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英語らしい英語を書くコツ
科 学 英 語 を 考 え る 連載シリーズ: ズ:科学英語を考える 第 科学英語を考える 第 10 回 英語らしい英語を書くコツ トム ガリー(教養学部教養教育開発機構 講師) 私が日本人の英文を添削するときに 要素が中心になる。主題はふつう「∼は」 aspects. は,明らかな間違いだけでなく,英語 という形で文中に登場し,「この文で何 または, として不自然な英文も直すようにしてい について話しているか」を表す。もちろ Much is unknown about interstellar る。そのような英語らしくない英文は, ん日本語の文にも主語はあるが,動詞と matter. ほとんどの場合,日本語の言い回しや文 の結びつきは英語の場合ほど強くない。 法の影響を受けて書かれている。今回は 日本語には「∼は」という形で主題か 動物の胚性幹細胞に関しては 10 数年前 日本人が書く英文にしばしば見受けられ ら始まる文が多いので,日本語で考えな から研究が進められている。 る「日本語くさい英語」について考えて がら英文を書くと「As for ∼」,「With みよう。 regard to ∼」 , 「In the case of ∼」など 日本語のような英文: 主題を表す表現を多用しがちである。こ Concerning animal embryonic stem れらの表現は「正しい英語」ではあるが, cells, research has been conducted for 使いすぎると「英語らしくない英文」に more than a decade. ● 主題と主語 次の文はその例である。 なってしまう。 主題表現の多い直訳調の英語を避け 英語らしい英文: As for gases, their volume changes de- るには,文を主語から始めれば良い。例 Research on animal embryonic stem pending on the temperature. えば,「気体は温度によって体積が変化 cells has been conducted for more than 気体は温度によって体積が変化する。 する」を英訳するならば,「The volume a decade. of gases changes depending on the tem- または, どこに日本語の影響があるかという perature.」とすれば自然な英語になる。 Animal embryonic stem cells have been と,文頭の「As for ∼」である。文法上 日本語での主題表現には「∼について studied for more than a decade. は間違いではないが,この表現の使用さ は」や「∼に関しては」などもある。次 れる頻度はネイティブが書いた英文より の例では,それらの表現を含めた日本語 日本語の主題を無理に英訳する も日本人が書いた英文,または和文の英 文を,直訳調の英語と,英語らしい英語 と,主題の言葉が不要に繰り返される 訳文のほうがはるかに高い。これは,日 に翻訳してみた。 こ と が あ る。 例 え ば, 「As for gases, 本語と英語の間に根本的な違いがあるか らである。 their volume changes depending on 星間物質については,未知の部分が多い。 ここで言う日本語と英語の違いとは, 「their」が同じこと( 「気体」 )を指して 何がセンテンスの中心的な役割をはたす 日本語のような英文: いる。下手な英訳文には,「With regard かの違いである。英語のセンテンスにお With regard to interstellar matter, there to interstellar matter, interstellar matter いては主語が中心的な要素であり,動詞 are many unknown aspects. has many unknown aspects.」のような が単数形になるか複数形になるかを決め 16 the temperature.」 で は, 「gases」 と 無駄な反復さえ見かけることがある。こ るなど動詞とのつながりが強い。一方, 英語らしい英文: 日本語のセンテンスでは「主題」という Interstellar matter has many unknown のような冗長な文は極力避けたい。 科 ● 名詞と動詞 学 もう一つ例を見てみよう。 英 語 を 考 え る ることができる。 さらに英語の感覚では,名詞は変化の 日本語と英語は,文の中心的な意味が この発見の実用化の研究を行っている。 ない,意味の固定された概念を指す。動 どのような言葉で表されるか,という点 A: We are conducting research on the 詞はダイナミックで,変化しているこ でも違いがある。たいていの場合,日本 application of this discovery. と を 表 す。 そ の た め,「make prepara- 語では名詞に,英語では動詞に意味が集 B: We are studying how to apply this tions」よりも「prepare」 , 「reach a con- 中している。この違いを次の用例で比べ discovery. clusion」よりも「conclude」 , 「carry out a revision」よりも「revise」を使った方 てみよう。 この訳 A では, 「研究を行っている」 が,生き生きとした,英語らしい英語に 放射された電子のエネルギースペクトル を「are conducting research」で,日本 なるのである。 の観測をした。 語と同じく名詞と動詞として英訳した。 読者からリクエストがあったので,次 A: We did an observation of the energy 訳 B では,同じフレーズを動詞だけ(「are 回は論文や発表で使う英語から少し離れ spectra of the emitted electrons. studying」 ) に し た。 名 詞 の「 実 用 化 」 て,英語における敬語表現について検討 B: We observed the energy spectra of も名詞「the application」 (訳 A)と動詞「to したい。 the emitted electrons. apply」 (訳 B)にした。 この3つの例では,どの英訳も英語 ここでは,二通りの英訳を付けてみ としては正しく,訳 A のような文も訳 た。訳 A では,下線の「観測」 (名詞) B のような文も,ネイティブが書いた英 と「した」 (動詞)を「did」 (動詞)と「an 文中に見かけることがある。しかし,訳 observation」 (名詞)として,品詞を変 A のような文は日本語からの英訳,また えないで日本語を英語にしている(品詞 は日本人が書いた英文中にとくに多く出 の順だけが逆になっている)。一方,訳 現し,また一方で訳 B のような文は「良 B では,「観測をした」というフレーズ く書けている」とされる英文によく見ら が動詞だけ(observed)になっている。 れる。 次の例では,「測定」という名詞を訳 名詞を用いた表現が日本語的で,動詞 A では名詞(measurement) ,訳 B では を用いた表現が英語らしい英語となるの 動詞(to measure)として英訳した。 はなぜだろうか。 日本語では「する」 ,「なる」 ,「ある」 この装置は加熱温度の測定を可能にする。 のような,単体ではあまり意味を持たな A: This device enables the measurement い動詞がよく使われるため,重要な意味 of the heating temperature. を名詞で表すことが多い。それに対して, B: This device enables us to measure the 英語では意味に富んでいる動詞が多数存 heating temperature. 在するため,動詞に重要な意味を持たせ 17