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スピーチからディベートへの橋渡し活動としてのサーキットスピーチの活用

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スピーチからディベートへの橋渡し活動としてのサーキットスピーチの活用
スピーチからディベートへの橋渡し活動としてのサーキットスピーチの活用
兵庫県立尼崎小田高等学校
小林 哲
Ⅰ はじめに
平成 25 年から高校において新学習指導要領が施行される。 これまで以上に生徒の 「思考力 ・ 判断力 ・ 表現力等をはぐくむ」
ことや 「情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養う」 ことが求められている。 また、 英
語授業については、 「4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力を育成する」 とある。
これらを実現するために、 スピーチやディベート活動が有効であることは疑いの余地が無い。 ところが、 文科省による 「平成22
年度公立高等学校における教育課程の編成 ・ 実施状況調査」 によると、 英語Ⅰの学習評価にスピーチやプレゼンテーション等
のパフォーマンステストを導入している学校は全体の38%となっており、 その中で 「スピーチ」 を行っている学校は 32.9%とある。
一方、ディベートは音読テストやレシテーションとともに、「その他」 に含まれ、「その他」 の活動を行っている学校は 21.1%に留まっ
ている。 限られた授業時間の中で、 どのようにスピーチやディベートを導入すべきか、 多くの教員がこれまで悩んできたのではな
いかと思われる。 したがって、 本稿では実践報告として本校のディベート学習について紹介し、 ディベート指導の悩みの解決策
の1つとして、 サーキットスピーチという指導方法について一考する。
Ⅱ 背景
1. 本校における、 ディベート学習の流れ
本校には国際系コースが1クラスあり(平成24年度より学科に改編)、1、2年次にそれぞれ週2時間、学校設定科目のCCE(Cross
Cultural English) Ⅰ、Ⅱという時間が設けられている。 その中で、1年次では発音・音読指導、文化紹介やレシテーションなど、様々
な形で英語プレゼンテーションを行い、 2年次では、 大きな柱として1学期にスピーチ、 2、 3学期にディベートに取り組んでいる。
まずディベート学習の流れについて、 それぞれの時期における指導内容を簡潔にまとめる。
表1 ディベート学習の流れ
①導入 :
ディベート学習の目的やディベートの形式を簡単に説明した後、 ディベート兵庫県大会のこれまでの試合を実際にDVDで見る。
視聴する試合の英語スクリプトを配付し、 形式や論点を確認すると同時に、 各パートの目的や効果的な発言、 そうでない発言に
ついて考える。 試合やコンテストのイメージを具体的に持たせることで、 ゴールを明示し、 動機付けを行う。
②立論 :
関連する英文を読んだり、 イメージマップを活用したりして、 生徒の論題への理解を深める。 立論ができあがると、 意見発表さ
せると同時に共有を重視し、 立論のよい点、 改善点を生徒と共に考え、 教師も論題についての理解を深める。
③サーキットスピーチ :
ディベートでの尋問、 反駁、 まとめにつながる学習。 (詳細後述)
④尋問 ・ 反駁 :
立論に対し論旨を質す意図のある尋問と反駁を行うことを目的に、 肯定立論→否定尋問→否定反駁のみのミニゲーム等を行う。
徐々に試合形式に近づけ、 審査や司会、 計時などの練習も同時に行う。
⑤まとめ :
20人が一つの教室で、肯定側5人、否定側5人、審査5人、MC・計時等補助5人に分かれて、1時間の中で試合と振り返りを行う。
⑥ディベート大会 :
ディベート学習の成果発表の場として、 兵庫県高校生英語ディベートコンテスト (県大会 : 各校1チーム参加)、 と高校対抗英
語ディベート大会 (地域希望校参加の大会 : 全員参加) に出場する。
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2. 本校のディベート学習の特徴
本校のディベート学習の特徴としては、 実践を重視し、 試合と振り返りの議論を繰り返す中で、 徐々に論題についての語彙や
文章に慣れ、 表現を身につけていくという過程にある。 ディベートは意見交換と共有の場の一つであり、 ある生徒の一つの発言
がもとで、 論題への理解が深まり、 ある生徒の試合での頑張りが、 他生徒への模範となり広がる。 議論の中から、 論点への新た
な見方が生まれることもある。 本校のディベート学習では、 学び合いの姿勢を大切にしている。 ディベート学習の最後に全員参
加の大会があることで、 共通の目的に向かって、 クラスで取り組み、 生徒同士の人間関係を育む場としてもこの授業が重要な役
割を果たしている。
表2 兵庫県ディベートコンテストの形式
兵庫県のディベートコンテストについては、 立論、 尋問、 反駁、 まとめのみの形式で実施し、 ポイント制による勝敗決定を導
