつながりが出てきています。
(質疑)
Q:サプライチェーンとは?
A:直訳すると供給チェーン。フードチェーンは生産から加工、流通、消費の全体をい
う。そのなかの農業者が出荷し、供給していくことを、生産者の側からのサプライチェー
ンといっている。
Q:日本にいるとオランダの消費者のニーズが分からない。マーケットで「ベターレー
ベン」のラベルが貼られることによって、消費者の意識は変わったりするのか?
A:スーパーには必ず有機のラベルを貼った商品や慣行栽培の商品があって、
「ベターレ
ーベン」はその間にある商品と位置づけている。畜産物の「ベターレーベン」は有機より
安いけれど、慣行食品よりも2~3割は高い。持続的食品(ベターレーベン)=AW食品
に近い。オランダ政府は、AW畜産商品を伸ばしていこう、という政策転換をしつつあり。
消費者も、
「有機は高いけれど、その下だよね。家畜にやさしい飼い方をしている」と安め
のものを買う。現実的で消費者にもなじみやすいので、伸びている。
Q:八雲で牛飼いをしている。家畜の福祉ということで畜舎を広くすると、お金のかか
ることになると思う。そのお金は国からの補助などはあるのか?
A:家畜福祉支払い金があって、1頭あたり6万円くらいになる。そうしたコスト高に
なるものを補償しようという理念はあるけれど、財政難で支払いを減らそうとしている。
その代わりに市場経済のなかで消費者に高めの価格で買ってもらい、それで補填してもら
う、と。そうした形で生産者は両方から支えてもらう方向にある。
また、放牧を中心にやっていくと、コストがむしろ安くなる。舎飼いの場合は、密飼い
やつなぎをやめて群飼いするわけで、必ずしもコスト高にならないのではないか、と。僕
が見ても、コストは安くなる。新しい畜舎を建てる人はあまりおらず、既存のところに少
し空間を広げていく、と。
Q:ラベルや価格で選んでもらうことが必要と思うが、ヨーロッパの人はなぜそれにお
金を出してくれるようになったのか?
日本の消費者は、牛がどう飼われているか知らな
い。また、
「こっち(AW)がいいよ」となると、
「他が悪いよ」という形になりかねない。
そのあたりをどう解決してきたのか。
A:日本もヨーロッパ方式ではなくて、アメリカ的な自主的ガイドライン方式がいいの
ではないか。
(欧州では)法律を作って、補助金政策で上からやっていくところが目につく。
消費者運動は日本のほうが進んでいると思う。
ヨーロッパの農業は畜産であり、日本の畜産はたかだか 50 年くらいの歴史しかない。
(日
本の畜産は)生産額では耕種を抜いているけれど、家畜の飼い方などの情報が消費者に行
き渡っていない。一方で、ヨーロッパの人たちは家畜との距離が近い。そのへんの違いが
すごくあると思う。もう一つは、動物保護運動の政治的なプレッシャーがある。それで税
金によって補助金を支払わせていくことができた。
オランダの有機農業関係者に聞くと、
「AW食品はなじみが薄い」と言っていた。一般庶
民はあまり関心がないんじゃないか、と。しかし、スーパーに行くと「ベターレーベン」
のラベルが貼ってある。そこから消費者があらためて気づく面がある。単なる動物保護運
動ではなく、日常生活のなかで大きなスーパーが同じチェーンの主体として入ってくる。
PBと併せてラベルを付ける。そこからくる消費者の意識改革は大きい。日本は、生協や
消費者団体がAW食品に対するなじみが薄い。一部の生協では、自分たちのPBとしてA
W食品に取り組みだした。
Q:現場のほうから上がっていくほうがいいのでしょうか?
A:小規模な農業の人たちが地域住民とつながり、農場に来てもらい、理解を深めてい
くほうがいいのではないか。
(対談編)
※小栗牧場では、経産牛 48 頭、子牛・育成で 20 頭ほど。冬以外は放牧をしている。
函館酪農公社のHPに牧場紹介~http://www.e-milk.co.jp/producer/file004.htm
Q:獣医師・末永龍太さん~「家畜福祉」と聞いて、どう思ったか?
