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“みなメール”ソフトウェアの開発 - 同志社女子大学 情報メディア学科
“みなメール”ソフトウェアの開発 IT 弱者のための簡単手書きメールソフト 3 種 出口安友美*1,2,弥園護*2,3,光本恵*2,和氣早苗*1,2 Development of Mina-Mail Software 3Types of Pen Based Simple E-Mail Software for IT shortfalls Ayumi Deguchi*1,2, Mamoru Misono*2,3, Megumi Mitsumoto*2, Sanae H.Wake*1,2 3 種類のメールソフトウェアは基本設計を同じくする 1. はじめに 今や主要なコミュニケーション手段とみえる電子メー が,ユーザインタフェースデザインを各ターゲットユー ルだが,誰もが利用できるものとは未だなっていない. ザに合わせて調整した.次章より,各ソフトウェアの基 メール利用のための機器の難しさやソフトウェアの複雑 本共通部分と差異の部分について説明する. さの為,高齢者,幼児,あるいは障がいを持つ方々など, 3. メールソフト共通の基本設計 未だメールを利用できない,いわゆる IT 弱者と言える 3 種のソフトに共通する基本設計について述べる. 人々は多い.我々は,真に誰もが簡単にメールを利用で 31. タブレット PC による筆跡入力 きる手段の提供が早急に必要だと考えている. 2. みなメールソフトウェア 情報機器を利用する際,最初のハードルはキーボード であろう.我々は,みなメールソフトウェアをタブレッ − 吟メール,おちゃメール,ふくメール ト PC 上にて開発することとした.ペン入力(筆跡入力) 我々は今回大きく3タイプのターゲットユーザに対し にて文字や絵をかくことで手紙感覚にてメールが出来る て,メールソフトを開発することとした.各ターゲット ソフトを目指した.文字認識等は行わず,筆跡入力によ ユーザの特徴を表 1 にまとめる.なお今回のユーザとし るメールの文面は画像として保存し,添付ファイルにて ては電子メールを使ったことがないことを想定するが, 送信される. 視力を弱くとも有し,ペンを持つことが可能な手の運動 32. ユーザモードとメインテナンスモード 能力を有することを想定する. ソフトにはユーザモードとメインテナンスモードの 2 表 1 ターゲットユーザの特徴 ・情報機器に対する恐怖心を有する 高齢者 つのモードを用意した.ユーザモードはユーザ本人が利 用するモードで,メールの読み書き専用である.一方, ・メニュー操作,画面の切替わり(画面遷移) メインテナンスモードは,サポーターが初期設定・メー ル管理・宛先登録等を行うためのモードである.今回の 等に慣れていない ・便箋の手紙は読み・書き慣れている 開発では,ユーザには,設定,管理を依頼できる PC 初級 幼児 ・文字の読み書きは不十分 者以上の人物(サポーター)がつくことを前提とした. (小学 ・お絵かきは好き(慣れている) そうすることで,ユーザモードのインタフェースを最大 校就学 ・興味を持つと集中するが,飽きやすい 限にシンプルにすることを目指した. 前) 知的障 がい者 ・ゲーム等情報機器にはある程度接している 33. 機能の限定とシンプルな UI 設計 ・認知能力が低い ユーザモードではメールの送受信に必要な最小限の機 ・運動能力が低い場合がある 能のみを実装することを心がけた.基本的には,メール ・視覚障害を併発している場合がある 受信,メールを読む,メールを書いて送る,という機能 各ユーザに対して下記3種のメールソフトを開発した. のみの実装であり,初期メール設定,メール管理(メー ルリスト表示やメールの分類や削除等) ,送信先のアドレ ・ 高齢者向けメールソフト 「吟メール」 ・ 幼児向けメールソフト 「おちゃメール」 ・ 知的障がい者向けメールソフト「ふくメール」 ス入力は,メインテナンスモードで行うこととした.ユ ーザモードでは既知の 10 名以下程度の人とのメールの やり取りのみを想定している.このように機能を絞り込 むことで,シンプルでわかりやすい UI 設計を目指した. *1: 同志社女子大学 情報メディア学科 *2: 同志社ローム記念館プロジェクト *3:ソノソフトウェア *1: Dept. of Information and Media, Doshisha Women's College *2:Doshisha Rohm Plaza Project *3:SONO SOFTWARE 4. メールソフトそれぞれの特徴 まず各ソフトの主だった特徴を表 2 に示す. 