入している。 賛否両論はあるが、 英語ディベートの指導を初めて行う学校にとっても取り組み易く、 ディベート人口の裾野を広げ
ており、 今年度の第5回県大会参加校数は21校にのぼる。 本校はディベート学習4年間の取り組みの結果、 第3回大会で8位、
第4回大会では準優勝、 今年度の第5回大会では3位に入賞することができた。
3. ディベート学習で越えなければならない壁
表1にある①から⑥のステップを1つの流れとして、 本校ではディベート学習を行ってきた。 ②の段階の立論の形式や証拠につ
いての指導は、 スピーチ指導のプロセスで行うので、 生徒も理解がし易く、 いくつかの立論を比較的容易に作らせることができる。
しかしながら、多くの学校でディベート指導の難しさを実感するのは、④の段階の尋問・反駁以降についてであろう。 ここがディベー
ト学習で越えなければならない壁となる。 英語での意見交換や発表に慣れていない生徒の場合、 尋問で全く発言がでないケー
スもある。 この時点で、 教師が全員を目の前にして、 いくつか尋問 ・ 反駁の例を示し一方的に解説をしたりすると、 生徒は余計
に黙り込んでしまう。 そうなると、 実際の試合では、 なかなか活発な議論に繋がらない。 生徒は 「何を言うかがわからない」 以前
に、 「何かを言い合うことに強い抵抗を感じている」 という高いアフェクティブ ・ フィルターが生じている場合が少なくない。 そのた
め、 本校では、 ②の段階と④の段階の活動の間に③のステップとしてサーキットスピーチ活動を入れ、 生徒の不安や抵抗感を無
くすよう工夫している。
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Ⅲ サーキットスピーチ
1. 実践の意図
サーキットスピーチとは、 簡単に言えば、 メモを取りながらスピーチを聞き、 それに対する質問を行い、 その答えを基にオリジナ
ルに近いスピーチを作成する活動である。 この活動を通して、 「リスニング時の集中力」 「省略や記号を用いながらメモを取る力」
「“Did you say ~ ?”、 “So, you mean・・・, right?” といった、 基本的な確認や言い換え表現の使用」 「連続して質問する、 またそ
れに対する即時の返答」 「スピーチの中身の要約」 などディベートで試合を行う際に必要となる様々な技能をより簡単な形で試合
感覚の中で練習することができる。 本校ではこの活動をスピーチ学習とディベート学習のちょうど橋渡しの時期に導入している。 こ
の時期に導入することで、 スピーチからディベートへとスムーズに活動の内容を移行することができる。 同時に、 すでに1学期に
完成したスピーチのサマリーをサーキットスピーチに活用することで、 自らのスピーチを要約するだけでなく、 必要以上に準備期
間を設けることを省くことができることも、 この時期にサーキットスピーチを行う、 1つのメリットとなる。
2. サーキットスピーチの概要
①試合形式
(机配置)
MC・TK
MC ・
TK B1
A1 (教室試合配置)
A2 B2
教卓
Judge
試合1
試合2
②試合の流れ、 その他
・ Aチームの1人がスピーチ行う (2分)。 Bチームはメモをとりながら聞く。
・ 次に、 Bチームが内容について英語で質問する (3分)。 Aチームは答える。
・ AとBの役割を入れ替えて、 スピーチと質疑応答を行う。
・ Bチーム、 Aチームの順に相手チームのスピーチを要約する。
・ よりオリジナルに近い内容のサマリースピーチができたチームが勝利。
・ 1教室で2ゲーム同時に実施可能。 25分×2試合で合計、 一回の50分授業で4試合行える。
3. 導入に際して工夫したこと
スピーチを聞き、 質疑応答をもとに要約を作る作業は、 多くの高校生にとってはレベルの高い活動であるように感じられる。 しか
し、 実際には生徒が取り組み易くなるように様々な工夫をすることで、 限られた時間で達成感を与えながら、 リスニング力やスピー
キング力を鍛えることができる有効な活動となる。 以下に本校で工夫した点をいくつか紹介する。
①対戦形式
2対2のチーム戦にする。 交互に質問をすることで、 次の質問までの時間が確保できる。 また、 生徒の取組みが格段によくなる。
最終的にはチーム対抗のトーナメント形式で競い合った。 サーキットスピーチにおいてもチームメイトとの意思疎通や情報の共有、
達成感の共有など、 学びあいの要素を多く取り入れられるようにしている。
②スピーチの枠組み設定
具体的には、 スピーチの語数を制限したり、 文や段落の数を決めるなどすることで、 生徒には内容が理解し易くなるだけでな
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く、 質問もし易くなる。 全く聞き取れなかった場合であっても、 最終手段として、 “What did you say in the # th sentence?” といっ
た具合に、 相手に内容を繰り返してもらうことも容易になる。 共通の枠を与えることで、 活動のレベルは大きく変化する。 実際の
試合では、 枠と①から⑯の丸番号だけが入った用紙を、 生徒の聞き取り用メモとして使用する。 生徒は相手のスピーチ終了後に、