A:酪農家・小栗格さん~最近にな
って耳にするようになったけれど、昔
はこうした言葉はあったのかな、と。
さっきの話だと、(欧州では)以前か
ら政策的にあったのですね。昔、僕が
生まれる前は放牧や繋牧が主流だっ
たらしい。今のように多頭化している
わけでなく、小規模と決まっていて、
牛1頭あたりのウエートが大きかっ
た。意識して大事に飼うというより、そうした環境になっていたのではないか。
まわりの方からこの業界を見たときに、
「酪農家って牛を大事に飼っていないんじゃない
か」と思われているから、家畜福祉が出てきたのでは。また、大量生産で低価格が消費者
から求められてきたのかな、と思う。
Q:低価格で大量のニーズに応えようとすると、飼い方も変わってくる。
(これまでの歴
史は)多頭化の選択や、1頭あたり乳量をたくさん搾れるように改良されてきた。
(昔の共
進会の入賞牛の写真を示して)おっぱいに注目してもらうと、改良の流れが一目瞭然だと
思う。高泌乳の牛を飼うのはセンスが必要になる。
A:僕が(1頭あたり年間)1万㎏を搾ろうと思っても、
(会場の)●●君のようにはい
かない。たくさん乳を搾ろうとすると、たくさんのエネルギーを必要とするわけで、牛の
状態によって餌を変えていくように調整している。
(図を示す)左が人間側、右が牛側のサイクル。人間側の大量生産・低価格のサイクルを
ベースに右側をグルグル回すと、牛や土、草に無理がかかる。僕は、牛と自分の歩幅を合
わせて、同じペースで歩いていく。そうして、牛乳やお肉を自然の恵みとして受け取り、
それを人間側のサイクルに供給することは筋が通っているんじゃないか、と思う。人間側
が優位に立って牛側の方向を変えようと思っても、なかなかそうはならない。牛にも都合
がある。
Q:写真↓は牛を安楽殺させている場面ですが。
A:事故が起きたとき、現場
で殺さなければならないとき
がある。過去にも、法定伝染病
のヨーネ病に罹ったことがあ
り、結構な頭数を薬殺した。女
性の獣医さんが涙をこらえて
薬を入れて、手を合わせてとい
う状態だった。僕は、それを見
たくなかったが、でも見ておか
ないといけない、と思った。こ
れからは、牛を薬殺するような
状態にさせない、そのためにもきちんと見届けてやろう、と。
そう思いながらも、毎日忙しく、時間に追われることが多く、根っこの部分すら忘れそ
うになる。牛を眺めたり、夜に牛を出したときに一緒に放牧地に入って、土を踏んで虫の
音や川の音を聞いたり、星空を見たり…。一緒にいる牛がおいしそうに草を食べていたり
…。そうした姿を見ていると癒されていて…という状態です。
Q:学生時代、フリーストール牛舎に憧れていたと聞いたが?
A:高校を卒業後、本別町にある道立農業大学校に行ったが、当時のイメージはフリー
ストールで大規模でというものだった。実習先も大きなフリーストール&パーラー方式の
ところに行った。実習してみると、規模が大きく労働人数も多く、そのなかで分担されて
いて、冷たい感じがした。格好いいイメージを抱いていたけれど、俺には合わないな、と。
うちの牧場は規模が大きくなく、全体を把握できている。それとフリーストールの作業に
ギャップがあり、自分には合わないのかな、と。
(そのころ)親から「これから放牧をやる
よ」という話を聞いて、それならやりたいな、と思った。
Q:帰ってきて、特に牛を大事に飼わないといけない、と思った場面は?