表 2 各メールソフトの特徴比較 特徴 ・手紙メタファによる認知的負荷低減 吟メール ・必要最小限の機能で UI をシンプル化 (高齢者向け) ・縦書き便箋採用とページめくり閲覧 ・お絵かき機能(色ペン・消しゴム) おちゃメール ・演出的ユーザインタフェースの実装 (幼児向け) ・次操作を促すための誘導的 UI の採用 ・文字と絵によるシンプルではっきり ふくメール した情報表示 (知的障がい者 ・色覚障害に配慮した GUI 向け) ・音声を多用した操作補助サウンド UI 以下,各ソフトの特徴の詳細や機能について説明する. 41. 高齢者向けメールソフト「吟メール」 ソフト名 [ 1-3] 高齢者向け「吟メール」 では,高齢者の使い慣れ た手紙のメタファを採用することにより,認知的負荷を 少なくしている.高齢者に好まれる縦書き表示を採用し, 画面領域を便箋に見立てた(図 1) .機能を最大限に制限 しそれに基づく UI のシンプル化に最大の重点をおいた. 消しゴム,便箋(描画スペースの背景画像)等の機能が採用 されている.また白紙のメールを送れないようにする, 新着メールが来ていたら読むことを促す等,次の動作が 自然に導かれるような誘導的 UI も採用している. 43. 知的障がい者向けメールソフト「ふくメール」 「誰にでも使えて,障がい者も使える」を目指したソ フトである.知的障がい者をメインユーザとしており, 認知的負荷を軽減するため,アイコンと文字を必ず併用 して利用している(図 3).GUI は過度の装飾は行わず,ア イコンは大きくシンプルにデザインしている.また障が い者は複数の障がいを併発して抱える事が多い事から, GUI を色覚障害の方でも見やすいものにし[6],音声を 用いて視覚情報を補完できるように,聴覚情報を積極的 に利用した.さらに,話題を誘発したり,自分の感情を 表現したりしやすいように絵日記等の便箋を用意し,メ ールが書きやすくなるように配慮した. 例えば筆記は黒色のペンのみで,ペンのモード切替が必 要となる消しゴム機能は採用していない.メールの受 信・読む・書くという画面のモード切替はタブを常に画 面下に表示することで,わかりやすさを目指した. 図 3 ふくメールの画面 5. まとめ 高齢者,幼児,障がい者という IT 弱者となりやすい 人々を対象として 3 種類のメールソフトを開発した.タ ブレット PC をベースに手書きで文面を入力し,手紙感 覚でメールが出来るソフトである.各ユーザの特性に基 図 1 吟メールの画面 づいたシンプルでわかりやすい UI を実現した. 42. 幼児向けメールソフト「おちゃメール」 [ 1,4] 付記 5∼6 歳の幼児向け「おちゃメール」 では,幼児に 本研究は,同志社ローム記念館誘致プロジェクトの枠 興味を持たせ,飽きさせないことを目的に,演出的な UI 組みにおける,マイクロソフト(株)および日油(株) デザインを行った.オリジナルキャラクター“おちゃみ との 2007 年度産学連携プロジェクト“みなメールプロジ ん”をソフト全体に登場させ(図 2)そのキャラクターの声 ェクト”に基づいて行われました. 謝辞 にてメールの受信状況等を説明した.また演出的なサイ 同志社ローム記念館「みなメールプロジェクト」の皆 [ 5] ン音を利用して情報表示を行った .筆記については幼 様,評価実験にご協力いただいた皆様等に感謝致します. 児がお絵かきにてもメールを作成できるよう,色や太さ, 参考文献 オリジナル キャラクター “おちゃみん” 図 2 おちゃメールの画面 [1] 出口他:手書きメールソフト"おちゃメール""吟メール"を 利用した多世代間コミュニケーション実験;HIS2007 論文 集,pp-307-312(2007) [2] 和氣:タブレット PC を利用した高齢者向けメールソフト “吟メール”;HIS2004 論文集,pp695-698(2004) [3] 和氣他:高齢者向け手書きメールソフト“吟メール”の実 用性評価実験,HIS2006 論文集,pp1185-1188(2006) [4] 和氣,栗本他:タブレット PC を利用した幼児向けメール ソフト“おちゃメール” ;HIS2006 論文集 pp-831-834(2006) [5] 西村他:幼児向け手書きメールソフト"おちゃメール"にお ける SUI デザイン;HIS2007 論文集 pp715-718(2007) [6] 東洋インキ UDing:色覚ユニヴァーサルデザイン支援ツー ル;http://www.toyoink.co.jp/ud/cudst/(2007)