そのメモを基にお互い聞き取れた箇所を共有し、 聞き取れなかった箇所についての質問を交互に行う。
[ スピーチ例 : 原文 ]
The earth is getting hotter and hotter. This is called global warming. The main cause of this global warming is the
increasing gases in the air, such as methane gas and especially carbon dioxide. These gases keep the sun's heat in the
atmosphere. As a result, the earth's temperature is also kept warm. This effect is called the greenhouse effect. If the
gases continue to increase, the temperature might keep rising. Then, the ice on both the south and north poles will
melt, which might cause the sea level to go up. Some researchers predict that if the present trend continues, the earth's
temperature will go up by 2℃ . As a result, the sea level will rise by 50cm.These changes in climate will have bad effects
on other things. For example, growing crops and vegetables will become more difficult. Many forests will disappear and
will cause the earth to dry up. It is certain that all the creatures on earth will be severely damaged by these changes in
climate. Needless to say, those gases are produced by burning fossil fuels like oil and coal. So we must think about how to
reduce the emissions of CO2 and how to use energy more efficiently.
[ スピーチ例 : 枠と番号を入れた場合 ]
③活動人数
本来、 サーキットスピーチは2対2で行うことが多いが、 簡単な自己紹介スピーチを用いて1対1での活動としたり、 クラス全体の
前で教師がスピードや回数を調整しながら本文を読み、 生徒がその内容に関して質問を行う形など、 人数を変えるだけでその効
果は変化する。 クラス全体でサマリーを作成させる活動では、 全員が集中してスピーチに耳を傾け、 全員でサマリーを作っていく
活動となる。 試合形式に移行する前に生徒に質問させることに慣れさせる活動として、 非常に有効である。 また、 優秀なサマリー
を紹介することで、 よりよいモデルの提示と動機付けができる。 また、 この活動は英語Ⅰや英語Ⅱなどの授業でも、 本文内容の
要約を基に行うこともできる。
④ジャッジング ・ シートの工夫
ジャッジング ・ シートを作成する際、 質問数やチームワーク、 各文のサマリーの正確さなど、 こちらの求める基準を点数化し競
い合わせることで、 生徒はこちらの意図する活動を積極的に行うようになる。 また、 シートには本文が印刷されており、 生徒は自
分がどの程度正確に要約できたのか、 試合後にその場で振り返ることができる。 以下審査の方法を簡単に説明する。
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●サーキットスピーチ審査シート
[ 審査方法 ]
・ 各チームはその日に使うスピーチの審査用紙をジャッジに提出する。 ジャッジは合計2枚の審査用紙を手元において、 審査
を行う。 その際、 ジャッジはAチームのスピーチが書かれた用紙をBチームの審査用紙として、 逆にBチームのスピーチが書
かれた用紙はAチームの審査用紙として用いる。 (相手チームのスピーチをサマリーし、 それを評価するため、 相手チームの
スピーチが印刷された審査シートが自分のチームの審査用紙となる)
・ スピーチの発表、 質疑応答での質問数、 チームワーク、 応答内容等のスコアをつける。
・ サマリースピーチは印刷された本文 (Bチームを審査する際にはAチームの本文が入ったシートを使用する) を基に、 ほぼ完
璧に要約できていれば2点、 部分的に述べられていれば1点、 全く触れられなかった場合は0点と、 ①から⑯の各文につい
て0~2点で採点する。
・ 試合終了後、 審査用紙はそれぞれのチームに渡され、 自分達のスコアや相手のオリジナルスピーチの内容をその場で確認