A:実家に戻り、子牛の哺乳もやるようになった。でも、経験がないせいか下痢をさせ
てしまって悪化し、死んでしまうケースが何回かあった。
「仕方ないんじゃないの」という
雰囲気もあったが、死なすということ自体、
駄目だな、と。殺したくないな、と思った。
当時は子牛共済もなかった。
Q:ということは子牛の治療代は現金で
払ってもらうことになる。筋肉に注射を1
本打つだけで 600 円とか。それを1週間も
続けると結構な額になる。
A:ヨーネ病が出て、きちんと見ておか
ないと薬殺をくり返す、と思った。
Q:先ほど「牛を中心にせずに失敗した」と言っていたが。
A:本来、牛は草食動物で、粗飼料をメーンにして、なるべく配合飼料を与えないで飼
うのがいい。だから、頭のなかで「配合飼料は良くない。なるべく粗飼料だけで飼うんだ」
という思いでやっていた。
しかし、頭でっかちになって、何が起きたか--牛が要求しているレベルに合った粗飼
料を食べられない状態が長く続いた結果、アルコール不安定乳になった。クーラーに溜ま
った生乳をタンクローリーで集めにきて、アルコール検査をする。牛の栄養不良によって、
アルコール不安定乳が出るといわれていて、クーラーの牛乳を全部、結構長い期間にわた
って投げた。牛の状態も毛艶が悪くなって痩せてきた。自分の頭でっかちを押さえつけら
れなくて、その結果が事故につながった。
Q:肉牛農家と話して意識が改革された、とも聞いたが?
A:仕事中にケガをして、Iさんがヘルパーとして長期間きてくれたことがある。いろ
いろ話をさせてもらうと、出荷先を意識して肉牛を大事に飼っておられる。僕のそれまで
のイメージでは、ホルスタインの雄牛が産まれたら、
「ほしい人が副産物を持っていくんで
しょ」くらいにしか思っていなかった。Iさんと話すうちに、うちのホルの雄をちゃんと
飼ってくれる農場があるのなら、なるべく大切に育て、出荷先を意識して相手がほしがる
ようなものを送り出したいな、と思うようになった。
Q:若牛に対する意識も変わったようだが?
A:
(牛舎から)溢れたら肉として出荷して当たり前、というイメージも持っていた。し
かし、そうしたスタイルじゃなく、できる
限り妊娠させて出荷したいな、という思い
も出てきた。
Q:肉で出荷する場合も?
A:牛が頑張ってくれるから自分たちは
飯を食えて、いろんなことができる。最近、
牛に対して「ありがとう」という気持ちが
出てくるようになった。
(牛の出荷時に)奇声を挙げて追いまくり、走らせた勢いで牛を車
に載せる業者に怒ったこともある。
Q:小栗牧場の一日を紹介してほしい。
A:うちは、放牧期間は昼も夜も外に出している。写真は、夜放牧したところに迎えに
行くところ。牛舎に戻ってきた牛は、自分のところに入る。迷うのは初産ですね。(略)
飼料給与、搾乳風景など。除糞後。出たあとの飼槽。バーンクリーナー。通路に生石灰
の散布。放牧地の牛。食べたり走ったり、発情。夕方の様子。
Q:牛を扱う点で注意していることは?
A:ストレスやイライラは牛にうつるので、自分を緩くするようにしている。なるべく
牛をイライラさせないようにする。特に搾乳のときは、音楽を流して自分を緩くするよう
に心がけている。牛に悪いことが起こっているときは、
「変だな」と感じる。そこで、何が
変か探して、行動を起こすことが大事でしょう。
Q:僕らも診療で「何か変だ」というときがある。調べていくと、風邪が出てきたりす
る。これから、牛に対してどういうことをやっていきたいか?
A:牛が当たり前に歩けて、食べて、眠れるという自然に近い状況をつくるのが僕らの
仕事だろうな、と。牛のお世話係として動いているわけで、ガンガン稼いでいるのは牛た
ち。その補助としていい環境を創っていくということ。
Q:小栗さんの考える家畜福祉の方向は?
A:法律で酪農家をがんじがらめにするのはどうなのか
な、と思う。家畜福祉の選択のなかで、これとこれをやっ
たら乳価を上乗せしますよ、というのが理想なのかな。で
も、国内の現状を見ると、大量生産で低価格を求める消費
者のほうが多いんじゃないか。大切にされた牛の生乳がい
いと思ってくれる人が出てきて、少しずつでも広がってく
れたら、と思う。
僕は、新規就農ですごい信念を持っている方と違って、
小栗牧場の4代目として惰性気味でこの仕事に入ってきた。
(今までは)こうした話も人前では絶対に言えなかった。
いろんな人と出会い、失敗だらけのなかで「牛を幸せにし
たいな」と思えたこと自体が幸せなのかな。
※報告:AW畜産認証システムを創る(事務局・滝川
康治)
・道農政部がまとめた北海道酪農の営農類型別の優良経営事例によると、放牧主体では生
乳1㎏あたり農業所得が 40~50 円台と高い。道内平均は 15 円。繋ぎ飼いやフリーストー
ル方式は 20 円台、大規模農場は9円台にとどまる。同様の数値は、マイペース酪農の農家
と道東の農協平均との比較でも明らか。アニマルウェルフェアに配慮して放牧を行なうこ
とで、1頭あたり乳量は少なめだが所得率が高くなり、優位性がある。
・昨年春に誕生した「よつ葉放牧
生産者指定ノンホモ牛乳」の販売
にいたる経緯を紹介。
① 放牧生産者を指定 ②非遺伝
子組み換え(Non-GM)飼料の給
与 ③ノンホモ牛乳
15 秒殺菌
④75 度
⑤AWに配慮し
た飼養管理(帯広畜大・瀬尾
研究室による定期的な評価)
をクリアしたものを共同購入グ
ループに供給。関西・四国の無店
舗生協「コープ自然派」も取り扱
い、「しあわせな牛から最高品質
の牛乳…」とAW製品であること
をアピールしている。
・津別町有機酪農研究会の酪農家の生乳を原料に、明治乳業が製造・販売する「オーガニ
ック牛乳」(有機JAS認証牛乳)や、
(一社)日本草地畜産主旨協会による「放牧畜産基
準認証制度」の取り組み、道産食品の認証制度について概要を紹介。
・当研究会がAW畜産認証システムづくりに取り組むきっかけや、この 1 年間の学習会の
流れなどを紹介。
(一社)畜産技術協会のAW評価法をベースにしながら、独自の視点を入
れた乳牛の認証基準づくりを進めている。
・具体的には、「周年使用できる放牧場やパドックが用意されている」「粗飼料の給与が乾
物重量換算で 50%以上である」
「第4胃変位の発生率が分娩頭数の1%以下」
「平均産次数
が全道平均以上である」などの評価項目を加えるべく議論を続けてきた。
・また、認証基準を策定したあとの課題として、
「認証事業を担うための受け皿づくり」
「乳
牛以外の認証基準づくり」
「認証ロゴマークの決定や商標登録」
「認証農場や企業によるA
W畜産商品づくりに対する支援」などが挙げられることを説明。
(セミナー参加者:27 人)
※見学会:北里大学獣医学部附属八雲牧場(同大助教・小笠原英毅さんらの話)
・霜降り牛を育てる牧場だった時期もあるが、1992 年に放牧と自給飼料のみで肉牛の生産
を開始した。現在は、草だけで 230 頭ほどの肉牛を飼う。
・問題点として、雑草対策や牧草の収量の低さ、バッタの発生など天災的な要因への対応
の難しさ、限定的な市場でしか評価されない、などがある。03 年から 10 年にかけて、商標
登録や有機JAS認定、放牧畜産認証などを取得(上のスライド)。
・飼育品種は、日本短角種とサレール種(フランス原産)との交雑種が主体。市場の格付
けは「B2」でF1とホルスタインの中間の位置づけ。1 ㎏ 800 円ほどで取引される。一般
市場での評価は低いのが実態。
・そこで、産直での対応を中心に展開し、1 ㎏ 1,250 円で固定している。販路は、肉卸問
屋の小島商店(東京)、東都生協(同)
、古谷精肉店(八雲)の3つ。
「北里八雲牛」
「同有
機JAS」
「草熟八雲牛(経産牛)
」の3ブランドがある。
・東都生協では、1997 年に「ナチュラル・ビーフ」の名称で販売開始。03 年からは「北里
八雲牛」の名称で。現在、1セット(2品)1,980 円の定期購入に組合員 1,700 人が登録し、
部位バランスが向上した。毎月、通信を発行し、牧場の情報はすべて流してきた。さらに、
牧場スタッフが宅配車に同乗して組合員宅を訪問したり、研修会なども実施。
・同生協向けは 2,000 セットが限界なので、町内酪農家で「北里八雲牛」を飼育し、供給
量を増やしているところ。ホルスタインの乳牛に、
「北里八雲牛」の受精卵移植を行ない、
産まれた子牛を草だけで育てる。頭数が増え、現在、29 頭になった。
〔質疑〕
Q:一般の人を受け入れ、PRする機会を設けているのか?