することができる。
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⑤MC、 TK、 審査等のマネージを全て生徒が行う。
ディベート活動においても、 MC、 TKや審査を生徒にも行わせるが、 その事前準備として、 この活動においても、 全て生徒
のみで試合が進行していく。 以下に MC Words の例を紹介する。
[ サーキットシートMC WORDS ]
4. サーキットスピーチの効果
1. で述べたように、 この活動を通して、 生徒は様々な力を身に付けることができる。 何より、 生徒の英語使用に対する抵抗が無
くなり、積極的に英語を使おうとする態度が身につくことがこの活動の一番の効果である。 試合形式で行うと、「目的が明確になる」
「得点が確認できるため、 自分達の改善点や到達点が毎回確認できる」 「チームで取り組み、 また勝敗がでるため、 生徒の動機
付けが行える」 などの効果もあると考えられる。
スピーチから質疑応答を基にサマリーを作成する活動は一見レベルが高い活動のように見えるが、 実際には3. に記述の工夫
を行うと、 ほとんどの生徒がほぼ相手のスピーチをまとめ発表することができるようになる。 そのため、 生徒は毎時間達成感を得ら
れ、 自分の英語に自信が持てるようになり、 積極的に英語を使用するようになる。 最後の授業で実施した、 振り返りアンケートの
各活動についての質問では、 以下のように多くの生徒が、 サーキットスピーチの活動について肯定的に捉え、 積極的に取り組ん
でいたことがうかがえた。 実際にこの後、 ディベート活動でも尋問することに多くの生徒が抵抗感無く取り組めるようになる。
表 2 サーキットスピーチについてアンケート結果 対象2年生生徒40名
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5. 改善点
・ 審査シートが複雑で、 審査に慣れるまでに時間がかかる。 また、 シートの準備が煩雑である。
・ 難解な語句を使うチームが相手チームより有利にな状況を生み出す。 したがって、 事前に内容をチェックし、 スピーチの難易
度をある程度、 そろえる必要がある。
・ 元のスピーチを完全にコピーすることだけを目的にすると、 例えば、 ペアで交互に “What did you say in the # sentence?”
等の質問を続けるだけ意味の無い聞き書き活動になる。 目的はコピーをすることでなく、 自分の英語で再びまとめることであ
ると繰り返し説明する必要がある。
・ スコア以外に個人の取り組みを評価に反映する仕組みを確立する。
・ 欠席者が出た場合に対戦を変更するなどの対応が必要となる。
Ⅳ まとめ
以上、 ディベートへの橋渡し活動としてのサーキットスピーチについて、 本校での実践を紹介した。 本稿をまとめていく中で、
この活動が持っている様々な要素について考えさせられた。 例えば、 審査用紙1つ取ってみても、 これは生徒への活動内容の
評価基準の明示であり、 Q&Aにおいて、 質問の数をここに入れることで、 生徒は1つでも多く質問をすることが評価につながる
とことを自然な形で提示されることとなり、おのずとそれに向かって積極的に努力を重ねる。 評価されたくない生徒は一人もいない。
動機付けの大切さや、 ともすれば、 普段の授業で忘れがちな授業での目標と評価について、 本稿でのサーキットスピーチという
活動から再考させられる。
本稿での活動通して得た興味深いことは、 ディベート活動で意見交換や議論をしていくと、 幾度と無く一人では決して思いつか
なかった新しい考えが生み出されるという経験をすることである。 教師自身も生徒との対話から、 自分自身の中の新たな考えに気
づく。 これこそまさに、 コミュニケーションの醍醐味である。 言葉を扱う教科として、 より多くの対話の機会を生徒に与える必要性
があると強く感じる。 また、 この種の活動やディベート活動については、 生徒同士の結びつきの強さが、 この様な授業の成功の
大きな鍵となっている場合が多い。 まだまだ、 講義形式の一斉授業、 知識偏重の授業形態が多い中で、 いかに他教科の授業も
含め、 生徒同士の活動を充実させ、 ともに学ぶ仲間としての信頼関係をクラスの中で築いていけるかがこれからの課題であると思
う。
最後に、 実践報告とはいえ、 教育学的知識や理論的裏づけもないままに、 サーキットスピーチやディベート活動についての報
告をすることとなったが、 この実践報告が少しでも読んでいただく先生方の参考になることを願う。 また、 掲載を薦めていただいた
中井教授にも感謝したい。 同時に、 改めて自らの教育活動について、 しっかりとした理論的裏づけをしながら取り組んでゆきたい
と意を新たにした。
参考 HP
文部科学省 (2011) 「平成22年度公立高等学校における教育課程の編成 ・ 実施状況調査」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2011/01/25/1301650_2_1.pdf
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