A:夏場は学生の実習対応をしていて多忙なので、積極的な受入れはしていない。数年に 1
度、小中学生を対象に見学してもらっている。
Q:赤身肉が好きな審査員が評価をすると高得点を上げられるのでは?
肉の美味しさを
町内での催しなどでアピールしてはどうか。
A:何度かメディアで取り上げられ、その後問い合わせが増えるが、需要に応えられない。
赤身肉は、年配者には受けがいいが、若い人には敬遠される。研究者の視点から「美味し
い」と表現するのは難しい。
Q:13 年に肉用牛のOIE(世界動物保健機構)基準が策定されたが、それが消費者や生
協に浸透していない。東都生協ではAW食品に対するアプローチを強めている。北里大学
も牛肉のマーケティングやアピールのなかで、AW畜産についてもっと宣伝してはどうか。
A:八雲牧場としては、AWの規定は「普通
過ぎるもの」と受け止めている。消費者がも
っと知る機会をつくってほしい。
Q:有機JASの認証を受けても、飼い方に
ついての基準は緩い。どう考えるか?
A:青森では有機JASを取得したが、コス
ト的に合わずに認証をやめた。「購入飼料の
15%は非有機でいい」との基準がクリアでき
ないのが実態。うちのように最初か
ら外部の飼料を買っていないとこ
ろが長続きしている。また、認証基
準のなかで非有機牛との生体の接
触が認められないなど、おかしな規
定もある。
Q:純国産の飼料で育てた肉牛を強
調し、国としても支援する方向にな
るよう、北里大学は頑張ってほしい。
八雲牧場は販売に力を入れており、
売る努力をしなければ、と教えられた。札幌はじめ道内の人たちに、ここの牛肉をPRし
てリピーターになってもらうよう発信してほしい。
A:町内での取り組みに力を入れており、道内各地からの問い合わせも多い。地元の精肉
店にも働きかけ、身近に対応できる機会を増やしていきたい。
Q:ホルスタインと「北里八雲牛」が同居するとのことだが?
A:生後半年間は、ホルスタインの乳牛からの自然哺乳または生乳+草を与えて育てる。
月 1 回、我々が検査に訪れ、穀物の混入がないかなどをチェック。盗食できないようにし
たり、チェックリストを調べたりする。生産者も意識を高く持たないといけない。守られ
ない場合は、注意喚起の文書を送付している。
Q:出荷時の状態は?
A:生後 30 カ月、体重 660 ㎏以上を目安にしている。放牧で出荷すると、肉の水分が少し
高いが、脂質は少ない。冬場の舎飼い時は逆になる。しかし、和牛に比べると脂質の割合
は 5 分の 1 以内で、劇的には違わない。脂肪酸の組成は夏冬を通して変わらない。
Q:サレール種を導入した理由は?
A:日本短角種は肥りやすく皮下脂肪
がつき、肉の歩留りが悪い。そこで、
増体量の多いサレールを導入した。自
然交配させるための雄牛は3頭飼育。
分娩の分散化をめざしているが、春先
と9月が多くなる。舎飼い時は分娩後
の1カ月間、母子を同居させて飼育し
ている。夏場は放牧地で自然分娩させ
ており、子牛の下痢がなくなった。
(見学会参加者:14 人)
▲2015 年9月1日付け『北海道新聞』渡島・檜山版
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